質量分析を使用する指紋分析
本出願は、質量分析法を使用して指紋上または内の残留物の存在を判定するための方法に関する。前記質量分析法は、MALDI−TOF−MSおよびSALDI−TOF−MSから選択することができる。マトリックス支援レーザー脱離においてマトリックスとしての役割を果し、指紋の視覚化に役立つ粒子懸濁液を指紋に塗布する。適するマトリックスの例は、疎水性シリカ、チタニア、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブなどである。任意で、指紋は、採取テープを使用して採取することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析法を使用して指紋内の残留物の存在を判定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
潜在指紋は、非常に多数の化合物、例えば、身体からの自然に発生する化合物、例えばコレステロール、スクアレンおよび脂肪酸、[1−3]、または接触から潜在指紋上に残ることがある化合物、例えばコカインもしくは他の乱用薬物を含有する。この目的での今日までの研究にあたっては、ラマン分光法[4、5]が使用されてきた。これらの研究では、分析を行うために乱用薬物の位置を視覚的に特定する点で困難が認められ、また、本方法は、比較的感度が悪く、比較的非特異的であった。潜在指紋の最も一般的な精査方法は、ガスクロマトグラフィー−質量分析(GC−MS)である。潜在指紋からの残留物を溶剤に抽出し、GC−MSによって分析できることは、以前に証明されている[2、3]。そのような化合物としては、スクアレンおよびコレステロールが挙げられるが、潜在指紋上のこれらのレベルは、人によって変わるばかりでなく、同じ人でも時間によって変わる[3]。GC−MSを使用して、スパイクされた指紋から接触残留物、例えばコカインを約300ugの検出限界で検出することもでき[6]、ならびに乱用薬物および代謝産物を市販のスウェットパッチからパッチレベルに従ってngレベルまで下がって検出すること[7]、および唾液から検出することもできる[8]。しかし、上述の方法のすべてが、分析前に着手しなければならない複雑な抽出手順を要する。
【0003】
マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)が、1980年代後期にKarasおよびHillenkampによって開発され、高い質量精度および最大感度を有する大きな高分子、例えばタンパク質、多糖類、核酸および合成ポリマーの分析および正確な分子量決定のための技法として定着するようになった。MALDIは、最小限の断片化を生じさせる「ソフトな」イオン化プロセスであり、このプロセスでは、レーザーからのエネルギーが、高分子の分解にではなくマトリックスの揮発に費やされる。MALDI−TOF−MSは、潜在指紋上に存在する残留物の同定の分野では考究されていない。グラファイト、二酸化チタンまたはシリカがMALDI用の懸濁マトリックスとして使用される場合、MALDI−TOF−MSは、表面支援レーザー脱離/イオン化(SALDI)と呼ばれる[9、11]。
【発明の開示】
【0004】
本発明は、指紋の検出および/または画像化において使用することができる様々な材料を開示する。これらの材料は、一般に、様々な質量分析法においてマトリックス剤としての役割を果すこともできる。従って、これらの材料は、そのような「二つの目的を兼ねた」役割の遂行を可能にする特殊な特性を有する。
【0005】
従って、本発明の一つの態様では、指紋内の残留物の存在を判定する方法を提供し、本方法は、
i)(1)マトリックス支援質量分析法においてマトリックス剤または材料としての役割を果すことができ、かつ(2)指紋の検出および/または画像化に役立つ材料を含む粒状物質を指紋に塗布して、粒子塗布指紋を形成すること;そして次に、
ii)その粒子塗布指紋を形成している材料を質量分析に供して残留物の存在または非存在を検出すること
を含む。
【0006】
一つの実施形態において、前記方法は、材料、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物および炭素の使用を含み、これらの材料は、(1)それらのみで、または、ビヒクル(例えば、シリカビヒクル)と組み合わされもしくはビヒクル内に埋めまれて、指紋を視覚化するための薬剤として使用することができ、かつ(2)マトリックス支援質量分析法を使用してプリントを精査する(分析する)ためのマトリックスとして使用することができる。この質量分析法は、指紋が含む物質、例えば、一つ以上の内因性化合物もしくは代謝産物、外因性化合物もしくは代謝産物および/または接触残留物の存在または非存在を同定するために使用することができる。一つの実施形態において、この質量分析法は、(1)MALDI−TOF−MSおよび(2)SALDI−TOF−MSおよび(3)これらの組み合わせから選択される。
【0007】
前記方法が適用される指紋は、採取テープを使用して表面から採取されたプリントであり得る。
【0008】
一つの実施形態において、前記粒状物質は、指紋へのその粒状物質の塗布および接触を助長するために疎水性である。
【0009】
用語「指紋」が部分的プリントおよび/または他の体部のプリントへの言及を含むこと、ならびに例えば、粒状物質が塗布された指紋の一部を質量分析に供すことができることは、理解される。一般に、プリントは、質量分析適用前にその下にある表面から採取され、したがって、用語「指紋」は、採取された指紋を含む。実施形態において、指紋は、粒状物質の塗布前に採取される。本発明は、段階ii)がプリントから分析物を捕捉した粒状物質を質量分析に供すことを含む方法を含むと、考えている。さらに、本発明は、段階(ii)が指紋材料と粒状物質の両方を質量分析に供すことを含む方法を含むと、考えている。
【0010】
本発明に関連して、用語「サンプル」および/または「分析物」が、プリント、プリントから取ったサンプル、および/またはそのプリント上に存在するもしくはプリントの中に含まれている残留物を意味すると解釈できることは理解される。
【0011】
本発明の一部の方法では、指紋を表面から採取し、採取前であろうと採取後であろうと、粒状物質(処理剤)を指紋に塗布し、その後、その採取された指紋(少なくとも、そのプリント内に含まれる材料)を質量分析装置内に配置する。他の方法では、プリントをサンプル支持体上で直接作り、そのプリントへの処理剤の塗布後、そのサンプル支持体を質量分析装置内に配置する。
【0012】
一つの実施形態において、本方法は、指紋の位置特定および/または視覚化、ならびに上で説明した質量分析法、例えばMALDI−TOF−MSおよび/またはSALDI−TOF−MSを使用するそのプリントの精査をさらに含む。
【0013】
本発明の一つの態様に従って、表面に位置する指紋の中の残留物の存在を判定する方法を提供し、本方法は、
i)処理剤、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、炭素粒子およびこれらの組み合わせから選択される材料を含む粒状物質を指紋に塗布する段階;
ii)その指紋を質量分析に供して前記残留物の存在または非存在を検出する段階
を含む。
【0014】
従って、前に述べたように、本発明は、指紋内の残留物の検出(任意で、定量を含む)に関する。用語「残留物」は、検出が望まれる、特に、予め選ばれた化合物についての検出が望まれる、任意の材料を指す。残留物は、指紋の中にある、またはある場合があり、すなわち、指紋に含まれている、または含まれている場合があり、つまり、指紋を構成する材料は、その残留物を含有する、または含有すると推測される、または含有する場合がある。
【0015】
一つの実施形態において、前記粒状物質は、疎水性である。一つの類の方法では、粒状物質は、他のマトリックス剤および/または他の指紋検出剤と併用することができる。
【0016】
本発明は、(1)指紋に含まれている残留物として存在する内因的に生産された物質、例えば、タンパク質、脂質、DNA、ペプチドおよび/もしくは内因的に得られた代謝産物;(2)指紋に含まれている残留物として存在する、外因性化合物もしくは代謝産物;ならびに/または(3)指紋上または内に存在する接触残留物の検出を可能にする方法を提供する。これらのタイプの残留物の例は、後に論じるが、例えば、(1)スクアレンおよびコレステロール;(2)コカインおよびその代謝産物ならびにニコチンおよびその代謝産物;ならびに(3)例えば小火器および/または爆発物からの弾道学的残留物、乱用薬物(麻薬)、例えばコカインの取り扱いからの残留物を含む。
【0017】
一つの実施形態において、本方法は、内因的に得られる成分(すなわち、内因性代謝産物および/または外因性代謝産物)と一緒に表面に共付着している接触残留物の検出も可能にする。
【0018】
本明細書に記載する方法は、一般に、先行技術に随伴する分析前の複雑な抽出手順を必要とせず、およびさらに、より低い検出限界をもたらす。
【0019】
一つの類の方法は、予め決められた物質の存在または非存在を判定しようとするものである。この場合、この既知の物質に関連した一つ以上のピークの存在について、質量スペクトルを検査する。もう一つの類の方法は、その質量スペクトル中のピークをピークのデータベースまたはライブラリーと比較することによりプリント内の一つ以上の物質を同定しようとするものである。両方の類の方法を組み合わせて行うこともできる。
【0020】
一つの実施形態において、本方法は、粒状物質の塗布前にMALDI−TOF−MSまたはSALDI−TOF−MSサンプル支持体上に直接付着させた指紋に含まれている残留物の検出および/または同定を含む。一つの代替実施形態において、本方法は、採取手段、例えば採取テープを使用して表面から採取された指紋の中の残留物の存在または非存在の検出を含む。前記表面は、例えば犯罪現場での指紋の付着部位であり得る。本方法は、粒状物質の塗布前に採取指紋をMALDI−TOF−MSまたはSALDI−TOF−MSサンプル支持体と接触させることを含むことができる。
【0021】
あるいは、本方法は、採取手段、例えば採取テープを指紋に適用する前に、指紋を粒状物質と接触させることを含む場合がある。一つの実施形態では、表面に先ず散粉して、潜在プリントの位置を特定する。この後、その散粉したプリントを採取テープで採取する。その後、その採取テープ上に位置するプリントを、MS分析前にMALDIまたはSALDIターゲットプレート(サンプル支持体)に適用する。
【0022】
一般に、MALDI−TOF−MSまたはSALDI−TOF−MSサンプル支持体は、MSシステムに合うように設計されているプレート、例えばステンレス鋼プレートである傾向がある。このプレートは、サンプル(すなわち、指紋、例えば、採取指紋)を加える一つのウエルまたは多数のウエルを含むことがある。一つの実施形態において、前記プリントは、採取テープの粘着性表面に存在する半個体付着物である。
【0023】
本方法は、残留物の存在もしくは非存在を判定するために定性的に、および/または残留物の量を決定するために定量的に利用することができる。さらに、一つの実施形態において、本方法は、指紋を視覚化または画像化するために使用することができる。この視覚化または画像化は、指紋の「所有者」の特定を可能にするので重要である。指紋の視覚化に役立つように、好ましくは、前記粒子は、染料、例えば蛍光染料または有色染料をさらに含む。適切な染料は、当業者には公知であるが、例えば、ローダミン6Gが挙げられる。
【0024】
一つの態様において、本発明は、マトリックス支援質量分析法において指紋上の残留物を検出するための、金属、金属酸化物および/または炭素を含む粒状物質の使用も提供する。
【0025】
本発明の一つの態様において、指紋に含まれる残留物の同定におけるマトリックス支援質量分析法の使用を提供する。詳細には、指紋内の残留物を検出するためのMALDI−TOF−MSおよび/またはSALDI−TOF−MS法の使用を提供する。前記残留物は、内因性残留物(例えば、内因性物質もしくは代謝産物、例えばスクアレン、または外因性代謝産物、例えば薬物もしくは薬物代謝産物)、および/または「接触」残留物、例えば、一般には爆発物もしくは小火器からの弾道学的残留物であり得る。一つの実施形態において、MALDI−TOF−MS法および/またはSALDI−TOF−MS法は、指紋を検出(特に、視覚化)するために使用することができる指紋画像化剤と共に使用されることがある。従来の指紋用薬剤の例としては、アルミニウム、Magneta Flakeおよび市販ホワイトパウダーが挙げられる。一つの実施形態では、MALDI−TOF−MS/SALDI−TOF−MS法において、脱離/イオン化プロセスを支援するために適するマトリックス剤が使用される。従来のマトリックス剤の例としては、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHBまたはDHBA)およびα−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸(α−CHCA)が挙げられる。
【0026】
代替実施形態において、MALDI−TOF−MSおよび/またはSALDI−TOF−MSの使用は、(1)金属(2)金属酸化物(3)金属窒化物および(4)炭素から選択される材料をマトリックス剤として含む粒状物質の使用を含む。前記粒状物質は、本明細書において説明する追加の特徴をさらに含むことがある。一般に、前記粒状物質は、指紋を検出および/または画像化するための薬剤として使用することもできる。
【0027】
一つの実施形態において、指紋は、その中に(すなわち、それに含まれている)残留物を有する。一つの実施形態において、前記粒状物質は、他のマトリックス剤または材料(時には、マトリックス支援剤および/またはマトリックス強化剤としても知られている)と併用することができる。
【0028】
一つの実施形態において、前記使用は、残留物の同定をさらに含むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本明細書の記載および特許請求の範囲を通して、語「含む(comprise)」および「含有する(contain)」ならびにこれらの語の変形、例えば「含む(comprising)」および「含む(comprises)」は、「を含むが、それらに限定されない(including but not limited to)」という意味であり、他の部分、添加物、成分、整数または段階を排除するためのものではない(且つ、排除しない)。
【0030】
本明細書の記載および特許請求の範囲を通して、単数形は、その文脈が別様に要求していない限り、複数形を含む。詳細には、明確でない物品が使用されている場合、その明細は、その文脈が別様に要求していない限り、単数性ばかりでなく複数性も考慮していると解釈しなければならない。
【0031】
本発明の特定の態様、実施形態または実施例に関連して記載する特徴、整数、特性、化合物、化学的部分または基は、適合不能でない限り、本明細書に記載する他の任意の態様、実施形態または実施例に適用できると理解しなければならない。
【0032】
本開示を通して、本発明の様々な態様が範囲形式で提示されていることがある。範囲形式での記載は、単に便宜および簡潔のためであり、本発明の範囲に対する変えられない制限と解釈すべきではないことは理解される。従って、ある範囲の記載は、すべての可能なサブ範囲ならびにその範囲内の個々の数値を具体的に開示したものと見なさなければならない。例えば、1から6のような範囲の記載は、1から3、1から4、1から5、2から4、2から6、3から6などのサブ範囲、ならびにその範囲内の個々の数値、例えば1、2、3、4、5および6を具体的に開示したものと見なさねばならない。これは、その範囲の幅に関係なく適用される。多数の範囲の記載は、終点の組み合わせを具体的に開示したものと見なさねばならないことも理解される。
【0033】
方法
本発明は、指紋残留物分析における質量分析の使用に関する。具体的には、本発明は、指紋残留物の分析におけるマトリックス支援質量分析法、例えば、MALDI−TOF−MSおよび/またはSALDI−TOF−MSの使用に関する。
【0034】
前に述べたように、用語「残留物」は、検出が望まれる、特に、予め選ばれた化合物についての検出が望まれる任意の材料を指す。残留物は、指紋の中にある、またはある場合があり、すなわち、指紋に含まれている、または含まれている場合があり、つまり、指紋を構成する材料は、その残留物を含有する、または含有すると推測される、または含有する場合がある。
【0035】
本発明の一つの態様では、指紋上の残留物の存在の判定方法を提供し、本方法は、(i)(1)マトリックス支援質量分析においてマトリクス剤としての使用に適する特性、ならびに(2)指紋を検出および/または画像化のための薬剤としての使用に適する特性を有する粒状物質を、指紋に塗布すること;および(ii)その指紋を質量分析に供して前記残留物の存在または非存在を検出することを含む。
【0036】
好ましくは、前記粒状物質は、疎水性である。本発明は、マトリックスが疎水性であることを特徴とするマトリックス支援質量分析による疎水性物質の分析方法をさらに含む。一つの実施形態において、本方法は、例えば、段階(ii)の前に、その質量分析法の較正に使用するための少なくとも一つの較正標準物質の調製を含む。一つの実施形態において、本方法は、段階(ii)の結果を分析して、例えば、特定の残留物(例えば、ニコチン)がその指紋の中に存在するかどうかを判定することを含む。
【0037】
上で述べたように、用語「指紋」が、部分的プリントおよび/または他の体部のプリントへの言及を含むこと、ならびに例えば、粒状物質が塗布された指紋の一部を質量分析に供すことができることは、当業者には理解される。一般に、指紋は、質量分析適用前に表面から採取され、したがって、用語「指紋」は、採取された指紋を含む。実施形態において、指紋は、粒状物質の塗布前に採取される。本発明は、段階ii)が粒状物質を質量分析に供すことを含む方法を含むと、考えている。さらに、本発明は、段階(ii)が指紋と粒状物質の両方を質量分析に供すことを含む方法を含むと、考えている。一つの類の方法において、段階(i)は、プリントが付着しているまたは付着しているかもしれない物品を、除去する前に粒状物質を含む液体媒体に浸漬することを含む。浸漬の長さは重要でなく、約15分から約12時間またはそれ以上まで様々であり得る。その後、採取テープを使用してプリントをその物品から採取することができる。
【0038】
本発明に関連して、用語「サンプル」および/または「分析物」は、直接付着しているものとあるいは、採取手段、例えば採取テープを使用して表面から採取されたものと、指紋および/または指紋上もしくは内に存在する残留物を意味すると解釈することができることは理解される。
【0039】
一つの実施形態において、質量分析法は、MALDI−TOF−MSおよびSALDI−TOF−MSから選択される。簡単に言うと、MALDI−TOF−MSは、サンプルとマトリックス分子の混合、およびサンプルなどへのそのマトリックス材料の塗布を必要とする。そのMALDI−ターゲットを、高真空下にある質量分析装置のイオン源に導入する。そのサンプルと抽出プレートの間に強い電場を印加する。そのサンプルにレーザーを発射し、その結果、マトリックス分子によるレーザーエネルギーの吸収度に起因して脱離事象が生じる。
【0040】
従って、本発明は、MALDI−TOF−MSおよび/またはSALDI−TOF−MSプロセスにおいてマトリックス材料として適する材料を利用する方法を含む。科学的理論によって拘束されるものではないが、前記粒状物質は、レーザーからのエネルギーを吸収し、それを、サンプルに含まれている分析物に伝達することができると考えられる。本発明において、分析物は、一般に、指紋内の残留物を形成する物質である。分析物へのエネルギーの伝達は、結果として、分析物のイオン化および質量分析装置による加速を生じさせる。MALDI−TOF−MSが、本方法で使用される、すなわち、サンプル(分析物)へのイオンの伝達を伴う場合、それは、陽イオン検出と知られている。
【0041】
ある実施形態において、電子の伝達が分析物から粒状物質への伝達である場合がある。この実施形態では、MALDI−TOF−MS(またはSALDI−TOF−MS)が陰イオン化モードで実行されていると考えられる。
【0042】
サンプル(例えば、指紋上または内の残留物または推測残留物)が、プロトン(H+)を容易に受容する官能基を有すると考えられる場合には、陽イオン検出を用いることができる。サンプル(例えば、指紋上または内の残留物または推測残留物)が、プロトンを容易に喪失する官能基を有すると推測される場合には、陰イオン検出を用いる。
【0043】
本方法は、指紋に含まれている(i)内因性残留物、例えば、内因性代謝産物および外因性代謝産物、ならびに(ii)接触残留物の存在の判定を可能にすることができる。前記内因性代謝産物および「接触」残留物は、指紋内に共に付着していることもある。さらに、本方法は、残留物の同定を可能にすることができる。
【0044】
一つの類の方法は、内因性残留物、例えば人体による物質の代謝の結果として生産された残留物の検出および/または同定に使用することができる。前記内因性残留物としては、内因性代謝産物(例えば、身体により生産される分子の代謝産物)または外因性代謝産物(例えば、身体に摂取または伝達され、その後、その身体によって代謝される分子の代謝産物)を挙げることができる。
【0045】
本方法によって同定することができる内因性残留物の他の例としては、例えば、毛穴を通して分泌され、指紋内に他の化学物質と共に付着していることがある内因性物質(例えば、スクアレン、コレステロール、蝋およびエステル、ステロイド、例えばエストロゲンおよびテストステロン、ならびに性および健康のマーカー)が挙げられる。本方法は、上述の代謝産物およびコンジュゲートを検出するために使用することもできる。内因性残留物の例としては、外因性代謝産物、例えば、乱用薬物およびそれらの代謝産物を含む、薬物およびそれらの代謝産物、処方薬、ならびに食事源またはその分解生成物に由来する代謝産物および化合物も挙げることができる。本方法は、現像されたプリント内にそれぞれ位置する細胞(例えば、脱皮細胞)またはDNAのプロテオームまたはゲノム分析に適用することもできる。本方法は、他の接触残留物、例えば、違法薬物、例えば麻薬;爆発性材料、例えば爆弾製造工程で使用される材料;および小火器の使用からの残留物を検出するために使用することもできる。
【0046】
本発明のさらなる態様において、指紋に含まれている残留物を検出および/または同定するためのMALDI−TOF−MSおよび/またはSALDI−TOF−MS法の使用を提供する。前記残留物は、内因性残留物および/または「接触」残留物、例えば、弾道学的残留物、例えば爆発物もしくは小火器からの弾道学的残留物であり得る。一つの実施形態において、前記残留物は、「接触」残留物、すなわち、物質との接触により人の手に移され、その後、人の指紋と共に表面に移された残留物であり得る。このような残留物の検出は、警察機関にとっては特に関心の高いものであり、一つの重大な法医学的証拠であることを証明することができる。一つの実施形態において、金属、金属酸化物、炭素およびこれらの組み合わせから選択される材料を含む粒状物質は、指紋と接触させるために、およびMALDI−TOF−MS装置においてマトリックスとしての役割を果すために、使用することができる。
【0047】
代替実施形態において、指紋を検出するために使用することができる指紋現像剤を指紋に接触させる場合がある。従来の指紋用薬剤の例としては、アルミニウム、Magneta FlakeおよびCommercial Whiteが挙げられる。このとき、本方法は、一般に、MALDI−TOF−MSマトリックス剤、例えば、DHBA(2,5−ジヒドロキシ安息香酸)もしくはα−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸(α−CHCA)または別のマトリックス剤(これは、例えば、本明細書に記載するような粒状物質であり得る)を使用することができる。
【0048】
本発明の方法は、指紋上で見つけることができる様々な残留物を分析するために使用することができる。従って、一つの実施形態において、本方法は、喫煙者からの潜在指紋を現像および分析するために使用することができる。ニコチンがインビボで広範にコチニンに代謝されることは十分に確立されており[22]、ニコチンとコチニンの両方が共に汗に排泄されるという証拠がある[8]。図11および12は、本明細書に記載するような粒状物質、特に、金属、金属窒化物、金属酸化物および炭素から選択される物質を含有する疎水性シリカ粒子を現像剤として使用して、喫煙者からの潜在指紋を視覚化できること、ならびにそのようなプリントを、適する表面上で直接、またはその表面から採取した後、MALDI−TOF−MSによって分析して、ニコチンおよび/またはその代謝産物を検出できることを証明するものである。
【0049】
一つの実施形態において、本明細書に記載する方法は、ある人が乱用薬物、例えばコカインを取り扱ったまたは摂取したかどうかを検出または判定するために使用することができる。他の実施形態において、本明細書に記載する方法は、ある人が、例えば、喫煙者であるかどうか、または乱用薬物、例えばコカインを摂取したかどうかを判定するために、要員審査の一部として使用することができる。
【0050】
記載する方法は、特定の残留物が人の指紋上または内に存在するかどうかを特定するために使用することができるが、それらの結果は、最高の精度レベルにはならず、従って、例えば刑事裁判所が要求する基準に対して、現今、不適格である場合がある。この場合、例えば、本方法を裁判所で使用するための証拠を目的として実行する場合、本方法は、タンデム型質量分析、すなわち、一般には指紋内の残留物中に存在する化合物についての構造情報を提供するためのさらなる質量分析法の遂行をさらに含むことができる。
【0051】
従って、一つの実施形態において、本方法は、指紋および/または粒状物質をMALDI−TOF−MS−MSおよび/またはSALDI−TOF−MS−MSに供すことを含む。MALDI−TOF−MS−MS/SALDI−TOF−MS−MSは、一般に、質量分析装置内部で特定のサンプルイオンを断片化し、従って、残留物についてのさらなる構造情報を提供する。したがって、一つの実施形態において、本方法は、得られたフラグメントイオンの同定を含む。この構造情報は、一定の状況で、例えば、上で述べたような、裁判所での証拠として有用であり得る。
【0052】
本明細書に記載する方法および使用は、様々な用途において使用することができる。一つの実施形態において、例えば雇用者は、ある人が喫煙者または違法薬物の乱用者であるかどうかを判定するために、要員審査過程の一部として本方法および使用を利用することができる。ある実施形態では、本方法および使用は、例えばプロまたはアマチュアスポーツの分野において、「薬物検査」過程の一部として利用することができる。
【0053】
一つの実施形態において、本明細書に記載の方法は、違法もしくは禁制物質および/またはそれらの代謝産物を含有する接触残留物または内因性残留物いずれかの残留物を検出するために使用することができる。詳細には、本方法を使用して、スポーツ競技および/または無作為検査時に、プロおよび/またはアマチュアスポーツ選手を、その人の指紋から採取した残留物中の禁制物質の存在または非存在について検査することができる。現在使用されている方法に勝る本方法を使用する利点は、分析が、個人固有の指紋で直接行われ、従って、尿および唾液をサンプリングし、その後、薬物分析スクリーニングを行う現在用いられている方法の場合には可能であるようなサンプルの取替えが不可能である点である。
【0054】
指紋上の残留物を検出および/または同定するためのMALDI−TOF−MSおよび/またはSALDI−TOF−MSの使用は、以前には考究されておらず、従って、指紋上の残留物を検出および/または同定するためのこれらの技術の使用は、本発明の一部を形成する。この使用は、本明細書に記載するような粒状物質を指紋に接触させることを含む場合がある。あるいは、この使用は、従来の指紋検出剤を指紋に接触させることを含む場合もある。この実施形態における使用は、質量分析段階における従来から知られているマトリックス剤の使用をさらに含む場合がある。あるいは、本明細書に記載するような粒状物質を質量分析段階においてマトリックス剤として使用することもできる。
【0055】
本発明の方法および使用は、例えば、違法薬物の取り扱いまたは摂取、禁止物質、例えば小火器および弾道兵器(ballistics)の取り扱いを示唆することができる残留物の存在について旅行者を検査するために、入国の時点で使用することもできる。
【0056】
上で説明したように、本方法は、法廷、例えば刑事裁判所において、例えば薬物または弾道兵器取り扱いの法医学的証拠として使用することができる。
【0057】
粒状物質
本発明は、指紋と接触させることができる、およびその後、質量分析法において使用して残留物が指紋上に存在するかどうかを判定することができる、粒状物質を利用する。
【0058】
本粒状物質は、好ましくは、金属、金属窒化物、金属酸化物、炭素およびこれらの組み合わせから選択される材料を含む。
【0059】
本発明の一つの実施形態において、本粒状物質は、疎水性シリカ粒子を含む場合がある。一つの類の疎水性シリカ粒子は、以下の方法によって得ることができる。
【0060】
疎水性シリカ粒子を調製するための方法(方法Aと呼ぶ)は、(1)シランエーテルモノマー、例えばアルコキシシランおよび(2)有機置換シランエーテルモノマー、例えばフェニル変性シリカと、加水分解剤、例えばアルカリとの混合物を一段階で互いに反応させることを含む。
【0061】
従って、本方法は、一般に、アルコキシシランモノマーの使用を含む。本方法は、テトラアルコキシシラン(本明細書ではTAOSと略記する)の使用を含む場合がある。TAOSは、詳細には、TEOS(テトラエトキシシラン)またはTMOS(テトラメトキシシラン)から選択される。
【0062】
一つの実施形態において、前記混合物は、水混和性溶剤、例えばエタノール、およびまた水をさらに含む。本方法は、周囲温度で行うことができる。反応の継続時間は、重要ではない。TAOSモノマーとPTEOSモノマーとの反応は、一晩行うこともあり、または同等の期間、すなわち、約12時間から約18時間の間行うこともある。反応の長さは、生成されるシリカ粒子のサイズに影響を及ぼす。早く反応を停止させるほど、形成される粒子は小さいと考えられる。従って、12時間未満、例えば6時間から12時間の間の期間にわたって反応を行うことがある。あるいは、18時間より長く反応を行うこともある。所望される場合、温度を上昇させ(または低下させ)、反応の継続期間を短縮する(または増す)ことができる。
【0063】
加水分解剤、一般にはアルカリは、反応中触媒として作用する。好ましくは、この触媒は、水酸化物、例えば、水酸化アンモニウムである。前記触媒は、代わりに酸であってもよい。酸の例は、無機酸、例えば塩酸である。本方法における反応は、酸誘導化水分解を含む。
【0064】
シランエーテルモノマー、例えばTAOS、および有機置換シランエーテルモノマー、例えばPTEOSモノマーは、例えば、2:1から1:2、例えば4:3から3:4、特に、1.2:1から1:1.2の比率(PTEOS:TAOS)で使用することができる。一つの類の方法において、前記比率は、少なくとも約1:1、例えば、1:5以下、例えば1:2である。一つの類の方法において、PTEOS:TAOS比は、好ましくは、1:1 v/vである。TAOSおよびPTEOSの一方または両方を代替試薬で置換する場合、同じ比率を用いることができることは理解される。
【0065】
上の方法によって生成される疎水性シリカ粒子は、主としてナノ粒子、すなわち、約200nmから約900nm、一般には約300nmから約800nm、および特に400nmから500nmの平均直径のものである傾向がある。その後、これらのナノ粒子を加工してミクロ粒子に形成することができ、このミクロ粒子は、合着したナノ粒子と考えることができる。前記ミクロ粒子は、例えば、以下の段階、すなわち
i)粒子の懸濁液を遠心分離する段階;
ii)その疎水性シリカ粒子の懸濁液を水性相に移入する段階;
iii)その懸濁液をその水性相から有機相に抽出する段階;
iv)その有機相を蒸発させる段階;および
v)(iv)において得られた生成物を粉砕し篩にかける段階
を含む方法を使用して生成することができる。
【0066】
前記有機相は、好ましくは、非極性であるか低い極性を有する有機溶剤を含む。前記有機相は、ジクロロメタンまたは別の有機溶剤、例えば、アルカン、例えばヘキサン、トルエン、酢酸エチル、クロロホルムおよびジエチルエーテルであり得る。
【0067】
あるいは、疎水性シリカミクロ粒子は、疎水性シリカナノ粒子を含有する反応生成物から、
(a)その反応生成物を遠心分離すること;および
(b)その反応生成物を流体中で洗浄すること
を含む方法を使用して得ることができる。
【0068】
本方法は、段階(a)および(b)の多数回の反復を含むことがある。好ましくは、前記流体は、水溶液:溶剤混合物であり、一般に、水:有機溶剤混合物である。一般に、前記有機溶剤はエタノールである。好ましくは、最初の流体は、水および有機溶剤の約60(水):40(溶剤)の比率での混合物から約40:60 v/v混合物を含む。他の実施形態において、前記溶剤は、例えば、ジメチルホルムアミド、n−プロパノールまたはイソプロパノールであり得る。
【0069】
一般に、前記混合物中の溶剤の割合は、最初の洗浄(すなわち、懸濁)(b)と最後の洗浄(懸濁)の間で増加される。合着したナノ粒子であるミクロ粒子を得るために、最終懸濁液を乾燥させる。その後、それらのミクロ粒子を篩にかける。篩にかけたら、それらのミクロ粒子は、例えば、指紋中の残留物を検出するための本方法の段階(i)において、指紋現像剤として適用する準備が整っている。
【0070】
前記ミクロ粒子は、より小さいシリカナノ粒子の凝集体であると考えることができる。この実施形態において、前記ミクロ粒子は、フェースマスクを使用して効率的に捕捉するために十分なサイズのものであり、従って、吸入されない。したがって、一つの実施形態において、前記シリカミクロ粒子は、少なくとも10μm、一般には少なくとも20μmの平均直径を有する。一般に、前記ミクロ粒子は、約30〜90μmの平均直径を有する。一部の実施形態において、前記ミクロ粒子は、約45〜65μmまたは約65〜90μmの間の平均直径を有する。詳細には、前記ミクロ粒子を含む粒状物質は、乾燥粒状物質であり得る。
【0071】
一つの類の方法において、前記粒状物質は、疎水性シリカナノ粒子を含む。疎水性シリカナノ粒子は、方法Aからの反応生成物を遠心分離すること、およびそれを水溶液:溶剤混合物に懸濁させることを含む方法を使用して単離することができる。前記水溶液:溶剤混合物は、第一水溶液:溶剤混合物であり、好ましくは50:50混合物である。本方法は、その第一水溶液:溶剤混合物から反応生成物を除去すること、それを遠心分離すること、およびそれを第二水溶液:溶剤混合物に懸濁させることをさらに含む場合がある。好ましくは、前記第二水溶液:溶剤混合物は、溶剤および水性成分について第一混合物と同様の割合を有する。前記水溶液:溶剤混合物の一部を形成する水溶液は、好ましくは水である。前記水溶液:溶剤混合物の溶剤部分を構成する溶剤は、例えば、水混和性溶剤、例えばエタノールである。あるいは、ジメチルホルムアミド、n−プロパノールまたはイソプロパノールを使用してもよい。
【0072】
水溶液:溶剤混合物への反応生成物の懸濁段階は、多数回、反復される場合がある。好ましくは、その反復懸濁の経過とともに、その水溶液:溶剤混合物中の溶媒の割合が増すように、水溶液:溶剤混合物の組成を変える。好ましくは、本方法は、最終段階において、0%水溶液:100%溶剤である水溶液:溶媒「混合物」に反応生成物を懸濁させることを含む。総懸濁数は、一般には3から10、例えば、4、5、6、7、8または9である。一般に、最終懸濁を除き、各懸濁後、懸濁液を遠心分離する。ナノ粒子は、最終エタノール懸濁液で保管することができる。遠心分離が、水溶液:溶剤混合物からナノ粒子を単離する一つの例示的方法であり、他の懸濁法が排除されないことは理解される。
【0073】
一つの実施形態において、本粒状物質は、疎水性シリカナノ粒子を含む。一つの類の粒状物質は、流体中の疎水性シリカナノ粒子の懸濁液である。前記流体は、エタノール水性懸濁液であり得る。あるいは、この懸濁液中のエタノールの代わりに、他の有機溶剤、例えば、ジメチルホルムアミド、n−プロパノールまたはイソプロパノールを使用してもよい。
【0074】
本粒状物質に含まれる粒子の物理的性質および直径は、SEMおよびTEMスキャンを使用して判定することができる。前記粒子は、様々な食品において凝結防止剤として、ならびに様々な薬物およびビタミン製剤のための調剤の際に凝結防止剤としておよび賦形剤として、一般に使用されている非晶質シリカ[12]の形態のものである。
【0075】
従って、好ましい実施形態において、ナノ粒子を含む粒状物質は、適する液体媒体中で指紋または表面に塗布される。一般に、前記液体媒体は、水溶液:溶剤混合物である。前記溶剤は、水混和性溶剤であり得る。一つの実施形態において、前記水性成分は、水である。前記溶媒は、例えば、水混和性溶剤、すなわち、すべての割合で水に100%混和性であり得る。一つの実施形態において、前記溶剤は、エタノールである。前記水:溶剤比は、約99.9:0.1(水:溶剤)から約96:4(水:溶剤)に及ぶ。溶剤のレベルは、好ましくは、約4%以下である。より高い溶剤レベルは、指紋を溶解することとなる、またはそれらの鮮明度を低下させることがあるからである。ナノ粒子が個別の粒子として残り、合着して凝集体を形成しないことを確実にするために、少なくとも微量の溶剤を含めることが好ましい。
【0076】
あるいは、本粒状物質は、当分野における方法(例えば、Tapec et al NanoSci.Nanotech.2002.Vol.2.No.3/4 pp405−409;E.R.Menzel,S.M Savoy,S.J.Ulvick,K.H.Cheng,R.H.Murdock and M.R.Sudduth,Photoluminescent Semiconductor Nanocrystals for Fingerprint Detection,Journal of Forensic Sciences(1999)545−551;およびE.R.Menzel,M.Takatsu,R.H.Murdock,K.Bouldin and K.H.Cheng,Photoluminescent CdS/Dendrimer Nanocomposites for Fingerprint Detection,Journal of Forensic Sciences(2000)770−773を参照)を使用して得ることができる疎水性シリカ粒子を含むことができる。
【0077】
一つの実施形態において、前記粒状物質は、染料が取り込まれた疎水性シリカ粒子を含む。一つの実施形態において、前記粒子に取り込むことができる染料は、例えば、有色または蛍光染料であり得る。本発明の範囲に含まれる染料の例は、フルオレセイン誘導体、例えばOregon Green、Tokyo Green、SNAFLおよびカルボキシナフトフルオレセイン、ローダミン(例えば、ローダミンBおよびローダミン6G)およびその類似体、チアゾールオレンジ、過塩素酸オキサジン、メチレンブルー、塩基性黄40、塩基性赤28、ならびにクリスタルバイオレットおよびその類似体であるが、これらに限定されない。科学的理論によって拘束されないが、正電荷を有する染料、例えばローダミンは、本方法においてPTEOSが使用される場合、アニオン性またはカチオン性の基、例えばカルボン酸基を含む染料より、良好に組み込まれると考えられる。本発明において使用することができる他の染料の例としては、平面芳香族部分構造および正電荷の官能基を有するもの(例えば、臭化エチジウムおよび他のDNA挿入剤)が挙げられる。
【0078】
前記粒子が磁性または常磁性であると有利な場合もある。例えば、磁気ワンドまたは他の適切な道具を使用して、磁化性ミクロ粒子を容易に指紋に散粉することができる。従って、本発明の好ましい実施形態では、磁性または常磁性亜粒子を疎水性シリカ粒子に取り込む。本発明の一つの実施形態において、前記粒子は、磁化性、例えば、磁性または常磁性である。磁性および/または常磁性粒子は、任意の磁性または常磁性成分、例えば、金属、金属窒化物、金属酸化物および炭素であり得る。磁性材料の例としては、鉄が挙げられ、一方、金属酸化物の例としては、磁鉄鉱および赤鉄鉱が挙げられる。
【0079】
本発明のさらに好ましい実施形態において、前記炭素は、カーボンブラック、カーボンナノ粒子、フラーレン化合物もしくはグラファイトまたはこれらの類似体である。フラーレン化合物は、少なくとも60の炭素原子(例えば、C60)からなる。好ましくは、前記炭素は、カーボンナノ粒子の形態である。カーボンナノ粒子は、例えば、カーボンナノチューブ(誘導体化されているものまたは誘導体化されていないもの)の形態である場合がある。前記カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブ、および/または単層カーボンナノチューブである場合がある。
【0080】
一つの実施形態において、前記金属酸化物は、酸化チタン(TiO2)、磁鉄鉱、赤鉄鉱およびこれらの組み合わせから選択される。一つの実施形態において、前記金属は、アルミニウム、鉄およびこれらの組み合わせから選択される。しかし、代替実施形態では、本発明において使用することができるMALDI−TOF−MSおよび/またはSALDI−TOF−MSの脱離/イオン化プロセスを支援する代替金属酸化物およびまたは金属窒化物を使用できると当業者は考えると、考えられる。同様に、当業者は、イオン化プロセスを支援する他の金属および/または他の形態の炭素を本粒状物質において使用できると考える。前記金属、金属酸化物、金属窒化物または炭素は、本粒状物質の粒子の中に埋め込むことができる。本粒状物質の粒子は、好ましくは、100μm以下の平均直径、例えば、1μm以下の直径を有する。一つの実施形態において、前記粒子は、約10nmから約100μmの平均直径を有する。
【0081】
シリカ粒子の疎水性は、それらの粒子の指紋への結合を強化する。従って、一つの実施形態では、前記金属、金属酸化物および炭素を疎水性シリカ粒子に組み込む、および/または疎水性シリカ粒子の中に埋め込む。
【0082】
指紋を関係させる方法では、前記粒状物質と指紋を互いに接触させる。これに関連して、用語「指紋」は、例えば、表面に付着している指紋を指す場合もあり、または代替的に、慣例採取手段、例えば採取テープを使用して表面から採取された「間接的」指紋を指す場合もあることは理解される。
【0083】
本粒状物質の塗布は、磁気ワンドによって行うことができ、この実施形態での粒状物質は、磁性または常磁性である。これは、任意の作業員の、特に吸入による粒状物質への暴露を減少させるので、健康および安全性の利点を有する。あるいは、プリントが付着している物品を液体媒体(例えば、ナノ粒子の懸濁液)に浸漬し、その後、取り出す場合もある。浸漬の長さは重要でなく、約15分から約12時間またはそれ以上まで様々であり得る。
【0084】
従って、一つの実施形態において、本粒状物質は、上で説明したような磁化性粒子を含む、疎水性シリカ粒子を含む。
【0085】
一つの類の粒状物質は、疎水性シリカ粒子を含む。前記粒子は、ナノ粒子もしくはミクロ粒子またはこれらの組み合わせであり得る。一つの実施形態において、前記シリカミクロ粒子は、少なくとも10μm、一般には少なくとも20μmの平均直径を有する。一般に、前記ミクロ粒子は、約30〜90μmの平均直径を有する。一部の実施形態において、前記ミクロ粒子は、約45〜65μmまたは約65〜90μmの間の平均直径を有する。
【0086】
約200nmから約900nmの平均直径を有するナノ粒子を本方法により使用できると考えられる。好ましくは、前記ナノ粒子は、約400nmから500nmの間の平均直径を有する。しかし、約200nmから約900nm、例えば、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850または900nmである直径を有するナノ粒子を含む粒状物質を本方法において使用できると考えられる。
【0087】
用語「平均直径(average diameter)」は、本発明の方法から一般に形成される粒子の「平均値直径(mean diameter)」を意味すると解釈することができる。用語「平均値」は、本質的に、このような測定において使用した粒子の数で割った測定したすべての直径の合計である統計学用語である。ナノ粒子の直径は、SEM写真および写真において使用される縮尺から概算することができ、ミクロ粒子についての直径は、篩のサイズと粒径分布測定およびSEM写真からの結果との組み合わせから概算することができる。平均値直径を決定することができる一つの方法は、Malvern Mastersizer(Malvern Instruments Ltd.)の使用による方法である。
【0088】
一つの実施形態において、本粒状物質は、(1)本明細書に記載するような疎水性シリカ粒子と(2)磁性または常磁性粒子、例えば鉄粒子との混合物を含む場合がある。
【0089】
一つの実施形態において、本粒状物質は、指紋の視覚化および/または画像化に役立つ分子をさらに含む疎水性シリカ粒子を含む。一つの実施形態において、前記疎水性シリカ粒子は、染料分子を含む。染料の例としては、例えば、ローダミン、例えばローダミン6Gおよびその誘導体が挙げられる。指紋を視覚化する段階は、当分野において公知の様々な方法を使用して行うことができる。例えば、光学的方法、例えば、UVサーチライト、平床式光学スキャナ、蛍光スキャナおよびUV可視スキャナを含む光学式スキャナを使用することができる。
【実施例】
【0090】
ここで、添付の図面を参照しながら、単なる例として本発明の実施形態を説明する。
【0091】
材料および方法
この調査において使用したTecan LS300スキャナは、バークシャー州、レディングのTecan UKからのものである。Kratos Axima−CFR MALDI−TOF−MS(英国、マンチェスターのShimadzu Biotech)システムをShimadzu金属ターゲットプレートと共に使用する。使用した市販のマトリックスは、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)(50:50 アセトニトリル:脱イオン水[dH2O]中、10mg・mL-1)である。カーボンブラック懸濁液は、英国、チェシャーのCabot Corp.により親切にも寄贈された。アナターゼ型の二酸化チタンを含む他のすべての化学物質は、英国、ドーセットのSigma−Aldrichから入手できる。市販散粉剤、指紋採取用ブラシ、磁気ワンドおよび市販採取テープは、英国、ノーサンプトンのCrime Scene Investigation Equipment Ltd.(以前は、K9 Scenes of Crime Ltd.)から入手できる。
【0092】
MALDI−TOF−MSシステムにおいて使用するための較正溶液を調製した。塩酸パパベリン(dH2O中、10mg/mL)およびレセルピン(ジメチルホルムアミド、DMF中の5mg/mL溶液)の溶液を調製した。このパパベリン溶液のアリコート(100μL)を、そのレセルピン溶液のアリコート(200μL)およびdH20(400μL)およびDMF(300μL)と混合した。アセトニトリル/水(50:50 v/v)中の2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB、10mg/mL)の溶液も調製した。最終較正溶液は、DHB溶液およびレセルピンとパパベリンの混合物の各10μLを互いに混合することによって調製した。この溶液のアリコート(1uL)を各実験において使用し、これら二つの標準物質の分子イオンについてのm/zを使用して前記システムを較正した。
【0093】
埋め込まれた疎水性シリカ粒子の調製
本方法は、ブランクシリカ系ナノ粒子の調製「12」の適応法であり、30mLのエタノール、5mLのdH2O、各2.5mLのテトラエトキシシランおよび2.5mLのフェニルトリエトキシシランを遠心管の中で混合する。このために、2mLの水酸化アンモニウム溶液(28%)を添加してナノ粒子形成を開始させ、その溶液を一晩、回転させる。得られた粒子懸濁液を、二塩化メチレン/水またはエタノール/水(両方の場合、50:50)で繰り返し抽出する。その懸濁液を遠心分離する(例えば、3000rpmで5分)。上清を除去し、10mLのdH2Oおよび同量のジクロロメタンを添加する。その懸濁液をさらに10分間、回転させ、その後、その懸濁液を再び遠心分離する。その溶液の上部水性層を除去し、水およびジクロロメタンのさらなるアリコートを添加する。このすすぎおよび遠心分離プロセスを、水:ジクロロメタンをさらに添加できなくなるまで、4回、繰り返す。前述の時間の後、粒子をインキュベータにおいて40℃で乾燥させてジクロロメタンから落とす。
【0094】
乾燥したら、粒子を乳鉢および乳棒で粉剤し、その後、篩にかけて適する粒径を生じさせる。これらの疎水性粒子は、ブロンズの網目を有する真鍮製試験篩(英国、ロンドンのEndecot Ltd.)により手で篩分けた。この調査において使用した粒径分画物は、約63μm未満であった。Malvern Mastersizer(英国、モールヴァンのMalvern Instruments Ltd.)を使用して、粒径分布を検証する。
【0095】
二酸化チタン含有粒子については、25mgの二酸化チタンを遠心管に添加し、その後、シラン処理試薬を添加する。カーボンブラック(CB)粒子については、水中の供給カーボンブラック懸濁液の1:2〜1:100倍希釈液の5mLを、TiO2の代わりに前駆体溶液に添加する。磁性粒子については、出版物に掲載されている方法に従って、粒状磁鉄鉱を調製する[13、14]。その後、水中のこの懸濁液の5mLをdH2Oの代わりに前駆体溶液に添加する。
【0096】
接触残留物が潜在指紋から有効に採取されるという証明
指先をローダミン6G(Rh 6G;EtOH中、100μg・mL-1)溶液に入れた。指を振って過剰なEtOHを蒸発させ、その後、清浄なスライドガラスに指紋を付着させた。3つのプリント(Rh 6Gで2つ、および1つのブランク対照)を付着させた。これらを、Tecan LS300スキャナ(ex 543nm、em 590nm、ゲイン 120)を使用して調べた。その後、それらに、二酸化チタンが中に組み込まれたシリカの疎水性微粒子を散粉し、その後、同じスキャン条件下で視覚化した。その後、それらを、市販の採取テープ(11.5×6.5cm)を使用して採取し、スライドガラスおよび採取テープ上の残留物両方をスキャンした。
【0097】
採取した接触残留物のMALDI−TOF−MS検出を証明するための実験(ローダミン6G)
この実験では、数グレーンのRh.6G粉末を指先に直接付加し、その後、前のようにスライドガラスに指紋として付着させたが、散粉剤は付加しなかった。その後、伝導性両面テープを使用して指紋を採取し、金属ターゲットに付着させた。この導電性テープは、MALDI−TOFでの使用に適し、Shimadzu Biotechからの寄贈品であった。その後、そのターゲットプレートをMALDI−TOF−MSシステムの内部に配置し、Rh.6Gの存在について指紋を検査した。約444のRh.6Gの検出可能m/zを有する得られたMSを、テープのフラットピースに付着させた100ngの染料と等量の標準物質(エタノール中100μg・mL-1の1μL)のものと比較した。
【0098】
SALDI−TOF−MSにおけるカーボンブラック埋め込みシリカ粒子の強化剤としての効力を証明するための実験
金属ターゲットプレートの表面に存在する円形セル/領域に付着させたコカインが存在する状態および非存在の状態で、CB埋め込みナノ粒子を有するセルに対する計器応答を調査した。すべての結果は、三重反復で行った。塩酸コカイン(エタノール中の1mg/mL溶液の1μLの場合、1μgを分取した)を2セットのウエルに添加した。陽性セットには、10mg・mL-1のCB埋め込みナノ粒子(マトリックス)懸濁液の1μLをセルに添加した。他のセットは、マトリックス一切なしでのコカインに対する応答を明らかにするために対照として放置した。金属ターゲットのブランクセルであるような、コカインが非存在の状態でのマトリックスの対照も調査した。前に説明したとおりセルを乾燥させた後、分析した。
【0099】
MALDI−TOF−MSによるコカイン接触残留物の検出
少量(数グレーン)の塩酸コカインを、その薬物の上に指を置くことにより、指先に付着させた。その後、指を清浄な金属ターゲットプレートと直接接触させ、それによって、そのターゲットの表面にプリントを付着させ、得られたプリントは、その表面上の非常に多数のセル/ウエルをカバーした。その後、それらの潜在プリントに、磁鉄鉱が埋め込まれた疎水性シリカ粒子、または市販の散粉剤を散粉した。これらは、アルミニウム粉末、Magneta Flake(商標)、および二酸化チタンを含有すると考えられるホワイトパウダーであった。市販の磁気ワンドを使用して、二つの磁性粉末を塗布し、一方、非磁性粉末には市販のブラシを使用した。指紋上のコカインの存在を証明するために、市販のDHBマトリックス、10μLの10mg・mL-1を10μLの10mg・mL-1 塩酸コカイン溶液と混合し、この混合物の1μLをMALDIターゲットのウエルに添加した。その後、その金属ターゲットをヒーターボックス(Shimadzu/Kratos Instruments)において乾燥させ、その後、MSシステム内に配置した。
【0100】
採取指紋上のコカイン残留物の検出のためのTiO2/PTEOS粒子の有効性を証明するための実験
ブランクおよびコカインをスパイクした指紋を、上で説明したようにスライドガラスに付着させた。これらを、Zephyr指紋採取用ブラシを使用し、TiO2/PTEOS粒子を使用して現像した。その後、市販の採取テープを使用してプリントを採取し、これを反転させ、プリント面を上にしてMALDIターゲットプレートに貼り付けた。その後、それらの指紋をコカインの存在または非存在についてMSにより精査した。
【0101】
疎水性粒子を強化マトリックスとして使用するMALDI−TOF−MSの使用による指紋からのコレステロールおよびスクアレンの検出
金属ターゲットプレートを清浄にし、乾燥させた。12の右手人差し指の指紋をその金属プレートに付着させた。その後、これらをインキュベータ内で37℃で約1.5時間、放置して乾燥させた。上で説明したとおり調製した疎水性粒子の10の異なる配合物を各指紋に散粉した。各場合、粒子内に埋め込まれた薬剤をカッコ内に示す。加えて、得られた粉末のうちの幾つか(1、5、6および8)も、その後、DHBとも入念に混合して、1% w/w配合物を製造した。これらを使用して、このマトリックスの存在が、散粉後の潜在プリントおよびMALDI−TOF−MSにおけるスクアレンの検出を改善するかどうかを判定した。ブラックパウダーの4つの配合物を使用した。これらは、最初の合成に起因して様々な割合のカーボンブラックをそれらの中に有した。カッコ内の数は、最初の合成の際に使用したdH2Oに対するカーボンブラックの比率を指す。
1.ホワイトパウダーA(二酸化チタン;1.0% w/w DHB;粉末)
2.ホワイトパウダーB(二酸化チタン)
3.バイオレットパウダーA(クリスタルバイオレット)
4.ブラックパウダーA(1:10)
5.ブラックパウダーB(1:10;1.0% w/w DHB:粉末)
6.バイオレットパウダーB(クリスタルバイオレット;1.0% w/w DHB:粉末)
7.レッド蛍光パウダーA(ローダミン6G)
8.レッド蛍光パウダーB(ローダミン6G;1.0% w/w DHB:粉末)
9.ブラックパウダーC(1:5)
10.ブラックパウダーD(1:2)
【0102】
最初の10のプリントの各々に、対応する番号の粉末1〜10を個々に散粉し、得られたプリントをデジタルカメラで撮影した(写真は示さない)。その後、散粉剤またはマトリックで処理していないプリント(プリント12)およびジヒドロキシ安息香酸のみを散粉したプリント(プリント11)を含むそれらを、MALDI−TOF−MSで個々に分析した。
【0103】
疎水性粒子を強化剤として使用するMALDI−TOF−MSの使用によるコレステロールおよびスクアレンの直接検出
100%エタノール中のコレステロールおよびスクアレンの溶液(両方とも2mg/mL)を調製し、各溶液の500μLアリコートを互いに混合した。この溶液の24のスポット(各0.5μL)を清浄な乾燥金属ターゲット上に分取し、2時間放置して空気乾燥させた。それらのウエルに、個々に、8つの疎水性粉末の各々の配合物を散粉した(各配合物につき3つのスポット)。これらの配合は、2.8に記載したものと同一であった。
1.レッド蛍光パウダーA
2.ブラックパウダーA
3.ブラックパウダーB
4.バイオレットパウダーA
5.バイオレットパウダーB
6.レッド蛍光パウダーB
7.ブラックパウダーC
8.ブラックパウダーD
【0104】
散粉は、これらの粉末の各々を用い、上で説明したとおり、その金属プレートの表面に直接行った。500μLのコレステロール/スクアレン溶液と500μLの10mg/mL DHB溶液(マトリックス)を混合することにより別の溶液も調製した。この溶液の3つのスポット(0.5μL)も金属ターゲット上に分取し、放置して空気乾燥させた。その金属ターゲット上の各スポットをMALDI−TOF−MSで分析し、コレステロール(m/z 386)とスクアレン(m/z 410)の両方およびそれらの金属付加体についてのピークをモニターした。
【0105】
結果
接触残留物が潜在指紋から有効に採取されることの証明
指紋採取プロセスの効率および得られたプリントの隆線ディテールを調査した。ローダミン6Gを、その高い蛍光のためモデル接触剤として使用した。したがって、接触後に高い蛍光のプリントが見られた(図1aの上および下のプリント)が、通常のプリント(図1aの中央)は、使用したスキャン条件下で蛍光性でなかった。
【0106】
疎水性シリカ散粉剤を前記3つのプリントに塗布すると、ローダミン蛍光のため、およびまたプリントに付着したシリカ粒子から散乱された光のため、それらは視覚的に明瞭になり(図示なし)、それから3つすべてのプリントが、蛍光スキャンで良好で明確なプリントを与えた(図1b)。採取テープを使用してプリントを採取した後、そのスライドガラスの表面には殆ど蛍光が残らず(図1c)、これにより採取プロセスの有効性が証明された。そのとき、そのテープの表面のスキャンは、「蛍光」プリントを示し、これにより、それらの採取プリントおよび散粉剤が、このプロセス中に損なわれずに残ることが証明された(図1d)。
【0107】
図1において観察される結果は、市販の採取テープの適用により、潜在指紋の大部分の付着材料がスライドガラスからそのテープに転写される結果となることを示唆している。これは、MALDI−TOF−MSによる潜在指紋上の任意の材料の検出における第一段階である。
【0108】
採取された接触残留物のMALDI−TOF−MS検出(ローダミン6G)
この実験の成功を仮定して、顕微鏡用スライドガラスの表面から採取したローダミンを、MALDI−TOF−MSを使用して検出できるという仮説を立てた。結果を図2に示す。上のトレースは、採取指紋からのものであり、Rh 6Gに対応するm/z 443でのピークを有する。下のスペクトルは、MALDIターゲットに直接付加したRh 6G標準物質からのものである。ピークの形およびパターンは同様であり、これは、同じ化合物を示差している。上のトレースにおいて見られる質量減少は、イオン化した化学種の飛行時間を減少させるターゲットプレートへの採取テープの付着中の使用したテープのわずかな隆起に、おそらく起因する。
【0109】
導電テープは、MALDIターゲットに平らに貼り付け、その上面にサンプルを加えられるように設計する。これは、比較的脆くもあり、容易に延伸され、それにより現像指紋現物が歪むことがある。困難を伴いつつ、それを用いて顕微鏡用スライドからプリントを採取し、MALDIターゲット上にできる限り良好に付着させたが、その脆性および粘着性の性質のため、それを平らにすることができなかった。
【0110】
図2に示す結果は、粉末形態の接触残留物を表面から採取することができ、MALDI−TOF−MSシステムを使用して首尾よく検出することができることを証明した。
【0111】
コカインについてのMALDI−TOF−MSにおけるカーボンブラック埋め込みシリカ粒子の強化剤としての効力
これらの結果が、マトリックスとコカインの両方が存在する状態で観察され、バックグラウンドシグナルからはされないことを証明するために、量がわかっているコカインおよびマトリックスを使用して、さらなる分析を行った。コカインが存在する状態および非存在の状態での磁性シリカ粒子の応答を、マトリックスを一切伴わないブランクターゲットおよびコカインの応答と比較した。
【0112】
コカインが存在する状態および非存在の状態でのカーボンブラック埋め込みシリカ粒子のm/z 304での応答を、DHBマトリックスを一切伴わないブランクターゲットおよびコカインの応答と比較した。コカインに起因するMSピークの強度を図3に示す。それらのシリカ粒子の存在は、その非存在時にコカインについて見られたものと比較して、ピーク強度の10倍増をもたらした。56,552および112%の上昇、n=3というDHBが存在する状態での対応する結果と比較して、良好な再現性が観察された(強度平均値90,275および5.8%の上昇、n=3)。
【0113】
従来のDHBマトリックスと比較したカーボンブラック埋め込み粒子の可能的SALDI使用を調査した。塩酸コカインをターゲット分析物として使用した。指紋でのこの同定は、指紋を提供した人がコカインと接触したことを証明できるので、警察機関にとって関心が高いからである。金属MALDIターゲットに直接付着させたプリントについての従来の化学的マトリックス(DHB)および新規散粉マトリックスが存在する状態でのコカインの質量スペクトルを図4に示す。下のスペクトルは、DHBが存在する状態でのコカインのスペクトルを示し、上のスペクトルは、磁性ワンドによって付着させた、磁性PTEOSナノ粒子が存在する状態でのコカインを示す。両方が、その薬物のものに対応する、同様のスペクトルを示しているが、磁性粒子が存在する状態では明らかに応答が増加されている。これは、磁性PTEOS粒子が、従来のマトリックスのものと同様の様式でコカインの脱離プロセスを支援することを示している。良好な隆線ディテールが、現像されたプリント上で観察された(図示なし)ので、この磁性PTEOSは、指紋視覚化粉末としての可能性も示した。
【0114】
金属ターゲットプレートに付着させ、二酸化チタン、カーボンブラック(1:10)を含有する疎水性粉末を散粉した、またはDHBで処理した、もしくは未処理のままにした(詳細は示さない)接触プリントについての304.5 m/zでのコカインピークについても同様の結果が観察され、このとき、相対強度は、それぞれ、1,700、10,000、9,000および100mVであった(図4b)。
【0115】
採取指紋上のコカイン残留物の検出についてのTiO2埋め込み粒子の有効性
採取プロセスの効力(図1および2)およびMALDIターゲット上のスパイクした潜在プリントからのコカインの検出(図3〜5)を証明したところで、コカインを、市販の採取テープから直接取った採取指紋で検出することができるという仮説を立てた。結果を図6に示す。下のトレースは、コカインと接触していない採取プリントについて観察されたものであり、一方、上のトレースは、その薬物と接触したプリントからのものである。コカインに対応する304でのm/zの明確なピークは、上のトレースでしか見られない。両方の場合、プリント現物にTiO2埋め込み疎水性シリカ粒子を散粉した。図7は、コカインでスパイクした指紋の、MALDI−TOFにより分析したターゲット領域を示すものである。同様の写真が、陰性対照について得られた(図示なし)。このウエルの直径は、3.4mmであり、指紋の明確な隆線ディテールを観察することができる。図6におけるスペクトルは、セル内の画定された領域に対するレーザースキャンによって得たものであり、シグナルを平均してこのスペクトルを生成した。
【0116】
疎水性粒子を強化マトリックスとして使用するMALDI−TOF−MSの使用による指紋からのコレステロールおよびスクアレンの検出
この実験では、12のプリントをステンレス鋼MSターゲットプレートに直接付着させた。熟成後、それらのプリントに、疎水性散粉剤の10の異なる配合物のうちの1つを散粉した。その後、それらのプリントを採取し、MALDI−TOF−MSシステムを使用して精査した。
【0117】
コレステロールとスクアレンの両方が検出されると予想されたが、実際にはスクアレンしか観察されなかった。これは、分子イオンとナトリウム付加体に対応する433のm/zで見られた。図7からわかるように、強化剤が一切非存在の状態で観察された強度は、約2,000mVであった(プリント12)。これがDHBによって約14,000に強化された。これらの粉末のうち、最も高いカーボンブラック比を含有するものが、最高の応答を与え(プリント9および10)、炭素の比率が高いほど、ピークは強く、そのため、約22,000mVの最大強度を有するサンプルをカーボンブラック(1:2の希釈比)に対応付けた。
【0118】
一般に、粉末内のDHBの存在は、ピーク強度をわずかに強化した(プリント1および2−二酸化チタン、ならびに4および5−1:10のカーボンブラック比)が、この傾向は、染料クリスタルバイオレットを含有する粉末(3および6)およびローダミン6Gを含有する粉末(7および8)については見られず、これらの場合、未処理のプリント12と等価またはそれより低い、低シグナルが生成された。
【0119】
疎水性粒子を強化マトリックスとして使用するMALDI−TOF−MSの使用によるコレステロールおよびスクアレンの直接検出
コレステロールは、プリントのMSでは見られなかったので、DHBおよび新規散粉剤が存在する状態で、MALDI−TOF−MSシステムを使用してこの化合物を検出できるかどうかを判定しようと決めた。したがって、スクアレンとコレステロールの混合物の標準物質を金属ターゲットプレートの表面に付着させ、3部構成での8セットのこれらのスポットに、3.6で使用した疎水性粉末の8つの配合物を散粉するか、それらのスポットをDHBで処理するか、未処理のままにした。
【0120】
この場合、スクアレンに起因するピークが、その化合物のナトリウム付加体に起因して再び433のm/zで観察され、粉末1、2、7および8は、DHBが存在する状態で見られた強度より相当大きいシグナルを与えた(図8)。最大強度は、レッド蛍光パウダー(ローダミン6G、パウダー1、49,000mV)で観察され、重ねて、カーボンブラックが良好な応答を与えた(1:10、6,000mV;1:5、36,000mV;および1:2、4,000mV)。そのとき、386のm/zでのピークが観察されたが、すべての場合において、強度値は、スクアレンで見られたものよりはるかに低かった。クリスタルバイオレット染料を含有する粉末が存在する状態で最高値が生じ(1,800mV、パウダー4)、カーボンブラックを含有するものも、比較的良好なピークを生じさせた(パウダー3、1:10とDHB、パウダー7、1:5およびパウダー8、1:2についてすべて約800mV)(図9)。
【0121】
これら2つの化合物についての実際のスペクトルを図10a(スクアレン)および図10b(コレステロール)に示す。これらは、使用した条件下でより良好なスクアレン応答を明確に示している。
【0122】
MALDI−TOF−MSを使用する散粉潜在指紋における喫煙者からの外因性代謝産物の直接検出
使用した疎水性散粉剤は、1:2のカーボンブラック:PTEOSの開始比で形成されたカーボンブラック組み込み薬剤であった。この合成は、本明細書の次のセクションで説明する。
【0123】
これを、疎水性粒子のイオン粒子に対する比率が2:98 w/wになるように、鉄微粒子(直径<60μM)とステアリン酸(1.0% w/w)の混合物に均一に組み込んだ。潜在プリントは、市販の磁性ワンドを使用して散粉し、ステンレス鋼プレート(Shimadzu MALDI−TOF−MSターゲットプレート)の表面でプリントについてインサイチューで分析するか、市販の採取テープを使用して採取した。採取プリントは、市販の接着テープを使用してプリント面を上してターゲットプレートに貼り付けた。MALDI−TOF−MSは、Kratos Axima CFR Plus MALDI−TOF−MS(英国、マンチェスターのShimadzu Biotech)を使用し、陽イオン反射モードで動作させて行った。使用した市販のマトリックスは、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)(50:50 アセトニトリル:脱イオン水[dH2O]中、10mg・mL-1)であった。
【0124】
図11に示す結果は、ニコチンとコチニン(各10ng)の混合物でスパイクされる潜在プリントについて、マトリックス強化剤が非存在の状態では、ニコチン(FW 162)およびコチニン(FM 176)に起因するピークが観察されないことを示している(11a)。従来のマトリックス支援剤DHBを、各化合物でスパイクしたプリントに加えると、163および177でのピークが観察される(11c)。したがって、スパイクされた潜在プリントに疎水性散粉剤を加えると、163および177でのピークが再び観察され、これは、この薬剤が、強化剤としての役割も果すことを示している。そのとき、m/z 199で追加のピークが観察され、これは、おそらく、コチニンのナトリウム付加体に起因する。疎水性散粉剤を散粉した、スパイクしていないプリントについては、m/z 157でのピークが、ほぼ同じ強度の163のm/zでのピークと共に観察される。このスペクトルでは、177および199でのピークは見られない(11d)。図11bにおける163でのピークは、ニコチンの存在におそらく起因する157でのピークより相当強い強度のピークであると注目すべきである。
【0125】
図11は、潜在指紋に塗布したとき、DHBなどのマトリックス強化剤を添加しない場合だけは、TOF−MSによってニコチンおよびコチニン(両方とも、プリント当たり10ng)を検出できないことを明確に証明している(11cと比較した11a)。この図は、潜在プリントを現像するために使用した疎水性散粉剤が、強化剤としての役割も果し、そのため、これらの化合物が再び検出されることも証明している(11b)。163.3(ニコチンについての式量は、162.23である)および177.3(コチニンについての式量は、176.22である)および199.2のm/z値で大きなピークが見つかった。この最後のピークは、おそらくコチニンのナトリウム付加体(C10H12N2ONa、式量199.21)に起因する。これらのピークは、ニコチンおよびコチニンでスパイクしていない、事前に散粉した潜在指紋にはない(11d)。24時間、喫煙していない元喫煙者についての対応するスペクトルを図2に示す。散粉マトリックスに起因するものではない大きなピークが163.1(ニコチン)および199.1(コチニンナトリウム付加体)のm/zに見られ、177.1(コチニン)に小さなピークが見られる。
【0126】
より高い質量数でのスペクトルを検査する場合、ステンレス鋼プレートに直接適用したプリントには307.4および433.4でのピークが見られることに注目すると面白い。これらは、おそらく、それぞれ、ステアリン酸のナトリウム付加体(FW 307.47)およびスクアレンのナトリウム付加体(FW 433.71)に起因するものである。これらは、散粉剤の配合の際に使用したステアリン酸に、および指紋の内因性成分として分泌された天然スクアレンに源を発する。
【0127】
これらのピークは、採取プリントで得られるピークの較正に使用することができる。それらは、採取テープの表面に存在し、そのテープ自体がステンレス鋼ターゲットプレートの表面に取り付けられるからである。これは表面を隆起させ、そのため、イオン化した化学種の飛行時間は、その時、鋼表面からのものより短く、ピークの見掛けのm/z値は、より小さい。従って、採取テープ上の喫煙者からのプリントについて得られたスペクトルには、305.1および431.2でのナトリウム付加体のピークが、174.6(大きい)および197.4でのピークと共に見られる。これらのピークのより低い質量を2.3m/z単位で補正して、176.9(コチニン)および199.7(ナトリウムコチニン付加体)でのピークを得ることができる。
【0128】
161、167および168でのピークは、一貫して、喫煙者のMSでしか見られない。ニコチンはタバコ葉中のアルカロイドの約95%を構成するが、様々な他のアルカロイドも存在することは公知である。これらの中で、ニコチン(RMM 148)およびアナタビン(RMM 160)が最も豊富である[22]。プロトン化形のニコチンおよびコチニンがこれらのスペクトル中で観察されるので、161のm/zでのピークはアナタビンに起因するものであるが、これを確認するためにさらなる調査が必要である。
【0129】
カーボンブラックが組み込まれた薬剤の調製
ブランクナノ粒子の基本的調製方法は、遠心管内での30mLのエタノール、5mLのdH2O、各2.5mLのテトラエトキシシラン(TEOS)および2.5mLのフェニルトリエトキシシラン(PTEOS)の混合を含む。この混合物に2mLの水酸化アンモニウム溶液を添加し、その溶液を一晩回転させる。この時間の後、その懸濁液を遠心分離する(3,000rpmで3分)。
【0130】
10:90 v/vのエタノール/水を使用する一連の遠心分離および洗浄段階に従ってその生成物を単離し、その後、97:3 v/v 水/エタノール中の懸濁液として保持する。これらは、粒径分布分析およびSEMおよびTEMにも供した。
【0131】
カーボンブラック粒子については、水中のカーボンブラック溶液の1:100倍希釈物の5mLをその前駆体溶液に添加する。TEOS:PTEOS被覆磁性粒子については、出版物に掲載されている方法に従って粒状磁鉄鉱を作製し、水中のその懸濁液の5mLを前駆体溶液に添加する。
【0132】
以下のパラグラフは、本開示の一部を形成する。
1.ある表面上に位置する指紋の中の残留物の存在を判定する方法であって、
i)金属、金属酸化物または炭素粒子を含む粒状物質を指紋に塗布する段階;
ii)前記指紋を質量分析に供して前記残留物の存在または非存在を検出する段階
を含む方法。
【0133】
2.前記支援質量分析法が、MALDI−TOF−MSまたはSALDI−TOF−MSである、パラグラフ1に記載の方法。
【0134】
3.前記組成物を使用する潜在指紋の視覚化をさらに含む、パラグラフ1または2に記載の方法。
【0135】
4.前記金属酸化物が、酸化チタン、酸化鉄(磁鉄鉱)であり、または前記金属がアルミニウムもしくは鉄である、パラグラフ1から3のいずれかに記載の方法。
【0136】
5.前記炭素が、カーボンブラック、フラーレン化合物、またはグラファイトもしくは前記類似体である、パラグラフ1から3のいずれかに記載の方法。
【0137】
6.前記粒状物質が、前記金属、金属酸化物または炭素が中に埋め込まれた粒子を含む、パラグラフ1から5のいずれかに記載の方法。
【0138】
7.前記粒子の直径が、100m以下である、パラグラフ6に記載の方法。
【0139】
8.前記粒子の直径が、1m以下である、パラグラフ7に記載の方法。
【0140】
9.前記粒子が、疎水性シリカ粒子である、パラグラフ6から8のいずれかに記載の方法。
【0141】
10.前記粒子が、染料をさらに含む、パラグラフ6から9のいずれかに記載の方法。
【0142】
11.前記染料が、蛍光性である、パラグラフ10に記載の方法。
【0143】
12.前記粒子が、磁性または常磁性である、パラグラフ6から11のいずれかに記載の方法。
【0144】
13.前記粒子が、磁性フェニルトリメトキシシラン(PTEOS)ナノ粒子である、パラグラフ12に記載の方法。
【0145】
14.前記残留物が、内因性代謝産物である、パラグラフ1から13のいずれかに記載の方法。
【0146】
15.前記内因性代謝産物が、スクアレンである、パラグラフ14に記載の方法。
【0147】
16.前記残留物が、接触残留物である、パラグラフ1から14のいずれかに記載の方法。
【0148】
17.前記接触残留物が、麻薬である、パラグラフ16に記載の方法。
【0149】
18.前記麻薬が、コカインである、パラグラフ17に記載の方法。
【0150】
19.少なくとも一つの内因性代謝産物および少なくとも一つの接触残留物が、指紋の中に共に付着している、パラグラフ1から18のいずれかに記載の方法。
【0151】
20.前記指紋を、粒状物質の塗布前に、MALDI−TOF−MS/SALDI−TOF−MSサンプル支持体上に直接付着させる、パラグラフ1から19のいずれかに記載の方法。
【0152】
21.前記指紋を、前記粒状物質塗布前に、採取テープを使用して前記付着部位から採取し、MALDI−TOF−MS/SALDI−TOF−MSサンプル支持体と接触させる、パラグラフ1から19のいずれかに記載の方法。
【0153】
22.添付の実施例を参照しながら本明細書において実質的に説明したとおりの方法。
【0154】
[参考文献]
【表1A】
【表1B】
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】接触剤としてローダミン6G(Rh.6G)を使用するスライドガラスに付着させ、そこから採取した指紋の蛍光スキャン(λex 543nm、λem 590nm)を示す。 図1a.顕微鏡用スライド上に付着させた潜在指紋。上と下はローダミン6Gで、中央は、ブランク対照である。 図1b.「Sunderland White」指紋用パウダー(TiO2埋め込み疎水性シリカ粒子)で現像した1aからの指紋。 図1c.市販の指紋採取テープで採取した後の1bからのプリントの残留物。 図1d.市販の採取テープ上の1bからの採取指紋。
【図2】エタノールからの付着したローダミン6Gの質量スペクトル(上)および採取指紋からのローダミン6Gの質量スペクトル(下)(両方とも、MALDIテープ(下記)で分析した)を示す。
【図3】塩酸コカインが存在する状態または非存在の状態でのカーボンブラック埋め込みシリカ粒子に対するMALDI−TOF−MSシステムの応答を示す。
【図4】金属MALDI−TOF−MSプレートに直接適用したスパイクした指紋に関するコカインの検出についてのマトリックス材料の比較を示す。下のトレースは、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)を10mg・mL-1で使用して得、上のトレースは、疎水性シリカ磁気粒子で得た。 図4a:金属MALDI−TOF−MSプレートに直接適用したスパイクした指紋に関するコカインの検出についてのマトリックス材料の比較。下のトレースは、DHBを10mg・mL-1で使用して得、上のトレースは、疎水性シリカ磁気粒子で得た。 図4b:コカインが存在する状態と非存在の状態両方のでの金属ターゲットプレートに付着させ、三種類の粉末を散粉した指紋のm/z 304.5でのスペクトル強度。
【図5】コカインとの接触を検出するために、TiO2埋め込み疎水性シリカ粒子を散粉した、採取潜在指紋の質量スペクトルを示す;接触陽性(上のトレース)およびコカインとの接触なし(下のトレース)。
【図6】MALDI−TOF−MSによる分析前にTiO2埋め込み疎水性シリカ粒子を前以て散粉した採取指紋の隆線ディテール(ライトストライプ)を示す質量分析装置内に配置した96ウエルMALDI−ターゲットプレートの表面の単一ウエル/セル単位の写真。
【図7】疎水性粒子の10の配合物(1〜10)および対照(11および12)を散粉した採取プリントについてのm/z 433.55(スクアレンとナトリウム付加体についての分子イオン)での相対強度を示す。コレステロールに起因するm/z 386でのピークは観察されなかった。
【図8】疎水性粉末の8つの配合物(1〜8)および2つの対照(9、10)が存在する状態でのスクアレン標準物質についてのm/z 433.55(スクアレン、式量410.72、とナトリウム(22.99)の付加体)での相対強度を示す。
【図9】疎水性粉末の8つの配合物(1〜8)および2つの対照(9、10)が存在する状態でのコレステロール標準物質についてのm/z 386.37(コレステロールについての式量386.65)での相対強度を示す。
【図10】スクアレンおよびコレステロール標準物質についての質量スペクトルを示す。(a)スクアレン標準物質についてのMALDI−TOF−MS。(b)コレステロール標準物質についてのMALDI−TOF−MS。
【図11】ステンレス鋼プレート上の非喫煙者(FR)からの潜在指紋である、ニコチン(RMM 163)とコチニン(RRM 176)の1μg/mL混合物を含有する10μLの溶液でスパイクした潜在指紋のMALDI−TOF−MF。下から上に、 a−疎水性粒子を散粉せず、DHBで処理したスパイクした潜在プリント b−DHBで処理したスパイクした潜在プリント c−疎水性粒子を前以て散粉したスパイクした潜在プリント d−疎水性粒子を前以て散粉したスパイクしていない潜在プリント
【図12】疎水性粒子を前以て散粉したステンレス鋼上に付着させた(最後のタバコから24時間たった)元喫煙者からの潜在指紋のMALDI−TOF−MS。 a)m/z範囲 155〜180、b)m/z範囲 180〜205、c)m/z範囲 205〜450
【図13】喫煙者の散粉プリントからの潜在指紋のMALDI−TOF−MS−MS。163、148、133、119、105、91、84および79でのピークは、ニコチンの特徴であり、その存在の明白な証拠を与える。
【図14】喫煙者の散粉プリントからの潜在指紋のMALDI−TOF−MS−MS。177、161、147、135、119、105、97、91および79でのピークは、コチニンの特徴であり、その存在の明白な証拠を与える。
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析法を使用して指紋内の残留物の存在を判定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
潜在指紋は、非常に多数の化合物、例えば、身体からの自然に発生する化合物、例えばコレステロール、スクアレンおよび脂肪酸、[1−3]、または接触から潜在指紋上に残ることがある化合物、例えばコカインもしくは他の乱用薬物を含有する。この目的での今日までの研究にあたっては、ラマン分光法[4、5]が使用されてきた。これらの研究では、分析を行うために乱用薬物の位置を視覚的に特定する点で困難が認められ、また、本方法は、比較的感度が悪く、比較的非特異的であった。潜在指紋の最も一般的な精査方法は、ガスクロマトグラフィー−質量分析(GC−MS)である。潜在指紋からの残留物を溶剤に抽出し、GC−MSによって分析できることは、以前に証明されている[2、3]。そのような化合物としては、スクアレンおよびコレステロールが挙げられるが、潜在指紋上のこれらのレベルは、人によって変わるばかりでなく、同じ人でも時間によって変わる[3]。GC−MSを使用して、スパイクされた指紋から接触残留物、例えばコカインを約300ugの検出限界で検出することもでき[6]、ならびに乱用薬物および代謝産物を市販のスウェットパッチからパッチレベルに従ってngレベルまで下がって検出すること[7]、および唾液から検出することもできる[8]。しかし、上述の方法のすべてが、分析前に着手しなければならない複雑な抽出手順を要する。
【0003】
マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)が、1980年代後期にKarasおよびHillenkampによって開発され、高い質量精度および最大感度を有する大きな高分子、例えばタンパク質、多糖類、核酸および合成ポリマーの分析および正確な分子量決定のための技法として定着するようになった。MALDIは、最小限の断片化を生じさせる「ソフトな」イオン化プロセスであり、このプロセスでは、レーザーからのエネルギーが、高分子の分解にではなくマトリックスの揮発に費やされる。MALDI−TOF−MSは、潜在指紋上に存在する残留物の同定の分野では考究されていない。グラファイト、二酸化チタンまたはシリカがMALDI用の懸濁マトリックスとして使用される場合、MALDI−TOF−MSは、表面支援レーザー脱離/イオン化(SALDI)と呼ばれる[9、11]。
【発明の開示】
【0004】
本発明は、指紋の検出および/または画像化において使用することができる様々な材料を開示する。これらの材料は、一般に、様々な質量分析法においてマトリックス剤としての役割を果すこともできる。従って、これらの材料は、そのような「二つの目的を兼ねた」役割の遂行を可能にする特殊な特性を有する。
【0005】
従って、本発明の一つの態様では、指紋内の残留物の存在を判定する方法を提供し、本方法は、
i)(1)マトリックス支援質量分析法においてマトリックス剤または材料としての役割を果すことができ、かつ(2)指紋の検出および/または画像化に役立つ材料を含む粒状物質を指紋に塗布して、粒子塗布指紋を形成すること;そして次に、
ii)その粒子塗布指紋を形成している材料を質量分析に供して残留物の存在または非存在を検出すること
を含む。
【0006】
一つの実施形態において、前記方法は、材料、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物および炭素の使用を含み、これらの材料は、(1)それらのみで、または、ビヒクル(例えば、シリカビヒクル)と組み合わされもしくはビヒクル内に埋めまれて、指紋を視覚化するための薬剤として使用することができ、かつ(2)マトリックス支援質量分析法を使用してプリントを精査する(分析する)ためのマトリックスとして使用することができる。この質量分析法は、指紋が含む物質、例えば、一つ以上の内因性化合物もしくは代謝産物、外因性化合物もしくは代謝産物および/または接触残留物の存在または非存在を同定するために使用することができる。一つの実施形態において、この質量分析法は、(1)MALDI−TOF−MSおよび(2)SALDI−TOF−MSおよび(3)これらの組み合わせから選択される。
【0007】
前記方法が適用される指紋は、採取テープを使用して表面から採取されたプリントであり得る。
【0008】
一つの実施形態において、前記粒状物質は、指紋へのその粒状物質の塗布および接触を助長するために疎水性である。
【0009】
用語「指紋」が部分的プリントおよび/または他の体部のプリントへの言及を含むこと、ならびに例えば、粒状物質が塗布された指紋の一部を質量分析に供すことができることは、理解される。一般に、プリントは、質量分析適用前にその下にある表面から採取され、したがって、用語「指紋」は、採取された指紋を含む。実施形態において、指紋は、粒状物質の塗布前に採取される。本発明は、段階ii)がプリントから分析物を捕捉した粒状物質を質量分析に供すことを含む方法を含むと、考えている。さらに、本発明は、段階(ii)が指紋材料と粒状物質の両方を質量分析に供すことを含む方法を含むと、考えている。
【0010】
本発明に関連して、用語「サンプル」および/または「分析物」が、プリント、プリントから取ったサンプル、および/またはそのプリント上に存在するもしくはプリントの中に含まれている残留物を意味すると解釈できることは理解される。
【0011】
本発明の一部の方法では、指紋を表面から採取し、採取前であろうと採取後であろうと、粒状物質(処理剤)を指紋に塗布し、その後、その採取された指紋(少なくとも、そのプリント内に含まれる材料)を質量分析装置内に配置する。他の方法では、プリントをサンプル支持体上で直接作り、そのプリントへの処理剤の塗布後、そのサンプル支持体を質量分析装置内に配置する。
【0012】
一つの実施形態において、本方法は、指紋の位置特定および/または視覚化、ならびに上で説明した質量分析法、例えばMALDI−TOF−MSおよび/またはSALDI−TOF−MSを使用するそのプリントの精査をさらに含む。
【0013】
本発明の一つの態様に従って、表面に位置する指紋の中の残留物の存在を判定する方法を提供し、本方法は、
i)処理剤、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、炭素粒子およびこれらの組み合わせから選択される材料を含む粒状物質を指紋に塗布する段階;
ii)その指紋を質量分析に供して前記残留物の存在または非存在を検出する段階
を含む。
【0014】
従って、前に述べたように、本発明は、指紋内の残留物の検出(任意で、定量を含む)に関する。用語「残留物」は、検出が望まれる、特に、予め選ばれた化合物についての検出が望まれる、任意の材料を指す。残留物は、指紋の中にある、またはある場合があり、すなわち、指紋に含まれている、または含まれている場合があり、つまり、指紋を構成する材料は、その残留物を含有する、または含有すると推測される、または含有する場合がある。
【0015】
一つの実施形態において、前記粒状物質は、疎水性である。一つの類の方法では、粒状物質は、他のマトリックス剤および/または他の指紋検出剤と併用することができる。
【0016】
本発明は、(1)指紋に含まれている残留物として存在する内因的に生産された物質、例えば、タンパク質、脂質、DNA、ペプチドおよび/もしくは内因的に得られた代謝産物;(2)指紋に含まれている残留物として存在する、外因性化合物もしくは代謝産物;ならびに/または(3)指紋上または内に存在する接触残留物の検出を可能にする方法を提供する。これらのタイプの残留物の例は、後に論じるが、例えば、(1)スクアレンおよびコレステロール;(2)コカインおよびその代謝産物ならびにニコチンおよびその代謝産物;ならびに(3)例えば小火器および/または爆発物からの弾道学的残留物、乱用薬物(麻薬)、例えばコカインの取り扱いからの残留物を含む。
【0017】
一つの実施形態において、本方法は、内因的に得られる成分(すなわち、内因性代謝産物および/または外因性代謝産物)と一緒に表面に共付着している接触残留物の検出も可能にする。
【0018】
本明細書に記載する方法は、一般に、先行技術に随伴する分析前の複雑な抽出手順を必要とせず、およびさらに、より低い検出限界をもたらす。
【0019】
一つの類の方法は、予め決められた物質の存在または非存在を判定しようとするものである。この場合、この既知の物質に関連した一つ以上のピークの存在について、質量スペクトルを検査する。もう一つの類の方法は、その質量スペクトル中のピークをピークのデータベースまたはライブラリーと比較することによりプリント内の一つ以上の物質を同定しようとするものである。両方の類の方法を組み合わせて行うこともできる。
【0020】
一つの実施形態において、本方法は、粒状物質の塗布前にMALDI−TOF−MSまたはSALDI−TOF−MSサンプル支持体上に直接付着させた指紋に含まれている残留物の検出および/または同定を含む。一つの代替実施形態において、本方法は、採取手段、例えば採取テープを使用して表面から採取された指紋の中の残留物の存在または非存在の検出を含む。前記表面は、例えば犯罪現場での指紋の付着部位であり得る。本方法は、粒状物質の塗布前に採取指紋をMALDI−TOF−MSまたはSALDI−TOF−MSサンプル支持体と接触させることを含むことができる。
【0021】
あるいは、本方法は、採取手段、例えば採取テープを指紋に適用する前に、指紋を粒状物質と接触させることを含む場合がある。一つの実施形態では、表面に先ず散粉して、潜在プリントの位置を特定する。この後、その散粉したプリントを採取テープで採取する。その後、その採取テープ上に位置するプリントを、MS分析前にMALDIまたはSALDIターゲットプレート(サンプル支持体)に適用する。
【0022】
一般に、MALDI−TOF−MSまたはSALDI−TOF−MSサンプル支持体は、MSシステムに合うように設計されているプレート、例えばステンレス鋼プレートである傾向がある。このプレートは、サンプル(すなわち、指紋、例えば、採取指紋)を加える一つのウエルまたは多数のウエルを含むことがある。一つの実施形態において、前記プリントは、採取テープの粘着性表面に存在する半個体付着物である。
【0023】
本方法は、残留物の存在もしくは非存在を判定するために定性的に、および/または残留物の量を決定するために定量的に利用することができる。さらに、一つの実施形態において、本方法は、指紋を視覚化または画像化するために使用することができる。この視覚化または画像化は、指紋の「所有者」の特定を可能にするので重要である。指紋の視覚化に役立つように、好ましくは、前記粒子は、染料、例えば蛍光染料または有色染料をさらに含む。適切な染料は、当業者には公知であるが、例えば、ローダミン6Gが挙げられる。
【0024】
一つの態様において、本発明は、マトリックス支援質量分析法において指紋上の残留物を検出するための、金属、金属酸化物および/または炭素を含む粒状物質の使用も提供する。
【0025】
本発明の一つの態様において、指紋に含まれる残留物の同定におけるマトリックス支援質量分析法の使用を提供する。詳細には、指紋内の残留物を検出するためのMALDI−TOF−MSおよび/またはSALDI−TOF−MS法の使用を提供する。前記残留物は、内因性残留物(例えば、内因性物質もしくは代謝産物、例えばスクアレン、または外因性代謝産物、例えば薬物もしくは薬物代謝産物)、および/または「接触」残留物、例えば、一般には爆発物もしくは小火器からの弾道学的残留物であり得る。一つの実施形態において、MALDI−TOF−MS法および/またはSALDI−TOF−MS法は、指紋を検出(特に、視覚化)するために使用することができる指紋画像化剤と共に使用されることがある。従来の指紋用薬剤の例としては、アルミニウム、Magneta Flakeおよび市販ホワイトパウダーが挙げられる。一つの実施形態では、MALDI−TOF−MS/SALDI−TOF−MS法において、脱離/イオン化プロセスを支援するために適するマトリックス剤が使用される。従来のマトリックス剤の例としては、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHBまたはDHBA)およびα−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸(α−CHCA)が挙げられる。
【0026】
代替実施形態において、MALDI−TOF−MSおよび/またはSALDI−TOF−MSの使用は、(1)金属(2)金属酸化物(3)金属窒化物および(4)炭素から選択される材料をマトリックス剤として含む粒状物質の使用を含む。前記粒状物質は、本明細書において説明する追加の特徴をさらに含むことがある。一般に、前記粒状物質は、指紋を検出および/または画像化するための薬剤として使用することもできる。
【0027】
一つの実施形態において、指紋は、その中に(すなわち、それに含まれている)残留物を有する。一つの実施形態において、前記粒状物質は、他のマトリックス剤または材料(時には、マトリックス支援剤および/またはマトリックス強化剤としても知られている)と併用することができる。
【0028】
一つの実施形態において、前記使用は、残留物の同定をさらに含むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本明細書の記載および特許請求の範囲を通して、語「含む(comprise)」および「含有する(contain)」ならびにこれらの語の変形、例えば「含む(comprising)」および「含む(comprises)」は、「を含むが、それらに限定されない(including but not limited to)」という意味であり、他の部分、添加物、成分、整数または段階を排除するためのものではない(且つ、排除しない)。
【0030】
本明細書の記載および特許請求の範囲を通して、単数形は、その文脈が別様に要求していない限り、複数形を含む。詳細には、明確でない物品が使用されている場合、その明細は、その文脈が別様に要求していない限り、単数性ばかりでなく複数性も考慮していると解釈しなければならない。
【0031】
本発明の特定の態様、実施形態または実施例に関連して記載する特徴、整数、特性、化合物、化学的部分または基は、適合不能でない限り、本明細書に記載する他の任意の態様、実施形態または実施例に適用できると理解しなければならない。
【0032】
本開示を通して、本発明の様々な態様が範囲形式で提示されていることがある。範囲形式での記載は、単に便宜および簡潔のためであり、本発明の範囲に対する変えられない制限と解釈すべきではないことは理解される。従って、ある範囲の記載は、すべての可能なサブ範囲ならびにその範囲内の個々の数値を具体的に開示したものと見なさなければならない。例えば、1から6のような範囲の記載は、1から3、1から4、1から5、2から4、2から6、3から6などのサブ範囲、ならびにその範囲内の個々の数値、例えば1、2、3、4、5および6を具体的に開示したものと見なさねばならない。これは、その範囲の幅に関係なく適用される。多数の範囲の記載は、終点の組み合わせを具体的に開示したものと見なさねばならないことも理解される。
【0033】
方法
本発明は、指紋残留物分析における質量分析の使用に関する。具体的には、本発明は、指紋残留物の分析におけるマトリックス支援質量分析法、例えば、MALDI−TOF−MSおよび/またはSALDI−TOF−MSの使用に関する。
【0034】
前に述べたように、用語「残留物」は、検出が望まれる、特に、予め選ばれた化合物についての検出が望まれる任意の材料を指す。残留物は、指紋の中にある、またはある場合があり、すなわち、指紋に含まれている、または含まれている場合があり、つまり、指紋を構成する材料は、その残留物を含有する、または含有すると推測される、または含有する場合がある。
【0035】
本発明の一つの態様では、指紋上の残留物の存在の判定方法を提供し、本方法は、(i)(1)マトリックス支援質量分析においてマトリクス剤としての使用に適する特性、ならびに(2)指紋を検出および/または画像化のための薬剤としての使用に適する特性を有する粒状物質を、指紋に塗布すること;および(ii)その指紋を質量分析に供して前記残留物の存在または非存在を検出することを含む。
【0036】
好ましくは、前記粒状物質は、疎水性である。本発明は、マトリックスが疎水性であることを特徴とするマトリックス支援質量分析による疎水性物質の分析方法をさらに含む。一つの実施形態において、本方法は、例えば、段階(ii)の前に、その質量分析法の較正に使用するための少なくとも一つの較正標準物質の調製を含む。一つの実施形態において、本方法は、段階(ii)の結果を分析して、例えば、特定の残留物(例えば、ニコチン)がその指紋の中に存在するかどうかを判定することを含む。
【0037】
上で述べたように、用語「指紋」が、部分的プリントおよび/または他の体部のプリントへの言及を含むこと、ならびに例えば、粒状物質が塗布された指紋の一部を質量分析に供すことができることは、当業者には理解される。一般に、指紋は、質量分析適用前に表面から採取され、したがって、用語「指紋」は、採取された指紋を含む。実施形態において、指紋は、粒状物質の塗布前に採取される。本発明は、段階ii)が粒状物質を質量分析に供すことを含む方法を含むと、考えている。さらに、本発明は、段階(ii)が指紋と粒状物質の両方を質量分析に供すことを含む方法を含むと、考えている。一つの類の方法において、段階(i)は、プリントが付着しているまたは付着しているかもしれない物品を、除去する前に粒状物質を含む液体媒体に浸漬することを含む。浸漬の長さは重要でなく、約15分から約12時間またはそれ以上まで様々であり得る。その後、採取テープを使用してプリントをその物品から採取することができる。
【0038】
本発明に関連して、用語「サンプル」および/または「分析物」は、直接付着しているものとあるいは、採取手段、例えば採取テープを使用して表面から採取されたものと、指紋および/または指紋上もしくは内に存在する残留物を意味すると解釈することができることは理解される。
【0039】
一つの実施形態において、質量分析法は、MALDI−TOF−MSおよびSALDI−TOF−MSから選択される。簡単に言うと、MALDI−TOF−MSは、サンプルとマトリックス分子の混合、およびサンプルなどへのそのマトリックス材料の塗布を必要とする。そのMALDI−ターゲットを、高真空下にある質量分析装置のイオン源に導入する。そのサンプルと抽出プレートの間に強い電場を印加する。そのサンプルにレーザーを発射し、その結果、マトリックス分子によるレーザーエネルギーの吸収度に起因して脱離事象が生じる。
【0040】
従って、本発明は、MALDI−TOF−MSおよび/またはSALDI−TOF−MSプロセスにおいてマトリックス材料として適する材料を利用する方法を含む。科学的理論によって拘束されるものではないが、前記粒状物質は、レーザーからのエネルギーを吸収し、それを、サンプルに含まれている分析物に伝達することができると考えられる。本発明において、分析物は、一般に、指紋内の残留物を形成する物質である。分析物へのエネルギーの伝達は、結果として、分析物のイオン化および質量分析装置による加速を生じさせる。MALDI−TOF−MSが、本方法で使用される、すなわち、サンプル(分析物)へのイオンの伝達を伴う場合、それは、陽イオン検出と知られている。
【0041】
ある実施形態において、電子の伝達が分析物から粒状物質への伝達である場合がある。この実施形態では、MALDI−TOF−MS(またはSALDI−TOF−MS)が陰イオン化モードで実行されていると考えられる。
【0042】
サンプル(例えば、指紋上または内の残留物または推測残留物)が、プロトン(H+)を容易に受容する官能基を有すると考えられる場合には、陽イオン検出を用いることができる。サンプル(例えば、指紋上または内の残留物または推測残留物)が、プロトンを容易に喪失する官能基を有すると推測される場合には、陰イオン検出を用いる。
【0043】
本方法は、指紋に含まれている(i)内因性残留物、例えば、内因性代謝産物および外因性代謝産物、ならびに(ii)接触残留物の存在の判定を可能にすることができる。前記内因性代謝産物および「接触」残留物は、指紋内に共に付着していることもある。さらに、本方法は、残留物の同定を可能にすることができる。
【0044】
一つの類の方法は、内因性残留物、例えば人体による物質の代謝の結果として生産された残留物の検出および/または同定に使用することができる。前記内因性残留物としては、内因性代謝産物(例えば、身体により生産される分子の代謝産物)または外因性代謝産物(例えば、身体に摂取または伝達され、その後、その身体によって代謝される分子の代謝産物)を挙げることができる。
【0045】
本方法によって同定することができる内因性残留物の他の例としては、例えば、毛穴を通して分泌され、指紋内に他の化学物質と共に付着していることがある内因性物質(例えば、スクアレン、コレステロール、蝋およびエステル、ステロイド、例えばエストロゲンおよびテストステロン、ならびに性および健康のマーカー)が挙げられる。本方法は、上述の代謝産物およびコンジュゲートを検出するために使用することもできる。内因性残留物の例としては、外因性代謝産物、例えば、乱用薬物およびそれらの代謝産物を含む、薬物およびそれらの代謝産物、処方薬、ならびに食事源またはその分解生成物に由来する代謝産物および化合物も挙げることができる。本方法は、現像されたプリント内にそれぞれ位置する細胞(例えば、脱皮細胞)またはDNAのプロテオームまたはゲノム分析に適用することもできる。本方法は、他の接触残留物、例えば、違法薬物、例えば麻薬;爆発性材料、例えば爆弾製造工程で使用される材料;および小火器の使用からの残留物を検出するために使用することもできる。
【0046】
本発明のさらなる態様において、指紋に含まれている残留物を検出および/または同定するためのMALDI−TOF−MSおよび/またはSALDI−TOF−MS法の使用を提供する。前記残留物は、内因性残留物および/または「接触」残留物、例えば、弾道学的残留物、例えば爆発物もしくは小火器からの弾道学的残留物であり得る。一つの実施形態において、前記残留物は、「接触」残留物、すなわち、物質との接触により人の手に移され、その後、人の指紋と共に表面に移された残留物であり得る。このような残留物の検出は、警察機関にとっては特に関心の高いものであり、一つの重大な法医学的証拠であることを証明することができる。一つの実施形態において、金属、金属酸化物、炭素およびこれらの組み合わせから選択される材料を含む粒状物質は、指紋と接触させるために、およびMALDI−TOF−MS装置においてマトリックスとしての役割を果すために、使用することができる。
【0047】
代替実施形態において、指紋を検出するために使用することができる指紋現像剤を指紋に接触させる場合がある。従来の指紋用薬剤の例としては、アルミニウム、Magneta FlakeおよびCommercial Whiteが挙げられる。このとき、本方法は、一般に、MALDI−TOF−MSマトリックス剤、例えば、DHBA(2,5−ジヒドロキシ安息香酸)もしくはα−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸(α−CHCA)または別のマトリックス剤(これは、例えば、本明細書に記載するような粒状物質であり得る)を使用することができる。
【0048】
本発明の方法は、指紋上で見つけることができる様々な残留物を分析するために使用することができる。従って、一つの実施形態において、本方法は、喫煙者からの潜在指紋を現像および分析するために使用することができる。ニコチンがインビボで広範にコチニンに代謝されることは十分に確立されており[22]、ニコチンとコチニンの両方が共に汗に排泄されるという証拠がある[8]。図11および12は、本明細書に記載するような粒状物質、特に、金属、金属窒化物、金属酸化物および炭素から選択される物質を含有する疎水性シリカ粒子を現像剤として使用して、喫煙者からの潜在指紋を視覚化できること、ならびにそのようなプリントを、適する表面上で直接、またはその表面から採取した後、MALDI−TOF−MSによって分析して、ニコチンおよび/またはその代謝産物を検出できることを証明するものである。
【0049】
一つの実施形態において、本明細書に記載する方法は、ある人が乱用薬物、例えばコカインを取り扱ったまたは摂取したかどうかを検出または判定するために使用することができる。他の実施形態において、本明細書に記載する方法は、ある人が、例えば、喫煙者であるかどうか、または乱用薬物、例えばコカインを摂取したかどうかを判定するために、要員審査の一部として使用することができる。
【0050】
記載する方法は、特定の残留物が人の指紋上または内に存在するかどうかを特定するために使用することができるが、それらの結果は、最高の精度レベルにはならず、従って、例えば刑事裁判所が要求する基準に対して、現今、不適格である場合がある。この場合、例えば、本方法を裁判所で使用するための証拠を目的として実行する場合、本方法は、タンデム型質量分析、すなわち、一般には指紋内の残留物中に存在する化合物についての構造情報を提供するためのさらなる質量分析法の遂行をさらに含むことができる。
【0051】
従って、一つの実施形態において、本方法は、指紋および/または粒状物質をMALDI−TOF−MS−MSおよび/またはSALDI−TOF−MS−MSに供すことを含む。MALDI−TOF−MS−MS/SALDI−TOF−MS−MSは、一般に、質量分析装置内部で特定のサンプルイオンを断片化し、従って、残留物についてのさらなる構造情報を提供する。したがって、一つの実施形態において、本方法は、得られたフラグメントイオンの同定を含む。この構造情報は、一定の状況で、例えば、上で述べたような、裁判所での証拠として有用であり得る。
【0052】
本明細書に記載する方法および使用は、様々な用途において使用することができる。一つの実施形態において、例えば雇用者は、ある人が喫煙者または違法薬物の乱用者であるかどうかを判定するために、要員審査過程の一部として本方法および使用を利用することができる。ある実施形態では、本方法および使用は、例えばプロまたはアマチュアスポーツの分野において、「薬物検査」過程の一部として利用することができる。
【0053】
一つの実施形態において、本明細書に記載の方法は、違法もしくは禁制物質および/またはそれらの代謝産物を含有する接触残留物または内因性残留物いずれかの残留物を検出するために使用することができる。詳細には、本方法を使用して、スポーツ競技および/または無作為検査時に、プロおよび/またはアマチュアスポーツ選手を、その人の指紋から採取した残留物中の禁制物質の存在または非存在について検査することができる。現在使用されている方法に勝る本方法を使用する利点は、分析が、個人固有の指紋で直接行われ、従って、尿および唾液をサンプリングし、その後、薬物分析スクリーニングを行う現在用いられている方法の場合には可能であるようなサンプルの取替えが不可能である点である。
【0054】
指紋上の残留物を検出および/または同定するためのMALDI−TOF−MSおよび/またはSALDI−TOF−MSの使用は、以前には考究されておらず、従って、指紋上の残留物を検出および/または同定するためのこれらの技術の使用は、本発明の一部を形成する。この使用は、本明細書に記載するような粒状物質を指紋に接触させることを含む場合がある。あるいは、この使用は、従来の指紋検出剤を指紋に接触させることを含む場合もある。この実施形態における使用は、質量分析段階における従来から知られているマトリックス剤の使用をさらに含む場合がある。あるいは、本明細書に記載するような粒状物質を質量分析段階においてマトリックス剤として使用することもできる。
【0055】
本発明の方法および使用は、例えば、違法薬物の取り扱いまたは摂取、禁止物質、例えば小火器および弾道兵器(ballistics)の取り扱いを示唆することができる残留物の存在について旅行者を検査するために、入国の時点で使用することもできる。
【0056】
上で説明したように、本方法は、法廷、例えば刑事裁判所において、例えば薬物または弾道兵器取り扱いの法医学的証拠として使用することができる。
【0057】
粒状物質
本発明は、指紋と接触させることができる、およびその後、質量分析法において使用して残留物が指紋上に存在するかどうかを判定することができる、粒状物質を利用する。
【0058】
本粒状物質は、好ましくは、金属、金属窒化物、金属酸化物、炭素およびこれらの組み合わせから選択される材料を含む。
【0059】
本発明の一つの実施形態において、本粒状物質は、疎水性シリカ粒子を含む場合がある。一つの類の疎水性シリカ粒子は、以下の方法によって得ることができる。
【0060】
疎水性シリカ粒子を調製するための方法(方法Aと呼ぶ)は、(1)シランエーテルモノマー、例えばアルコキシシランおよび(2)有機置換シランエーテルモノマー、例えばフェニル変性シリカと、加水分解剤、例えばアルカリとの混合物を一段階で互いに反応させることを含む。
【0061】
従って、本方法は、一般に、アルコキシシランモノマーの使用を含む。本方法は、テトラアルコキシシラン(本明細書ではTAOSと略記する)の使用を含む場合がある。TAOSは、詳細には、TEOS(テトラエトキシシラン)またはTMOS(テトラメトキシシラン)から選択される。
【0062】
一つの実施形態において、前記混合物は、水混和性溶剤、例えばエタノール、およびまた水をさらに含む。本方法は、周囲温度で行うことができる。反応の継続時間は、重要ではない。TAOSモノマーとPTEOSモノマーとの反応は、一晩行うこともあり、または同等の期間、すなわち、約12時間から約18時間の間行うこともある。反応の長さは、生成されるシリカ粒子のサイズに影響を及ぼす。早く反応を停止させるほど、形成される粒子は小さいと考えられる。従って、12時間未満、例えば6時間から12時間の間の期間にわたって反応を行うことがある。あるいは、18時間より長く反応を行うこともある。所望される場合、温度を上昇させ(または低下させ)、反応の継続期間を短縮する(または増す)ことができる。
【0063】
加水分解剤、一般にはアルカリは、反応中触媒として作用する。好ましくは、この触媒は、水酸化物、例えば、水酸化アンモニウムである。前記触媒は、代わりに酸であってもよい。酸の例は、無機酸、例えば塩酸である。本方法における反応は、酸誘導化水分解を含む。
【0064】
シランエーテルモノマー、例えばTAOS、および有機置換シランエーテルモノマー、例えばPTEOSモノマーは、例えば、2:1から1:2、例えば4:3から3:4、特に、1.2:1から1:1.2の比率(PTEOS:TAOS)で使用することができる。一つの類の方法において、前記比率は、少なくとも約1:1、例えば、1:5以下、例えば1:2である。一つの類の方法において、PTEOS:TAOS比は、好ましくは、1:1 v/vである。TAOSおよびPTEOSの一方または両方を代替試薬で置換する場合、同じ比率を用いることができることは理解される。
【0065】
上の方法によって生成される疎水性シリカ粒子は、主としてナノ粒子、すなわち、約200nmから約900nm、一般には約300nmから約800nm、および特に400nmから500nmの平均直径のものである傾向がある。その後、これらのナノ粒子を加工してミクロ粒子に形成することができ、このミクロ粒子は、合着したナノ粒子と考えることができる。前記ミクロ粒子は、例えば、以下の段階、すなわち
i)粒子の懸濁液を遠心分離する段階;
ii)その疎水性シリカ粒子の懸濁液を水性相に移入する段階;
iii)その懸濁液をその水性相から有機相に抽出する段階;
iv)その有機相を蒸発させる段階;および
v)(iv)において得られた生成物を粉砕し篩にかける段階
を含む方法を使用して生成することができる。
【0066】
前記有機相は、好ましくは、非極性であるか低い極性を有する有機溶剤を含む。前記有機相は、ジクロロメタンまたは別の有機溶剤、例えば、アルカン、例えばヘキサン、トルエン、酢酸エチル、クロロホルムおよびジエチルエーテルであり得る。
【0067】
あるいは、疎水性シリカミクロ粒子は、疎水性シリカナノ粒子を含有する反応生成物から、
(a)その反応生成物を遠心分離すること;および
(b)その反応生成物を流体中で洗浄すること
を含む方法を使用して得ることができる。
【0068】
本方法は、段階(a)および(b)の多数回の反復を含むことがある。好ましくは、前記流体は、水溶液:溶剤混合物であり、一般に、水:有機溶剤混合物である。一般に、前記有機溶剤はエタノールである。好ましくは、最初の流体は、水および有機溶剤の約60(水):40(溶剤)の比率での混合物から約40:60 v/v混合物を含む。他の実施形態において、前記溶剤は、例えば、ジメチルホルムアミド、n−プロパノールまたはイソプロパノールであり得る。
【0069】
一般に、前記混合物中の溶剤の割合は、最初の洗浄(すなわち、懸濁)(b)と最後の洗浄(懸濁)の間で増加される。合着したナノ粒子であるミクロ粒子を得るために、最終懸濁液を乾燥させる。その後、それらのミクロ粒子を篩にかける。篩にかけたら、それらのミクロ粒子は、例えば、指紋中の残留物を検出するための本方法の段階(i)において、指紋現像剤として適用する準備が整っている。
【0070】
前記ミクロ粒子は、より小さいシリカナノ粒子の凝集体であると考えることができる。この実施形態において、前記ミクロ粒子は、フェースマスクを使用して効率的に捕捉するために十分なサイズのものであり、従って、吸入されない。したがって、一つの実施形態において、前記シリカミクロ粒子は、少なくとも10μm、一般には少なくとも20μmの平均直径を有する。一般に、前記ミクロ粒子は、約30〜90μmの平均直径を有する。一部の実施形態において、前記ミクロ粒子は、約45〜65μmまたは約65〜90μmの間の平均直径を有する。詳細には、前記ミクロ粒子を含む粒状物質は、乾燥粒状物質であり得る。
【0071】
一つの類の方法において、前記粒状物質は、疎水性シリカナノ粒子を含む。疎水性シリカナノ粒子は、方法Aからの反応生成物を遠心分離すること、およびそれを水溶液:溶剤混合物に懸濁させることを含む方法を使用して単離することができる。前記水溶液:溶剤混合物は、第一水溶液:溶剤混合物であり、好ましくは50:50混合物である。本方法は、その第一水溶液:溶剤混合物から反応生成物を除去すること、それを遠心分離すること、およびそれを第二水溶液:溶剤混合物に懸濁させることをさらに含む場合がある。好ましくは、前記第二水溶液:溶剤混合物は、溶剤および水性成分について第一混合物と同様の割合を有する。前記水溶液:溶剤混合物の一部を形成する水溶液は、好ましくは水である。前記水溶液:溶剤混合物の溶剤部分を構成する溶剤は、例えば、水混和性溶剤、例えばエタノールである。あるいは、ジメチルホルムアミド、n−プロパノールまたはイソプロパノールを使用してもよい。
【0072】
水溶液:溶剤混合物への反応生成物の懸濁段階は、多数回、反復される場合がある。好ましくは、その反復懸濁の経過とともに、その水溶液:溶剤混合物中の溶媒の割合が増すように、水溶液:溶剤混合物の組成を変える。好ましくは、本方法は、最終段階において、0%水溶液:100%溶剤である水溶液:溶媒「混合物」に反応生成物を懸濁させることを含む。総懸濁数は、一般には3から10、例えば、4、5、6、7、8または9である。一般に、最終懸濁を除き、各懸濁後、懸濁液を遠心分離する。ナノ粒子は、最終エタノール懸濁液で保管することができる。遠心分離が、水溶液:溶剤混合物からナノ粒子を単離する一つの例示的方法であり、他の懸濁法が排除されないことは理解される。
【0073】
一つの実施形態において、本粒状物質は、疎水性シリカナノ粒子を含む。一つの類の粒状物質は、流体中の疎水性シリカナノ粒子の懸濁液である。前記流体は、エタノール水性懸濁液であり得る。あるいは、この懸濁液中のエタノールの代わりに、他の有機溶剤、例えば、ジメチルホルムアミド、n−プロパノールまたはイソプロパノールを使用してもよい。
【0074】
本粒状物質に含まれる粒子の物理的性質および直径は、SEMおよびTEMスキャンを使用して判定することができる。前記粒子は、様々な食品において凝結防止剤として、ならびに様々な薬物およびビタミン製剤のための調剤の際に凝結防止剤としておよび賦形剤として、一般に使用されている非晶質シリカ[12]の形態のものである。
【0075】
従って、好ましい実施形態において、ナノ粒子を含む粒状物質は、適する液体媒体中で指紋または表面に塗布される。一般に、前記液体媒体は、水溶液:溶剤混合物である。前記溶剤は、水混和性溶剤であり得る。一つの実施形態において、前記水性成分は、水である。前記溶媒は、例えば、水混和性溶剤、すなわち、すべての割合で水に100%混和性であり得る。一つの実施形態において、前記溶剤は、エタノールである。前記水:溶剤比は、約99.9:0.1(水:溶剤)から約96:4(水:溶剤)に及ぶ。溶剤のレベルは、好ましくは、約4%以下である。より高い溶剤レベルは、指紋を溶解することとなる、またはそれらの鮮明度を低下させることがあるからである。ナノ粒子が個別の粒子として残り、合着して凝集体を形成しないことを確実にするために、少なくとも微量の溶剤を含めることが好ましい。
【0076】
あるいは、本粒状物質は、当分野における方法(例えば、Tapec et al NanoSci.Nanotech.2002.Vol.2.No.3/4 pp405−409;E.R.Menzel,S.M Savoy,S.J.Ulvick,K.H.Cheng,R.H.Murdock and M.R.Sudduth,Photoluminescent Semiconductor Nanocrystals for Fingerprint Detection,Journal of Forensic Sciences(1999)545−551;およびE.R.Menzel,M.Takatsu,R.H.Murdock,K.Bouldin and K.H.Cheng,Photoluminescent CdS/Dendrimer Nanocomposites for Fingerprint Detection,Journal of Forensic Sciences(2000)770−773を参照)を使用して得ることができる疎水性シリカ粒子を含むことができる。
【0077】
一つの実施形態において、前記粒状物質は、染料が取り込まれた疎水性シリカ粒子を含む。一つの実施形態において、前記粒子に取り込むことができる染料は、例えば、有色または蛍光染料であり得る。本発明の範囲に含まれる染料の例は、フルオレセイン誘導体、例えばOregon Green、Tokyo Green、SNAFLおよびカルボキシナフトフルオレセイン、ローダミン(例えば、ローダミンBおよびローダミン6G)およびその類似体、チアゾールオレンジ、過塩素酸オキサジン、メチレンブルー、塩基性黄40、塩基性赤28、ならびにクリスタルバイオレットおよびその類似体であるが、これらに限定されない。科学的理論によって拘束されないが、正電荷を有する染料、例えばローダミンは、本方法においてPTEOSが使用される場合、アニオン性またはカチオン性の基、例えばカルボン酸基を含む染料より、良好に組み込まれると考えられる。本発明において使用することができる他の染料の例としては、平面芳香族部分構造および正電荷の官能基を有するもの(例えば、臭化エチジウムおよび他のDNA挿入剤)が挙げられる。
【0078】
前記粒子が磁性または常磁性であると有利な場合もある。例えば、磁気ワンドまたは他の適切な道具を使用して、磁化性ミクロ粒子を容易に指紋に散粉することができる。従って、本発明の好ましい実施形態では、磁性または常磁性亜粒子を疎水性シリカ粒子に取り込む。本発明の一つの実施形態において、前記粒子は、磁化性、例えば、磁性または常磁性である。磁性および/または常磁性粒子は、任意の磁性または常磁性成分、例えば、金属、金属窒化物、金属酸化物および炭素であり得る。磁性材料の例としては、鉄が挙げられ、一方、金属酸化物の例としては、磁鉄鉱および赤鉄鉱が挙げられる。
【0079】
本発明のさらに好ましい実施形態において、前記炭素は、カーボンブラック、カーボンナノ粒子、フラーレン化合物もしくはグラファイトまたはこれらの類似体である。フラーレン化合物は、少なくとも60の炭素原子(例えば、C60)からなる。好ましくは、前記炭素は、カーボンナノ粒子の形態である。カーボンナノ粒子は、例えば、カーボンナノチューブ(誘導体化されているものまたは誘導体化されていないもの)の形態である場合がある。前記カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブ、および/または単層カーボンナノチューブである場合がある。
【0080】
一つの実施形態において、前記金属酸化物は、酸化チタン(TiO2)、磁鉄鉱、赤鉄鉱およびこれらの組み合わせから選択される。一つの実施形態において、前記金属は、アルミニウム、鉄およびこれらの組み合わせから選択される。しかし、代替実施形態では、本発明において使用することができるMALDI−TOF−MSおよび/またはSALDI−TOF−MSの脱離/イオン化プロセスを支援する代替金属酸化物およびまたは金属窒化物を使用できると当業者は考えると、考えられる。同様に、当業者は、イオン化プロセスを支援する他の金属および/または他の形態の炭素を本粒状物質において使用できると考える。前記金属、金属酸化物、金属窒化物または炭素は、本粒状物質の粒子の中に埋め込むことができる。本粒状物質の粒子は、好ましくは、100μm以下の平均直径、例えば、1μm以下の直径を有する。一つの実施形態において、前記粒子は、約10nmから約100μmの平均直径を有する。
【0081】
シリカ粒子の疎水性は、それらの粒子の指紋への結合を強化する。従って、一つの実施形態では、前記金属、金属酸化物および炭素を疎水性シリカ粒子に組み込む、および/または疎水性シリカ粒子の中に埋め込む。
【0082】
指紋を関係させる方法では、前記粒状物質と指紋を互いに接触させる。これに関連して、用語「指紋」は、例えば、表面に付着している指紋を指す場合もあり、または代替的に、慣例採取手段、例えば採取テープを使用して表面から採取された「間接的」指紋を指す場合もあることは理解される。
【0083】
本粒状物質の塗布は、磁気ワンドによって行うことができ、この実施形態での粒状物質は、磁性または常磁性である。これは、任意の作業員の、特に吸入による粒状物質への暴露を減少させるので、健康および安全性の利点を有する。あるいは、プリントが付着している物品を液体媒体(例えば、ナノ粒子の懸濁液)に浸漬し、その後、取り出す場合もある。浸漬の長さは重要でなく、約15分から約12時間またはそれ以上まで様々であり得る。
【0084】
従って、一つの実施形態において、本粒状物質は、上で説明したような磁化性粒子を含む、疎水性シリカ粒子を含む。
【0085】
一つの類の粒状物質は、疎水性シリカ粒子を含む。前記粒子は、ナノ粒子もしくはミクロ粒子またはこれらの組み合わせであり得る。一つの実施形態において、前記シリカミクロ粒子は、少なくとも10μm、一般には少なくとも20μmの平均直径を有する。一般に、前記ミクロ粒子は、約30〜90μmの平均直径を有する。一部の実施形態において、前記ミクロ粒子は、約45〜65μmまたは約65〜90μmの間の平均直径を有する。
【0086】
約200nmから約900nmの平均直径を有するナノ粒子を本方法により使用できると考えられる。好ましくは、前記ナノ粒子は、約400nmから500nmの間の平均直径を有する。しかし、約200nmから約900nm、例えば、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850または900nmである直径を有するナノ粒子を含む粒状物質を本方法において使用できると考えられる。
【0087】
用語「平均直径(average diameter)」は、本発明の方法から一般に形成される粒子の「平均値直径(mean diameter)」を意味すると解釈することができる。用語「平均値」は、本質的に、このような測定において使用した粒子の数で割った測定したすべての直径の合計である統計学用語である。ナノ粒子の直径は、SEM写真および写真において使用される縮尺から概算することができ、ミクロ粒子についての直径は、篩のサイズと粒径分布測定およびSEM写真からの結果との組み合わせから概算することができる。平均値直径を決定することができる一つの方法は、Malvern Mastersizer(Malvern Instruments Ltd.)の使用による方法である。
【0088】
一つの実施形態において、本粒状物質は、(1)本明細書に記載するような疎水性シリカ粒子と(2)磁性または常磁性粒子、例えば鉄粒子との混合物を含む場合がある。
【0089】
一つの実施形態において、本粒状物質は、指紋の視覚化および/または画像化に役立つ分子をさらに含む疎水性シリカ粒子を含む。一つの実施形態において、前記疎水性シリカ粒子は、染料分子を含む。染料の例としては、例えば、ローダミン、例えばローダミン6Gおよびその誘導体が挙げられる。指紋を視覚化する段階は、当分野において公知の様々な方法を使用して行うことができる。例えば、光学的方法、例えば、UVサーチライト、平床式光学スキャナ、蛍光スキャナおよびUV可視スキャナを含む光学式スキャナを使用することができる。
【実施例】
【0090】
ここで、添付の図面を参照しながら、単なる例として本発明の実施形態を説明する。
【0091】
材料および方法
この調査において使用したTecan LS300スキャナは、バークシャー州、レディングのTecan UKからのものである。Kratos Axima−CFR MALDI−TOF−MS(英国、マンチェスターのShimadzu Biotech)システムをShimadzu金属ターゲットプレートと共に使用する。使用した市販のマトリックスは、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)(50:50 アセトニトリル:脱イオン水[dH2O]中、10mg・mL-1)である。カーボンブラック懸濁液は、英国、チェシャーのCabot Corp.により親切にも寄贈された。アナターゼ型の二酸化チタンを含む他のすべての化学物質は、英国、ドーセットのSigma−Aldrichから入手できる。市販散粉剤、指紋採取用ブラシ、磁気ワンドおよび市販採取テープは、英国、ノーサンプトンのCrime Scene Investigation Equipment Ltd.(以前は、K9 Scenes of Crime Ltd.)から入手できる。
【0092】
MALDI−TOF−MSシステムにおいて使用するための較正溶液を調製した。塩酸パパベリン(dH2O中、10mg/mL)およびレセルピン(ジメチルホルムアミド、DMF中の5mg/mL溶液)の溶液を調製した。このパパベリン溶液のアリコート(100μL)を、そのレセルピン溶液のアリコート(200μL)およびdH20(400μL)およびDMF(300μL)と混合した。アセトニトリル/水(50:50 v/v)中の2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB、10mg/mL)の溶液も調製した。最終較正溶液は、DHB溶液およびレセルピンとパパベリンの混合物の各10μLを互いに混合することによって調製した。この溶液のアリコート(1uL)を各実験において使用し、これら二つの標準物質の分子イオンについてのm/zを使用して前記システムを較正した。
【0093】
埋め込まれた疎水性シリカ粒子の調製
本方法は、ブランクシリカ系ナノ粒子の調製「12」の適応法であり、30mLのエタノール、5mLのdH2O、各2.5mLのテトラエトキシシランおよび2.5mLのフェニルトリエトキシシランを遠心管の中で混合する。このために、2mLの水酸化アンモニウム溶液(28%)を添加してナノ粒子形成を開始させ、その溶液を一晩、回転させる。得られた粒子懸濁液を、二塩化メチレン/水またはエタノール/水(両方の場合、50:50)で繰り返し抽出する。その懸濁液を遠心分離する(例えば、3000rpmで5分)。上清を除去し、10mLのdH2Oおよび同量のジクロロメタンを添加する。その懸濁液をさらに10分間、回転させ、その後、その懸濁液を再び遠心分離する。その溶液の上部水性層を除去し、水およびジクロロメタンのさらなるアリコートを添加する。このすすぎおよび遠心分離プロセスを、水:ジクロロメタンをさらに添加できなくなるまで、4回、繰り返す。前述の時間の後、粒子をインキュベータにおいて40℃で乾燥させてジクロロメタンから落とす。
【0094】
乾燥したら、粒子を乳鉢および乳棒で粉剤し、その後、篩にかけて適する粒径を生じさせる。これらの疎水性粒子は、ブロンズの網目を有する真鍮製試験篩(英国、ロンドンのEndecot Ltd.)により手で篩分けた。この調査において使用した粒径分画物は、約63μm未満であった。Malvern Mastersizer(英国、モールヴァンのMalvern Instruments Ltd.)を使用して、粒径分布を検証する。
【0095】
二酸化チタン含有粒子については、25mgの二酸化チタンを遠心管に添加し、その後、シラン処理試薬を添加する。カーボンブラック(CB)粒子については、水中の供給カーボンブラック懸濁液の1:2〜1:100倍希釈液の5mLを、TiO2の代わりに前駆体溶液に添加する。磁性粒子については、出版物に掲載されている方法に従って、粒状磁鉄鉱を調製する[13、14]。その後、水中のこの懸濁液の5mLをdH2Oの代わりに前駆体溶液に添加する。
【0096】
接触残留物が潜在指紋から有効に採取されるという証明
指先をローダミン6G(Rh 6G;EtOH中、100μg・mL-1)溶液に入れた。指を振って過剰なEtOHを蒸発させ、その後、清浄なスライドガラスに指紋を付着させた。3つのプリント(Rh 6Gで2つ、および1つのブランク対照)を付着させた。これらを、Tecan LS300スキャナ(ex 543nm、em 590nm、ゲイン 120)を使用して調べた。その後、それらに、二酸化チタンが中に組み込まれたシリカの疎水性微粒子を散粉し、その後、同じスキャン条件下で視覚化した。その後、それらを、市販の採取テープ(11.5×6.5cm)を使用して採取し、スライドガラスおよび採取テープ上の残留物両方をスキャンした。
【0097】
採取した接触残留物のMALDI−TOF−MS検出を証明するための実験(ローダミン6G)
この実験では、数グレーンのRh.6G粉末を指先に直接付加し、その後、前のようにスライドガラスに指紋として付着させたが、散粉剤は付加しなかった。その後、伝導性両面テープを使用して指紋を採取し、金属ターゲットに付着させた。この導電性テープは、MALDI−TOFでの使用に適し、Shimadzu Biotechからの寄贈品であった。その後、そのターゲットプレートをMALDI−TOF−MSシステムの内部に配置し、Rh.6Gの存在について指紋を検査した。約444のRh.6Gの検出可能m/zを有する得られたMSを、テープのフラットピースに付着させた100ngの染料と等量の標準物質(エタノール中100μg・mL-1の1μL)のものと比較した。
【0098】
SALDI−TOF−MSにおけるカーボンブラック埋め込みシリカ粒子の強化剤としての効力を証明するための実験
金属ターゲットプレートの表面に存在する円形セル/領域に付着させたコカインが存在する状態および非存在の状態で、CB埋め込みナノ粒子を有するセルに対する計器応答を調査した。すべての結果は、三重反復で行った。塩酸コカイン(エタノール中の1mg/mL溶液の1μLの場合、1μgを分取した)を2セットのウエルに添加した。陽性セットには、10mg・mL-1のCB埋め込みナノ粒子(マトリックス)懸濁液の1μLをセルに添加した。他のセットは、マトリックス一切なしでのコカインに対する応答を明らかにするために対照として放置した。金属ターゲットのブランクセルであるような、コカインが非存在の状態でのマトリックスの対照も調査した。前に説明したとおりセルを乾燥させた後、分析した。
【0099】
MALDI−TOF−MSによるコカイン接触残留物の検出
少量(数グレーン)の塩酸コカインを、その薬物の上に指を置くことにより、指先に付着させた。その後、指を清浄な金属ターゲットプレートと直接接触させ、それによって、そのターゲットの表面にプリントを付着させ、得られたプリントは、その表面上の非常に多数のセル/ウエルをカバーした。その後、それらの潜在プリントに、磁鉄鉱が埋め込まれた疎水性シリカ粒子、または市販の散粉剤を散粉した。これらは、アルミニウム粉末、Magneta Flake(商標)、および二酸化チタンを含有すると考えられるホワイトパウダーであった。市販の磁気ワンドを使用して、二つの磁性粉末を塗布し、一方、非磁性粉末には市販のブラシを使用した。指紋上のコカインの存在を証明するために、市販のDHBマトリックス、10μLの10mg・mL-1を10μLの10mg・mL-1 塩酸コカイン溶液と混合し、この混合物の1μLをMALDIターゲットのウエルに添加した。その後、その金属ターゲットをヒーターボックス(Shimadzu/Kratos Instruments)において乾燥させ、その後、MSシステム内に配置した。
【0100】
採取指紋上のコカイン残留物の検出のためのTiO2/PTEOS粒子の有効性を証明するための実験
ブランクおよびコカインをスパイクした指紋を、上で説明したようにスライドガラスに付着させた。これらを、Zephyr指紋採取用ブラシを使用し、TiO2/PTEOS粒子を使用して現像した。その後、市販の採取テープを使用してプリントを採取し、これを反転させ、プリント面を上にしてMALDIターゲットプレートに貼り付けた。その後、それらの指紋をコカインの存在または非存在についてMSにより精査した。
【0101】
疎水性粒子を強化マトリックスとして使用するMALDI−TOF−MSの使用による指紋からのコレステロールおよびスクアレンの検出
金属ターゲットプレートを清浄にし、乾燥させた。12の右手人差し指の指紋をその金属プレートに付着させた。その後、これらをインキュベータ内で37℃で約1.5時間、放置して乾燥させた。上で説明したとおり調製した疎水性粒子の10の異なる配合物を各指紋に散粉した。各場合、粒子内に埋め込まれた薬剤をカッコ内に示す。加えて、得られた粉末のうちの幾つか(1、5、6および8)も、その後、DHBとも入念に混合して、1% w/w配合物を製造した。これらを使用して、このマトリックスの存在が、散粉後の潜在プリントおよびMALDI−TOF−MSにおけるスクアレンの検出を改善するかどうかを判定した。ブラックパウダーの4つの配合物を使用した。これらは、最初の合成に起因して様々な割合のカーボンブラックをそれらの中に有した。カッコ内の数は、最初の合成の際に使用したdH2Oに対するカーボンブラックの比率を指す。
1.ホワイトパウダーA(二酸化チタン;1.0% w/w DHB;粉末)
2.ホワイトパウダーB(二酸化チタン)
3.バイオレットパウダーA(クリスタルバイオレット)
4.ブラックパウダーA(1:10)
5.ブラックパウダーB(1:10;1.0% w/w DHB:粉末)
6.バイオレットパウダーB(クリスタルバイオレット;1.0% w/w DHB:粉末)
7.レッド蛍光パウダーA(ローダミン6G)
8.レッド蛍光パウダーB(ローダミン6G;1.0% w/w DHB:粉末)
9.ブラックパウダーC(1:5)
10.ブラックパウダーD(1:2)
【0102】
最初の10のプリントの各々に、対応する番号の粉末1〜10を個々に散粉し、得られたプリントをデジタルカメラで撮影した(写真は示さない)。その後、散粉剤またはマトリックで処理していないプリント(プリント12)およびジヒドロキシ安息香酸のみを散粉したプリント(プリント11)を含むそれらを、MALDI−TOF−MSで個々に分析した。
【0103】
疎水性粒子を強化剤として使用するMALDI−TOF−MSの使用によるコレステロールおよびスクアレンの直接検出
100%エタノール中のコレステロールおよびスクアレンの溶液(両方とも2mg/mL)を調製し、各溶液の500μLアリコートを互いに混合した。この溶液の24のスポット(各0.5μL)を清浄な乾燥金属ターゲット上に分取し、2時間放置して空気乾燥させた。それらのウエルに、個々に、8つの疎水性粉末の各々の配合物を散粉した(各配合物につき3つのスポット)。これらの配合は、2.8に記載したものと同一であった。
1.レッド蛍光パウダーA
2.ブラックパウダーA
3.ブラックパウダーB
4.バイオレットパウダーA
5.バイオレットパウダーB
6.レッド蛍光パウダーB
7.ブラックパウダーC
8.ブラックパウダーD
【0104】
散粉は、これらの粉末の各々を用い、上で説明したとおり、その金属プレートの表面に直接行った。500μLのコレステロール/スクアレン溶液と500μLの10mg/mL DHB溶液(マトリックス)を混合することにより別の溶液も調製した。この溶液の3つのスポット(0.5μL)も金属ターゲット上に分取し、放置して空気乾燥させた。その金属ターゲット上の各スポットをMALDI−TOF−MSで分析し、コレステロール(m/z 386)とスクアレン(m/z 410)の両方およびそれらの金属付加体についてのピークをモニターした。
【0105】
結果
接触残留物が潜在指紋から有効に採取されることの証明
指紋採取プロセスの効率および得られたプリントの隆線ディテールを調査した。ローダミン6Gを、その高い蛍光のためモデル接触剤として使用した。したがって、接触後に高い蛍光のプリントが見られた(図1aの上および下のプリント)が、通常のプリント(図1aの中央)は、使用したスキャン条件下で蛍光性でなかった。
【0106】
疎水性シリカ散粉剤を前記3つのプリントに塗布すると、ローダミン蛍光のため、およびまたプリントに付着したシリカ粒子から散乱された光のため、それらは視覚的に明瞭になり(図示なし)、それから3つすべてのプリントが、蛍光スキャンで良好で明確なプリントを与えた(図1b)。採取テープを使用してプリントを採取した後、そのスライドガラスの表面には殆ど蛍光が残らず(図1c)、これにより採取プロセスの有効性が証明された。そのとき、そのテープの表面のスキャンは、「蛍光」プリントを示し、これにより、それらの採取プリントおよび散粉剤が、このプロセス中に損なわれずに残ることが証明された(図1d)。
【0107】
図1において観察される結果は、市販の採取テープの適用により、潜在指紋の大部分の付着材料がスライドガラスからそのテープに転写される結果となることを示唆している。これは、MALDI−TOF−MSによる潜在指紋上の任意の材料の検出における第一段階である。
【0108】
採取された接触残留物のMALDI−TOF−MS検出(ローダミン6G)
この実験の成功を仮定して、顕微鏡用スライドガラスの表面から採取したローダミンを、MALDI−TOF−MSを使用して検出できるという仮説を立てた。結果を図2に示す。上のトレースは、採取指紋からのものであり、Rh 6Gに対応するm/z 443でのピークを有する。下のスペクトルは、MALDIターゲットに直接付加したRh 6G標準物質からのものである。ピークの形およびパターンは同様であり、これは、同じ化合物を示差している。上のトレースにおいて見られる質量減少は、イオン化した化学種の飛行時間を減少させるターゲットプレートへの採取テープの付着中の使用したテープのわずかな隆起に、おそらく起因する。
【0109】
導電テープは、MALDIターゲットに平らに貼り付け、その上面にサンプルを加えられるように設計する。これは、比較的脆くもあり、容易に延伸され、それにより現像指紋現物が歪むことがある。困難を伴いつつ、それを用いて顕微鏡用スライドからプリントを採取し、MALDIターゲット上にできる限り良好に付着させたが、その脆性および粘着性の性質のため、それを平らにすることができなかった。
【0110】
図2に示す結果は、粉末形態の接触残留物を表面から採取することができ、MALDI−TOF−MSシステムを使用して首尾よく検出することができることを証明した。
【0111】
コカインについてのMALDI−TOF−MSにおけるカーボンブラック埋め込みシリカ粒子の強化剤としての効力
これらの結果が、マトリックスとコカインの両方が存在する状態で観察され、バックグラウンドシグナルからはされないことを証明するために、量がわかっているコカインおよびマトリックスを使用して、さらなる分析を行った。コカインが存在する状態および非存在の状態での磁性シリカ粒子の応答を、マトリックスを一切伴わないブランクターゲットおよびコカインの応答と比較した。
【0112】
コカインが存在する状態および非存在の状態でのカーボンブラック埋め込みシリカ粒子のm/z 304での応答を、DHBマトリックスを一切伴わないブランクターゲットおよびコカインの応答と比較した。コカインに起因するMSピークの強度を図3に示す。それらのシリカ粒子の存在は、その非存在時にコカインについて見られたものと比較して、ピーク強度の10倍増をもたらした。56,552および112%の上昇、n=3というDHBが存在する状態での対応する結果と比較して、良好な再現性が観察された(強度平均値90,275および5.8%の上昇、n=3)。
【0113】
従来のDHBマトリックスと比較したカーボンブラック埋め込み粒子の可能的SALDI使用を調査した。塩酸コカインをターゲット分析物として使用した。指紋でのこの同定は、指紋を提供した人がコカインと接触したことを証明できるので、警察機関にとって関心が高いからである。金属MALDIターゲットに直接付着させたプリントについての従来の化学的マトリックス(DHB)および新規散粉マトリックスが存在する状態でのコカインの質量スペクトルを図4に示す。下のスペクトルは、DHBが存在する状態でのコカインのスペクトルを示し、上のスペクトルは、磁性ワンドによって付着させた、磁性PTEOSナノ粒子が存在する状態でのコカインを示す。両方が、その薬物のものに対応する、同様のスペクトルを示しているが、磁性粒子が存在する状態では明らかに応答が増加されている。これは、磁性PTEOS粒子が、従来のマトリックスのものと同様の様式でコカインの脱離プロセスを支援することを示している。良好な隆線ディテールが、現像されたプリント上で観察された(図示なし)ので、この磁性PTEOSは、指紋視覚化粉末としての可能性も示した。
【0114】
金属ターゲットプレートに付着させ、二酸化チタン、カーボンブラック(1:10)を含有する疎水性粉末を散粉した、またはDHBで処理した、もしくは未処理のままにした(詳細は示さない)接触プリントについての304.5 m/zでのコカインピークについても同様の結果が観察され、このとき、相対強度は、それぞれ、1,700、10,000、9,000および100mVであった(図4b)。
【0115】
採取指紋上のコカイン残留物の検出についてのTiO2埋め込み粒子の有効性
採取プロセスの効力(図1および2)およびMALDIターゲット上のスパイクした潜在プリントからのコカインの検出(図3〜5)を証明したところで、コカインを、市販の採取テープから直接取った採取指紋で検出することができるという仮説を立てた。結果を図6に示す。下のトレースは、コカインと接触していない採取プリントについて観察されたものであり、一方、上のトレースは、その薬物と接触したプリントからのものである。コカインに対応する304でのm/zの明確なピークは、上のトレースでしか見られない。両方の場合、プリント現物にTiO2埋め込み疎水性シリカ粒子を散粉した。図7は、コカインでスパイクした指紋の、MALDI−TOFにより分析したターゲット領域を示すものである。同様の写真が、陰性対照について得られた(図示なし)。このウエルの直径は、3.4mmであり、指紋の明確な隆線ディテールを観察することができる。図6におけるスペクトルは、セル内の画定された領域に対するレーザースキャンによって得たものであり、シグナルを平均してこのスペクトルを生成した。
【0116】
疎水性粒子を強化マトリックスとして使用するMALDI−TOF−MSの使用による指紋からのコレステロールおよびスクアレンの検出
この実験では、12のプリントをステンレス鋼MSターゲットプレートに直接付着させた。熟成後、それらのプリントに、疎水性散粉剤の10の異なる配合物のうちの1つを散粉した。その後、それらのプリントを採取し、MALDI−TOF−MSシステムを使用して精査した。
【0117】
コレステロールとスクアレンの両方が検出されると予想されたが、実際にはスクアレンしか観察されなかった。これは、分子イオンとナトリウム付加体に対応する433のm/zで見られた。図7からわかるように、強化剤が一切非存在の状態で観察された強度は、約2,000mVであった(プリント12)。これがDHBによって約14,000に強化された。これらの粉末のうち、最も高いカーボンブラック比を含有するものが、最高の応答を与え(プリント9および10)、炭素の比率が高いほど、ピークは強く、そのため、約22,000mVの最大強度を有するサンプルをカーボンブラック(1:2の希釈比)に対応付けた。
【0118】
一般に、粉末内のDHBの存在は、ピーク強度をわずかに強化した(プリント1および2−二酸化チタン、ならびに4および5−1:10のカーボンブラック比)が、この傾向は、染料クリスタルバイオレットを含有する粉末(3および6)およびローダミン6Gを含有する粉末(7および8)については見られず、これらの場合、未処理のプリント12と等価またはそれより低い、低シグナルが生成された。
【0119】
疎水性粒子を強化マトリックスとして使用するMALDI−TOF−MSの使用によるコレステロールおよびスクアレンの直接検出
コレステロールは、プリントのMSでは見られなかったので、DHBおよび新規散粉剤が存在する状態で、MALDI−TOF−MSシステムを使用してこの化合物を検出できるかどうかを判定しようと決めた。したがって、スクアレンとコレステロールの混合物の標準物質を金属ターゲットプレートの表面に付着させ、3部構成での8セットのこれらのスポットに、3.6で使用した疎水性粉末の8つの配合物を散粉するか、それらのスポットをDHBで処理するか、未処理のままにした。
【0120】
この場合、スクアレンに起因するピークが、その化合物のナトリウム付加体に起因して再び433のm/zで観察され、粉末1、2、7および8は、DHBが存在する状態で見られた強度より相当大きいシグナルを与えた(図8)。最大強度は、レッド蛍光パウダー(ローダミン6G、パウダー1、49,000mV)で観察され、重ねて、カーボンブラックが良好な応答を与えた(1:10、6,000mV;1:5、36,000mV;および1:2、4,000mV)。そのとき、386のm/zでのピークが観察されたが、すべての場合において、強度値は、スクアレンで見られたものよりはるかに低かった。クリスタルバイオレット染料を含有する粉末が存在する状態で最高値が生じ(1,800mV、パウダー4)、カーボンブラックを含有するものも、比較的良好なピークを生じさせた(パウダー3、1:10とDHB、パウダー7、1:5およびパウダー8、1:2についてすべて約800mV)(図9)。
【0121】
これら2つの化合物についての実際のスペクトルを図10a(スクアレン)および図10b(コレステロール)に示す。これらは、使用した条件下でより良好なスクアレン応答を明確に示している。
【0122】
MALDI−TOF−MSを使用する散粉潜在指紋における喫煙者からの外因性代謝産物の直接検出
使用した疎水性散粉剤は、1:2のカーボンブラック:PTEOSの開始比で形成されたカーボンブラック組み込み薬剤であった。この合成は、本明細書の次のセクションで説明する。
【0123】
これを、疎水性粒子のイオン粒子に対する比率が2:98 w/wになるように、鉄微粒子(直径<60μM)とステアリン酸(1.0% w/w)の混合物に均一に組み込んだ。潜在プリントは、市販の磁性ワンドを使用して散粉し、ステンレス鋼プレート(Shimadzu MALDI−TOF−MSターゲットプレート)の表面でプリントについてインサイチューで分析するか、市販の採取テープを使用して採取した。採取プリントは、市販の接着テープを使用してプリント面を上してターゲットプレートに貼り付けた。MALDI−TOF−MSは、Kratos Axima CFR Plus MALDI−TOF−MS(英国、マンチェスターのShimadzu Biotech)を使用し、陽イオン反射モードで動作させて行った。使用した市販のマトリックスは、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)(50:50 アセトニトリル:脱イオン水[dH2O]中、10mg・mL-1)であった。
【0124】
図11に示す結果は、ニコチンとコチニン(各10ng)の混合物でスパイクされる潜在プリントについて、マトリックス強化剤が非存在の状態では、ニコチン(FW 162)およびコチニン(FM 176)に起因するピークが観察されないことを示している(11a)。従来のマトリックス支援剤DHBを、各化合物でスパイクしたプリントに加えると、163および177でのピークが観察される(11c)。したがって、スパイクされた潜在プリントに疎水性散粉剤を加えると、163および177でのピークが再び観察され、これは、この薬剤が、強化剤としての役割も果すことを示している。そのとき、m/z 199で追加のピークが観察され、これは、おそらく、コチニンのナトリウム付加体に起因する。疎水性散粉剤を散粉した、スパイクしていないプリントについては、m/z 157でのピークが、ほぼ同じ強度の163のm/zでのピークと共に観察される。このスペクトルでは、177および199でのピークは見られない(11d)。図11bにおける163でのピークは、ニコチンの存在におそらく起因する157でのピークより相当強い強度のピークであると注目すべきである。
【0125】
図11は、潜在指紋に塗布したとき、DHBなどのマトリックス強化剤を添加しない場合だけは、TOF−MSによってニコチンおよびコチニン(両方とも、プリント当たり10ng)を検出できないことを明確に証明している(11cと比較した11a)。この図は、潜在プリントを現像するために使用した疎水性散粉剤が、強化剤としての役割も果し、そのため、これらの化合物が再び検出されることも証明している(11b)。163.3(ニコチンについての式量は、162.23である)および177.3(コチニンについての式量は、176.22である)および199.2のm/z値で大きなピークが見つかった。この最後のピークは、おそらくコチニンのナトリウム付加体(C10H12N2ONa、式量199.21)に起因する。これらのピークは、ニコチンおよびコチニンでスパイクしていない、事前に散粉した潜在指紋にはない(11d)。24時間、喫煙していない元喫煙者についての対応するスペクトルを図2に示す。散粉マトリックスに起因するものではない大きなピークが163.1(ニコチン)および199.1(コチニンナトリウム付加体)のm/zに見られ、177.1(コチニン)に小さなピークが見られる。
【0126】
より高い質量数でのスペクトルを検査する場合、ステンレス鋼プレートに直接適用したプリントには307.4および433.4でのピークが見られることに注目すると面白い。これらは、おそらく、それぞれ、ステアリン酸のナトリウム付加体(FW 307.47)およびスクアレンのナトリウム付加体(FW 433.71)に起因するものである。これらは、散粉剤の配合の際に使用したステアリン酸に、および指紋の内因性成分として分泌された天然スクアレンに源を発する。
【0127】
これらのピークは、採取プリントで得られるピークの較正に使用することができる。それらは、採取テープの表面に存在し、そのテープ自体がステンレス鋼ターゲットプレートの表面に取り付けられるからである。これは表面を隆起させ、そのため、イオン化した化学種の飛行時間は、その時、鋼表面からのものより短く、ピークの見掛けのm/z値は、より小さい。従って、採取テープ上の喫煙者からのプリントについて得られたスペクトルには、305.1および431.2でのナトリウム付加体のピークが、174.6(大きい)および197.4でのピークと共に見られる。これらのピークのより低い質量を2.3m/z単位で補正して、176.9(コチニン)および199.7(ナトリウムコチニン付加体)でのピークを得ることができる。
【0128】
161、167および168でのピークは、一貫して、喫煙者のMSでしか見られない。ニコチンはタバコ葉中のアルカロイドの約95%を構成するが、様々な他のアルカロイドも存在することは公知である。これらの中で、ニコチン(RMM 148)およびアナタビン(RMM 160)が最も豊富である[22]。プロトン化形のニコチンおよびコチニンがこれらのスペクトル中で観察されるので、161のm/zでのピークはアナタビンに起因するものであるが、これを確認するためにさらなる調査が必要である。
【0129】
カーボンブラックが組み込まれた薬剤の調製
ブランクナノ粒子の基本的調製方法は、遠心管内での30mLのエタノール、5mLのdH2O、各2.5mLのテトラエトキシシラン(TEOS)および2.5mLのフェニルトリエトキシシラン(PTEOS)の混合を含む。この混合物に2mLの水酸化アンモニウム溶液を添加し、その溶液を一晩回転させる。この時間の後、その懸濁液を遠心分離する(3,000rpmで3分)。
【0130】
10:90 v/vのエタノール/水を使用する一連の遠心分離および洗浄段階に従ってその生成物を単離し、その後、97:3 v/v 水/エタノール中の懸濁液として保持する。これらは、粒径分布分析およびSEMおよびTEMにも供した。
【0131】
カーボンブラック粒子については、水中のカーボンブラック溶液の1:100倍希釈物の5mLをその前駆体溶液に添加する。TEOS:PTEOS被覆磁性粒子については、出版物に掲載されている方法に従って粒状磁鉄鉱を作製し、水中のその懸濁液の5mLを前駆体溶液に添加する。
【0132】
以下のパラグラフは、本開示の一部を形成する。
1.ある表面上に位置する指紋の中の残留物の存在を判定する方法であって、
i)金属、金属酸化物または炭素粒子を含む粒状物質を指紋に塗布する段階;
ii)前記指紋を質量分析に供して前記残留物の存在または非存在を検出する段階
を含む方法。
【0133】
2.前記支援質量分析法が、MALDI−TOF−MSまたはSALDI−TOF−MSである、パラグラフ1に記載の方法。
【0134】
3.前記組成物を使用する潜在指紋の視覚化をさらに含む、パラグラフ1または2に記載の方法。
【0135】
4.前記金属酸化物が、酸化チタン、酸化鉄(磁鉄鉱)であり、または前記金属がアルミニウムもしくは鉄である、パラグラフ1から3のいずれかに記載の方法。
【0136】
5.前記炭素が、カーボンブラック、フラーレン化合物、またはグラファイトもしくは前記類似体である、パラグラフ1から3のいずれかに記載の方法。
【0137】
6.前記粒状物質が、前記金属、金属酸化物または炭素が中に埋め込まれた粒子を含む、パラグラフ1から5のいずれかに記載の方法。
【0138】
7.前記粒子の直径が、100m以下である、パラグラフ6に記載の方法。
【0139】
8.前記粒子の直径が、1m以下である、パラグラフ7に記載の方法。
【0140】
9.前記粒子が、疎水性シリカ粒子である、パラグラフ6から8のいずれかに記載の方法。
【0141】
10.前記粒子が、染料をさらに含む、パラグラフ6から9のいずれかに記載の方法。
【0142】
11.前記染料が、蛍光性である、パラグラフ10に記載の方法。
【0143】
12.前記粒子が、磁性または常磁性である、パラグラフ6から11のいずれかに記載の方法。
【0144】
13.前記粒子が、磁性フェニルトリメトキシシラン(PTEOS)ナノ粒子である、パラグラフ12に記載の方法。
【0145】
14.前記残留物が、内因性代謝産物である、パラグラフ1から13のいずれかに記載の方法。
【0146】
15.前記内因性代謝産物が、スクアレンである、パラグラフ14に記載の方法。
【0147】
16.前記残留物が、接触残留物である、パラグラフ1から14のいずれかに記載の方法。
【0148】
17.前記接触残留物が、麻薬である、パラグラフ16に記載の方法。
【0149】
18.前記麻薬が、コカインである、パラグラフ17に記載の方法。
【0150】
19.少なくとも一つの内因性代謝産物および少なくとも一つの接触残留物が、指紋の中に共に付着している、パラグラフ1から18のいずれかに記載の方法。
【0151】
20.前記指紋を、粒状物質の塗布前に、MALDI−TOF−MS/SALDI−TOF−MSサンプル支持体上に直接付着させる、パラグラフ1から19のいずれかに記載の方法。
【0152】
21.前記指紋を、前記粒状物質塗布前に、採取テープを使用して前記付着部位から採取し、MALDI−TOF−MS/SALDI−TOF−MSサンプル支持体と接触させる、パラグラフ1から19のいずれかに記載の方法。
【0153】
22.添付の実施例を参照しながら本明細書において実質的に説明したとおりの方法。
【0154】
[参考文献]
【表1A】
【表1B】
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】接触剤としてローダミン6G(Rh.6G)を使用するスライドガラスに付着させ、そこから採取した指紋の蛍光スキャン(λex 543nm、λem 590nm)を示す。 図1a.顕微鏡用スライド上に付着させた潜在指紋。上と下はローダミン6Gで、中央は、ブランク対照である。 図1b.「Sunderland White」指紋用パウダー(TiO2埋め込み疎水性シリカ粒子)で現像した1aからの指紋。 図1c.市販の指紋採取テープで採取した後の1bからのプリントの残留物。 図1d.市販の採取テープ上の1bからの採取指紋。
【図2】エタノールからの付着したローダミン6Gの質量スペクトル(上)および採取指紋からのローダミン6Gの質量スペクトル(下)(両方とも、MALDIテープ(下記)で分析した)を示す。
【図3】塩酸コカインが存在する状態または非存在の状態でのカーボンブラック埋め込みシリカ粒子に対するMALDI−TOF−MSシステムの応答を示す。
【図4】金属MALDI−TOF−MSプレートに直接適用したスパイクした指紋に関するコカインの検出についてのマトリックス材料の比較を示す。下のトレースは、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)を10mg・mL-1で使用して得、上のトレースは、疎水性シリカ磁気粒子で得た。 図4a:金属MALDI−TOF−MSプレートに直接適用したスパイクした指紋に関するコカインの検出についてのマトリックス材料の比較。下のトレースは、DHBを10mg・mL-1で使用して得、上のトレースは、疎水性シリカ磁気粒子で得た。 図4b:コカインが存在する状態と非存在の状態両方のでの金属ターゲットプレートに付着させ、三種類の粉末を散粉した指紋のm/z 304.5でのスペクトル強度。
【図5】コカインとの接触を検出するために、TiO2埋め込み疎水性シリカ粒子を散粉した、採取潜在指紋の質量スペクトルを示す;接触陽性(上のトレース)およびコカインとの接触なし(下のトレース)。
【図6】MALDI−TOF−MSによる分析前にTiO2埋め込み疎水性シリカ粒子を前以て散粉した採取指紋の隆線ディテール(ライトストライプ)を示す質量分析装置内に配置した96ウエルMALDI−ターゲットプレートの表面の単一ウエル/セル単位の写真。
【図7】疎水性粒子の10の配合物(1〜10)および対照(11および12)を散粉した採取プリントについてのm/z 433.55(スクアレンとナトリウム付加体についての分子イオン)での相対強度を示す。コレステロールに起因するm/z 386でのピークは観察されなかった。
【図8】疎水性粉末の8つの配合物(1〜8)および2つの対照(9、10)が存在する状態でのスクアレン標準物質についてのm/z 433.55(スクアレン、式量410.72、とナトリウム(22.99)の付加体)での相対強度を示す。
【図9】疎水性粉末の8つの配合物(1〜8)および2つの対照(9、10)が存在する状態でのコレステロール標準物質についてのm/z 386.37(コレステロールについての式量386.65)での相対強度を示す。
【図10】スクアレンおよびコレステロール標準物質についての質量スペクトルを示す。(a)スクアレン標準物質についてのMALDI−TOF−MS。(b)コレステロール標準物質についてのMALDI−TOF−MS。
【図11】ステンレス鋼プレート上の非喫煙者(FR)からの潜在指紋である、ニコチン(RMM 163)とコチニン(RRM 176)の1μg/mL混合物を含有する10μLの溶液でスパイクした潜在指紋のMALDI−TOF−MF。下から上に、 a−疎水性粒子を散粉せず、DHBで処理したスパイクした潜在プリント b−DHBで処理したスパイクした潜在プリント c−疎水性粒子を前以て散粉したスパイクした潜在プリント d−疎水性粒子を前以て散粉したスパイクしていない潜在プリント
【図12】疎水性粒子を前以て散粉したステンレス鋼上に付着させた(最後のタバコから24時間たった)元喫煙者からの潜在指紋のMALDI−TOF−MS。 a)m/z範囲 155〜180、b)m/z範囲 180〜205、c)m/z範囲 205〜450
【図13】喫煙者の散粉プリントからの潜在指紋のMALDI−TOF−MS−MS。163、148、133、119、105、91、84および79でのピークは、ニコチンの特徴であり、その存在の明白な証拠を与える。
【図14】喫煙者の散粉プリントからの潜在指紋のMALDI−TOF−MS−MS。177、161、147、135、119、105、97、91および79でのピークは、コチニンの特徴であり、その存在の明白な証拠を与える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス支援質量分析法を使用することを特徴とする、指紋内の残留物の存在の判定方法。
【請求項2】
i)(1)マトリックス支援質量分析法においてマトリックスとしての役割を果すことができ、かつ(2)指紋の検出および/または画像化に役立つ粒状物質を、指紋に塗布して、粒子塗布指紋を形成すること;ならびに、
ii)前記粒子塗布指紋を形成している材料を質量分析に供して残留物の存在または非存在を検出すること
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粒状物質が、疎水性である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記粒状物質が、疎水性シリカ粒子を含む請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記粒状物質が、金属、金属窒化物、金属酸化物または炭素を含む請求項2から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記金属酸化物が、酸化チタン、酸化鉄(磁鉄鉱)、赤鉄鉱およびこれらの組み合わせから選択される請求項4から6のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記炭素が、カーボンブラック、フラーレン化合物、カーボンナノチューブ、グラファイト、これらの類似体またはそれらの組み合わせから選択される請求項4から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記金属が、アルミニウム、鉄およびこれらの組み合わせから選択される請求項4から6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記粒状物質が、疎水性シリカ粒子を含み、前記金属、金属窒化物、金属酸化物または炭素粒子が、前記疎水性シリカ粒子内に埋め込まれる請求項2から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記粒子の平均直径が、100μm以下であり、任意で約10から約90μm、任意で約45から約65μm、およびさらに、任意で約65から約90μmの平均直径である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記粒子の平均直径が、1μm以下、任意で約200から約900nm、任意で約300から約600nm、およびさらに、任意で約400から約500nmである請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記粒状材料が、染料分子をさらに含む請求項2から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記染料分子が、蛍光性または有色である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記染料分子および/または有色分子が、前記疎水性シリカ粒子内に埋め込まれる請求項12または請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記粒状材料が、磁性または常磁性である請求項2から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
粒状物質を指紋に塗布した後、採取テープを使用して指紋を前記付着位置から採取し、質量分析サンプル支持体と接触させる請求項2から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記マトリックス支援質量分析法が、MALDI−TOF−MSまたはSALDI−TOF−MSである先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記マトリックス支援法が、MALDI−TOF−MS−MS、SALDI−TOF−MS−MSおよびこれらの組み合わせから選択される請求項1から16のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
指紋の視覚化および/または画像化をさらに含む先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記残留物が、内因性残留物、例えば内因性代謝産物および/または外因性代謝産物である先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記内因性代謝産物が、スクアレンである請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記外因性代謝産物が、ニコチンの代謝産物、例えばコチニンである請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記残留物が、接触残留物である請求項1から19のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記接触残留物が、麻薬である請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記麻薬が、コカインである請求項24に記載の方法。
【請求項26】
少なくとも一つの内因性残留物および少なくとも一つの接触残留物が、指紋内に共に付着している先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
指紋採取テープと、
(1)マトリックス支援質量分析法においてマトリックス剤としての役割を果すことができ、かつ(2)指紋の検出および/または画像化に役立ち、粒子塗布指紋を形成する材料と
を含む粒状物質との組み合わせ。
【請求項28】
前記粒状物質が、疎水性である請求項27に記載の組み合わせ。
【請求項29】
指紋内の残留物を判定するためのマトリックス支援質量分析法の使用。
【請求項30】
前記マトリックス支援質量分析法が、MALDI−TOF−MS、SALDI−TOF−MSおよびこれらの組み合わせから選択される請求項29に記載の使用。
【請求項1】
マトリックス支援質量分析法を使用することを特徴とする、指紋内の残留物の存在の判定方法。
【請求項2】
i)(1)マトリックス支援質量分析法においてマトリックスとしての役割を果すことができ、かつ(2)指紋の検出および/または画像化に役立つ粒状物質を、指紋に塗布して、粒子塗布指紋を形成すること;ならびに、
ii)前記粒子塗布指紋を形成している材料を質量分析に供して残留物の存在または非存在を検出すること
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粒状物質が、疎水性である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記粒状物質が、疎水性シリカ粒子を含む請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記粒状物質が、金属、金属窒化物、金属酸化物または炭素を含む請求項2から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記金属酸化物が、酸化チタン、酸化鉄(磁鉄鉱)、赤鉄鉱およびこれらの組み合わせから選択される請求項4から6のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記炭素が、カーボンブラック、フラーレン化合物、カーボンナノチューブ、グラファイト、これらの類似体またはそれらの組み合わせから選択される請求項4から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記金属が、アルミニウム、鉄およびこれらの組み合わせから選択される請求項4から6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記粒状物質が、疎水性シリカ粒子を含み、前記金属、金属窒化物、金属酸化物または炭素粒子が、前記疎水性シリカ粒子内に埋め込まれる請求項2から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記粒子の平均直径が、100μm以下であり、任意で約10から約90μm、任意で約45から約65μm、およびさらに、任意で約65から約90μmの平均直径である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記粒子の平均直径が、1μm以下、任意で約200から約900nm、任意で約300から約600nm、およびさらに、任意で約400から約500nmである請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記粒状材料が、染料分子をさらに含む請求項2から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記染料分子が、蛍光性または有色である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記染料分子および/または有色分子が、前記疎水性シリカ粒子内に埋め込まれる請求項12または請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記粒状材料が、磁性または常磁性である請求項2から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
粒状物質を指紋に塗布した後、採取テープを使用して指紋を前記付着位置から採取し、質量分析サンプル支持体と接触させる請求項2から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記マトリックス支援質量分析法が、MALDI−TOF−MSまたはSALDI−TOF−MSである先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記マトリックス支援法が、MALDI−TOF−MS−MS、SALDI−TOF−MS−MSおよびこれらの組み合わせから選択される請求項1から16のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
指紋の視覚化および/または画像化をさらに含む先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記残留物が、内因性残留物、例えば内因性代謝産物および/または外因性代謝産物である先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記内因性代謝産物が、スクアレンである請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記外因性代謝産物が、ニコチンの代謝産物、例えばコチニンである請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記残留物が、接触残留物である請求項1から19のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記接触残留物が、麻薬である請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記麻薬が、コカインである請求項24に記載の方法。
【請求項26】
少なくとも一つの内因性残留物および少なくとも一つの接触残留物が、指紋内に共に付着している先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
指紋採取テープと、
(1)マトリックス支援質量分析法においてマトリックス剤としての役割を果すことができ、かつ(2)指紋の検出および/または画像化に役立ち、粒子塗布指紋を形成する材料と
を含む粒状物質との組み合わせ。
【請求項28】
前記粒状物質が、疎水性である請求項27に記載の組み合わせ。
【請求項29】
指紋内の残留物を判定するためのマトリックス支援質量分析法の使用。
【請求項30】
前記マトリックス支援質量分析法が、MALDI−TOF−MS、SALDI−TOF−MSおよびこれらの組み合わせから選択される請求項29に記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2009−505055(P2009−505055A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−525650(P2008−525650)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【国際出願番号】PCT/GB2006/050234
【国際公開番号】WO2007/017701
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(508043109)ユニヴァーシティ・オヴ・サンダーランド (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【国際出願番号】PCT/GB2006/050234
【国際公開番号】WO2007/017701
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(508043109)ユニヴァーシティ・オヴ・サンダーランド (4)
【Fターム(参考)】
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