説明

調理用具

【課題】遠赤外線を放射することで満偏なく被調理物を加熱するように黒鉛層を用いた調理用具であって、黒鉛層の破断に対する強度或いは耐久性の課題を解消し、かつ、黒鉛層から黒鉛の粉が生じて被調理物に付着するのを防止した調理用具を提供する。
【解決手段】この調理用具Cは、金属製シートの外面保護層1と、外面保護層1に接して設けられた黒鉛層2と、黒鉛層2に接して設けられた内面保護層3と、を備えてなり、また、調理用具Cの端部C2aでは、黒鉛層2の端面が保護されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被調理物の加熱に用いられる調理用具に関する。
【背景技術】
【0002】
オーブントースター、電子レンジ、オーブンレンジなどの加熱調理機器を用いて被調理物を加熱する場合、調理用具として、アルミニウムやステンレスなどの金属製の調理容器、或いはフッ素樹脂やシリコーン樹脂などをガラスクロスや紙などに設けた調理シート(クッキングシート)を用いることが多い。
【0003】
これらの調理容器や調理シートのような調理用具では、焼きむらを少なくし、しかも、美味しく加熱しようとするものが提案されている。例えば、特許文献1の調理用具にあっては、調理シートを膨張黒鉛などの黒鉛層を用いて形成している。具体的には、黒鉛層を平板状にしてその上に被調理物を置いたり、円筒状に巻いてその中に被調理物を入れたり、中央部で曲率を持たせて折り曲げて被調理物を包囲したりして、遠赤外線を放射することで満偏なく被調理物を加熱することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−31546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような調理用具における黒鉛層は、そのままでは調理用具として用いるのには不十分である。なぜなら、黒鉛層は破断し易いので、強度或いは耐久性に課題があり、また、表面が摩耗し易いので、黒鉛の粉が生じて被調理物が接触するとそれに付着することも有り得るからである。
【0006】
本発明は、係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、遠赤外線を放射することで満偏なく被調理物を加熱するように黒鉛層を用いた調理用具であって、黒鉛層の破断に対する強度或いは耐久性の課題を解消し、かつ、黒鉛層から黒鉛の粉が生じて被調理物に付着するのを防止した調理用具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の調理用具は、外面保護層と、該外面保護層に接して設けられた黒鉛層と、該黒鉛層に接して設けられた内面保護層と、を備えてなることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の調理用具は、請求項1に記載の調理用具において、前記外面保護層は、金属製シートであることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の調理用具は、請求項1に記載の調理用具において、前記外面保護層は、合成樹脂製シートであることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の調理用具は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の調理用具において、該調理用具は底部と側壁部とでもって一面が開口した箱状の調理容器であることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の調理用具は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の調理用具において、該調理用具は略平板状の調理シートであることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の調理用具は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の調理用具において、該調理用具の端部は、前記内面保護層を内側にして、前記黒鉛層の端面が露出しないように少なくとも2回折り返されて、前記外面保護層と前記黒鉛層と前記内面保護層が多重になっていることを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の調理用具は、請求項6に記載の調理用具において、前記端部は、加圧変形することによって、多重になった外面保護層と黒鉛層と内面保護層を圧壊状態にしてあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、黒鉛層が外面保護層と内面保護層により覆われているようにしたので、黒鉛層の破断に対する強度或いは耐久性を確保し、かつ、黒鉛層から黒鉛の粉が生じて被調理物に付着するのを防止した調理用具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る調理用具C(C’)の断面図である。
【図2】同上の調理用具C(C’)の端部C2aの各変形例を示す一部(図1における左側にあらわれる部分の)断面図である。
【図3】同上の調理用具Cの実験結果を比較例とともに示す写真である。
【図4】本発明の更に別の実施形態に係る調理用具S(S’)の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好ましい形態を説明する。本発明の実施形態に係る調理用具Cは、被調理物を収容してオーブントースターなどで加熱するものである。この調理用具Cは、図1に示すように、外面保護層1と、外面保護層1に接して設けられた黒鉛層2と、黒鉛層2に接して設けられた内面保護層3と、を備え、これらが底部C1と側壁部C2とでもって一面が開口した箱状の調理容器を構成している。
【0017】
外面保護層1は、アルミニウム(例えば、厚さが0.1〜0.2mm程度)が好適に用いられる金属製シートである。この外面保護層1は、黒鉛層2の破断に対する強度あるいは耐久性を向上させるとともに、調理用具Cがオーブントースターの熱源から直接受ける高温の熱に耐え得るようにするものである。また、外面保護層1は、黒鉛層2の外面側を覆うものであり、この外面側から黒鉛の粉が生じて被調理物に付着するのを防止することができる。
【0018】
黒鉛層2は、膨張黒鉛シート(例えば、厚さが0.3〜1mm程度)が好適に用いられる黒鉛製シートである。膨張黒鉛シートは、原料の天然黒鉛などの黒鉛を膨張させて膨張黒鉛の形態にしてから加圧してシート状に成形したものである。この黒鉛層2は、黒鉛粒子同士が結合し合うために、黒鉛成分(炭素成分)の比率を極めて高く(例えば99%以上に)することができる。それにより、黒鉛層2は、化学的に安定しており、かつ、熱拡散率や放射率が高い。具体的には、熱拡散率は、例えば、面方向(厚さ方向と直交方向)が100〜200W/(m・K)程度、遠赤外線の波長領域における放射率は、約80%程度である。
【0019】
内面保護層3は、テフロン(米国デュポン社の登録商標)樹脂等のフッ素樹脂やシリコーン樹脂などの合成樹脂シート(例えば、厚さが0.1〜0.2mm程度)が好適に用いられる。内面保護層3は、黒鉛層2に合成樹脂コーティングやセラミックコーティングをしてもよい。内面保護層3は、黒鉛層2の内面側を覆うものであり、この内面側から黒鉛の粉が生じて被調理物に付着するのを防止することができる。
【0020】
次に、調理用具Cの側壁部C2の上方端側である調理用具Cの端部C2aの態様について説明する。端部C2aは、内面保護層3を内側にして、黒鉛層2の端面が露出しないように少なくとも2回(図では2回)折り返されている。すなわち、端部C2aは、折り返し部分C2aa、C2ab、…が形成されており、外面保護層1と黒鉛層2と内面保護層3が多重になっている。このことにより、黒鉛層2の端面が保護され、端面からの黒鉛の粉の発生及び拡散が防止される。端部C2aの近傍において、図2(a)に示すように、端部C2aを側壁部C2の下部に対してほぼ直交するように折り曲げてもよい。また、好ましくは、黒鉛の粉の発生及び拡散の更なる防止のために、図2(b)に示すように、端部C2aは、加圧変形することによって、多重になった外面保護層1と黒鉛層2と内面保護層3を圧壊状態にしてもよい。
【0021】
このように、調理用具Cは、黒鉛層2が外面保護層1と内面保護層3により覆われているようにしたので、黒鉛層2の破断に対する強度或いは耐久性が確保され、かつ、黒鉛層2から黒鉛の粉が生じて被調理物に付着するのが防止される。なお、調理用具Cの大きさは、限定されるものではなく、例えば、一つの被調理物だけを収容するものは、その被調理物のサイズに合わせた大きさにしたり、いくつかの被調理物を収容するものは、大きめにしたりすることができる。
【0022】
このような調理用具Cは、以下のようにして製造可能である。すなわち、外面保護層1の元である平板状のシートと、黒鉛層2の元である平板状のシートと、内面保護層3の元である平板状のシートと、を接着させておき、切削器具により外面保護層1と黒鉛層2と内面保護層3を同時に切り出す。そして、それらをプレス機によって、底部C1と側壁部C2とでもって一面が開口した箱状の調理容器の形にする。調理用具Cの端部C2aの折り返し工程は、このプレス工程の前後どちらであってもよい。なお、内面保護層3の元のシートを接着させるかわりに、プレス工程の前か後にコーティング剤を塗布して加熱し硬化させてもよい。
【0023】
なお、調理用具Cの端部C2aにおいて黒鉛層2の端面を保護するには、前述の態様の他に、図2(c)に示すように、外面保護層1と黒鉛層2と内面保護層3の各端面を金属製の端面保護部材C3で覆うようにすることも可能である。この場合、端面保護部材C3が部品増となるものの、前述した端部C2aの折り返し工程が省略できる。また、黒鉛層2の大きさを外面保護層1と内面保護層3の大きさよりも若干小さくして、図2(d)に示すように、黒鉛層2の端面を外面保護層1と内面保護層3で覆って外面保護層1と内面保護層3を接着するようにすることも可能である。この場合、前述した製造工程において、接着した外面保護層1と黒鉛層2と内面保護層3の切削器具による同時切り出しは困難であるものの、やはり前述した端部C2aの折り返し工程が省略できる。
【0024】
調理用具Cは、通常、下方や側方からと同様な条件で上方からも被調理物を加熱するために、調理用具Cを2個用意して他方を蓋にして用いる。2個の調理用具Cを開閉可能に接続してもよい。調理用具Cは、金属製シートの外面保護層1が高温に耐え得るので、加熱温度が高い(例えば、300℃程度)オーブントースターでの使用が特に好適である。調理用具Cは、オーブンレンジなどでも使用することは可能であるが、金属を含んでいるので電子レンジでは通常使用はできない。調理用具Cは、加熱されると、黒鉛層2から遠赤外線を放射して、収容した被調理物を満偏なく、しかも早く加熱することができる。調理用具Cは、軽量であり、丈夫であり、繰り返し使用でき、また、比較的低コストで製造できる。
【0025】
図3は、発酵工程が終わって冷凍保存しておいた未焼成パンを冷凍庫から取り出しオーブントースターで15分加熱(焼成)した状態であって、(a)は調理用具C(外面保護層1はアルミニウム製)を用いた上面側、(b)はその調理用具Cを用いた下面側、(c)はアルミニウム製容器(すなわち、外面保護層1だけの容器)を用いた上面側、(d)はそのアルミニウム製容器を用いた下面側を示している。調理用具C及びアルミニウム製容器はそれぞれ、2個用意して他方を蓋にして用いた。また、オーブントースターは、ZOJIRUSHI EV−VSD35E4であり、上方と下方に熱源が有って、調理用具C及びアルミニウム製容器は下方の熱源が上方の熱源よりも接近した状態で加熱される。調理用具Cを用いたものは、図3(a)と(b)に示すように、パンの上面と下面に焦げ目が適度に付き、内部までふっくら美味しく焼き上がっていた。アルミニウム製容器を用いたものは、図3(c)と(d)に示すように、パンの下面には焦げ目が付いていたが、上面、側面及び内部は、水気が多く残っていて半生の状態であった。なお、このように未焼成パンをオーブントースターを使って短時間で美味しく焼き上げることができると、朝食時など調理に時間を余り割けないときに、非常に便利である。
【0026】
次に、本発明の別の実施形態に係る調理用具C’を説明する。この調理用具C’は、上述の調理用具Cとは、金属製シートの外面保護層1にかえて、合成樹脂製シートの外面保護層1’を備えている点が異なり、その他は共通である。この合成樹脂製シートは、例えば、テフロン(米国デュポン社の登録商標)樹脂などのフッ素樹脂やシリコーン樹脂などによるものである。調理用具C’は、調理用具Cと同様にして製造可能である。調理用具C’は、外面保護層1’の耐熱温度(例えば、250℃程度)が外面保護層1に比べて通常低いため、その耐熱温度以下に加熱温度を制御し易い電子レンジやオーブンレンジで被調理物を加熱するのに好適である。調理用具C’は、加熱されると、黒鉛層2から遠赤外線を放射して、収容した被調理物を満偏なく、しかも早く加熱することができる。被調理物が冷凍のものの場合、加熱調理の前に、低温(例えば、20℃以下)に温度を制御して解凍することも可能であり、この場合、不均一さが少なく解凍できる。調理用具C’は、軽量であり、丈夫であり、繰り返し使用でき、また、比較的低コストで製造できるのも調理用具Cと同様である。
【0027】
次に、本発明の更に別の実施形態に係る調理用具Sを説明する。この調理用具Sは、調理用具Cのような底部C1と側壁部C2とでもって一面が開口した箱状の調理容器ではなく、図4に示すように、略平板状の調理シートである。この調理用具Sも、調理用具Cと同様に、外面保護層1と、外面保護層1に接して設けられた黒鉛層2と、黒鉛層2に接して設けられた内面保護層3と、を備え、調理用具Cの端部C2aと同様の端部Saを有している。従って、調理用具Sは、黒鉛層2の破断に対する強度或いは耐久性が確保され、かつ、黒鉛層2から黒鉛の粉が生じて被調理物に付着するのが防止される。調理用具Sは、容器の形にするプレス工程はないが、その他は調理用具Cと同様にして製造可能である。調理用具Sは、1個又は2個用いて被調理物を包んでオーブントースターで加熱するのに好適であって、加熱されると、黒鉛層2から遠赤外線を放射して、収容した被調理物を満偏なく、しかも早く加熱することができる。調理用具Sは、軽量であり、丈夫であり、繰り返し使用でき、また、比較的低コストで製造できるのも調理用具Cと同様である。
【0028】
次に、本発明の更に別の実施形態に係る調理用具S’を説明する。この調理用具S’は、上述の調理用具Sとは、金属製シートの外面保護層1にかえて、合成樹脂製シートの外面保護層1’を備えている点が異なり、その他は共通である。この合成樹脂製シートは、例えば、テフロン(米国デュポン社の登録商標)樹脂などのフッ素樹脂やシリコーン樹脂などによるものである。調理用具S’は、調理用具Sと同様にして製造可能である。調理用具S’は、1個又は2個用いて被調理物を包んで電子レンジやオーブンレンジで加熱するのに好適であって、加熱されると、黒鉛層2から遠赤外線を放射して、収容した被調理物を満偏なく、しかも早く加熱することができる。被調理物が冷凍のものの場合、加熱調理の前に、低温(例えば、20℃以下)に温度を制御して解凍することも可能であり、この場合、不均一さが少なく解凍できる。調理用具S’は、軽量であり、丈夫であり、繰り返し使用でき、また、比較的低コストで製造できるのも調理用具Sと同様である。
【0029】
以上、本発明の実施形態に係る調理用具について説明したが、本発明は、上述の実施形態に記載したものに限られることなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でのさまざまな設計変更が可能である。例えば、上記の調理用具の詳細な形状や製造方法は、使用又は製造し易いように適宜変更できることは勿論である。
【符号の説明】
【0030】
C、C’ 調理用具(調理容器)
C1 調理用具(調理容器)の底部
C2 調理用具(調理容器)の側壁部
C2a 調理用具(調理容器)の端部
S、S’ 調理用具(調理シート)
Sa 調理用具(調理シート)の端部
1、1’ 外面保護層
2 黒鉛層
3 内面保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面保護層と、
該外面保護層に接して設けられた黒鉛層と、
該黒鉛層に接して設けられた内面保護層と、
を備えてなることを特徴とする調理用具。
【請求項2】
請求項1に記載の調理用具において、
前記外面保護層は、金属製シートであることを特徴とする調理用具。
【請求項3】
請求項1に記載の調理用具において、
前記外面保護層は、合成樹脂製シートであることを特徴とする調理用具。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の調理用具において、
該調理用具は底部と側壁部とでもって一面が開口した箱状の調理容器であることを特徴とする調理用具。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の調理用具において、
該調理用具は略平板状の調理シートであることを特徴とする調理用具。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の調理用具において、
該調理用具の端部は、前記内面保護層を内側にして、前記黒鉛層の端面が露出しないように少なくとも2回折り返されて、前記外面保護層と前記黒鉛層と前記内面保護層が多重になっていることを特徴とする調理用具。
【請求項7】
請求項6に記載の調理用具において、
前記端部は、加圧変形することによって、多重になった外面保護層と黒鉛層と内面保護層を圧壊状態にしてあることを特徴とする調理用具。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−161492(P2012−161492A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24425(P2011−24425)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(397029873)株式会社大木工藝 (21)
【Fターム(参考)】