説明

調圧機能付高速ガス切替装置

【課題】真空装置中の全圧を制御しつつ気体供給路を短時間で変更できる調圧機能付高速ガス切替装置とする。
【解決手段】第1流量制御バルブを介して第1供給ガスを真空装置に供給する第1管路と、第2流量制御バルブを介して第2供給ガスを供給する第2管路とを第1三方向バルブで連結して、第1供給ガスと第2供給ガスのいずれかのガスを第1三方向バルブから第3流量制御バルブを介して真空装置に供給可能とする。また、第2管路の第2流量制御バルブと第1三方向バルブとの間の管路と、第4流量制御バルブを介して排気する排気管路とを第2三方向バルブで連結するとともに、排気管路の第4流量制御バルブと第2三方向バルブとの間の管路に前記第1管路から分岐した管路を連結して、第1供給ガスと第2供給ガスのいずれかのガスを第4流量制御バルブを介して排気可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は2種類のガスを切替ながら供給するガス切替装置に関し、特に切替操作を高速で、且つ切替時の圧力変動が小さく、全圧を任意に制御しながら切替供給することができるようにした調圧機能付高速ガス切替装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空中でガスを高周波電源によって励起させ、反応性の高いプラズマ状にしたものを、処理対象物に触れさせることによって処理を行うプラズマ処理は、例えば半導体製造工程等においてエッチングやCVD等の処理のために広く行われている。その際は各種処理を行う真空装置中のガスは、処理の種類によってプラズマ状態にするガスを変える必要があり、特に1つの製品を製造するときにも多数の処理工程が必要となることが多く、処理の種類毎にガスを交換する必要が生じる。
【0003】
その際、各種処理を行う真空装置に供給するガスは、内部の全圧を制御しつつ、気体供給路を短時間で変更する必要があり、そのときガス供給管路内に先に供給したガスが残っていると、次に供給するガスと混合し、真空装置内のガスを排除した後も先のガスと混合したガスが供給されることとなり、真空装置内を所定の純度のガスに交換するまで多くの時間を要すると共に、無駄なガス供給を長時間継続する必要がある。
【0004】
なお、ベントガス流入部を有するプラズマ分解装置と、そのプラズマ分解装置の後段に連結されたプラズマ分解装置内を排気する真空ポンプと、真空ポンプの後段に連結されプラズマ分解装置で分解したベントガスを最終処理する分解ガス処理装置とからなるベントガス除外装置によって、難分解性ガスを小型の設備で、高い分解効率で分解処理でき、高い置換効率でガス交換できるようにする技術は特開2002−306927号公報(特許文献1)に開示されている。なお、特許文献1記載の技術は本発明とは構成も用途も異なる。
【特許文献1】特開2002−306927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のように、真空装置で各種の処理を連続して行わなければならないとき、真空装置に供給するガスは頻繁にその種類及び全圧を変更する必要が生じる。そのためそのときの気体供給路では短時間で、全圧を制御しながら供給するガスの種類及び流量を変更することができる必要がある。またそのときのガスの切り替えが適切に行わなければ、処理が適切に行われず、製品の性能に影響する。また、短時間でガスを全て交換するには、先のガスが管路内にできる限り残留しないようにする必要もある。
【0006】
上記のような所定の装置に所望のガスを、全圧を調整しながら高速で切り替えて供給する装置は、前記のようなプラズマ処理を行うとき以外にも、例えばガスセンサの性能を検査するときにも必要となる。即ち、ガスセンサは、所定の性状のガスをできる限り早く検出する必要があるため検出の応答時間が重要な性能のひとつであるが、その応答速度を測定するためには、その応答時間よりも遅くとも1桁以上高速に所定の性状のガスを供給する必要がある。
【0007】
したがって本発明は、真空装置中の全圧を制御しつつ気体供給路を短時間で変更できる装置を提供することにより、気体の種類、流量を短い時間のうちに頻繁に変更することによって主としてプラズマ製膜及びプラズマ処理によって得られる製品の性能及び機能を向上させ、また、高速に気体供給を変更することによりガスセンサの正確な応答時間を測定することができる調圧機能付高速ガス切替装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
2つの異なる気体の流れを、それを流す装置中の圧力を制御しながら切り替える装置を提供するのが本発明であるが、そのためには、2つの気体流路を迅速に切り替えるための切替バルブと、装置中の圧力を制御する圧力制御バルブが必要である。さらに気体流れの切替直後に発生しうる圧力変動を小さくするためには、装置中への流れとは別に、装置中へ供給されない方の気体流れを排気する必要があるため、この気体排気のために実際の処理装置とは別な真空排気系であるバイパス真空排気系を併設する必要がある。
【0009】
2つの気体流路を迅速に切り替えるための気体経路切替バルブはその開閉が迅速であり外部から容易に制御できる電磁開閉バルブを複数個組み合わせたものである。この切替バルブに今切り替えたい2種類の気体の供給源、気体を実際に利用する装置、及び前段落に記述したバイパス真空排気系が接続される。
【0010】
実際の切替を行うに当たっては、予め切替前後の気体供給の状態で装置中の圧力を圧力制御バルブで調整し、さらに切替直後の圧力変動を小さくするためのバイパスライン上の圧力制御バルブを調整した上で、切替バルブを構成する各電磁弁の開閉を同時に電気的に反転させることによって装置中の圧力を制御した高速な気体流れの切替を行う。詳細は以下の実施例に示すが、本発明の特徴点は以下のようなものである。
【0011】
本発明に係る調圧機能付高速ガス切替装置は、上記課題を解決するため、第1流量制御バルブを介して第1供給ガスを真空装置に供給する第1管路と、第2流量制御バルブを介して第2供給ガスを供給する第2管路とを第1三方向バルブで連結して、第1供給ガスと第2供給ガスのいずれかのガスを第1三方向バルブから第3流量制御バルブを介して真空装置に供給可能とし、前記第2管路の第2流量制御バルブと前記第1三方向バルブとの間の管路と、第4流量制御バルブを介して排気する排気管路とを第2三方向バルブで連結するとともに、排気管路の第4流量制御バルブと第2三方向バルブとの間の管路に前記第1管路から分岐した管路を連結して、第1供給ガスと第2供給ガスのいずれかのガスを第4流量制御バルブを介して排気可能とし、前記第1三方向バルブと第2三方向バルブとの間の管路に第1オンオフバルブを設けると共に、前記第1管路と排気管路を連結する管路に第2オンオフバルブを設け、第1供給ガスの供給時には第1オンオフバルブと第2オンオフバルブとを閉じるとともに、第1三方向バルブ及び第2三方向バルブを全て開放し、第2供給ガスの供給時には第1オンオフバルブと第2オンオフバルブとを開放すると共に、第1三方向バルブの第1管路側と、第2三方向バルブの排気管路側を閉じることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る他の調圧機能付高速ガス切替装置は、前記調圧機能付高速ガス切替装置において、前記調圧機能付高速ガス切替装置を複数直列に接続することにより、3種類以上の供給ガスの切り替えを行うことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る他の調圧機能付高速ガス切替装置は、前記調圧機能付高速ガス切替装置をプラズマによって各種処理を行うプラズマ処理装置に用いることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る他の調圧機能付高速ガス切替装置は、前記調圧機能付高速ガス切替装置をガスセンサの応答時間の測定装置におけるガス供給装置として用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上記のように構成したので、気体供給路における気体の切り替え管路部分において、先に供給していたガスの残留量を減少することができ、真空装置中の全圧を制御しつつ気体供給路を短時間で変更できることができるようになる。それにより、気体の種類、流量を短い時間のうちに頻繁に変更することによって主としてプラズマ製膜及びプラズマ処理によって得られる製品の生産性を向上し、また製品の性能及び機能を向上させることができる。また、高速に気体供給を変更することにより、ガスセンサの正確な応答時間を測定することができる調圧機能付き高速ガス切替装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は真空装置中の全圧を制御しつつ気体供給路を短時間で変更できるようにするという課題を、第1流量制御バルブを介して第1供給ガスを真空装置に供給する第1管路と、第2流量制御バルブを介して第2供給ガスを供給する第2管路とを第1三方向バルブで連結して、第1供給ガスと第2供給ガスのいずれかのガスを第1三方向バルブから第3流量制御バルブを介して真空装置に供給可能とし、前記第2管路の第2流量制御バルブと前記第1三方向バルブとの間の管路と、第4流量制御バルブを介して排気する排気管路とを第2三方向バルブで連結するとともに、排気管路の第4流量制御バルブと第2三方向バルブとの間の管路に前記第1管路から分岐した管路を連結して、第1供給ガスと第2供給ガスのいずれかのガスを第4流量制御バルブを介して排気可能とし、前記第1三方向バルブと第2三方向バルブとの間の管路に第1オンオフバルブを設けると共に、前記第1管路と排気管路を連結する管路に第2オンオフバルブを設け、第1供給ガスの供給時には第1オンオフバルブと第2オンオフバルブとを閉じるとともに、第1三方向バルブ及び第2三方向バルブを全て開放し、第2供給ガスの供給時には第1オンオフバルブと第2オンオフバルブとを開放すると共に、第1三方向バルブの第1管路側と、第2三方向バルブの排気管路側を閉じることによって実現した。
【実施例1】
【0017】
本発明の実施例を図面に沿って説明する。図1に本発明の典型的な構成例を示しており、真空装置へ供給されている供給ガスAとBの供給を短時間のうちに切り替えることができるようにしている。即ち、図1(a)において第1三方向バルブV1と第2三方バルブV3は三方向の管と接続する三方向バルブであり、このバルブでは、同図(b)のように(i)の二方向への供給と、(ii)の一方向のみの供給とに切換る作用をなす。なお、同図(ii)においてバルブの黒塗り部分は遮断状態を示す。なお、このような三方向バルブは従来から知られている種々のバルブを用いることができる。
【0018】
第1オンオフバルブV2と第2オンオフバルブV4は直管中の気体流れのオンオフを制御するバルブであり、このバルブは通常用いられているバルブと同様に、図1(c)の(i)のバルブを通過する状態と、(ii)の遮断する状態とに切り替える。以上の三方向バルブ及びオンオフバルブは電磁バルブとして高速で作動可能であり、バルブの開放及び閉止に要する時間はそれぞれ3.5及び5msである。
【0019】
これらのバルブは図1(a)に示すように連結されており、更にそれぞれ図示するように第1管路としての供給ガス系Aと、第2管路としての供給ガス系Bに接続されると共に第1流量制御バルブCV1を通して第1ガスを供給し、例えばプラズマ処理装置等の各種製品を製造する真空装置と、また第2流量制御バルブCV2を通してバイパス排気ラインへと接続している。なお、真空装置には圧力を測定する圧力計(真空計)が取り付けられている。
【0020】
これらの管路の連結状態をまとめると次のようなものである。即ち、第1流量制御バルブCV1を介して第1供給ガスAを真空装置に供給する第1管路と、第2流量制御バルブCV2を介して第2供給ガスBを供給する第2管路とを第1三方向バルブV3で連結して、第1供給ガスAと第2供給ガスBのいずれかのガスを第1三方向バルブV3から第3流量制御バルブCV3を介して真空装置に供給可能としている。また、第2供給ガスBを供給する第2管路の第2流量制御バルブCV2と前記第1三方向バルブV3との間の管路と、第4流量制御バルブCV4を介して排気する排気管路とを第2三方向バルブV1で連結するとともに、排気管路の第4流量制御バルブCV4と第2三方向バルブV1との間の管路に第1管路から分岐した管路を連結して、第1供給ガスAと第2供給ガスBのいずれかの、装置に供給されていないガスを第4流量制御バルブCV4を介して排気可能としている。また、第1三方向バルブV3と第2三方向バルブV1との間の管路に第1オンオフバルブV2を設けると共に、第1管路と排気管路を連結する管路に第2オンオフバルブV4を設ける。
【0021】
このような管路構成において、後に詳述するように、第1供給ガスAの供給時には第1オンオフバルブV2と第2オンオフバルブV4とを閉じるとともに、第1三方向バルブV3及び第2三方向バルブV1を全て開放し、第2供給ガスBの供給時には第1オンオフバルブV2と第2オンオフバルブV4とを開放すると共に、第1三方向バルブV3の第1管路側と、第2三方向バルブV1の排気管路側を閉じることにより本発明が実施される。
【0022】
図1(a)に示すシステムにより、真空装置へ供給される供給ガスA、Bを短時間のうちに切替、交換する手順をより詳細に説明する。まず当初の第1の段階では図2(a)に示すように、供給ガスAが真空装置に供給されている。即ち、この供給ガスAの真空装置への供給は、第1及び第2オンオフバルブV2及びV4を閉じ、第1及び第2三方向バルブ1及びV3を開けることによって行われる。この状態では供給ガスAは第1流量制御バルブCV1、第1三方向バルブV3及び第3流量制御バルブCV3を通して真空装置へと流れる。
【0023】
一方この時供給ガスBは、第1及び第2オンオフバルブV2及びV4が閉じているために真空装置へと流れることができず、図中において第1流量制御バルブCV2、第2三方バルブV1、及び第4流量制御バルブCV4を通してバイパス排気される。以上の気体流れの状態は配管中に実線で示している。
【0024】
このように真空装置に供給ガスAが供給されている状態から供給ガスBへの供給への切替は、図2(b)に示すように、前記(a)の第1及び第2三方向バルブV1、V3、及び第1及び第2オンオフバルブV2、V4の全バルブの開閉を、すべて逆にすることによって達成される。これらの開閉は電気信号によって全て同時に行われるが、これによって第1及び第2三方向バルブV1及びV3は閉じ、第1及び第2オンオフバルブV2及びV4は開放される。
【0025】
その結果、真空装置に供給されていた供給ガスAは第1三方向バルブV3が閉じられたために真空装置への流れが停止され、第2オンオフバルブV4が開放されたためにバイパス排気ラインから排気される。一方、供給ガスBは第1及び第2三方向バルブV1及びV3が閉鎖されたために、図中第2流量制御バルブCV2、第2三方向バルブV1、第1オンオフバルブV2、第1三方向バルブV3、第3流量制御バルブCV3を通して真空装置へと供給される。以上のように電磁バルブを用いることにより短時間に真空装置への供給ガスを切り替え、真空装置内のガス交換が可能になる。
【0026】
このようなガス切替を、図示の装置構成において供給ガスAとして空気を、供給ガスBとして水素−空気混合ガスを用いて確認した。ガス切替は真空装置での圧力を、絶対圧力を測定することのできる隔膜真空計及び水晶振動子型圧力計を用いて測定することにより確認した。水晶振動子型圧力計の出力は全圧の他、気体の粘性及び分子量に依存して変化するため、絶対圧力を同時に測定し水晶振動子型圧力計出力を全圧で校正することによって被測定気体の粘性及び分子量に依存した出力を得ることにより真空装置内の気体構成の変化を検出できる。
【0027】
このガス切替においては、用途としてこの切替が大気中への水素漏洩を模したものであるため、ガス切替前後の全圧を大気圧(100kpa)に保つ必要があった。そこで、初めにこのガス切替前後で全圧が100kPaになるように、気体の完全閉止はできないもののバルブ中を通過するガス経路のコンダクタンスを変化させることができる流量調節バルブCV1、CV2、CV4を用いて真空装置での圧力調整を行った。その手順を以下に示す。
【0028】
最初、空気(供給ガスA)を流量101sccmで真空装置へ流した状態で、第1流量制御バルブCV1を調節して真空装置内の絶対圧力を100kPaに保持する。次にこの供給ガスをAからBへ切替え、供給ガスBとして空気147sccm及び水素10sccmを前述した方法で真空装置に供給する。その後、第2流量制御バルブCV2のみを用いて100kPaに調整する。以上によりガス供給の前後において100kPaが達成される。なお、供給ガスAの総流量よりも供給ガスBの総流量が大きい場合には、第1流量制御バルブCV1の代わりに第3流量制御バルブCV3も用いることができる。また、バイパス排気ラインに接続する第4流量制御バルブCV4は、ガス切替に伴う圧力変動及び切替直後の圧力変動をできるだけ小さくするために適宜用いられる。以上による調整の後、供給ガスの空気から水素−空気混合ガスへの切替を行い、圧力測定によるガス切替を確認した。
【0029】
得られた結果を図3に示す。横軸の時間に対してガス切替に対する絶対圧力及び水晶振動子型圧力計出力を図3(a)に、また絶対圧力の相対変化及び圧力校正した水晶振動子型圧力計出力値を図3(b)にプロットしたが、横軸の時間で約5秒の時点で供給気体A、Bの切替を行うと、絶対圧力も若干変化するが、圧力校正した水晶振動子型圧力計の値はそれよりも大きく変化した。圧力校正した水晶振動子型圧力計の指示値が減少していることから、このガス切替によって供給ガスの粘性・分子量が低下していること、すなわち供給ガスの種類が変化し、ガス切替が迅速に行われていることがわかる。この、分子量及び粘性の低下は、供給ガス種類が純空気から水素混合空気への切り替わったことと定性的に一致する。なぜなら水素ガスの分子量及び粘性(分子量2.02、粘性8.35 μ・Pa・s)は空気(分子量28.97、粘性17.08 μ・Pa・s)と比較して極めて小さいからである。別途、図4に示す圧力校正したQゲージ値の空気中水素濃度依存性の結果を参照すると、図3(b)中の圧力校正した水晶振動子圧力計指示値の結果(=0.499)から、供給ガス切替後の空気中水素濃度は約45.7vol%であることがわかる。供給ガス切替前は純空気、すなわち水素濃度0vol%のガスを供給していたことから、極めて短時間に真空装置への供給ガスの切替が行われたことが示された。
【0030】
ここで図3(a)における絶対圧力が、時間分解測定の時間分解能の時間内で変化していることを考慮すると、実際にガス切替に要した時間はここでの時間分解能である50 msよりも短い可能性がある。時間分解能が50 msであることは、現状の測定に関する装置の性能によって制限されているものであり、ガス切替の本来の性能とは無関係である。したがってより時間分解能の速い測定を行うことができればこのガス切替法のより速い切替速度をより正確に求めることができる。
【0031】
圧力計の応答時間を、切替後飽和値に至るまでの変化量の90%に達するまでの時間と定義すると、水晶振動子型圧力計の指示値の応答時間は隔膜圧力計に比べると数倍から数十倍長い。この応答時間の遅延は、隔膜圧力計のより迅速な指示値の変化を考慮すると、ガス切替時間の遅さによるものではなく、この水晶振動子型圧力計の本来の応答時間の遅さに由来するものと考えられる。ちなみにここで用いた隔膜真空計及び水晶振動子型圧力計の応答時間はそれぞれメーカー公称で16 ms以下及び数百ms以下であるから、図3の結果はほぼこれらの公称値に対応している。しかしながら隔膜真空計に比較して遅いとは言え約数百ミリ秒程度の応答時間測定は、ここで提案するようなミリ秒単位、遅くとも数十ミリ秒単位で高速なガス切替法を用いることによって初めて測定可能となるのであるから、本ガス切替法はこのような、数百ミリ秒以上の種々のセンサの応答速度を測定する方法として有効な方法である。この、応答時間測定の限界値は現状数百ミリ秒であるが、これも時間分解の測定限界である50ミリ秒によって制限されているものであるから、測定の時間分解能の改善によってさらに速い応答時間を測定することが可能である。
【0032】
以上のように、本発明によりガス切替後前後のそれぞれ異なる供給流量に対し、圧力をも同時に制御しながら50ms以内にガス切替が可能なことが示された。上記の例ではガス切替前後の圧力を等しくしたが、当然のことながら流量制御バルブCVの調節によりガス切替前後の圧力は供給流量による制限の範囲内で任意に制御できる。その例については後に示す。
【0033】
本発明はこのバルブ切り替えシステムの構成により、真空装置中の全圧を制御しつつ気体供給路を短時間で変更できるものであるが、特に三方向バルブV1及びV3を用いたことにより、確実にガスの切り替えを行うことができる。即ち、これらの三方向バルブの機能は、例えばこの部分に全くバルブを設けることなくT字管路とし、その縦管路におけるオンオフバルブV4の管路と交差する部分の手前にオンオフバルブを設けても同様の流路の切り替え作用を行うことができるが、その際にはT字管路の管結合部分と新たに設けたオンオフバルブとの間にデッドスペースができ、正確なガス供給量の制御が困難となるほか、切り替え直後においてデッドスペースに存在する残留ガスが供給されることによっても適切なガスの切り替えが行われない。したがって本発明では、前記のような三方向バルブを用いることにより、T字管路の結合部分で直接管路の切り替えを行うことができ、適切な切り替えが可能となる。
【0034】
切替バルブは電磁バルブを組み合わせることによって作製されるが、その組み合わせ方については図1中に示す組み合わせ方だけではなく、いくつか異なる種類の組み合わせ方が存在する。例えば図5(b)のような組み合わせでもここでのガス切替は可能である。ここで、ガス切替時に生じうる圧力変動の一因として、切替後に導入するガスが切替前にその流れを止められていた分(図5(a)、(b)中の太線部分)のガスによるものであると考えられることから、その、流れを止められていたガスの量を最小にするために図1(図5(a))のような三方弁を用いた構成とした。しかしながらこの構成は最適のものとは限らず、ガス切替時に圧力変動の小さくなるようなバルブ構成を用いるのが有効である。したがって、個々のバルブの内部構造によっては図5(b)の方がガス切替時に発生しうる圧力変動が小さくなる可能性もある。
【0035】
次にバイパス排気系の効用について説明する。例えばバイパス排気系のない図6のようなバルブ構成を用いても、供給ガスA,Bを高速に切り替えることは可能である。まずV3を開、V2を閉にすることによって切替前のガスAが装置に供給される(図6中の灰色線)。次にV2、V3の開閉を電気的に同時に反転させるとV2が開、V3が閉になることからガスBのみが装置に供給される(図6中の黒色線)。しかしながら図6の構成では切替前にV2で閉止されている部分に存在するガスBがこの部分で滞留してしまい、V2でのガスBの圧力がこれより上流の部分の圧力、ここではガスボンベに接続している圧力制御器の2次圧と同等となる。この状態でガス切替を行うと、切替時に装置中の圧力がこの部分の圧力の影響を受け、例え流量制御バルブCV2があったとしても切替時の圧力変動を制御することができない。切替時の圧力変動を小さくするためには切替前においてもその流れが止められることなく流れており、かつその時の圧力が制御されている状態にする必要がある。その、切替前のガスを切替前の時点で流れのある状態にしておくために用いられるのがバイパス真空排気系である。なお、この排気系は切替前に供給されているガスAが切替後に迅速に排気されるためにも有効である。
【0036】
図7に、切替前後で圧力が異なる場合の結果について示した。この場合、切替前はアルゴン24 SCCM、8 kPa、切替後は水素50 SCCM、10 kPaである。初めアルゴンを上記条件で流し、約7秒後に水素ガスに切り替えた。その後約22秒のところで再びアルゴンガスの流れに戻した。図7(a)はこの時の、絶対圧力を測定する隔膜真空計及び測定するガスの粘性・分子量に敏感な水晶振動子圧力計の指示値である。ガス切替のタイミングを実線で同時に図7中に示した。アルゴンから水素に切り替えた際、絶対圧力は増加するが圧力校正された水晶振動子圧力計の指示値は減少していることから、このガス切替によって供給ガスの粘性・分子量が低下していること、すなわち供給ガスの種類が変化し、ガス切替が迅速に行われていることがわかる。この分子量及び粘性の低下は、アルゴンの分子量及び粘性(分子量39.95、粘性20.96 μ・Pa・s)が水素ガス(分子量2.02、粘性8.35 μ・Pa・s)と比較して大きいことを考慮すると。供給ガス種類がアルゴンから水素への切り替わったことと定性的に一致する。
【0037】
なお、図3と比較すると絶対圧力が安定するのに時間がかかっている。これはガス切替の前後で圧力が異なることにより、同じ真空排気速度の設定では圧力が新しい平衡値に達するのに時間がかかることによるものである。これをより迅速に圧力制御するためには、切替直後において過渡的に真空排気の速度を変化させるか、流路上の開閉度を変化させる必要がある。この場合は真空排気速度を低下させるか、流路上開閉度を小さくすることで圧力上昇の速度を速めることができる。以上のようにガス切替前後において圧力が異なる場合でもその制御は可能であるが、この場合には上記のように過渡的に真空排気速度や流路上開閉度を制御する必要が生じる。
【0038】
また、前記の例においては供給ガスAと供給ガスBの2種類のガスを切り替える例を示したが、例えば図8のように供給ガスBの管路の上流に前記と同様の管路構成を直列に連結し、それらの管路のバルブを前記と同趣旨で開閉制御することによって、更に多数のガスの切り替えを同様に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は前記のように、プラズマ製膜を初めとした各種プラズマ処理を行う装置、更にはガスセンサの応答時間の測定等に有効に利用することができるが、そのほか各種容器や室内に複数のガスを切り替えて供給する同様の装置に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明による調圧機能付高速ガス切替装置の実施例の典型的な構成例を示す図である。
【図2】同実施例のガス切替態様を示す図である。
【図3】本発明の実験例である、純空気―水素・空気混合ガス切替時の隔膜圧力計指示値及び水晶振動子圧力計指示値の変化(a)及び絶対圧力の相対変化及び圧力校正した水晶振動子圧力計指示値(b)の変化を示す図である。
【図4】圧力校正した水晶振動子圧力計指示値の空気中水素濃度依存性の結果を示すグラフである。
【図5】ガス切替バルブのバルブ構成図を示す図である。
【図6】バイパス排気系が存在しない場合に考えられるガス切替装置構成を示す図である。
【図7】アルゴン―水素切替時の隔膜圧力計指示値及び水晶振動子圧力計指示値の変化(a)及び絶対圧力に対する相対変化及び圧力校正した水晶振動子圧力計指示値の変化(b)を示す図である。
【図8】3種類のガス切替に用いられるバルブ構成図を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1流量制御バルブを介して第1供給ガスを真空装置に供給する第1管路と、第2流量制御バルブを介して第2供給ガスを供給する第2管路とを第1三方向バルブで連結して、第1供給ガスと第2供給ガスのいずれかのガスを第1三方向バルブから第3流量制御バルブを介して真空装置に供給可能とし、
前記第2管路の第2流量制御バルブと前記第1三方向バルブとの間の管路と、第4流量制御バルブを介して排気する排気管路とを第2三方向バルブで連結するとともに、排気管路の第4流量制御バルブと第2三方向バルブとの間の管路に前記第1管路から分岐した管路を連結して、第1供給ガスと第2供給ガスのいずれかのガスを第4流量制御バルブを介して排気可能とし、
前記第1三方向バルブと第2三方向バルブとの間の管路に第1オンオフバルブを設けると共に、前記第1管路と排気管路を連結する管路に第2オンオフバルブを設け、
第1供給ガスの供給時には第1オンオフバルブと第2オンオフバルブとを閉じるとともに、第1三方向バルブ及び第2三方向バルブを全て開放し、
第2供給ガスの供給時には第1オンオフバルブと第2オンオフバルブとを開放すると共に、第1三方向バルブの第1管路側と、第2三方向バルブの排気管路側を閉じることを特徴とする調圧機能付高速ガス切替装置。
【請求項2】
前記調圧機能付高速ガス切替装置を複数直列に接続することにより、3種類以上の供給ガスの切り替えを行うことを特徴とする請求項1記載の調圧機能付き高速ガス切替装置。
【請求項3】
前記調圧機能付高速ガス切替装置をプラズマによって各種処理を行うプラズマ処理装置に用いることを特徴とする請求項1記載の調圧機能付高速ガス切替装置。
【請求項4】
前記調圧機能付高速ガス切替装置をガスセンサの応答時間の測定装置におけるガス供給装置として用いることを特徴とする請求項1記載の調圧機能付高速ガス切替装置。
【請求項5】
前記バルブは、気体切替時の圧力変動が小さいガス切替バルブであることを特徴とする請求項1記載の調圧機能付高速ガス切替装置。
【請求項6】
前記バルブは電磁弁などの高速動作のバルブから成るガス切替バルブであり、バイパス排気、及び圧力制御機構を備えたことを特徴とする請求項1記載の調圧機能のついた高速ガス切替装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−279527(P2009−279527A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134963(P2008−134963)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】