説明

貝汁廃液の処理方法

【課題】 貝汁からなる廃液の処理を効率よく行え、処理水のCOD、BODおよび全窒素量を十分低下させることが可能な、貝汁廃液の処理方法を提供する。
【解決手段】 貝汁からなる廃液(1)に無機系凝集剤(3)を添加しフロックを形成させた後、希釈水(5)を添加し、浮上したフロック(6)を廃液から分離した後、水相(7)を分別する。これのpH調整を行い、無機系凝集剤(3)と高分子凝集剤(4)を添加し、浮上したフロック(12)を廃液から分離した後、水相(13)を分別する。次いで、酸化剤(9)により貝汁を酸化分解した後、pH調整を行い、無機系凝集剤と高分子凝集剤を添加し、浮上したフロック(16)を廃液から分離した後、水相(17)を分別する。さらに、分別水のpH調整を行った後、無機系凝集剤と高分子凝集剤を添加し、浮上したフロック(21)を廃液から分離した後、水相(22)を分別し、これを排水貯槽に移送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電所設備の取排水口あるいは取放水路等で捕集されたムラサキイガイ等付着貝類から発生する貝汁の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電所では、蒸気を冷却するのに海水を使用しているが、海水を取り入れる取水路や取排水口などにムラサキイガイ等の貝類が付着、生育するため、これらの貝類は定期的に浚渫・回収される。この貝類には、この海水を取り入れる取水路から日常的に浚渫・回収される貝と、取水路清掃時に浚渫・回収される貝とがある。
【0003】
貝類の処理方法としては、従来より、キルン炉等の焼却炉で貝類を焼却処理した後、貝灰を路盤材等としてリサイクルする方法が採られている。しかし、焼却処理する方法は、排ガスとしてダイオキシンなどの有害物が発生する恐れがあることからその対策を行うことが義務付けられ、設備構成がますます複雑化することとなる。
【0004】
そのため、回収した貝を減容化してすりつぶした後、貝殻をリサイクルする方法が考えられるが、減容化する際に大量の貝汁が発生する。また、日常的に揚げられる貝は、揚げられた翌日から腐敗が始まるため、身は汁となり、保管用コンテナには大量の貝汁が発生する。しかし、貝汁は蛋白質が腐敗したものであるため、既設の排水処理設備で凝集沈澱処理することはできない。そこで、貝汁の処理方法として、カチオン系凝集剤からアニオン系凝集剤への変更、貝汁の粉末化、多種多様の凝集剤試験の実施、各種処理方法等を検討してきたが、決定的な方法がなく、処分に困難を極めていた。
【0005】
海洋生物を含む廃液の処理方法として、特許文献1には、該廃液に無機凝集剤を添加して廃液のpHを6.5以下に調整する工程と、さらに高分子凝集剤を添加し、フロックを形成させる工程と、このフロックを廃液から分離させる工程と、からなる処理方法が提案されている。この方法は、貝類を含む廃液に含まれる蛋白質粒子の表面は負に帯電していて互いに反発しあい凝集を阻害しているが、ここに無機凝集剤を添加すると、無機凝集剤は水中で加水分解されて正の電荷を有する金属イオンを生じるので、これにより蛋白質粒子の表面荷電が中和され、凝集を阻害する力が弱められることで、高分子凝集剤により十分なフロックが形成され、廃液処理を効率よく行えるとするものである。またpHを6.5以下に調整すると、大きさの異なる蛋白質粒子の表面電荷も十分に中和されるので、さらにフロックが形成されやすくなるとしている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−256271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の方法では、蛋白質粒子を凝集させてフロックを形成することで、廃液の濁度を低下させることはできるが、廃液のCOD(化学的酸素要求量)、BOD(生物化学的酸素要求量)や、全窒素量を低下させることができないという課題があった。
【0008】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、貝汁からなる廃液の処理を効率よく行え、処理水のCOD、BODおよび全窒素量を十分低下させることが可能な、貝汁廃液の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、腐敗が進行した貝汁に凝集剤を添加してフロックを形成させた後、水で希釈してフロックを浮上分離させることにより、その後の水処理が容易になり、また、フロックを分離させた後の処理水や腐敗の進行していない貝汁に酸化剤を添加して酸化分解処理をした後、凝集剤を添加して凝集沈澱分離させることにより、処理水を既設排水処理装置で処理できるようになることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の貝汁廃液の処理方法は、貝汁からなる廃液に、無機系凝集剤を添加し、フロックを形成させた後、当該廃液に希釈水を添加し、浮上したフロックを廃液から分離した後、水相を分別する工程を有することを特徴とする。
【0011】
この1次処理工程を行うことにより、腐敗期間の長い貝汁に含まれる蛋白質の大部分を効率的に浮上分離させることができるため、その後の処理が容易になる。
【0012】
また、本発明の貝汁廃液の処理方法は、
前記工程において分別された水に、無機系凝集剤と高分子凝集剤を添加して静置し、水相を分別する工程Aを有することを特徴とする。
【0013】
分別された処理水に、無機系凝集剤を添加し、さらに高分子凝集剤を順次添加することにより、フロックを速やかに凝集沈澱分離させることができる。
【0014】
また、本発明の貝汁廃液の処理方法は、
貝汁からなる廃液に希釈水を添加してなる希釈廃液または前記工程Aで分別された水に、酸化剤を添加して貝汁を酸化分解した後、
無機系凝集剤と高分子凝集剤を添加して静置し、
水相を分別する工程Bを有することを特徴とする。
【0015】
貝汁の腐敗期間が比較的短い場合は、1次処理工程を行う必要が無く、貝汁を含む廃液に酸化剤を添加して貝汁を酸化分解することにより、腐敗臭を軽減することができる。また、1次処理工程を経た処理水に対しても、酸化剤を添加して貝汁を酸化分解することにより、腐敗臭を軽減することができる。これらの処理水に無機系凝集剤、高分子凝集剤を順次添加することにより、フロックを速やかに形成させ、凝集沈澱分離させることで、処理水のCODを低減させることができる。
【0016】
また、本発明の貝汁廃液の処理方法においては、前記工程Bで分別された水に、無機系凝集剤と高分子凝集剤を添加して静置し、水相を分別する工程Cを有していてもよい。
【0017】
工程B(以下、2次処理工程という)で分別された処理水の濁度が高い場合には、無機系凝集剤を添加し、さらに高分子凝集剤を順次添加することにより、フロックを速やかに凝集沈澱分離させ、処理水の透明度を向上させることができる。この処理工程C(以下、3次処理工程という)は、2次処理工程で分別された水が、所定のCOD基準値をクリアーするが、所定の透視度基準値をクリアーしない場合に、実施するのがよい。
【0018】
本発明に係る貝汁廃液の処理方法においては、前記希釈水の添加量が、貝汁の1〜2倍容量であることが好ましい。希釈水が少なすぎる場合は凝集フロックと水相を分離することが困難となり、一方、希釈水が多すぎても凝集フロックの分離効率の向上は見られず、処理槽が大型化することで処理コストが高くなるおそれがある。
【0019】
また、本発明に係る貝汁廃液の処理方法においては、前記無機系凝集剤および高分子凝集剤を添加する水のpHが9〜10の範囲であることが好ましい。水のpHを前記範囲内にすることにより、蛋白質やその変性物の凝集が速やかに行われ、汚泥が短時間で沈降する。すなわち、水のpHをアルカリ性(好ましくはpH9〜10)に調整することにより、排水中の浮遊物質や溶解物質は、負の電荷を有する水酸化物を生成する。また、無機系凝集剤を添加すると、例えば鉄系凝集剤の場合、正の電荷を有する水酸化第2鉄が生成し、これに負の電荷を有する水酸化物が吸着されることで電荷が中和され、排水中の浮遊物質や溶解物質はフロックを形成して速やかに凝集沈澱するようになる。さらに、高分子凝集剤(好ましくはアニオン系高分子凝集剤)を添加することにより、電荷の中和と架橋作用によってより大きなフロックが形成されるため、優れた沈降、分離効果を得ることができる。
【0020】
また、本発明に係る貝汁廃液の処理方法においては、前記工程BおよびCにおいて分別された水相のCODは、100ppm以下である。これにより、本方法による処理水を既設排水処理装置で処理することが可能になる。
【0021】
また、前記酸化剤が高度さらし粉であることが好ましい。酸化剤のなかでも、高度さらし粉を使用することによって貝汁の腐敗臭を最も軽減することができ、また、残存する高度さらし粉はアルカリで中和することができるので、後流の処理に悪影響を及ぼすこともない。
【0022】
また、前記無機系凝集剤がポリ硫酸第二鉄であることが好ましく、前記高分子凝集剤がアニオン系ポリアクリルアマイド系凝集剤であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
以上説明した通り、本発明の貝汁廃液の処理方法によれば、蛋白質の腐敗物である貝汁を効率的に処理し、処理水のCOD、BODおよび全窒素量を所定の目標値以下にすることができる。その結果、既設排水処理設備を利用することが可能になり、貝汁を発電所内の既設排水処理設備で処理することができる。
【0024】
また、焼却工程が不要となり、付着塩分が少なく貝肉付着のない貝殻を回収することができるので、回収した貝殻をセメント原料などとして有効利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を図を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の貝汁を含む廃液の処理方法の一実施形態を示す工程図である。この処理方法は、1次処理工程を行う1次処理槽10および20と、その後の処理を行う2次処理槽30、3次処理槽40を備えている。
【0027】
(1次処理工程)
1次処理工程では、先ず、1次処理槽10に貝汁(通常pH7〜8)を収容する。この貝汁としては、主に、回収してから長時間経過した腐敗が進行した貝汁が用いられる。次いで、収容した貝汁に、無機系凝集剤3を添加し、攪拌する。凝集剤添加時の貝汁は、pH7.0〜8.0の範囲(中性)にあることが好ましく、pHがアルカリ性や酸性の場合は、貝汁の凝集が不十分となる傾向がある。貝汁のpHが前記範囲外の場合には、pH調整剤2を用いて貝汁のpH調整を行うこともできる。
【0028】
中性の貝汁に無機系凝集剤を添加して攪拌することによって、貝汁全体がフロックを形成するので、処理槽10に希釈水(工業用水、上水、地下水、河川水及び雨水等を利用した中水など)5を添加して貝汁濃度を2〜3倍に希釈する。希釈水を添加後、静置することにより、凝集したフロック6が浮上するとともに、汚泥8が沈降する。次いで、浮上フロック6を吸取った後、水相(上澄水)7を分別する。分別した水は、処理槽20に移送する。
【0029】
ここで、無機系凝集剤としては、塩化第二鉄、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、ポリ硫酸第二鉄(通称:ポリ鉄)等の溶液や、これらを主成分とする溶液、あるいはこれらの混合液等を用いることができる。中でも、ポリ硫酸第二鉄が最も凝集沈澱分離効果が優れており、好ましい。これらの無機系凝集剤は、一般的な使用濃度で用いればよく、通常、貝汁全量に対し0.5〜0.75質量%添加する。
【0030】
次に、処理槽20に移送した上澄水のpHを、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液等のpH調整剤11を用いてpH9〜10、より好ましくはpH9.5〜10に調整する。pHをこの範囲に調整することにより、後流工程で添加する無機系凝集剤および高分子凝集剤による凝集が円滑に行われるようになる。次いで、アルカリ性の上澄水に無機系凝集剤を添加し、攪拌することによって、フロックが形成される。これらの無機系凝集剤は、一般的な使用濃度で用いればよく、通常、貝汁全量に対し0.25〜0.5質量%添加する。
【0031】
さらに高分子凝集剤を添加、攪拌して、より大きなフロックを形成させる。高分子凝集剤としては、アクリルアマイド(共)重合体等のポリアクリルアマイド系凝集剤、ポリスチレンスルホン酸等のスチレン系凝集剤、ポリアクリル酸等のアクリル系凝集剤等から選ばれる、ノニオン系、カチオン系、アニオン系、両性系のものを用いることができる。中でも、アニオン系高分子凝集剤が好ましく、性能やコスト等の点から、アニオン系ポリアクリルアマイド系凝集剤が最も好ましい。その他、キトサン系の高分子凝集剤や、アルギン酸系の高分子凝集剤を用いることもできる。高分子凝集剤は、一般的な使用濃度および方法で用いればよく、通常、貝汁全量に対し、0.1%水溶液換算で0.5〜0.8質量%添加する。
【0032】
凝集剤を添加した後、静置することにより、凝集したフロック12が浮上するとともに、汚泥14が沈降する。次いで、浮上フロック12を吸取った後、水相(処理水13)を分別する。分別した水は、後流の2次処理槽30に移送する。
【0033】
(2次処理工程)
2次処理槽30に移送された1次処理水に、先ず、酸化剤9を添加する。酸化剤は、貝汁を酸化分解し、CODを低減させる効果がある。酸化剤は、貝汁全量に対し0.04〜0.05質量%添加するのが好ましい。酸化剤の添加量が少なすぎる場合は、廃液のCODを十分低下させることが困難となり、一方、酸化剤の添加量が多すぎる場合は、残留塩素を中和する必要等が生じてしまう。
【0034】
酸化剤としては、貝汁の酸化分解処理が可能なものであればよいが、CODを低下させることが可能で腐敗臭軽減効果のある、高度さらし粉が好ましく用いられる。
【0035】
酸化剤を添加して攪拌処理した後、処理水のpHを、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液等のpH調整剤11を用いてpH9〜10、より好ましくはpH9.5〜10に調整する。pHをこの範囲に調整することにより、後流工程で添加する無機系凝集剤および高分子凝集剤による凝集が円滑に行われるようになる。次いで、無機系凝集剤3(0.25〜0.5質量%対貝汁)および高分子凝集剤4(0.1質量%水溶液換算で0.5〜0.8質量%対貝汁)を順次添加し、攪拌した後、静置することにより、汚泥18を凝集沈澱させる。この際、少量のフロック16が浮上するので、適宜、これを吸取って除去する。次いで、水相(処理水17)を分別する。
【0036】
2次処理工程で分別された水相(処理水17)は、水質検査に供される。水質検査では水のCODを計測し、所定のCOD基準値(例えば100ppm)をクリアーしているか否かを検査する。処理水が所定のCOD基準値(例えば100ppm)をクリアーしていない場合は、図1に示す工程図に則って、再度、酸化分解処理および凝集沈澱処理を行うのがよい。これにより、処理水のCODを、所定の基準値以下にすることができる。
【0037】
一方、処理水が所定のCOD基準値(例えば100ppm)をクリアーしている場合は、処理水の透視度を計測する。処理水が所定の透視度基準値(例えば30cm以上)を満たす場合は、処理水中の残留塩素濃度をポータブル残留塩素測定器等により測定する。残留塩素濃度が所定の基準値(例えば0.5ppm)以下であれば、処理水を排水貯槽50に移送し、一方、所定の基準値(例えば0.5ppm)を超える場合は、中和剤24を用いて処理水中の残留塩素を中和した後、該処理水を排水貯槽50に移送する。
【0038】
処理水中の残留塩素の中和剤24としては、例えば、チオ硫酸ソーダ等を用いることができる。中和終点は比色法等を用いて決定することができる。
【0039】
また、処理水17の透視度が、所定の基準値を満たさない場合は、該処理水を後流の3次処理槽40に移送する。
【0040】
以上の処理工程を実施することにより、腐敗の進行した貝汁を、既設廃水処理設備で処理可能なまでに処理することができる。
【0041】
図2は、本発明に係る貝汁廃液の処理方法の他の実施形態を示す工程図である。この実施形態においては、主に、回収してから短時間経過した、腐敗が比較的進行していない貝汁が用いられる。この処理方法は、貝汁の処理を行う2次処理槽30、3次処理槽40を備えている。
【0042】
この処理では、先ず、2次処理槽30に貝汁(通常pH7〜8)を収容する。次いで、処理槽30に希釈水(工業用水、上水、地下水、河川水及び雨水等を利用した中水など)5を添加して、貝汁濃度を2〜3倍に希釈する。
【0043】
次いで、2次処理槽30に、酸化剤9を添加して貝汁を酸化分解処理した後、処理水のpHを、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液等のpH調整剤11を用いてpH9〜10、より好ましくはpH9.5〜10に調整する。pHをこの範囲に調整することにより、後流工程で添加する無機系凝集剤および高分子凝集剤による凝集が円滑に行われるようになる。次いで、無機系凝集剤3(0.5〜0.75質量%対貝汁)および高分子凝集剤4(0.1質量%水溶液換算で0.5〜0.8質量%対貝汁)を順次添加、攪拌した後、静置することにより、汚泥18を凝集沈澱させる。この際、少量のフロック16が浮上するので、適宜、これを吸取って除去する。次いで、水相(処理水17)を分別する。
【0044】
酸化剤としては、貝汁の酸化分解処理が可能なものであればよいが、CODを低下させることが可能で腐敗臭軽減効果のある、高度さらし粉が好ましく用いられる。酸化剤は、上記の酸化分解処理と同様であるが、貝汁全量に対し0.04〜0.06質量%添加するのが好ましく、より好ましくは0.04〜0.05質量%である。
【0045】
2次処理工程で分別された水相(処理水17)は、水質検査に供される。処理水が所定のCOD基準値(例えば100ppm)をクリアーしていない場合は、図2に示す工程図に則って、再度、酸化分解処理および凝集沈澱処理を行うのがよい。これにより、処理水のCODを、所定の基準値以下にすることができる。
【0046】
一方、処理水が所定のCOD基準値(例えば100ppm)をクリアーしている場合は、処理水の透視度を計測し、所定の透視度基準値(例えば30cm以上)を満たす場合は、処理水中の残留塩素濃度を測定する。残留塩素濃度が所定の基準値(例えば0.5ppm)以下であれば、処理水を排水貯槽50に移送し、一方、所定の基準値(例えば0.5ppm)を超える場合は、チオ硫酸ソーダ等の中和剤24を用いて処理水中の残留塩素を中和した後、該処理水を排水貯槽50に移送する。
【0047】
また、処理水17の透視度が、所定の基準値を満たさない場合は、該処理水を後流の3次処理槽40に移送する。
【0048】
以上の処理工程を実施することにより、腐敗の進行していない貝汁を、既設廃水処理設備で処理可能なまでに処理することができる。
【0049】
(3次処理工程)
図1または図2に示す工程図において、3次処理槽40に移送された処理水は、前流の処理工程と同様、pH調整剤11によるpH調整を行った後、無機系凝集剤3(0.1〜0.4質量%対貝汁)および高分子凝集剤4(0.1質量%水溶液換算で0.1〜0.4質量%対貝汁)を順次添加し、攪拌した後、静置分離して、汚泥23を凝集沈澱させる。この際、微量のフロック21が浮上するので、適宜、これを吸取って除去する。次いで、水相(処理水22)を分別する。
【0050】
次に、3次処理工程で分別された水相(処理水22)について、水質検査を行う。水質検査では水の透視度を計測し、所定の透視度(例えば30cm以上)をクリアーしているか否かを検査する。所定の透視度(例えば30cm以上)をクリアーしていない場合は、図1または図2に示す工程図に則って、再度、凝集沈澱処理を行う。これにより、処理水の清澄度を高めることができる。
【0051】
一方、処理水の透視度が所定の基準値(例えば30cm以上)を満たす場合は、処理水を排水貯槽50に移送する。
【0052】
本発明の処理方法によって排水貯槽50に移送された処理水は、貯槽水にて希釈処理がなされ、生物処理装置において好気性処理または嫌気性処理することにより、そのCOD等を放流基準の濃度以下(例えば20ppm以下)に低減させる。その後、必要に応じて放流基準を満たすための処理を行った後、発電所構外に排出する。
【0053】
本発明の貝汁廃液の処理方法は、好気性処理槽10、20、30および40を用いて行うことができる。また、処理温度は特に限定されないが、通常、加温設備を設置しない常温下で行うことができる。
【0054】
また、本発明に係る貝汁廃液の処理方法で発生したフロックや汚泥は、既設の汚泥濃縮槽に移送し、通常の処理方法にて脱水処理を行うことができる。この際、高度さらし粉等の酸化剤を添加して酸化分解処理を行うことが好ましい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
図1に示す工程図に基づいて、貝汁を処理した。
処理対象である、1バッチ分の貝汁(pH7.5)2.1mを1次処理槽10に導入した。この貝汁に15L(原液)のポリ硫酸第二鉄を添加、攪拌して、貝汁をフロック化した。このフロックに2.0mの工業用水を添加、攪拌した後、静置し、フロックを浮上させるとともに、汚泥を沈降させた。浮上フロックを吸取った後、1次処理槽10内の上澄水を処理槽20に移送した。
【0057】
処理水槽20に移送した約3.8mの上澄水に、pH調整剤として25%NaOH水溶液を添加し、廃液のpHを約10に調整した。これに、10L(原液)のポリ硫酸第二鉄を添加して攪拌した後、アニオン系アクリルアマイド系高分子凝集剤の0.1質量%水溶液10Lを添加、攪拌後、静置して、汚泥を凝集沈澱分離させた。浮上フロックを吸取った後の上澄水を2次処理槽30に移送した。
【0058】
2次処理槽30に移送した約3.4mの上澄水に、1.09kgの高度さらし粉(顆粒剤有効塩素70%)を添加して攪拌した後、pH調整剤として25%NaOH水溶液を添加して廃液のpHを約10に調整した。これに、10L(原液)のポリ硫酸第二鉄を添加して攪拌した後、アニオン系アクリルアマイド系高分子凝集剤の0.1質量%水溶液10Lを添加、攪拌して、静置することにより、汚泥を凝集沈澱分離させた。浮上フロックを吸取った後の、処理水を取り出し、それのCODおよび透視度を計測した。
【0059】
なお、CODは共立化学製CODパックテスト、透視度は透視度計、を用いて計測した(以下同様)。
【0060】
計測の結果、CODは50ppmであったが、透視度が30cm未満であったので、2次処理水を3次処理槽40に移送した。
【0061】
3次処理槽に移送された約3.0mの処理水に、pH調整剤として25%NaOH水溶液を添加して水のpHを約10に調整した。これに、5L(原液)のポリ硫酸第二鉄を添加して攪拌した後、アニオン系アクリルアマイド系高分子凝集剤の0.1質量%水溶液5Lを添加、攪拌して、静置することにより、汚泥を凝集沈澱分離させた。浮上フロックを吸取った後の処理水を取り出し、それのCODおよび透視度を計測した。
【0062】
その結果、CODが20ppmで、透視度30cm以上、BODは291ppm、残留塩素濃度は0.06ppm以下、全窒素量は91ppmであった。この処理水を、発電所内の排水貯槽に移送した。
【0063】
(実施例2)
図2に示す工程図に基づいて、貝汁を処理した。
処理対象である1.4mの貝汁を2次処理槽30に導入し、工業用水2.0mを加え攪拌した後、0.5kgの高度さらし粉(顆粒剤有効塩素70%)を添加して攪拌した後、pH調整剤として25%NaOH水溶液を添加して廃液のpHを約10に調整した。これに、10L(原液)のポリ硫酸第二鉄を添加して攪拌した後、アニオン系アクリルアマイド系高分子凝集剤の0.1質量%水溶液10Lを添加、攪拌して、静置することにより、汚泥を凝集沈澱分離させた。浮上フロックを吸取った後の処理水を取り出し、それのCODおよび透視度を計測した。その結果、処理水のCODが20ppmで、透視度が30cm未満であったので、2次処理水を3次処理槽に移送した。
【0064】
3次処理槽40に移送された3.2mの処理水に、pH調整剤として25%NaOH水溶液を添加して廃液のpHを約10に調整した。これに、5L(原液)のポリ硫酸第二鉄を添加して攪拌した後、アニオン系アクリルアマイド系高分子凝集剤の0.1質量%水溶液5Lを添加、攪拌し、静置することにより、汚泥を凝集沈澱分離させた。浮上フロックを吸取った後の処理水を取り出し、それの透視度を計測したところ、透視度30cm以上であることを確認したので、この処理水を発電所内の排水貯槽に移送した。
【0065】
3次処理水のBODは593ppm、残留塩素濃度は不検出、全窒素量は105ppmであった。
【0066】
上記の実施例1〜2から明らかなように、本発明の貝汁廃液の処理方法にあっては、貝汁に所定の分解処理や凝集・分離処理を行うことにより、該処理水を既設排水処理装置において処理した後、排水として放流処理することができる。
【0067】
なお、上記の実施例では、2次処理および3次処理を各1回実施した例を示したが、本発明においては、2次処理および3次処理は2回以上実施可能であることは言うまでもない。従って、以下の処理工程、例えば、
2次処理〜3次処理を経た処理水を再度3次処理する工程、
2次処理を経た処理水を再度2次処理した後3次処理する工程、
2次処理を経た処理水を再度2次処理した後3次処理し、さらに3次処理する工程
を採用することもできる。
【0068】
また、回収された貝殻は、焼却や粉砕工程を経ずにそのままでセメント原料などして有効利用することができる。さらに、他の用途にも適用可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係る腐敗が進行した貝汁の処理方法の一実施形態を示す概略工程図である。
【図2】本発明に係る腐敗が進行していない貝汁の処理方法の一実施形態を示す概略工程図である。
【符号の説明】
【0070】
A 1次処理水
B 2次処理水
C 3次処理水
1 貝汁
2 pH調整剤
3 無機系凝集剤
4 高分子凝集剤
5 水
6 浮上フロック
7 上澄水
8 汚泥
9 酸化剤
11 pH調整剤
12 浮上フロック
13 処理水
14 汚泥
16,21 浮上フロック
17,22 処理水
18,23 汚泥
10 1次処理槽
20 1次処理槽
30 2次処理槽
40 3次処理槽
50 排水貯槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝汁からなる廃液に、無機系凝集剤を添加し、フロックを形成させた後、当該廃液に希釈水を添加し、浮上したフロックを廃液から分離した後、水相を分別する工程を有することを特徴とする貝汁廃液の処理方法。
【請求項2】
分別された水に、無機系凝集剤と高分子凝集剤を添加して静置し、
水相を分別する工程A
を有することを特徴とする請求項1記載の貝汁廃液の処理方法。
【請求項3】
貝汁からなる廃液に希釈水を添加してなる希釈廃液または前記工程Aで分別された水に、酸化剤を添加して貝汁を酸化分解した後、
無機系凝集剤と高分子凝集剤を添加して静置し、
水相を分別する工程B
を有することを特徴とする貝汁廃液の処理方法。
【請求項4】
前記工程Bで分別された水に、無機系凝集剤と高分子凝集剤を添加して静置し、
水相を分別する工程C
を有することを特徴とする請求項3記載の貝汁廃液の処理方法。
【請求項5】
前記希釈水の添加量が、貝汁廃液の1〜2倍容量であることを特徴とする請求項1または3記載の貝汁廃液の処理方法。
【請求項6】
前記無機系凝集剤および高分子凝集剤を添加する水のpHが9〜10の範囲であることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項記載の貝汁廃液の処理方法。
【請求項7】
前記工程BおよびCにおいて分別された水相のCODが100ppm以下であることを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項記載の貝汁廃液の処理方法。
【請求項8】
前記酸化剤が高度さらし粉であることを特徴とする請求項3〜7のいずれか1項記載の貝汁廃液の処理方法。
【請求項9】
前記無機系凝集剤がポリ硫酸第二鉄であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の貝汁廃液の処理方法。
【請求項10】
前記高分子凝集剤がアニオン系ポリアクリルアマイド系凝集剤であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の貝汁廃液の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−61715(P2007−61715A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−250055(P2005−250055)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(591130319)東電環境エンジニアリング株式会社 (27)
【Fターム(参考)】