説明

質量分析システム

本発明は、低真空段(16)から高真空段(44)まで流体連通状態にある複数個の質量分析計段(16,18,20,44)を含む質量分析計(12)を有する質量分析システム(10)を提供する。分割流多段ポンプ(14)が質量分析計段を排気する。ポンプは、ポンプエンベロープ(28)を有し、このポンプエンベロープ(28)内では、複数個のポンプ輸送段(20,32,34)が流体を主ポンプ入口(36)から主ポンプ出口(38)にポンプ輸送するために質量分析計段内における流れ方向にほぼ平行な軸線X回りに回転可能に支持されている。高真空段(44)の少なくとも一部は、ポンプエンベロープ内で主ポンプ入口のところに配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる分割流多段ポンプを用いて質量分析計の段を排気する先行技術の質量分析システムが知られている。かかるポンプは、ポンプエンベロープを有する場合があり、かかるポンプエンベロープ内において、複数個のポンプ輸送段が流体を主ポンプ入口から主ポンプ出口にポンプ輸送するために軸線回りに回転可能に支持されている。主ポンプ入口は、高真空段を排気するよう連結されている。段間入口がポンプ輸送段相互間に設けられていて、質量分析計の低真空段を排気するために連結されている。
【0003】
典型的には、分割流ポンプは、その軸線が質量分析計の或る1つの段から次の段への流れ方向と直交した状態で「垂直に」差し向けられる。この点に関し、質量分析計の段は、低真空チャンバから高真空チャンバへの流れを可能にするよう直列に連結されたそれぞれの複数個の真空チャンバを有している。各チャンバは、質量分析計に導入されるサンプルを処理する計器を有する。
【0004】
種々の圧力状態にある2つ以上の質量分析計段を同一ポンプで排気するこの構成は、製造費、システムサイズ、所有者の保守及びコストの面で利点を提供する。しかしながら、段間入口はコンダクタンスが比較的低いという問題を生じ、また、ポンプは比較的多大なスペースを占める。
【0005】
近年、図3に示された質量分析システムが提供された。質量分析システム100は、例えば、分割流多段ポンプ106を用いて排気される質量分析計104の段101,102,103を有する場合がある。ポンプ106は、ポンプエンベロープ108を有し、ポンプエンベロープ108内では、複数個のポンプ輸送段109,110,111が流体を主ポンプ入口114から主ポンプ出口116にポンプ輸送するために軸線112回りに回転可能に支持されている。
【0006】
エンベロープ108は、ポンプ輸送段109,110,111のポンプ輸送コンポーネントを構造的に支持するポンプケーシングを形成している。ステータコンポーネントは、ケーシングに固定されると共にこれによって支持されるのが良く、ロータコンポーネントは、駆動装置112に固定されると共にこれによって支持され、駆動装置112は、それ自体、ケーシングに固定されると共にこれによって支持された軸受(図示せず)によって支持されている。
【0007】
主ポンプ入口114は、高真空段103を排気するよう連結されている。段間入口118がポンプ輸送段相互間に設けられていて、低真空段102を排気するよう連結されている。低真空段は、例えば、補助又はバッキングポンプ120によって排気されるのが良い。
【0008】
システム100では、分割流ポンプ106は、その回転軸線Xが質量分析計内における流れ方向Yに実質的に平行な状態で設けられている。かかる構成を利用すると、段間入口のところのコンダクタンスを増大させることができると共にポンプの高さ及び計器の輪郭形状を減少させることができる。しかしながら、チャンバ103のところでの高いポンプ輸送速度を得るためには、チャンバポート114と第1のポンプ輸送段109との間の入口コンダクタンスは、比較的大きくなければならない。これは、典型的には、比較的広いスペース122をポンプ輸送段109と軸方向整列状態で且つポンプエンベロープ108内に(即ち、主ポンプ入口114の下流側であって第1のポンプ輸送段109の上流側に)設けることによって達成される。使用の際、分子の流れ及びチャンバポートの関連のコンダクタンス(パイプ損失と呼ばれる場合がある)に起因して主入口64とポンプ輸送段109との間に圧力降下が生じる。スペース122のサイズを増大させると共にダクト長さを減少させると、主ポンプ入口114とポンプ輸送段109との間の寄生圧力降下が最小限に抑えられ、それにより、ポンプ輸送速度が最大になると共にチャンバのところでの圧力が最小になる。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、質量分析システムであって、低真空質量分析計段から高真空質量分析計段までガス連通状態にある複数個の差動的ポンプ輸送式質量分析計段を含む質量分析計と、質量分析計段を排気するよう構成された多段ポンプとを有し、ポンプは、ポンプエンベロープを有し、ポンプエンベロープ内では、質量分析計段内における流れ方向にほぼ平行な軸線回りに回転可能に支持された複数個のポンプ輸送段が流体をポンプ入口からポンプ出口にポンプ輸送するよう構成されており、高真空質量分析計段の少なくとも一部は、ポンプエンベロープ内でポンプ入口のところに配置されていることを特徴とする質量分析システムを提供する。
【0010】
本発明は又、質量分析システムであって、低真空段から高真空段まで流れ連通状態にある複数個の質量分析計段を含む質量分析計と、質量分析計段を排気する分割流多段ポンプとを有し、ポンプは、ポンプエンベロープを有し、ポンプエンベロープ内では、複数個のポンプ輸送段が質量分析計段内における流れ方向にほぼ平行な軸線回りに回転可能に支持され、質量分析計段のうちの1つの少なくとも一部は、上流側ポンプ輸送段と軸方向整列状態で配置されていることを特徴とする質量分析システムを提供する。
【0011】
本発明の他の好ましい且つ/或いはオプションとしての観点は、従属形式の請求項に記載されている。
【0012】
本発明の内容を良く理解することができるようにするために、添付の図面を参照して以下において本発明の2つの実施形態を説明するが、これらは例示に過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】質量分析システムを示す図である。
【図2】別の質量分析システムを示す図である。
【図3】先行技術の質量分析システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を参照すると、質量分析システム10が示されており、この質量分析システムは、質量分析計12及び分割流多段ポンプ14を有している。質量分析計12は、低真空段16から高真空段20まで流体連通状態にある複数個の質量分析計段16,18,20を有している。或る1つの段から次の段への流れは、全体として、右側の方向(図面に示されている)に起こり、この右側の方向は、代表的には、水平である。段16,18,20は、それぞれの真空チャンバ22,24,26を有している。
【0015】
分割流多段ポンプ14は、ポンプエンベロープ28を有し、このポンプエンベロープ内において、複数個のポンプ輸送段30,32,34が流体を主ポンプ入口36から主ポンプ出口38にポンプ輸送するために質量分析計内における流れ方向にほぼ平行な軸線X回りに回転可能に支持されている。段間入口40がポンプ輸送段相互間に設けられた状態で低真空段16,18を排気するために連結されている。この実施形態では、段間入口がポンプ輸送段32,34相互間に設けられている。段間入口は、更に又は変形例として、ポンプ輸送段30,32相互間に設けられても良い。低真空段22は、補助ポンプ42によって排気された状態で示されており、この補助ポンプは又、主ポンプ出口38を負圧にする。
【0016】
エンベロープ28は、ポンプ輸送段30,32,34のポンプ輸送コンポーネントを構造的に支持するポンプケーシングを形成している。ステータコンポーネントは、ケーシングに固定されると共にこれによって支持されるのが良く、ロータコンポーネントは、駆動装置29に固定されると共にこれによって支持され、駆動装置29は、それ自体、ケーシングに固定されると共にこれによって支持された軸受(図示せず)によって支持されている。ポンプのケーシングは、質量分析計のケーシングと一体であるのが良い。
【0017】
複数個の真空チャンバ22,24,26は、これらに取り付けられた真空ポンプ14によって差動的にポンプ輸送され、真空ポンプ14は、2つのポンプ入口36,40を有している。第1のポンプ輸送段34は、第2のポンプ真空段32への排気を行ない、第2のポンプ輸送段は、第3のポンプ輸送段30への排気を行なう。第1のポンプ輸送段は、主ポンプ入口36を介して比較的高い真空チャンバ26に連結され、ガス分子は、この真空チャンバ26から容積部44を通ってポンプに入り、そしてポンプ出口38に向かって第1、第2及び第3のポンプ真空段を通過することができる。第2のポンプ輸送段は、段階入口40を介して中程度真空チャンバ24に連結され、ガス分子は、この中程度真空チャンバから段階入口40を通ってポンプに入ることができ、そしてポンプ出口38に向かって第2及び第3のポンプ輸送段を通過することができる。低真空チャンバ22は、補助ポンプ42によって排気されるのが良い。
【0018】
この実施形態では、ポンプ輸送段30は、分子ドラッグ機構体から成り、ポンプ輸送段32,34は、ターボ分子ポンプ輸送機構体から成る。
【0019】
主ポンプ入口のところのコンダクタンスを維持するため、ポンプ輸送段34と軸方向整列状態で且つポンプエンベロープ28内に(即ち、主ポンプ入口36の下流側であって第1のポンプ輸送段34の上流側に)比較的広いスペース44が設けられる。ポンプ輸送段34は、最初の(第1の)又は最も上流側のポンプ輸送段である。先行技術に関して上述したように、スペース44により、ポンプ輸送段34は、効率的に働くことができる。スペース44内の圧力は、上述のコンダクタンス効果(パイプ損失)により主ポンプ入口のすぐ上流側のチャンバ26内の圧力よりも低い。先行技術においては、ガスを質量分析計から真空ポンプ内にポート制御で流すためにだけ必要な比較的多大な余分のスペースがポンプ内に存在する。適度なコンダクタンスを提供する場合を除き、この容積部122は、機械的目的を果たしておらず、したがって、材料費、機械加工、計器サイズ及び重量の面で無駄である。先行技術とは異なり、本発明は、容積部44を質量分析計中に組み込んでこれがポンプエンベロープ内に高真空チャンバを形成するようにし、この高真空チャンバは、使用の際、そのすぐ上流側のチャンバよりも高い真空状態にある。したがって、この構成では、システムの全体サイズを増大させないで、追加の質量分析計段が高真空状態で設けられる。
【0020】
以下に詳細に説明するように、質量分析計の計器50が少なくとも部分的に、好ましくは全体がポンプの容積部44内に且つ第1のポンプ輸送段34と軸方向整列状態で配置されている。本明細書で用いられる「軸方向整列」という用語は、図1及び図2に例示的に示されている。この点に関し、第1のポンプ輸送段の外側半径方向広がりは、破線で示されていて、第1のポンプ輸送段のポンプ輸送機構体を収容したポンプエンベロープ28の内面と一致している。分析器又は光学系を含む場合のある質量分析計計器50は、これが両方向を指し示す矢印“A”により示されているように第1のポンプ輸送段34の半径方向広がり内に配置されているので、図1では、第1のポンプ輸送段34と軸方向整列状態にある。
【0021】
図1及び図2に示されているように、質量分析計計器は、第1のポンプ輸送段と軸方向整列状態にある。さらに、ポンプ輸送段の回転軸線Xは、水平である。したがって、質量分析計段を通る同一のガス流れ方向又はイオン経路は、約90°以上曲がり、その結果、イオン経路は、ポンプエンベロープ内に部分的に配置されるようになる。
【0022】
質量分析計計器46,48が真空チャンバ24,26内に配置されており、質量分析計計器50は、主ポンプ入口36と第1のポンプ輸送段34との間のスペース44内に配置されている。
【0023】
この構成により、スペースの有効利用が可能であると共に第1のポンプ輸送段の羽根のすぐ前で減圧状態で機器のための高レベルのポンプ輸送性能が得られる。この点に関し、真空チャンバ26内の圧力は、約10-6ミリバールであり、容積部44内の圧力は、約10-7ミリバールであることが注目される。性能の向上度は、ポンプのコンダクタンス及びポーティング(porting )に依存するが、かかる向上度は、一般的には、50%のオーダである。
【0024】
図1に示されているように、計器50は、全体がポンプエンベロープ内に且つ第1のポンプ輸送段34と軸方向整列状態で配置されるが、計器の一部だけがポンプエンベロープ内に且つ第1のポンプ輸送段と軸方向整列状態で配置されても良い。したがって、質量分析計段のうちの1つの少なくとも一部は、ポンプエンベロープ内で主ポンプ入口のところに又はポンプ輸送段34と軸方向整列状態で配置される。
【0025】
計器46,48,50は、概略的に示されており、これら計器は、システムを通るサンプルの特性を求める種々の手段を含むのが良い。サンプルイオンは、質量分析計(光学系)を通ってイオンを分析する機器(分析器)に向かって案内される。両方の形式の機器(光学系及び分析器)を本明細書において説明する実施形態に組み込むことができる。
【0026】
質量分析計60が図2に示されており、図2では、図1に示された同一の特徴について同一の参照符号が用いられている。質量分析計60は、飛行時間(TOF)型計器62を有し、この飛行時間型計器62は、ポンプエンベロープ28内のスペース44から主ポンプ入口36を通って入口36のすぐ上流側の真空チャンバ26まで延びている。したがって、質量分析計段20は、チャンバ26及びスペース44をまたいでおり、したがって、計器62(及び段20)は、部分的に、第1のポンプ輸送段と軸方向整列状態で且つエンベロープ28内に位置している。TOF段は、質量分析計チャンバ26と容積部44との間に生じるパイプ損失を特に利用している。上述したように、チャンバ26内の圧力は、約10-6ミリバールであり、容積部44内の圧力は、約10-7ミリバールである。したがって、この構成により、TOF計器が利用することができる自然な圧力勾配が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析システムであって、
低真空質量分析計段から高真空質量分析計段までガス連通状態にある複数個の差動的ポンプ輸送式質量分析計段を含む質量分析計と、
前記質量分析計段を排気するよう構成された多段ポンプとを有し、前記ポンプは、ポンプエンベロープを有し、前記ポンプエンベロープ内では、前記質量分析計段内における流れ方向にほぼ平行な軸線回りに回転可能に支持された複数個のポンプ輸送段が流体をポンプ入口からポンプ出口にポンプ輸送するよう構成されており、
高真空質量分析計段の少なくとも一部は、前記ポンプエンベロープ内で前記ポンプ入口のところに配置されている、質量分析システム。
【請求項2】
質量分析計サンプルの特性を求める計器が少なくとも部分的に前記ポンプエンベロープ内で前記主ポンプ入口のところに配置されている、請求項1記載の質量分析システム。
【請求項3】
前記計器又は質量分析計の機器の一部は、前記主ポンプ入口と第1のポンプ輸送段のポンプ輸送機構体との間に配置されている、請求項1記載の質量分析システム。
【請求項4】
質量分析計イオン経路が前記ポンプエンベロープ内に部分的に配置されている、請求項1記載の質量分析システム。
【請求項5】
前記計器は、前記ポンプの前記ポンプ輸送段と軸方向整列状態で配置されている、請求項2又は3記載の質量分析システム。
【請求項6】
前記回転軸線は、全体としてほぼ水平である、請求項1〜5のうちいずれか一に記載の質量分析システム。
【請求項7】
前記ポンプエンベロープは、前記主ポンプ入口のところに高真空チャンバの一部を形成し、前記高真空チャンバは、使用の際、そのすぐ上流側に位置したチャンバよりも高い真空状態にある、請求項1〜6のうちいずれか一に記載の質量分析システム。
【請求項8】
飛行時間型計器が前記ポンプエンベロープの前記主ポンプ入口とそのすぐ上流側に位置したチャンバとの間に延びている、請求項1〜7のうちいずれか一に記載の質量分析システム。
【請求項9】
前記ポンプの少なくとも1つの段は、ターボ分子ポンプ輸送機構体から成る、請求項1〜8のうちいずれか一に記載の質量分析システム。
【請求項10】
段間ポートが前記ポンプ輸送段相互間に配置されると共に質量分析計段に連結されている、請求項1〜9のうちいずれか一に記載の質量分析システム。
【請求項11】
質量分析システムであって、低真空段から高真空段まで流れ連通状態にある複数個の質量分析計段を含む質量分析計と、前記質量分析計段を排気する分割流多段ポンプとを有し、前記ポンプは、ポンプエンベロープを有し、前記ポンプエンベロープ内では、複数個のポンプ輸送段が前記質量分析計段内における前記流れ方向にほぼ平行な軸線回りに回転可能に支持され、前記質量分析計段のうちの1つの少なくとも一部は、上流側ポンプ輸送段と軸方向整列状態で配置されている、質量分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−506242(P2013−506242A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530336(P2012−530336)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【国際出願番号】PCT/GB2010/051528
【国際公開番号】WO2011/036472
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(507261364)エドワーズ リミテッド (85)
【Fターム(参考)】