説明

誘電体磁器組成物

【課題】 900℃以下での低温焼結が可能で、比誘電率εrが30〜40の特性を備え、共振周波数の温度係数τfが+10〜+40ppm/Kの特性を備え、共振周波数とQ値との積であるQ・f値が15000GHz以上の特性を備える誘電体磁器組成物を提供する。
【解決手段】 誘電体磁器組成物の主成分としてBaO、TiOを所定の比率で含有させ、前記誘電体磁器組成物の副成分としてZnO、B及びCuOを所定の比率で含有させるとともに、これらの副成分の総和量を所定範囲にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ag又はAgを主成分とする合金等の導体を内部導体として使用可能な、低温焼結性を有する誘電体磁器組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車電話、携帯電話等の移動体通信分野の成長が極めて著しい。そして、これらの移動体通信では数100MHz〜数GHz程度のいわゆる準マイクロ波と呼ばれる高周波帯が使用されている。そのため、移動体通信機器に用いられる共振器、フィルタ、コンデンサ等の電子デバイスにおいても高周波特性が重要視されるに至っている。
【0003】
また、近年の移動体通信の普及に関しては、サービスの向上の他に通信機器の小型化及び低価格化が重要な因子となっている。そのため、高周波デバイスに関しても小型化および低価格化が要求されるようになってきている。例えば共振器用材質において小型化を実現させるためには使用周波数において比誘電率εrが高く、誘電損失が小さく、かつ共振周波数の温度係数τfの変化が小さい誘電体磁器組成物が要求されてきている。
【0004】
従来よりBaO−希土類酸化物−TiO系の誘電体磁器組成物は、比誘電率εrが高く、Q値が大きく、さらには共振周波数の温度係数τfの変化が小さいことから広範な研究がなされてきた。
【0005】
特開平6−40767号公報には、主として、BaO−希土類酸化物−TiOを主成分とし、副成分として、B等を添加することで、焼成温度900℃でAg導体との同時焼成を可能ならしめている。しかしながら、得られる比誘電率εrの範囲は、主成分組成の比誘電率εrが主に反映されるために、εr=50〜84と比較的に高い範囲となっている。
【0006】
また、近年、高い比誘電率εr材料であるBaO−希土類酸化物−TiO系を主成分とした材料と、それより比誘電率εrの小さな誘電体材料との異材質同士を同時焼成することで、より高特性のデバイスを形成する技術が注目されている。
【0007】
比誘電率εrの小さな誘電体材料としては、BaO−TiO系を主成分とした材料が多く提案されている。例えば、特開平8−45344号公報には、BaO−TiO系の材料に、GeOやCuOを添加することで、比誘電率εrが34.6〜39.3の特性を備える誘電体磁器組成物が提案されている。しかしながら、当該提案の組成では、焼成温度が1000℃程度と高い。
【0008】
また、特開平9−315854号公報には、BaO−(Ti・Zr)O系の材料にZnO、B、アルカリ金属含有化合物を添加させることによって、比誘電率εrが20.5〜34.2の範囲内であって、950℃以下の焼成温度で焼成できる誘電体磁器組成物の提案がなされている。しかしながら、この提案では、高い特性を得るために、BaTi9中にBaTi12Zn34結晶を均一に分散させ、さらにZrを固溶させている。そのため、1100℃で6時間の仮焼きを必要としており、製造工程がきわめて複雑となっている。
【0009】
さらに、特開平10−167817号公報には、BaO−(Ti・Zr)O系の材料にZnO、B、CuO、アルカリ金属含有化合物を添加させることによって、Q値を向上させ、950℃以下での焼成温度で焼成することができる誘電体磁器組成物の提案がなされている。しかしながら、この提案においては、添加される副成分総和量の規制がなく、しかも全体的に多量の副成分を添加しているために、誘電特性が悪化してしまう傾向にある。Q値も提示されたデータどおりの数値が得られない場合がある。
【0010】
【特許文献1】特開平6−40767号公報
【特許文献2】特開平8−45344号公報
【特許文献3】特開平9−315854号公報
【特許文献4】特開平10−167817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような実状のもとに本発明は創案されたものであり、その目的は、上記提案のものよりも低い温度での低温焼成が可能で、特性の良好な誘電体磁器組成物を提供することにある。より具体的には、900℃以下での低温焼結が可能で、比誘電率εrが30〜40の特性を備え、共振周波数の温度係数τfが+10〜+40ppm/Kの特性を備え、共振周波数とQ値との積であるQ・f値が15000GHz以上の特性を備える誘電体磁器組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題を解決するために、本発明は、主成分として、組成式(BaO・xTiO)と表される成分を含み、当該組成式におけるBaOに対するTiOのモル比xが、3.5≦x≦4.5の範囲内にあり、
前記主成分に対して副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、および銅酸化物を含むとともに、これらの副成分をそれぞれ、aZnO、bB、およびcCuOと表したとき、
前記主成分に対する前記各副成分の重量比率を表わすa、b、およびcがそれぞれ
0.1(重量%)≦a≦8.0(重量%)
0.1(重量%)≦b≦8.0(重量%)、
0.1(重量%)≦c≦6.0(重量%)であり、
これらa、b、およびcの総和量a+b+cが、
0.3(重量%)≦a+b+c<11.5(重量%)の範囲内、
にあるように構成される。
【0013】
また、本発明の好ましい態様として、焼成温度が900℃以下、比誘電率が30〜40の範囲内、Q・f値が15000GHz以上、τf値が+10〜+40ppm/Kの範囲内の物性を有してなるように構成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、主成分として、組成式(BaO・xTiO)と表される成分を含み、当該組成式におけるBaOに対するTiOのモル比xが、3.5≦x≦4.5の範囲内にあり、
前記主成分に対して副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、および銅酸化物を含むとともに、これらの副成分をそれぞれ、aZnO、bB、およびcCuOと表したとき、
前記主成分に対する前記各副成分の重量比率を表わすa、b、およびcがそれぞれ
0.1(重量%)≦a≦8.0(重量%)
0.1(重量%)≦b≦8.0(重量%)、
0.1(重量%)≦c≦6.0(重量%)であり、
これらa、b、およびcの総和量a+b+cが、
0.3(重量%)≦a+b+c<11.5(重量%)の範囲内、
となるように構成されているので、900℃以下での低温焼結が可能で、比誘電率εrが30〜40の特性を備え、共振周波数の温度係数τfが+10〜+40ppm/Kの特性を備え、共振周波数とQ値との積であるQ・f値が15000GHz以上の特性を備える誘電体磁器組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。最初に、本発明の誘電体磁器組成物の構成について説明する。
【0016】
〔誘電体磁器組成物の説明〕
本発明の誘電体磁器組成物は、組成式(BaO・xTiO)と表記される主成分を含んでいる。
【0017】
さらに、本発明の誘電体磁器組成物は、この主成分に対して副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、および銅酸化物を所定量含有している。
【0018】
以下、本発明の誘電体磁器組成物の主成分組成および副成分組成についてさらに説明する。まず、最初に、主成分組成について説明する。
【0019】
(主成分組成についての説明)
前述したように本発明の誘電体磁器組成物は、組成式(BaO・xTiO)と表記される主成分を含み、当該組成式におけるBaOに対するTiOのモル比xが、3.5≦x≦4.5の範囲内、より好ましくは、3.8≦x≦4.2の範囲内となるように構成されている。
【0020】
BaOに対するTiOのモル比xの値が3.5未満となると、すなわち、TiOの含有比率が小さくなり過ぎると、Q・f値が極端に低下する傾向が生じる。この一方で、BaOに対するTiOのモル比xの値が4.5を超えると、すなわち、TiOの含有比率が大きくなり過ぎると、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向が生じるともに、共振周波数の温度係数τfも悪化する傾向が生じる。従って、高周波デバイスの電力損失が大きくなり、温度によって高周波デバイスの共振周波数が変動しやすくなってしまう。
【0021】
(副成分についての説明)
前述したように本発明の誘電体磁器組成物は、副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、および銅酸化物を含んでいる。
【0022】
そして、これらの副成分をそれぞれ、aZnO、bB、およびcCuOと表した場合、前記主成分に対する前記各副成分の重量比率(重量%)を表わすa、b、およびcがそれぞれ、
0.1(重量%)≦a≦8.0(重量%)
0.1(重量%)≦b≦8.0(重量%)、
0.1(重量%)≦c≦6.0(重量%)となるように構成される。
【0023】
すなわち、主成分に対する亜鉛酸化物の含有割合は、ZnO換算で0.1(重量%)≦a≦8.0(重量%)であることが求められ、好ましくは2.0(重量%)≦a≦6.0(重量%)とされる。主成分に対する亜鉛酸化物の含有割合がZnO換算で0.1(重量%)未満となると、誘電体磁器組成物の低温焼結効果が不充分なものとなる傾向が生じる。この一方で、主成分に対する亜鉛酸化物の含有割合がZnO換算で8.0(重量%)を超えると、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向が生じてしまう。
【0024】
また、主成分に対するホウ素酸化物の含有割合はB換算で0.1(重量%)≦b≦8.0(重量%)であることが求められ、好ましくは1.5(重量%)≦b≦4.5(重量%)とされる。主成分に対するホウ素酸化物の含有割合がB換算で0.1(重量%)未満となると、誘電体磁器組成物の低温焼結効果が不充分なものとなる傾向が生じる。この一方で、主成分に対するホウ素酸化物の含有割合がB換算で8.0(重量%)を超えると、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向が生じてしまう。共振周波数の温度係数τfも悪化する傾向にある。
【0025】
また、主成分に対する銅酸化物の含有割合はCuO換算で0.1(重量%)≦c≦6.0(重量%)であることが求められ、好ましくは1.0(重量%)≦c≦3.0(重量%)とされる。主成分に対する銅酸化物の含有割合がCuO換算で0.1(重量%)未満となると誘電体磁器組成物の低温焼結効果が不充分なものとなる傾向が生じる。この一方で、主成分に対する銅酸化物の含有割合がCuO換算で6.0(重量%)を超えると、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向が生じてしまう。共振周波数の温度係数τfも悪化する傾向にある。
【0026】
さらに、本発明で重要なことは、これら副成分であるa、b、およびcの総和量a+b+cが、0.3(重量%)≦a+b+c<11.5(重量%)の範囲内、
好ましくは、3.0(重量%)≦a+b+c≦7.0(重量%)の範囲内、
となるように構成されている点にある。
【0027】
すなわち、本発明の効果を有効に発現させるためには、主成分に対する個々の副成分の含有割合(a、b、およびc)が上記の所定範囲を満たすことはもちろんのこと、総和量(a+b+c)が、上記の総和範囲を満たすことが必要である。
【0028】
上記a+b+cの総和量が、0.3(重量%)未満となると、誘電体磁器組成物の低温焼結効果が不充分なものとなる傾向が生じる。この一方で、上記a+b+cの総和量が、11.5(重量%)以上となると、誘電損失が大きくなり、Q・f値が下がる傾向が生じてしまう。共振周波数の温度係数τfも悪化する傾向が生じる場合がある。
【0029】
上述してきたように構成される本発明の誘電体磁器組成物は、後述する実施例の結果からも明らかなように、900℃以下での低温焼結が可能で、比誘電率εrが30〜40の特性を備え、共振周波数の温度係数τfが+10〜+40ppm/Kの特性を備え、共振周波数とQ値との積であるQ・f値が15000GHz以上の特性を備えている。
【0030】
また、本発明における重要な特性である誘電体磁器組成物の誘電損失について、以下説明を加えておく。
【0031】
理想的な誘電体に交流を印加すると、電流と電圧は90度の位相差をもつ。しかしながら、交流の周波数が高くなり高周波となると、誘電体の電気分極又は極性分子の配向が高周波の電場の変化に追従できず、あるいは電子又はイオンが伝導することにより電束密度が電場に対して位相の遅れをもち、電流と電圧は90度以外の位相をもつことになる。誘電損失は、前記高周波のエネルギーの一部が熱となって放散する現象である。誘電損失の大きさは、現実の電流と電圧の位相差と理想の電流と電圧の位相差90度との差である損失角度δの正接tanδの逆数Q(Q=1/tanδ)で表わされる。本発明における誘電体磁器組成物の誘電損失の評価では、前記Qと共振周波数の積であるQ・fの値を用いている。誘電損失が小さくなればQ・f値は大きくなり、誘電損失が大きくなればQ・f値は小さくなることになる。誘電損失は高周波デバイスの電力損失を意味するので、Q・f値の大きい誘電体磁器組成物が求められている。
【0032】
また、本発明における重要な特性である誘電体磁器組成物の共振周波数の温度係数τf(ppm/K)について、以下説明を加えておく。
【0033】
誘電体磁器組成物の共振周波数の温度係数τf(ppm/K)は下記式(1)で算出される。
【0034】
τf=〔fT−fref/fref(T−Tref)〕×1000000 (ppm/K)…式(1)
【0035】
ここでfTは温度Tにおける共振周波数(kHz)を表し、frefは基準温度Trefにおける共振周波数(kHz)を表す。
【0036】
共振周波数の温度係数τfの絶対値の大きさは、温度変化に対する誘電体磁器組成物の共振周波数の変化量の大きさを意味する。コンデンサ、誘電体フィルタ等の高周波デバイスは温度による共振周波数の変化を小さくする必要があるため、本発明における誘電体磁器組成物の共振周波数の温度係数τfの絶対値を小さくすることが要求されている。
【0037】
また、誘電体磁器組成物の低温焼結性の評価は、焼成温度を徐々に下げて焼成し、所望の誘電体高周波特性が測定できるレベルに焼結しているかどうかで判断すればよい。また、誘電体磁器組成物についての誘電特性の評価は、比誘電率、誘電損失及び温度変化による共振周波数の変化(共振周波数の温度係数)に関して、日本工業規格「マイクロ波用ファインセラミックスの誘電特性の試験方法」(JIS R 1627 1996年度))に従って測定して評価すればよい。
【0038】
〔誘電体磁器組成物の製造方法の説明〕
次に、本発明における誘電体磁器組成物の製造方法について説明する。
【0039】
本発明の誘電体磁器組成物の製造方法は、バリウム含有原料、チタン含有原料、亜鉛含有原料、ホウ素含有原料、及び銅含有原料を焼成して、BaO−TiO−ZnO−B−CuO系誘電体磁器組成物を製造する方法である。
【0040】
本発明の誘電体磁器組成物の製造用原料としては、酸化物及び/又は焼成により酸化物となる化合物が用いられる。焼成により酸化物となる化合物としては、例えば、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、硫化物、有機金属化合物等が例示される。
【0041】
図1には、本発明に係る誘電体磁器組成物の製造方法の一態様が示されている。
以下、図1に基づいて本発明の誘電体磁器組成物の製造方法を詳細に説明する。
【0042】
まず、主成分の原料の一部となる、例えば、炭酸バリウム及び酸化チタンを用意するともに、所定量を秤量し混合して、仮焼を行う。
上記の混合は、組成式BaO・xTiOにおけるモル比xの値が上述した関係組成式を満足する範囲内で混合する。
【0043】
炭酸バリウム、及び酸化チタンの混合は、乾式混合、湿式混合等の混合方式、例えば、ボールミルで純水、エタノール等の溶媒を用いた混合方式により行うことができる。混合時間は4〜24時間程度とすればよい。
【0044】
その後、混合した原料を100℃〜200℃、好ましくは120℃〜140℃で12〜36時間程度乾燥させ、しかる後、仮焼を行う。
【0045】
仮焼は、炭酸バリウム及び酸化チタンの混合物原料からBaO−TiO系化合物の合成を行う工程であり、仮焼き温度1000℃〜1400℃、好ましくは1050℃〜1250℃で1〜24時間程度行うことが望ましい。
【0046】
合成されたBaO−TiO系化合物は粉末にするため粉砕して乾燥する。粉砕は乾式粉砕、湿式粉砕等の粉砕方式、例えば、ボールミルで純水、エタノール等の溶媒を用いた粉砕方式により行うことができる。粉砕時間は4〜24時間程度とすればよい。
【0047】
粉砕した粉末の乾燥は、100℃〜200℃、好ましくは120℃〜140℃の乾燥温度で12〜36時間程度行えばよい。このようにして、BaO−TiO系化合物の粉末を得ることができる。
【0048】
次いで、前述のBaO−TiO系化合物の粉末と、前述の副成分の組成を満たすように所定の範囲で秤量した亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、及び銅酸化物を混合して原料混合粉末とする。
【0049】
混合は、乾式混合、湿式混合等の混合方式、例えば、ボールミルで純水、エタノール等の溶媒を用いた混合方式により行うことができる。混合時間は4〜24時間程度とすればよい。
【0050】
混合が完了した後、原料混合粉末を100℃〜200℃、好ましくは120℃〜140℃で12〜36時間程度乾燥させる。
【0051】
次に、原料混合粉末を焼成温度以下の温度、例えば、700℃〜800℃にて1〜10時間程度で再度の仮焼を行う。その後、仮焼をした原料混合粉末を粉砕して乾燥する。粉砕は乾式粉砕、湿式粉砕等の粉砕方式、例えば、ボールミルで純水、エタノール等の溶媒を用いた粉砕方式により行うことができる。粉砕時間は4〜24時間程度とすればよい。粉砕した粉末の乾燥は100℃〜200℃、好ましくは120℃〜140℃の処理温度で12〜36時間程度とすればよい。このように再度の仮焼及び粉砕を行うことにより、主成分と副成分を均一にすることができ、後工程で製造する本実施形態に係る誘電体磁器組成物の材質の均一化を図ることができる。
【0052】
上述のようにして得られた粉末に対して、ポリビニルアルコール系、アクリル系、エチルセルロース系等の有機バインダーを混合した後、所望の形状に成型を行い、この成型物を焼成して焼結する。成型はシート法や印刷法等の湿式成型の他、プレス成型等の乾式成型でもよく、所望の形状に応じて成型方法を適宜選択することが可能である。また、焼成は、例えば、空気中のような酸素雰囲気にて行うことが望ましく、焼成温度は内部電極として用いるAgまたはAgを主成分とする合金等の導体の融点以下、例えば900℃以下であることが求められる。
【0053】
多層型デバイスは内部にコンデンサ、インダクタ等の誘電デバイスを一体に作りこまれた複数のセラミック層からなる多層セラミック基板から作られる。多層セラミック基板は互いに誘電特性が異なるセラミック材料のグリーンシートを複数枚用意し、内部電極となる導体を界面に配し、あるいはスルーホールを形成して積層し同時焼成して製造される。
【実施例】
【0054】
以下、具体的実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
〔実験例1〕
(試料の作製と所望の物性の測定方法)
【0055】
下記の要領で表1に示されるような種々の誘電体磁器組成物の試料を製造した。
主成分組成を特定するx、および副成分組成の添加量を特定するa、b、及びcの定義は上述したとおりである。
【0056】
基本的な製造方法に関して本発明の試料である試料No.2を例にとって説明する。
【0057】
まず、主成分の原料であるBaCO及びTiOを用いて、仮焼後のBaO−TiO系化合物のxの値、すなわちBaOに対するTiOのモル比xが下記表1の試料No.2の主成分組成の欄に示されるものとなるように秤量した。つまり、x=4.0となるように秤量した。
【0058】
秤量した原料に純水を加えスラリー濃度25%として、ボールミルにて16時間湿式混合し、その後、120℃で24時間乾燥した。この乾燥した粉末を、空気中にて仮焼(1100℃、4時間)を行った。仮焼後のBaO−TiO系化合物に純水を加えスラリー濃度25%として、ボールミルにて16時間粉砕し、その後、120℃で24時間乾燥し、BaO−TiO系化合物の粉末を製造した。
【0059】
次に、副成分の原料であるZnOとBとCuOとを準備した。
【0060】
次に粉砕した前記BaO−TiO系化合物の粉末と、この主成分に対して、aZnO、bB、cCuOと表される副成分比率が表1の試料No.2の副成分添加量の欄に示されるものとなるよう配合して原料混合粉末を得た。すなわち、a=2.0(重量%)、b=1.5(重量%)、c=1.0(重量%)となるように秤量し、スラリー濃度25%となるように純水を加え、ボールミルにて16時間湿式混合し、その後、120℃で24時間乾燥して原料混合粉末を得た。
【0061】
このようにして得られた原料混合粉末を、空気中にて再度の仮焼(750℃、2時間)を行い、仮焼粉末を得た。
【0062】
得られた仮焼粉末をスラリー濃度25%となるように純水を加え再度ボールミルにて16時間湿式粉砕した後、120℃で24時間乾燥した。この再度粉砕した粉末にバインダーとしてポリビニルアルコール水溶液を加えて造粒し、直径12mm×高さ6mmの円柱状に成型し、表1の試料No.2の焼成温度の欄に示す温度、すなわち、860℃で1時間焼成して誘電体磁器組成物を得た。
【0063】
このようにして得られた誘電体磁器組成物の表面を削り、直径10mm×高さ5mmの円柱ペレットを作製して測定用試料No.2とした。
【0064】
試料No.2の誘電体磁器組成物について比誘電率εr、Q・f値、共振周波数の温度係数τfを日本工業規格「マイクロ波用ファインセラミックスの誘電特性の試験方法」(JIS R 1627 1996年度)に従って測定した。測定に際して、測定周波数は7.2GHzとし、また、共振周波数を−40〜85℃の温度範囲で測定し、上述した式(1)の算出式により共振周波数の温度係数τfを算出した。
【0065】
試料No.2は表1に示されるごとく、上記の各物性の測定ができており860℃の低温で十分に焼結していることがわかる。なお、各物性の測定結果は、表1に示されるごとく比誘電率εr=33.2、Q・f=25906(GHz)、共振周波数の温度係数τf=25(ppm/K)であった。
【0066】
このような試料No.2の製造方法に沿って、表1に示されるような種々の試料を作製した。試料No.1〜試料No.6に示されるように、一定の組成範囲の試料群の中で焼成温度を振って(840〜940℃)どの程度までの低温焼成が可能かどうかを求める実験とともに(表1において「測定不可」の記載がある試料は誘電体高周波特性が測定できるレベルに焼結していない)、焼結した試料について、比誘電率εr、Q・f値、および共振周波数の温度係数τfを求めた。さらには、試料No.7以降のサンプルに示されるよう焼成温度を900℃に固定して、焼結した試料について、比誘電率εr、Q・f値(測定周波数の範囲は、6.6〜7.6GHz)、および共振周波数の温度係数τfを求めた。
【0067】
結果を下記表1に示した。なお、表1中、*が付されている試料は比較例を示す。なお、試料No.7については、焼結はしているものの、誘電損失が極端に大きい(Q・f値が極端に低下している)ために測定不可であった。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
表1の結果より、本発明の効果は明らかである。すなわち、本発明は、主成分として、組成式(BaO・xTiO)と表される成分を含み、当該組成式におけるBaOに対するTiOのモル比xが、3.5≦x≦4.5(モル比)の範囲内にあり、
前記主成分に対して副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、および銅酸化物を含むとともに、これらの副成分をそれぞれ、aZnO、bB、およびcCuOと表したとき、
前記主成分に対する前記各副成分の重量比率を表わすa、b、およびcがそれぞれ
0.1(重量%)≦a≦8.0(重量%)
0.1(重量%)≦b≦8.0(重量%)、
0.1(重量%)≦c≦6.0(重量%)であり、
これらa、b、およびcの総和量a+b+cが、
0.3(重量%)≦a+b+c<11.5(重量%)の範囲内、
となるように構成されているので、900℃以下での低温焼結が可能で、比誘電率εrが30〜40の特性を備え、共振周波数の温度係数τfが+10〜+40ppm/Kの特性を備え、共振周波数とQ値との積であるQ・f値が15000GHz以上の特性を備える誘電体磁器組成物が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の誘電体磁器組成物は、幅広く各種の電子部品産業に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明における誘電体磁器組成物の製造方法の好適な一態様のフロー図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として、組成式(BaO・xTiO)と表される成分を含み、当該組成式におけるBaOに対するTiOのモル比xが、3.5≦x≦4.5の範囲内にあり、
前記主成分に対して副成分として、亜鉛酸化物、ホウ素酸化物、および銅酸化物を含むとともに、これらの副成分をそれぞれ、aZnO、bB、およびcCuOと表したとき、
前記主成分に対する前記各副成分の重量比率を表わすa、b、およびcがそれぞれ
0.1(重量%)≦a≦8.0(重量%)
0.1(重量%)≦b≦8.0(重量%)、
0.1(重量%)≦c≦6.0(重量%)であり、
これらa、b、およびcの総和量a+b+cが、
0.3(重量%)≦a+b+c<11.5(重量%)の範囲内、
にあることを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
焼成温度が900℃以下、比誘電率が30〜40の範囲内、Q・f値が15000GHz以上、τf値が+10〜+40ppm/Kの範囲内の物性を有してなる請求項1に記載の誘電体磁器組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−273616(P2006−273616A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−91934(P2005−91934)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】