説明

負極活物質粒子、負電極板、リチウムイオン二次電池、車両、電池搭載機器、及び、負極活物質粒子の製造方法

【課題】 電池に用いた場合に、この電池の入出力特性を向上できる負極活物質粒子、この負極活物質粒子を配置した負極活物質層を備える負電極板、この負電極板を用いてなるリチウムイオン二次電池、このようなリチウムイオン二次電池を搭載した車両及び電池搭載機器を提供する。負極活物質粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】 負極活物質粒子22は、結晶子23と、この結晶子に比して結晶性の低い低結晶性炭素24とを含み、BET法による比表面積S1が1.0〜5.0m2/gであり、X線回折分析による黒鉛結晶の(110)面についてのピーク強度I110と、(004)面についてのピーク強度I004との比R1が0.2〜0.7であり、かつ、ラマンスペクトルから得られる、Dバンド(1360cm−1)の強度I1360とGバンド(1580nm−1)の強度I1580との比をR2としたとき、全体の90%以上の粒子が、R2=0.3〜1.0の特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質粒子、この負極活物質粒子を配置した負極活物質層を備える負電極板、この負電極板を用いたリチウムイオン二次電池、このリチウムイオン二次電池を搭載した車両及び電池搭載機器に関する。また、負極活物質粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド自動車やノート型パソコン、ビデオカムコーダなどのポータブル電子機器の駆動用電源に、充放電可能なリチウムイオン二次電池(以下、単に電池ともいう)が利用されている。
このような電池に用いる負極活物質粒子の製造方法として、例えば、特許文献1には以下の技術が開示されている。即ち、炭素質骨材(黒鉛粒子)とバインダーピッチ(ピッチ)とを混練し、これを冷間静水圧加圧法で加圧成形して加圧成形体(成形体)を作製し、これを約1000℃で熱処理した後、更に2800℃の焼成温度で焼成し粉砕して、炭素材料(負極活物質粒子)を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−59903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の手法では、加圧成形体(成形体)を約1000℃で熱処理した後、更に2800℃で焼成しているので、焼成後の成形体全体が結晶化(黒鉛化)し、かつ、結晶の成長によって異方性の高い炭素材になってしまう。このため、このような成形体を粉砕して得た負極活物質粒子もまた、高い異方性を有することとなる。この負極活物質粒子を負電極板に用いた電池では、その電池の低温(例えば、0℃)や常温(例えば、25℃)での各入出力特性が、等方的な負極活物質粒子を用いた場合より低くなってしまう。これは、異方性の高い負極活物質粒子を用いると、リチウムイオンの吸蔵・放出に用いられる経路や拡散経路が結晶の配向方向によって制限されるため、等方的な負極活物質粒子を用いた場合に比して、充電時にリチウムイオンを受け入れ難いためであると考えられる。
【0005】
本発明は、かかる問題点を鑑みてなされたものであって、電池に用いた場合に、この電池の入出力特性を向上できる負極活物質粒子、この負極活物質粒子を配置した負極活物質層を備える負電極板、この負電極板を用いてなるリチウムイオン二次電池、このようなリチウムイオン二次電池を搭載した車両及び電池搭載機器を提供することを目的とする。さらに、そのような負極活物質粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための一態様は、互いに不規則に配向した、黒鉛からなる結晶子と、上記結晶子同士の間に充填され、上記結晶子に比して結晶性の低い低結晶性炭素と、を含み、BET法による比表面積S1が、S1=1.0〜5.0m2/gであり、X線回折分析により得られる、黒鉛結晶の(110)面についてのピーク強度I110と、(004)面についてのピーク強度I004との比R1(=I110/I004)が、R1=0.2〜0.7であり、かつ、波長λ=532nmのレーザ光を用いたラマンスペクトルから得られる、Dバンド(1360cm-1)の強度I1360とGバンド(1580nm-1)の強度I1580との比をR2(=I1360/I1580)としたとき、全体の90%以上の粒子が、R2=0.3〜1.0の特性を有する負極活物質粒子である。
【0007】
上述の負極活物質粒子では、結晶子をなす黒鉛同士が粒子内で互いに不規則に配向し、このような結晶子の間に低結晶性炭素が充填されている。このため、この負極活物質粒子は、等方的な低結晶性炭素が表面のみならず、粒子の内部にまで存在するため、リチウムイオンの吸蔵・放出経路や拡散経路の自由度が高い。さらに、各々の負極活物質粒子は不規則に配向した複数の結晶子を有するので、1つの粒子全体として見れば結晶子についても等方的である。従って、このような負極活物質粒子を電池の負電極板に用いれば、充電の際、その負極活物質粒子の向きによらず、リチウムイオンを受け入れる経路が形成されやすい。このため、電池の入出力特性を向上させることができる。
【0008】
その一方で、この負極活物質粒子は、低結晶性炭素に比して、リチウムイオンを多く受け入れうる結晶性の高い結晶子を有しているので、例えば、低結晶性炭素のみからなる負極活物質粒子に比して、より多くのリチウムイオンを受け入れることができる。従って、この負極活物質粒子を電池の負電極板に用いた場合に、電池の容量を大きくすることができる。
【0009】
ところで、炭素材(上述した結晶子及び低結晶炭素の少なくともいずれか)を含む負極活物質粒子のBET比表面積S1は、S1=1.0〜5.0m2/gの範囲が好ましい。比表面積S1が1.0m2/g未満では、充放電反応が十分に追随しがたい一方、5.0m2/gを超えた場合には、負極活物質粒子が電池内の電解液と反応するおそれがあるからである。
【0010】
また、負極活物質粒子については、粉末X線回折における黒鉛結晶の(110)面についてのピーク強度I110と、(004)面についてのピーク強度I004との比R1(=I110/I004)を、R1=0.2〜0.7の範囲とするのが良い。R1が0.2未満では、この負極活物質粒子を用いた電池における入出力特性が低下する。これは、R1が0.2未満だと、負極活物質粒子の配向性が高すぎて、リチウムイオンを吸蔵・放出する経路を等方的に十分確保できないと考えられるからである。
一方、R1が0.7を超える場合には、負極活物質粒子を用いた電池の容量が低下してしまう。これは、負極活物質粒子における低結晶性炭素の影響度が、R1が0.7以下の場合よりも大きくなり、不可逆容量が増大するためと考えられるからである。
【0011】
さらに、波長λ=532nmのレーザ光を用いたラマンスペクトルから得られる、Dバンド(1360cm-1)の強度I1360とGバンド(1580nm-1)の強度I1580との比をR2(=I1360/I1580)としたとき、個々の負極活物質粒子のR2が、R2=0.3〜1.0の範囲である粒子が良い。R2が0.3〜1.0の範囲にあれば、どの粒子もほぼ均等に低結晶性炭素が充填されており、負電極板の入出力特性が良好かつ安定化されると考えられるからである。
【0012】
これに対し、上述の負極活物質粒子では、比表面積S1がS1=1.0〜5.0m2/g、X線回折における比R1がR1=0.2〜0.7である。しかも、各負極活物質粒子のうち90%以上の粒子について、ラマンスペクトルにおける比R2がR2=0.3〜1.0となっている。このため、このような負極活物質粒子を電池に用いれば、その電池の入出力特性を向上できる。
【0013】
或いは、本発明の他の態様は、前述の負極活物質粒子を含む負極活物質層を備える負電極板である。
【0014】
上述の負電極板は、リチウムイオンを受け入れやすい前述の負極活物質粒子を含む負極活物質層を備える。このため、この負電極板を用いることで、電池の入出力特性を向上させることができる。
【0015】
或いは、本発明の他の態様は、前述の負電極板を用いてなるリチウムイオン二次電池である。
【0016】
上述の電池は、リチウムイオンを受け入れやすい前述の負極活物質粒子を備える負電極板を用いてなる。このため、入出力特性の良好な電池とすることができる。
【0017】
或いは、本発明の他の態様は、前述のリチウムイオン二次電池を搭載し、このリチウムイオン二次電池に蓄えた電気エネルギを、駆動源の駆動エネルギの少なくとも一部に使用する車両である。
【0018】
上述の車両は、入出力特性を向上させた電池を搭載しているので、良好な走行特性を有する車両とすることができる。
【0019】
なお、車両としては、搭載した電池の電気エネルギを、動力源駆動エネルギの少なくとも一部に使用する車両であれば良く、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド鉄道車両、フォークリフト、電気車いす、電動アシスト自転車、電動スクータが挙げられる。
【0020】
或いは、本発明の他の態様は、前述のリチウムイオン二次電池を搭載し、このリチウムイオン二次電池に蓄えた電気エネルギを、駆動エネルギの少なくとも一部に使用する電池搭載機器である。
【0021】
上述の電池搭載機器は、入出力特性を向上させた電池を搭載しているので、安定した性能の駆動エネルギ源を有する電池搭載機器とすることができる。
【0022】
なお、電池搭載機器としては、搭載した電池の電気エネルギを、駆動エネルギの少なくとも一部に使用する機器であれば良く、例えば、パーソナルコンピュータ、携帯電話、電池駆動の電動工具、無停電電源装置など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器が挙げられる。
【0023】
或いは、本発明の他の態様は、互いに不規則に配向した、黒鉛からなる結晶子と、上記結晶子同士の間に充填され、上記結晶子に比して結晶性の低い低結晶性炭素と、を含み、BET法による比表面積S1が、S1=1.0〜5.0m2/gであり、X線回折分析により得られる、黒鉛結晶の(110)面についてのピーク強度I110と、(004)面についてのピーク強度I004との比R1(=I110/I004)が、R1=0.2〜0.7であり、かつ、波長λ=532nmのレーザ光を用いたラマンスペクトルから得られる、Dバンド(1360cm-1)の強度I1360とGバンド(1580nm-1)の強度I1580との比をR2(=I1360/I1580)としたとき、全体の90%以上の粒子が、R2=0.3〜1.0である負極活物質粒子の製造方法であって、黒鉛からなる粒子内結晶子を含み、外形が球状又は楕円体状の球状黒鉛粒子100重量部と、ピッチ40〜80重量部とを混練した混合物を冷間静水圧加圧法によって加圧成形し、上記ピッチが上記結晶子同士の間に含浸された成形体を作製する加圧成形工程と、上記加圧成形工程の後、上記成形体を、還元雰囲気下、1300℃以下の焼成温度で焼成して、上記ピッチを上記低結晶性炭素とした焼成後成形体を作製する焼成工程と、上記焼成工程の後、上記焼成後成形体を粉砕して上記負極活物質粒子を得る粉砕工程と、を備える負極活物質粒子の製造方法である。
【0024】
上述の負極活物質粒子の製造方法では、球状黒鉛粒子とピッチとを混練した混合物を冷間静水圧加圧法により成形し、ピッチを結晶子同士の間に含浸する加圧成形工程、1300℃以下の焼成温度で焼成する焼成工程、及び、焼成後成形体を粉砕する粉砕工程を備える。このうち、加圧成形工程では、冷間静水圧加圧法を用いて球状黒鉛粒子とピッチとの混合物を等方的に加圧する。このため、例え加圧前の球状黒鉛粒子の各粒子内結晶子が全体として配向していたとしても、混合物を加圧した時点で、あらゆる方向からピッチが粒子内結晶子同士の間に含浸される。このため、粒子内結晶子の向きがランダムになり、加圧成形工程後には、粒子内で各粒子内結晶子は、互いに不規則に配向した状態の各結晶子になる。従って、全体としては等方性を有することになる。また、焼成工程においては、ピッチは、粒子内結晶子(結晶子)よりも結晶性、配向性の低い、等方的な低結晶性炭素になる。
かくして、粒子内で不規則に配向した結晶子と、これら結晶子同士の間に充填された、結晶性の低い、等方的な低結晶性炭素とを含む負極活物質粒子を製造することができる。つまり、粒子内に結晶子を複数有しながらも、粒子全体としては等方的な負極活物質粒子とすることができる。このような負極活物質粒子を電池の負電極板に用いれば、この電池の入出力特性が向上すると共に、電池の容量を確保できる。
【0025】
なお、球状黒鉛粒子としては、例えば、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ(以下、MCMBともいう)や、鱗片状の天然黒鉛を球形化処理(高速気流中で機械的な摩擦、粉砕処理を施し粒子形状を球形化する処理)した球形化天然黒鉛が挙げられる。
また、ピッチとしては、例えば、石炭系又は石油系の硬質ピッチ、軟質ピッチ、コールタールピッチのいずれか一つや、これらのうち2つ以上の混合物が挙げられる。
【0026】
さらに、上述の負極活物質粒子の製造方法であって、前記焼成工程は、前記成形体を1000℃以上の焼成温度で焼成する負極活物質粒子の製造方法とすると良い。
【0027】
ところで、焼成工程の温度が低すぎると、負極活物質粒子を用いた負電極板において入出力特性が低くなることがある。ピッチの焼成が不十分な負極活物質粒子を電池の負電極板に用いた場合、球状黒鉛粒子のみからなる負極活物質粒子を電池の負電極板に用いた場合に比べて、電池の容量が低下する場合がある。これは、球状黒鉛粒子の結晶子間に異物(ピッチに由来する炭素)が含浸されると、低結晶性炭素の生成が十分でないため、リチウムイオンの移動が妨げられるためと考えられる。
【0028】
これに対し、上述の製造方法では、焼成工程での焼成温度を1000℃以上(かつ、1300℃以下)としている。このため、このようにしてできた負極活物質粒子を電池の負電極板に用いると、良好な入出力特性を得られる。これは、ピッチが含浸された球状黒鉛粒子を1000℃以上で焼成すると、球状黒鉛粒子内のピッチが十分焼成されて、等方的な低結晶性炭素になる。従って、充電時には、この低結晶性炭素を通じて、リチウムイオンが結晶子にまで届くためであると考えられる。かくして、この電池の容量を、球状黒鉛粒子のみを用いた電池とほぼ同じにできる上、入出力特性をより向上させた電池とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施形態1にかかる電池の斜視図である。
【図2】実施形態1の負電極板の斜視図である。
【図3】実施形態1にかかる負極活物質粒子の断面図である。
【図4】実施形態2にかかる車両の説明図である。
【図5】実施形態3にかかる電池搭載機器の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(実施形態1)
次に、本発明の実施形態1について、図面を参照しつつ説明する。
まず、本実施形態1にかかるリチウムイオン二次電池1(以下、単に電池1ともいう)について説明する。図1に電池1の斜視図を示す。
本実施形態1にかかる電池1は、後に詳述する、負極活物質粒子22を含む負電極板20を有し、この負電極板20を、正電極板40及びセパレータ(図示しない)と共に扁平に捲回された捲回型の電極体10と、この電極体10を収容してなる電池ケース80と、電池ケース80内に保持され、リチウムイオンを含有する電解液(図示しない)とを備えるリチウムイオン二次電池である。このうち、電解液は、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、体積比でEC:EMC=3:7に調整した混合有機溶媒に、溶質としてLiPF6を添加して1mol/lの濃度とした有機電解液である。
【0031】
また、電池1の電池ケース80は、共にアルミニウム製の電池ケース本体81及び封口蓋82を有する。なお、この電池ケース80と電極体10との間には、樹脂からなり、箱状に折り曲げた、透明な絶縁フィルム(図示しない)が介在させてある。
このうち封口蓋82は矩形板状であり、電池ケース本体81の開口を閉塞して、この電池ケース本体81に溶接されている。この封口蓋82には、電極体10と接続している正極集電部材91及び負極集電部材92のうち、それぞれ先端に位置する正極端子部91A及び負極端子部92Aが貫通しており、図1中、上方に向く蓋表面82aから突出している。これら正極端子部91A及び負極端子部92Aと封口蓋82との間には、それぞれ絶縁性の樹脂からなる絶縁部材95が介在し、互いを絶縁している。さらに、この封口蓋82には矩形板状の安全弁97も封着されている。
【0032】
また、電極体10は、帯状の正電極板40及び負電極板20を、ポリエチレンからなる帯状のセパレータ(図示しない)を介して、これらを扁平な長円形状に捲回してなる捲回型である。
この電極体10のうち、薄板帯状の正電極板40は、帯状でアルミニウムからなる正極集電箔(図示しない)と、この正極集電箔の両主面上に形成されてなる2つの正極活物質層(図示しない)とを有する。一方、薄板帯状の負電極板20は、帯状で銅からなる負極集電箔28と、この負極集電箔28の両主面28A,28A上に形成されてなる2つの負極活物質層21,21とを有する(図2参照)。
【0033】
2つの負極活物質層21,21はいずれも、負極活物質粒子22及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)の結着材26からなる。
このうち、負極活物質粒子22は、図3に模式図を示すように、黒鉛からなる結晶子23と、この結晶子23に比して結晶性の低い低結晶性炭素24とを含む。
【0034】
これらのうち、各結晶子23,23は、単体では異方性を有している。しかしながら、負極活物質粒子22内では、各々の結晶子23,23が互いに不規則に配向している。このため、1つの負極活物質粒子22では、結晶子23,23は全体として等方的であると見ることができる。
また、低結晶性炭素24は、結晶子23よりも結晶性が低い乱層構造(即ち、単結晶の黒鉛が有する積層構造において、積層方向に、ずれたり、傾いたりした構造)である。このため、この低結晶性炭素24は、それ自身で等方的である。
【0035】
なお、上述した負極活物質粒子22のBET比表面積S1について、島津製作所(マイクロメリテック社製)ASAP2010を用いて測定した。なお、脱気条件は110℃の真空中で1時間とし、吸着ガスには窒素を、また、解析法には多点法をそれぞれ用いた。
測定の結果、この負極活物質粒子22のBET比表面積S1は、S1=1.5m2/gであり、前述した範囲(1.0〜5.0m2/g)内にあることを確認した。
【0036】
また、負極活物質粒子22について、スペクトリス社製のX’Pert PROを用いて粉末X線回折を行い、黒鉛結晶の(110)面のピーク強度I110、及び、(004)面のピーク強度I004について測定した。なお、ターゲットにはCuを用いて、管電圧を45kV、管電流を40mAとした。また、得られた回折パターンのバックグラウンドを除去し、CuKβ、CuKα2の2ピークを除去し補正した回折線のピーク強度を測定した。
測定の結果、これらのピーク強度I110とピーク強度I004とを得た。さらに、これらのピーク強度の第1強度比R1を算出したところ、R1=0.5であり、前述した範囲(0.2〜0.7)内にあることを確認した。
【0037】
さらに、各々の負極活物質粒子22,22について、Nicolet社製の分散型レーザーラマン装置を用いてラマン分光分析を行った。
具体的には、個々の負極活物質粒子22について、波長λが532nmのレーザ光で、スキャンを5秒に3回行う顕微測定でラマンスペクトルを得た。このラマンスペクトルから、Dバンド(1360cm-1付近)の強度I1360とGバンド(1580nm-1付近)の強度I1580との第2強度比R2(=I1360/I1580)を算出したところ、前述した範囲(0.3〜1.0)内にある第2強度比R2を有する負極活物質粒子22が、全粒子の90%以上存在することを確認した。
【0038】
また、本発明者らは、上述した負極活物質粒子22を用いた電池1の25℃、及び、0℃における入力特性について簡易に評価すべく、電池1と同様の負電極板、正電極板、セパレータ及び電解液を用いた円筒形状(直径32mm、高さ120mm)の試料電池T1を用意した。
そして、この試料電池T1のうち、製造して間もない新品(初期)のものについて、25℃における試料電池T1への入力(充電時の電力)を示す第1入力値CW1、及び、0℃における試料電池T1への入力を示す第2入力値CW2を測定した。
【0039】
具体的には、25℃の温度環境下で、定電流放電(或いは、定電流充電)により、試料電池T1の充電状態(SOC)をSOC50%に調整する。この調整後、25℃の温度環境下で、その試料電池T1に0.3C一定の試験電流C1で充電して、充電開始から10秒目における試料電池T1の端子間電圧V1を測定した。その後、SOC50%に再調整した試料電池T1に、試験電流C1を1C、3C、5C及び10Cの順に階段状に増加させて充電し、各試験電流C1における10秒目の端子間電圧V1をそれぞれ測定した。
測定した各試験電流C1(0.3,1,3,5,10C)における各端子間電圧V1から、試料電池T1の充電終止電圧である4.1Vに到達する電流値CAを、外挿法によって求め、25℃の温度環境下における試料電池T1の第1入力値CW1を算出した(CW1(W)=CA(A)×4.1(V))。
次いで、0℃の温度環境下における試料電池T1の第2入力値CW2について、同様にして得た。即ち、0℃の温度環境下で、試料電池T1の充電状態を再度SOC50%になるよう調整する。調整後、0℃の温度環境下で、試料電池T1に0.3C、1C、3C、5C及び10Cの順に階段状に増加させた試験電流C2で充電して、各試験電流C2における充電開始から10秒目の端子間電圧V2をそれぞれ測定した。
測定した各試験電流C2(0.3,1,3,5,10C)における各端子間電圧V2から、充電終止電圧(4.1V)に到達する電流値CBを、外挿法によって求め、第2入力値CW2を算出した(CW2(W)=CB(A)×4.1(V))。
【0040】
この試料電池T1と同様にして、比較例である比較電池C1を用意し、この比較電池C1の第1入力値CW1及び第2入力値CW2を、試料電池T1と同様に測定した。
但し、この比較電池C1に用いた粒子は、BET比表面積S1が、S1=1.1m2/gであり、前述した範囲(1.0〜5.0m2/g)内であるものの、第1強度比R1が、R1=0.1であり、前述した範囲(0.2〜0.7)よりも小さい。さらに、全粒子のうち、80%の粒子における第2強度比R2が、R2=0〜0.3の範囲に入り、前述した範囲(0.3〜1.0)よりも小さい。つまり、0.3〜1.0の範囲にある負極活物質粒子が全粒子内にほとんど存在しない。
なお、この比較電池C1に用いた負極活物質粒子は、後述する負極活物質粒子の製造方法において、焼成工程における焼成温度を、試料電池T1の焼成温度(1200℃)よりも高い2400℃としたものである。
これら試料電池T1及び比較電池C1の、第1入力値CW1及び第2入力値CW2を表1に示す。
【0041】

【表1】

【0042】
表1によれば、試料電池T1は、第1入力値CW1が700Wであり、比較電池C1の第1入力値CW1(=600W)よりも高い。また、試料電池T1は、第2入力値CW2が230Wであり、比較電池C1の第2入力値CW2(=150W)よりも高いことが判る。
これは、比較電池C1に用いた負極活物質粒子は、その焼成温度が、試料電池T1に用いた負極活物質粒子22の焼成温度よりも高いので、ピッチ34(後述)に由来する炭素の結晶化が進み、粒子全体として異方性が高い。このため、これを用いた比較電池C1では、等方的な負極活物質粒子22を用いた試料電池T1に比して、その低温(0℃)や常温(25℃)での各入力特性が低くなったと考えられる。
なお、試料電池T1及び比較電池C1の出力特性についても、上述した入力特性と同じ傾向の結果を得た。即ち、試料電池T1の出力の値は、常温(25℃)及び低温(0℃)のいずれでも、比較電池C1の出力の値よりも高くなった。
【0043】
このように、本実施形態1にかかる電池1(試料電池T1)に用いた負極活物質粒子22では、結晶子23をなす黒鉛同士が負極活物質粒子22内で互いに不規則に配向し、このような結晶子23の間に低結晶性炭素24が充填されている。このため、この負極活物質粒子22は、等方的な低結晶性炭素24が表面のみならず内部にまで存在するため、リチウムイオンの吸蔵・放出経路や拡散経路の自由度が高い。さらに、各々の負極活物質粒子22,22は不規則に配向した複数の結晶子23,23を有するので、1つの粒子全体として見れば、結晶子23についても等方的である。従って、このような負極活物質粒子22を電池1の負電極板20に用いれば、充電の際、その負極活物質粒子22の向きによらず、リチウムイオンを受け入れる経路が形成されやすい。このため、電池1の入出力特性を向上させることができる。
【0044】
その一方で、この負極活物質粒子22は、低結晶性炭素24に比して、リチウムイオンを多く受け入れうる結晶性の高い結晶子23を有しているので、例えば、低結晶性炭素24のみからなる負極活物質粒子に比して、より多くのリチウムイオンを受け入れることができる。従って、この負極活物質粒子22を負電極板20に用いた電池1において、その容量を大きくすることができる。
【0045】
また、この負極活物質粒子22では、比表面積S1がS1=1.5m2/gとなっており、S1=1.0〜5.0m2/gの範囲に入っている。また、第1強度比R1がR1=0.3であり、R1=0.2〜0.7の範囲に入っている。しかも、各負極活物質粒子22,22のうち90%以上の粒子について、第2強度比R2がR2=0.3〜1.0である。このため、このような負極活物質粒子22を電池1に用いれば、その電池1の入出力特性を向上できる。
【0046】
また、負電極板20は、リチウムイオンを受け入れやすい前述の負極活物質粒子22を含む負極活物質層21を備える。このため、この負電極板20を用いることで、電池1の入出力特性を向上させることができる。
【0047】
また、この電池1は、リチウムイオンを受け入れやすい前述の負極活物質粒子22を備える負電極板20を用いてなる。このため、入出力特性が良好である電池1とすることができる。
【0048】
次に、本実施形態1にかかる電池1の製造方法について説明する。
まず、電池1の負電極板20に用いる負極活物質粒子22の製造方法について説明する。この負極活物質粒子22の製造方法には、後述する球状黒鉛粒子とピッチとを混練する混練工程、混練した混合物を冷間静水圧加圧法によって加圧成形して、成形体を作製する加圧成形工程、成形体を焼成して焼成後成形体を作製する焼成工程、及び、その焼成後成形体を粉砕して負極活物質粒子を得る粉砕工程が含まれる。
【0049】
まず、混練工程では、球状黒鉛粒子32を100重量部と、ピッチ34を70重量部とを、150〜170℃の温度環境下で混練した。なお、球状黒鉛粒子32には、平均粒径が6μmで黒鉛化処理を施した、大阪ガス株式会社製の黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)を、ピッチ34には、石炭系硬質ピッチをそれぞれ用いた。また、球状黒鉛粒子32は、この粒子内に黒鉛からなる粒子内結晶子33を含んでいる。
【0050】
次いで、加圧成形工程では、混練してできた混合物MXを、公知の冷間静水圧加圧法を用い、1000kgf/cm2の圧力で等方的に加圧成形して、成形体BRを作製した。この成形体BRでは、加圧成形によって、ピッチ34が球状黒鉛粒子32の内部に含浸されている。さらに、この球状黒鉛粒子32内にあった粒子内結晶子33は、ピッチ34の含浸により、球状黒鉛粒子32内において互いに不規則に配向した上述の結晶子23になる。
【0051】
上述の加圧成形工程に続いて焼成工程では、成形体BRを、アルゴンガスの還元雰囲気下で、1200℃の焼成温度で焼成する。これにより、成形体BR中の結晶子23の形態を維持しつつ、ピッチ34を低結晶性炭素24とした焼成後成形体BSができあがる。
【0052】
焼成工程の後、公知のボールミルを用いて焼成後成形体BSを粉砕して、負極活物質粒子22を得た。なお、本実施形態1では、粉砕後、公知の乾式分級器を用いて分級し、平均粒径が9.8μmの負極活物質粒子22を得た。
【0053】
上述の負極活物質粒子22を、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる結着材26を予め溶解させたN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に投入し、混練してペースト(図示しない)を作製した。このペーストを、帯状の負極集電箔28の両面に塗布し、乾燥させた。その後、図示しないロールプレスで、乾燥させたペーストを圧縮し、高密度化した負極活物質層21を有する負電極板20を作製した。
【0054】
一方、結着材を溶解したNMP中に、LiNi0.8Co0.15Al0.052からなる正極活物質粒子(図示しない)、及び、アセチレンブラックからなる導電材(図示しない)をそれぞれ投入し混練してできたペースト(図示しない)を、帯状の正極集電箔(図示しない)の両面に塗布し、乾燥させた。その後、図示しないロールプレスで乾燥させたペーストを圧縮し、正極活物質層(図示しない)を有する正電極板40を作製した。
【0055】
上述のように作製した正電極板40と負電極板20との間に、セパレータ(図示しない)を介在させて捲回し、電極体10とする。さらに、正電極板40及び負電極板20にそれぞれ正極集電部材91及び負極集電部材92を溶接し、電池ケース本体11に挿入し、図示しない電解液を注入後、封口蓋12で電池ケース本体11を溶接で封口する。かくして、電池1が完成する(図1参照)。
【0056】
ところで、本発明者らは、上述した負極活物質粒子の製造方法の条件を異ならせてできた負極活物質粒子(試料粒子F2,F3,F4,F5,F6及び比較粒子H1,H2,H3,H4,H5,H6,H7)をも、併せて用意した(表2参照)。
具体的には、試料粒子F2は、焼成工程において、焼成温度を900℃にした点で、負極活物質粒子22の製造方法と異なる。
また、試料粒子F3は、混練工程において、ピッチ34の量を80重量部に変更した点、及び、焼成工程において、焼成温度を1000℃にした点で、負極活物質粒子22の製造方法と異なる。
また、試料粒子F4は、混練工程において、ピッチ34の量を50重量部に変更した点、及び、焼成工程において、焼成温度を1300℃にした点で、負極活物質粒子22の製造方法と異なる。
また、試料粒子F5は、混練工程において、球状黒鉛粒子32として、MCMBに代えて球形化天然黒鉛を用いた点、及び、焼成工程において、焼成温度を1300℃にした点で、負極活物質粒子22の製造方法と異なる。なお、この球形化天然黒鉛は、平均粒径が11μmの鱗片状天然黒鉛について、ホソカワミクロン株式会社製のメカノフュージョン装置を用いて、球形化処理(高速気流中で機械的な摩擦、粉砕処理を施し粒子形状を球形化する処理)を予め施してなる球形状の黒鉛粒子である。
また、試料粒子F6は、混練工程において、球状化天然黒鉛を用いた点、ピッチ34の量を40重量部に変更した点、及び、焼成工程において、焼成温度を1000℃にした点で、負極活物質粒子22の製造方法と異なる。
【0057】
一方、比較粒子H1は、焼成工程において、焼成温度を2400℃にした点で、負極活物質粒子22の製造方法と異なる。なお、この比較粒子H1を負電極板に用いた電池が、前述した比較電池C1である。
また、比較粒子H2は、MCMBからなる球状黒鉛粒子32である。つまり、球状黒鉛粒子32に、上述の混練工程、加圧成形工程、焼成工程及び粉砕工程等を行わず、球状黒鉛粒子32そのままを負極活物質粒子とする。
また、比較粒子H3は、加圧成形工程において加圧成形を行っていない点、即ち球状黒鉛粒子32を100重量部と、ピッチ34を70重量部とを、150〜170℃の温度環境下で混練し、通常のプレス成形をした後、焼成工程を行った点で、負極活物質粒子22の製造方法と異なる。
また、比較粒子H4は、焼成工程において、焼成温度を1400℃にした点で、負極活物質粒子22の製造方法と異なる。
また、比較粒子H5及び比較粒子H6は、混練工程において、ピッチ34の量を30重量部及び90重量部にそれぞれ変更した点で、負極活物質粒子22の製造方法と異なる。
また、比較粒子H7は、混練工程において、球状黒鉛粒子32として、MCMBに代えて鱗片状天然黒鉛を用いた点、及び、焼成工程において、焼成温度を1300℃にした点で、負極活物質粒子22の製造方法と異なる。
【0058】
上述した試料粒子F2〜F6及び比較粒子H1〜H7の各比表面積S1及び各第1強度比R1を測定した。また、各粒子について、0.3〜1.0の範囲内にある第2強度比R2を有する粒子が、全粒子の90%以上あるか否かを確認した。これらの結果について、表2に示す。なお、表2では、0.3〜1.0の範囲内にある第2強度比R2を有する粒子が、全粒子の90%以上あれば「○」、逆に全粒子の90%未満であれば「×」を表記した。
【0059】

【表2】

【0060】
また、前述した試料電池T1及び比較電池C1と同様にして、試料粒子F2〜F6、あるいは、比較粒子H2〜H7を負電極板に含んだ、円筒形状(直径32mm,高さ120mm)の試料電池T2〜T6及び比較電池C2〜C7を用意した。
これら試料電池T2〜T6及び比較電池C2〜C7について、25℃及び0℃における入力特性を簡易に評価すべく、試料電池T1及び比較電池C1と同様にして、第1入力値CW1及び第2入力値CW2を測定した。
さらに、これら試料電池T1〜T6及び比較電池C1〜C7について、各電池の容量を測定した。
具体的には、これら各電池を、それぞれ25℃の環境下で満充電(即ち、1Cの電流値で4.1V(満充電電圧)まで定電流充電し、その後、その電圧を保ちつつ電流値を0.05Cまで徐々に低下させて、60分間充電)にした。次いで、満充電の各電池について、1Cの電流値で3.0Vとなるまで定電流放電を行い、放電した放電容量(Ah)をそれぞれ測定した。
各電池の測定結果(第1入力値CW1、第2入力値CW2及び放電容量)を表2に示す。なお、比較電池C1の第1入力値CW1=600(W)、及び、第2入力値CW2=150(W)であったことから、表2では、第1入力値CW1が680W以上であれば「○」、逆に680W未満であれば「×」、また、第2入力値CW2が180W以上であれば「○」、逆に180W未満であれば「×」と判定した。
【0061】
表2によれば、比較電池C1〜C7では、第1入力値CW1が680W以上で、かつ、第2入力値CW2が180W以上となるものは無い。これから、比較電池C1〜C7では、25℃及び0℃の両方の環境温度で入力特性が向上したものは無い。
これに対し、試料電池T1〜T6では、第1入力値CW1が680W以上で、かつ、第2入力値CW2が180W以上である。これから、試料電池T1〜T6では、いずれの環境温度においても、入力特性に向上が見られる。なお、これらの試料電池T1〜T6では、比表面積S1が1.0〜5.0m2/gの範囲内、第1強度比R1が0.2〜0.7の範囲内であり、しかも、0.3〜1.0の範囲内にある第2強度比R2を有する粒子が全粒子の90%以上を全て満たす負極活物質粒子(負極活物質粒子22及び試料粒子F2〜F6)が用いられている。
また、試料電池T1〜T6及び比較電池C1〜T7の出力特性についても、上述した入力特性と同様の結果を得た。即ち、比較電池C1〜C7の出力特性に向上しなかったのに対し、試料電池T1〜T6の出力特性は向上した。
【0062】
また比較電池C2、試料電池T1及び試料電池T2の各放電容量について検討する。MCMBのみからなる比較粒子H2を用いた比較電池C2の放電容量は、7.4Ahである。一方、MCMBからなる球状黒鉛粒子を用いた、試料電池T1及び試料電池T2では、放電容量がそれぞれ7.2Ah、6.7Ahである。このように、試料電池T1の放電容量が比較電池C2の放電容量とほぼ同じであるのに対し、試料電池T2の放電容量は低くなっている。なお、前述したように、試料電池T1に用いた負極活物質粒子22と、試料電池T2に用いた試料粒子F2とは、焼成工程の焼成温度で相異している(負極活物質粒子22の焼成温度が1200℃であるのに対し、試料粒子F2の焼成温度は900℃)。
これにより、焼成工程において、1000℃以上の1200℃の焼成温度で焼成した負極活物質粒子22を負電極板に用いた試料電池T1では、MCMBのみを負電極板に用いた電池(比較電池C2)とほぼ同じ電池容量にできることが判った。これは、MCMBの結晶子間に異物(ピッチに由来する炭素)が含浸されると、低結晶性炭素の生成が十分でないため、リチウムイオンの移動が妨げられる。しかし、ピッチが含浸されたMCMBを1000℃以上で焼成すると、MCMB内のピッチが十分に焼成されて、等方的な低結晶性炭素になる。従って、充電時には、この低結晶性炭素を通じて、リチウムイオンが結晶子にまで届くためであると考えられる(試料電池T1の負極活物質粒子22)。
【0063】
また、本実施形態1にかかる電池1の負極活物質粒子22、及び、試料粒子F2〜F6の製造方法では、球状黒鉛粒子32とピッチ34とを混練した混合物MXを冷間静水圧加圧法により成形し、ピッチ34を結晶子23同士の間に含浸する加圧成形工程、1300℃以下の焼成温度で焼成する焼成工程、及び、焼成後成形体を粉砕する粉砕工程を備える。このうち、加圧成形工程では、冷間静水圧加圧法を用いて球状黒鉛粒子32とピッチ34との混合物MXを等方的に加圧する。このため、例え加圧前の球状黒鉛粒子32の各粒子内結晶子33が全体として配向していたとしても、混合物MXを加圧した時点で、あらゆる方向からピッチ34が粒子内結晶子33同士の間に含浸される。このため、粒子内結晶子33の向きがランダムになり、加圧成形工程後には、粒子内で各粒子内結晶子33,33は、互いに不規則に配向した状態の結晶子23,23になる。従って、全体としては等方性を有することになる。また、焼成工程においては、ピッチ34は、粒子内結晶子33(結晶子23)よりも結晶性、配向性の低い、等方的な低結晶性炭素24になる。
かくして、粒子内で不規則に配向した結晶子23と、これら結晶子23同士の間に充填された、結晶性の低い、等方的な低結晶性炭素24とを含む負極活物質粒子22、及び、試料粒子F2〜F6を製造することができる。つまり、粒子内に結晶子23を複数有しつつ、粒子全体として等方的な負極活物質粒子22、及び、試料粒子F2〜F6とすることができる。このような負極活物質粒子22及び試料粒子F2〜F6を電池1及び試料電池T1〜T6の負電極板に用いれば、これら電池1及び試料電池T1〜T6の入出力特性が向上すると共に、電池1及び試料電池T1〜T6の容量を確保できる。
【0064】
また、負極活物質粒子22及び試料粒子F3〜F6の製造方法では、焼成工程での焼成温度を1000℃以上としている。このため、このようにしてできた負極活物質粒子22、及び、試料粒子F3〜F6を電池1及び試料電池T1,T3〜T6の負電極板に用いると、これら電池1及び試料電池T1,T3〜T6の容量を、球状黒鉛粒子32のみを負電極板に用いた比較電池C2とほぼ同じにできる上、入出力特性をより向上させた電池1及び試料電池T1,T3〜T6とすることができる。
【0065】
(実施形態2)
本実施形態2にかかる車両100は、前述した電池1を複数含むバッテリパック110を搭載したものである。具体的には、図4に示すように、車両100は、エンジン140、フロントモータ120及びリアモータ130を併用して駆動するハイブリッド自動車である。この車両100は、車体190、エンジン140、これに取り付けられたフロントモータ120、リアモータ130、ケーブル150、インバータ160、及び、矩形箱形状のバッテリパック110を有している。このうちバッテリパック110は、前述した電池1を複数収容してなる。
【0066】
本実施形態2にかかる車両100は、入出力特性を向上させた電池1を搭載しているので、良好な走行特性を有する車両100とすることができる。
【0067】
(実施形態3)
また、本実施形態3のハンマードリル200は、前述した電池1を含むバッテリパック210を搭載したものであり、図5に示すように、バッテリパック210、本体220を有する電池搭載機器である。なお、バッテリパック210はハンマードリル200の本体220のうち底部221に可能に収容されている。
【0068】
本実施形態3にかかるハンマードリル200は、入出力特性を向上させた電池1を搭載しているので、安定した性能の駆動エネルギ源を有するハンマードリル200とすることができる。
【0069】
以上において、本発明を実施形態1〜3に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0070】
1 電池(リチウムイオン二次電池)
20 負電極板
21 負極活物質層
22 負極活物質粒子
23 結晶子
24 低結晶性炭素
32 球状黒鉛粒子
33 粒子内結晶子
34 ピッチ
100 車両
200 ハンマードリル(電池搭載機器)
BR 成形体
BS 焼成後成形体
MX 混合物
R1 第1強度比(ピーク強度I110とピーク強度I004との比)
R2 第2強度比(ピーク強度I1360とピーク強度I1580との比)
S1 比表面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに不規則に配向した、黒鉛からなる結晶子と、
上記結晶子同士の間に充填され、上記結晶子に比して結晶性の低い低結晶性炭素と、を含み、
BET法による比表面積S1が、S1=1.0〜5.0m2/gであり、
X線回折分析により得られる、黒鉛結晶の(110)面についてのピーク強度I110と、(004)面についてのピーク強度I004との比R1(=I110/I004)が、R1=0.2〜0.7であり、かつ、
波長λ=532nmのレーザ光を用いたラマンスペクトルから得られる、Dバンド(1360cm-1)の強度I1360とGバンド(1580nm-1)の強度I1580との比をR2(=I1360/I1580)としたとき、全体の90%以上の粒子が、R2=0.3〜1.0の特性を有する
負極活物質粒子。
【請求項2】
請求項1に記載の負極活物質粒子を含む負極活物質層を備える負電極板。
【請求項3】
請求項2に記載の負電極板を用いてなるリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
請求項3に記載のリチウムイオン二次電池を搭載し、このリチウムイオン二次電池に蓄えた電気エネルギを、駆動源の駆動エネルギの少なくとも一部に使用する車両。
【請求項5】
請求項3に記載のリチウムイオン二次電池を搭載し、このリチウムイオン二次電池に蓄えた電気エネルギを、駆動エネルギの少なくとも一部に使用する電池搭載機器。
【請求項6】
互いに不規則に配向した、黒鉛からなる結晶子と、
上記結晶子同士の間に充填され、上記結晶子に比して結晶性の低い低結晶性炭素と、を含み、
BET法による比表面積S1が、S1=1.0〜5.0m2/gであり、
X線回折分析により得られる、黒鉛結晶の(110)面についてのピーク強度I110と、(004)面についてのピーク強度I004との比R1(=I110/I004)が、R1=0.2〜0.7であり、かつ、
波長λ=532nmのレーザ光を用いたラマンスペクトルから得られる、Dバンド(1360cm-1)の強度I1360とGバンド(1580nm-1)の強度I1580との比をR2(=I1360/I1580)としたとき、全体の90%以上の粒子が、R2=0.3〜1.0の特性を有する
負極活物質粒子の製造方法であって、
黒鉛からなる粒子内結晶子を含み、外形が球状又は楕円体状の球状黒鉛粒子100重量部と、ピッチ40〜80重量部とを混練した混合物を冷間静水圧加圧法によって加圧成形し、上記ピッチが上記結晶子同士の間に含浸された成形体を作製する加圧成形工程と、
上記加圧成形工程の後、上記成形体を、還元雰囲気下、1300℃以下の焼成温度で焼成して、上記ピッチを上記低結晶性炭素とした焼成後成形体を作製する焼成工程と、
上記焼成工程の後、上記焼成後成形体を粉砕して上記負極活物質粒子を得る粉砕工程と、を備える
負極活物質粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の負極活物質粒子の製造方法であって、
前記焼成工程は、前記成形体を1000℃以上の焼成温度で焼成する
負極活物質粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−253688(P2011−253688A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126220(P2010−126220)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】