説明

調整システム用の結合した共振器

【課題】 周波数を安定させ、外部の影響を排除できる、緩急調整システムで使用される結合された共振器を提供すること。
【解決手段】 本発明の結合共振器は、低周波の第1共振器1と高周波の第2共振器2とを有する。この第1共振器と第2共振器は、永久的な機械的結合手段を有する。前記第1共振器は、テンプ・スプリング1であり,前記第2共振器は、同調フォーク2である。前記同調フォーク2は、脚部8により連結された複数のアーム4,6を有し,前記一方のアーム6は、テンプ・スプリング1の外側最終巻き7に結合され、前記他方のアーム4は、片持ちはりである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩急調整システムで使用される結合された共振器(即ち、二本の共振子から形成される共振器)に関する。このような共振器により、周波数を安定させ、外部の影響を排除できるようにする。本発明は、等時性が品質基準となるような機械式時計のムーブメントの調整システムを例に説明する。
【背景技術】
【0002】
テンプの緩急調整システムの周波数を安定させる様々な装置が既に提案されている。特許文献1の結合共振器によれば、第一の振動子の振動が、同調フォークを衝撃により(即ち直接的な機械的リンク無しに)励起する。最近の調整装置は、電子共振器と電磁で結合されている機械式緩急針(例えば、テンプスプリング)に関連する装置に依存する。この結合は、アームあるいはテンプのガンギ車に配置された磁気手段により達成される。この種の装置は特許文献2にも開示されている。様々な改良が、これらの基本的装置に対し行われているが、本質的には、磁気装置の設計/構成,電子回路、第2共振器、この電子回路に電力を与えるエネルギー源等に関して行われている。このような改良は、特許文献3〜9にも開示されている。
【0003】
【特許文献1】英国特許第1138818号明細書
【特許文献2】米国特許第3937001号明細書
【特許文献3】ヨーロッパ特許第0679968号
【特許文献4】ヨーロッパ特許第0732243号
【特許文献5】ヨーロッパ特許第0806710号
【特許文献6】ヨーロッパ特許第0822470号
【特許文献7】ヨーロッパ特許第0848306号
【特許文献8】ヨーロッパ特許第0935177号
【特許文献9】ヨーロッパ特許第1521141号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの結合共振装置のほとんどに欠点がる。例えば信頼性がないとか,調整しなければならない特定の機能を有する多くの構成要素からなる組立体を必要とするとかである。そしてこれらの理由により、最終製品のコストが増加することになる。
【0005】
本発明の目的は上記の欠点を解決することである。本発明により、単純かつ信頼性の高い結合された共振器を提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の結合共振器は、低周波(数Hz)の第1共振器と高周波(100Hz台)の第2共振器とを有する。第1共振器と第2共振器は、永久的な機械的結合手段を有する。
【0007】
上記の構成により外部から干渉の際(例えば衝撃を受けた際)に、周波数を安定化させることができる。
【0008】
前記第1共振器と第2共振器は同一材料または異なる材料から形成され、ボンディング,リベット,溶接,スナップヒットまたは他の手段により、組み立てられる。
【0009】
前記第1共振器と第2共振器は、一体で、同一材料から形成される。
【0010】
前記第1共振器と第2共振器で使用される材料は、金属、合金,アモルファス,単結晶材料,多結晶材料,たとえばガラス,水晶,シリコンまたはそれらの化合物からなるグループから選択される。
【0011】
本発明は、テンプ・スプリングと同調フォークから形成される結合された共振器を例に説明する。この種の共振器は、時計特に衝撃を受ける腕時計の緩急調整システムに組み込むことができる。
【実施例】
【0012】
図1に、本発明の、機械式時計のムーブメントの等時性を維持する結合された共振器を示す。
【0013】
結合された共振器は,テンプ・スプリング1により形成される第1共振器と、同調フォーク2により形成される第2共振器とを有する。このテンプ・スプリング1は、通常数Hzのオーダの固有周波数を有する。同調フォーク2は、数百Hzのオーダの固有周波数を有する。このテンプ・スプリング1の内側最終巻き3は、従来と同様に、ひげ玉5に取り付けられる。テンプ・スプリング1をテンプ・スタッフに固定する。同調フォーク2は、従来と同様に、脚部8で連結されたアーム4,6を有する。同調フォーク2の脚部8は、従来と同様、時計のムーブメントの固定部分たとえばテンプ・コックに固定される。
【0014】
同図からわかるように、テンプ・スプリング1と同調フォーク2は,機械的に恒久的に連結される。この実施例において。同調フォーク2のアーム6は、テンプ・スプリング1の外側最終巻き7となって、更に伸びる。
【0015】
言い換えると、この2個の共振器1,2は、使用される材料に応じて公知の技術により、一体として形成される。これらの材料は、ある弾性係数kを有する材料(例、金属、合金,アモルファス,単結晶材料,多結晶材料,たとえばガラス,水晶,シリコンまたはそれらの化合物)である。
【0016】
これらの材料を成形する技術は、スタンピング(打ち抜き),LIGA,エッチング,光リソグラフ、或いは他の公知の技術である。これらの技術は公知であるため、詳細な説明は割愛する。
【0017】
この実施例は、このような結合が周波数の安定に好ましい影響を如何に及ぼすかを示す。
【0018】
図2に本発明の変形例を示す。この変形例が前記の実施例と異なる点は、第1共振器(即ちテンプ・スプリング1)と第2共振器(即ち同調フォーク2)とは,異なる材料製の2個の独立した部品からなる点である。機械的な結合が、これら2つの部品の間で形成される。この実施例においては,同調フォーク2のアーム6はノッチ10を有する。このノッチ10内にテンプ・スプリング1の外側最終巻き7の端部が係合される(挿入される)。その後、機械的な連結が、ボンディングにより行われる。他の機械的な結合方法は、当業者には明らかである。この実施例においては,同調フォーク2の脚部8は、更にネック12を有する。このネック12は、時計のムーブメントの固定部品に取り付けられ、2個の共振器の間の結合定数kcに影響を及ぼす。
【0019】
図3は、第1共振器と第2共振器と、固有周波数(natual frequency)との間の結合定数(couping constant)kcを調整する際により、大きな自由度を与える他の変形例を示す。同図からわかるように,脚部8は、材料中にリセス14を有する。このリセスは結合定数kcを変える。このリセスは、同調フォーク2の部分にも形成可能であり、特にアーム4に形成し、その質量「m」を変え,かくして同調フォーク2の固有周波数を変えることができる。他の実施例(図示せず)によれば、第2共振器2のどの場所にも質量を追加できる。
【0020】
図3は他の変形例を示す。この変形例は、第1共振器1の固有周波数を変える為に、前の変形例と組み合わせたものである。アーム4は,慣性ブロック16を有する。この慣性ブロック16は、アーム4の上で移動可能であり,締め付けネジ18の手段により所定の場所に固定される。
【0021】
他の実施例(図示せず)によれば,同調フォーク2が、ピエゾ電子効果を得るために、結晶軸に沿った水晶製の場合には,電極をアーム4,6の上に搭載して、電気エネルギーを生成することもできる。腕時計の場合には、このエネルギーは文字板を照らすことに利用できる。
【0022】
図4,5を参照して,図1の実施例により結合された共振器に対応する例を説明する。第1共振器は、弾性係数k1=5・10−5Nm/radで、慣性I1=16・10−10kg・mである。これは固有周波数f1=9.2Hzに対応する。第2共振器は、弾性係数k2=1・10−4Nm/radで、慣性I2=5・10−10kg・mである。これは固有周波数f2=71Hzに対応する。この2つの共振器を機械的に結合すると,結合定数の値は、2つの共振器を結合する脚部の形状に依存する。この結合周波数は、1・10−8と1・10−4の間で変動する。これを図4に示す。但し結合システムの固有周波数は、対数で表している。周波数f1,f2は、結合係数kcの変化に影響される。
【0023】
図5のグラフは、上記の値の範囲内での結合係数の変化の関数として,衝撃による第1共振器の干渉と,第1共振器が単独の場合における干渉の影響と、第1共振器が第2共振器と結合した場合における干渉の影響の比較を示す。第2共振器は安定しているものとする。
【0024】
結合係数kc£1.10−6の場合に、20%以上の安定が得られる。これは、本発明により結合した共振器の興味ある側面であり,時計の調整システムに対する周波数を単純かつ安価な方法で、安定化できることを示している。
【0025】
以上の説明は、本発明の一実施例に関するもので、この技術分野の当業者であれば、本発明の種々の変形例を考え得るが、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。特許請求の範囲の構成要素の後に記載した括弧内の番号は、図面の部品番号に対応し、発明の容易なる理解の為に付したものであり、発明を限定的に解釈するために用いてはならない。また、同一番号でも明細書と特許請求の範囲の部品名は必ずしも同一ではない。これは上記した理由による。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第一実施例を表す図。
【図2】本発明の第二実施例の部分拡大図。
【図3】本発明の第三実施例の部分拡大図。
【図4】結合システムの固有周波数を表すグラフ。
【図5】周波数の安定性に対する結合の影響を表すグラフ。
【符号の説明】
【0027】
1 テンプ・スプリング
2 同調フォーク
3 内側最終巻き
4,6 アーム
5 ひげ玉
6 アーム
7 外側最終巻き
8 脚部
10 ノッチ
12 ネック
14 ゾーン(リセス)
16 慣性ブロック
18 締め付けネジ







【特許請求の範囲】
【請求項1】
低周波の第1共振器と高周波の第2共振器とを有し,
前記第1共振器と第2共振器は、永久的な機械的結合手段を有する
ことを特徴とする結合共振器。
【請求項2】
前記第1共振器と第2共振器は同一材料または異なる材料製であり、ボンディング,リベット,溶接,スナップヒットまたは他の手段により、組み立てられる
ことを特徴とする請求項1記載の結合共振器。
【請求項3】
前記第1共振器と第2共振器は、一体で、同一材料製である
ことを特徴とする請求項1記載の結合共振器。
【請求項4】
前記第1共振器と第2共振器で使用される材料は、金属、合金,アモルファス,単結晶材料,多結晶材料,ガラス,水晶,シリコンまたはそれらの化合物からなるグループから選択される
ことを特徴とする請求項1記載の結合共振器。
【請求項5】
前記第1共振器は、テンプ・スプリング(1)であり,
前記第2共振器は、同調フォーク(2)であり,
前記同調フォーク(2)は、脚部(8)により連結された複数のアーム(4,6)を有し,
前記一方のアーム(6)は、テンプ・スプリング(1)の外側最終巻き(7)に結合され、
前記他方のアーム(4)は、片持ちはりである
ことを特徴とする請求項1記載の結合共振器。
【請求項6】
前記同調フォーク(2)のアーム(4)は,可動の慣性ブロック(16)を有し、
前記慣性ブロック(16)は、結合された共振器の周波数を調整し,固有周波数を変える
ことを特徴とする請求項1記載の結合共振器。
【請求項7】
前記同調フォーク(2)のアーム(4)は,結合された共振器の周波数を調整し,固有周波数を変えるゾーン(14)を有する
ことを特徴とする請求項1記載の結合共振器。
【請求項8】
前記第1共振器は、数Hzオーダの固有周波数を有し、
前記第2共振器は、100Hzから数百Hzの範囲の固有周波数を有する
ことを特徴とする請求項1記載の結合共振器。
【請求項9】
前記材料は、水晶であり、
前記共振器が、ピエゾ電子効果を得るための結晶方向に沿って、成形され,
前記同調フォーク(2)のアーム(4,6)は,電気エネルギーを生成する電極を有する
ことを特徴とする請求項1記載の結合共振器。
【請求項10】
請求項1−9のいずれかに記載の結合共振器と調整システムを有する
ことを特徴とする機械式ムーブメントを有する時計。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−533917(P2009−533917A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−504691(P2009−504691)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【国際出願番号】PCT/EP2007/053276
【国際公開番号】WO2007/115985
【国際公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(506407051)ザ スウォッチ グループ リサーチ アンド ディベロップメント リミティド. (17)
【Fターム(参考)】