説明

質量分析装置

【課題】それぞれが異なるイオン操作の開始を指示する複数系統のパルス信号に応じてイオン操作のための電極に印加する電圧を切り替える制御信号を生成する構成において、断線等によりパルス信号が入力されない或いは入力順序が乱れたときでも装置が損傷することを防止する。
【解決手段】制御部10からパルス生成部14に与えられる3本の指令信号経路S1〜S3上の指令信号パルスの入力順序を順序判定部15がチェックし、誤った順序でパルスが入力されると速やかにエラー信号を出し、パルス生成部14は全ての電圧切替制御信号SC1〜SC4を「L」に維持する。これにより、切替部20のスイッチSW1〜SW4はオフになり、例えば高周波発生器17の出力が接地される等の不適切な状態に至るのを回避できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析装置に関し、更に詳しくは、イオンの挙動に影響を与える電場を形成するための複数の電極がイオン光軸に沿って配設された質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置においては、試料分子のイオン化、イオンの輸送、イオンの分離、イオンの検出等、イオンに関する各種操作を行うためにそれぞれ対応する電極を備えており、これら操作に必要な順序で以て各電極に直流電圧や高周波電圧を印加することで質量分析を実行する。図4は質量分析装置の一例であるイオントラップ(IT)と飛行時間型質量分析装置(TOFMS)とを組み合わせたIT−TOFMSの概略構成図である(特許文献1など参照)。
【0003】
図4において、例えばMALDIなどのイオン化部1において試料分子から生成されたイオンは複数の電極から構成されるイオントラップ2内に導入され、ここで一時的に捕捉された状態でイオン選択(アイソレーション)や衝突誘起解離(CID)が実行される。その後、イオントラップ2から選択的に排出されたイオンはTOFMS6に導入され、TOFMS6の飛行空間を飛行する間に質量電荷比(m/z)に応じて分離されて検出器7に到達し、イオン量に応じた強度信号が出力される。上記構成では、イオントラップ2は三次元四重極型の構成であり、リング電極3とこのリング電極3を挟む一対のエンドキャップ電極4、5とを含んでいる。
【0004】
上記の一連の分析動作の過程で、いま一例としてイオントラップ2のエンドキャップ電極4、5に印加される電圧とそのときのイオンに対する操作内容とに着目して説明する。図5は従来の質量分析装置においてエンドキャップ電極4、5に電圧を印加するための電圧発生部のブロック構成図である。また、図6はこの電圧発生部の正常な動作を説明するためのタイミング図である。
【0005】
図5に示すように、電圧源として直流の高電圧(例えば-10kV程度)VHを出力する高圧電源16と高周波電圧RFを出力する高周波発生器17とを備え、切替部20によりエンドキャップ電極4、5に印加される電圧が切り替えられる。この切替部20に対し電圧切替え制御用の信号SC1〜SC4を供給するために、制御部10及びパルス生成部14が設けられている。切替部20は第1乃至第4なる4個のスイッチSW1、SW2、SW3、SW4で構成される。即ち、高圧電源16とエンドキャップ電極4、5との間には第1スイッチSW1が配置され、高周波発生器17とエンドキャップ電極4、5との間には第2スイッチSW2及び第3スイッチSW3の直列接続回路が配置されている。さらに、第2スイッチSW2と第3スイッチSW3との接続点は第4スイッチSWを介して接地電位(0V)に接続されている。
【0006】
基本的には、第1スイッチSW1はエンドキャップ電極4、5へ印加する直流高電圧VHをオン・オフするものであり、第2スイッチSW2はエンドキャップ電極4、5へ印加する高周波電圧RFをオン・オフするものであり、第3スイッチSW3は、第1スイッチSW1のオン・オフ切替え時に生じるサージ電圧により高周波発生器17が破壊されないように高周波発生器17の出力を一時的に切り離すためのものであり、第4スイッチSW4はエンドキャップ電極4、5を接地するためのものである。
【0007】
制御部10はCPU11やこのCPU11の制御の下に基準クロック信号をカウントするカウンタ12を含み、所定のタイミングで以て3系統の指令信号経路S1、S2、S3にそれぞれ所定パルス幅の指令信号を出力する。パルス生成部14はロジック回路からなり、指令信号経路S1、S2、S3上の各指令信号に応じて、切替部20のスイッチSW1〜SW4を切替駆動するために必要な4系統の電圧切替制御信号SC1、SC2、SC3、SC4を発生する。
【0008】
具体的には、図5に示す構成の回路は図6に示すようなタイミングで以て動作する。初期状態では、電圧切替制御信号SC1、SC3は「L」であり、第1及び第3スイッチSW1、SW3がオフすることでエンドキャップ電極4、5への直流高電圧VH及び高周波電圧RFの印加は遮断されている。一方、電圧切替制御信号SC2、SC4は「H」であり、第2及び第4スイッチSW2、SW4がオンすることによりエンドキャップ電極4、5の電位は接地電位に固定されている。この初期状態において、イオンはイオントラップ2内に導入され、リング電極3に印加される高周波電圧により形成される電場によって、イオンはイオントラップ2内部に捕捉される。
【0009】
この初期状態から、図6中のT1のタイミングで制御部10が指令信号経路S1に指令信号パルスを送ると、パルス生成部14では電圧切替制御信号SC4を「H」→「L」に反転させ、それから或る時間d1だけ遅延して電圧切替制御信号SC3を「L」→「H」に反転させる。これにより、第2及び第3スイッチSW2、SW3がオンし、第4スイッチSW4はオフするから、エンドキャップ電極4、5に高周波電圧RFが印加されることになる。もし、第3及び第4スイッチSW3、SW4が同時にオンしてしまうと、高周波発生器17の出力が接地されて破壊されるおそれがあるが、上記のように適宜の遅延時間d1を設けることにより、第4スイッチSW4が確実にオフした後に第3スイッチSW3をオンさせることができる。
【0010】
エンドキャップ電極4、5に高周波電圧RFを印加することにより、イオントラップ2内に捕捉された各種イオンの中で特定の質量(又は質量範囲)を有するイオンが大きく振動されるため、例えば大きく振動させたイオンをイオントラップ2から排出させて除去することでアイソレーションを行うことができる。また、イオントラップ2内にCIDガスを導入して特定質量を持つイオンを大きく振動させれば、そのイオンがCIDガスに衝突して開裂するからイオンの衝突誘起解離を行うことができる。即ち、指令信号経路S1上の指令信号パルスは、イオントラップ2でのアイソレーション又はCID動作の開始を指示するものである。
【0011】
次に、図6中のT2のタイミングで以て制御部10が指令信号経路S2に指令信号パルスを送ると、パルス生成部14では電圧切替制御信号SC2、SC3を「H」→「L」に反転させ、それから或る時間d2だけ遅延して電圧切替制御信号SC1を「L」→「H」に反転させる。これにより、第2及び第3スイッチSW2、SW3がオフし、第1スイッチSW1はオンするから、エンドキャップ電極4、5に直流高電圧VHが印加されることになる。もし、第1乃至第3スイッチSW1、SW2、SW3が同時にオンしてしまうと、直流高電圧VHが高周波発生器17の出力に印加され破壊されるおそれがあるが、上記のように適宜の遅延時間d2を設けることにより、第2及び第3スイッチSW2、SW3が確実にオフした後に第1スイッチSW1をオンさせることができる。
【0012】
エンドキャップ電極4、5に直流高電圧VHを印加すると、イオントラップ2内に捕捉されているイオンに運動エネルギーが付与され、イオントラップ2から排出されてTOFMS6に導入される。これにより、TOFMS6による質量分析が開始される。即ち、指令信号経路S2上の指令信号パルスは、イオントラップ2からのイオンの排出開始を指示するものである。
【0013】
その後に、図6中のT3のタイミングで以て制御部10が指令信号経路S3に指令信号パルスを送ると、パルス生成部14では電圧切替制御信号SC1を「H」→「L」に反転させ、それから或る時間d3だけ遅延して電圧切替制御信号SC2、SC4を「L」→「H」に反転させる。これにより、第1スイッチSW1がオフし、第2及び第4スイッチSW2、SW4はオンするから、初期状態と同様にエンドキャップ電極4、5は接地されることになる。もし、第1、第2及び第4スイッチSW1、SW2、SW4が同時にオンしてしまうと、高圧電源16の出力が接地され破壊されるおそれがあるが、上記のように適宜の遅延時間d3を設けることにより、第1スイッチSW1が確実にオフした後に第2及び第4スイッチSW2、SW4をオンさせることができる。指令信号経路S3上の指令信号パルスはTOF分析の終了を指示するものであり、また同時に必要に応じて次の分析対象のイオンをイオントラップ2に保持する動作の開始を指示するものである。
【0014】
なお、アイソレーション又は衝突誘起解離を行う時間はイオントラップ2内でのMS/MSの繰り返し回数に依存し、TOFMS6で質量分析する時間は質量範囲に依存する。そのため、制御部10において、CPU11は分析条件に応じて指令信号パルスの発生時間間隔などを変更するようにカウンタ12の時間を適宜設定する。したがって、上記構成では、様々な分析条件に柔軟に対応することができる。
【0015】
上述したように、3系統の指令信号経路S1〜S3上の各指令信号パルスに対応して4個のスイッチSW1〜SW4の動作は決まっており、イオントラップ2の動作モード(つまりイオンに関する操作の内容)も決まっている。そのため、例えば制御部10の誤動作によりカウンタ12の設定時間に誤りが生じたり、制御部10とパルス生成部14との間の指令信号経路等の断線やコネクタの接触不良などにより必要な指令信号パルスがパルス生成部14に入力されないと、動作モードの順序が乱れ、不具合が発生することになる。
【0016】
この不具合の例について図7、図8を参照して説明する。図7は指令信号経路S2→S1→S3の順番で指令信号パルスがパルス生成部14に入力される場合の例である。この場合、最初に指令信号経路S2の指令信号パルスが入力されるため、エンドキャップ電極4、5にアイソレーション又はCID動作のための高周波電圧RFが印加されないまま直流高電圧VHが印加され、これによってイオンはイオントラップ2から排出されてしまう。次いで指令信号経路S1の指令信号パルスが入力されると第4スイッチSW4はオフされるが、エンドキャップ電極4、5には直流高電圧VHが印加され続けたままとなるだけである。その後、指令信号経路S3の指令信号パルスが入力されると、第1スイッチSW1はオフされて直流高電圧VHの印加は停止されるものの、このとき第3スイッチSW3がオンしたまま第4スイッチSW4もオンされてしまうため、高周波発生器17の出力が接地されて破壊に至るおそれがある。
【0017】
一方、図8は指令信号経路S1→S3→S2の順番で指令信号パルスがパルス生成部14に入力される場合の例である。この場合にも、指令信号経路S3の指令信号パルスが入力されたときに、第3スイッチSW3がオンしたまま第4スイッチSW4もオンされてしまうため、高周波発生器17の出力が接地されて破壊に至るおそれがある。
【0018】
【特許文献1】特開2004-214077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
制御部10とパルス生成部14との間の指令信号経路等の断線やコネクタの接触不良などの不良により必要な指令信号パルスが到来しないときに、動作モードの順序が乱れて適切な分析が行えないのは仕方がないにしても、それが原因で装置の破壊や故障が起こることは極力防止することが望ましい。本発明はこうした点に鑑みて成されたものであり、その主な目的とするところは、上記のような各種不良や誤動作によっても装置の故障を防止することができる質量分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために成された本発明は、イオンに関する各種操作を行うための電場を形成する1乃至複数の電極と、該電極に電圧を印加する電圧印加手段とを具備し、該電圧印加手段により、前記電極に印加する電圧の極性、電圧値、直流/交流の少なくともいずれかを時間経過に伴って切り替えることでイオンに関する複数の操作を順番に実行する質量分析装置において、
a)分析動作を実行するためにN(Nは2以上)本の指令信号経路に規定の順序で以て指令信号を送る動作指示手段と、
b)異なる指令信号経路上の指令信号に応じてそれぞれ異なるイオン操作のための電圧切替制御信号を生成する信号生成手段と、
c)前記N本の信号経路の指令信号が規定の順序で与えられているか否かを検証する順序検証手段と、
を備え、前記信号生成手段は、前記順序検証手段により指令信号が規定の順序で与えられないことを検知したときに、前記電極に電圧が印加されず且つ前記電圧印加手段の出力短絡も生じないように電圧切替制御信号を設定するようにしたことを特徴としている。
【0021】
本発明に係る質量分析装置において、順序検証手段は、動作指示手段から信号生成手段に与えられるN本の指令信号経路上の指令信号の順序が規定の通りであるか否かチェックし、規定の通りであればそのまま分析を継続させる。一方、N本の指令信号経路上の指令信号の順序が規定の通りでないことが検知されたならば、信号生成手段は、電極に電圧が印加されず且つ電圧印加手段の出力短絡も生じないように電圧切替制御信号を設定する。例えば、n番目の指令信号経路上の指令信号を認識した後に本来n+1番目の指令信号経路上の指令信号が発生する筈であるのに他の指令信号経路上の指令信号が認識された場合には、その誤った指令信号を認識した時点で速やかに電圧切替制御信号を上述したように設定する。具体的に、電圧印加手段において複数のスイッチのオン・オフにより電圧の切替えを達成している場合には、全てのスイッチをオフさせればよい。
【0022】
また、電極に電圧を印加しないだけでなく、分析の遂行自体も停止させたほうがよいから、本発明に係る質量分析装置においては、順序検証手段により指令信号が規定の順序で与えられないことを検知したときに分析動作を停止する制御手段をさらに備える構成とするとよい。
【0023】
また、制御手段により分析動作が停止されたときに異常を報知する異常報知手段をさらに備える構成としておけば、分析者はすぐに不具合に気付いて装置をチェックする等適切な対応をとることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る質量分析装置によれば、例えばノイズの混入などに起因する誤動作、信号線の断線や接触不良などが起こり、イオンに関する操作の順序が乱れるような誤った制御指令が到来しても、それによる装置の損傷や故障を回避することができる。また、不適切な分析を停止させることで、それ以降の分析のために試料を無駄に消費することも防止することができる。
【0025】
但し、例えばバッチ処理で多数の試料を長時間をかけて分析するような場合には、ノイズ等の偶発的或いは一時的な不具合で以降の処理を全く停止してしまうと、却って多大な損失を生じることもある。
【0026】
そこで本発明に係る質量分析装置では、前記動作指示手段は分析動作が停止された後に初期状態に戻した上で再び指令信号を送出し、前記順序検証手段はこの指令信号が規定の順序で与えられているか否かを検証し、前記制御手段は、前記順序検証手段により指令信号が規定の順序で与えられていることを検知したときに分析動作を再開させる構成としてもよい。この構成によれば、一旦分析が停止された後に不具合が解消されれば分析が再開されるので、効率的な分析と安全性の確保とを両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の質量分析装置の一実施例について図面を参照して説明する。本実施例による質量分析装置の全体構成は既に説明した図4と同じであるので説明を略す。
【0028】
図1は本実施例の質量分析装置においてエンドキャップ電極に電圧を印加するための電圧発生部のブロック構成図、図2はこの電圧発生部の動作を説明するためのタイミング図、図3は本実施例による質量分析装置における電圧発生部の異常時の動作を示すタイミング図である。既に説明した図5と同一の構成要素には同一符号を付して、特に要しない限り説明を省略する。
【0029】
図1に示すように、この実施例の構成では、制御部10から3系統の指令信号経路S1、S2、S3を受ける切替シーケンサ13は、上述したパルス生成部14と順序判定部15とを備える。パルス生成部14は本発明における信号生成手段に相当し、順序判定部15は順序検証手段に相当する。また、制御部10は本発明における動作指示手段及び制御手段に相当する。順序判定部15は、例えば3系統の指令信号経路S1、S2、S3による指令信号パルスに応じて内部状態が遷移するステートマシンと、それぞれの内部状態において有効でないパルスが入力されたときにエラー信号を出力する(出力レベルが変化する又はパルスを出力する)回路とすることができる。
【0030】
いま図2(a)に示すように、指令信号経路S1、S2、S3上の指令信号パルスが規定の順序、つまり指令信号経路S1→S2→S3で与えられたとき、順序判定部15の判定出力は変化しない(この例では「L」を維持する)。したがって、先に図6により説明したような電圧切替制御信号SC1〜SC4が切替部20に送られ、切替部20の各スイッチSW1〜SW4は所定のシーケンスで以てオン・オフし、アイソレーション又はCID→イオン排出→TOF分析終了、と各操作が実行される。
【0031】
一方、図2(b)に示すように指令信号経路のS1、S2、S3上の指令信号パルスが規定外の順序、この場合には指令信号経路S1→S3→S2で与えられたとき、順序判定部15の判定出力は誤った順序である指令信号経路S3上の指令信号パルスが入力されるとすぐに「L」→「H」に反転する。この判定結果を受けたパルス生成部14は、電圧切替制御信号SC1〜SC4を全て「L」にする。これにより、切替部20では第1乃至第4スイッチSW1〜SW4がオフし、高圧電源16、高周波発生器17、エンドキャップ電極4、5は互いに切り離される。
【0032】
上述の如く、図8に示すように誤った順序である指令信号経路S3上の指令信号パルスが入力された場合に、その立ち上がりエッジから所定の時間d3だけ遅延した時点で電圧切替制御信号SC4が「L」→「H」に変化し、高周波発生器17の出力が接地されてしまうおそれがある。したがって、その指令信号パルスの立ち上がりエッジから判定出力が「L」→「H」に変化するまでの所要時間を遅延時間d3よりも短くしておくことにより、電圧切替制御信号SC4を「L」→「H」に変化させることなく「L」に維持することができる。この状態を示したのが図3である。即ち、指令信号経路S3上の指令信号パルスが入力された直後に判定出力が「L」→「H」に反転し、それ以降、電圧切替制御信号SC1〜SC4は全て「L」を維持する。それにより、切替部20において全てのスイッチSW1〜SW4はオフするから、高周波発生器17の出力が接地されるという問題は生じない。
【0033】
また、上記判定出力は制御部10にも入力され、制御部10はこれによりエラーが発生したことを認識して分析の遂行自体を中止し、表示部18によりエラーが生じたことを報知する。これにより、以降の分析が中止されるので試料が無駄に消費されることがなくなり、分析者は分析エラーになったことを認識して適切な対処を迅速にとることができる。
【0034】
但し、断線や接触不良などのハードウエア上の不具合の場合には上記のような不具合が自発的に解消される可能性はないが、例えば制御部10へのスパイクノイズの混入等、一時的な要因である場合には上記のような不具合は自発的に解消される可能性が高い。そこで、多数の試料を順番に分析しているような場合には、制御部10は順序判定部15からエラー信号を受けた後に初期状態に戻した上で再び指令信号パルスを送り続け、順序判定部15は繰り返し順序判定を実行する。そして、規定の順序で指令信号パルスが入力されたならばエラーを解除し、電圧切替制御信号SC1〜SC4が再び出力されるようにしてもよい。これにより、不具合が解消されたときに分析を自動的に再開することができる。
【0035】
なお、上記実施例は本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。即ち、上記実施例ではイオントラップ2でのイオンに関する操作のみを例示したが、イオンを輸送するためのイオン光学系、四重極質量フィルタ、イオン検出器、などイオンに関する複数の何らかの操作を時間経過に伴って順番に実施するような各種の電極に電圧を印加する装置全般に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施例による質量分析装置における電圧発生部のブロック構成図。
【図2】本実施例による質量分析装置における電圧発生部の動作を説明するためのタイミング図。
【図3】本実施例による質量分析装置における電圧発生部の異常時の動作を示すタイミング図。
【図4】本発明を適用する質量分析装置の一例の全体構成図。
【図5】従来の質量分析装置における電圧発生部のブロック構成図。
【図6】電圧発生部の正規の動作を示すタイミング図。
【図7】電圧発生部の異常時の動作を示すタイミング図。
【図8】電圧発生部の異常時の動作を示すタイミング図。
【符号の説明】
【0037】
1…イオン化部
2…イオントラップ
3…リング電極
4、5…エンドキャップ電極
6…TOFMS
7…検出器
10…制御部
11…CPU
12…カウンタ
13…切替シーケンサ
14…パルス生成部
15…順序判定部
16…高圧電源
17…高周波発生器
18…表示部
20…切替部
SW1〜SW4…スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンに関する各種操作を行うための電場を形成する1乃至複数の電極と、該電極に電圧を印加する電圧印加手段とを具備し、該電圧印加手段により、前記電極に印加する電圧の極性、電圧値、直流/交流の少なくともいずれかを時間経過に伴って切り替えることでイオンに関する複数の操作を順番に実行する質量分析装置において、
a)分析動作を実行するためにN(Nは2以上)本の指令信号経路に規定の順序で以て指令信号を送る動作指示手段と、
b)異なる指令信号経路上の指令信号に応じてそれぞれ異なるイオン操作のための電圧切替制御信号を生成する信号生成手段と、
c)前記N本の信号経路の指令信号が規定の順序で与えられているか否かを検証する順序検証手段と、
を備え、前記信号生成手段は、前記順序検証手段により指令信号が規定の順序で与えられないことを検知したときに、前記電極に電圧が印加されず且つ前記電圧印加手段の出力短絡も生じないように電圧切替制御信号を設定するようにしたことを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
前記順序検証手段により指令信号が規定の順序で与えられないことを検知したときに分析動作を停止する制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記制御手段により分析動作が停止されたときに異常を報知する異常報知手段をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の質量分析装置。
【請求項4】
前記動作指示手段は分析動作が停止された後に初期状態に戻した上で再び指令信号を送出し、前記順序検証手段はこの指令信号が規定の順序で与えられているか否かを検証し、前記制御手段は、前記順序検証手段により指令信号が規定の順序で与えられていることを検知したときに分析動作を再開させることを特徴とする請求項2又は3に記載の質量分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−77917(P2008−77917A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254198(P2006−254198)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】