説明

赤外線センサおよびこれを用いたNDIRガス濃度計

【課題】赤外線センサの温度と温度センサで検出される温度との実質的な差を解消し、高感度な赤外線センサおよびこれを用いたNDIRガス濃度計を提供する。
【解決手段】開口部51から入射する光のうち所定の波長の赤外線のみを下流側に透過する光学フィルタ2と、前記光学フィルタを透過した赤外線を光電変換して電気信号として出力する光電変換部32を有する赤外線センサ素子3とを備えた赤外線センサ1であって、前記赤外線センサは、前記赤外線センサ素子の温度を測定する温度センサを赤外線センサ素子と熱的に一体構成にして樹脂封止5している赤外線センサ。前記光電変換部から出力された電気信号に対して前記温度センサで得られた温度に基づいて補正する信号処理用IC4と、前記信号処理用ICと接続された配線端子とをさらに備え、該信号処理用ICは前記温度センサを有し、前記配線端子と赤外線センサ素子とを積層してバンプ配線により続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は赤外線センサおよびこれを用いた非分散赤外吸収型(Non−Dispersive Infrared)ガス濃度計(以下、NDIRガス濃度計という)に関し、より詳細には、大気中のガス濃度の測定を行うNDIRガス濃度計およびこれに用いられる量子型赤外線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から大気中のガス濃度の測定を行う赤外線ガス濃度計として、ガスの種類によって吸収される赤外線(IR:Infrared)の波長が異なることを利用し、この吸収量を検出することによりそのガス濃度を測定するNDIRガス濃度計が使用されている。このNDIRガス濃度計は、検出するガスの波長に限定した赤外線を透過するフィルタと赤外線センサを組み合わせ、その吸収量を測定することによってガスの濃度を測定するようにしたものである。
【0003】
このNDIRガス濃度計としては、小型かつ高精度で、種々の環境でも安定して測定できるものが求められている。例えば、大気中などのガス濃度を、波長選択型赤外線検出素子を用いて測定する赤外線ガス分析計が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1には、光源からの赤外線を波長選択的に透過させる波長選択フィルタと、この波長選択フィルタを透過した赤外線を検出する赤外線検出器とを一体的に構成した赤外線ガスセンサが開示されている。つまり、赤外線センサとしてボロメータを用いたNDIR方式のガス分析計が開示されているが、封止室に中空で浮かせた構造であり、しかも、真空封止や不活性ガス封止する必要がある。量子型の赤外線検出器も使用可能との記載はあるものの、その具体的な構造や実施例については開示も示唆もされていない。
【0005】
一般に、赤外線センサは、熱型赤外線センサと量子型赤外線センサに分けられる。熱型赤外線センサは、赤外線のエネルギーを熱として利用したセンサであり、赤外線の熱エネルギーによりセンサ自体の温度が上昇し、その温度上昇による効果(抵抗変化、容量変化、起電力、自発分極)を電気信号に変換する素子である。この熱型赤外線センサには、焦電型(PZT、LiTaO3)、熱起電力型(サーモパイル、熱電対)、導電型(ボロメータ、サーミスタ)があり、感度に波長依存性がなく、冷却は不要である。しかし、応答速度が遅く、検出能力もあまり高くない。
【0006】
一方、量子型赤外線センサは、半導体に赤外線が照射されると、その光量子によって発生する電子や正孔を利用するセンサであり、光導電型(HgCdTeなど)や光起電力型(InAsなど)がある。この量子型赤外線センサは、感度の波長依存性があり、高感度で、応答速度が速いという特長があるが、冷却する必要があり、ペルチェ素子やスターリングクーラーなどの冷却機構とともに用いられるのが一般的であった。従って、上記のNDIR方式のガスセンサには応用しにくくなっていた。
【0007】
また近年では、室温で動作可能な量子型赤外線センサも提案されている(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2に記載の量子型赤外線センサは、基板上に設けられた化合物半導体層により赤外線を検知して電気信号を出力する化合物半導体センサ部と、この化合物半導体センサ部からの電気信号を演算する集積回路部とを備え、この化合物半導体センサ部と集積回路部とを同一パッケージ内に収納したものである。これにより、電磁ノイズや熱ゆらぎの影響を受けにくくするとともに、室温での検知を可能とし、モジュールの小型化を可能にしたものである。
【0008】
さらに、基板上に室温で動作可能な量子型光電変換部を備え、フィルタとともに封止樹脂でパッケージした量子型赤外線センサも提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
しかしながら、上述した特許文献2及び特許文献3には、量子型赤外線センサについて開示されているものの、この量子型赤外線センサをガスセンサに適用したことについては何ら開示されていない。
【0010】
つまり、上述した特許文献2及び特許文献3には、室温動作が可能で、樹脂パッケージされた量子型赤外線センサが開示されているが、その赤外線センサを用いて、光学フィルタや保持部材と組み合わせてNDIR方式によるガス濃度計に用いることができるという記載や示唆もない。
【0011】
量子型赤外センサを用いたガスセンサについては、例えば、特許文献4に開示されている。この特許文献4には、測定セルと基準セルとが並列に配置され、各セルに照射される赤外線の透過量の比較に基づいて試料ガスの成分濃度を検出するために、セルと量子型赤外線センサの間に測定対象成分ガスに対応する光学フィルタとフィルタ回転式チョッパを備えたガスセンサが記載されている。
【0012】
しかしながら、この特許文献4に記載のものは、量子型赤外線センサをガスセンサに適用した点については開示されているものの、フィルタ回転式チョッパを用いているため小型化を実現することは困難であり、赤外線センサ素子と光学フィルタとをモジュール化して小型化を図るとともに、測定ガスの流量変化や温度変化などの外乱変化に対して安定して測定することができるようにした具体的な構成については何ら開示されていない。
【0013】
つまり、この特許文献4には、光導電型の赤外線検出センサを用いたNDIR方式のガス分析計が開示されているが、この赤外線ガス分析計では、一つの赤外線センサと回転式チョッパを用いることで複数の成分ガス濃度を検出できるものの、複数の量子型赤外線センサと複数の光学フィルタと貫通孔を設けた保持部材を用いて構成される本発明のような量子型赤外線センサに関する記載はない。
【0014】
一方、上述したサーモパイル素子を利用したNDIRガス濃度計は、測定する気体の温度や流量が大幅に変化した場合に、センサ温度が大幅に変化するため、センサ出力が大きく変動する問題があり、このような状況下で使用する場合には実用的な測定が行えないという問題があった。
【0015】
また、従来の赤外線センサ素子では、上述したセンサ温度の大幅な変化に対応するため、缶パッケージを用いて、センサ素子の周辺に空隙を設け、更に真空化したり、熱伝導率の小さいガスを充填したり、又は熱容量の大きなヒートシンク部をつけたりして、熱的に検知部を遮断、安定化することによって、この現象を緩和させる方法が取られている。しかしながら、これらの構成では、素子の形状を複雑化、大型化、重量増加させるとともに、パッケージに高い工作精度を要求し、コストを上昇させる原因になっていた。
【0016】
また、缶パッケージを使用せずにモールド樹脂等のパッケージを使用したり、赤外線素子の表面上に直接フィルタをつけたりするものなども提案されているが、これらのものの場合、熱型の赤外線センサ素子を利用した場合には、熱的な分離が不充分なために測定する気体の温度や流量が大幅に変化した場合には、安定な測定が行えないという問題があった。
【0017】
また、従来の量子型赤外線センサを用いた場合、常温で安定に高い感度を得ることが出来ないため、素子を大型のヒートシンクで熱的に安定化させる方法や、ペルチェ素子や液体窒素で素子を冷却する方法が行われる。素子を冷却することによる結露を防ぐためと、外部への熱伝導を抑えるためにXe、Ne等の熱伝導率の低いガスで封入する等の目的で、熱型赤外線センサと同様に缶パッケージが使用される。そのため、素子の大型化や形状の複雑化、パッケージに高い工作精度を要求するため、コストを上昇させるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2001−228022号公報
【特許文献2】国際公開第WO2005/027228号パンフレット
【特許文献3】国際公開第WO2006/095834号パンフレット
【特許文献4】特開平8−75642号公報
【特許文献5】国際公開第WO2009/148134号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
以上の問題を解決する赤外線センサを用いたNDIRガス濃度計として、特許文献5には、小型でかつ簡便な素子形状を有し、測定ガスの流量変化や温度変化などの外乱変化に対して安定して測定することができるようにしたものが提案されている。
【0020】
一方で、赤外線センサでの検出を正確に行うためには、素子周辺に温度センサを設けて赤外線センサの出力値を補正することが必要である。一般に光電変換素子である赤外線センサは、その環境温度に応じてセンサ特性が変化するからである。したがって、正確な温度補正をするためには、赤外線センサの温度は温度センサで検出される温度と実質的な差がないようにされることが望ましいと考えられる。
【0021】
そこで本発明は、赤外線センサの温度と温度センサで検出される温度との実質的な差を解消することにより、高感度な赤外線センサおよびこれを用いたNDIRガス濃度計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、開口部に設けられ、該開口部から入射する光のうち所定の波長の赤外線のみを下流側に透過する光学フィルタと、前記光学フィルタの下流側に接続され、前記光学フィルタを透過した赤外線を光電変換して電気信号として出力する光電変換部を有する赤外線センサ素子とを備えた赤外線センサであって、前記赤外線センサは、前記赤外線センサ素子の温度を測定する温度センサを赤外線センサ素子と熱的に一体構成にして樹脂封止していることを特徴とする赤外線センサである。
【0023】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の赤外線センサにおいて、前記光電変換部から出力された電気信号に対して前記温度センサで得られた温度に基づいて補正する信号処理用ICと、前記信号処理用ICと電気的に接続された配線端子とをさらに備え、該信号処理用ICは前記温度センサを有し、前記配線端子と赤外線センサ素子とを積層してバンプ配線により電気的に接続することを特徴とする。
【0024】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の赤外線センサにおいて、前記光学フィルタは、第1の波長の赤外線のみを透過する第1のフィルタと、前記第1の波長とは異なる第2の波長の赤外線のみを透過する第2のフィルタとを含み、前記光電変換部は、前記第1のフィルタと第2のフィルタとのそれぞれに対応して設けられていることを特徴とする。
【0025】
請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の赤外線センサにおいて、前記光学フィルタは、第1の波長の赤外線のみを透過する第1のフィルタと、前記第1の波長とは異なる第2の波長の赤外線のみを透過する第2のフィルタと、前記第1の波長および第2の波長とは異なる第3の波長の赤外線のみを透過する第3のフィルタと、前記第1の波長乃至第3の波長とは異なる第4の波長の赤外線のみを透過する第4のフィルタとを含み、前記光電変換部は、前記第1のフィルタと第2のフィルタとのそれぞれに対応して設けられていることを特徴とする。
【0026】
請求項5に記載の発明は、検出対象となるガスを流通させるガスセル内に、赤外線光を放出する赤外線光源と、請求項3に記載の赤外線センサとを備え、前記赤外線センサは、測定対象となる第1の波長の赤外線のみを透過する第1のフィルタと、前記第1の波長とは異なる第2の波長の赤外線のみを透過する第2のフィルタとを有し、これらのフィルタを透過した赤外線量を比較することによりガス濃度を測定することを特徴とするNDIR型ガス濃度計。
【0027】
請求項6に記載の発明は、検出対象となるガスを流通させるガスセル内に、赤外線光を放出する赤外線光源と、請求項4に記載の赤外線センサとを備え、前記赤外線センサは、測定対象となる第1の波長の赤外線のみを透過する第1のフィルタと、測定対象となる第2の波長の赤外線のみを透過する第2のフィルタと、測定対象となる第3の波長の赤外線のみを透過する第3のフィルタと、前記第1の波長乃至第3の波長とは異なる第4の波長の赤外線のみを透過する第4のフィルタとを有し、第1のフィルタ乃至第3のフィルタのいずれかを透過した赤外線長と第4のフィルタを透過した赤外線量とを比較することによりガス濃度を測定することを特徴とするNDIR型ガス濃度計。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明にかかる赤外線センサの一例の概略構成を示す側面図である。
【図2】図1の赤外線センサの斜視図である。
【図3】図1の赤外線センサの平面図である。
【図4】赤外線センサ素子を構成する基板の裏面の構成例を示す図である。
【図5】赤外線センサ素子を構成する基板の裏面の他の構成例を示す図である。
【図6】信号処理用IC4の構成の一例を示す図である。
【図7】従来の赤外線センサの構成を示す側面図である。
【図8】本発明の赤外線センサを用いたNDIRガス濃度計の一例を示す図である。
【図9】本発明にかかる赤外線センサの他の一例の概略構成を示す斜視図である。
【図10】図9の赤外線センサの平面図である。
【図11】図9の赤外線センサの側面図である。
【図12】図9の赤外線センサを図11とは異なる方向から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。まず、本発明の赤外線センサ1について図1から図3を用いて説明する。本実施形態では、2つの赤外線センサ素子がワンパッケージになったものを例に挙げて説明している。図1は赤外線センサの概略構成を示す側面図であり、図2は赤外線センサの概略構成を示す斜視図であり、図3は赤外線センサの概略構成を示す平面図である。なお、図1から3は概略構成が明確になるように透視図で示してある。
【0030】
赤外線センサ1は、光学フィルタ2(2a、2b)と、赤外線センサ素子3(3a、3b)と、温度センサが組み込まれた信号処理用IC4と、赤外線センサ素子3および信号処理用IC4を電気的に接続するための接続配線7、8、接続端子6a、6bとを、光学フィルタ2を設けた開口部51以外からの赤外光を遮ることができる封止樹脂5で一体に封止した構成とされる。なお、接続端子6bは外部出力のための端子である。封止樹脂5としては、例えば、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂、ホットメルト型樹脂など、一般的な電子部品の封止用樹脂を用いることができる。
【0031】
光学フィルタ2は、接着部21を用いて封止樹脂5の開口部51に固定されており、開口部51から入射する赤外線Rのうち所定の波長の赤外線のみを下流側の赤外線センサ素子3へと透過するフィルタである。
【0032】
赤外線センサ素子3は、光学フィルタ2の下流側に光学的に接続されて設けられている。赤外線センサ素子3の周囲には光学フィルタ2との接続面以外には封止樹脂5が設けられており、光学フィルタ2を透過した所定の波長の赤外線以外は赤外線センサ素子3には到達しない。また、赤外線センサ素子3と光学フィルタ2との界面には、反射防止膜9が設けられていることが好ましい。反射防止膜9を設けると、光学フィルタ2を透過した所定の波長の赤外線が赤外線センサ素子3の表面で反射するのを抑制できるからである。
【0033】
また、赤外線センサ素子3は、基板31、光電変換部32、接続端子33とを備えており、光学フィルタ2を透過した所定の波長の赤外線を光電変換部32により光電変換して受光した赤外線量に応じた電気信号を出力する。光電変換部32は、反射防止膜9に隣接する基板31の面とは反対側の面(裏面)に接続端子33と共に設けられている。基板31は、例えばGaAs、Si、Ge、サファイヤなどの赤外線を透過することができる材料で構成することができる。基板31が赤外線を透過する材料で構成されるので、光学フィルタ2を透過して反射防止膜9で反射が抑制された赤外線をさらに基板31を透過させて光電変換部32に到達させることができる。
【0034】
このように本発明では赤外線センサ素子3として、基板に光電変換部を搭載したチップ型の赤外線センサ素子を用いることができる。このようなチップ型の赤外線センサ素子としては、代表的には赤外線を電気信号に直接変換する機能を有する量子型の赤外線センサが考えられるがこれに限定されない。チップ型に構成可能な赤外線センサ素子であれば、赤外線を一旦熱に変換してから電気信号に変換する機能を有するMEMS技術を用いたサーモパイルなどのいわゆる熱型センサでも同様の構成とすることができる。
【0035】
図4、5は、赤外線センサ素子3を構成する基板31の裏面の構成例を示している。基板31の裏面は例えば図4に示すように、光電変換部32の周囲に4つの接続端子33が設けられる構成としてもよいし、図5に示すように光電変換部32を2つの接続端子33の周囲に設ける構成としてもよく、任意の構成とすることができる。
【0036】
信号処理用IC4は、赤外線センサ素子3に電気的に接続されており、温度センサと信号処理用回路とを備えている。赤外線センサ素子3から出力される電気信号を温度センサ41で検出した温度に基づいて補正してセンサ出力値として検出する処理を行う。赤外線センサ素子3は、温度に応じて出力特性が変化するので、同じ赤外線量を受光しても、温度によって、異なる電気信号が出力される。したがって、正確な検出をするためには、温度に基づいて赤外線センサ素子3からの出力を補正することが重要になる。信号処理用IC4は接続端子6a、6bなどと同様に金属材料で構成された金属タブ6cの上に載置されている。また、信号処理用IC4と接続端子6aとを接続する接続配線8としてはボンディングワイヤが採用されている。
【0037】
図6は、信号処理用IC4の構成の一例を示す図である。信号処理用IC4は、温度センサ41と、IV変換増幅回路42と、温度補正演算回路43とを備えて構成される。IV変換増幅回路42は、赤外線センサ素子3の出力をIV変換して増幅して温度補正演算回路43に出力する。また、温度センサ41は、検出した温度を温度補正演算回路43に出力する。温度補正演算回路43は、赤外線センサ素子3の出力を温度センサ41の出力を用いて補正して出力することができる。
【0038】
接続端子6aおよび接続配線7、8は、赤外線センサ素子3と信号処理用IC4とを電気的に接続している。具体的には、赤外線センサ素子3が接続配線7を介して接続端子6aに接続され、さらに信号処理用IC4も接続配線8を介して接続端子6aと接続されている。本発明の赤外線センサでは、赤外線センサ素子3と接続端子6aとの接続配線7として、金属バンプを用いているので、赤外線センサ素子3と接続端子6aとを積層することができ、赤外線センサ素子3と、温度センサが組み込まれた信号処理用IC4とを熱的に一体に構成可能とすることができる。赤外線センサ素子4と、温度センサ41が組み込まれた信号処理用IC4とが熱的に一体に構成されていることにより、温度センサ41が検出する温度と赤外線センサ素子3の温度とに実質的な差がなくなるので、赤外線センサ素子3の出力値に対して正確な温度補正ができる。
【0039】
ここで熱的に一体構成にするとは、赤外線センサ素子3と温度センサ41との温度差が、赤外線センサ素子3の温度特性に応じて決定される誤差許容範囲内に含まれるように構成することをいう。
【0040】
因みに、従来の赤外線センサ20では、図7に示すように、赤外線センサ素子3を構成する基板の裏面に設けられた接続端子33とパッケージ外部へ接続される接続端子22とがボンディングワイヤ21を用いて接続されていた。ボンディングワイヤ21で接続するためには、接続端子22と赤外線センサ素子3とは積層できず、接続端子22を赤外線センサ素子3の側方に設けなければならない。このため、従来のボンディングワイヤ21を用いた接続方法では赤外線センサ素子3の側方に接続のためのスペースDを必要とする。従って、赤外線センサ素子3を温度センサが組み込まれた信号処理用IC4と熱的に一体に構成することは困難であった。これらの素子をワンパッケージにする場合は、素子同士が互いに発する熱の影響を考慮して熱的に分離することが一般であったことからもボンディングワイヤで接続することが通常であった。
【0041】
熱的に一体構成にするには、例えば、赤外線センサ素子3と温度センサ41との距離を、封止樹脂の熱伝導率と発熱電力を考慮した距離以下となるよう構成することで実現できる。ここで熱伝導率と発熱電力と温度上昇との関係は、下記(式1)、(式2)によって導かれる。すなわち、
温度上昇=熱抵抗×発熱電力・・・(式1)
熱抵抗=厚さ/(熱伝導率×幅×長さ)・・・(式2)
と表すことができるので、(式1)、(式2)より、
温度上昇=厚さ/(熱伝導率×幅×長さ)×発熱電力・・・(式3)
となる。例えば、封止樹脂として断面が幅4mm、長さ1mmのエポキシ樹脂(一例として熱伝導率が0.5W/m・K)を用いて、赤外線センサ素子3や信号処理用IC4が動作する際に発生する発熱電力が10mWである場合について考える。まずは断面方向のみを考慮する。赤外線センサ素子3の誤差許容範囲が1℃であるとすると、温度差が1℃で抑えられるのは上記(式3)より、厚さが0.2mm以内の部分となる。ただし、現実には発熱源から上下左右など全方向への放熱があるため、距離は緩和されるが赤外線センサ素子3と温度センサ41との距離を0.2mm程度にすることが好ましい。また、放熱性を高める為のエポキシ樹脂として高熱伝導率2〜4W/m・Kの封止樹脂を用いると、さらに温度分布を抑えることが出来、温度精度を向上したり、赤外線センサ素子3と温度センサ41との距離をさらに広がりを許容したりすることが可能となる。なお、信号処理用IC4は熱伝導率が非常に高いので、本実施形態のように温度センサ41が信号処理用IC4に組み込まれている場合は、実際には赤外線センサ素子3と信号処理用IC4との距離が上記範囲になるように設計すればよい。
【0042】
このように本発明の赤外線センサ1は、赤外線センサ素子3と温度センサとが熱的に一体化することにより、温度センサを用いた正確な温度補正が可能となり、高感度の赤外線センサが得られる。
【0043】
つぎに、以上の赤外線センサを用いたNDIRガス濃度計について説明する。図8は本発明の赤外線センサを用いたNDIRガス濃度計の一例を示す図である。本実施形態では、NDIRガス濃度計100としては、1光源2波長比較NDIRガス濃度計を例に挙げて説明している。NDIRガス濃度計100は、ガスセル101と、このガスセル101内の一面に設けられた赤外線を放出する赤外線光源102と、この赤外線光源102に対向する側に設けられた赤外線センサ1とを有している。赤外線光源は、少なくとも2波長の赤外線を放出するものを用いることができる。
【0044】
ガスセル101には、ガスを導入する導入口103とガスを放出する放出口104とが設けられており、測定対象のガスがガスセル101内を流通することができる。赤外線光源102から放出された赤外光のうち、ガスセル101内に流通するガスを透過した赤外線のみが赤外線センサ1に到達する。すなわち、ガスセル101内を流通するガスの種類に応じた波長の赤外線が吸収され、それ以外の波長の赤外線のみが赤外線センサ1に到達する。したがって、測定対象のガスが吸収特性を有する波長の赤外線についてその到達量を赤外線センサ1で検出することにより、ガス濃度を測定することができる。
【0045】
さらに、前記赤外線センサの温度補正において、ガスセンサとして構成する赤外線光源や検出するガスの温度特性も合わせて温度補正すれば、構成するガス濃度測定の温度安定性を向上させることが出来る。
【0046】
例えば、測定対象のガスが二酸化炭素である場合は、二酸化炭素の吸収特性に合わせた光学フィルタ2b(中心波長4.3μm、半値幅270nm、透過率75%以上)と、参照光として二酸化炭素による吸収がない波長、例えば、約3.8μm近傍の波長の赤外線を透過させる光学フィルタ2aとを用いて構成することができる。これらの光学フィルタ2a、2bで2波長を選択し、選択された赤外線は、それぞれの下流側に設けられた赤外線センサ素子3により検出される。このように2つの赤外線センサ3で検出された値の比較によって、光源102の劣化や、サンプルセル100の汚れ等による出力信号の経時変化を補正することができる。
【0047】
本発明のNDIRガス濃度計の例としては、二酸化炭素ガスの濃度計には、光学フィルタ2bとして二酸化炭素に吸収される4.3μmのバンドパスフィルタを用いればよい。また、一酸化炭素ガスの濃度計には、光学フィルタ2bとして一酸化炭素ガスに吸収される4.6μmのバンドパスフィルタを用いる。さらに、窒素酸化物(ex.NO)には、5.2μmのバンドパスフィルタ、ホルムアルデヒドの場合には、5.6μmのバンドパスフィルタをそれぞれ光学フィルタ2bとして用いることにより、それぞれのガスの濃度計を実現できる。参照光用の光学フィルタと異なる3つのガス種の光学フィルタを用いた赤外線センサは、図9から図12に示すものを用いることができる。
【0048】
以上の実施形態では、温度センサを搭載した信号処理用IC4を用いる場合を例に挙げて説明したがこれに限定されない。温度センサを信号処理用ICとは別体に設けた場合、赤外線センサ素子と温度センサとが熱的に一体に構成できればよく、信号処理用ICは封止樹脂の中に設けることは必須とはならない。ただし、温度センサを搭載した信号処理用IC4を用いると、温度センサと信号処理用ICとの配線が不要であり、信号処理用ICまでをワンパッケージに構成できることにより赤外線センサの取り扱いが容易となる。
【0049】
また、以上の実施形態では、2つの赤外線センサ素子3を温度センサとワンパッケージに構成したものを例に挙げて説明したが、パッケージ内に設ける赤外線センサ素子3の数は限定されない。用途に応じて1つの赤外線センサ素子3のみを温度センサとワンパッケージに構成してもよい。例えば、図9から図12に示す赤外線センサ10ように4つの赤外線センサ素子3をワンパッケージに封止してもよい。
【0050】
以上の実施形態の赤外線センサ1の信号処理用IC4と配線端子6aとをボンディングワイヤ8で接続していた構成に代えて、金属バンプを採用してもよい。この場合、配線端子6aが信号処理用IC4の下層にも位置するように延長して構成する。この構成にすると、信号処理用IC4も配線端子6aと積層して接続することができるので、ボンディングワイヤを接続する端子引き回し部分が不要になるため、赤外線センサをさらに小型化することができ、さらに強固に熱的一体化を図ることができる。
【0051】
また、本発明の赤外線センサは、NDIRガス濃度計以外にも、光学レンズを用いた赤外線センサを用いる人感センサや非接触温度計などとしても用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 赤外線センサ
2(2a、2b) 光学フィルタ
3(3a、3b) 赤外線センサ素子
31 基板
32 光電変換部
33 接続端子
4 信号処理用IC
41 温度センサ
42 IV変換増幅回路
43 温度補正演算回路
5 封止樹脂
51 開口部
6a、6b 接続端子
7、8 接続配線
100 NDIRガス濃度計
101 ガスセル
102 赤外線光源
103 導入口
104 放出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部に設けられ、該開口部から入射する光のうち所定の波長の赤外線のみを下流側に透過する光学フィルタと、
前記光学フィルタの下流側に接続され、前記光学フィルタを透過した赤外線を光電変換して電気信号として出力する光電変換部を有する赤外線センサ素子とを備えた赤外線センサであって、
前記赤外線センサは、前記赤外線センサ素子の温度を測定する温度センサを赤外線センサ素子と熱的に一体構成にして樹脂封止していることを特徴とする赤外線センサ。
【請求項2】
前記光電変換部から出力された電気信号に対して前記温度センサで得られた温度に基づいて補正する信号処理用ICと、前記信号処理用ICと電気的に接続された配線端子とをさらに備え、
該信号処理用ICは前記温度センサを有し、前記配線端子と赤外線センサ素子とを積層してバンプ配線により電気的に接続することを特徴とする請求項1に記載の赤外線センサ。
【請求項3】
前記光学フィルタは、第1の波長の赤外線のみを透過する第1のフィルタと、前記第1の波長とは異なる第2の波長の赤外線のみを透過する第2のフィルタとを含み、前記光電変換部は、前記第1のフィルタと第2のフィルタとのそれぞれに対応して設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の赤外線センサ。
【請求項4】
前記光学フィルタは、第1の波長の赤外線のみを透過する第1のフィルタと、前記第1の波長とは異なる第2の波長の赤外線のみを透過する第2のフィルタと、前記第1の波長および第2の波長とは異なる第3の波長の赤外線のみを透過する第3のフィルタと、前記第1の波長乃至第3の波長とは異なる第4の波長の赤外線のみを透過する第4のフィルタとを含み、前記光電変換部は、前記第1のフィルタと第2のフィルタとのそれぞれに対応して設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の赤外線センサ。
【請求項5】
検出対象となるガスを流通させるガスセル内に、赤外線光を放出する赤外線光源と、請求項3に記載の赤外線センサとを備え、
前記赤外線センサは、測定対象となる第1の波長の赤外線のみを透過する第1のフィルタと、前記第1の波長とは異なる第2の波長の赤外線のみを透過する第2のフィルタとを有し、これらのフィルタを透過した赤外線量を比較することによりガス濃度を測定することを特徴とするNDIR型ガス濃度計。
【請求項6】
検出対象となるガスを流通させるガスセル内に、赤外線光を放出する赤外線光源と、請求項4に記載の赤外線センサとを備え、
前記赤外線センサは、測定対象となる第1の波長の赤外線のみを透過する第1のフィルタと、測定対象となる第2の波長の赤外線のみを透過する第2のフィルタと、測定対象となる第3の波長の赤外線のみを透過する第3のフィルタと、前記第1の波長乃至第3の波長とは異なる第4の波長の赤外線のみを透過する第4のフィルタとを有し、第1のフィルタ乃至第3のフィルタのいずれかを透過した赤外線長と第4のフィルタを透過した赤外線量とを比較することによりガス濃度を測定することを特徴とするNDIR型ガス濃度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−215432(P2012−215432A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79814(P2011−79814)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(303046277)旭化成エレクトロニクス株式会社 (840)
【Fターム(参考)】