説明

調理容器及びその製造方法並びに前記調理容器を使用した調理器

【課題】 有効に電磁誘導熱を発生させつつ銅又は銅合金の色調を保持することのできる美観性に優れた調理容器を提供する。
【解決手段】 銅又は銅合金を基材とした銅鍋21と該銅鍋の内側を被覆する保護層23とを有する多層構造の調理容器において、前記銅鍋21の胴壁面は透明樹脂層24で被覆され、前記銅鍋の底壁面には磁性金属層22が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理容器及びその製造方法並びに前記調理容器を使用した調理器に係り、特に、電磁誘導加熱方式の調理容器及びその容器の製造方法並びにこの調理容器を使用した調理器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
調理器の一種として電気炊飯器(以下、炊飯器という)がある。この炊飯器は、一般家庭において既に必需品の一つとなっており、種々のタイプのものが開発され、市販されている。この炊飯器には、炊飯時に鍋内の圧力を常圧状態で炊飯するもの及び所定の圧力に調整して炊飯するものが知られている。
【0003】
これらの加熱源としては、電熱線を使用して鍋を加熱する電熱線加熱方式、或いは電磁誘導コイルに高周波電流を流して高周波磁界を発生させて、それを負荷としての調理用鍋に与えて渦電流を生じさせ、この渦電流損失により当該鍋の自己発熱により加熱するようにした電磁誘導加熱方式がある。
【0004】
近年は、後者の電磁誘導加熱方式を採用した炊飯器が、強い加熱力を有し、かつ短時間で美味しいご飯を炊き上げることができるので広く普及してきている。
【0005】
この電磁誘導加熱方式を採用した炊飯器の鍋の基材として、アルミニウムやステンレスといった異なる金属材料からなる金属板を貼り合わせて多層構造とした、いわゆるクラッド材が特に用いられるようになってきている。このクラッド材は、各種の金属を組み合わせることによって、それぞれの金属が持っている長所を利用し、単一材では得がたい性質を持たせたものである。
【0006】
例えば、アルミニウム及びステンレスからなるクラッド材を用いると、電磁誘導によってステンレス(一般的には誘導加熱効率の高いフェライト系ステンレスが用いられている)が効率よく発熱を起こし、発生した熱は熱伝導性に優れたアルミニウムによってむら無く伝導されるため、強い熱でご飯をおいしく炊き上げることができるようになっている。
【0007】
このクラッド材において、熱伝導性に優れた他の材質としては銅又は銅合金が挙げられる。銅は伸延性、圧延性に優れているため、線条加工及び板加工が容易に可能であることからも広く調理器等にも用いられている。この銅又は銅合金は、アルミニウム等を用いた場合に比べると美観性に優れていることから、この銅で形成された表面を露出させて炊飯器の鍋を形成すれば、美しい外観を伴った鍋を提供することができる。
【0008】
しかし、銅又は銅合金を基材に鍋を形成した場合、加熱調理時に発生する熱によって銅の表面が酸化して変色してしまい、せっかくの美観が損なわれてしまう。
【0009】
一方、従来から、非磁性金属を電磁誘導加熱部に用いながら、高い発熱量を得つつ炊飯工程を遂行することが可能であるとともに、金属素材の色を生かした美しい外観を伴った電磁誘導加熱式の炊飯器用鍋が知られている(例えば、下記特許文献1〜3参照)。
【0010】
図4は、下記特許文献1及び2に記載された炊飯器用鍋の部分拡大断面図、図5は、下記特許文献3に記載された炊飯器用鍋の部分拡大断面図である。
【0011】
下記特許文献1には、電磁誘導による発熱部と、前記発熱部の内側に配される伝熱部とを備え、前記発熱部は、磁性金属層と非磁性金属層から構成され、前記非磁性金属層は、前記磁性金属層より外側に配されるとともに、前記磁性金属層よりも薄く構成してなる炊飯用鍋が示されている。この鍋は、図4に示すように、1mm厚のアルミニウム(伝熱部)101、0.8mm厚のフェライト系ステンレス(磁性金属層)102、5μm厚の銅(非磁性金属層)103からなるクラッド材をプレス成形して得られるものであり、鍋の内面はアルミニウム上に非粘着性の高いフッ素樹脂コーティング104を施し、一方、鍋の外面は銅を保護するための透明ポリエステル系保護コーティング105を施してあるため、銅基材の光沢を長期間に渡り維持できる構成となっている。
【0012】
また、下記特許文献2には、外層に電磁誘導加熱可能な発熱金属部を有する鍋の内面に、少なくとも1層のフッ素樹脂塗装を施し、前記発熱金属部が大気中で酸化変色する温度以上の温度で、かつ前記発熱金属部が酸化する酸素濃度よりも低い酸素濃度の雰囲気下でフッ素樹脂塗装を焼成焼付けするようにした炊飯器用鍋の製造方法が示されている。
【0013】
この炊飯器用鍋の製造方法は、ステンレス、アルミニウム、銅、チタン又は黄銅などの金属を外層とし、その金属が酸化変色しないように、窒素雰囲気や還元性を有する水素と窒素の混合ガス雰囲気などでフッ素樹脂塗装の焼成焼付けを行うものである。これらの金属は約120℃から200℃以上で焼成すると酸化変色を生じるため、一般的なフッ素樹脂塗装の焼成焼付け温度である350〜420℃の加熱を大気雰囲気中で行うとテンパーカラーとして茶色や青など様々な色に変色したり、黒色のぼろぼろの酸化皮膜ができて、鍋の外観としては全く実用に適さないものとなってしまう。しかしながら、前述のような低酸素雰囲気下で焼成焼付けすると、それぞれの金属そのままの外観の鍋を形成することができ、良好な発熱が可能であるとともに、金属素材の色を生かした美しい外観を伴った炊飯器用鍋を得ることができるようになる。
【0014】
さらに、下記特許文献3には、銅あるいは銅と他種金属との合わせ材を調理鍋の基材とし、銅の金属色が完全に失われない範囲の厚さで銅以外の金属薄膜層を鍍金や蒸着といった手法を用いて銅の表面に設けた調理用鍋が示されている。
【0015】
この調理用鍋は、図5に示すように、1mm厚のアルミニウム201及び0.8mm厚のフェライト系ステンレス202からなるクラッド材をプレス成形して得られるものであり、内面には非粘着性の高いフッ素樹脂コーティング203がアルミニウム上に施されている。磁性金属であるフェライト系ステンレス202の外面には光沢硫酸銅メッキ204が厚さ5μmで被覆処理されており、この銅204がフェライト系ステンレスとともに電磁誘導加熱の発熱層を形成し、さらにニッケル鍍金層からなる金属薄膜層205の表面にシリコーン/エポキシ樹脂混合系のクリアコーティング206を施し、170℃15分間の焼成を行って、焼成後約20μmの厚さとなるようにしている。
【0016】
この調理鍋によれば、鍋そのものが有する美しい色調及び光沢を損なわずに、銅の酸化を抑制する結果、銅の変色を防止する効果があるとともに、金属薄膜層に塗装された塗装の耐熱耐久性を向上できるという効果をもたらすことができるものである。
【特許文献1】特開2001−145558号公報(段落〔0005〕、〔0014〕)
【特許文献2】特開2004−49368号公報(段落〔0011〕〜〔0013〕、〔0035〕、〔0045〕)
【特許文献3】特開2004−81653号公報(段落〔0006〕、〔0007〕、〔0022〕、〔0031〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記特許文献1及び2に開示されている炊飯器用鍋によれば、磁性金属層の外側に非磁性金属層が設けられていることから、鍋の電磁誘導発熱を起こすためには電磁調理器が発する高周波電流の周波数によって非磁性金属層の厚みを変更しなければならず、面倒であった。また、上記特許文献3に開示されている調理用鍋によれば、銅が酸化して変色する条件は種々あり、単に厚さのみを考慮して銅の表面に銅以外の金属薄膜層を被覆したとしても、必ずしも銅が変色しないようにすることができるとはいえない。むしろ、かかる銅以外の金属薄膜が有する色により銅本来の色調を保持することはできなくなるし、その金属薄膜自体の酸化条件をも考慮しなければ十分とはいえない。
【0018】
本発明は上記の従来技術が抱える課題を解決するためになされたものであって、本発明の目的は有効に電磁誘導熱を発生させつつ銅又は銅合金の色調を保持することのできる美観性に優れた調理容器及びその製造方法並びに前記調理容器を使用した調理器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記発明の上記第1の目的は以下の手段によって達成し得る。すなわち、請求項1に記載の発明は、銅又は銅合金を基材とした銅鍋と該銅鍋の内側を被覆する保護層とを有する多層構造の調理容器において、前記銅鍋の胴壁面は透明樹脂層で被覆され、前記銅鍋の底壁面には磁性金属層が形成されていることを特徴とする。
【0020】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の調理容器において、前記磁性金属層の表面には銅色の塗料が塗布されており、前記銅色の塗料の表面も前記透明樹脂層で被覆されていることを特徴とする。
【0021】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の調理容器において、前記保護層はフッ素樹脂で形成されていることを特徴とする。
【0022】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の調理容器において、前記フッ素樹脂で形成された保護層は銅色の塗料が混合されていることを特徴とする。
【0023】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1又は2に記載の調理容器において、前記保護層はガラス材で形成されていることを特徴とする。
【0024】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1又は2に記載の調理容器において、前記磁性金属層はフェライト系ステンレスで形成されていることを特徴とする。
【0025】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の調理容器において、前記銅鍋と前記磁性金属層との接触面にはアルミニウム層が設けられていることを特徴する。
【0026】
また、請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の調理容器において、前記磁性金属層は前記銅鍋の底壁に嵌め込まれていることを特徴とする。
【0027】
さらに、本発明の上記第2の目的は以下の方法によって達成し得る。すなわち、請求項9に記載の調理容器の製造方法の発明は、
(1)所定の肉厚を有する銅板又は銅合金板と磁性板とを接合したクラッド材を用い、前記磁性板が外側に位置するように上方が開口し有底の筒状容器を形成する容器成型工程と、
(2)前記筒状容器の胴壁面から前記磁性板を除去して前記銅板又は銅合金板を露出させる銅面露出工程と、
(3)外部に露出している銅板又は銅合金板を透明樹脂層で被覆する銅面被覆工程と、からなることを特徴とする。
【0028】
また、請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の調理容器の製造方法において、前記(2)の銅面露出工程後に露出された銅面を研磨して鏡面加工する工程を備えることを特徴とする。
【0029】
また、請求項11に記載の発明は、請求項9に記載の調理容器の製造方法において、前記(2)の銅面露出工程後に前記磁性板の表面を銅色の塗料で被覆した後、前記(3)の工程において同時に銅色の塗料層も透明樹脂層で被覆する工程を備えていることを特徴とする。
【0030】
さらに、本発明の上記第3の目的は以下の手段によって達成し得る。すなわち、請求項12に記載の調理器の発明は、請求項1〜8のいずれかに記載の調理容器と、該調理容器が収容される電磁誘導加熱手段を有する調理器本体と、からなることを特徴とする。
【0031】
さらに、請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の調理器において、前記調理器本体は、前記調理容器を収納する収容ケースに、前記調理容器の銅鍋の胴壁面に対向させて補助加熱ヒータを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明は上記のような構成を備えることにより、以下に述べるような優れた効果を奏する。すなわち、請求項1の発明によれば、調理容器は多積層構造となっているので強度や耐衝撃性に優れており、しかも、熱伝導率が高い銅又は銅合金で形成された銅鍋の底壁面に磁性金属層が設けられているから、調理時に熱源として電磁誘導により発生した熱が容器全体に素早く均一に伝達される。その結果、容器内の被調理物が均一に加熱調理されるので調理ムラがなくなる。また、銅鍋の胴壁面が透明樹脂層により被覆されているので、容器の外壁面に銅色肌が現われ、この銅色肌が持つ美観により調理容器に高級感を演出することができる。また、銅鍋の胴壁面は透明樹脂層により被覆されているのみで磁性金属が除去されているので、鍋の軽量化にも資する。また、銅鍋の内側には保護層が被覆されているので、銅が容器内に溶出することがなくなり安全面の不安を解消できる。
【0033】
また、請求項2の発明によれば、銅鍋の底壁面に設けられた磁性金属層も銅色に塗装されているので、銅色肌が持つ美観により調理容器の外側の胴壁面だけでなく底壁面にも高級感を演出することができる。
【0034】
また、請求項3の発明によれば、保護層はフッ素樹脂で形成されているので、撥水性・耐薬品性・耐熱性などに優れた調理容器を得ることができる。
【0035】
また、請求項4の発明によれば、保護層としてのフッ素樹脂層が銅色であるので、銅色肌が持つ美観により調理容器の外側だけでなく内側にも高級感を演出することができる。
【0036】
また、請求項5の発明によれば、保護層がガラス材で形成されているので、より透明性に優れた保護層を得ることができ、銅色肌が持つ美観を十分に現出させることができ、調理容器の内側に更なる高級感を演出することができる。
【0037】
また、請求項6の発明によれば、磁性金属層はフェライト系ステンレスで形成されているので、発熱効率がよく、耐蝕性・耐熱性に優れた調理容器を得ることができる。
【0038】
また、請求項7の発明によれば、銅鍋と磁性金属層との接触面には熱伝導性の高いアルミニウムが設けられているので、物理的に強度が増す上、磁性金属層で発生した熱が容器全体に素早く均一に伝達される。その結果、容器内の被調理物が均一に加熱調理されるので調理ムラがなくなる。また、アルミニウムの介在により銅やステンレス等の他の材料との接合が容易になる。
【0039】
また、請求項8の発明によれば、銅鍋の胴壁面が透明樹脂層で被覆されているから、銅鍋肌の持つ美観を最大限に現出させることができる上、磁性金属板を容器底面に埋め込んだので磁性金属と銅鍋との間の接合強度が強くなるとともに、熱伝導率が良好になる。
【0040】
さらに、請求項9の発明によれば、請求項1に記載の調理容器と同様の調理容器を容易に作製することができる。
【0041】
また、請求項10の発明によれば、露出された銅面が研磨され鏡面加工されているので、美観性が特に優れた調理容器を得ることができる。
【0042】
また、請求項11の発明によれば、請求項2に記載の調理容器と同様の調理容器を容易に作製することができる。
【0043】
さらに、請求項12の発明によれば、請求項1〜8のいずれかに記載の発明の効果を有する調理容器を収容する調理器を得ることができる。
【0044】
さらに、請求項13の発明によれば、銅鍋の胴壁面は磁性金属で覆われていないので補助加熱ヒータからの熱は遮熱されることなく銅面から鍋全体に効率よく伝えることができ、特に熱効率に優れた調理器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、図面を参照して本発明の最良の実施形態を説明する。本発明の調理容器及びこの調理容器を用いた調理器の実施の形態として、炊飯器用の内鍋及びその内鍋の製造方法並びにこの内鍋を使用した電気炊飯器を説明する。なお、以下に示す実施の形態は本発明をこれらに特定することを意図するものではなく、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものも等しく適応し得るものである。
【実施例1】
【0046】
図1は本発明の実施例1に係る内鍋を収納した電磁誘導式の炊飯器本体の断面図を示したものである。
【0047】
この電磁誘導式の炊飯器(以下、炊飯器という)1は、炊飯中の内鍋内の圧力を所定圧力、例えば1.2気圧程度に加圧して炊飯する圧力式炊飯器である。この炊飯器1は、図1に示すように、上方が開口した深底の容器からなる内鍋2と、上方が開口し、この開口から内鍋2を収容し内鍋内の被炊飯物を加熱する加熱手段を有する炊飯器本体8と、内鍋2及び炊飯器本体8の開口を覆う開閉自在な蓋体14と、を有している。
【0048】
内鍋2は、上方に被炊飯物が投入される大きさの開口を有する深底の筒状容器からなり、銅又は銅合金及びステンレス鋼等との積層材(クラッド材)で形成されている。
【0049】
上方の開口部には、開口縁が所定長さ外方へ延びたフランジ2が形成され、このフランジ2は、炊飯器本体8内に内鍋2が収容されたときに、フレームカバー3の肩部に係止される。この内鍋2の構造については後述する。
【0050】
炊飯器本体8は、上方に内鍋2が収容される大きさの開口を有し、有底で内鍋2の外形と略同じ形状の内鍋収容ケース4と、この内鍋収容ケース4を保持するフレームカバー3とからなる。これらのフレームカバー3及び内鍋収容ケース4は、合成樹脂材の成型体で形成されている。また、内鍋収容ケース4とフレームカバー3との間に所定の隙間Sが形成され、この隙間Sが機器取付け及び通風空間スペースとなっている。この隙間Sには、ファンモータ9、制御基板10等が装着されている。
【0051】
この隙間Sを設けることにより、内鍋収容ケース4とフレームカバー3間を断熱でき、また、ファンモータ9を駆動させることによって制御基板10等が冷却される。
【0052】
内鍋収容ケース4は、内鍋2の外形と略同じ形状を有し深底の筒状容器となっている。この内鍋収容ケース4は、内鍋2の底部を収容する鉢状の底部4と、この底部4から延設されて内鍋2の胴部を囲む筒状胴部4とを有し、筒状胴部4は底部4の上方開口部から段部4ABを経て外側へ膨出し、開口の直径を拡大した大径の筒状となっている。段部4ABは所定の幅長を有しており、この段部4ABを底辺、胴部の内側側壁面4B’を一辺とする箇所に筒状の空間スペース4SPが形成されている。この空間スペース4SPは、内鍋収容ケース4に内鍋2が収容されたときに、内鍋2の胴部とケース4の内側側壁面4B’との間に形成されている。この空間スペース4SPには、内側側壁面4B’に沿って補助加熱ヒータ6とリング状の鉄板5とが装着される。この補助加熱ヒータ6によって、内鍋2の胴壁面は磁性金属で覆われていないので補助加熱ヒータ6からの熱は遮熱されることなく銅面から鍋全体に効率よく伝えることができ、特に熱効率に優れた調理器を得ることができる。
【0053】
鉢状の底部4には、その中心部に所定大きさの開口部4が設けられている。この開口部4には内鍋底の温度を検出する温度センサ7が設けられている。この温度センサ7により、内鍋底の温度を検出して内鍋2内の炊飯量等が検出される。また、底部4の外底壁面には、同心状に分巻された電磁誘導コイル6、6が装着されている。これらの電磁誘導コイル6、6により、内鍋2に渦電流が誘起されて内鍋2が自己発熱する。この胴部上方の開口部には、開口縁が所定長さ外方へ延びたフランジ4が形成され、このフランジ4がフレームカバー3の肩部に係止されている。
【0054】
フレームカバー3は、内鍋収容ケース4との間に所定のスペースが設けられ、内鍋収容ケース4より大きな外形を有した化粧ボックスとなっている。また、このフレームカバー3の前面には、操作パネル12が装着されている。この操作パネル12には、各種の操作スイッチ類及びそれらの各種スイッチ類によって設定される設定状態を表示する表示装置11が設けられている。
【0055】
蓋体14は、炊飯器本体8の内鍋収容ケース4の上方開口部を覆う内蓋15と、この内蓋15の上方に位置する中蓋16と、この中蓋16に装着されて内鍋内の圧力を制御する圧力弁機構17と、全体を覆う表蓋カバー18とを有し、一端が炊飯器本体8にヒンジ機構13で連結されている。この蓋体14は、他端に蓋体14の開放をロックする係止手段19が設けられている。
【0056】
圧力弁機構17は、圧力孔17を有する弁座17と、弁座17の上に自重により圧力孔17を塞ぐように載置される金属性のボール17と、このボール17を覆うカバー17と、ボール17を移動させるプランジャ17とで構成されている。この圧力弁機構17は、内鍋2内の圧力とボール17の自重とのバランスによってボール17が圧力孔17上に載置されたり離れたりし、ボール17がこのように移動することによって圧力孔17が開閉される構造となっている。
【0057】
このボール17は、プランジャ17によって作動される。すなわち、プランジャ17は、不図示の制御手段からの出力を受けていないときは、ロッドがシリンダから突出して圧力孔上のボール17を圧力孔17の横方向に押し、この圧力孔17を強制的に開放する。また、プランジャ17が制御手段の出力を受けた時にはロッドがシリンダ内に引き込まれる。このときボール17は、自重により圧力孔17上に戻り、この圧力孔17が閉塞される。
【0058】
このようにしてプランジャ17は、圧力弁開放機構として動作し、圧力弁機構17と圧力弁開放機構とは炊飯工程中に加圧された内鍋2内の圧力を強制的に低下させる。また、内鍋2内の圧力が異常に上昇したとき(例えば炊飯中に圧力弁が故障して開かないとき)に開放して内鍋2内の圧力を逃がす安全弁を有している。
【0059】
次に、本発明の実施例に係る内鍋の構造について以下説明する。
【0060】
図2は本発明の一実施例に係る内鍋を示し、図2(a)は内鍋の縦断面図、図2(b)は図2(a)のX部分の拡大断面図である。
【0061】
この内鍋2Aは、上方に被炊飯物が投入される大きさの開口を有し深底の筒状容器からなり、上方の開口部の開口縁が所定長さ外方へ延びたフランジ20が設けられており、鍋の基材として銅又は銅合金を使用している(以下、銅鍋21という。)。内鍋2Aはその銅鍋21の底壁面が磁性材からなる金属層22、例えばフェライト系ステンレス層で形成され、銅鍋21の外側胴壁面には透明樹脂層24が被覆され、銅鍋21の内側壁面は保護層23が被覆された構成を有している。
【0062】
銅又は銅合金からなる基材とその基材を覆う磁性材料からなる金属層22とは、貼り合せた積層構造、いわゆるクラッド材となっている。外側面を覆う磁性材料からなる金属層22は、例えば、ステンレス又はチタン等から形成されている。また、透明樹脂層24は耐熱性及び耐水性を有する透明な樹脂材が用いられる。
【0063】
この構成の内鍋2Aによると、調理容器は多層構造となっているので強度や耐衝撃性に優れており、しかも、熱伝導率が高い銅又は銅合金で形成された銅鍋21の底壁面が磁性金属層で形成されているから、調理時に電磁誘導により発生した熱が容器全体に素早く均一に伝達される。その結果、容器内の被調理物が均一に加熱調理されるので調理ムラがなくなる。また、銅鍋21の外側胴壁面が透明樹脂層24で被覆されているので、容器の外壁面に銅色肌が現われ、この銅色肌が持つ美観により調理容器に高級感を演出することができる。また、保護層23を設けることより銅が容器内に溶出することがなくなるので安全面の不安を解消できる。また、この実施例1の内鍋2Aにおいては、銅鍋21の内側面に、例えばアルミニウム等の熱伝導性の高い金属層25が形成されており、これにより機械的強度が高まり、伝熱性も優れたものとなる。
【0064】
ここで、保護層23の材料として通常はフッ素樹脂が用いられるが、これに代わる材料、例えばガラス材等を用いてもよい。ガラス材は透明であるから、内鍋の意匠性を高めるのに適している。したがって、保護層23としてガラスコートを用いる場合には、アルミニウム等の金属層25上に銅色の塗料を塗布しても良いし、かかる金属層25を設けなくても良い。
【0065】
また、この内鍋2の製造方法として、まず、
(1)所定の肉厚を有する銅板又は銅合金板と磁性板とを接合したクラッド材を用いて、前記磁性板が外側に位置するように上方が開口し有底の筒状容器を形成し、
(2)前記筒状容器の胴壁面から前記磁性板を削除して前記銅板又は銅合金板を露出させ、
(3)外部に露出している銅板又は銅合金板を透明樹脂層で被覆することによって製造する方法を採用できる。
【0066】
この銅面露出工程(2)後に、露出された銅面を研磨し鏡面加工してもよいし、銅面露出工程(2)又は被覆工程(3)後に、磁性板の外側を銅色の塗料で被覆した後、外部に露出している銅板又は銅合金板を透明樹脂層で被覆してもよい。
【実施例2】
【0067】
図3は本発明の実施例2に係る内鍋2Bを示し、図3(a)は内鍋の縦断面図、図3(b)は図3(a)のY部分の拡大断面図である。
【0068】
この内鍋2Bは、鍋底部の底壁に磁性材からなる金属板22’を嵌め込んだ構成となっており、他の構成は実施例1の内鍋2Aと同じ構成となっている。
【0069】
この内鍋2Bによれば、金属板22’を鍋底壁面部分に嵌め込むだけでも、上記内鍋2Aと同じ効果を奏することができる。また、この内鍋2Bは、銅鍋の外側の胴壁面及び底壁面が透明樹脂層で被覆されているから、銅鍋肌の持つ美観を最大限に現出させることができる。
【実施例3】
【0070】
実施例3に係る内鍋は、図示はしないが、上記実施例1の内鍋2Aの銅鍋21の金属層22の上に銅色の塗料を塗布し、かかる塗料の上に透明樹脂層24を形成してもよい。
【0071】
このような構成の内鍋は、胴壁面のみならず底壁面までもが銅色となることから、銅鍋肌の美観を十分に現出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は本発明の実施例1に係る内鍋を収納した炊飯器本体の断面図を示したものである。
【図2】図2は本発明の一実施例に係る内鍋を示し、図2(a)は内鍋の縦断面図、図2(b)は図2(a)のX部分の拡大断面図である。
【図3】図3は本発明の他の実施例に係る内鍋を示し、図3(a)は内鍋の縦断面図、図3(b)は図3(a)のY部分の拡大断面図である。
【図4】図4は従来の炊飯器用鍋の部分拡大断面図である。
【図5】図5は別の従来の調理用鍋の部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 炊飯器
2(2A、2B) 内鍋
3 フレームカバー
4 内鍋収容ケース
5 リング状の鉄板
7 温度センサ
8 炊飯器本体
14 蓋体
17 圧力弁機構
19 係止手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金を基材とした銅鍋と該銅鍋の内側を被覆する保護層とを有する多層構造の調理容器において、前記銅鍋の胴壁面は透明樹脂層で被覆され、前記銅鍋の底壁面には磁性金属層が形成されていることを特徴とする調理容器。
【請求項2】
前記磁性金属層の表面には銅色の塗料が塗布されており、前記銅色の塗料の表面も前記透明樹脂層で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の調理容器。
【請求項3】
前記保護層はフッ素樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の調理容器。
【請求項4】
前記フッ素樹脂で形成された保護層は銅色の塗料が混合されていることを特徴とする請求項3に記載の調理容器。
【請求項5】
前記保護層はガラス材で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の調理容器。
【請求項6】
前記磁性金属層はフェライト系ステンレスで形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の調理容器。
【請求項7】
前記銅鍋と前記磁性金属層との接触面にはアルミニウム層が設けられていることを特徴する請求項1〜6のいずれかに記載の調理容器。
【請求項8】
前記磁性金属層は前記銅鍋の底壁に嵌め込まれていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の調理容器。
【請求項9】
(1)所定の肉厚を有する銅板又は銅合金板と磁性板とを接合したクラッド材を用い、前記磁性板が外側に位置するように上方が開口し有底の筒状容器を形成する容器成型工程と、
(2)前記筒状容器の胴壁面から前記磁性板を除去して前記銅板又は銅合金板を露出させる銅面露出工程と、
(3)外部に露出している銅板又は銅合金板を透明樹脂層で被覆する銅面被覆工程と、からなることを特徴とする調理容器の製造方法。
【請求項10】
前記(2)の銅面露出工程後に露出された銅面を研磨して鏡面加工する工程を備えることを特徴とする請求項9に記載の調理容器の製造方法。
【請求項11】
前記(2)の銅面露出工程後に前記磁性板の表面を銅色の塗料で被覆した後、前記(3)の工程において同時に銅色の塗料層も透明樹脂層で被覆する工程を備えていることを特徴とする請求項9に記載の調理容器の製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の調理容器と、該調理容器が収容される電磁誘導加熱手段を有する調理器本体と、からなることを特徴とする調理器。
【請求項13】
前記調理器本体は、前記調理容器を収納する収容ケースに、前記調理容器の銅鍋の胴壁面に対向させて補助加熱ヒータを備えていることを特徴とする請求項12に記載の調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−194360(P2008−194360A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34845(P2007−34845)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000214892)三洋電機コンシューマエレクトロニクス株式会社 (1,582)
【Fターム(参考)】