説明

貴金属含有担持触媒およびその調製ためのプロセス

【課題】高度な結晶性または十分に発達した合金構造を有する貴金属
含有担持触媒を調製するための方法の提供。
【解決手段】貴金属含有担持触媒であって、該担持触媒は、粉末化担持材料上に貴金属
粒子の形態で沈着された、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、Osお
よびそれらの合金からなる群から選択される1以上の貴金属を含み、ここで、該
貴金属粒子は、X線回折によって決定される、2より大きな相対結晶化度および
約2nmと約10nmとの間の平均粒径を有する、貴金属含有担持触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、貴金属含有担持触媒およびその調製のためのプロセスを提供し、こ
の担持触媒は、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、Osおよびそれら
の混合物からなる群から選択される貴金属を含む。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
貴金属含有担持触媒は、多くの工業分野(適用の2、3の分野のみを言及する
と、化学化合物の合成、内燃機関からの排出ガス中の有害物質の変換、および燃
料電池の電気触媒)で使用される。
【0003】
貴金属について、できる限り高度な触媒活性を提供するために、貴金属は、1
nmと15nmとの間の範囲の粒径を有する、できる限り高度な分散性で、粒子
担持材料の表面に適用されなければならない。しかし、小さな粒径のみでは、高
度な活性は保証されない。従って、白金粒子中でほとんど発生されない結晶構造
はまた、減少した触媒活性に導く。
【0004】
類似の考察がまた、合金触媒の合金形成の質に当てはまる。規則正しい結晶構
造を有する燃料電池の三元合金触媒は、酸素の電気化学的還元のための触媒活性
を有し、この活性は、非合金化白金触媒の少なくとも2倍大きな活性である。こ
の触媒は、含浸によって合金成分を担持材料上に沈着させることによって調製さ
れる。この合金を、窒素雰囲気下で1時間かけて900℃の熱処理によって形成
した。
【0005】
担持触媒に使用される担持材料は、種々の材料を含む。一般に、適用の分野に
依存して、担持材料の全ては、大きな比表面積(10m/gより大きな、いわ
ゆるBET表面積(DIN66132に従って、窒素吸着によって測定される)
)を有する。燃料電池のために、電気導電性の炭素材料が、触媒活性成分の担持
体として使用される。しかし、自動車排気触媒の場合において、酸化担持材料(
例えば、活性な酸化アルミニウム(例えば、酸化γ−アルミニウム)、珪酸アル
ミニウム、ゼオライト、酸化チタン、酸化ジルコニウム、希土類酸化物、および
それらの混合物または混合酸化物)が使用される。
【0006】
触媒活性成分の前駆体化合物は、これらの材料の表面上に沈着され、そして続
く熱処理のよって最終の触媒活性形態に変換される。この最終の触媒中における
触媒活性粒子の分布(分散)の粉末度、従って、触媒プロセス利用可能な触媒金
属表面積は、これらの2つのプロセス(沈着および熱処理)のために使用された
プロセスおよび方法の型に決定的に依存する。
【0007】
種々のプロセスは、粉末化担持材料上の触媒活性成分の沈着に関して開示して
いる。これは、例えば、過剰の含浸溶液注入を含む。この場合において、触媒活
性成分の水性溶液は、この溶液の容積が担持材料の水吸収容量よりも実質的に大
きい場合、粉末化担持材料に添加される。従って、厚手の糊のような粘度を有し
、例えば、80℃〜150℃の高温のオーブン中で脱水された材料が、作製され
る。クロマトグラフィーの実施をこの材料の脱水中に行い、これにより、担持材
料上の触媒活性成分の非均一な分布に導き得る。
【0008】
細孔容量含浸のために、一定の量の溶媒が、この溶媒に対して、担持材料の約
70〜110%の吸収容量に対応する、触媒活性成分を溶解させるために使用さ
れる。この溶媒は、一般に水である。この溶媒は、例えば、タンクの周りで回転
する担持材料上にスプレーすることによって、可能な限り均一に分配される。こ
の担持材料上の全溶液の分配後、この担持材料は、水を含有するにも係わらず、
さらに自由に流れる。クロマトグラフィーの実施が、細孔容量含浸を使用するこ
とでほぼ避けられ得る。この方法は、通常、上記の過剰の溶媒を使用することで
含浸プロセスよりも良好な結果を提供する。
【0009】
いわゆる、溶液からの均質な沈着のためのプロセスに関して、この担持材料は
、例えば、水中でまず懸濁される。次いで、触媒活性成分の前駆体化合物の水性
溶液を、一定に攪拌した状態のキャピラリー注入を使用して添加される。キャピ
ラリー注入は、キャピラリーを使用する、担持材料の懸濁液の表面下への、溶液
の穏やかな添加として理解される。懸濁液の全体積にわたる、前駆体化合物の可
能な限り高速でかつ均質な分配は、激しい攪拌および穏やかな添加によって保証
されるべきと意図される。ここで、前駆体化合物のいくらかの吸収、従って、結
晶種の形成は、担持材料の表面で生じる。この吸収の範囲は、担持材料と前駆体
化合物との組合せに依存する。担持材料上での前駆体化合物の十分な吸収を保証
しない材料の組み合わせを用いるか、または担持材料への触媒活性成分の化学的
固定化が所望される場合、この前駆体化合物は、担持材料の懸濁液中への、塩基
のキャピラリー注入によって、担持材料上に沈殿され得る。
【0010】
触媒材料の調製を完了するために、触媒活性成分でコーティングされた担持材
料は、続く熱処理に供せられ、この熱処理により、触媒活性成分の前駆体を、触
媒活性形態に変換し、そして必要に応じて合金の形成に導く。300℃より高く
1000℃までの温度および0.5〜3時間の処理時間が、この熱処理に必要と
される。代表的に、バッチプロセスが、この熱処理のために使用され、このプロ
セスにおいて、触媒材料が塊にされ、そして貴金属粒子が、長い熱処理時間およ
び発生する焼結効果に起因して粗砕となる。50nm以上の貴金属粒子は、この
方法において生じ得る。合金を形成するために、900℃より高い温度および少
なくとも0.5時間の処理温度が、通常、必要とされ、ここで、焼結に起因する
過剰な粒子の成長の危険性が存在する。
【0011】
しかし、この触媒が、高度な触媒活性を保証するために、担持体上に可能な限
り広い表面積(すなわち、大きな分散)を有することが、重要である。貴金属に
関して、20nmより大きな平均粒径を有する触媒は、通常、それほど活性では
ない。
【0012】
公知の処理プロセスを使用する、触媒でコーティングされた担持材料は、十分
発達した結晶または合金構造と貴金属粒子の小さな平均粒子直径の相反する要求
を同時に満たさない。
【0013】
粉末化物質の熱処理のための代替のプロセスにおいて、粉末化物質は、高温の
フローリアクター中で処理される。このフローリアクター中での処理温度は、1
000℃より高くてもよい。この処理時間は、0.01秒と2、3分との間で変
化され得る。最後に、次いで、分散された貴金属は、例えば、酸化アルミニウム
上に沈着され得る。
【0014】
うず巻バーナーまたは層流(laminar)バーナーを、本質的な熱供給源
として使用することもまた、提案されている。従って、このプロセスは、酸化雰
囲気下で実施され、そして燃料電池のために使用される材料として、炭素(グラ
ファイト、カーボンブラック)から作製された担持材料上に触媒を調製するのに
適さない。このカーボンブラック担持体は、酸化され、そしていくらかは、燃焼
される。
【0015】
上記に基づいて、高度な結晶性または十分に発達した合金構造を有する貴金属
含有担持触媒を調製するための方法の必要性が、当該分野において存在する。小
さな粒径および高度な分散性を有する、貴金属含有担持触媒の必要性も存在する

【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0016】
(発明の要旨)
1.貴金属含有担持触媒であって、該担持触媒は、粉末化担持材料上に貴金属
粒子の形態で沈着された、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、Osお
よびそれらの合金からなる群から選択される1以上の貴金属を含み、ここで、該
貴金属粒子は、X線回折によって決定される、2より大きな相対結晶化度および
約2nmと約10nmとの間の平均粒径を有する、貴金属含有担持触媒。
【0017】
2.X線回折によって決定される、前記相対結晶化度が、5より大きい、項目
1に記載に記載される担持触媒。
【0018】
3.項目1に記載される担持触媒であって、前記担持材料が、カーボンブラッ
ク、グラファイト、活性炭および繊維状の黒鉛ナノチューブからなる群から選択
される、炭素含有材料である、担持触媒。
【0019】
4.項目1に記載される担持触媒であって、前記担持材料が、活性な酸化アル
ミニウム、珪酸アルミニウム、ゼオライト、酸化チタン、酸化ジルコニウム、希
土類酸化物、およびそれらの混合物からなる群から選択される、酸化材料である
、担持触媒。
【0020】
5.項目3に記載される担持触媒であって、前記貴金属は、Ti、Zr、V、
Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群から選択される少な
くとも1つの卑金属と混ぜて合金にされる、担持触媒。
【0021】
6.項目3に記載される担持触媒であって、前記担持触媒は、担持材料および
Ptの全重量に基づいて、5重量%と80重量%との間の濃度で、少なくとも4
0m/gの表面積を有するカーボンブラック上のPtを含む、担持触媒。
【0022】
7.項目3に記載される担持触媒であって、前記担持触媒は、担持材料および
Ptの全重量に基づいて、5重量%と80重量%との間の濃度で、少なくとも4
0m/gの表面積を有するカーボンブラック上のPt/Ru合金を含み、ここ
で、Pt対Ruの原子比が、5:1と1:5との間である、担持触媒。
【0023】
8.低温燃料電池のためのアノードまたはカソード触媒として、項目1に記載
される触媒を使用する方法。
【0024】
9.内燃機関からの排出ガスの処理のための触媒として、項目1に記載される
触媒を使用する方法。
【0025】
10.項目1に記載される担持触媒を調製するためのプロセスであって、該プ
ロセスは、以下:
細孔容量含浸を使用して、貴金属の前駆体でコーティングされた担持材料を提
供する工程;
該担持材料を乾燥する工程;および
1分未満の期間、1000℃と1800℃との間の温度で、該乾燥した担持材
料を熱処理する工程、
を包含し、ここで、結晶化および該合金が、発生される、プロセス。
【0026】
11.項目1に記載される担持触媒を調製するためのプロセスであって、該プ
ロセスは、以下:
溶液から均質沈着を使用して、貴金属の前駆体でコーティングされた担持材料
を提供する工程;
該担持材料を乾燥する工程;および
1分未満の期間、1000℃と1800℃との間の温度で、該乾燥した担持材
料を熱処理する工程、
を包含し、ここで、結晶化および該合金が、発生される、プロセス。
【0027】
12.熱処理に必要な熱エネルギーが、放射によって前記担持材料に移動され
る、項目11に記載されるプロセス。
【0028】
13.項目11に記載されるプロセスであって、前記貴金属でコーティングさ
れた前記担持材料は、加熱されたリアクターを通過する、約300℃と500℃
との間の温度の不活性なキャリアガスストリーム中で連続的に分散され、そして
該リアクターを出た後、迅速に冷却され、次いで該キャリアガスストリームから
分離される、プロセス。
【0029】
14.項目13に記載されるプロセスであって、前記不活性ガスストリームお
よび担持材料が、不活性ガスおよび冷却ガス、またはガスの混合物を前記キャリ
アガスストリームと混合することによって、500℃未満の温度まで冷却される
、プロセス。
【0030】
15.項目1に記載される担持触媒を調製するためのプロセスであって、該プ
ロセスは、以下:
該担持触媒の前駆体を提供する工程;および
1分未満の期間、1000℃と1800℃との間の温度で、該前駆体を熱処理
する工程、
を包含し、該前駆体は、該担持材料の表面上に、1nmと10nmとの間の平均
粒径を有する、1以上の触媒活性貴金属を有する、
プロセス。
【0031】
本発明は、粉末化担持材料上にAu、Ag、Pt、Pd、Rh、Ru、Ir、
Osの一つ以上の貴金属またはこれらの金属の1以上の合金を含む貴金属含有担
持触媒を、提供する。この担持触媒は、担持材料上に沈着された貴金属の粒子を
含み、この貴金属は、2より大きく、好ましくは、5より大きく、そして2nm
と10nmとの間の平均粒径の、X線回折により決定される相対結晶化度Cxを
有する。
【0032】
本発明のよりよい理解のために、他のおよびさらなる利点および実施形態と共
に、参照が、実施例と組合せた以下の記載、添付の特許請求の範囲に記載される
範囲に対してなされる。
【0033】
(発明の詳細な説明)
本発明は、ここで、好ましい実施形態と共に記載される。これらの実施形態は
、本発明の理解を助けるために示され、そしていずれの様式でも本発明を制限す
ることは意図せず、制限するとみなされるべきではない。この開示を読むと当業
者に明らかになり得る全ての代替、変更および等価物は、本発明の精神および範
囲内に含まれる。
【0034】
本開示は、貴金属含有担持触媒を調製する説明書ではなく、当業者に公知の基
礎的な概念は、詳細に記載されていない。
【0035】
本発明に従う触媒は、以下に記載される熱処理に起因して、非常に高い結晶性
を有する。相対結晶化度C(これは、X線測定によって決定され得る)は、結
晶性の定量的な決定のために本発明によって導入された。これは、以下の式(I
)によって定義される:
【0036】
【数1】


相対結晶化度は、粉末サンプル(Stoe Co.製の粉末回折計、銅Kα照射
)のX線測定によって決定される。式(I)において、Iは、触媒サンプルか
らの比回折反射(カウントで測定)の強度を表す。例えば、白金の場合では、(
hkl 111)反射が測定され、これは酸素の還元についての高い電気化学的
活性の尺度とみなされ得る。Iは、この触媒サンプルと同じ組成物を用いるX
線アモルファス標準のX線回折の強度であり、ここで、サンプルからのX線回折
反射の強度は、このサンプルと同じ角度で決定される。炭素担持白金サンプルの
場合では、このアモルファス標準は、2nm未満の白金の粒径を有する材料(こ
れはもはやいずれのX線回折反射も示さない)である。
【0037】
触媒の意図された用途に依存して、異なる担持材料が使用され得る。燃料電池
におけるアノード触媒またはカソード触媒として使用するために、通常、カーボ
ンブラック、グラファイト、活性炭および繊維状のグラファイトナノチューブの
群由来の炭素に基づく電気伝導性の担持材料が使用される。一方で、車の排気ガ
ス触媒について、活性酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、ゼオライト、酸
化チタン、酸化ジルコニウム、希土類酸化物、またはそれらの混合物もしくは混
合酸化物の群由来の酸化材料が使用される。さらに、この触媒における貴金属は
また、Ti、Zr、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZn族由来
の少なくとも1つの卑金属と合金化され得る。これらの卑金属は助触媒として作
用し、すなわち、これらは貴金属の触媒効果を改変する。
【0038】
本発明に従う触媒は、特に好ましくは、燃料電池におけるアノード触媒または
カソード触媒として使用するために適切である。例えば、これは、カソード触媒
として、担持材料および白金の総重量に対して5重量%と80重量%との間の濃
度のカーボンブラック担持白金を有する。一方で、アノード触媒として、担持材
料および合金の総重量に対して5重量%と80重量%との間の濃度のカーボンブ
ラック担持CO耐性Pt/Ru合金が使用され、ここで、Pt対Ruの原子比は
、5:1と1:5との間である。これらの用途を意図される担持材料であるカー
ボンブラックは、少なくとも40m/gの表面積を有する。
【0039】
本発明に従う触媒の必須の特徴は、結晶化度および粒径についての要件が同時
に満たされることである。燃料電池の触媒としておよび内燃機関の排気ガス処理
のために使用される場合、本発明の触媒は優れた特性を示す。
【0040】
これらの要件は、以下の工程が調製の間に行われる場合に満たされ得る。第1
に、形成される貴金属粒子が10nmより大きくならないような様式で、担持材
料への貴金属の沈着を保証する必要がある。この条件は例えば、細孔容量の含浸
または溶液による均一な沈着を使用して適合され得ることが見出された。溶液に
よる均一な沈着の場合では、被覆された担持材料はこの溶液から分離され、乾燥
され、そして必要に応じて穏やかなか焼に供され、このか焼は貴金属粒子の粒径
の実質的な増加が起こらないような様式で行われる。結晶性および必要に応じて
合金生成を増加するためにさらに熱処理に供されなければならない触媒の前駆体
は、このようにして得られる。細孔容量含浸の場合では、含浸した材料は、さら
なる乾燥工程およびか焼工程を行うことなく、さらなる熱処理のための前駆体と
して直接使用され得る。
【0041】
この触媒の前駆体の続く熱処理は、相対結晶化度および平均粒径に関する要件
が満たされることを保証しなければならない。この触媒の前駆体が、1分未満の
間、1000℃と1800℃との間の温度で簡単な熱処理に供される場合に、こ
のことが可能であることが見出された。
【0042】
熱処理に必要な熱エネルギーは、好ましくは、照射によって担持材料に伝達さ
れるべきである。この手順により、担持材料中の粒子の迅速な加熱が可能となる
。照射加熱は、炭素含有担持材料(例えば、カーボンブラックまたは活性炭)の
場合に特に好ましい。これらの材料は、入射熱放射をほとんど完全に吸収し、従
って特に迅速に加熱する。
【0043】
担持材料の熱処理を行うために、これは第1に、300℃と500℃との間の
温度まで加熱された不活性なキャリアガス中に連続的に分散される。キャリアガ
スを予め加熱することは、貴金属粒子のサイズの実質的な増加が起こらない温度
に制限される必要がある。次いで、このガス流は反応管に通される。この管壁の
温度は、外部加熱システムによって1000〜1800℃の所望の処理温度に維
持される。キャリアガスの流量は、反応管を通る通過の持続時間が数秒から1分
以下の範囲であるように選択される。この滞留時間は、担持材料の実際の加熱が
、放射熱の伝達の結果によって、かつキャリアガスによる管壁からの熱伝導によ
って小さな程度までだけ起こるように短く保たれる。適切な滞留時間(これは以
下で処理時間とも呼ばれる)は、1分までの量であり得、好ましくは、0.1秒
と20秒との間で選択され、そして最も好ましくは、0.5秒と10秒との間で
選択される。
【0044】
放射熱の供給による担持材料の粒子の加熱は、キャリアガスによる熱の伝達に
より可能な加熱よりも実質的により迅速に起こる。反応管を出た後、この担持材
料およびキャリアガスは、過剰な結晶の成長を防止するために、約500℃未満
の温度に迅速に冷却される。その後、このようにして調製された触媒材料は、キ
ャリアガス流から分離され、そして後の使用のために回収される。
【0045】
触媒前駆体の処理温度までの非常に急激な加熱、続く非常に短い処理時間のみ
の後の冷却に起因して、良好な結晶性または合金構造が貴金属粒子内で生じ得る
が、担持材料の表面上の拡散に起因する過剰な粒子成長が抑制されることが保証
される。短い処理時間とは、従来のか焼に使用される温度より実質的に高い処理
温度の使用が可能であることを意味する。この高い処理温度は、有利な様式で、
貴金属粒子の結晶構造が生じる速度に作用する。
【0046】
図は、本発明に従う触媒を調製するために、触媒前駆体の熱処理のために可能
な装置の主な設計を示す。触媒前駆体は出発材料(1)であり、そしてガス分散
機(2)に連続的に供給される。粉末の出発物質を分散させるために、この分散
機には、不活性分散ガス(3)(一般的に、窒素)が供給される。この分散機を
出た後、出発物質で充填された分散ガスはいわゆるキャリアガス(6)(これは
この混合プロセスの前に、混合後の固体/気体分散物の温度が約350℃と50
0℃との間になる様な程度まで加熱ユニット(7)で加熱されている)と混合さ
れる。この温度において、この固体/気体分散物は、反応管(4)(これは、加
熱デバイス(5)によって、1000℃と1800℃との間の所望の処理温度ま
で外側から加熱されている)に入る。加えられるキャリアガスの流量は、反応管
の寸法を考慮に入れて、出発物質の所望の処理時間が反応管の内側で得られるよ
うな流量である。この反応管を出た後、このキャリアガス流および出発物質は、
迅速に冷却したユニット(8)に入り、ここでこの処理された出発物質は、例え
ば、窒素(9)を吹き付けられることによって、約500℃未満の温度まで非常
に迅速に冷却される。最後に、フィルターユニット(10)において、最終的な
触媒材料が、キャリアガスから分離され、そして生成物(11)として排出され
る。
【0047】
反応管内の出発物質の短い滞留時間に起因して、気相を介する熱伝達に起因す
る熱のわずかな伝達しかない。さらに、出発物質は、反応管の壁からの放射熱に
よって非常に迅速に加熱されるに過ぎず、従って、再び非常に迅速に冷却され得
る。空気の導入をさけるために、わずかに過剰な圧力が装置全体の内側で維持さ
れる。
【0048】
記載される短時間の熱処理の結果として、貴金属粒子の粒径は、ほんのわずか
だけ拡大する。従来のロータリーキルンでの熱処理またはチャンバキルンでのバ
ッチ式の熱処理に起因して、記載される装置を用いて達成されるような短い処理
時間は、現実化され得ない。さらに、処理される物品が皿、バットまたは他の容
器に導入される従来の熱処理と比較して、触媒材料の凝集および固化は実質的に
より小さい。これは、キャリアガスの連続的な流れに触媒を分散することによっ
て達成される。
【0049】
本発明に従う触媒は、特定の熱処理プロセスに起因して、わずか15nm未満
、好ましくは10nm未満の小さな平均粒径を有する。これらの金属の比表面積
は、20〜200m/gの範囲内である。同時に、これらは高度な結晶性を有
する。上記で定義される相対結晶化度Cを決定することにより示されるように
、これは2の因子、より一般的には5の因子であり、従来の触媒の相対結晶化度
より大きい。
【0050】
本発明に従う結晶の用途の好ましい領域は、燃料電池のアノード触媒またはカ
ソード触媒としてのその使用である。PEM燃料電池(ポリマー電解質膜燃料電
池)において、導電性担持材料(主に、カーボンブラックまたはグラファイト)
上の白金および白金合金は、アノード触媒およびカソード触媒として使用される
。貴金属の濃度は、触媒の総重量に対して10重量%と80重量%との間である

【0051】
PEM燃料電池(ポリマー電解質膜燃料電池)のアノード側についてカーボン
ブラック担持白金/ルテニウム触媒が一般的に使用される。白金/ルテニウムの
比は、Pt/Ru=5:1〜1:5(原子比)の範囲であり、ここで、水との電
気化学的酸化還元反応(「スピルオーバー効果(spill over eff
ect)」において、ルテニウムは白金触媒のCO毒作用を軽減する。一酸化炭
素含有水素混合物は、改質油で作動する燃料電池の場合に使用される。
【0052】
PtRu電気触媒は、この領域に関する従来技術において長い間知られている
。PtRu電気触媒の材料を調整するために、費用のかかるバッチプロセスが使
用され、ここで触媒粒子のサイズは増加する。
【0053】
PEM燃料電池のカソード側について、好ましくは、20〜80重量%のPt
装荷を有する純粋なPt触媒が使用される。しかし、白金と卑金属(BM)(例
えば、クロム、タングステン、ニッケル、銅またはコバルト)との合金もまた使
用される。ここで添加される量は一般的に、Pt/BM=5:1〜1:5(原子
比)の範囲である。
【0054】
本発明に従うアノード触媒を用いる場合、PtRu/Cに基づいて、高い結晶
性により、結晶表面における一酸化炭素の吸着は減少し、従って、毒性が減少す
る傾向にある。従って、この触媒は、一酸化炭素に対する高い耐性を有する。
【0055】
純粋な白金触媒が使用される燃料電池のカソード側において、酸素還元反応(
ORR)のための触媒の活性は、白金結晶中の結晶子平面の数によって決定され
る。従って、Pt電気触媒の活性を増加するために、Ptの表面積を単に最大に
するだけでは不十分である。むしろ、白金原子の総数に比例して、(100)、
(110)および(111)白金表面原子の割合を最大にするために、大きなP
t表面積と共に高い結晶性を達成することが必要である。この要件は、本発明に
従う触媒によって理想的な様式で満たされる。従って、本発明の触媒は、低温燃
料電池(PEMFC、DMFC、PAFC)における使用に特に適切である。
【0056】
本発明を一般的に記載してきたが、本発明は、以下の実施例を参照してより容
易に理解され得る。以下の実施例は、例示の目的で提供され、特定されない限り
本発明を限定することは意図されない。
【0057】
(実施例)
以下の実施例は、本発明を皿に説明することが企図される。
【0058】
(実施例1:PEM燃料電池用のアノード触媒)
2kgのカーボンブラック担持電気触媒(貴金属装荷 Vulcan XC
72上の26.4重量% 白金および13.6重量% ルテニウム、原子比 P
t:Ru=1:1、米国特許第6,007,934号に従って調製した)を、薬
用天秤を使用してガス分配機に計り入れ、そして、分散ガスとして窒素を用いて
微細に分散させる。次いで、この触媒を、350℃に予め加熱した窒素流中で、
反応管に移す。
(プロセスパラメーター:)
キャリアガス: 窒素
キャリアガスの量: 8m/時間(窒素)
温度(キャリアガス): 350℃
処理温度: 1300℃
処理時間: 3秒(約)
測定した量: 110g/時間。
【0059】
この処理した触媒を、即時冷却ユニットで窒素を用いて冷却し、そしてフィル
ターユニットで回収する。プロセス制御システムを使用して、パラメーターを調
節し、そしてこれらのパラメーターをモニタリングする。
【0060】
このように処理した触媒は、以下の特性を有する:
X線測定(反射 hkl 111、2θ、約40°)
粒径(XRD): 6.3nm
格子定数: 0.3852nm
強度(I,XRD): 2800カウント
強度(I,XRD): 400カウント
結晶化度C: 6。
【0061】
比較のための未処理の出発物質は以下のデータを有する:
粒径(XRD): 2.6nm
格子定数: 0.3919nm
強度(I,XRD): 800カウント
強度(I,XRD): 400カウント
結晶化度C: 1。
【0062】
高い結晶性、同時に小さな粒径に起因して、この処理した電気触媒は、実際に
、水素/空気、および改質油/空気作動の両方において、アノード触媒としてP
EM燃料電池における非常に良好な電気的特性を示す。
【0063】
(実施例1の比較:従来の熱処理を行ったPtRu/C)
100gのカーボンブラック担持電気触媒(貴金属装荷 Vulcan XC
72上の26.4重量% 白金および13.6重量% ルテニウム、原子比
Pt:Ru=1:1、実施例1に匹敵)を、従来のバッチプロセスで、窒素下、
850℃で60分間処理する。キルンでの熱処理の後、この材料を保護気体下で
冷却する。
【0064】
(特性:)
粒径(XRD): 13.6nm
格子定数: 0.3844nm
強度(I,XRD): 1300カウント
強度(I,XRD): 400カウント
結晶化度C: 2.25。
【0065】
実施例1とは正反対に、この触媒は、13.6nmの大きな粒径に起因して、
PEM燃料電池における低い性能を有する。
【0066】
(実施例2:PEM燃料電池用のPt/C担持触媒)
1kgのカーボンブラック担持電気触媒(貴金属装荷 Vulcan XC
72上40重量%)を、薬用天秤を使用してガス分配機に計り入れ、そして最後
に、注入ガス流として窒素を用いて分散させた。次いで、この触媒を、350℃
に予め加熱した窒素流中で、反応管に移した。
【0067】
(プロセスパラメーター:)
キャリアガス: 窒素
キャリアガスの量: 8m/時間(窒素)
温度(キャリアガス): 350℃
処理温度: 1200℃
処理時間: 3秒(約)
測定した量: 1000g/時間。
【0068】
この処理した触媒を、即時冷却ユニットで窒素を用いて冷却し、そしてフィル
ターユニットで回収する。プロセス制御システムを使用して、パラメーターを調
節し、そしてこれらのパラメーターをモニタリングする。
【0069】
このように処理した触媒は、以下の特性を有する:
粒径(XRD): 6.5nm
格子定数: 0.3931nm
強度(I,XRD): 3000カウント
強度(I,XRD): 400カウント
結晶化度C: 6.5。
【0070】
比較のための未処理の出発物質は以下のデータを有する:
粒径(XRD): 3.9nm
格子定数: 0.3937nm
強度(I,XRD): 1600カウント
強度(I,XRD): 400カウント
結晶化度C: 3。
【0071】
高い結晶性、同時に小さな粒径に起因して、この処理した電気触媒は、実際に
、水素/空気作動において、特にカソード触媒としてPEM燃料電池における非
常に良好な電気的特性を示す。
【0072】
(実施例3:PEM燃料電池用のPtCr/C合金触媒)
1kgのカーボンブラック担持電気触媒(Vulcan XC 72上40重
量%の白金含量、原子比 Pt:CR=3:1)を、薬用天秤を使用してガス分
配機に計り入れ、そして、分散ガスとして窒素を用いて微細に分散させる。次い
で、この触媒を、350℃に予め加熱した窒素流中で、反応管に移す。
【0073】
(プロセスパラメーター:)
キャリアガス: 窒素
キャリアガスの量: 8m/時間(窒素)
温度(キャリアガス): 350℃
処理温度: 1400℃
処理時間: 3秒(約)
測定した量: 1000g/時間。
【0074】
この処理した触媒を、即時冷却ユニットで窒素を用いて冷却し、そしてフィル
ターユニットで回収する。プロセス制御システムを使用して、パラメーターを調
節し、そしてこれらのパラメーターをモニタリングする。
【0075】
このように処理した触媒は、以下の特性を有する:
X線測定(反射 hkl 111、2θ、約40°)
粒径(XRD): 7.5nm
格子定数: 0.385nm
強度(I,XRD): 3200カウント
強度(I,XRD): 400カウント
結晶化度C: 7。
【0076】
高い結晶化度、同時に小さな粒径に起因して、この処理した電気触媒は、実際
に、水素/空気作動において、特にカソード触媒としてPEM燃料電池における
非常に良好な電気的特性を示す。
【0077】
(実施例2の比較:従来の熱処理を行ったPtCr/C)
100gのカーボンブラック担持電気触媒(Vulcan XC 72上40
重量%白金含量、原子比 Pt:Ru=3:1、実施例3に匹敵)を、従来のバ
ッチプロセスで、形成ガス下、900℃で60分間処理する。キルンでの熱処理
の後、この材料を保護気体下で冷却する。
【0078】
(特性:)
粒径(XRD): 16nm
格子定数: 0.386nm
強度(I,XRD): 2000カウント
強度(I,XRD): 400カウント
結晶化度C: 4。
【0079】
実施例4とは正反対に、この触媒は、16nmの大きな粒径に起因して、PE
M燃料電池における低い性能を有する。
【0080】
(実施例4:気相触媒用のPt/酸化アルミニウム触媒)
約2kgの湿った粉末(これは、78重量%の酸化アルミニウム(γ−Al
、BET表面積 140m/g)、20重量%の水および2重量%の硝酸
白金からなる貴金属溶液を用いる担持体の細孔容量含浸(初期湿潤方法)によっ
て調製した)を、薬用天秤を使用して、ガス分散機に計り入れ、分散ガスとして
窒素流を用いて微細に分散させ、そして反応管に移す。
【0081】
(プロセスパラメーター:)
キャリアガス: 窒素
キャリアガスの量: 8m/時間(窒素)
温度(キャリアガス): 350℃
処理温度: 1100℃
処理時間: 3秒(約)
測定した量: 1000g/時間。
【0082】
反応管から出した後、この処理した触媒を迅速冷却ユニットで窒素を用いて冷
却し、そしてフィルターユニットで収集する。このプロセス制御システムを使用
して、パラメーターを調節し、そしてこれらのパラメーターをモニタリングする

【0083】
このように処理した触媒は、以下の特性を有する:
組成: 酸化アルミニウム上2.5重量%Pt
粒径(XRD): 5nm
強度(I,XRD): 3400カウント
強度(I,XRD): 400カウント
結晶化度C: 7.5。
【0084】
一方、従来のプロセス(900°、滞留時間60分、窒素)で処理した触媒は
、12nmの粒径、およびC=4の結晶化度を有する。
【0085】
実施例4の触媒を、例えば、内燃機関からの排気ガスの処理のための触媒とし
て、または燃料電池系中の水素の精製のための、いわゆるPROX反応器におけ
るCOの選択的酸化のための触媒として、気相触媒において使用する。
【0086】
高い結晶性、同時に小さな粒径に起因して、特に、触媒の可使寿命/耐久性に
おいて非常に良好な結果が得られる。
【0087】
本発明は、その特定の実施形態と共に記載されてきたが、さらなる変更が可能
であり、そして本願は、一般的に本発明の原理に従い、本発明が属する分野内の
公知または慣用的な実施に含まれ、そして本明細書中以前に記載され、上記の添
付の特許請求の範囲に記載される本質的な特徴に適用され得るような本願からの
逸脱を含む、本発明の任意の変形、使用または適応を網羅することが意図される

【0088】
本発明は、貴金属含有担持触媒を提供し、この担持触媒は、粉末化担持材料上
の貴金属粒子の形態で、Au、Ag、Pt、Pd、Ru、Ir、Osの群から選
択される貴金属またはそれらの貴金属の1つ以上の合金を含む。この担持材料上
に沈着された粒子は、X線回折により測定される、2より大きな結晶化度を有し
、そして2nmと10nmとの間の粒径を有する。この貴金属粒子の高い結晶化
度および小さな粒径により、触媒の高い触媒活性がもたらされる。これは、燃料
電池および内燃機関からの排気ガスの処理における使用のために特に適切である

【0089】
本発明の好ましい実施形態は、例示および説明の目的で選択され、本発明の範
囲をいずれの様式でも制限することは意図しない。本発明の特定の局面の好まし
い実施形態は、添付の図面に示される。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1は、本発明の触媒を調製するための触媒前駆体の熱処理のための装置を例示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載されるような、貴金属含有担持触媒。

【図1】
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【公開番号】特開2007−289960(P2007−289960A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−164424(P2007−164424)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【分割の表示】特願2002−131031(P2002−131031)の分割
【原出願日】平成14年5月2日(2002.5.2)
【出願人】(501399500)ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (139)
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D−63457 Hanau,Germany
【Fターム(参考)】