説明

誘電体磁器組成物およびその製造方法ならびにセラミック電子部品

【課題】比誘電率を高く維持しつつ、良好な温度特性を示す誘電体磁器組成物とその製造方法、および該誘電体磁器組成物が適用されたセラミック電子部品を提供すること。
【解決手段】一般式ABO(AはBa単独、または、BaとCaおよびSrから選ばれる少なくとも1つとであり、BはTi単独、または、TiおよびZrである)で表され、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物と、Yの酸化物と、を含有する誘電体磁器組成物であって、誘電体磁器組成物が、化合物を主成分とする誘電体粒子を含んでおり、化合物の原料粉末の平均粒子径を示すd[nm]と、原料粉末のペロブスカイト型結晶構造におけるc軸の格子定数とa軸の格子定数との比を示すc/aと、を用いて、α=1000×(c/a)/dと定義したときに、αが11.0以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物およびその製造方法ならびにセラミック電子部品に関し、さらに詳しくは、比誘電率を高く維持しつつ良好な温度特性を示す誘電体磁器組成物とその製造方法、および該誘電体磁器組成物が適用されたセラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサは、小型、高性能、高信頼性の電子部品として広く利用されており、電気機器および電子機器の中で使用される個数も多数にのぼる。近年、機器の小型かつ高性能化に伴い、セラミック電子部品に対する更なる小型化、高性能化、高信頼性化への要求はますます厳しくなっている。
【0003】
このような要求に対し、たとえばセラミックコンデンサの誘電体層を構成する誘電体磁器組成物の原料粉末の特性を制御することで、焼成後に得られるコンデンサの特性を向上させることが試みられている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、チタン酸バリウムのBET比表面積と、チタン酸バリウムの結晶格子におけるc軸とa軸との比と、を特定の関係としたチタン酸バリウムが記載されている。特許文献1によれば、このチタン酸バリウムは電気的特性に優れると記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1には、具体的な電気特性については記載されておらず、たとえば良好な静電容量の温度特性を実現できるかどうかは不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−285412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、比誘電率を高く維持しつつ、良好な温度特性を示す誘電体磁器組成物とその製造方法、および該誘電体磁器組成物が適用されたセラミック電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る誘電体磁器組成物は、
一般式ABO(AはBa単独、または、BaとCaおよびSrから選ばれる少なくとも1つとであり、BはTi単独、または、TiおよびZrである)で表され、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物と、Yの酸化物と、を含有する誘電体磁器組成物であって、
前記誘電体磁器組成物が、前記化合物を主成分とする誘電体粒子を含んでおり、
前記化合物の原料粉末の平均粒子径を示すd[nm]と、前記原料粉末の前記ペロブスカイト型結晶構造におけるc軸の格子定数とa軸の格子定数との比を示すc/aと、を用いて、α=1000×(c/a)/dと定義したときに、前記αが11.0以下であることを特徴とする。
【0009】
一般的に、所望の特性や用途等に応じて、ABOで表される化合物の原料粉末の平均粒子径を変化させた場合、温度特性を変化することがあるため、温度特性を良好に保つことは難しいことが知られている。さらに、場合によっては、比誘電率も変化してしまう。
【0010】
そこで、本発明では、上記のように、新たなパラメータである「α」を導入し、このαの値を上記の範囲とすることで、上記の化合物の原料粉末の平均粒子径を変化させた場合であっても、比誘電率を高く維持しつつ、良好な温度特性を実現することができる。
【0011】
好ましくは、前記誘電体粒子の平均結晶粒子径をD[nm]とし、前記dおよび前記Dを用いて、粒成長率[%]=D/d×100と定義したときに、前記粒成長率が100〜140%である。
【0012】
好ましくは、前記誘電体磁器組成物には、前記Yの酸化物を含む偏析領域が存在しており、
200μmの視野面積に対し、前記偏析領域が占める面積の割合が0.1〜5.0%である。
【0013】
このようにすることで、本発明の効果をより高めることができる。
【0014】
また、本発明に係るセラミック電子部品は、上記のいずれかに記載の誘電体磁器組成物から構成される誘電体層と、電極と、を有する。
【0015】
上記のセラミック電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【0016】
また、本発明に係る誘電体磁器組成物の製造方法は、一般式ABO(AはBa単独、または、BaとCaおよびSrから選ばれる少なくとも1つとであり、BはTi単独、または、TiおよびZrである)で表されペロブスカイト型結晶構造を有する化合物と、Yの酸化物と、を含有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記化合物の原料粉末と、前記Yの酸化物の原料と、含む誘電体原料を準備する工程と、
前記誘電体原料を成形して、成形体を得る工程と、
前記成形体を焼成する工程と、を有し、
前記化合物の原料粉末の平均粒子径を示すd[nm]と、前記化合物の原料粉末のペロブスカイト型結晶構造におけるc軸の格子定数とa軸の格子定数との比を示すc/aと、を用いて、α=1000×(c/a)/dと定義したときに、前記αが11.0以下であって、
前記成形体を焼成する工程において、昇温速度が600〜8000℃/時間であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2は、図1に示す積層セラミックコンデンサの誘電体層の断面において、偏析領域の存在状態を示す模式図である。
【図3】図3は、Yの酸化物の含有量と、静電容量の温度特性と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0019】
<積層セラミックコンデンサ1>
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と、内部電極層3と、が交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4は、内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0020】
コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はないが、図1に示すように、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0021】
<誘電体層2>
誘電体層2は、本実施形態に係る誘電体磁器組成物から構成されている。該誘電体磁器組成物は、主成分として、一般式ABO(AはBa単独、または、BaとCaおよびSrから選ばれる少なくとも1つとであり、BはTi単独、または、TiおよびZrである)で表される化合物を含有し、副成分として、Yの酸化物を含有する。なお、酸素(O)量は、化学量論組成から若干偏倚してもよい。
【0022】
該化合物は、具体的には、組成式(Ba1−x−yCaSr)・(Ti1−mZr)Oで表され、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物である。また、Aサイト原子として、少なくともBaが含まれ、Bサイト原子として、少なくともTiが含まれている。さらに、Aサイト原子(Ba、SrおよびCa)と、Bサイト原子(TiおよびZr)と、のモル比は、A/B比として表され、本実施形態では、A/B比は、0.98〜1.02であることが好ましい。本実施形態では、上記式において、x=y=m=0、すなわち、チタン酸バリウムが好ましい。
【0023】
Yの酸化物の含有量は、ABO100モルに対して、Y換算で、好ましくは0.2〜1.5モル、より好ましくは0.3〜1.5モルである。Yの酸化物の含有量を上記の範囲内とすることで、良好な高温負荷寿命および温度特性が得られるという利点がある。
【0024】
本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、さらに、所望の特性に応じて、その他の副成分を含有してもよい。
【0025】
たとえば、本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、Y以外の希土類元素(R元素)の酸化物を含有してもよい。R元素の酸化物の含有量は、ABO100モルに対して、R換算で、好ましくは0.2〜2.0モル、より好ましくは0.3〜1.5モルである。R元素の酸化物の含有量を上記の範囲内とすることで、良好な高温負荷寿命および温度特性が得られるという利点がある。R元素は、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1つである。
【0026】
また、本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、Mgの酸化物を含有してもよい。Mgの酸化物の含有量は、ABO100モルに対して、MgO換算で、好ましくは0.7〜2.0モル、より好ましくは1.0〜2.0モルである。Mgの酸化物の含有量を上記の範囲内とすることで、誘電体粒子の粒成長を抑制できると共に、良好な高温負荷寿命が得られるという利点がある。
【0027】
また、本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、Caの酸化物を含有してもよい。Caの酸化物の含有量は、ABO100モルに対して、CaO換算で、好ましくは0〜0.5モル、より好ましくは0〜0.4モルである。Caの酸化物の含有量を上記の範囲内とすることで、焼成時の還元に強く、誘電体粒子の粒成長を抑制できるという利点がある。
【0028】
また、本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、Mnの酸化物を含有してもよい。Mnの酸化物の含有量は、ABO100モルに対して、MnO換算で、好ましくは0.01〜0.2モル、より好ましくは0.03〜0.2モルである。Mnの酸化物の含有量を上記の範囲内とすることで、焼成時の耐還元性が良好であるという利点がある。
【0029】
また、本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、Siを含む酸化物を含有してもよい。該酸化物の含有量は、ABO100モルに対して、SiO換算で、好ましくは0.4〜1.0モル、より好ましくは0.5〜0.8モルである。該酸化物の含有量を上記の範囲内とすることで、焼結性を向上できるという利点がある。なお、Siを含む酸化物としては、Siと他の金属元素との複合酸化物等であってもよいし、SiO単独であってもよい。
【0030】
<偏析領域20>
本実施形態では、図2に示すように、誘電体層2には、誘電体粒子12と、少なくともYの酸化物を含む偏析領域20と、が存在している。偏析領域20の存在状態を制御することで、高い比誘電率を維持しつつ、良好な温度特性を実現することができる。
【0031】
図2に示す誘電体粒子12は、ABOを主成分としている。本実施形態では、誘電体粒子12および偏析領域20以外の領域(相)が存在していてもよい。上述したY以外の副成分の元素が含まれる場合には、誘電体粒子12に含まれていてもよいし、偏析領域20に含まれていてもよいし、それ以外の領域に含まれていてもよい。
【0032】
「Yの酸化物が含まれる偏析領域」とは、該領域におけるYの濃度が他の領域よりも高い領域を意味している。したがって、偏析領域には、ABOを構成する元素が存在していてもよいし、他の副成分の元素が存在していてもよい。
【0033】
Yの酸化物が含まれる偏析領域が存在するか否かは、誘電体層2の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真において、偏析領域とその他の相とのコントラストの違いを目視あるいは画像処理等で判断してもよい。また、エネルギー分散型X線分光装置を用いて、特定領域についてのYのマッピング画像から判断してもよい。
【0034】
さらに、本実施形態では、誘電体層(誘電体磁器組成物)が占める200μmの視野面積に対する偏析領域の面積割合を算出する。この面積割合は、好ましくは0.1〜5.0%、より好ましくは0.3〜2.2%、特に好ましくは0.8〜2.2%である。偏析領域の面積割合を上記の範囲内とすることで、高い比誘電率を維持しつつ、良好な温度特性を実現することが容易となる。
【0035】
本実施形態では、誘電体粒子の結晶粒子径は、誘電体層2の厚さなどに応じて決定すればよい。結晶粒子径は、たとえば以下のようにコード法を用いて測定すればよい。すなわち、まず、コンデンサ素子本体10を誘電体層2および内部電極層3の積層方向に平行な面で切断する。そして、その断面において誘電体粒子の境界を判別し、その粒子の面積を算出し、円相当径として直径を算出し1.27倍した値を結晶粒子径とする。
【0036】
得られた結晶粒子径から平均結晶粒子径を算出する方法としては特に制限されないが、たとえば、結晶粒子径を200個以上の誘電体粒子について測定し、得られた結晶粒子径の平均値を平均結晶粒子径(D)とすればよい。本実施形態では、誘電体粒子の平均結晶粒子径(D)が、120〜200nmであることが好ましい。
【0037】
また、本実施形態では、後述するABOの原料粉末の平均粒子径(d)と、焼成後の誘電体層に含まれる誘電体粒子12の平均結晶粒子径(D)と、から、粒成長率を算出する。具体的には、粒成長率(%)=(D/d)×100で算出される。すなわち、粒成長率は、原料粉末の平均粒子径を100%とした場合に、原料粉末の粒子が、焼成により成長する割合を示している。
【0038】
本実施形態では、粒成長率は、好ましくは100〜140%である。粒成長率を上記の範囲内とすることで、高い比誘電率を維持しつつ、良好な温度特性を実現することが容易となる。
【0039】
誘電体層2の厚みは、特に限定されず、所望の特性や用途等に応じて適宜決定すればよいが、本実施形態では、一層あたり2.0μm以下であることが好ましい。また、誘電体層2の積層数は、特に限定されず、用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0040】
<内部電極層3>
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層2を構成する材料が耐還元性を有する場合には、比較的安価な卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。内部電極層3の厚みは、特に限定されず、用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0041】
<外部電極4>
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本発明では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよいが、通常、5〜50μm程度であることが好ましい。
【0042】
<積層セラミックコンデンサ1の製造方法>
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0043】
まず、誘電体層を形成するための誘電体原料を準備し、これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。
【0044】
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0045】
誘電体原料として、まずABOの原料粉末と、Yの酸化物の原料と、を準備する。Yの酸化物の原料としては、酸化物だけでなく、その他、焼成によりYの酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
【0046】
ABOの原料粉末としては、いわゆる固相法の他、各種液相法(たとえば、シュウ酸塩法、水熱合成法、アルコキシド法、ゾルゲル法など)により製造されたものなど、種々の方法で製造されたものを用いることができる。
【0047】
ABOの原料粉末に含まれる粒子は、ペロブスカイト型結晶構造を有しているが、ペロブスカイト型結晶構造は温度により変化し、キュリー点以下の常温においては正方晶系となり、キュリー点以上では立方晶系となる。立方晶系においては、各結晶軸(a軸、b軸、c軸)の格子定数は等しいが、正方晶系においては、一つの軸(c軸)の格子定数が、他の軸(a軸(=b軸))の格子定数よりも長くなっている。
【0048】
本実施形態では、ABOの原料粉末に含まれる粒子のc軸の格子定数とa軸の格子定数との比を示すc/aは、好ましくは1.007以上、より好ましくは1.008以上である。
【0049】
なお、原料粉末中の全ての粒子のc/aが、上記の範囲を満足している必要はない。すなわち、たとえばABOの原料粉末として、チタン酸バリウム粉末を選択した場合、チタン酸バリウム粉末中に、正方晶系のチタン酸バリウム粒子と、立方晶系のチタン酸バリウム粒子とが共存していてもよく、原料粉末全体として、c/aが上記の範囲にあればよい。
【0050】
また、原料粉末の平均粒子径は、たとえば以下のようにして測定すればよい。すなわち、原料粉末をSEM観察して、粒子の輪郭から該粒子の面積を算出し、円相当径として直径を算出した値を該粒子の粒子径とする。
【0051】
得られた粒子径から、原料粉末の平均粒子径を算出する方法としては特に制限されないが、たとえば、粒子径を500個以上の原料粉末粒子について測定し、得られた粒子径の平均値を平均粒子径(d)とすればよい。本実施形態では、ABOの原料粉末の平均粒子径(d)が、80〜200nmであることが好ましい。
【0052】
また、本実施形態では、ABOの原料粉末の平均粒子径(d)と、上述したc/aと、を用いて、α=1000×(c/a)/dと定義した場合、α≦11.0、好ましくはα≦9を満足する。
【0053】
αを上記の範囲内とすることで、原料粉末の平均粒子径を変化させた場合であっても、高い比誘電率を維持しつつ良好な温度特性を実現することができる。たとえば、原料粉末の平均粒子径に応じて、誘電体粒子の粒成長を制御することで、所望の特性を得ることができる。しかも、誘電体粒子の粒成長を抑制できるため、誘電体層を薄層化した場合であっても、十分な信頼性を確保することができる。
【0054】
誘電体層に上記の成分以外の成分が含有される場合には、該成分の原料を準備する。これらの原料としては、上記と同様に、該成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができる。また、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物を用いることができる。
【0055】
誘電体原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上記した誘電体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。
【0056】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。バインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0057】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0058】
内部電極層用ペーストは、Niなどの各種導電性金属や合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。また、内部電極層用ペーストには、共材が含まれていてもよい。共材としては特に制限されないが、主成分と同様の組成を有していることが好ましい。
【0059】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0060】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0061】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0062】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層し、所定形状に切断してグリーンチップとする。
【0063】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5〜300℃/時間、保持温度を好ましくは180〜400℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜24時間とする。また、脱バインダ時の雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とする。
【0064】
脱バインダ後、グリーンチップの焼成を行う。焼成では、昇温速度を好ましくは600〜8000℃/時間とする。焼成時の保持温度は、好ましくは1300℃以下、より好ましくは1000〜1300℃であり、その保持時間は、好ましくは0.2〜3時間である。
【0065】
焼成雰囲気は、還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることができる。
【0066】
また、焼成時の酸素分圧は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は、10−14〜10−10MPaとすることが好ましい。焼成時の降温速度は、好ましくは600〜8000℃/時間である。
【0067】
還元性雰囲気中で焼成した後、コンデンサ素子本体にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これにより高温負荷寿命を著しく長くすることができる。
【0068】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10−9〜10−5MPaとすることが好ましい。酸素分圧が上記の範囲未満であると誘電体層の再酸化が困難であり、上記の範囲を超えると内部電極層の酸化が進行する傾向にある。
【0069】
アニールの際の保持温度は、1100℃以下、特に900〜1100℃とすることが好ましい。保持温度が上記の範囲未満であると誘電体層の酸化が不十分となるので、絶縁抵抗(IR)が低く、また、高温負荷寿命が短くなりやすい。一方、保持温度が上記の範囲を超えると、内部電極層が酸化して容量が低下する。なお、アニールは昇温工程および降温工程だけから構成してもよい。すなわち、温度保持時間を零としてもよい。この場合、保持温度は最高温度と同義である。
【0070】
これ以外のアニール条件としては、温度保持時間を好ましくは0〜30時間、降温速度を好ましくは50〜500℃/時間とする。また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、加湿したNガス等を用いることが好ましい。
【0071】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、Nガスや混合ガス等を加湿するには、たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。
【0072】
脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0073】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、たとえばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼成し、外部電極4を形成する。そして、必要に応じ、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0074】
このようにして製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0076】
上述した実施形態では、本発明に係るセラミック電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係るセラミック電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記構成を有する電子部品であれば何でも良い。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0078】
<実験例1>
まず、主成分であるABOの原料粉末として、平均粒子径およびc/aが表1に示す値であるBaTiO(BT)粉末を、副成分の原料として、MgCO、MnCO、Y、CaCOおよびSiOを、それぞれ準備した。なお、実施例12の試料については、ABOの原料粉末として、Ba0.95Ca0.05TiO(BCT)粉末を用いた。また、ABO原料粉末の平均粒子径およびc/aは以下のようにして求め、これらの値からαを算出した。
【0079】
<平均粒子径d>
ABO原料粉末を構成する一次粒子をSEMを用いて観察し、SEM写真を撮影した。このSEM写真をソフトウェアにより画像処理を行い、粒子の輪郭を判別し、各粒子の面積を算出した。そして、算出された粒子の面積を円相当径に換算して粒子径を算出し、その平均値をABO原料粉末の平均粒子径(d)とした。なお、粒子径の算出は、500個の誘電体粒子について行った。結果を表1に示す。
【0080】
<c/a>
まず、ABO原料粉末に対し、X線回折を行った。X線源としてCu−Kα線を用い、その測定条件は、電圧45kV、2θ=20°〜130°の範囲とした。測定により得られたX線回折強度よりリートベルト解析を行い、c/aを評価した。結果を表1に示す。
【0081】
上記で得られたABO原料粉末の平均粒子径(d)と、ABO原料粉末のc/aと、から、αを算出した。算出したαを表1に示す。
【0082】
次いで、上記で準備したABO原料粉末と副成分の原料との合計(誘電体原料):100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂:10重量部と、可塑剤としてのジオクチルフタレート(DOP):5重量部と、溶媒としてのアルコール:100重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0083】
なお、各副成分の添加量は、焼成後の誘電体層における副成分の合計含有量が、主成分であるABO100モルに対して、3.75モルとなるようにした。また、Yの含有量はY換算で表1に示す量となるようにした。また、MgCO、MnCOおよびCaCOは、焼成後には、MgO、MnOおよびCaOとして誘電体磁器組成物中に含有されることとなる。
【0084】
また、上記とは別に、Ni粉末:44.6重量部と、テルピネオール:52重量部と、エチルセルロース:3重量部と、ベンゾトリアゾール:0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0085】
そして、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上にグリーンシートを形成した。次いで、この上に内部電極層用ペーストを用いて、電極層を所定パターンで印刷した後、PETフィルムからシートを剥離し、電極層を有するグリーンシートを作製した。次いで、電極層を有するグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0086】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、焼結体としての素子本体を得た。
【0087】
脱バインダ処理条件は、昇温速度:25℃/時間、保持温度:260℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
【0088】
焼成条件は、昇温速度:600℃/時間、保持温度:1190〜1260℃とし、保持時間を2時間とした。降温速度は、昇温速度と同様にした。なお、雰囲気ガスは、加湿したN+H混合ガスとし、酸素分圧が3.8×10−9MPaとなるようにした。
【0089】
アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1000〜1100℃、温度保持時間:2時間、降温速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNガス(酸素分圧:1.4×10−4MPa)とした。
【0090】
なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用いた。
【0091】
次いで、得られた素子本体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn−Gaを塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズは、2.0mm×1.25mm×0.4mmであり、誘電体層の厚みは1.0μm、内部電極層の厚みは約1.0μmであった。また、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は4とした。
【0092】
得られたコンデンサ試料について、偏析領域の面積割合、比誘電率、静電容量の温度特性および粒成長率の測定を、それぞれ下記に示す方法により行った。
【0093】
<偏析領域の面積割合>
まず、コンデンサ試料を誘電体層に対して垂直な面で切断した。次いで、この切断面について、SEM観察およびEDX分析を行い、Yのマッピング画像を得た。得られたマッピング画像をソフトウェアにより画像処理を行い、誘電体層が占める200μmの視野面積に対し、Yを含む偏析領域の面積割合を算出した。結果を表1に示す。
【0094】
<比誘電率ε>
比誘電率εは、コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で測定された静電容量から算出した(単位なし)。比誘電率は高いほうが好ましく、本実施例では1000以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0095】
<静電容量の温度特性>
コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrmsの条件下で静電容量を測定し、続いて105℃における静電容量を測定し、25℃における静電容量に対し、105℃における静電容量の変化率ΔCを算出し、変化率ΔCが、±15%以内であるか否かを評価した。結果を表1に示す。また、図3に、Yの酸化物の含有量と、温度特性と、の関係を表すグラフを示す。
【0096】
<粒成長率>
コンデンサ試料を切断し、その切断面をSEMにより観察し、SEM写真を撮影した。このSEM写真をソフトウェアにより画像処理を行い、誘電体粒子の境界を判別し、各誘電体粒子の面積を算出した。そして、算出された誘電体粒子の面積を円相当径に換算して結晶粒子径を算出した。得られた粒子径の平均値を平均結晶粒子径とした。なお、結晶粒子径の算出は、200個の誘電体粒子について行った。結果を表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
表1より、αが本発明の範囲内であり、かつYの酸化物が含まれている場合には、高い比誘電率が得られ、しかも良好な温度特性を実現できることが確認できた。また、粒成長率や偏析領域の面積割合を上述した範囲内とすることによっても、高い比誘電率が得られ、しかも良好な温度特性を実現できることが確認できた。
【0099】
これに対し、αが本発明の範囲外である場合(比較例1)やYの酸化物が含まれていない場合(比較例2)には、温度特性が劣っていることが確認できた。
【0100】
また、図3より、Yの含有量を増やすことで、温度特性が良好になることが確認できた。
【符号の説明】
【0101】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
12… 誘電体粒子
20… 偏析領域
3… 内部電極層
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ABO(AはBa単独、または、BaとCaおよびSrから選ばれる少なくとも1つとであり、BはTi単独、または、TiおよびZrである)で表され、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物と、Yの酸化物と、を含有する誘電体磁器組成物であって、
前記誘電体磁器組成物が、前記化合物を主成分とする誘電体粒子を含んでおり、
前記化合物の原料粉末の平均粒子径を示すd[nm]と、前記原料粉末の前記ペロブスカイト型結晶構造におけるc軸の格子定数とa軸の格子定数との比を示すc/aと、を用いて、α=1000×(c/a)/dと定義したときに、前記αが11.0以下であることを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記誘電体粒子の平均結晶粒子径をD[nm]とし、前記dおよび前記Dを用いて、粒成長率[%]=D/d×100と定義したときに、前記粒成長率が100〜140%である請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記誘電体磁器組成物には、前記Yの酸化物を含む偏析領域が存在しており、
200μmの視野面積に対し、前記偏析領域が占める面積の割合が0.1〜5.0%である請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体磁器組成物から構成される誘電体層と、電極と、を有するセラミック電子部品。
【請求項5】
一般式ABO(AはBa単独、または、BaとCaおよびSrから選ばれる少なくとも1つとであり、BはTi単独、または、TiおよびZrである)で表されペロブスカイト型結晶構造を有する化合物と、Yの酸化物と、を含有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記化合物の原料粉末と、前記Yの酸化物の原料と、含む誘電体原料を準備する工程と、
前記誘電体原料を成形して、成形体を得る工程と、
前記成形体を焼成する工程と、を有し、
前記化合物の原料粉末の平均粒子径を示すd[nm]と、前記化合物の原料粉末のペロブスカイト型結晶構造におけるc軸の格子定数とa軸の格子定数との比を示すc/aと、を用いて、α=1000×(c/a)/dと定義したときに、前記αが11.0以下であって、
前記成形体を焼成する工程において、昇温速度が600〜8000℃/時間であることを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−72037(P2012−72037A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219775(P2010−219775)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】