説明

誘電正接測定装置および誘電正接良否判定方法

【課題】測定周波数10MHz〜1GHz帯における誘電正接の良否を容易にかつ正確に判定できる誘電正接測定装置および誘電正接良否判定方法を提供する。
【解決手段】本発明の誘電正接測定装置は、数MHz帯の周波数における試料の誘電正接を測定する第1測定部11と、数GHz帯の周波数における試料の誘電正接を測定する第2測定部13と、第1測定部11および第2測定部13で測定された誘電正接の両方を表示する表示部19とを具備する。このような誘電正接測定装置では、試料の数MHz帯における誘電正接と数GHz帯における誘電正接を、第1測定部11、第2測定部13でそれぞれ測定することができ、これらの誘電正接の両方が表示部19にそれぞれ表示され、測定された数MHz帯における誘電正接と数GHz帯における誘電正接のうち高い方の誘電正接が5×10−4以下である場合には良品として判定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電正接測定装置および誘電正接良否判定方法に関するもので、特に、半導体製造装置の内壁材(チャンバー)やマイクロ波導入窓、シャワーヘッド、フォーカスリング、シールドリングをはじめとする部材や、液晶製造装置のステージ、ミラー、マスクホルダー、マスクステージ、チャック、レチクル等に好適に用いることができる耐食性部材の誘電正接を測定するための誘電正接測定装置および誘電正接良否判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルミナ質焼結体は耐熱性、耐薬品性、耐プラズマ性に優れ、さらに高周波領域での誘電正接(tanδ)が小さいことから、半導体、液晶用の高周波プラズマ装置用部材などに用いられている。
【0003】
半導体、液晶製造装置用部材はエッチング、クリーニング用として使用される反応性の高いハロゲン系腐食ガスやそれらのプラズマと接触するため、高い耐腐食性が要求され、一般的に99.0質量%以上の高純度のアルミナ質焼結体が求められている。一方、高純度のアルミナ質焼結体となるにつれて焼結性の観点から誘電正接が増加し、これによりMHz帯での高周波の透過率が低下し、エネルギーロスの増加、発熱による部材の破損といった問題が発生することが知られている。
【0004】
アルミナ質焼結体の低損失化について、焼結助剤としてSiO、CaO、MgOを含有させ、その含有量をコントロールし、ある範囲内とすることで、低温で焼成しつつ、高周波誘電特性を向上させたアルミナ質焼結体が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この特許文献1では、アルミナ99.8〜99.9質量%と、残部が所定比率のSiO、CaO、MgOからなる粒界相成分とからアルミナ質焼結体を構成し、測定周波数8GHzにおけるQ値が10000以上(誘電正接が0.0001以下)のマイクロ波共振器用等のアルミナ質焼結体が得られたことが記載されている。
【0006】
特許文献1のようにSiO、CaO、MgOを含有したアルミナ質焼結体では、測定周波数8GHzにおける誘電正接が0.0001以下のものが得られている。しかし、MHz帯での誘電正接が大きく、例えば、MHz帯の高周波が使用される半導体、液晶用の高周波プラズマ装置用部材等に用いた場合には、MHz帯における高周波の透過率が低下し、エネルギーロスの増加や、部材の破損といった問題が生じている。さらに近年ではMHz〜GHz帯での広い周波数範囲での用途があり、そこでの低誘電正接化が求められていた。
【特許文献1】特開平6−16469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来では、半導体、液晶用の高周波プラズマ装置用部材等に要求されるMHz帯での誘電正接はそれほど小さくなかったため、測定誤差は小さくても±30×10−4程度であるインピーダンスアナライザ(ヒューレットパッカード社製:HP−4291A)を用いて、周波数1MHz〜8.5GHzにおける範囲の誘電正接を直接測定することも可能であったが、近年では、10MHz〜1GHzにおける誘電正接を5×10−4以下とすることが要求されはじめており、従来のインピーダンスアナライザによる測定では、測定精度が極めて低く、周波数10MHz〜1GHzにおける正確な誘電正接が得られないという問題があった。
【0008】
本発明は、測定周波数10MHz〜1GHz帯における誘電正接の良否を容易にかつ正確に判定できる誘電正接測定装置および誘電正接良否判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、周波数10MHz〜1GHzにおける誘電正接が、設定値、例えば5×10−4以下であるか否かを容易にかつ正確に判定できる方法について、鋭意検討した結果、10MHz〜1GHzにおける周波数領域の誘電損失を、測定精度の低いインピーダンスアナライザで直接測定することなく、数MHz帯における誘電正接と数GHz帯における誘電正接を測定し、例えば、測定周波数1MHzと8.5GHzにおける誘電正接の高い方が5×10−4以下である場合には良品として判定し、周波数10MHz〜1GHzにおける周波数の誘電正接を5×10−4以下と認定でき、測定周波数10MHz〜1GHHzにおける誘電正接の良否を容易にかつ正確に判定できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明の誘電正接測定装置は、数MHz帯の周波数における試料の誘電正接を測定する第1測定部と、前記試料の数GHz帯の周波数における前記試料の誘電正接を測定する第2測定部と、前記第1測定部および前記第2測定部で測定された誘電正接の両方を表示する表示部とを具備することを特徴とする。
【0011】
このような誘電正接測定装置では、試料の数MHz帯における誘電正接と数GHz帯における誘電正接を、第1測定部、第2測定部でそれぞれ測定することができ、これらの誘電正接の両方が表示部にそれぞれ表示される。これにより、表示部を確認することにより、測定された数MHz帯における誘電正接と数GHz帯における誘電正接のうち高い方の誘電正接が設定値以下、例えば5×10−4以下である場合には良品として判定し、周波数10MHz〜1GHzにおける周波数の誘電正接を5×10−4以下であると認定することが可能となり、周波数10MHz〜1GHzにおける誘電正接の良否を目視にて容易にかつ正確に判定できる。
【0012】
また、本発明の誘電正接良否判定方法は、数MHz帯の周波数における試料の誘電正接および数GHz帯の周波数における前記試料の誘電正接を測定し、数MHz帯および数GHz帯の周波数における前記試料の誘電正接のいずれか高い方の誘電正接が設定値以下であるか否かを判定し、設定値以下である場合を良品として判定することを特徴とする。
【0013】
このような誘電正接良否判定方法では、試料の数MHz帯における誘電正接および数GHz帯における誘電正接のいずれか高い方の誘電正接が設定値、例えば5×10−4以下であるか否かを判定し、5×10−4以下である場合には、10MHz〜1GHzの周波数における誘電正接が5×10−4以下であると認定でき、測定周波数10MHz〜1GHzにおける誘電正接の良否を容易にかつ正確に判定できる。
【0014】
また、本発明の誘電正接良否判定方法は、数GHz帯の周波数における前記試料の誘電正接を測定した後、数MHz帯の周波数における前記試料の誘電正接を測定することを特徴とする。このような誘電正接良否判定方法では、例えば、先ず、ネットワーク・アナライザを用い、円盤状のアルミナ質焼結体からなる試料を治具にて挟持し、8.5GHzにおける誘電正接を求め、次に、同じ試料の上下面に電極を形成し、キャパシタンス・メータにて1MHzにおける誘電正接を求めることができ、試料加工を最小限にすることができ、測定周波数10MHz〜1GHzにおける誘電正接測定をさらに容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の誘電正接測定装置では、試料の数MHz帯における誘電正接と数GHz帯における誘電正接を、第1測定部、第2測定部でそれぞれ測定することができ、これらの誘電正接の両方が表示部にそれぞれ表示される。これにより、表示部を確認することにより、測定された数MHz帯における誘電正接と数GHz帯における誘電正接のうち高い方の誘電正接が設定値以下、例えば5×10−4以下である場合には良品として判定し、周波数10MHz〜1GHzにおける周波数の誘電正接を設定値以下、例えば5×10−4以下であると認定することが可能となり、周波数10MHz〜1GHzにおける誘電正接の良否を目視にて容易にかつ正確に判定できる。
【0016】
本発明の誘電正接良否判定方法では、試料の数MHz帯における誘電正接および数GHz帯における誘電正接のいずれか高い方の誘電正接が設定値以下、例えば5×10−4以下であるか否かを判定し、5×10−4以下である場合には、10MHz〜1GHzの周波数における誘電正接が5×10−4以下であると認定でき、測定周波数10MHz〜1GHzにおける誘電正接の良否を容易にかつ正確に判定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の誘電正接測定装置を図1に基づいて説明する。
【0018】
図1は、誘電正接測定装置を示すもので、この誘電正接測定装置は、試料の数MHz帯における誘電正接を測定する第1測定部11と、試料の数GHz帯における誘電正接を測定する第2測定部13とを具備して構成されている。
【0019】
この誘電正接測定装置は、架台15に、例えば、キャパシタンス・メータ(ヒューレットパッカード社製:HP−4278A)を具備する第1測定部11と、例えば、ネットワーク・アナライザ(アジレント・テクノロジー社製:8722ES)を具備する第2測定部13とが設けられており、架台15の上面は測定台17とされている。また、架台15の上面には、第1測定部11で測定された数MHzにおける誘電正接と、第2測定部13で測定された数GHzにおける誘電正接の両方とが表示される表示部19が設けられている。
【0020】
この表示部19には、数MHzと数GHzにおける誘電正接の両方と、さらに、数MHzと数GHzにおける誘電正接のうち高い方の誘電正接が表示されることが望ましい。
【0021】
測定台17には、図示しないが、試料をセットするセット台が配置されており、また、ネットワーク・アナライザの試料を挟持する測定用治具も具備している。さらに、キャパシタンス・メータの一対の接触端子も具備している。
【0022】
アルミナを99.3質量%以上含有するアルミナ質焼結体は、試料形状等にもよるがMHz帯の測定周波数を1MHzとした場合、同一形状の試料での空洞共振器法によるTE011モードの数GHz帯の共振周波数はほぼ8.5GHzであるため、以後は、数MHzを1MHz、数GHzを8.5GHzとして説明する。
【0023】
このような誘電正接測定装置では、試料の周波数1MHzと周波数8.5GHzにおける誘電正接を、一台の誘電正接測定装置の第1測定部11、第2測定部13でそれぞれ測定することができる。そして、周波数1MHzと周波数8.5GHzにおける誘電正接の両方がそれぞれ表示部19に表示されるため、周波数1MHzと周波数8.5GHzにおける誘電正接の高い方の誘電正接が設定値以下、例えば5×10−4以下であるか否かを目視にて容易に判定でき、5×10−4以下である場合には、10MHz〜1GHzの周波数における誘電正接を5×10−4以下であると認定でき、測定周波数10MHz〜1GHzにおける誘電正接の良否を容易にかつ正確に判定できる。尚、誘電正接の設定値は、任意に設定できるが、以降は誘電正接の設定値を5×10−4とした場合について説明する。
【0024】
すなわち、従来、測定周波数1MHzにおける誘電正接は、キャパシタンス・メータ(HP−4278A)、測定周波数8.5GHzにおける誘電正接は、空洞共振器法(ネットワーク・アナライザ 8722ES)を用いて測定を行ない、測定誤差がそれぞれ±2×10−4以下、±0.1×10−4以下の精度の良い誘電正接が得られることが知られているが、半導体、液晶製造装置用部材に要求される1MHz〜8.5GHz、特に10MHz〜1GHzにおける周波数領域では、インピーダンスアナライザ(HP−4291A)による測定しかなく、その測定誤差は小さくても±30×10−4程度であり、近年において要求されている5×10−4以下の誘電正接については測定精度が極めて低い。
【0025】
そこで、本発明では、10MHz〜1GHzにおける周波数領域の誘電損失を、測定精度の低いインピーダンスアナライザで直接測定することなく、測定周波数1MHzと8.5GHzにおける誘電正接を測定し、測定周波数1MHzと8.5GHzにおける誘電正接の高い方の誘電正接が5×10−4以下の範囲にある場合には、測定周波数10MHz〜1GHzの間の周波数領域においても誘電正接を5×10−4以下であるため、その試料を良品として扱い、測定周波数10MHz〜1GHzにおける誘電正接を容易にかつ正確に判定できる。
【0026】
本発明の誘電正接良否判定方法について説明する。試料の周波数1MHzと周波数8.5GHzにおける誘電正接をそれぞれ測定し、試料の周波数1MHzと周波数8.5GHzにおける誘電正接のうち高い方の誘電正接が5×10−4以下の範囲にある場合には、測定周波数10MHz〜1GHzの間の周波数領域においても誘電正接を5×10−4以下であるため、その試料を良品と判定する。
【0027】
具体的に説明すると、先ず、試料の周波数1MHzと周波数8.5GHzにおける誘電正接をそれぞれ測定する。測定は、上記したように、例えば、キャパシタンス・メータ(ヒューレットパッカード社製:HP−4278A)を具備する第1測定部11と、例えば、ネットワーク・アナライザ(アジレント・テクノロジー社製:8722ES)を具備する第2測定部13にて測定する。
【0028】
キャパシタンス・メータによる測定は、JIS C2141に基づき、例えば円盤状の試料の上下面に直径37mmの電極を形成し、これらの電極に一対の接触端子をそれぞれ接触させ、測定することができる。
【0029】
ネットワーク・アナライザによる測定では、中央で分割した円筒空洞共振器の間に誘電体基板を挟んで構成される共振器のTE011モード共振特性より、比誘電率、誘電正接を算出することができる。ネットワーク・アナライザによる測定周波数は8.5GHzから多少ずれることがある。このずれはサンプル外形寸法精度や材料の誘電率バラツキから来るものであり、純度99.3%以上で十分に焼結したアルミナ質焼結体の場合、8.5±0.3GHzは見込まれる。
【0030】
試料の周波数1MHzと周波数8.5GHzにおける誘電正接は、ネットワーク・アナライザにより、周波数8.5GHzにおける誘電正接を測定し、この後、キャパシタンス・メータにより周波数1MHzにおける誘電正接を測定することが望ましい。
【0031】
すなわち、例えば、先ず、ネットワーク・アナライザを用い、円盤状の試料を測定治具にて挟持し、8.5GHzにおける誘電正接を求め、次に、同じ試料の上下面に電極を形成し、キャパシタンス・メータにて1MHzにおける誘電正接を求めることができ、1個の試料で周波数1MHzと周波数8.5GHzにおける誘電正接を測定でき、試料加工を最小限にすることができ、測定周波数10MHz〜1GHzにおける誘電正接の良否判定をさらに容易に行うことができる。
【0032】
試料の周波数10MHz〜周波数1GHzにおける誘電正接が、測定された周波数1MHzおよび周波数8.5GHzのうち高い方の誘電正接以下であると認定できる理由について説明する。
【0033】
例えば、アルミナ質焼結体の誘電正接を1MHzの周波数で測定し、5×10−4以下を確認することにより空間電荷分極、界面分極、双極子分極による誘電正接の増大が無いことを確認できる。しかもこれらの要因による誘電正接の増大によるピークは1MHzより低い周波数帯か、または近傍の数MHzの周波数にあるため、1MHzで5×10−4以下を確認することにより1GHz付近まではこれらの要因による誘電正接の増大は無いことを見込める。
【0034】
また、8.5GHzで誘電正接が5×10−4以下を確認することによりイオン分極による誘電正接の増大が無いことを確認できる。しかも、イオン分極による誘電正接の増大によるピークは8.5GHzより高い周波数帯または、近傍の数GHzの周波数で起こっており、8.5GHzで5×10−4以下を確認することにより1GHz付近まではイオン分極の要因による誘電正接の増大は無いことを見込める。
【0035】
よって、例えば、1MHzと8.5GHzにおける誘電正接のうち高い方の誘電正接が5×10−4以下であることを確認することによって、10MHz〜1GHzの間の周波数領域においても誘電正接が5×10−4以下であると認定することができる。
【0036】
以下、本発明の誘電正接良否判定方法を、アルミナ質焼結体からなる試料に適用した例について説明する。
【0037】
アルミナ質焼結体は、アルミナを99.3質量%以上、その他副成分を0.7質量%以下含有する。アルミナを99.3質量%以上含有することにより、焼結性の改善と同時にアルミナの優れた耐腐食性と機械的特性、電気特性を維持することが可能となる。副成分の量が0.7質量%以上となると、機械的・電気的特性の低下、耐食性の低下へと繋がる。よってアルミナは99.3質量%以上、副成分は0.7質量%以下とするのが好ましい。さらに半導体、液晶製造装置用部材として応用するためにはハロゲン系ガスのプラズマに対する耐食性に優れる必要があるため、アルミナは99.5質量%以上、副成分は0.5質量%以下とするのが好ましい。アルミナは、焼結性という観点から、99.9質量%以下であることが望ましい。
【0038】
アルミナ質焼結体は、アルミナ結晶粒子を主結晶粒子とし、元素としてSiおよびM(Mはアルカリ土類金属)を含有するアルミナ質焼結体であって、アルミナ結晶粒子の粒界にSi、Al、M(Mはアルカリ土類金属)およびO元素を含有する化合物からなる低損失の結晶相が存在する。図2に、アルミナ質焼結体の概略断面図を示す。符号1はアルミナ結晶粒子であり、符号2は、粒界である。
【0039】
一般的なアルミナ質焼結体では、焼結助剤として加えた副成分がアルミナ結晶粒子間にガラス、あるいは誘電正接の高い結晶として存在し、アルミナ質焼結体全体の誘電正接を増大させる傾向があった。しかしながら、アルミナ結晶粒子間に、Si、Al、M(Mはアルカリ土類金属)およびO元素を含有する化合物からなる低損失の結晶相を析出させると、この結晶相自身の誘電正接が低い為、アルミナ質焼結体全体のMHz帯での誘電正接を低下させることができる。
【0040】
Si、Al、M(Mはアルカリ土類金属)およびO元素を含有する化合物からなる低損失の結晶相は、電気的特性の観点より、MAlSi(Mはアルカリ土類金属)であることが好ましく、本結晶の生成により誘電正接を低減できる。Si、Al、M(Mはアルカリ土類金属)およびO元素を含有する化合物からなる低損失の結晶相としては、他に、MAlSi(Mはアルカリ土類金属)の組成ではなく、化学量論組成から少しずれたものであっても良い。アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどがあるが、誘電特性、焼結性の観点からマグネシウム、カルシウム、ストロンチウムが好ましい。中でも、とりわけ低誘電正接の観点から、ストロンチウムが好ましい。
【0041】
尚、MAlSi(Mはアルカリ土類金属)で表される化合物とは、Mの構成元素の一部が他の元素で置換されたものも含む概念である。
【0042】
耐食性部材は、産業機械用部品として用いられ、とりわけ半導体製造装置や液晶製造装置に用いられる大型で、厚みのある部材として好適に用いることができる。半導体製造装置用部材とは、半導体製造装置の内壁材(チャンバー)やマイクロ波導入窓、シャワーヘッド、フォーカスリング、シールドリング等をいう。液晶製造装置用部材とは、ステージ、ミラー、マスクホルダー、マスクステージ、チャック、レチクル等をいう。
【0043】
このようなアルミナ質焼結体について、ネットワーク・アナライザにより、周波数8.5GHzにおける誘電正接を測定し、この後、キャパシタンス・メータにより周波数1MHzにおける誘電正接を測定する。測定周波数1MHzの誘電正接および測定周波数8.5GHzの誘電正接のいずれか高い方の誘電正接が5×10−4以下であることにより、周波数10MHz〜1GHzの間の周波数領域においても誘電正接を5×10−4以下と認定できるため、良品と判定することができ、測定周波数10MHz〜1GHzにおける誘電正接の良否を容易にかつ正確に判定できる。
【実施例】
【0044】
まず、SiOとSrCO、CaCO、BaCOの粉末を、それぞれSiO換算、SrO換算、CaO換算、BaO換算で表1に示す組成となるように秤量、混合して混合粉末を得た。この粉末を1000℃〜1300℃で熱処理し、アルミナボールミルにて48〜72時間粉砕を行ない、原料粉末を作製した。
【0045】
純度が99.95質量%のAl粉末に、前記のSiとSr、Ca、Baの原料粉末と、Mg(OH)粉末をMgO換算で表1に示すような割合で添加し、これに所定量の水を加えアルミナボールミルにて48時間混合してスラリーとした。このスラリーにバインダーを加えて乾燥したのち、造粒し、この混合粉末を1t/cmの圧力で金型成形して円柱状成形体(直径60mm×高さ30mm)を作製し、1680℃にて大気中にて焼成を行ない、直径50mm×高さ25mmのアルミナ質焼結体を得た。
【0046】
得られた焼結体の高さ方向中央部から厚み1mmの試料を切り出して、密度、誘電正接を測定し、表2に記載した。密度はアルキメデス法にて測定した。
【0047】
また、誘電正接は、1MHz、12MHz、8.5GHzにて行ない、それぞれキャパシタンス・メータ(HP−4278A)、インピーダンスアナライザ(HP−4291A)、空洞共振器法(ネットワーク・アナライザ 8722ES)を用いて測定を行なった。キャパシタンス・メータの測定誤差は±2×10−4以下であり、空洞共振器法の測定誤差は±0.1×10−4以下であるものの、インピーダンスアナライザの測定誤差は±30×10−4であるため、インピーダンスアナライザによる12MHzの誘電正接が5×10−4未満の場合には、<5と表1に記載した。
【0048】
尚、インピーダンスアナライザにより、1MHz〜1GHzにおける誘電正接の周波数依存性も確認した。その結果、今回のサンプルにおいて装置の精度上1MHz〜1GHzにおける誘電正接は、1〜10MHzと100MHz〜1GHzにおける誘電正接が高く、その間の周波数帯で低いという傾向があり、特に10〜100MHzにおける誘電正接が低いという傾向があった。また、10〜100MHzの周波数帯で誘電正接にピークはみられず、フラットな形状であった。
【0049】
先ず、ネットワーク・アナライザを用い、直径50mm×厚み1mmの試料を治具にて挟持し、8.5GHzにおける誘電正接を求め、次に、インピーダンスアナライザを用い、上記直径50mm×厚み1mmの試料を治具にて挟持し、高周波電流電圧法により試料にかかる電流と電圧を測定しインピーダンスを求め、その値と試料厚み等から1MHz〜1GHzの比誘電率、誘電正接を算出し、代表値として12MHzにおける誘電正接を求め、この後、JIS C2141に基づき、上記直径50mm×厚み1mmの試料の上下面に電極を形成し、キャパシタンス・メータにて1MHzにおける誘電正接を求めた。
【0050】
また、各焼結体中の結晶相の分析は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、エネルギー分散型X線分光分析(EDS)と制限視野電子線回折により行ない、Si、Al、M(M=Mg、Ca、Sr、Ba)、O元素を含む化合物からなる低損失の結晶相である、MAlSi8、の有無を表2に記載した。図3に、試料No.8の電子回折像を示した。
【0051】
さらに、アルミナ結晶粒子の平均粒径D50は、上記試料の走査型電子顕微鏡写真(500倍)について、0.0432mmの範囲で、画像解析装置にて各結晶粒子の直径を求め、平均粒径D50を算出し、表2に記載した。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
表1、2より、アルミナ以外に副成分としてSi、M(Mg、Ca、Sr、Ba)、O元素を含む試料No.1〜10では、アルミナ結晶粒子間に、Si、Al、M(Mg、Ca、Sr、Ba)、O元素を含む化合物からなる結晶相が生成しており、誘電正接が8.5GHzにおいて5×10−4以下であるとともに、1MHzにおいて5×10−4以下、12MHzにおいても5×10−4以下の低損失であることがわかる。
【0055】
従って、1MHzと8.5GHzにおける誘電正接の高い方の誘電正接が5×10−4である場合には、12MHzにおいても5×10−4であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】誘電正接測定装置を示す模式図である。
【図2】アルミナ質焼結体の構造を示す概略断面図である。
【図3】試料No.8の電子回折像である。
【符号の説明】
【0057】
1・・・アルミナ結晶粒子
2・・・粒界
11・・・第1測定部
13・・・第2測定部
15・・・架台
17・・・測定台
19・・・表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数MHz帯の周波数における試料の誘電正接を測定する第1測定部と、数GHz帯の周波数における前記試料の誘電正接を測定する第2測定部と、前記第1測定部および前記第2測定部で測定された誘電正接の両方を表示する表示部とを具備することを特徴とする誘電正接測定装置。
【請求項2】
数MHz帯の周波数における試料の誘電正接および数GHz帯の周波数における前記試料の誘電正接を測定し、数MHz帯および数GHz帯の周波数における前記試料の誘電正接のいずれか高い方の誘電正接が設定値以下であるか否かを判定し、設定値以下である場合を良品として判定することを特徴とする誘電正接良否判定方法。
【請求項3】
数GHz帯の周波数における前記試料の誘電正接を測定した後、数MHz帯の周波数における前記試料の誘電正接を測定することを特徴とする請求項2記載の誘電正接良否判定方法。
【請求項4】
前記試料はアルミナ質焼結体であることを特徴とする請求項2または3記載の誘電正接良否判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−229253(P2009−229253A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75247(P2008−75247)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】