説明

貼り合わせ構造体の作製方法およびその作製装置

【課題】高い面精度を有する貼り合わせ構造体を作製することが可能となる貼り合わせ構造体の作製方法およびその作製装置を提供する。
【解決手段】一方の構成体1と他方の構成体5を接着剤により貼り合わせて作製する貼り合わせ構造体の作製に際し、
前記一方の構成体を、高い面精度を有する治具6に吸着手段7、8によって吸着することにより、前記一方の構成体を矯正した状態で前記他方の構成体と接着剤で貼り合わせ、
前記一方の構成体と他方の構成体とを貼り合わせた後、前記治具による面精度が得られた状態で前記接着剤を硬化させて固定化する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貼り合わせ構造体の作製方法およびその作製装置に関し、特に、光学素子、あるいはエンコーダホイール等の貼り合わせ構造体の作製方法およびその作製装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、貼り合わせ構造体である光学部品等の作製において、表面の面精度を悪化させないように接着する際、被貼り合わせ構造体を加圧装置によって圧着させる装置や、治具を用いる方法が知られている。
例えば、特許文献1には、つぎのようなプレス装置によって圧着させるように構成した光デイスク部品の接着装置が開示されている。
この装置において、プレス装置は、固定台、加圧盤、加圧シリンダー、弁機構、真空ポンプ、等を有している。
また、その接着装置は、上型と下型を有し、該下型にはデイスク保持機構が構成されている。
プレス装置の加圧板を上昇させた状態において、上記固定台上に設けられた上型と下型を開き、下型の上面に1枚目のデイスクを設置する。このデイスクの上面には両面接着テープが予め貼り付けられている。
次に、別の2枚目のデイスクをデイスク保持機構上に設置して、上記プレス装置を作動させ、上記加圧盤を下降させて上記上型と接触させ、この上型を下降させる。これにより、上記1枚目と2枚目のデイスクとの間に加圧力を作用させ、これらを接着させる。
【特許文献1】特開平4−259935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した従来例の装置や、あるいは治具を用いるものにおいては、高い面精度が必要であるためコスト高となり、また製作等が困難であった。また、これらのものにおいては、所望する面精度が得られず、例えば、従来方法で製作した回転検出を行なうエンコーダのパルスコードホイール等では、表面の平面度が悪いため、ピッチ誤差や累積角度誤差が生じ正確な回転検出を行うことが困難であった。そのため、モータの位置決めや回転精度が上がらないという問題を有していた。
【0004】
本発明は、上記課題に鑑み、高い面精度を有する貼り合わせ構造体を作製することが可能となる貼り合わせ構造体の作製方法およびその作製装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決するため、次のように構成した貼り合わせ構造体の作製方法およびその作製装置を提供するものである。
本発明の貼り合わせ構造体の作製方法は、一方の構成体と他方の構成体を接着剤により貼り合わせて作製する貼り合わせ構造体の作製方法において、
前記一方の構成体を、高い面精度を有する治具に吸着することにより矯正した状態で、前記他方の構成体と接着剤で貼り合わせる工程と、
前記一方の構成体と他方の構成体とを貼り合わさせた後、前記治具による面精度が得られた状態で、前記接着剤を硬化させて固定化する工程と、
を有することを特徴とする。
また、本発明の貼り合わせ構造体の作製方法は、前記貼り合わせる工程において、前記治具に吸着するため前記一方の構成体に形成された溝を用いることを特徴とする。
また、本発明の貼り合わせ構造体の作製方法は、前記一方の構成体に形成された溝として、光学素子に形成された光学パターンを用いることを特徴とする。
また、本発明の貼り合わせ構造体の作製方法は、前記固定化する工程において、前記治具と前記他方の構成体との間に、更に加圧力を付加して固定化することを特徴とする。
また、本発明の貼り合わせ構造体の作製方法は、前記貼り合わせ構造体として、光学素子または回転を検出するパルスコードホイールを作製することを特徴とする。
また、本発明の貼り合わせ構造体の作製装置は、一方の構成体と他方の構成体を接着剤により貼り合わせて作製する貼り合わせ構造体の作製装置において、
高い面精度を有し、吸引穴を介して減圧によって吸引動作をする吸引機構と接続された治具を備え、
前記吸引機構の作動によって前記治具に前記一方の構成体を吸着することにより矯正した状態で、前記一方の構成体を保持可能に構成したことを特徴とする。また、本発明の貼り合わせ構造体の作製装置は、前記治具と前記他方の構成体との間に、更に加圧力を付加する加圧手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高い面精度を有する貼り合わせ構造体を作製することが可能となる貼り合わせ構造体の作製方法およびその作製装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。
図1に、本発明を適用した本実施形態における貼り合わせ構造体の作製装置の基本構成を説明する断面図を示す。
図1において、1はホイール、2は溝、3は貼り合わせ構造体、4は接着剤、5は取付具、6は治具、7は吸引穴、8は吸引機構である。
上記ホイール1は、例えば、パルスコードホイールや回折格子等によって代表されるが、これらに限られるものではない。
また、エンコーダに用いるパルスコードホイールと呼ばれる厚みの薄いホイール部材や、回折格子といった光学素子には、所定の間隔に溝を設けた形状を有しており、上記溝2はこれらの溝に相当するものである。
【0008】
本実施の形態における貼り合わせ構造体3は、接着剤4によりホイール1を取付具5に固定した構造体によって構成される。
治具6は極めて高い平面度Aで形成され、ホイール1が所望する面精度が得られる平面度を有している。
さらに、この治具6にはホイール1を吸引する手段として吸引穴7が設けられており、該吸引穴7は減圧によって吸引動作をする吸引機構8に接続されている。減圧圧力や吸引条件、および接着条件は、被吸引物体であるホイール1の材質や固さ、厚みや表面に形成された溝2等の形状、使用する接着剤4にあわせて所望する面精度が得られるよう設定される。
接着剤4としては、粘性の低いものや、硬化収縮の少ないもの、硬化時間の短いもの等が好適である。
【0009】
つぎに、本実施の形態を用いて本発明の貼り合わせ構造体の製作の原理について説明する。
図2乃至図4に、本発明による貼り合わせ構造体の製作の原理を示す。
なお、図2乃至図4において、図1と同じ構成のものについては共通の符号が用いられている。
図2に、本実施の形態による治具6でホイール1を吸引した様子、および接着前の取付具5の断面図を示す。
本実施の形態においては、ホイール等の被吸引物体を吸引する手段として、吸引機構8により気圧を用いてホイール1を吸引する方式が採られている。
その際、被吸引物体が光学素子である場合には、表面に形成されている凹凸を利用して、減圧によるパスカルの原理から、均一な圧力で被吸引物体の面全体を治具に吸着し、所望する高い面精度に被吸引物体を矯正することが可能となる。
このようなホイール等の被吸引物体を吸引する手段として被吸引物体がニッケル層等の磁性材料を有する場合、吸引する手段として磁力を用いることもできる。しかしながら、電磁石を用いた場合 発熱等の問題が伴い、特に高精度になるほどわずかな発熱でも精度が出なくなり大きな影響を受ける。
また、永久磁石を用いた場合は、被吸引物体の取り付け、取り外しが困難で作業性が悪い。
このようなことから、発熱が無く、製作の際の作業性等の観点から、上記した本実施の形態で採られている気圧による手段を用いることが望ましい。
【0010】
つぎに、ホイール1と取付具5とを接着した際、貼り合わせ構造体3は、ホイール1の厚みむらや取付具5の切削の跡などを吸収し、高い平面度ででき上がる原理について、さらに図2で説明する。
被吸引物体であるホイール1は、厚みが数ミクロンメートルから数ミリメートル程度の薄い板状の場合が多く、板厚に何らかの厚みむらを持っている。
また薄い板状のため剛性が低く、面がゆがんだり曲がったりしやすい。
そこで、高い剛性を持ち、且つ許容公差内の高い平面度を有する治具6によって、ホイール1を吸引し平面度Aの面で矯正して保持する。そして、この矯正した状態で接着剤により取付具5と貼り合わせる。
しかし、高い面精度に矯正されたホイール1の接着面9は、ホイール1の厚みむらやゆがみが 全てこの接着面9に出るので平坦にならない。
取付具5の接着面10も、切削の跡があるなどして、凹凸がある。
図3に、ホイールと取付具とを接着している様子を示す断面図を示す。
本実施の形態においては、取付具5と貼り合わされた後、前記治具による面精度が得られた状態で前記接着剤を硬化させ、固定化することにより、ホイール1の厚みむらや取付具5の切削の跡などを吸収し、高い平面度が得られるようにする。
【0011】
図4は、接着後の貼り合わせ構造体を示す断面図である。
接着後、治具6の吸引を止め、出来上がった貼り合わせ構造体3を開放する。
以上のように、治具6の平面度Aの面でホイール1を矯正することにより、ホイール1と取付具5とを接着した貼り合わせ構造体3は、ホイール1の厚みむらや取付具5の切削の跡などが吸収され、高い平面度Bで出来上がる。
【0012】
本実施の形態によれば、簡便な製造装置で所望する高い面精度の貼り合わせ構造体を実現することができる。
また、高い面精度の部品を用いなくても、所望する高い面精度の貼り合わせ構造体を実現することができる。
さらに、本実施の形態によれば、エンコーダ等の作製に際し、従来のものよりもピッチ誤差や累積角度誤差の少ないものを実現することができ、これにより高い精度で位置検出等が可能となり、また高い位置精度による制御システム等を実現することができる。
【実施例】
【0013】
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1においては、本発明を適用した貼り合わせ構造体であるホイールの作製方法について説明する。
図5及び図6に、本実施例の構成を説明するための図を示す。
図5及び図6において、同じ構成には共通の符号が用いられている。
図5は、本実施例における接着前状態の貼り合わせ構造体と治具を示す斜視図である。
図5において、11はホイールである。ホイール11には溝12が設けられている。
貼り合わせ構造体であるホイール構造体13は、接着剤14(図5には不図示。図6参照)により、ホイール11をホイール取付具15に固定した構造体である。
治具16には吸引穴17、吸引溝18が形成され、減圧のための手段としての吸引機構19が接続されている。
【0014】
図6は、図5に示された貼り合わせ構造体を接着している様子を示す断面図である。
治具16に形成された吸引溝18は、ホイール11の溝12に掛かるように配置され、吸引機構19による減圧をホイール11の溝12全体に伝え、ホイール11を治具16に吸引する役目を果たす。
治具16は平面度Cで形成され、吸引したホイール11を治具16の高い平面度で矯正した状態で、ホイール取付具15と接着剤14で接着する。
接着剤が硬化した後、吸引機構19の吸引を止め、ホイール11とホイール取付具15が一体になったホイール構造体13を、治具16から開放する。
【0015】
[実施例2]
実施例2においては、本発明を適用したエンコーダに用いるパルスコードホイールの作製方法について説明する。
図7に、本実施例の構成を説明するための断面図を示す。
図7において、21はエンコーダに用いるパルスコードホイールである。パルスコードホイール21表面には光学パターンの溝(不図示)を設けた形状を有する。
貼り合わせ構造体であるパルスコードホイール構造体20の製作は、まずパルスコードホイール取付具22を、台24に乗せ、接着剤23を塗布する。
【0016】
次に、吸引穴26、吸引溝27が形成され、吸引機構28が接続された治具25に、パルスコードホイール21を吸引した状態でパルスコードホイール取付具22に乗せ、スプリングやおもりによる力Fで押し付けた状態で接着剤23を硬化させる。
接着剤23が硬化した後、吸引機構28の吸引を止め、出来上がったパルスコードホイール構造体20を開放する。
パルスコードホイール21の直径は、パルスコードホイール取付具22より大きくしている。
図7に示す実施例2は治具25を上側にして、実施例1の図6に示す治具16を天地逆の配置にしている。
上記のように治具や各要素の形状や配置等により、接着剤23がはみ出しても支障が出ないようにしている。
【0017】
[実施例3]
実施例3においては、本発明を適用した実施例2とは別の形態のパルスコードホイールの作製方法について説明する。
図8、図9に、本実施例の構成を説明するための図を示す。
図8は本発明による実施例3のパルスコードホイール全体を示す略図である。
図8において、29はエンコーダに用いるパルスコードホイールであり、所定の間隔で全周にわたりパターン30の溝を設けているが、図8は3パターン30を一部のみ描いている。
【0018】
図9は、図8に示すパルスコードホイールにおけるパターン部分31を拡大した図である。
パルスコードホイール29に設けられたパターン30の溝は、本来反射部、非反射部を形成するためのパターンであるが、ここでは一筆書きのように溝を形成したパターン例を示す。これは光学のための溝を、均一な圧力で吸引する溝とした一例である。
【0019】
部品の曲がりやゆがみ、厚みむらや切削跡等、部品の持つ精度を悪化させる要因を、簡便な構造の治具で矯正して、高い精度で形状を固定化する画期的な技術で、平面形状だけでなく、所望する円筒面や曲面にするためなどの各種の適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態における貼り合わせ構造体の作製装置の基本構成を説明する断面図。
【図2】本発明の実施の形態における治具でホイールを吸引した様子、および接着前の取付具を示す断面図。
【図3】本発明の実施の形態におけるホイールと取付具とを接着している様子を示す断面図。
【図4】本発明の実施の形態における接着後の貼り合わせ構造体を示す断面図。
【図5】本発明の実施例1における接着前状態の貼り合わせ構造体と治具を示す斜視図。
【図6】図5に示された貼り合わせ構造体を接着している様子を示す断面図。
【図7】本発明の実施例2におけるパルスコードホイールの構成を示す断面図。
【図8】本発明の実施例3におけるパルスコードホイール全体を示す略図。
【図9】図8に示されたパルスコードホイールにおけるパターン部分の拡大図。
【符号の説明】
【0021】
1、11:ホイール
2、12:溝
3:貼り合わせ構造体
4、14、23:接着剤
5:取付具
6、16、25:治具
7、17、26:吸引穴
8、19、28:吸引機構
9、10:接着面
13:ホイール構造体
15:ホイール取付具
18、27:吸引溝
20:パルスコードホイール構造体
21、29:パルスコードホイール
22:パルスコードホイール取付具
24:台
30:パターン
31:パターン部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の構成体と他方の構成体を接着剤により貼り合わせて作製する貼り合わせ構造体の作製方法において、
前記一方の構成体を、高い面精度を有する治具に吸着することにより矯正した状態で、前記他方の構成体と接着剤で貼り合わせる工程と、
前記一方の構成体と他方の構成体とを貼り合わさせた後、前記治具による面精度が得られた状態で、前記接着剤を硬化させて固定化する工程と、
を有することを特徴とする貼り合わせ構造体の作製方法。
【請求項2】
前記貼り合わせる工程において、前記治具に吸着するため前記一方の構成体に形成された溝を用いることを特徴とする請求項1に記載の貼り合わせ構造体の作製方法。
【請求項3】
前記一方の構成体に形成された溝として、光学素子に形成された光学パターンを用いることを特徴とする請求項2に記載の貼り合わせ構造体の作製方法。
【請求項4】
前記固定化する工程において、前記治具と前記他方の構成体との間に更に加圧力を付加し、前記治具による面精度が得られた状態で前記接着剤を硬化させて固定化することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の貼り合わせ構造体の作製方法。
【請求項5】
前記貼り合わせ構造体として、光学素子または回転を検出するパルスコードホイールを作製することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の貼り合わせ構造体の作製方法。
【請求項6】
一方の構成体と他方の構成体を接着剤により貼り合わせて作製する貼り合わせ構造体の作製装置において、
高い面精度を有し、吸引穴を介して減圧によって吸引動作をする吸引機構と接続された治具を備え、
前記吸引機構の作動によって前記治具に前記一方の構成体を吸着することにより矯正した状態で、前記一方の構成体を保持可能に構成したことを特徴とする貼り合わせ構造体の作製装置。
【請求項7】
前記治具と前記他方の構成体との間に、更に加圧力を付加する加圧手段を有することを特徴とする請求項6に記載の貼り合わせ構造体の作製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−39487(P2008−39487A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−211434(P2006−211434)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(000104630)キヤノンプレシジョン株式会社 (79)
【Fターム(参考)】