説明

負荷イナーシャ推定方法及び制御パラメータ調整方法

【課題】負荷イナーシャ推定方法及び制御パラメータ調整方法を提供する。
【解決手段】負荷位置制御システムにおいて、フィードバック制御系21による負荷位置制御試験を実施して、特定の負荷位置θLで生じる第1の位置偏差Δθを測定し、負荷位置制御システムのモデルである負荷イナーシャ推定モデル60において、フィードバック制御系モデルによる送り系モデルの負荷位置制御シミュレーションを実施し、このときに前記特定の負荷位置で生じる第2の位置偏差Δθが、前記第1の位置偏差に等しくなるまで、送り系モデルに含まれている負荷イナーシャJLを調整して前記負荷位置制御シミュレーションを繰り返し、その結果、前記第2の位置偏差が、前記第1の位置偏差に等しくなれば、このときの送り系モデルの負荷イナーシャが実機の送り系の負荷イナーシャであると推定する。また、この推定した負荷イナーシャで逆特性モデル50の係数a3〜a5を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工作機械などの産業機械に適用する負荷イナーシャ推定方法及び制御パラメータ調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械などの産業機械における送り系の負荷位置制御には、古典制御理論であるフィードバック制御が一般的に使用されている。
【0003】
図4には工作機械の一例を示す。図示例の工作機械は門形マシニングセンタであり、ベッド1と、テーブル2と、門形のコラム3と、クロスレール4と、サドル5と、ラム6と、主軸7とを有している。
【0004】
ベッド1上にテーブル2が設置され、テーブル2を跨ぐようにしてコラム33が設置されている。テーブル2は加工時にワークWが載置され、送り系(図4では図示省略:図5参照)により、ベッド1上のガイドレール1aに沿ってX軸方向に直線移動する。クロスレール4は送り系(図示省略)により、コラム前面3aのガイドレール3aに沿ってZ軸方向に直線移動する。サドル5は送り系(図示省略)により、クロスレール前面4aのガイドレール4bに沿ってY軸方向に直線移動する。ラム6はサドル5に設けられ、送り系(図示省略)により、Z軸方向に直線移動する。主軸7はラム6内で回転可能に支持され、先端にアタッチメント8を介して工具9が装着される。
【0005】
従って、ワークWを工具9で加工する際、工具9は主軸7によって回転駆動され、主軸7及び工具9はクロスレール4又はラム6とともにZ軸方向に直線移動し、サドル5とともにY軸方向に直線移動し、テーブルル2及びワークWはX方向に直線移動する。そして、このときにワークWを高精度に加工するため、主軸7(工具9)やテーブル2(ワークW)の移動位置は、フィードバック制御によって高精度に制御することが要求される。
【0006】
図5にはフィードバック制御系及び送り系の一般的な構成例を示す。詳細な説明は省略するが、図5に示すテーブルル2の送り系11は、サーボモータ12、減速ギヤ装置13、ブラケット14、ボールスクリュー15(ネジ部15a,ナット部15b)などから構成されており、テーブルル2及びワークWをX軸方向へ直線移動させる。この送り系11に対してフィードバック制御系16では、位置検出器6で検出されたテーブル2(ワークW)の位置である負荷位置θLが、数値制御(NC)装置17から与えられる位置指令θに追従するようにサーボモータ12の回転を制御する。
【0007】
しかし、図示例のようなフィードバック制御系16では十分な追従性を得ることは難しく、位置指令θに対する負荷位置θLの追従遅れ(即ち負荷位置の遅れ)が生じてしまう。従って、この追従遅れ(負荷位置の遅れ)に対処するため、図示は省略するが、位置指令θを微分して位置遅れ補償を行うフィードフォワード制御機能を、フィードバック制御系16に付加することも一般的に行われている。
【0008】
しかし、このようなフィードフォワード制御機能をフィードバック制御系に付加したとしても、制御対象の機械要素に発生する撓みや捩じれなどの動的な変形によって生じる位置遅れや振動を補償することはできない。例えば図5の送り系11では、ボールスクリュー15のネジ部15aの剛性は有限であり、テーブル2の移動時には負荷イナーシャ(ワーク重量)や負荷位置θLに応じたネジ部15aの捩じれや撓みなどが発生するが、これによって生じる負荷位置θLの追従遅れを前記フィードフォワード制御機能で補償することはできない。
【0009】
そこで、下記の特許文献1には、送り系の特性を近似した特性モデル(伝達関数)を求め、この特性モデルの逆特性モデル(逆伝達関数)を求めて、この逆特性モデルをフィードバック制御系に付加することにより、送り系のボールスクリューの捩じれや撓みなどによって生じる負荷位置の遅れや速度の遅れを補償する技術が開示されている(図1,図2参照:詳細後述)。なお、制御対象の逆特性モデルを制御系に付加する技術としては、下記の特許文献2,3に開示されているものなどもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−201169号公報
【特許文献2】特許第3351990号公報
【特許文献3】特許第3739746号公報
【特許文献4】特許第4137673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、図5において、テーブル2の重量は一定であるが、ワークWの重量は加工製品の種類などによって異なるため、テーブル2の重量とワークWの重量によって決まる負荷イナーシャも、ワークWの重量が変化するのにともなって変化する。
【0012】
従って、送り系の逆特性モデル(逆伝達関数)に含まれている負荷イナーシャを常に一定値にすると、前記一定値とは異なる重量のワークWをテーブル2に載置して加工をする際には、送り系の逆特性モデルに含まれている負荷イナーシャと、送り系の実際の負荷イナーシャとが異なってしまう。このため、前記送り系の逆特性モデルがフィードバック制御系に付加されていても、前記一定値とは異なる重量のワークWを加工する際には、ボールスクリュー15の捩じれや撓みなどによって発生する負荷位置θLの追従遅れを逆特性モデルによって十分に補償することができず、位置指令θと負荷位置θLとの位置偏差が大きくなってしまうため、当該ワークWを高精度に加工することができない。
【0013】
このため、送り系の逆特性モデルを付加したフィードバック制御系において、どのような重量のワークWに対しても高精度な加工を行うことができるようにするためには、ワークWの重量に対応する負荷イナーシャを推定し、この推定した負荷イナーシャにより、送り系の逆特性モデルに含まれている負荷イナーシャを調整する必要がある。
【0014】
従って本発明は上記の事情に鑑み、ワーク重量に対応する負荷イナーシャを推定する負荷イナーシャ推定方法、及び、この推定した負荷イナーシャにより、送り系の逆特性モデルに含まれている負荷イナーシャを調整する制御パラメータ調整方法を提供することを課題とする。
なお、上記の特許文献4には無負荷時と負荷時のモータのトルク差から負荷重量を算出する方法が記載されているが、本発明の方法は位置偏差などに基づいて負荷イナーシャを推定するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する第1発明の負荷イナーシャ推定方法は、送り系の逆特性モデルを付加したフィードバック制御系により、前記逆特性モデルから出力される前記送り系の動的な誤差要因を補償するための補償量に基づいて、前記送り系の負荷位置を制御する負荷位置制御システムに対し、前記送り系の負荷イナーシャを推定する方法であって、
前記負荷位置制御システムにおいて、前記フィードバック制御系に位置指令を与えることにより、前記フィードバック制御系による負荷位置制御試験を実施し、このときに特定の負荷位置で生じる前記位置指令と負荷位置との位置偏差を測定し、
前記負荷位置制御システムのモデルである負荷イナーシャ推定モデルにおいて、前記フィードバック制御系のモデルに前記位置指令を与えることにより、前記フィードバック制御系のモデルによる前記送り系のモデルの負荷位置制御シミュレーションを実施し、且つ、前記負荷位置制御シミュレーションにおいて前記特定の負荷位置で生じる前記位置指令と負荷位置の位置偏差が、前記負荷位置制御試験で測定した前記位置偏差に等しくなるまで、前記送り系のモデルに含まれている負荷イナーシャを調整して前記負荷位置制御シミュレーションを繰り返し、その結果、前記負荷位置制御シミュレーションにおいて前記特定の負荷位置で生じる前記位置偏差が、前記負荷位置制御試験で測定した前記位置偏差に等しくなれば、このときの前記送り系のモデルに含まれている負荷イナーシャが、前記送り系の負荷イナーシャであると推定すること、
を特徴とする。
【0016】
また、第2発明の負荷イナーシャ推定方法は、送り系の逆特性モデルを付加したフィードバック制御系により、前記逆特性モデルから出力される前記送り系の動的な誤差要因を補償するための補償量に基づいて、前記送り系の負荷位置を制御する負荷位置制御システムに対し、前記送り系の負荷イナーシャを推定する方法であって、
前記負荷位置制御システムにおいて、前記フィードバック制御系に位置指令を与えることにより、前記フィードバック制御系による負荷位置制御試験を実施し、このときに特定の負荷位置で生じる前記位置指令と負荷位置との位置偏差を測定し、
又は、前記負荷位置制御システムのモデルにおいて、前記フィードバック制御系のモデルに前記位置指令を与えることにより、前記フィードバック制御系のモデルによる前記送り系のモデルの負荷位置制御シミュレーションを実施し、このときに特定の負荷位置で生じる前記位置指令と負荷位置の位置偏差を測定し、
予め測定された無負荷時に前記特定の負荷位置で生じる前記位置指令と負荷位置の位置偏差と、負荷時に前記特定の負荷位置で生じる前記位置指令と負荷位置の位置偏差とに基づいて予め設定されている、負荷イナーシャの増加に比例して位置偏差がリニアに増加する位置偏差特性データに基づいて、前記負荷位置制御試験又は前記負荷位置制御シミュレーションにより測定した前記位置偏差に対応する負荷イナーシャを求め、この負荷イナーシャが前記送り系の負荷イナーシャであると推定すること、
を特徴とする。
【0017】
また、第3発明の制御パラメータ調整方法は、送り系の逆特性モデルを付加したフィードバック制御系により、前記逆特性モデルから出力される前記送り系の動的な誤差要因を補償するための補償量に基づいて、前記送り系の負荷位置を制御する負荷位置制御システムに対し、前記逆特性モデルに含まれている負荷イナーシャを調整する制御パラメータ調整方法であって、
第1又は第2発明の負荷イナーシャ推定方法で推定された負荷イナーシャに基づいて、前記逆特性モデルに含まれている負荷イナーシャを調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
第1発明の負荷イナーシャ推定方法によれば、送り系の逆特性モデルを付加したフィードバック制御系により、前記逆特性モデルから出力される前記送り系の動的な誤差要因を補償するための補償量に基づいて、前記送り系の負荷位置を制御する負荷位置制御システムに対し、前記送り系の負荷イナーシャを推定する方法であって、前記負荷位置制御システムにおいて、前記フィードバック制御系に位置指令を与えることにより、前記フィードバック制御系による負荷位置制御試験を実施し、このときに特定の負荷位置で生じる前記位置指令と負荷位置との位置偏差を測定し、前記負荷位置制御システムのモデルである負荷イナーシャ推定モデルにおいて、前記フィードバック制御系のモデルに前記位置指令を与えることにより、前記フィードバック制御系のモデルによる前記送り系のモデルの負荷位置制御シミュレーションを実施し、且つ、前記負荷位置制御シミュレーションにおいて前記特定の負荷位置で生じる前記位置指令と負荷位置の位置偏差が、前記負荷位置制御試験で測定した前記位置偏差に等しくなるまで、前記送り系のモデルに含まれている負荷イナーシャを調整して前記負荷位置制御シミュレーションを繰り返し、その結果、前記負荷位置制御シミュレーションにおいて前記特定の負荷位置で生じる前記位置偏差が、前記負荷位置制御試験で測定した前記位置偏差に等しくなれば、このときの前記送り系のモデルに含まれている負荷イナーシャが、前記送り系の負荷イナーシャであると推定することを特徴としているため、送り系の負荷重量(例えば工作機械のテーブルに載置されるワークの重量)が変化しても、当該負荷重量に応じた負荷イナーシャを容易に推定することができる。
【0019】
第2発明の負荷イナーシャ推定方法によれば、送り系の逆特性モデルを付加したフィードバック制御系により、前記逆特性モデルから出力される前記送り系の動的な誤差要因を補償するための補償量に基づいて、前記送り系の負荷位置を制御する負荷位置制御システムに対し、前記送り系の負荷イナーシャを推定する方法であって、前記負荷位置制御システムにおいて、前記フィードバック制御系に位置指令を与えることにより、前記フィードバック制御系による負荷位置制御試験を実施し、このときに特定の負荷位置で生じる前記位置指令と負荷位置との位置偏差を測定し、又は、前記負荷位置制御システムのモデルにおいて、前記フィードバック制御系のモデルに前記位置指令を与えることにより、前記フィードバック制御系のモデルによる前記送り系のモデルの負荷位置制御シミュレーションを実施し、このときに特定の負荷位置で生じる前記位置指令と負荷位置の位置偏差を測定し、予め測定された無負荷時に前記特定の負荷位置で生じる前記位置指令と負荷位置の位置偏差と、負荷時に前記特定の負荷位置で生じる前記位置指令と負荷位置の位置偏差とに基づいて予め設定されている、負荷イナーシャの増加に比例して位置偏差がリニアに増加する位置偏差特性データに基づいて、前記負荷位置制御試験又は前記負荷位置制御シミュレーションにより測定した前記位置偏差に対応する負荷イナーシャを求め、この負荷イナーシャが前記送り系の負荷イナーシャであると推定することを特徴としているため、送り系の負荷重量(例えば工作機械のテーブルに載置されるワークの重量)が変化しても、当該負荷重量に応じた負荷イナーシャを容易に推定することができる。
【0020】
第3発明の制御パラメータ調整方法によれば、送り系の逆特性モデルを付加したフィードバック制御系により、前記逆特性モデルから出力される前記送り系の動的な誤差要因を補償するための補償量に基づいて、前記送り系の負荷位置を制御する負荷位置制御システムに対し、前記逆特性モデルに含まれている負荷イナーシャを調整する制御パラメータ調整方法であって、第1又は第2発明の負荷イナーシャ推定方法で推定された負荷イナーシャに基づいて、前記逆特性モデルに含まれている負荷イナーシャを調整することを特徴としているため、送り系の負荷重量(例えば工作機械のテーブルに載置されるワークの重量)が変化しても、送り系のパラメータと逆特性モデルのパラメータ(例えば負荷イナーシャの項を含んでいる3次微分項以上の係数(詳細後述)など)を一致させることができる。このため、高精度に負荷位置を制御して位置指令に追従させることができ、例えば工作機械では高精度な加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態例1に係る負荷イナーシャ推定方法及び制御パラメータ調整方法を実施する負荷位置制御システムの構成を示す図である。
【図2】負荷イナーシャ推定モデルの構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態例2に係る負荷イナーシャ推定方法及び制御パラメータ調整方法を実施する負荷位置制御システムの構成を示す図である。
【図4】従来の工作機械の構成を示す図である。
【図5】従来の負荷位置制御システム(フィードバック制御系及びテーブル送り系)の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
<実施の形態例1>
(フィードバック制御系及び送り系の説明)
図1に基づいて、まず、本発明の実施の形態例に係る負荷イナーシャ推定方法及び制御パラメータ調整方法を実施する工作機械(図4参照)の負荷位置制御システム(フィードバック制御系21及び送り系22)の構成について説明する。
【0024】
図1に示すように、テーブル送り系22は駆動源であるサーボモータ23と、モータ側ギヤ24aと負荷側ギヤ24bとを有する減速ギヤ装置24と、ベアリング25を内蔵したブラケット26と、ネジ部27aとナット部27bとを有するボールスクリュー27と、位置検出器28と、パルスエンコーダ29とを備えている。
【0025】
両側のブラケット26はベッド1に固定され、ベアリング25を介してボールスクリュー27のネジ部27aを回転可能に支持している。ボールスクリュー27のナット部27bはテーブルル2に取り付けられ、ネジ部27aに螺合している。サーボモータ23は減速ギヤ装置24を介してボールスクリュー27のネジ部27aに連結されている。テーブル2にはワークWが設置される。また、テーブル2には位置検出器(図示例ではインダクトシン方式のリニアスケール)28が取り付けられ、サーボモータ23にはパルスエンコーダ29が取り付けられている。
【0026】
従って、サーボモータ23の回転力が減速ギヤ装置24を介してボールスクリュー27のネジ部27aへ伝達されてネジ部26aが矢印Aの如く回転すると、ボールスクリュー27のナット部27bとともにテーブルル2がX軸方向に直線移動する。このとき、位置検出器28はテーブルル2(ワークW)の移動位置である負荷位置θLを検出し、この負荷位置θLの検出信号をフィードバック制御系21へ送る(位置フィードバック)。パルスエンコーダ29はサーボモータ23の回転位置であるモータ位置θMを検出する。このモータ位置θMの検出信号はフィードバック制御系21へ送られ、微分演算部36で時間微分されることにより、サーボモータ23の回転速度であるモータ速度VMとなる(速度フィードバック)。
【0027】
フィードバック制御系21は例えばパーソナルコンピュータで実行されるソフトウエアによって構成されるものであり、位置偏差演算部31と、乗算部32と、速度偏差演算部33と、比例積分演算部34と、電流制御部35と、微分演算部36とを有している。
【0028】
また、フィードバック制御系21には、テーブル2の送り系22の逆特性モデル50が付加されている。詳細は後述するが、逆特性モデル50は、送り系22の特性を近似した特性モデル(伝達関数)の逆特性モデル(逆伝達関数)であり、送り系22のボールスクリュー27(ネジ部27a)の捩じれや撓みなどによって生じる負荷位置θLの遅れや速度の遅れを補償するためのものである(図2参照:詳細後述)。なお、図1中のsはラプラス演算子であり、sは1次微分、s2は2次微分、s3は3次微分、s4は4次微分、s5は5次微分、1/sは積分を表している(このことは図2及び図3においても同様である)。
【0029】
フィードバック制御21の位置偏差演算部31では、負荷位置θLをするために数値制御(NC)装置41から与えられる位置指令θと、負荷位置θLとの偏差(θ−θL)を演算して、位置偏差Δθを求める。乗算部32では、位置偏差Δθに位置ループゲインKpを乗算することにより、サーボモータ23の回転速度を制御するためのモータ速度指令Vを求める。そして、速度偏差演算部33では、逆特性モデル5から出力される速度の補償量VHをモータ速度指令Vに加算(V+VH)した値と、モータ速度VMとの偏差(V+VH−VM)を演算して、速度偏差ΔVを求める。
【0030】
比例積分演算部34では、速度ループゲインKVと積分時定数TVを用いて、τ=ΔV×(KV(1+1/(TVs)))の比例積分演算を行うことにより、サーボモータ23に対するモータトルク指令τを求める。電流制御部35では、サーボモータ23で発生するトルクがモータトルク指令τに追従するようにサーボモータ23へ供給する電流を制御する。なお、図示は省略するが、電流制御部35ではモータ23への供給電流がモータトルク指令τに応じた電流となるように電流のフィードバック制御を行っている。
【0031】
このようにフィードバック制御系21では位置ループをメインループとし、速度ループ及び電流ループをマイナループとした3重のループによってフィードバック制御を行うことにより、負荷位置θLが位置指令θに追従するように制御している。
【0032】
(負荷イナーシャ推定モデルの説明)
そして更に本実施の形態例1では、ワークWの重量に応じた負荷イナーシャJLを推定するためのモデル60が、フィードバック制御系21に付加されている。図2に基づき、この負荷イナーシャ推定モデル60について説明する。なお、図2において図1と同様の部分には同一の符号を付し、重複する詳細な説明は省略する。
【0033】
図2に示す例では、送り系22の特性を近似した特性モデル(伝達関数)を、サーボモータ23と、その負荷であるテーブル2及びワークWを質点とした2質点系の機械系モデルとして特定している。そして、負荷イナーシャ推定モデル60は、この送り系22の特性モデル(伝達関数)と、この特性モデルの逆特性モデル(逆伝達関数)50と、フィードバック制御系21のモデル(伝達関数)とを有して成るものである。
【0034】
図2に示すように、サーボモータ23の特性モデルを伝達関数で示すと、ブロック62の伝達関数(1/(JMs+DM))と、ブロック63の伝達関数(1/s)とで示される。JMはモータイナーシャ、DMはモータ粘性である。ブロック62からはモータ速度VMが出力され、ブロック63からはモータ位置θMが出力される。
【0035】
ボールスクリュー27を含めたテーブル2の特性モデルを伝達関数で示すと、ブロック64の伝達関数(CLs+KL)と、ブロック65の伝達関数(1/(JLs+DL))と、ブロック66の伝達関数(1/s)とで示される。JLは負荷イナーシャであり、テーブル2の重量(一定値)と、テーブル2に載置されたワークWの重量とによって決まるイナーシャである。従って、テーブル2に載置するワークWの重量が変化すると、これに応じて負荷イナーシャJLも変化する。DLは負荷(テーブル)の粘性、CLはボールスクリュー27部分(ネジ部27a,ナット部27b,ブラケット26)の軸方向に沿うバネ粘性、KLはボールスクリュー27部分(ネジ部27a,ナット部27b,ブラケット26)の軸方向に沿うバネ剛性である。
【0036】
位置偏差演算部67では、モータ位置θMと負荷信号θLとの偏差(θM−θL)を演算して、位置偏差ΔθMLを求める。ブロック64では、位置偏差ΔθMLが入力されると、τL=ΔθML×(CLs+KL)の演算を行うことにより、反力トルクτLを求めて出力する。反力トルクτLがブロック65に入力されると、ブロック65及びブロック66でθL=τL×(1/(JLs+DL))×(1/s)の演算を行うことにより、負荷位置θLを求めて、ブロック66から出力する。
【0037】
トルク偏差演算部61では、トルク指令τと反力トルクτLとの偏差(τ−τL)を演算して、トルク偏差Δτを求める。ブロック62ではVM=Δτ×(1/(JMs+DM))の演算を行うことにより、モータ速度VMを求め、このモータ速度VMがブロック63へ出力され、且つ、フィードバック制御系21の速度偏差演算部33へフィードバックされる。ブロック63ではθM=VM×(1/s)の演算を行うことにより、モータ位置θMを求め、このモータ位置θMが位置偏差演算部67へ出力され、且つ、フィードバック制御系21の位置偏差演算部31へフィードバックされる。
【0038】
逆特性モデル50は、1次微分項演算部51と、2次微分項演算部52と、3次微分項演算部53と、4次微分項演算部54と、5次微分項演算部55と、加算部56と、比例積分逆伝達関数部57とを有している。
【0039】
各微分項演算部51〜55と加算部56には、送り系22のサーボモータ23、ボールスクリュー27及びテーブル2での動的な誤差要因を補償して、負荷位置θLが位置指令θに一致(追従)するように補償制御をするための補償制御用伝達関数が設定されている。この補償制御用伝達関数は、前述の送り系22(サーボモータ23、ボールスクリュー27及びテーブル2からなる機械系)の伝達関数の逆伝達関数である。なお、この逆伝達関数は、演算要素を一部省略した関数にしている。
【0040】
具体的には、逆特性モデル50の各微分項演算部51〜55では、各演算項a1s,a2s2,a3s3,a4s4,a5s5をそれぞれ有しており、位置指令θに各演算項a1s〜a5s5をそれぞれ乗算し、この乗算値を加算部56でそれぞれ出力する。加算部56では、各微分項演算部51〜55から出力された各乗算値を加算する。
【0041】
各演算項a1s〜a5s5における各係数a1,a2,a3,a4,a5は下記のように設定している。前述のとおり、各係数a1〜a5の式に含まれているKVは速度ループゲイン、KLはボールスクリュー27の軸方向に沿うバネ剛性、TVは積分時定数、DMはサーボモータ23の粘性、DLは負荷粘性、JMはサーボモータ23のイナーシャ、JLは負荷イナーシャである。
なお、各係数a1〜a5を下記のように設定(演算)する演算手法については、後述する。
【数1】

【0042】
比例積分逆伝達関数部57には、比例積分演算部34の伝達関数KV(1+1/(TVs))の逆伝達関数(Tv/KV(TVs+1))×sのうちの(Tv/KV(TVs+1))が設定されている。(Tv/KV(TVs+1))×sのうちの微分演算子sは、各微分項演算部51〜55の各演算項a1s〜a5s5にそれぞれ割り振られている。
【0043】
そして、このような係数a1〜a5が設定された逆特性モデル50から出力される速度補償量VHをフィードバック制御系21に適用して、送り系22の負荷位置制御を実施することにより、送り系22のサーボモータ23、ボールスクリュー27、テーブル2などに生じる歪み、撓み、粘性などの誤差要因を補償することができるため、高精度に負荷位置θLを制御して位置指令θに追従させることができる。その結果、高精度な加工を行うことができる。
【0044】
(負荷イナーシャ推定方法及び制御パラメータ調整方法の説明)
【0045】
しかしながら、テーブル2に載置されるワークWの重量が変化すると(重量の異なるワークWがテーブル2に載置されると)、当該ワークWの重量の変化に応じて負荷イナーシャJLも変化するため、送り系22のパラメータと逆特性モデル50のパラメータが一致しなくなる。具体的には、逆特性モデル50において、負荷イナーシャJLの項を含んでいる3次微分項以上(即ちa1s3〜a5s5の項)の係数a3〜a5が、送り系22のパラメータと不一致となる。従って、このままでは位置偏差Δθが増加して、位置指令θに対する負荷位置θLの追従遅が生じてしまう。
【0046】
そこで、ワークWの加工を行う前に次のような方法により、ワークWの重量に応じた負荷イナーシャJLを推定する。
【0047】
まず、図1に示す実機の負荷位置制御システム(フィードバック制御系21及び送り系22)において、テーブル2にワークWを載置した状態で、NC装置41からフィードバック制御系21へ位置指令θ(X軸方向への移動指令)を与えることにより、このフィードバック制御系21による送り系22の負荷位置制御試験を実施する。そして、このときに生じる位置偏差Δθを測定する。但し、バネ剛性KLが負荷位置θLによって変化するため、テーブル2が特定(予め定めておいた)の負荷位置θLに達した時点(即ち特定のバネ剛性KLとなる負荷位置θLに達した時点)において生じる位置偏差Δθを測定する。
【0048】
次に、図1及び図2に示す前記負荷位置制御システムのモデルである負荷イナーシャ推定モデル60において、テーブル2に前記ワークWを載置した状態で、NC装置41からフィードバック制御系21のモデルへ前記位置指令θ(X軸方向への移動指令)を与えることにより、このフィードバック制御系21のモデルによる送り系22のモデルの負荷位置制御シミュレーションを実施する。
【0049】
その際、前記負荷位置制御シミュレーションにおいて生じる位置偏差Δθが、前記実機による負荷位置制御試験で測定した位置偏差Δθに等しくなるまで、送り系22のモデルに含まれているテーブル2及びワークWの負荷イナーシャJLを調整して、前記負荷位置制御シミュレーションを繰り返す。
【0050】
但し、前述のとおり、バネ剛性KLが負荷位置θLによって変化するため、テーブル2が前記特定の負荷位置θLに達した時点(即ち前記特定のバネ剛性KLとなる負荷位置θLに達した時点)において生じる位置偏差Δθと、前記実機による負荷位置制御試験で測定した位置偏差Δθとを比較して、両者が等しくなったか否かを推定する。また、前記実機による負荷位置制御試験を行うときの逆特性モデル50における負荷イナーシャJLと、前記負荷位置制御シミュレーションを行うときの逆特性モデル50における負荷イナーシャJLは同じ値に設定する。例えば、これらはテーブル2にワークWを載置しない無負荷時の負荷イナーシャJL0とする。
【0051】
そして、送り系22のモデルに含まれている負荷イナーシャJLを調整して、前記負荷位置制御シミュレーションを繰り返した結果、前記負荷位置制御シミュレーションにおいて生じる位置偏差Δθが、前記実機による負荷位置制御試験で測定した位置偏差Δθに等しくなれば、このときの送り系22のモデルに含まれている負荷イナーシャJLが、実際のテーブル2に載置したワークWの重量に対応した負荷イナーシャJLであると推定する。
【0052】
次に、この推定した負荷イナーシャJLを、図1に示すように負荷イナーシャ推定モデル60から、実機の逆特性モデル50へ出力する。実機の逆特性モデル50では、負荷イナーシャ推定モデル60から出力された負荷イナーシャJLに基づいて、負荷イナーシャJLの項を含んでいる3次微分項以上の係数a3〜a5を調整(設定)する。かくして、送り系22のパラメータと逆特性モデル50のパラメータ(負荷イナーシャJLの項を含んでいる3次微分項以上の係数a3〜a5)が一致する。このため、当該ワークWの加工を行う際には、高精度に負荷位置θLを制御して位置指令θに追従させることができ、高精度な加工を行うことができる。
【0053】
(作用効果)
以上のように、本実施の形態例1の負荷イナーシャ推定方法によれば、送り系22の逆特性モデル50を付加したフィードバック制御系21により、逆特性モデル50から出力される送り系22の動的な誤差要因を補償するための補償量VHに基づいて、送り系22の負荷位置θLを制御する負荷位置制御システムに対し、送り系22の負荷イナーシャJLを推定する方法であって、前記負荷位置制御システムにおいて、フィードバック制御系21に位置指令θを与えることにより、フィードバック制御系21による負荷位置制御試験を実施し、このときに特定の負荷位置θLで生じる位置偏差Δθを測定し、前記負荷位置制御システムのモデルである負荷イナーシャ推定モデル60において、フィードバック制御系21のモデルに前記位置指令θを与えることにより、フィードバック制御系21のモデルによる送り系22のモデルの負荷位置制御シミュレーションを実施し、且つ、前記負荷位置制御シミュレーションにおいて前記特定の負荷位置θLで生じる位置偏差Δθが、前記負荷位置制御試験で測定した位置偏差Δθに等しくなるまで、送り系22のモデルに含まれている負荷イナーシャJLを調整して前記負荷位置制御シミュレーションを繰り返し、その結果、前記負荷位置制御シミュレーションにおいて前記特定の負荷位置θLで生じる位置偏差Δθが、前記負荷位置制御試験で測定した位置偏差Δθに等しくなれば、このときの送り系22のモデルに含まれている負荷イナーシャJLが、実機の送り系22の負荷イナーシャJLであると推定することを特徴としているため、送り系22の負荷重量(テーブル2に載置されるワークWの重量)が変化しても、当該負荷重量に応じた負荷イナーシャJLを容易に推定することができる。
【0054】
そして、本実施の形態例1の制御パラメータ調整方法によれば、前記負荷イナーシャ推定方法で推定された負荷イナーシャJLに基づいて、実機の逆特性モデル50に含まれている負荷イナーシャJLを調整することを特徴としているため、送り系22の負荷重量(テーブル2に載置されるワークWの重量)が変化しても、送り系22のパラメータと逆特性モデル50のパラメータ(負荷イナーシャJLの項を含んでいる3次微分項以上の係数a3〜a5)を一致させることができる。このため、高精度に負荷位置θLを制御して位置指令θに追従させることができ、高精度な加工を行うことができる。
【0055】
<実施の形態例2>
(負荷イナーシャ推定方法及び制御パラメータ調整方法の説明)
図3に基づき、本発明の実施の形態例2に係る負荷イナーシャ推定方法及び制御パラメータ調整方法について説明する。なお、図3において、上記実施の形態例1と同様の部分には同一の符号を付し、重複する詳細な説明は省略する。
【0056】
図3に示すように、本実施の形態例2では、ワークWの重量に応じた負荷イナーシャJLを推定するための位置偏差特性データ部70が、フィードバック制御系21に付加されている。
【0057】
位置偏差Δθ(即ちボールスクリュー27の撓みなど)とワークWの重量との間には、F=ma=KLΔθ(F:力、m:ワーク重量、KL:ボールスクリューのバネ剛性、Δθ:位置偏差)の関係式が成り立ち、力Fとバネ剛性KLを一定にすれば、位置偏差ΔθはワークWの重量の増加に比例してリニアに増加すると考えられる。
また、逆特性モデル50における3次微分以上の項(a3s3〜a5s5)については、負荷イナーシャJLに比例して補償量が決定されており、テーブル2に載置するワークWの重量の増加に比例して位置偏差Δθがリニアに増加すると考えることができる。
従って、テーブル2にワークWを載置しない無負荷時の負荷イナーシャJL0における位置偏差Δθと、想定される最大重量のワークWをテーブル2に載置した最大負荷時の負荷イナーシャJLにおける位置偏差Δθのデータがあれば、このデータから、未知の重量のワークWをテーブル2に載置したときの負荷イナーシャJL1を推定することができる。
【0058】
そこで、図3に示す実機の負荷位置制御システム(フィードバック制御系21及び送り系22)において、前記無負荷時の場合と前記最大負荷時実施の場合に対し、NC装置41からフィードバック制御系21へ位置指令θ(X軸方向への移動指令)を与えることにより、このフィードバック制御系21による送り系22の負荷位置制御試験を実施する。そして、前記無負荷時において生じる位置偏差ΔθL0と、最大負荷時において生じる位置偏差ΔθLMとを測定する。
【0059】
或いは、図2に示すような負荷位置制御システムのモデルを用いて、前記無負荷時の場合と前記最大負荷時実施の場合に対し、フィードバック制御系21のモデルへ前記位置指令θ(X軸方向への移動指令)を与えることにより、このフィードバック制御系21のモデルによる送り系22のモデルの負荷位置制御シミュレーションを実施する。そして、前記無負荷時において生じる位置偏差ΔθL0と、前記最大負荷時において生じる位置偏差ΔθLMとを測定する。
【0060】
なお、前述のとおり、バネ剛性KLが負荷位置θLによって変化するため、テーブル2が特定(予め定めておいた)の負荷位置θLに達した時点(即ち特定のバネ剛性KLとなる負荷位置θLに達した時点)において生じる位置偏差ΔθL0,ΔθLMを測定する。
また、前記無負荷時の位置偏差ΔθL0を基準とすため、逆特性モデル50における負荷イナーシャJLは、前記無負荷時の負荷イナーシャJL0とする。従って、前記無負荷時の位置偏差ΔθL0は、ほぼ0となる。
【0061】
位置偏差特性データ部70には、この予め測定された前記無負荷時の位置偏差ΔθL0と、前記最大負荷時の位置偏差ΔθLMとに基づいて、負荷イナーシャJLの増加に比例してリニアに増加する位置偏差特性データΔVDを設定する。
【0062】
そして、ワークWの加工を行う前に次のような方法により、ワークWの重量に応じた負荷イナーシャJLを推定する。
【0063】
まず、図3に示す実機の負荷位置制御システム(フィードバック制御系21及び送り系22)において、テーブル2にワークWを載置した状態で、NC装置41からフィードバック制御系21へ位置指令θ(X軸方向への移動指令)を与えることにより、このフィードバック制御系21による送り系22の負荷位置制御試験を実施する。
【0064】
そして、位置偏差特性データ部70では、このときに生じる位置偏差Δθ(図示例ではΔθ1)を測定(入力)する。但し、前述のとおり、バネ剛性KLが負荷位置θLによって変化するため、位置偏差特性データ部70では、テーブル2が特定(予め定めておいた)の負荷位置θLに達した時点(即ち特定のバネ剛性KLとなる負荷位置θLに達した時点)において生じた位置偏差Δθ1(図示例ではΔθ1)を測定(入力)する。
【0065】
次に、位置偏差特性データ部70では、予め設定されている位置偏差特性データΔVDに基づいて、前記実機の負荷位置制御試験又は前記負荷位置制御シミュレーションにより測定(入力)した位置偏差Δθ(図示例ではΔθ1)に対応する負荷イナーシャJL(図示例ではJL1)を求め、この負荷イナーシャJL(図示例ではJL1)が、実際にテーブル2に載置したワークWの重量に対応する負荷イナーシャJLであると推定する。この推定された負荷イナーシャJLは位置偏差特性データ部70から、実機の逆特性モデル50へ出力される。
【0066】
実機の逆特性モデル50では、負荷イナーシャ推定モデル60から出力された負荷イナーシャJL(図示例ではJL1)に基づいて、負荷イナーシャJLの項を含んでいる3次微分項以上の係数a3〜a5を調整(設定)する。かくして、送り系22のパラメータと逆特性モデル50のパラメータ(負荷イナーシャJLの項を含んでいる3次微分項以上の係数a3〜a5)が一致する。このため、当該ワークWの加工を行う際には、高精度に負荷位置θLを制御して位置指令θに追従させることができ、高精度な加工を行うことができる。
【0067】
なお、上記では最大負荷時の位置偏差ΔθLMを用いて位置偏差特性データΔVDを設定しているが、これに限定するものではなく、最大負荷以外の負荷時の位置偏差ΔθLを用いて位置偏差特性データΔVDを設定してもよい。即ち、最大重量以外の重量のワークWをテーブル2に載置した状態(即ち最大負荷以外の負荷状態)において、上記と同様の実機による負荷位置制御試験又は負荷位置制御シミュレーションを実施することにより、当該負荷時の位置偏差Δθを測定し、この測定した当該負荷時の位置偏差Δθと無負荷時の位置偏差Δθ0とに基づいて、負荷イナーシャJLの増加に比例してリニアに増加する位置偏差特性データΔVDを設定してもよい。
【0068】
(作用効果)
以上のように、本実施の形態例2の負荷イナーシャ推定方法によれば、送り系22の逆特性モデル50を付加したフィードバック制御系21により、逆特性モデル50から出力される送り系22の動的な誤差要因を補償するための補償量VHに基づいて、送り系22の負荷位置θLを制御する負荷位置制御システムに対し、送り系22の負荷イナーシャJLを推定する方法であって、前記負荷位置制御システムにおいて、フィードバック制御系21に位置指令θを与えることにより、フィードバック制御系21による負荷位置制御試験を実施し、このときに特定の負荷位置θLで生じる位置偏差Δθを測定し、又は、前記負荷位置制御システムのモデルにおいて、フィードバック制御系21のモデルに前記位置指令θを与えることにより、フィードバック制御系21のモデルによる送り系22のモデルの負荷位置制御シミュレーションを実施し、このときに特定の負荷位置θLで生じる位置偏差Δθ(Δθ1)を測定し、予め測定された無負荷時に前記特定の負荷位置θLで生じる位置偏差Δθ0と、負荷時に前記特定の負荷位置θLで生じる位置偏差Δθ(ΔθM)とに基づいて予め設定されている、負荷イナーシャJLの増加に比例して位置偏差Δθがリニアに増加する位置偏差特性データΔVDに基づいて、前記負荷位置制御試験又は前記負荷位置制御シミュレーションにより測定した位置偏差Δθ(Δθ1)に対応する負荷イナーシャJL(JL1)を求め、この負荷イナーシャJL(JL1)が実機の送り系22の負荷イナーシャJLであると推定することを特徴としているため、送り系22の負荷重量(テーブル2に載置されるワークWの重量)が変化しても、当該負荷重量に応じた負荷イナーシャJLを容易に推定することができる。
【0069】
そして、本実施の形態例2の制御パラメータ調整方法によれば、前記負荷イナーシャ推定方法で推定された負荷イナーシャJLに基づいて、実機の逆特性モデル50に含まれている負荷イナーシャJLを調整することを特徴としているため、送り系22の負荷重量(テーブル2に載置されるワークWの重量)が変化しても、送り系22のパラメータと逆特性モデル50のパラメータ(負荷イナーシャJLの項を含んでいる3次微分項以上の係数a3〜a5)を一致させることができる。このため、高精度に負荷位置θLを制御して位置指令θに追従させることができ、高精度な加工を行うことができる。
【0070】
なお、上記実施の形態例1,2では推定した負荷イナーシャJLによって逆特性モデル50の負荷イナーシャJLを調整しているが、これだけに限らず、加工条件に関する制御パラメータなどのような逆特性モデル50の負荷イナーシャJL以外の制御パラメータも、推定した負荷イナーシャJLによって調整するようにしてもよい。例えば、推定した負荷イナーシャJLを位置偏差特性データ部70や負荷イナーシャ推定モデル60からNC装置41へも出力するようにし、この推定した負荷イナーシャJLによって、NC装置41で設定する加減速時間やコーナ速度加速度などの制御パラメータの調整を行うようにしてもよい。
【0071】
また、上記実施の形態例1,2では本発明をテーブル2の送り系22に適用する場合について説明したが、これに限定するものではなく、本発明はテーブル2以外の送り系(、例えばサドルやラムなどの送り系)に適用することもできる。例えば、図4において、アタッチメント8や工具9の重量が変化する場合には、本発明をサドル5やラム6の送り系に適用することも有効である。
【0072】
また、上記実施の形態例1,2では本発明をサーボモータ23やボールスクリュー27などから成る送り系22に適用する場合について説明したが、これに限定するものではなく、本発明は、その他の構成の送り系(例えば油圧ポンプ、油圧モータ、油圧シリンダなどを用いた送り系など)にも適用することができる。
【0073】
また、上記実施の形態例1,2では工作機械の送り系に適用した場合について説明したが、必ずしもこれに限定するものではなく、本発明は工作機械以外の産業機械の送り系にも適用することができる。
【0074】
<逆特性モデルの係数の演算手法の説明>
ここで逆特性モデル50における各係数a1〜a5を設定(演算)して演算手法について説明する。
【0075】
図2に示す機械系モデルにおいて、トルク及び速度の逆特性モデルの伝達関数は、次のようにして計算できる。まず、運動方程式から、下記の(1)式及び(2)式が求められる。なお、(1)式は、サーボモータ23の特性をモデル化したモータ伝達関数に関して入出力の関係を示す運動方程式であり、(2)式は、負荷であるテーブル2及びワークWの特性をモデル化した負荷伝達関数に関して入出力の関係を示す運動方程式である。
【数2】

【0076】
上記の(1)式及び(2)式より、下記の(3)式及び(4)式が得られる。
【数3】

【0077】
誤差0で負荷(テーブル2及びワークW)を移動させるためには、負荷位置θLが位置指令θと一致するように補償制御をすればよい。即ち、θ=θLとなるように補償制御をすればよい。このようにθ=θLとするためには、トルク指令τを(3)式の右辺の{ }内の式(第1の伝達関数式)でフィードフォワード補償制御をし、速度指令Vを(4)式の右辺の( )内の式(第2の伝達関数式)でフィードフォワード補償制御をすればよい。なお(4)式において、θMsはモータ速度VMと等価である。
【0078】
(3)式において、θLをθに置換してから、指令速度Vτに置き換えると、(3)式は下記の(5)式となる。(5)式は(3)式に比例積分演算器34に設定した比例積分演算式の逆演算式を掛けたものである。換言すると、(3)式を比例積分演算器34に設定した比例積分演算式で除算したものが(5)式となる。(5)式の右辺においてθを除く部分が第3の伝達関数式となる。また、(4)式においてθLをθに置換してから、(4)式を変形すると、下記の(6)式となる。負荷位置θLが位置指令θと一致するように補償制御をするには、θとθLの誤差を0とするための補償速度VHを、(5)式と(6)式を加えたものにすればよく、これは下記の(7)式で示される。(7)式の右辺のうちのθを除く部分が第4の伝達関数式である。
【数4】

【0079】
(7)式のままでは、微分次数で式をまとめることはできないが、精度にあまり影響しないCL項を(7)式から削除すると、下記の(8)式が得られる。(8)式の右辺のうちのθを除く部分が、補償制御用伝達関数である。(8)式を係数a1〜a5に置き換えると、下記の(9)式が得られる。従って、(8)式及び(9)式から、各係数a1〜a5が得られる。
【数5】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は負荷イナーシャ推定方法及び制御パラメータ調整方法に関するものであり、工作機械などのフィードバック制御系に付加した送り系の逆特性モデルに含まれている負荷イナーシャを調整する場合に適用して有用なものである。
【符号の説明】
【0081】
1 ベッド
2 テーブル
21 フィードバック制御系
22 送り系
23 サーボモータ
24 減速ギヤ装置
24a モータ側ギヤ
24b 負荷側ギヤ
25 ベアリング
26 ブラケット
27 ボールスクリュー
27a ネジ部
27b ナット部
28 位置検出器
29 パルスエンコーダ
31 位置偏差演算部
32 乗算部
33 速度偏差演算部
34 比例積分演算部
35 電流制御部
36 微分演算部
41 NC装置
50 逆特性モデル
51 1次微分項演算部
52 2次微分項演算部
53 3次微分項演算部
54 4次微分項演算部
55 5次微分項演算部
56 加算部
57 比例積分逆伝達関数部
60 負荷イナーシャ推定モデル
61 トルク偏差演算部
62,63 サーボモータに関する伝達関数のブロック
64,65,66 テーブル及びボールスクリューに関する伝達関数のブロック
67 位置偏差演算部
70 位置偏差特性データ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送り系の逆特性モデルを付加したフィードバック制御系により、前記逆特性モデルから出力される前記送り系の動的な誤差要因を補償するための補償量に基づいて、前記送り系の負荷位置を制御する負荷位置制御システムに対し、前記送り系の負荷イナーシャを推定する方法であって、
前記負荷位置制御システムにおいて、前記フィードバック制御系に位置指令を与えることにより、前記フィードバック制御系による負荷位置制御試験を実施し、このときに特定の負荷位置で生じる前記位置指令と負荷位置との位置偏差を測定し、
前記負荷位置制御システムのモデルである負荷イナーシャ推定モデルにおいて、前記フィードバック制御系のモデルに前記位置指令を与えることにより、前記フィードバック制御系のモデルによる前記送り系のモデルの負荷位置制御シミュレーションを実施し、且つ、前記負荷位置制御シミュレーションにおいて前記特定の負荷位置で生じる前記位置指令と負荷位置の位置偏差が、前記負荷位置制御試験で測定した前記位置偏差に等しくなるまで、前記送り系のモデルに含まれている負荷イナーシャを調整して前記負荷位置制御シミュレーションを繰り返し、その結果、前記負荷位置制御シミュレーションにおいて前記特定の負荷位置で生じる前記位置偏差が、前記負荷位置制御試験で測定した前記位置偏差に等しくなれば、このときの前記送り系のモデルに含まれている負荷イナーシャが、前記送り系の負荷イナーシャであると推定すること、
を特徴とする負荷イナーシャ推定方法。
【請求項2】
送り系の逆特性モデルを付加したフィードバック制御系により、前記逆特性モデルから出力される前記送り系の動的な誤差要因を補償するための補償量に基づいて、前記送り系の負荷位置を制御する負荷位置制御システムに対し、前記送り系の負荷イナーシャを推定する方法であって、
前記負荷位置制御システムにおいて、前記フィードバック制御系に位置指令を与えることにより、前記フィードバック制御系による負荷位置制御試験を実施し、このときに特定の負荷位置で生じる前記位置指令と負荷位置との位置偏差を測定し、
又は、前記負荷位置制御システムのモデルにおいて、前記フィードバック制御系のモデルに前記位置指令を与えることにより、前記フィードバック制御系のモデルによる前記送り系のモデルの負荷位置制御シミュレーションを実施し、このときに特定の負荷位置で生じる前記位置指令と負荷位置の位置偏差を測定し、
予め測定された無負荷時に前記特定の負荷位置で生じる前記位置指令と負荷位置の位置偏差と、負荷時に前記特定の負荷位置で生じる前記位置指令と負荷位置の位置偏差とに基づいて予め設定されている、負荷イナーシャの増加に比例して位置偏差がリニアに増加する位置偏差特性データに基づいて、前記負荷位置制御試験又は前記負荷位置制御シミュレーションにより測定した前記位置偏差に対応する負荷イナーシャを求め、この負荷イナーシャが前記送り系の負荷イナーシャであると推定すること、
を特徴とする負荷イナーシャ推定方法。
【請求項3】
送り系の逆特性モデルを付加したフィードバック制御系により、前記逆特性モデルから出力される前記送り系の動的な誤差要因を補償するための補償量に基づいて、前記送り系の負荷位置を制御する負荷位置制御システムに対し、前記逆特性モデルに含まれている負荷イナーシャを調整する制御パラメータ調整方法であって、
請求項1又は2の負荷イナーシャ推定方法で推定された負荷イナーシャに基づいて、前記逆特性モデルに含まれている負荷イナーシャを調整することを特徴とする制御パラメータ調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−88827(P2012−88827A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233249(P2010−233249)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】