説明

誘電体磁器およびこれを用いたコンデンサ

【課題】 常誘電性を有するとともに、比誘電率が150以上で、かつ測定周波数100Hz、温度100℃における誘電損失が1%以下の誘電体磁器およびこれを用いた電子部品を提供する。
【解決手段】 金属元素として、Baのみ、BaおよびSrの組合せ、またはBa、SrおよびCaの組合せと、Ti、NbおよびYとを含有するとともに、モル比による組成式を(Sr1−u−vBaCa)(Ti1−x−yNb)Oと表したとき、0.3≦u≦1、0≦v≦0.3、u+v≦1、0.05≦x≦0.2、0.05≦y≦0.2の範囲とすることにより、常誘電性を有するとともに、室温での比誘電率が150以上、測定周波数100Hzにおける100℃での誘電損失が1%以下である誘電体磁器を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属元素として、Baのみ、BaとSrとの組合せ、およびBa、Sr、Caの組合せのうちのいずれかと、Ti、NbおよびYとを含有するチタン酸塩の誘電体磁器およびこれを用いたコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の代表であるコンデンサに用いられる誘電体セラミックス(誘電体磁器)は強誘電性が大きいために、電界が印加された場合に電気誘電歪が発生するという問題がある。例えば、大面積の電源回路を備えるプラズマディスプレイなどでは、電源回路上に多くのコンデンサが実装されており、しかも動作する面積が大きいことから電気誘電歪に起因する振動の振幅が大きくなりやすい。このため電源回路上に実装された複数のコンデンサが共鳴したりすると「音鳴り」と呼ばれる奇妙なノイズ音が発生し、ディスプレイを見ている人に不愉快な思いをさせる原因となる。このため、電気誘電歪が小さく、かつ比誘電率が大きい誘電体セラミックスが要求されている。
【0003】
このような条件を満たす誘電体セラミックスとして、例えば、AサイトをSr、CaおよびBaなどの複数のアルカリ土類金属元素で構成するとともに、BサイトをTi、ZrおよびHfで構成したものが知られており(例えば、特許文献1参照)、このような誘電体セラミックスにより構成されたコンデンサは、温度25℃、測定周波数1kHzにおける静電容量から求めた比誘電率が150以上、同条件における誘電損失が0.3%以下の誘電特性を示すことが示されている。
【特許文献1】特開2004−292173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、AサイトをSr、CaおよびBaなどの複数のアルカリ土類金属元素で構成するとともに、BサイトをTi、ZrおよびHfで構成した上記誘電体セラミックスでは、例えば、測定周波数100Hzの低周波数で測定した場合、50℃を超えるあたりから誘電損失が急激に増大する傾向にあり、100℃での誘電損失が1%よりも大きくなるものであった。
【0005】
100℃以上の温度領域における誘電損失の増加は、誘電体セラミックスにおける高温での絶縁抵抗を低下させる原因になることから高温負荷寿命などの信頼性が得られないという問題につながることになる。このため比誘電率が大きく、かつ高温での誘電損失が小さい誘電体セラミックスが要求されている。
【0006】
従って本発明は、常誘電性を有するとともに、比誘電率が150以上で、かつ測定周波数100Hz、温度100℃における誘電損失が1%以下の誘電体磁器およびこれを用いた電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、化学式ABOで表されるペロブスカイト構造の誘電体セラミックスをベースとして、Aサイトを、Baのみ、BaとSrとの組合せ、またはBa、SrおよびCaの組合せとするとともに、Bサイトの主成分をTiとして、これにNbおよびYをモル比でNb:Y=1:1となるように固溶させて、Aサイトを2価、Bサイトを4価の値に保つことによって室温および100℃以上の高温における誘電損失を低く維持することができ、その結果、静電容量値と絶縁性の低下を抑制することができることを見出し、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明の誘電体磁器は、金属元素として、Baのみ、BaとSrとの組合せ、またはBa、SrおよびCaの組合せと、Ti、NbおよびYとを含有するとともに、モル比による組成式を(Sr1−u−vBaCa)(Ti1−x−yNb)Oと表したとき、0.3≦u≦1、0≦v≦0.3、u+v≦1、0.05≦x≦0.2、0.05≦y≦0.2の範囲にあることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のコンデンサは、上記誘電体磁器からなる誘電体層と導体層とを交互に積層した積層体により形成してあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の誘電体磁器によれば、モル比による組成式を(Sr1−u−vBaCa)(Ti1−x−yNb)Oと表したとき、0.3≦u≦1、0≦v≦0.3、u+v≦1、0.05≦x≦0.2、0.05≦y≦0.2の範囲を満足するようにしたことから、常誘電性を有するとともに、室温での比誘電率が150以上、測定周波数100Hzにおける100℃での誘電損失が1%以下である誘電体磁器を得ることができる。
【0011】
また、本発明のコンデンサによれば、上記誘電体磁器からなる誘電体層と導体層とを交互に積層した積層体により形成してあることから、小型大容量化できるとともに、ノイズ音を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の誘電体磁器は、金属元素として、Baのみ、BaおよびSrの組合せ、またはBa、SrおよびCaの組合せと、Ti、NbおよびYとを含有するとともに、モル比による組成式を(Sr1−u−vBaCa)(Ti1−x−yNb)Oと表したとき、0.3≦u≦1、0≦v≦0.3、u+v≦1、0.05≦x≦0.2、0.05≦y≦0.2の範囲を満足するもので、いわゆるABOからなるペロブスカイト型の結晶構造を有するものである。
【0013】
AサイトにおけるSrのBaによる置換量を示すuおよびCaの置換量を示すvと、BサイトにおけるTiのNbの置換量を示すxとYによる置換量を示すyとを、それぞれ上記の範囲とすることにより、常誘電性を発揮することができるようになり、室温(25℃)における比誘電率が高く、また、100℃以上の高温においても低誘電損失を得ることができる。
【0014】
即ち、Aサイトを、Baのみ、BaおよびSrの組合せ、またはBa、SrおよびCaの組合せから構成することにより、比誘電率の高いチタン酸塩とすることができ、誘電体磁器としての比誘電率を150以上にできる。
【0015】
また、BサイトにおけるTiの一部をNbおよびYで置換することで、常誘電性とすることができ、電気誘起歪を小さくできるとともに、測定周波数100Hz、温度100℃における誘電損失を1%以下とすることができる。
【0016】
なぜなら、AサイトがBaを含まず、BサイトにNbおよびYを含まない場合には、チタン酸塩として高い比誘電率を示すものの、SrTiOの影響が大きくなり、100℃以上において誘電損失が大きくなり、また、AサイトがBaのみでかつBサイトにおけるNbの置換量xおよびYによる置換量yをいずれも0.05より小さいまたは0.2よりも大きくすると、100℃での誘電損失が1%を超えるようになり、100℃よりも高温になると誘電損失はさらに増加するからである。
【0017】
特に、Caの置換量vを0≦v≦0.3とし、BサイトのTiの一部を等モルのNbおよびYで置換するとともに、図1に示す組成範囲とすることが好ましく、図1に示すように、u=1(線分:A)、y=0.5(線分:B)、y=0.2u(線分:C)およびy=0.19u−0.015(線分:D)の4つの線分に囲まれた範囲であると、誘電体磁器の室温(25℃)における比誘電率を250以上に高められる。なお、Tiサイトの置換成分であるNbおよびYは等モルであることから図1ではYの置換量yとして示してある。
【0018】
このように、BサイトのTiの一部を等モルのNbおよびYで置換すると、チタン酸バリウム系の誘電体磁器であっても常誘電性とすることができ、電気誘起歪を小さくできるとともに、Aサイトを、Baのみ、BaおよびSrの組合せ、またはBa、SrおよびCaの組合せから構成することで、Sr、CaおよびTiを含む結晶相とBa、NbおよびYを含む結晶相との混晶系とするか、もしくはBa、NbおよびYを含む結晶相を主相とすることができ、比誘電率の高いチタン酸塩が形成されることとなり、誘電体磁器として高誘電率かつ低誘電損失にすることができる。
【0019】
本発明の誘電体磁器のAサイトとBサイトの比率は、A/B比が0.995〜1.005の範囲とされることが望ましい。このようにA/B比が1でない場合には、特に、結晶粒子を形成する構成元素と助剤成分とからなる結晶が形成され、結晶粒子の粒界に結晶として析出する傾向にある。
【0020】
なお、本発明の誘電体磁器は、結晶粒子と粒界相とから構成されるが、粒界相を形成する材料として、誘電特性を劣化させない程度であればSiOを主体とし、これにLiOやBを焼結助剤として含有していても構わない。
【0021】
本発明の誘電体磁器の組成を分析するには、蛍光X線分光分析により含まれる元素を定性分析し、これらの特定した元素についてICP発光分光分析により定量分析を行うことで確認できる。また、誘電体磁器を構成する結晶粒子の組成を分析するには、TEM(透過電子顕微鏡)を用い、TEM−EDS(エネルギー分散型X線分光分析装置)で確認できる。
【0022】
次に、本発明の誘電体磁器の製造方法について説明する。
【0023】
本発明の誘電体磁器は、原料粉末として、平均粒径5μm以下のBaCO粉末のみ、または平均粒径5μm以下のSrCO粉末とBaCO粉末、あるいは平均粒径5μm以下のSrCO粉末、BaCO粉末、およびCaCO粉末に、さらに平均粒径0.1〜0.5μmのTiO粉末、平均粒径0.5〜3μmのNb粉末、Y粉末を用い、それぞれの粉末を、モル比による組成式を(Sr1−u−yBaCa)(Ti1−x−yNb)O、0.3≦u≦1、0≦v≦0.3、u+v≦1、0.05≦x≦0.2、0.05≦y≦0.2となるように所定量秤量して混合し、1000℃〜1400℃で仮焼(大気中)し、これを粉砕して(Sr1−u−yBaCa)(Ti1−x−yNb)Oからなる仮焼粉末を作製する。
【0024】
ここで、仮焼温度を1000℃〜1400℃としたのは、1000℃未満では仮焼粉末を合成することができず、1400℃を超えると溶融が起こって合成できないからである。
【0025】
次に、この仮焼粉末にバインダー等を加えて混合し、所定形状に成形する。このとき必要に応じてSiOとともに、LiOやBを焼結助剤として仮焼粉末100質量部に対して合計2質量部以下の範囲で添加しても構わない。そして、得られた成形体を大気雰囲気中で1000℃〜1400℃の温度で焼成することにより、本発明の誘電体磁器を得ることができる。
【0026】
次に、本発明の誘電体磁器を積層セラミックコンデンサの誘電体層に適用した例について説明する。
【0027】
積層セラミックコンデンサとしては、誘電体層と導体層とが交互に積層されたコンデンサ本体の両端面に外部電極を形成し、コンデンサ本体内の導体層を電気的に接続したもので、コンデンサ本体を形成する誘電体層が本発明の誘電体磁器からなる。導体層しては、Ag−Pdを用いることができる。
【0028】
このような積層セラミックコンデンサは、上述した仮焼粉末を得た後、必要に応じて焼結助剤を加えるとともに、バインダーを混ぜて混練したあと、印刷装置を用いて複数枚のセラミックグリーンシートを作製し、各セラミックグリーンシート上にAg−Pdを含有する導電性ペーストを塗布したあと、導電性ペーストが塗布されたグリーンシートを複数枚積層し、これを焼成してコンデンサ本体を作製し、このコンデンサ本体の両端部に外部電極を形成することにより得ることができる。
【0029】
このような積層セラミックコンデンサでは、測定周波数100Hz、温度100℃における誘電体層での誘電損失が1%以下であり、25℃での誘電体層の比誘電率が150以上と高いため、静電容量を高くすることができるとともに、小型化が可能となり、電気誘起歪を小さくできるため、電源回路において共鳴した場合、「音鳴り」と呼ばれる奇妙なノイズ音がなくなり、例えば、プラズマディスプレイなどの電源回路にも好適なコンデンサを提供することが可能となる。
【実施例】
【0030】
原料粉末として、純度99.0%で平均粒径1μmのSrCO粉末、BaCO粉末、CaCO粉末、純度99.0%で平均粒径0.4μmのTiO粉末、純度99.9%で平均粒径1μmのNb粉末、純度99.0%で平均粒径1μmのY粉末を用意し、それぞれ所定量秤量してイソプロピルアルコール(IPA)を用いてポット混合した。
【0031】
この後、アルミナるつぼで仮焼(大気中)を行った。仮焼処理温度は1000〜1500℃で行った。
【0032】
仮焼合成後の仮焼粉末をX線回折(測定範囲2θ:20〜80°:CuKα)にかけ、合成相を確認した結果、大部分が(Sr1−u−vBaCa)(Ti1−x−yNb)Oの組成式で表されるものであった。
【0033】
この後、仮焼粉末100質量部に対してSiOとLiOを焼結助剤として1質量部添加し、イソプロピルアルコール(IPA)を用いてポット混合した。次いで、IPAを乾燥させ、パラフィンワックスを混合後、プレス処理を行ってプレス単板を作製し、これを400℃で24時間脱脂処理した後、大気雰囲気中で1200℃〜1400℃の温度で焼成を行い、電気特性評価用の誘電体磁器単板を作製した。単板の大きさは、直径10mm、厚み1mmとした。
【0034】
この誘電体磁器単板について、蛍光X線分光分析により元素を定性分析し、これらの特定した元素についてICP発光分光分析により定量分析を行い、組成を分析した。この
また、焼成後の誘電体磁器単板の主面全面にIn−Gaからなる電極を塗布し、1Vrms、100Hzで室温(25℃)における静電容量、誘電損失(tanδ)を測定し、25℃の静電容量から誘電体磁器の比誘電率を求めた。また、誘電損失は25℃、100℃、125℃および150℃での値をそれぞれ測定した。これらの結果を表1に示す。
【0035】
さらに、常誘電体か否かを、電界−分極電荷特性(ヒステリシス曲線)で求めた結果、BサイトにおけるTiの一部をNbおよびYにより置換した誘電体磁器単板は、全て常誘電体であった。ここで、図1に示した符号は表1の試料No.に対応している。
【表1】

【0036】
表1の結果から分かるように、本発明の誘電体磁器は、100Hzで測定した100℃における誘電損失tanδの値が1%以下であり、試料No.1のSrTiOのtanδ6.73%と比較して非常に小さいことがわかる。また、25℃での比誘電率も150以上と高いことがわかる。さらに、本発明の誘電体磁器は、常誘電性を示すので、電気誘起歪を小さいものであった。
【0037】
特に、試料No.3、4、6〜11は、Caの置換量vが0≦v≦0.3の範囲にあるとともに、BサイトのTiの一部を等モルのNbおよびYで置換してなり、さらに図1に示す組成範囲にあるため、室温(25℃)における比誘電率を250以上とすることができた。
【0038】
これに対して、本発明の範囲外の試料No.1、2、12は室温(25℃)における比誘電率が190以上と高いものの、100℃における誘電損失が1%を超えていた。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の誘電体磁器の好ましい組成範囲を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素として、Baのみ、BaとSrとの組合せ、またはBa、SrおよびCaの組合せと、Ti、NbおよびYとを含有するとともに、モル比による組成式を(Sr1−u−vBaCa)(Ti1−x−yNb)Oと表したとき、0.3≦u≦1、0≦v≦0.3、u+v≦1、0.05≦x≦0.2、0.05≦y≦0.2の範囲にあることを特徴とする誘電体磁器。
【請求項2】
請求項1記載の誘電体磁器からなる誘電体層と導体層とを交互に積層してなることを特徴とするコンデンサ。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−7196(P2009−7196A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−169692(P2007−169692)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】