赤外線放射素子及び当該赤外線放射素子を備えた赤外線式ガス検知器及び当該赤外線放射素子の製造方法
【課題】高出力、高周波駆動が可能で、低消費電力化が図られた赤外線放射素子及びその製造方法を提供する
【解決手段】半導体基板1と、半導体基板1の一面に形成された保持層2と、半導体基板1の一面及び保持層2の一面によって囲まれた空間からなる気体層3と、気体層3内において基板1の一面と保持層2の一面とを連結すると共に保持層2を支持する支持部4と、保持層2の他面に積層され、電気入力されることによる発熱によって赤外線を放射する赤外線放射層5とを備え、気体層3は、赤外線放射層5に印加される電圧の周波数に基づいてその厚みが設定され、赤外線放射層5の昇温時には断熱層として働き、赤外線放射層5の降温時には放熱層として働く。
【解決手段】半導体基板1と、半導体基板1の一面に形成された保持層2と、半導体基板1の一面及び保持層2の一面によって囲まれた空間からなる気体層3と、気体層3内において基板1の一面と保持層2の一面とを連結すると共に保持層2を支持する支持部4と、保持層2の他面に積層され、電気入力されることによる発熱によって赤外線を放射する赤外線放射層5とを備え、気体層3は、赤外線放射層5に印加される電圧の周波数に基づいてその厚みが設定され、赤外線放射層5の昇温時には断熱層として働き、赤外線放射層5の降温時には放熱層として働く。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線放射素子及び当該赤外線放射素子を備えた赤外線式ガス検知器及び当該赤外線放射素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、赤外線を放射する赤外線放射素子と、当該赤外線放射素子から放射される赤外線の内で検出対象ガスが吸収する波長の赤外線のみを通過させるフィルタを介して赤外線を受光して、当該受光した赤外線量に対応したレベルの検出信号を出力する受光素子とを備えたガスセンサ装置がある。そして、前記赤外線放射素子は、1回の計測で断続的に複数回赤外線を放射する。その際、検出精度を高くすると共に省電力化を図るためには、赤外線放射素子から放射される赤外線の放射量を安定させ短時間で計測することが望ましく、赤外線放射素子の高周波駆動化が望まれている。
【0003】
そして、前記赤外線放射素子として、図11に示すような電球型の赤外線放射素子40や図12に示すようなダイヤフラム型の赤外線放射素子50が提供されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
電球型の赤外線放射素子40は、発光部のフィラメント42が、タングステン(W)または白金(Pt)からなる線材をコイル状に巻いたものや、コイルの表面をアルミナなどのセラミックで被覆したものから構成されている。そして、フィラメント42に電圧が印加されて昇温すると赤外線を放射する。また、赤外線放射素子40は、発光部となるフィラメント42の熱容量が大きいため、フィラメント42に電圧の印加を開始してから放射する赤外線の強度が所定の強度に達するまでの時間(昇温時間)が長い。また、赤外線を放射しているフィラメント42の印加電圧をオフしてから、赤外線の放射が停止するまでの時間(降温時間)も長い。従って、断続放射される赤外線の振幅差を大きくするためには、フィラメント42に印加される電圧の周波数を0.1〜10Hz程度に設定する必要がある。
【0005】
また、ダイヤフラム型の赤外線放射素子50は、赤外線放射層50の裏面に設けられた半導体基板51をエッチングにより掘り込むことで凹部52を形成している。そして、赤外線放射層50は、金属からなる電極56に接続された発熱層53と当該発熱層53によって間接的に加熱される発光層54とを備える絶縁層55から構成されている。そして、発光層54は、電極56を介して電圧が印加された発熱層53の発熱によって間接的に加熱されることで赤外線を放射する。また、ダイヤフラム型の赤外線放射素子50は、絶縁層55が凹部52で接する空気の断熱効果によって断熱されているため発光層54の昇温時間が短い。しかし、当該断熱効果によって、発光層54は放熱効果が十分に得られないため降温時間が長い。従って、断続放射される赤外線の振幅差を大きくするためには、電極56に印加される電圧の周波数を例えば200Hz程度に設定する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−184757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、ガスセンサ装置等に上記赤外線放射素子40または、赤外線放射素子50を用いた場合には、赤外線放射素子に印加される入力電圧の変調周波数が低く、計測に時間がかかり、低消費電力化を行うことは困難であった。
【0008】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、高出力、高周波駆動が可能で、低消費電力化が図られた赤外線放射素子及び当該赤外線放射素子を備えた赤外線式ガス検知器及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、半導体基板と、半導体基板の一面に形成された薄膜状の保持層と、半導体基板の一面及び保持層の一面によって囲まれた空間からなる気体層と、保持層の他面に積層され、電気入力されることによる発熱によって赤外線を放射する赤外線放射層とを備え、前記気体層は、赤外線放射層に印加される電圧の周波数に基づいてその厚みが設定され、赤外線放射層の昇温時には断熱層として働き、赤外線放射層の降温時には放熱層として働くことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、赤外線放射素子において、赤外線放射層の昇温時には、赤外線放射層から保持層に伝達した熱が気体層によって断熱されるため、断熱層として働く気体層によって赤外線放射層の昇温が阻害されず昇温時間が短くなり、赤外線放射層の降温時には、赤外線放射層から保持層に伝達した熱が、気体層を介して半導体基板へと放熱されるため、放熱層として働く気体層によって赤外線放射層の降温時間が短くなる。従って、赤外線放射層の昇降温が高速で行われて赤外線放射素子を高出力、高周波駆動させることができ、更には計測時間を短縮できて低消費電力化を図ることができる。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記気体層には、半導体基板と保持層とを連結し、保持層を支持する支持部が設けられることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、赤外線放射層の昇降温による熱膨張差によって、保持層が半導体基板に付着することを防止でき、昇温阻害や破損を防止でき、また、製造時のウェット処理後の乾燥時などで保持層が半導体基板に付着することも防止できる。
【0013】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記支持部は、単結晶シリコンからなることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、多孔質層に比べて機械的強度の高い単結晶シリコンを支持部に用いることで、赤外線放射層の昇降温による熱膨張差によって、保持層が半導体基板へ付着することや、製造時のウェット処置後の乾燥時などで保持層が半導体基板に付着することもより効果的に防止することができる。特に、基板が単結晶シリコンで、支持部がその一部を残存した単結晶シリコンで形成される場合、支持部と基板の接続部に発生する応力はゼロとなって支持部の強度は更に高くなり、より効果的である。
【0015】
請求項4の発明は、請求項2または3の発明において、前記保持層の他面には、赤外線放射層が複数箇所に積層され、赤外線放射層間に露出する保持層の一面側に支持部が設けられていることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、熱伝導率が保持層に比べて高い赤外線放射層が、支持部に直接接していないことで、赤外線放射層で発生する熱が支持部を介して半導体基板側へ放熱されることを抑制でき、赤外線放射層の発光効率を高めることができる。
【0017】
また、赤外線放射層と支持部とが直接接していないことで、赤外線放射層と支持部との間に大きな温度勾配が発生することを抑制でき、当該温度勾配に起因する大きな熱応力によって赤外線放射層と支持部とが破損することを防止できる。
【0018】
請求項5の発明は、請求項1乃至4いずれかの発明において、前記保持層は、多孔質層からなることを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、多孔質層は、緻密な絶縁材料に比べて熱容量や熱伝導率が小さいため、赤外線放射層の昇温を阻害せず昇温時間を短縮でき、小さなエネルギーで大きく昇温することで低消費電力化を図ることができる。
【0020】
請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記多孔質層は、ポーラスシリコン、またはポーラスポリシリコンからなることを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、多孔質層ポーラスシリコン、またはポーラスポリシリコンからなることから、赤外線放射層の昇温温度に耐える耐熱性を確保できる。
【0022】
請求項7の発明は、請求項1乃至6いずれかの発明において、前記保持層は、その周縁が半導体基板に固定されていることを特徴とする。
【0023】
この発明によれば、保持層周縁部が全て半導体基板に接合されて保持強度が高められているため、保持層に接合された赤外線放射層の昇降温時に発生する熱膨張差によって保持層が変形し破損することを防止できる。
【0024】
請求項8の発明は、請求項7の発明において、前記半導体基板と保持層とが接合する箇所は、保持層と半導体基板の接合を補強する補強部を備えることを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、保持層と半導体基板の接合部の強度を高めることができ、保持層の変形による破損を更に防止することができる。
【0026】
請求項9の発明は、請求項1乃至8いずれか記載の発明において、前記保持層は、熱伝導率が半導体基板よりも小さく、赤外線放射層の通電に伴う赤外線放射層からの伝熱による一部の温度上昇と、赤外線放射層から入射する赤外線の反射との少なくとも一方により、赤外線放射層に向かう向きに赤外線を放射し、前記赤外線放射層は、保持層から放射された赤外線を通過させる機能を有することを特徴とする。
この発明によれば、赤外線放射層から保持層に向かって放射されるエネルギーの一部が赤外線放射のエネルギーとして利用されることになり、投入電力に対する赤外線の放射効率を高めることができる。言い換えると、所望の赤外線を放射するのに必要な投入電力の低減につながる。
【0027】
請求項10の発明は、請求項1乃至9いずれか記載の発明において、前記保持層の厚み寸法は、屈折率をnとし膜厚をdとした際、目的波長の赤外線に対する光路長が当該赤外線の半波長の自然数倍となる光学膜厚ndとなるように設定されていることを特徴とする。
この発明によれば、目的波長の赤外線に対して保持層において共鳴の条件が成立し、目的波長の赤外線について相対的な放射強度を高めることができる。この形態では、発熱による保持層の熱変形を防止するため、請求項2記載の支持部を設けることが望ましい。
【0028】
請求項11の発明は、請求項1乃至10ずれか記載の発明において、前記保持層は、加熱時に空洞放射により赤外線を放射するマクロポアがバルク半導体に形成され、かつマクロポア内にナノポアが形成された構造であることを特徴とする。
この発明によれば、マクロポアによる空洞放射を利用することで、赤外線の放射効率を高めることがでる。しかも、マクロポア内にナノポアが形成されているから、マクロポアによる空洞放射を阻害せずにマクロポアの形成に伴う保持層の強度低下を補うことができる。さらに、マクロポア内にナノポアが存在するポーラス半導体を保持層に用いることにより、保持層に高い断熱性能が得られる。
【0029】
請求項12の発明は、請求項1乃至10いずれか記載の発明において、前記保持層は、半導体の酸化物を含む電気絶縁膜により形成されていることを特徴とする。
この発明によれば、半導体を熱酸化などの処理により酸化させるか、酸化物を含む材料のCVDを行うかにより保持層を形成することができるから、製造プロセスが比較的簡単であり、半導体を多孔質化する場合よりも量産性を高めることができる。
【0030】
請求項13の発明は、請求項1乃至12いずれか記載の発明において、前記赤外線放射素子は、負の抵抗温度係数を持つ材料により形成されていることを特徴とする。
この発明によれば、駆動電圧が同じであっても温度上昇に伴ってシート抵抗が低下して赤外線放射層を流れる電流が増加するから、温度上昇に伴って投入電力が増加し、到達最高温度を高くすることができる。また、発熱層に印加する電圧を得るために電源電圧を昇圧回路により昇圧している場合に、到達最高温度を高めながらも昇圧回路の昇圧比の増加を制御することができることになり、昇圧回路での電力損失を抑制できる。
【0031】
請求項14の発明は、請求項1乃至13いずれか記載の発明において、前記赤外線放射素子は、TaN,TiNから選択されることを特徴とする。
この発明によれば、赤外線放射層の耐酸化性が高いから、赤外線放射層を空気中に露出させて使用することが可能になる。つまり、真空中あるいは不活性ガス中で使用する必要がなく、パッケージの構造が簡単になる上に、密封のための窓材が不要であって窓材による赤外線の減衰がなく、放射した赤外線の利用効率を高めることができる。さらに、これらの材料は窒素含有率を調整することによりシート抵抗を調整することができるから、所望のシート抵抗を得るのに必要な厚み寸法を調整して熱容量の小さい赤外線放射層を形成することができ、結果的に、高速応答が可能になる。
【0032】
請求項15の発明は、請求項1乃至14いずれか記載の赤外線放射素子、及び赤外線放射素子に電力を供給して赤外線を放射させる駆動手段を有する赤外線送信器と、所定の波長を有する赤外線のみを透過させるフィルタ、及び前記波長を有する赤外線に対して最も高い感度を有し、フィルタを透過した赤外線を受光して受光信号を出力する赤外線受光手段、及び受光信号に基づいて検知信号を出力する検知手段を有する赤外線検知器と備えることを特徴とする。
【0033】
この発明によれば、赤外線式ガス検知器において、請求項1乃至14いずれかの効果を有して、高精度、低消費電力化を図ることができる.
請求項16の発明は、半導体基板の一面における所定領域の周縁に陽極酸化マスクを施すマスク工程と、前記所定領域を陽極酸化することで多孔質層を形成する多孔質化工程と、前記多孔質層に対向する半導体基板の厚み方向の領域を陽極酸化により電解研磨することで気体層を形成する電解研磨工程と、前記多孔質層の他面側に赤外線放射層を形成する赤外線放射層形成工程とを備え、前記気体層は、赤外線放射層に印加される電圧の周波数に基づいてその厚みが設定され、赤外線放射層の昇温時には断熱層として働き、赤外線放射層の降温時には放熱層として働くことを特徴とする。
【0034】
この発明によれば、本製造方法によって製造される赤外線放射素子は、赤外線放射層の昇温時に赤外線放射層から保持層に伝達した熱が気体層によって断熱されるため、断熱層として働く気体層によって赤外線放射層の昇温が阻害されず昇温時間が短くなり、赤外線放射層の降温時には、赤外線放射層から保持層に伝達した熱が、気体層を介して半導体基板へと放熱されるため、放熱層として働く気体層によって赤外線放射層の降温時間が短くなる。従って、赤外線放射層の昇降温が高速で行われて赤外線放射素子を高出力、高周波駆動させることができ、更には、計測時間を短縮できて低消費電力化を図ることができる。また、本製造方法により、陽極酸化による多孔質層の形成と当該多孔質層を介して行う陽極酸化による電解研磨との2段階の陽極酸化によって、低熱容量及び気体層による高い断熱性を備えた多孔質層を中空上に形成することができる。
【0035】
請求項17の発明は、請求項16の発明において、前記マスク工程の前に、前記所定領域の所定の箇所に不純物ドープを施す第一のドープ工程を備え、当該不純物ドープが施された箇所には、当該ドープと、前記多孔質化工程によって多孔質化されず前記電解研磨工程においてドープの厚み方向に研磨されずに残存する半導体基板とから支持部が形成され、不純物ドープが施されていない箇所は、前記多孔質化工程によって多孔質層が形成され、前記電解研磨工程において前記多孔質層の厚み方向に対向する半導体基板の領域に気体層が形成されることを特徴とする。
【0036】
この発明によれば、保持層を形成する面の内、支持部を形成する箇所に不純物ドープを施すことで、保持層上に別途陽極酸化マスクを行う必要がなく、保持層に積層される赤外線放射層の段切れや、不均一な抵抗部を無くすことができ、安定動作可能な赤外線放射素子を製造できる。また、支持部が形成されることで、前記電解研磨工程の後に保持層が乾燥するまでの間に半導体基板へ付着することを防止することができる。
【0037】
請求項18の発明は、請求項16または17の発明において、前記マスク工程の前に、半導体基板の一面において陽極酸化マスクと所定領域との境界において、陽極酸化マスクと所定領域の両方にかかる不純物ドープを施す第二のドープ工程を備え、当該不純物ドープが施された箇所には、当該ドープと前記多孔質化工程によって多孔質化されず前記電解研磨工程によってドープの厚み方向に研磨されずに残存する半導体基板とから補強部が形成され、不純物ドープが施されていない箇所には、前記多孔質化工程によってポーラスシリコン層が形成され、前記電解研磨工程において前記ポーラスシリコン層の厚み方向に対向する半導体基板の領域に気体層が形成されることを特徴とする。
【0038】
この発明によれば、前記電解研磨工程により気体層が形成される際に、等方的に処理が進行するため、保持層と半導体基板との接続部に不純物ドープが施されていない場合には、当該接続部が除去されてしまい保持層の周縁は陽極酸化マスクのみによって支持されることになるが、保持層と半導体基板との接続部に不純物ドープが施されていることで保持層と半導体基板との接続部にドープによるマスク領域が残存することで当該接続部の強度を高めることができ、昇降温時の赤外線放射層の熱膨張差によって保持層が変形して破損することを防止することができる。
【0039】
請求項19の発明は、半導体基板の一面の所定の領域に犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、前記犠牲層の表面に不純物ドープされたポリシリコン層を形成するポリシリコン層形成工程と、前記ポリシリコン層を陽極酸化することにより多孔質層を形成する多孔質化工程と、前記多孔質層を介して犠牲層をエッチングすることで犠牲層を除去し、多孔質層の一面と半導体基板の一面との間に気体層を形成するエッチング工程と、前記多孔質層の他面に赤外線放射層を形成する赤外線放射層形成工程とを備え、前記気体層は、赤外線放射層に印加される電圧の周波数に基づいてその厚みが設定され、赤外線放射層の昇温時には断熱層として働き、赤外線放射層の降温時には放熱層として働くことを特徴とする。
【0040】
この発明によれば、本製造方法によって製造された赤外線放射素子は、赤外線放射層の昇温時に赤外線放射層から保持層に伝達した熱が気体層によって断熱されるため、断熱層として働く気体層によって赤外線放射層の昇温が阻害されず昇温時間が短くなり、赤外線放射層の降温時には、赤外線放射層から保持層に伝達した熱が、気体層を介して半導体基板へと放熱されるため、放熱層として働く気体層によって赤外線放射層の降温時間が短くなる。従って、赤外線放射層の昇降温が高速で行われて赤外線放射素子を高出力、高周波駆動させることができ、更には、計測時間を短縮できて低消費電力化を図ることができる。また、本製造方法により、エッチングにより除去される犠牲層を設けた後に、犠牲層に覆設するポリシリコンを陽極酸化により多孔質層とし、当該多孔質層を介して犠牲層をエッチングすることで、多孔質層を中空上に容易に形成することができる。
【0041】
請求項20の発明は、請求項19の発明において、前記ポリシリコン層形成工程と多孔質化工程との間に、ポリシリコン層の厚み方向において当該ポリシリコン層の犠牲層と対向する領域の所定の位置に不純物ドープを施すドープ工程を備え、当該不純物ドープが施された箇所は、多孔質化工程によって陽極酸化されず、当該ドープが施された箇所とドープが施された箇所に対向する犠牲層の一部とが、エッチング工程で除去されず残存することで支持部を形成し、不純物ドープが施されていない箇所は、多孔質化工程によって多孔質層が形成され、エッチング工程により前記支持部となる箇所を除いて犠牲層を除去することで気体層が形成されることを特徴とする。
【0042】
この発明によれば、ポリシリコン層に不純物ドープを施すことにより、ポリシリコンに陽極酸化されない領域を形成でき、ポリシリコンを陽極酸化した後に犠牲層をエッチングすることで支持部を容易に同時形成することができる。
【発明の効果】
【0043】
以上説明したように、本発明では、高出力、高周波駆動が可能で、低消費電力化が図られた赤外線放射素子及びその製造方法及び当該赤外線放射素子を備えた赤外線式ガス検出器を提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態1における赤外線放射素子の断面外略図である。
【図2】同上における赤外線放射素子の上面図である。
【図3】同上における赤外線放射素子の製造方法の説明図である。
【図4】(a)〜(d)は、同上における赤外線放射素子の電圧波形または、温度波形を示し、(a)は、印加電圧波形、(b)は、式2を満たす場合の温度波形、(c)は、気体層を有さない場合の温度波形、(d)は、式2を満たさない場合の温度波形を示す。
【図5】同上における赤外線放射素子の保持層における温度特性を示す図である。
【図6】同上における赤外線放射素子で、保持層の周縁に不純物ドープが施されていない場合の概略図を示す。
【図7】同上における赤外線放射素子の保持層の構造を示す断面図である。
【図8】本発明の実施形態2における赤外線放射素子の上面図である。
【図9】本発明の実施形態3における赤外線放射素子の製造方法の説明図である。
【図10】本発明の実施形態4における赤外線式ガス検知器の概略図を示す。
【図11】従来例におけるコイル状フィラメントを備える電球型の赤外線放射素子の正面図である。
【図12】同上における、ダイヤフラム型の赤外線放射素子の断面外略図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0046】
(実施形態1)
本実施形態の赤外線放射素子Aについて図1、2を用いて説明を行った後に、赤外線放射素子Aの製造方法について図3(a)〜(e)を用いて説明を行う。なお図1における上下左右を基準として上下左右方向と直交する方向を前後方向とする。
【0047】
本実施形態の赤外線放射素子Aは、図1に示すように、半導体基板1と、半導体基板1の上面に形成された薄膜状の保持層2と、半導体基板1の上面及び保持層2の下面によって囲まれた空間からなる厚みの薄い気体層3と、気体層3内において半導体基板1の上面と保持層2の下面とを連結すると共に保持層2を支持する支持部4と、保持層2の上面に積層され、通電による発熱によって赤外線を放射する赤外線放射層5と、赤外線放射層5上に形成される通電用の一対の電極6とを備えている。
【0048】
半導体基板1は、略矩形状の単結晶のシリコン基板が用いられており、その上面の所定の領域をフッ化水素水溶液中で陽極酸化することにより多孔度が70%の多孔質シリコン層(ポーラスシリコン層)からなる略矩形状の保持層2が形成されている。また、半導体基板1で用いられるシリコン基板の導電形は、p形、n形のどちらでもよいが、p形のシリコン基板の方が陽極酸化による多孔質化を行った際に多孔度が大きくなりやすい傾向にあるので、半導体基板1としてはp形のシリコン基板を用いることが好ましい。なお、半導体基板1の一部を陽極酸化する際の電流密度は、半導体基板1の導電形及び導電率に応じて適宜設定すればよい。また、保持層2を形成する多孔質層は、ポーラスポリシリコン層であってもよい。また、電気的絶縁や前後左右方向への熱伝導を抑制する効果を備えるため、ポーラスシリコンやポーラスポリシリコンの一部または全部が酸化、或いは窒化されていてもよい。
【0049】
保持層2は、ポーラスシリコン層により構成されており多孔度が高くなるにつれて熱伝導率及び体積熱容量が小さくなる。
【0050】
一方、陽極酸化により多孔質化する代わりに熱酸化により半導体酸化膜を形成し、この半導体酸化膜を保持層2としてもよい。保持層2として半導体酸化膜を用いる場合には、半導体基板1を熱酸化することにより保持層2を形成したり、酸化物を含む材料でCVDにより保持層2を形成すれば、多孔質化に比較して製造プロセスが簡単になり、量産性を高めることが可能になる。CVDにより保持層2を形成する場合には、アルミナのような熱絶縁性の高い酸化物を用いたり、この種の酸化物を含む材料を用いることが可能である。更には、この種の材料の多孔体を保持層2として形成することも可能である。
【0051】
赤外線放射層5は、TaNまたはTiNからなるものを選択するのが望ましい。これらの材料は耐熱性及び耐酸化性に優れている。従って、赤外線放射層5を空気雰囲気で使用することが可能であって、赤外線放射素子Aをパッケージに収納せずにベアチップとして基板に実装することが可能になる。また、パッケージに収納する場合でも赤外線を透過させるためにパッケージに形成した窓孔を封止する必要がなく、当該窓孔に装着する窓部材による赤外線の減衰がないから、赤外線の放射効率を高めることができる。
【0052】
また、これらの材料は、赤外線放射層5として形成するのに適した厚み寸法(数十nm)において、シート抵抗が後述する所望値になるという物性を有している。しかも、シート抵抗成膜時の窒素ガスの分圧によって制御することが可能である。ただし、赤外線放射層5を形成する材料は、TaN,TiN以外も使用可能であり、他の窒化金属や炭化金属を用いてもよい。
【0053】
電極6は、金属材料(例えばアルミニウムなど)により形成され、赤外線放射層5の左右両端にそれぞれ積層され、図4(a)で示す略正弦波状の電圧が印加される。
【0054】
そして、赤外線放射素子Aは、一対の電極6を介して赤外線放射層5に入力電圧が印加されると、赤外線放射層5が昇温して赤外線を放射し、入力電圧をオフされると赤外線放射層5が降温して赤外線の放射を停止する。赤外線放層5への印加電圧を断続させる場合だけではなく、正弦波状に変化する電圧を印加した場合も電圧の増加期間に温度を上昇させ、電圧の減少期間に温度を下降させることが可能である。つまり、電極6への印加電圧に応じて赤外線の強度を変調することができる。
【0055】
ところで、上述の構成の赤外線放射素子Aの電極6に正弦波状の電圧を印加するものとして保持層2の熱伝導率をαp〔W/mK〕、保持層2の体積熱容量(比熱容量と密度との積)をCp〔J/m3K〕、赤外線放射層5が応答可能な周波数(印加電圧の周波数の2倍)をf〔Hz〕とすれば、保持層2の熱拡散長μは、次式で表される。
μ=(2αp/ωCp)1/2・・・(式1)
ただし、ω=2πfである。
【0056】
保持層2は、赤外線放射層5から交流的に変化する熱が与えられたときに、赤外線放射層5から保持層2に向かって放射された赤外線が、保持層2の下面において気体層3に接触するように、保持層2の厚み寸法Lpを設定する必要がある。すなわち、保持層2の厚み寸法Lpは少なくとも熱拡散長μよりも小さな値に設定する(Lp<μ)ことが望ましい。
【0057】
いま、保持層2をポーラスシリコンにより形成するものとし、赤外線放射層5の応答可能な周波数f、保持層2の体積熱容量Cp、保持層2の熱伝導率αpを、それぞれ、f=10〔kHz〕、Cp=1.1〔W/mK〕、及び熱伝導率αp=1.05×106〔J/m3K〕として、上記式1に代入すると、μ=5.8×10−6〔m〕になり、保持層2の厚み寸法Lpは、5.8〔μm〕よりも小さくする必要がある。
【0058】
更に、赤外線の放射効率を高めるには、所望の赤外線の真空中での波長をλ〔m〕、保持層2の屈折率をnとして、次式で表される共鳴条件を成立させるのが望ましい。
n×Lp=m×λ/2・・・(式2)
ただし、mは自然数である。
【0059】
本実施形態におけるポーラスシリコンにより形成した保持層2の厚み寸法Lpは、所望の赤外線の波長を4〔μm〕とし、上記式2において、n=1.35、m=1とすれば、Lp=1.5〔μm〕になる。すなわち、Lp=1.5〔μm〕<5.8〔μm〕=μであるから上記式1も満たし、本実施形態において要求される条件を満足することができる。
【0060】
すなわち、保持層2は、赤外線放射層5の昇温を阻害せず、赤外線放射層5と保持層2との全体としての体積熱容量を小さくすることができる。そのため、赤外線放射層5は、印加された電圧の変化に高速に応答し、印加電圧の変調周波数を高くすることが可能になる。
【0061】
また、保持層2をポーラスシリコン層から形成することにより、緻密な絶縁材料から形成する場合に比べて材料的に体積熱容量を低減して熱応答時間を短くし、赤外線放射層5の昇温度効率をより高めることができる。しかも、保持層2の下面は気体層3に接しており、一般に気体は保持層2よりも熱伝導率が小さいから、保持層2の下面を断熱することによって、保持層2から赤外線放射層5の周辺への熱伝導の経路を減少させ赤外線放射層5の周辺への放熱を抑制することになる。したがって、図5の曲線ロで示すように、赤外線放射層5を支持している保持層2は、赤外線放射層5の発熱時に、深さ方向において大きな温度差が生じないように温度上昇することになる。なお、図5の曲線イは、気体層3が設けられていない場合の保持層2の深さ方向における温度の変化を示している。
【0062】
次に、気体層3は、半導体基板1の上面と保持層2の下面との間に形成されており、その厚みLgは、以下の条件で設定するのが望ましい。赤外線放射層5への印加電圧を正弦波状とし、印加電圧の周波数をf〔Hz〕、気体層3の熱伝導率をαg〔W/mK〕、気体層3の体積熱容量をCg〔J/m3K〕とするとき、気体層5の厚み寸法Lgを次式で表される範囲に設定する。
0. 05Lg´<Lg<3Lg´・・・(式3)
ただし、Lg´=(2αg/ωCg)1/2、ω=2πfである。
【0063】
例えば、赤外線放射層5への印加電圧を周波数f=10〔kHz〕の正弦波とし、気体層3の体積熱容量Cg、気体層3の熱伝導率αgをそれぞれ、αg=0.0254〔J/m3K〕、Cg=1.21×103〔J/mK〕とすれば、上記式3から、1.3〔μm〕<Lg<77.5〔μm〕になるから、気体層3の厚み寸法Lgを、例えば25〔μm〕に設定することにより、上記式5を満足することができる。望ましくは、この範囲内で温度振幅比が最大となる厚みに設定する。
【0064】
また、気体層3は、半導体基板1の温度を一定とすれば保持層2の温度と気体層3の厚み寸法Lgとに依存して断熱性と放熱性とのいずれかの機能を持つから、気体層3の厚み寸法Lgを上記式3の条件範囲において適宜に調節することにより、赤外線放射層5への印加電圧が上昇する期間には気体層3に断熱性を持たせ、赤外線放射層5への印加電圧が下降する期間には気体層3の放熱性をもたせることが可能になる。
【0065】
すなわち、気体層3の断熱性と放熱性とを利用するタイミングを、赤外線放射層5への印加電圧の増減のタイミングにほぼ一致させることが可能になり、赤外線放射層5への印加電圧が高周波で変調されている場合でも、赤外線放射層5の温度を電圧の周波数に略同期するように変化させることが可能になる。つまり、気体層3を設けることで応答性を高めることが可能になる。
【0066】
また、赤外線放射層5に印加する駆動電圧で赤外線の放射強度を制御する場合に、赤外線放射層5に投入する電力が同じであれば、シート抵抗が小さい赤外線放射層5ほど駆動電圧を低減することができる。駆動電圧が低ければ、昇圧による損失を低減できると共に、赤外線放射素子A内の電界強度が小さくなって破損の可能性を低減できるから、シート抵抗は小さいほうが望ましい。
【0067】
更に、赤外線放射層5は、温度上昇に伴ってシート抵抗が低下する負の抵抗温度係数を持っている。したがって、駆動電圧が同じであっても温度上昇に伴ってシート抵抗が低下して赤外線放射層5を流れる電流が増加する。すなわち、温度上昇に伴って投入電力が増加し、到達最高点温度を高くすることができる。
【0068】
ちなみに、赤外線放射層5にTaNを用いて抵抗温度係数をー0.001〔℃―1〕に設定し、駆動時の最高到達温度を500〔℃〕として、その温度でのシート抵抗を300〔Ωsq〕とすれば、室温でのシート抵抗は571〔Ωsq〕になる。
【0069】
上述のように赤外線放射層5に負の抵抗温度係数を持たせることで、赤外線放射層5に印加する電圧を得るために電源電圧を昇圧回路により昇圧している場合に、到達最高点温度を高めながらも昇圧回路の昇圧比の増加を抑制することができることになり、昇圧回路での電力損失を抑制できる。
【0070】
ここで、気体層3を備えていない場合には、断熱性能が不足して放熱性能が断熱性能を上回る。従って、10kHzで変調された入力電圧が印加された場合、赤外線放射層5の温度は図4(c)で示すように、昇温時間T1で所定の赤外線強度を得ることができる温度まで上昇せず、降温時間T2で放熱されて低温状態を維持することから上記効果を得ることができない。
【0071】
また、図12に示す従来例のダイヤフラム型赤外線放射素子50において、凹部52を気体層3とすると、基板51の厚み(525μm)と凹部52の深さが略等しいことから、気体層3の厚みLgがLg=525μmとなり、前記式2を満たさず放熱性能が不足する。従って、10kHzで変調された入力電圧が印加された場合、赤外線放射層5の温度は図4(d)で示すように、昇温時間T1には気体層3が断熱層として働き昇温する。しかし、降温時間T2においては放熱性能が不足するため、発光層54の温度は昇降温を繰り返す度に上昇し、過熱状態となって上記効果を得ることができない。
【0072】
次に、支持部4は、多孔質層よりも機械的強度の高い単結晶シリコンによって下から上に向かって拡径する略円錐台状に形成されており、4つの支持部4が気体層3内において互いに所定の間隔を空けて設けられ、半導体基板1の上面と保持層2の下面とを連結すると共に保持層2を支持している。そのため、赤外線放射層5の昇降温による熱膨張差によって、保持層2が半導体基板1に付着することを防止でき、赤外線放射層5の昇温阻害や変形による破損を防止することができる。なお、本実施形態では、支持部4が保持層2の下面を支持しているが、支持部4が保持層2を貫通した状態で支持していてもよい。
【0073】
また、特に半導体基板1が単結晶シリコンで、支持部4がその一部を残存した単結晶シリコンで形成される場合、支持部4と半導体基板1の接続部に発生する応力はゼロとなって支持部4の強度は更に高くなり、より効果的である。
【0074】
ところで、本実施形態の赤外線放射素子Aにおいて赤外線放射層5から放射される赤外線のピーク波長は、赤外線放射層5の温度に依存し、ピーク波長をλ(μm)、赤外線放射層5の絶対温度をT(K)とすれば、ピーク波長は、
λ=2898/T・・・(式3)
となり、赤外線放射層5の絶対温度Tと赤外線放射層5から放射される赤外線のピーク波長λとの関係がウィーンの変位側を満たしている。要するに、図示しない外部電源から一対の電極6間に印加する電圧の振幅や波形を調整することにより、赤外線放射層5に単位時間当たりに発生するジュール熱を変化させる(つまり、赤外線放射層5の温度を変化させる)ことができて、赤外線放射層5から放射される赤外線のピーク波長λを変化させることができる。
【0075】
例えば、一対の電極6間に100V程度の電圧を印加することによりピーク波長λが3μm〜4μmの赤外線を放射させることが可能であり、電極6間に印加する電圧を適宜調整することにより、ピーク波長λが4μm以上の赤外線を放射させることも可能である。
【0076】
また、本実施形態の構成では、電極6への電圧印により赤外線放射層5に通電されると、図1にE1として示しているように、赤外線放射層5から上方へ赤外線が放射されると共に、赤外線放射層5から保持層2への伝熱により保持層2が加熱され、図1にE2として示しているように、保持層2の一部の温度上昇により保持層2からも赤外線が放射される。保持層2は、赤外線放射層5を支持しているから、赤外線放射層5から直接伝熱されることになり、赤外線放射層5を熱源として直熱型の赤外線放射源を構成していると言える。
【0077】
ここで、赤外線放射層5は、赤外線透過性を有しており、保持層2から赤外線放射層5に向かう向きに放射された赤外線は赤外線放射層5を透過して赤外線放射層5の上方へ放射される。つまり、赤外線放射素子Aからは、赤外線放射層5から上方へ放射される赤外線E1と、保持層2から赤外線放射層5を透過して赤外線放射層5の上方へ放射される赤外線E2とが併せて放射され、結果的に投入電力に対する赤外線の放射効率を高めることができる。
【0078】
上記構成からなる本実施形態の赤外線放射素子Aは、赤外線放射層5の昇温時に赤外線放射層5から保持層2に伝達した熱が気体層3によって断熱されるため、断熱層として働く気体層3によって赤外線放射層5の昇温が阻害されず昇温時間T1が短くなり、降温時には、赤外線放射層5から保持層2に伝達した熱が、気体層3を介して半導体基板1へと放熱されるため、放熱層として働く気体層3によって赤外線放射層5の降温時間T2を短くできる。従って、図4(b)で示す赤外線放射層5の温度変化が、図4(a)で示す入力電圧の波形に同期して昇降温し、赤外線放射素子Aは高出力な赤外線を放射すると共に高周波駆動することができ、低消費電力化を図ることができる。
【0079】
以下、本実施形態の赤外線放射素子Aの製造方法について図3(a)〜(e)を用いて説明する。なお、上記赤外線放射素子Aでは、支持部4が4つ形成されているが、本製造方法の説明においては、支持部4が1つであるものとして説明を行う。
【0080】
まず、図3(a)に示すように、例えば、比抵抗が80〜120Ωcm程度の略矩形板状のp型半導体基板1の上面において所定の矩形領域を囲むP+の不純物ドープ8を施すドープ工程を行い、当該矩形領域の左右方向略中央にP+の不純物ドープ7を施すドープ工程を行う。その際、当該不純物ドープ7の径は、支持部4の径よりも大きくなるように施され、更に気体層3の厚みと同程度の厚みを持つように施される。
【0081】
次に、アニール処置を行い不純物ドープ7,8を拡散及び活性化する。これにより、不純物ドープ7,8が施された領域は、n型の陽極酸化マスクとなる。その後、図3(b)に示すように、半導体基板1の上面において矩形枠状に形成された不純物ドープ8と当該不純物ドープ8よりも外側の領域とにかかる領域に、酸化処理(パイロ酸化)を行うことでシリコン酸化膜からなる陽極酸化マスク11を施すマスク工程を行い。そして、半導体基板1の裏面のシリコン酸化膜を除去した後、バックコンタクト用のアルミ電極9をスパッタにより形成する。
【0082】
そして、図3(c)に示すように、前記矩形領域に陽極酸化処理を施す多孔質化工程を行うことによって、前記矩形領域内で不純物ドープ7,8が施された箇所を除いた領域が多孔質化され、多孔質層の保持層2が形成される。ここで、陽極酸化処理では、当該電解液として、フッ化水素水溶液とエタノールとを混合したフッ化水素30%の溶液を用い、陽極酸化を行う表面のみを電解液に接触させ、半導体基板1の上面に図示しない白金電極を配置して、下面より通電可能な治具にセットし、所定の電流密度(例えば、100mA/cm2)の電流を所定時間だけ流すことにより1μmの厚みを持った多孔質層を形成する。
【0083】
また、保持層2の厚みは、前記式1に基づいて形成されることで、赤外線放射層5は印加される電圧の周波数に対応して高速に昇温が行われ、大きな赤外線強度振幅を得ることができる。
【0084】
続いて、図3(d)に示すように、前記多孔質層からなる保持層2を介して保持層2と対向する半導体基板1の厚み方向の領域を電解研磨する電解研磨工程を行うことで気体層3を形成する。その際、不純物ドープ7が施された箇所の下方の半導体基板1を残存することで略円錐台状の支持部4が同時形成される。ここで、電解研磨処理では、当該電解液として、フッ化水素水溶液とエタノールとを混合したフッ化水素15%の溶液を用い、陽極酸化を行う表面のみを電解液に接触させ、半導体基板1の上面に図示しない白金電極を配置して、下面から通電可能な治具にセットし、所定の電流密度(例えば、1000mA/cm2)の電流を所定時間だけ流すことにより25μmの厚みを持った気体層3を形成する。
【0085】
ここで、気体層3の厚みは、前記式2に基づいて形成されることで、気体層3が断熱層から放熱層に切り替わるタイミングと、赤外線放射層5に印加される電圧が昇圧から降圧に切り替わるタイミングとを略一致させることができ、赤外線放射層5に印加される電圧が高周波変調されている場合であっても、電圧の周波数に略同期して赤外線放射層5を昇降温させることができると共に、大きな赤外線放射振幅を得ることができる。
【0086】
また、上記多孔質化工程及び電解研磨工程では等方的に処理が進行するため、不純物ドープ8が施されていない場合には、図6に示すように保持層2の周縁が陽極酸化マスク11のみによって支持された状態となって機械的強度が小さいものとなる。しかし、本実施形態では、保持層2の周縁と半導体基板1の境界に不純物ドープ8が施されていることで、保持層2の周縁は不純物ドープ8によって形成されるn型シリコン基板を介して半導体基板1と接続されて機械的強度の大きいものとなっている。
【0087】
そして、図3(e)に示すように、陽極酸化マスク11に囲まれた領域に、通電により発熱する貴金属(Ir)からなる赤外線放射層5を100nm程度積層する赤外線放射層形成工程を行い、その後に当該赤外線放射層5の左右両端に一対の電極6を設ける電極形成工程を行う。ここで、電極6は、メタルマスクなどを利用した蒸着法などによって設けられる。なお、本実施形態では、赤外線放射層5として貴金属のIrから形成しているが材料はこれに限定されず、耐熱性金属、金属窒化物、金属炭化物等、通電により発熱する耐熱性材料であればよく、好ましくは放射率の高いものが望ましい。
【0088】
以上、図3(a)〜(e)で示される赤外線放射素子Aの製造方法によれば、陽極酸化による多孔質化工程と陽極酸化による電解研磨工程の2段階の陽極酸化を施すことによって、低体積熱容量及び高断熱性を有する多孔質層(保持層2)を容易に中空上に形成することができる。
【0089】
また、半導体基板1の上面において支持部4を形成する箇所に不純物ドープ7を施していることで、支持部4を形成する箇所にマスク工程で別途段差を伴う陽極酸化マスクを施す必要がないため、その上面に積層される赤外線放射層5に段切れや不均一な抵抗部の発生が起こらず、安定動作可能な赤外線放射素子Aを製造できる。
【0090】
更に、支持部4が形成されることで、電解研磨工程の後に行われる乾燥過程において保持層2が半導体基板1に付着することを防止することができる。
【0091】
なお、本実施形態では、入力電圧として略正弦波状の電圧が印加されるが、入力電圧はこれに限定されず略矩形パルス状の電圧であってもよい。
【0092】
また、本実施形態では、上述したように半導体基板1を陽極酸化により多孔質化したポーラス半導体を保持層2として用い、赤外線放射層5の発熱により赤外線を発生させるのに加えて、赤外線放射層5で保持層2を加熱することにより赤外線を発生させ、赤外線の放射効率を高めているが、保持層2として以下の構造を採用することにより、赤外線の放射効率を更に高めることが可能になる。
【0093】
すなわち、保持層2は、図7に示すように、バルク状シリコンからなる数μmのマクロポア(図示していないが、バルク状シリコンの表面が微視的に波打っている)内に、数nmのナノポアが形成された構造を有する。この構成は、陽極酸化の際に、半導体基板1の導電型、比抵抗、陽極酸化の条件(電解液の組成、電流密度、処理時間)を調節することにより形成する。たとえば、半導体基板1として、100Ωcm程度の高抵抗のp型シリコン基板を用い、陽極酸化の条件としてはフッ酸濃度が25%程度の高濃度のフッ酸溶液を用い、100mA/cm2程度の比較的大きな電流密度で処理すればいい。
【0094】
保持層2として図7に示す構造を採用すると、赤外線放射層5からの熱で保持層2が加熱されると、マクロポアによる空洞放射が生じて赤外線の放射率を一層高くすることができる。しかも、マクロポア内にナノポアが形成されていることにより、保持層2の表面にナノサイズの微細な凹凸が生じるだけであって、保持層2の表面状態が赤外線放射層5にほどんど影響しないから、赤外線放射層5を数十nm程度の厚みに形成することが可能である。
【0095】
保持層2を赤外線の放射に寄与させるには、保持層2の厚み寸法を0.5μm以上に設定する必要がある。この厚み寸法は、前記式1を用いて、赤外線放射層5に印加する電圧の周波数との関係により設定される。
【0096】
(実施形態2)
本実施形態における赤外線放射素子Bは、前記実施形態1の赤外線放射素子Aと、赤外線放射層5の配置のみが異なる。なお、実施形態1の赤外線放射素子Aと同様の機能を有するものについては同一の符号を付して説明を省略する。
【0097】
前記実施形態1では、赤外線放射層5が保持層2の上面全面に積層されていたが、本実施形態では、図8に示すように、赤外線放射層5は、保持層2の上面において前後方向に3分割されて配設されており、3つの赤外線放射層5間に露出する2箇所の保持層2の下面側に左右方向に所定の間隔を空けて2つの支持部4がそれぞれ設けられている。なお、本実施形態では、赤外線放射層5は3箇所に分割されているが、分割数はこれに限定されず、2箇所または4箇所以上であってもよいものとする。
【0098】
以上により、熱伝導率が保持層2に比べて高い赤外線放射層5が、支持部4に直接接しないため、赤外線放射層5で発生する熱が支持部4を介して半導体基板1側へ放熱されることを抑制でき、赤外線放射層5の発光効率を高めることができる。
【0099】
また、赤外線放射層5と支持部4とが直接接していないことで、赤外線放射層5と支持部4との間に大きな温度勾配が発生することを抑制でき、当該温度勾配に起因する大きな熱応力によって赤外線放射層5と支持部4とが破損することを防止できる。
【0100】
(実施形態3)
本実施形態における赤外線放射素子Cの製造方法について図9(a)〜(f)を用いて説明を行う。なお、実施形態1の赤外線放射素子Aと同様の機能を有するものについては、同一の符号を付して説明を省略する。また、図9における上下左右を基準として上下左右方向と直交する方向を前後方向とする。
【0101】
まず、図9(a)に示すように、半導体基板1の上面側において気体層3を形成する箇所に、プラズマCVDによって5μm程度の厚みをもった犠牲層13を積層する犠牲層形成工程を行う。
【0102】
次に、図9(b)に示すように、半導体基板1の下面に陽極酸化処理時にバックコンタクト用に用いられるアルミ電極9を形成した後、不純物ドープ7が施された厚み1μmのポリシリコン層(保持層)2によって犠牲層13を覆設するポリシリコン層形成工程を行う。
【0103】
ここで、ポリシリコン層2の厚みは、前記式1に基づいて形成されることで、赤外線放射層5は印加される電圧の周波数に対応して高速に昇温が行われ、大きな赤外線強度振幅を得ることができる。
【0104】
そして、図9(c)に示すように、犠牲層13に略対向するポリシリコン層2の厚み方向の領域に、左右方向に所定の間隔を空けてP+の不純物ドープ7をイオン注入法によって2箇所に施すドープ工程を行う。
【0105】
続いて、図9(d)に示すように、ポリシリコン層2を陽極酸化することにより多孔質化を行う多孔質化工程を行う。これにより、前記不純物ドープ7が施された箇所は多孔質化されず、不純物ドープ7が施されていない箇所は多孔質化される。ここで、陽極酸化処理では、当該電解液として、フッ化水素水溶液とエタノールとを混合したフッ化水素30%の溶液を用い、陽極酸化を行う表面のみを電解液に接触させ、ポリシリコン層2の上面に図示しない白金電極を配置して、下面から通電可能な治具にセットし、所定の電流密度(例えば、100mA/cm2)の電流を所定時間だけ流すことにより多孔質層を形成する。
【0106】
更に、図9(e)に示すように、犠牲層13において、ポリシリコン層2の厚み方向で前記不純物ドープ7と対向する箇所は、エッチングによって除去せずに残存することで支持部を形成し、不純物ドープ7と対向していない箇所は、エッチングによって除去することで気体層3を形成するエッチング工程を行う。ここで、エッチングには、HF溶液が用いられる。
【0107】
ここで、気体層3の厚みは、前記式2に基づいて形成されることで、気体層3が断熱層から放熱層に切り替わるタイミングと、赤外線放射層5に印加される電圧が昇圧から降圧に切り替わるタイミングとを略一致させることができ、赤外線放射層5に印加される電圧が高周波変調されている場合であっても、電圧の周波数に略同期して赤外線放射層5を昇降温させることができると共に、大きな赤外線放射振幅を得ることができる。
【0108】
そして、図9(f)に示すように、保持層2の上面に、通電により発熱する貴金属(Ir)かからなる赤外線放射層5を100nm程度積層する赤外線放射層形成工程を行い、その後に当該赤外線放射層5の左右両端に一対の電極6を設ける電極形成工程を行う。ここで、電極6は、メタルマスクなどを利用した蒸着法などによって設けられる。なお、本実施形態では、赤外線放射層5として貴金属のIrから形成しているが材料はこれに限定されず、耐熱性金属、金属窒化物、金属炭化物等であってもよい。
【0109】
以上、図9(a)〜(f)で示される赤外線放射素子Cの製造方法によれば、エッチングにより除去される犠牲層13を設けた後に、犠牲層13に覆設するポリシリコン層2を陽極酸化により多孔質層とし、当該多孔質層を介して犠牲層13をエッチングすることで、気体層3を形成すると共に多孔質層を中空上に容易に形成することができる。
【0110】
また、予めポリシリコン層2に不純物ドープ7を施すことにより、ポリシリコン層2に陽極酸化されない領域を形成でき、犠牲層13をエッチングする際にその厚み方向において不純物ドープ7と対向する箇所を残存することで、気体層3と支持部4とを容易に同時形成することができる。
【0111】
(実施形態4)
本発明の実施形態について図10を用いて説明を行う。
【0112】
本実施形態における赤外線式ガス検知器は、図10に示すように、赤外線放射素子Aを有する赤外線送信器20と、赤外線送信器20から送信される赤外線を受光する赤外線検知器30と、赤外線送信器20から送信される赤外線を赤外線検知器30へと導く導光管40とを備え、例えば、ガス漏れ検知に用いられる。なお、本実施形態では、実施形態1で示す赤外線放射素子Aを用いているが、実施形態2で示した赤外線放射素子B、または、実施形態3で示した赤外線放射素子Cであってもよい。
【0113】
赤外線送信器20は、赤外線放射素子Aと、赤外線放射素子Aに単パルス電力を周期的に供給して赤外線を放射させる駆動回路(駆動手段)21と、赤外線放射素子Aを収納する中空箱型の第一の筐体22と、第一の筐体22の一面に貫設されると共に赤外線放射素子Aから放射される赤外線を透過させて導光管40へ導入させるレンズ23とから構成される。なお、パルス電力は、単パルス、または、連続的な複数のパルスのいずれであってもよい。
【0114】
赤外線検知器30は、中空箱型の第二のケース31と、第二のケース31の一面に貫設されて導光管40から入射する赤外線の内で後述の検出ガスが吸収する波長帯の成分のみを透過させるフィルタ32と、第二のケース31内に配設されてフィルタ32を透過する赤外線を受光する焦電型の赤外線受光素子(赤外線受光手段)33と、赤外線受光素子33の受光結果に基づいて検知信号を出力する検知回路(検知手段)34とから構成される。
【0115】
フィルタ32は、互いに異なる波長帯の赤外線を透過させる2つのバンドパスフィルタ321、322が、並設されることで構成されている。ここで、バンドパスフィルタ321,322は、検出対象とするガス(検出ガス)の種類によって通過させる赤外線の波長が決定される。
【0116】
そして、バンドパスフィルタ321、322には、それぞれ対向して赤外線受光素子331、332設けられている。なお、赤外線受光素子331,332を区別しない場合には、赤外線受光素子33と称す。
【0117】
導光管40は、金等の金属薄膜がスパッタ法によって内面全体に形成された筒状に形成され、一端が赤外線送信器20のレンズ23に対向し、他端が赤外線検知器30のフィルタ32に対向して大気中に設けられる。そして、導光管40の筒壁には、検出対象のガスが流入または流出する複数の流入出孔40aが形成されており、大気中にガスが存在する場合には、流入出孔40aを介して導光管40内にもガスが流入する。
【0118】
そして、導光管40内にガスが流入した状態で赤外線送信器20から導光管40内へ赤外線が送出されると、当該赤外線は導光管40内をガスを含んだ大気を介して赤外線検知器30に到達する。
【0119】
ところで、検出ガスとしては、例えば、一酸化炭素や二酸化炭素、メタンガスを対象としており、ガスの種類によって吸収される赤外線の波長帯が異なっている(例えば、二酸化炭素を検出する場合には、4.25μm)。そのため、導光管40内にガスが存在する場合には、導光管40内にガスが存在しない場合と比べて、当該導光管40を介して赤外線検知器30に入射する赤外線において、前記ガスによって吸収される波長帯の成分が、減少する。
【0120】
そして、赤外線検知器30に到達した赤外線の内、バンドパスフィルタ321、322を透過する赤外線だけが、赤外線受光素子331、332にそれぞれ受光される。続いて、赤外線受光素子331,332は受光した赤外線量に基づいて受光信号を検知回路34へ出力し、検知回路34は、赤外線受光素子331、332から入力される受光信号の差分に基づいてガスの有無を判定し、検知信号を出力する。
【0121】
そして、上記赤外線式ガス検知器は、高出力、高周波駆動が可能な赤外線放射素子Aを備えていることから、高精度、低消費電力化を図ることができる。
【0122】
なお、本実施形態では、フィルタ32が2つのバンドパスフィルタ321,322を有しているが、バンドパスフィルタの数は3つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0123】
1 半導体基板
2 保持層
3 気体層
4 支持部
5 赤外線放射層
6 電極
21 駆動回路(駆動手段)
32 フィルタ
33 赤外線受光素子(赤外線受光手段)
34 検知回路(検知手段)
A〜C 赤外線放射素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線放射素子及び当該赤外線放射素子を備えた赤外線式ガス検知器及び当該赤外線放射素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、赤外線を放射する赤外線放射素子と、当該赤外線放射素子から放射される赤外線の内で検出対象ガスが吸収する波長の赤外線のみを通過させるフィルタを介して赤外線を受光して、当該受光した赤外線量に対応したレベルの検出信号を出力する受光素子とを備えたガスセンサ装置がある。そして、前記赤外線放射素子は、1回の計測で断続的に複数回赤外線を放射する。その際、検出精度を高くすると共に省電力化を図るためには、赤外線放射素子から放射される赤外線の放射量を安定させ短時間で計測することが望ましく、赤外線放射素子の高周波駆動化が望まれている。
【0003】
そして、前記赤外線放射素子として、図11に示すような電球型の赤外線放射素子40や図12に示すようなダイヤフラム型の赤外線放射素子50が提供されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
電球型の赤外線放射素子40は、発光部のフィラメント42が、タングステン(W)または白金(Pt)からなる線材をコイル状に巻いたものや、コイルの表面をアルミナなどのセラミックで被覆したものから構成されている。そして、フィラメント42に電圧が印加されて昇温すると赤外線を放射する。また、赤外線放射素子40は、発光部となるフィラメント42の熱容量が大きいため、フィラメント42に電圧の印加を開始してから放射する赤外線の強度が所定の強度に達するまでの時間(昇温時間)が長い。また、赤外線を放射しているフィラメント42の印加電圧をオフしてから、赤外線の放射が停止するまでの時間(降温時間)も長い。従って、断続放射される赤外線の振幅差を大きくするためには、フィラメント42に印加される電圧の周波数を0.1〜10Hz程度に設定する必要がある。
【0005】
また、ダイヤフラム型の赤外線放射素子50は、赤外線放射層50の裏面に設けられた半導体基板51をエッチングにより掘り込むことで凹部52を形成している。そして、赤外線放射層50は、金属からなる電極56に接続された発熱層53と当該発熱層53によって間接的に加熱される発光層54とを備える絶縁層55から構成されている。そして、発光層54は、電極56を介して電圧が印加された発熱層53の発熱によって間接的に加熱されることで赤外線を放射する。また、ダイヤフラム型の赤外線放射素子50は、絶縁層55が凹部52で接する空気の断熱効果によって断熱されているため発光層54の昇温時間が短い。しかし、当該断熱効果によって、発光層54は放熱効果が十分に得られないため降温時間が長い。従って、断続放射される赤外線の振幅差を大きくするためには、電極56に印加される電圧の周波数を例えば200Hz程度に設定する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−184757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、ガスセンサ装置等に上記赤外線放射素子40または、赤外線放射素子50を用いた場合には、赤外線放射素子に印加される入力電圧の変調周波数が低く、計測に時間がかかり、低消費電力化を行うことは困難であった。
【0008】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、高出力、高周波駆動が可能で、低消費電力化が図られた赤外線放射素子及び当該赤外線放射素子を備えた赤外線式ガス検知器及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、半導体基板と、半導体基板の一面に形成された薄膜状の保持層と、半導体基板の一面及び保持層の一面によって囲まれた空間からなる気体層と、保持層の他面に積層され、電気入力されることによる発熱によって赤外線を放射する赤外線放射層とを備え、前記気体層は、赤外線放射層に印加される電圧の周波数に基づいてその厚みが設定され、赤外線放射層の昇温時には断熱層として働き、赤外線放射層の降温時には放熱層として働くことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、赤外線放射素子において、赤外線放射層の昇温時には、赤外線放射層から保持層に伝達した熱が気体層によって断熱されるため、断熱層として働く気体層によって赤外線放射層の昇温が阻害されず昇温時間が短くなり、赤外線放射層の降温時には、赤外線放射層から保持層に伝達した熱が、気体層を介して半導体基板へと放熱されるため、放熱層として働く気体層によって赤外線放射層の降温時間が短くなる。従って、赤外線放射層の昇降温が高速で行われて赤外線放射素子を高出力、高周波駆動させることができ、更には計測時間を短縮できて低消費電力化を図ることができる。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記気体層には、半導体基板と保持層とを連結し、保持層を支持する支持部が設けられることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、赤外線放射層の昇降温による熱膨張差によって、保持層が半導体基板に付着することを防止でき、昇温阻害や破損を防止でき、また、製造時のウェット処理後の乾燥時などで保持層が半導体基板に付着することも防止できる。
【0013】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記支持部は、単結晶シリコンからなることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、多孔質層に比べて機械的強度の高い単結晶シリコンを支持部に用いることで、赤外線放射層の昇降温による熱膨張差によって、保持層が半導体基板へ付着することや、製造時のウェット処置後の乾燥時などで保持層が半導体基板に付着することもより効果的に防止することができる。特に、基板が単結晶シリコンで、支持部がその一部を残存した単結晶シリコンで形成される場合、支持部と基板の接続部に発生する応力はゼロとなって支持部の強度は更に高くなり、より効果的である。
【0015】
請求項4の発明は、請求項2または3の発明において、前記保持層の他面には、赤外線放射層が複数箇所に積層され、赤外線放射層間に露出する保持層の一面側に支持部が設けられていることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、熱伝導率が保持層に比べて高い赤外線放射層が、支持部に直接接していないことで、赤外線放射層で発生する熱が支持部を介して半導体基板側へ放熱されることを抑制でき、赤外線放射層の発光効率を高めることができる。
【0017】
また、赤外線放射層と支持部とが直接接していないことで、赤外線放射層と支持部との間に大きな温度勾配が発生することを抑制でき、当該温度勾配に起因する大きな熱応力によって赤外線放射層と支持部とが破損することを防止できる。
【0018】
請求項5の発明は、請求項1乃至4いずれかの発明において、前記保持層は、多孔質層からなることを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、多孔質層は、緻密な絶縁材料に比べて熱容量や熱伝導率が小さいため、赤外線放射層の昇温を阻害せず昇温時間を短縮でき、小さなエネルギーで大きく昇温することで低消費電力化を図ることができる。
【0020】
請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記多孔質層は、ポーラスシリコン、またはポーラスポリシリコンからなることを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、多孔質層ポーラスシリコン、またはポーラスポリシリコンからなることから、赤外線放射層の昇温温度に耐える耐熱性を確保できる。
【0022】
請求項7の発明は、請求項1乃至6いずれかの発明において、前記保持層は、その周縁が半導体基板に固定されていることを特徴とする。
【0023】
この発明によれば、保持層周縁部が全て半導体基板に接合されて保持強度が高められているため、保持層に接合された赤外線放射層の昇降温時に発生する熱膨張差によって保持層が変形し破損することを防止できる。
【0024】
請求項8の発明は、請求項7の発明において、前記半導体基板と保持層とが接合する箇所は、保持層と半導体基板の接合を補強する補強部を備えることを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、保持層と半導体基板の接合部の強度を高めることができ、保持層の変形による破損を更に防止することができる。
【0026】
請求項9の発明は、請求項1乃至8いずれか記載の発明において、前記保持層は、熱伝導率が半導体基板よりも小さく、赤外線放射層の通電に伴う赤外線放射層からの伝熱による一部の温度上昇と、赤外線放射層から入射する赤外線の反射との少なくとも一方により、赤外線放射層に向かう向きに赤外線を放射し、前記赤外線放射層は、保持層から放射された赤外線を通過させる機能を有することを特徴とする。
この発明によれば、赤外線放射層から保持層に向かって放射されるエネルギーの一部が赤外線放射のエネルギーとして利用されることになり、投入電力に対する赤外線の放射効率を高めることができる。言い換えると、所望の赤外線を放射するのに必要な投入電力の低減につながる。
【0027】
請求項10の発明は、請求項1乃至9いずれか記載の発明において、前記保持層の厚み寸法は、屈折率をnとし膜厚をdとした際、目的波長の赤外線に対する光路長が当該赤外線の半波長の自然数倍となる光学膜厚ndとなるように設定されていることを特徴とする。
この発明によれば、目的波長の赤外線に対して保持層において共鳴の条件が成立し、目的波長の赤外線について相対的な放射強度を高めることができる。この形態では、発熱による保持層の熱変形を防止するため、請求項2記載の支持部を設けることが望ましい。
【0028】
請求項11の発明は、請求項1乃至10ずれか記載の発明において、前記保持層は、加熱時に空洞放射により赤外線を放射するマクロポアがバルク半導体に形成され、かつマクロポア内にナノポアが形成された構造であることを特徴とする。
この発明によれば、マクロポアによる空洞放射を利用することで、赤外線の放射効率を高めることがでる。しかも、マクロポア内にナノポアが形成されているから、マクロポアによる空洞放射を阻害せずにマクロポアの形成に伴う保持層の強度低下を補うことができる。さらに、マクロポア内にナノポアが存在するポーラス半導体を保持層に用いることにより、保持層に高い断熱性能が得られる。
【0029】
請求項12の発明は、請求項1乃至10いずれか記載の発明において、前記保持層は、半導体の酸化物を含む電気絶縁膜により形成されていることを特徴とする。
この発明によれば、半導体を熱酸化などの処理により酸化させるか、酸化物を含む材料のCVDを行うかにより保持層を形成することができるから、製造プロセスが比較的簡単であり、半導体を多孔質化する場合よりも量産性を高めることができる。
【0030】
請求項13の発明は、請求項1乃至12いずれか記載の発明において、前記赤外線放射素子は、負の抵抗温度係数を持つ材料により形成されていることを特徴とする。
この発明によれば、駆動電圧が同じであっても温度上昇に伴ってシート抵抗が低下して赤外線放射層を流れる電流が増加するから、温度上昇に伴って投入電力が増加し、到達最高温度を高くすることができる。また、発熱層に印加する電圧を得るために電源電圧を昇圧回路により昇圧している場合に、到達最高温度を高めながらも昇圧回路の昇圧比の増加を制御することができることになり、昇圧回路での電力損失を抑制できる。
【0031】
請求項14の発明は、請求項1乃至13いずれか記載の発明において、前記赤外線放射素子は、TaN,TiNから選択されることを特徴とする。
この発明によれば、赤外線放射層の耐酸化性が高いから、赤外線放射層を空気中に露出させて使用することが可能になる。つまり、真空中あるいは不活性ガス中で使用する必要がなく、パッケージの構造が簡単になる上に、密封のための窓材が不要であって窓材による赤外線の減衰がなく、放射した赤外線の利用効率を高めることができる。さらに、これらの材料は窒素含有率を調整することによりシート抵抗を調整することができるから、所望のシート抵抗を得るのに必要な厚み寸法を調整して熱容量の小さい赤外線放射層を形成することができ、結果的に、高速応答が可能になる。
【0032】
請求項15の発明は、請求項1乃至14いずれか記載の赤外線放射素子、及び赤外線放射素子に電力を供給して赤外線を放射させる駆動手段を有する赤外線送信器と、所定の波長を有する赤外線のみを透過させるフィルタ、及び前記波長を有する赤外線に対して最も高い感度を有し、フィルタを透過した赤外線を受光して受光信号を出力する赤外線受光手段、及び受光信号に基づいて検知信号を出力する検知手段を有する赤外線検知器と備えることを特徴とする。
【0033】
この発明によれば、赤外線式ガス検知器において、請求項1乃至14いずれかの効果を有して、高精度、低消費電力化を図ることができる.
請求項16の発明は、半導体基板の一面における所定領域の周縁に陽極酸化マスクを施すマスク工程と、前記所定領域を陽極酸化することで多孔質層を形成する多孔質化工程と、前記多孔質層に対向する半導体基板の厚み方向の領域を陽極酸化により電解研磨することで気体層を形成する電解研磨工程と、前記多孔質層の他面側に赤外線放射層を形成する赤外線放射層形成工程とを備え、前記気体層は、赤外線放射層に印加される電圧の周波数に基づいてその厚みが設定され、赤外線放射層の昇温時には断熱層として働き、赤外線放射層の降温時には放熱層として働くことを特徴とする。
【0034】
この発明によれば、本製造方法によって製造される赤外線放射素子は、赤外線放射層の昇温時に赤外線放射層から保持層に伝達した熱が気体層によって断熱されるため、断熱層として働く気体層によって赤外線放射層の昇温が阻害されず昇温時間が短くなり、赤外線放射層の降温時には、赤外線放射層から保持層に伝達した熱が、気体層を介して半導体基板へと放熱されるため、放熱層として働く気体層によって赤外線放射層の降温時間が短くなる。従って、赤外線放射層の昇降温が高速で行われて赤外線放射素子を高出力、高周波駆動させることができ、更には、計測時間を短縮できて低消費電力化を図ることができる。また、本製造方法により、陽極酸化による多孔質層の形成と当該多孔質層を介して行う陽極酸化による電解研磨との2段階の陽極酸化によって、低熱容量及び気体層による高い断熱性を備えた多孔質層を中空上に形成することができる。
【0035】
請求項17の発明は、請求項16の発明において、前記マスク工程の前に、前記所定領域の所定の箇所に不純物ドープを施す第一のドープ工程を備え、当該不純物ドープが施された箇所には、当該ドープと、前記多孔質化工程によって多孔質化されず前記電解研磨工程においてドープの厚み方向に研磨されずに残存する半導体基板とから支持部が形成され、不純物ドープが施されていない箇所は、前記多孔質化工程によって多孔質層が形成され、前記電解研磨工程において前記多孔質層の厚み方向に対向する半導体基板の領域に気体層が形成されることを特徴とする。
【0036】
この発明によれば、保持層を形成する面の内、支持部を形成する箇所に不純物ドープを施すことで、保持層上に別途陽極酸化マスクを行う必要がなく、保持層に積層される赤外線放射層の段切れや、不均一な抵抗部を無くすことができ、安定動作可能な赤外線放射素子を製造できる。また、支持部が形成されることで、前記電解研磨工程の後に保持層が乾燥するまでの間に半導体基板へ付着することを防止することができる。
【0037】
請求項18の発明は、請求項16または17の発明において、前記マスク工程の前に、半導体基板の一面において陽極酸化マスクと所定領域との境界において、陽極酸化マスクと所定領域の両方にかかる不純物ドープを施す第二のドープ工程を備え、当該不純物ドープが施された箇所には、当該ドープと前記多孔質化工程によって多孔質化されず前記電解研磨工程によってドープの厚み方向に研磨されずに残存する半導体基板とから補強部が形成され、不純物ドープが施されていない箇所には、前記多孔質化工程によってポーラスシリコン層が形成され、前記電解研磨工程において前記ポーラスシリコン層の厚み方向に対向する半導体基板の領域に気体層が形成されることを特徴とする。
【0038】
この発明によれば、前記電解研磨工程により気体層が形成される際に、等方的に処理が進行するため、保持層と半導体基板との接続部に不純物ドープが施されていない場合には、当該接続部が除去されてしまい保持層の周縁は陽極酸化マスクのみによって支持されることになるが、保持層と半導体基板との接続部に不純物ドープが施されていることで保持層と半導体基板との接続部にドープによるマスク領域が残存することで当該接続部の強度を高めることができ、昇降温時の赤外線放射層の熱膨張差によって保持層が変形して破損することを防止することができる。
【0039】
請求項19の発明は、半導体基板の一面の所定の領域に犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、前記犠牲層の表面に不純物ドープされたポリシリコン層を形成するポリシリコン層形成工程と、前記ポリシリコン層を陽極酸化することにより多孔質層を形成する多孔質化工程と、前記多孔質層を介して犠牲層をエッチングすることで犠牲層を除去し、多孔質層の一面と半導体基板の一面との間に気体層を形成するエッチング工程と、前記多孔質層の他面に赤外線放射層を形成する赤外線放射層形成工程とを備え、前記気体層は、赤外線放射層に印加される電圧の周波数に基づいてその厚みが設定され、赤外線放射層の昇温時には断熱層として働き、赤外線放射層の降温時には放熱層として働くことを特徴とする。
【0040】
この発明によれば、本製造方法によって製造された赤外線放射素子は、赤外線放射層の昇温時に赤外線放射層から保持層に伝達した熱が気体層によって断熱されるため、断熱層として働く気体層によって赤外線放射層の昇温が阻害されず昇温時間が短くなり、赤外線放射層の降温時には、赤外線放射層から保持層に伝達した熱が、気体層を介して半導体基板へと放熱されるため、放熱層として働く気体層によって赤外線放射層の降温時間が短くなる。従って、赤外線放射層の昇降温が高速で行われて赤外線放射素子を高出力、高周波駆動させることができ、更には、計測時間を短縮できて低消費電力化を図ることができる。また、本製造方法により、エッチングにより除去される犠牲層を設けた後に、犠牲層に覆設するポリシリコンを陽極酸化により多孔質層とし、当該多孔質層を介して犠牲層をエッチングすることで、多孔質層を中空上に容易に形成することができる。
【0041】
請求項20の発明は、請求項19の発明において、前記ポリシリコン層形成工程と多孔質化工程との間に、ポリシリコン層の厚み方向において当該ポリシリコン層の犠牲層と対向する領域の所定の位置に不純物ドープを施すドープ工程を備え、当該不純物ドープが施された箇所は、多孔質化工程によって陽極酸化されず、当該ドープが施された箇所とドープが施された箇所に対向する犠牲層の一部とが、エッチング工程で除去されず残存することで支持部を形成し、不純物ドープが施されていない箇所は、多孔質化工程によって多孔質層が形成され、エッチング工程により前記支持部となる箇所を除いて犠牲層を除去することで気体層が形成されることを特徴とする。
【0042】
この発明によれば、ポリシリコン層に不純物ドープを施すことにより、ポリシリコンに陽極酸化されない領域を形成でき、ポリシリコンを陽極酸化した後に犠牲層をエッチングすることで支持部を容易に同時形成することができる。
【発明の効果】
【0043】
以上説明したように、本発明では、高出力、高周波駆動が可能で、低消費電力化が図られた赤外線放射素子及びその製造方法及び当該赤外線放射素子を備えた赤外線式ガス検出器を提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態1における赤外線放射素子の断面外略図である。
【図2】同上における赤外線放射素子の上面図である。
【図3】同上における赤外線放射素子の製造方法の説明図である。
【図4】(a)〜(d)は、同上における赤外線放射素子の電圧波形または、温度波形を示し、(a)は、印加電圧波形、(b)は、式2を満たす場合の温度波形、(c)は、気体層を有さない場合の温度波形、(d)は、式2を満たさない場合の温度波形を示す。
【図5】同上における赤外線放射素子の保持層における温度特性を示す図である。
【図6】同上における赤外線放射素子で、保持層の周縁に不純物ドープが施されていない場合の概略図を示す。
【図7】同上における赤外線放射素子の保持層の構造を示す断面図である。
【図8】本発明の実施形態2における赤外線放射素子の上面図である。
【図9】本発明の実施形態3における赤外線放射素子の製造方法の説明図である。
【図10】本発明の実施形態4における赤外線式ガス検知器の概略図を示す。
【図11】従来例におけるコイル状フィラメントを備える電球型の赤外線放射素子の正面図である。
【図12】同上における、ダイヤフラム型の赤外線放射素子の断面外略図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0046】
(実施形態1)
本実施形態の赤外線放射素子Aについて図1、2を用いて説明を行った後に、赤外線放射素子Aの製造方法について図3(a)〜(e)を用いて説明を行う。なお図1における上下左右を基準として上下左右方向と直交する方向を前後方向とする。
【0047】
本実施形態の赤外線放射素子Aは、図1に示すように、半導体基板1と、半導体基板1の上面に形成された薄膜状の保持層2と、半導体基板1の上面及び保持層2の下面によって囲まれた空間からなる厚みの薄い気体層3と、気体層3内において半導体基板1の上面と保持層2の下面とを連結すると共に保持層2を支持する支持部4と、保持層2の上面に積層され、通電による発熱によって赤外線を放射する赤外線放射層5と、赤外線放射層5上に形成される通電用の一対の電極6とを備えている。
【0048】
半導体基板1は、略矩形状の単結晶のシリコン基板が用いられており、その上面の所定の領域をフッ化水素水溶液中で陽極酸化することにより多孔度が70%の多孔質シリコン層(ポーラスシリコン層)からなる略矩形状の保持層2が形成されている。また、半導体基板1で用いられるシリコン基板の導電形は、p形、n形のどちらでもよいが、p形のシリコン基板の方が陽極酸化による多孔質化を行った際に多孔度が大きくなりやすい傾向にあるので、半導体基板1としてはp形のシリコン基板を用いることが好ましい。なお、半導体基板1の一部を陽極酸化する際の電流密度は、半導体基板1の導電形及び導電率に応じて適宜設定すればよい。また、保持層2を形成する多孔質層は、ポーラスポリシリコン層であってもよい。また、電気的絶縁や前後左右方向への熱伝導を抑制する効果を備えるため、ポーラスシリコンやポーラスポリシリコンの一部または全部が酸化、或いは窒化されていてもよい。
【0049】
保持層2は、ポーラスシリコン層により構成されており多孔度が高くなるにつれて熱伝導率及び体積熱容量が小さくなる。
【0050】
一方、陽極酸化により多孔質化する代わりに熱酸化により半導体酸化膜を形成し、この半導体酸化膜を保持層2としてもよい。保持層2として半導体酸化膜を用いる場合には、半導体基板1を熱酸化することにより保持層2を形成したり、酸化物を含む材料でCVDにより保持層2を形成すれば、多孔質化に比較して製造プロセスが簡単になり、量産性を高めることが可能になる。CVDにより保持層2を形成する場合には、アルミナのような熱絶縁性の高い酸化物を用いたり、この種の酸化物を含む材料を用いることが可能である。更には、この種の材料の多孔体を保持層2として形成することも可能である。
【0051】
赤外線放射層5は、TaNまたはTiNからなるものを選択するのが望ましい。これらの材料は耐熱性及び耐酸化性に優れている。従って、赤外線放射層5を空気雰囲気で使用することが可能であって、赤外線放射素子Aをパッケージに収納せずにベアチップとして基板に実装することが可能になる。また、パッケージに収納する場合でも赤外線を透過させるためにパッケージに形成した窓孔を封止する必要がなく、当該窓孔に装着する窓部材による赤外線の減衰がないから、赤外線の放射効率を高めることができる。
【0052】
また、これらの材料は、赤外線放射層5として形成するのに適した厚み寸法(数十nm)において、シート抵抗が後述する所望値になるという物性を有している。しかも、シート抵抗成膜時の窒素ガスの分圧によって制御することが可能である。ただし、赤外線放射層5を形成する材料は、TaN,TiN以外も使用可能であり、他の窒化金属や炭化金属を用いてもよい。
【0053】
電極6は、金属材料(例えばアルミニウムなど)により形成され、赤外線放射層5の左右両端にそれぞれ積層され、図4(a)で示す略正弦波状の電圧が印加される。
【0054】
そして、赤外線放射素子Aは、一対の電極6を介して赤外線放射層5に入力電圧が印加されると、赤外線放射層5が昇温して赤外線を放射し、入力電圧をオフされると赤外線放射層5が降温して赤外線の放射を停止する。赤外線放層5への印加電圧を断続させる場合だけではなく、正弦波状に変化する電圧を印加した場合も電圧の増加期間に温度を上昇させ、電圧の減少期間に温度を下降させることが可能である。つまり、電極6への印加電圧に応じて赤外線の強度を変調することができる。
【0055】
ところで、上述の構成の赤外線放射素子Aの電極6に正弦波状の電圧を印加するものとして保持層2の熱伝導率をαp〔W/mK〕、保持層2の体積熱容量(比熱容量と密度との積)をCp〔J/m3K〕、赤外線放射層5が応答可能な周波数(印加電圧の周波数の2倍)をf〔Hz〕とすれば、保持層2の熱拡散長μは、次式で表される。
μ=(2αp/ωCp)1/2・・・(式1)
ただし、ω=2πfである。
【0056】
保持層2は、赤外線放射層5から交流的に変化する熱が与えられたときに、赤外線放射層5から保持層2に向かって放射された赤外線が、保持層2の下面において気体層3に接触するように、保持層2の厚み寸法Lpを設定する必要がある。すなわち、保持層2の厚み寸法Lpは少なくとも熱拡散長μよりも小さな値に設定する(Lp<μ)ことが望ましい。
【0057】
いま、保持層2をポーラスシリコンにより形成するものとし、赤外線放射層5の応答可能な周波数f、保持層2の体積熱容量Cp、保持層2の熱伝導率αpを、それぞれ、f=10〔kHz〕、Cp=1.1〔W/mK〕、及び熱伝導率αp=1.05×106〔J/m3K〕として、上記式1に代入すると、μ=5.8×10−6〔m〕になり、保持層2の厚み寸法Lpは、5.8〔μm〕よりも小さくする必要がある。
【0058】
更に、赤外線の放射効率を高めるには、所望の赤外線の真空中での波長をλ〔m〕、保持層2の屈折率をnとして、次式で表される共鳴条件を成立させるのが望ましい。
n×Lp=m×λ/2・・・(式2)
ただし、mは自然数である。
【0059】
本実施形態におけるポーラスシリコンにより形成した保持層2の厚み寸法Lpは、所望の赤外線の波長を4〔μm〕とし、上記式2において、n=1.35、m=1とすれば、Lp=1.5〔μm〕になる。すなわち、Lp=1.5〔μm〕<5.8〔μm〕=μであるから上記式1も満たし、本実施形態において要求される条件を満足することができる。
【0060】
すなわち、保持層2は、赤外線放射層5の昇温を阻害せず、赤外線放射層5と保持層2との全体としての体積熱容量を小さくすることができる。そのため、赤外線放射層5は、印加された電圧の変化に高速に応答し、印加電圧の変調周波数を高くすることが可能になる。
【0061】
また、保持層2をポーラスシリコン層から形成することにより、緻密な絶縁材料から形成する場合に比べて材料的に体積熱容量を低減して熱応答時間を短くし、赤外線放射層5の昇温度効率をより高めることができる。しかも、保持層2の下面は気体層3に接しており、一般に気体は保持層2よりも熱伝導率が小さいから、保持層2の下面を断熱することによって、保持層2から赤外線放射層5の周辺への熱伝導の経路を減少させ赤外線放射層5の周辺への放熱を抑制することになる。したがって、図5の曲線ロで示すように、赤外線放射層5を支持している保持層2は、赤外線放射層5の発熱時に、深さ方向において大きな温度差が生じないように温度上昇することになる。なお、図5の曲線イは、気体層3が設けられていない場合の保持層2の深さ方向における温度の変化を示している。
【0062】
次に、気体層3は、半導体基板1の上面と保持層2の下面との間に形成されており、その厚みLgは、以下の条件で設定するのが望ましい。赤外線放射層5への印加電圧を正弦波状とし、印加電圧の周波数をf〔Hz〕、気体層3の熱伝導率をαg〔W/mK〕、気体層3の体積熱容量をCg〔J/m3K〕とするとき、気体層5の厚み寸法Lgを次式で表される範囲に設定する。
0. 05Lg´<Lg<3Lg´・・・(式3)
ただし、Lg´=(2αg/ωCg)1/2、ω=2πfである。
【0063】
例えば、赤外線放射層5への印加電圧を周波数f=10〔kHz〕の正弦波とし、気体層3の体積熱容量Cg、気体層3の熱伝導率αgをそれぞれ、αg=0.0254〔J/m3K〕、Cg=1.21×103〔J/mK〕とすれば、上記式3から、1.3〔μm〕<Lg<77.5〔μm〕になるから、気体層3の厚み寸法Lgを、例えば25〔μm〕に設定することにより、上記式5を満足することができる。望ましくは、この範囲内で温度振幅比が最大となる厚みに設定する。
【0064】
また、気体層3は、半導体基板1の温度を一定とすれば保持層2の温度と気体層3の厚み寸法Lgとに依存して断熱性と放熱性とのいずれかの機能を持つから、気体層3の厚み寸法Lgを上記式3の条件範囲において適宜に調節することにより、赤外線放射層5への印加電圧が上昇する期間には気体層3に断熱性を持たせ、赤外線放射層5への印加電圧が下降する期間には気体層3の放熱性をもたせることが可能になる。
【0065】
すなわち、気体層3の断熱性と放熱性とを利用するタイミングを、赤外線放射層5への印加電圧の増減のタイミングにほぼ一致させることが可能になり、赤外線放射層5への印加電圧が高周波で変調されている場合でも、赤外線放射層5の温度を電圧の周波数に略同期するように変化させることが可能になる。つまり、気体層3を設けることで応答性を高めることが可能になる。
【0066】
また、赤外線放射層5に印加する駆動電圧で赤外線の放射強度を制御する場合に、赤外線放射層5に投入する電力が同じであれば、シート抵抗が小さい赤外線放射層5ほど駆動電圧を低減することができる。駆動電圧が低ければ、昇圧による損失を低減できると共に、赤外線放射素子A内の電界強度が小さくなって破損の可能性を低減できるから、シート抵抗は小さいほうが望ましい。
【0067】
更に、赤外線放射層5は、温度上昇に伴ってシート抵抗が低下する負の抵抗温度係数を持っている。したがって、駆動電圧が同じであっても温度上昇に伴ってシート抵抗が低下して赤外線放射層5を流れる電流が増加する。すなわち、温度上昇に伴って投入電力が増加し、到達最高点温度を高くすることができる。
【0068】
ちなみに、赤外線放射層5にTaNを用いて抵抗温度係数をー0.001〔℃―1〕に設定し、駆動時の最高到達温度を500〔℃〕として、その温度でのシート抵抗を300〔Ωsq〕とすれば、室温でのシート抵抗は571〔Ωsq〕になる。
【0069】
上述のように赤外線放射層5に負の抵抗温度係数を持たせることで、赤外線放射層5に印加する電圧を得るために電源電圧を昇圧回路により昇圧している場合に、到達最高点温度を高めながらも昇圧回路の昇圧比の増加を抑制することができることになり、昇圧回路での電力損失を抑制できる。
【0070】
ここで、気体層3を備えていない場合には、断熱性能が不足して放熱性能が断熱性能を上回る。従って、10kHzで変調された入力電圧が印加された場合、赤外線放射層5の温度は図4(c)で示すように、昇温時間T1で所定の赤外線強度を得ることができる温度まで上昇せず、降温時間T2で放熱されて低温状態を維持することから上記効果を得ることができない。
【0071】
また、図12に示す従来例のダイヤフラム型赤外線放射素子50において、凹部52を気体層3とすると、基板51の厚み(525μm)と凹部52の深さが略等しいことから、気体層3の厚みLgがLg=525μmとなり、前記式2を満たさず放熱性能が不足する。従って、10kHzで変調された入力電圧が印加された場合、赤外線放射層5の温度は図4(d)で示すように、昇温時間T1には気体層3が断熱層として働き昇温する。しかし、降温時間T2においては放熱性能が不足するため、発光層54の温度は昇降温を繰り返す度に上昇し、過熱状態となって上記効果を得ることができない。
【0072】
次に、支持部4は、多孔質層よりも機械的強度の高い単結晶シリコンによって下から上に向かって拡径する略円錐台状に形成されており、4つの支持部4が気体層3内において互いに所定の間隔を空けて設けられ、半導体基板1の上面と保持層2の下面とを連結すると共に保持層2を支持している。そのため、赤外線放射層5の昇降温による熱膨張差によって、保持層2が半導体基板1に付着することを防止でき、赤外線放射層5の昇温阻害や変形による破損を防止することができる。なお、本実施形態では、支持部4が保持層2の下面を支持しているが、支持部4が保持層2を貫通した状態で支持していてもよい。
【0073】
また、特に半導体基板1が単結晶シリコンで、支持部4がその一部を残存した単結晶シリコンで形成される場合、支持部4と半導体基板1の接続部に発生する応力はゼロとなって支持部4の強度は更に高くなり、より効果的である。
【0074】
ところで、本実施形態の赤外線放射素子Aにおいて赤外線放射層5から放射される赤外線のピーク波長は、赤外線放射層5の温度に依存し、ピーク波長をλ(μm)、赤外線放射層5の絶対温度をT(K)とすれば、ピーク波長は、
λ=2898/T・・・(式3)
となり、赤外線放射層5の絶対温度Tと赤外線放射層5から放射される赤外線のピーク波長λとの関係がウィーンの変位側を満たしている。要するに、図示しない外部電源から一対の電極6間に印加する電圧の振幅や波形を調整することにより、赤外線放射層5に単位時間当たりに発生するジュール熱を変化させる(つまり、赤外線放射層5の温度を変化させる)ことができて、赤外線放射層5から放射される赤外線のピーク波長λを変化させることができる。
【0075】
例えば、一対の電極6間に100V程度の電圧を印加することによりピーク波長λが3μm〜4μmの赤外線を放射させることが可能であり、電極6間に印加する電圧を適宜調整することにより、ピーク波長λが4μm以上の赤外線を放射させることも可能である。
【0076】
また、本実施形態の構成では、電極6への電圧印により赤外線放射層5に通電されると、図1にE1として示しているように、赤外線放射層5から上方へ赤外線が放射されると共に、赤外線放射層5から保持層2への伝熱により保持層2が加熱され、図1にE2として示しているように、保持層2の一部の温度上昇により保持層2からも赤外線が放射される。保持層2は、赤外線放射層5を支持しているから、赤外線放射層5から直接伝熱されることになり、赤外線放射層5を熱源として直熱型の赤外線放射源を構成していると言える。
【0077】
ここで、赤外線放射層5は、赤外線透過性を有しており、保持層2から赤外線放射層5に向かう向きに放射された赤外線は赤外線放射層5を透過して赤外線放射層5の上方へ放射される。つまり、赤外線放射素子Aからは、赤外線放射層5から上方へ放射される赤外線E1と、保持層2から赤外線放射層5を透過して赤外線放射層5の上方へ放射される赤外線E2とが併せて放射され、結果的に投入電力に対する赤外線の放射効率を高めることができる。
【0078】
上記構成からなる本実施形態の赤外線放射素子Aは、赤外線放射層5の昇温時に赤外線放射層5から保持層2に伝達した熱が気体層3によって断熱されるため、断熱層として働く気体層3によって赤外線放射層5の昇温が阻害されず昇温時間T1が短くなり、降温時には、赤外線放射層5から保持層2に伝達した熱が、気体層3を介して半導体基板1へと放熱されるため、放熱層として働く気体層3によって赤外線放射層5の降温時間T2を短くできる。従って、図4(b)で示す赤外線放射層5の温度変化が、図4(a)で示す入力電圧の波形に同期して昇降温し、赤外線放射素子Aは高出力な赤外線を放射すると共に高周波駆動することができ、低消費電力化を図ることができる。
【0079】
以下、本実施形態の赤外線放射素子Aの製造方法について図3(a)〜(e)を用いて説明する。なお、上記赤外線放射素子Aでは、支持部4が4つ形成されているが、本製造方法の説明においては、支持部4が1つであるものとして説明を行う。
【0080】
まず、図3(a)に示すように、例えば、比抵抗が80〜120Ωcm程度の略矩形板状のp型半導体基板1の上面において所定の矩形領域を囲むP+の不純物ドープ8を施すドープ工程を行い、当該矩形領域の左右方向略中央にP+の不純物ドープ7を施すドープ工程を行う。その際、当該不純物ドープ7の径は、支持部4の径よりも大きくなるように施され、更に気体層3の厚みと同程度の厚みを持つように施される。
【0081】
次に、アニール処置を行い不純物ドープ7,8を拡散及び活性化する。これにより、不純物ドープ7,8が施された領域は、n型の陽極酸化マスクとなる。その後、図3(b)に示すように、半導体基板1の上面において矩形枠状に形成された不純物ドープ8と当該不純物ドープ8よりも外側の領域とにかかる領域に、酸化処理(パイロ酸化)を行うことでシリコン酸化膜からなる陽極酸化マスク11を施すマスク工程を行い。そして、半導体基板1の裏面のシリコン酸化膜を除去した後、バックコンタクト用のアルミ電極9をスパッタにより形成する。
【0082】
そして、図3(c)に示すように、前記矩形領域に陽極酸化処理を施す多孔質化工程を行うことによって、前記矩形領域内で不純物ドープ7,8が施された箇所を除いた領域が多孔質化され、多孔質層の保持層2が形成される。ここで、陽極酸化処理では、当該電解液として、フッ化水素水溶液とエタノールとを混合したフッ化水素30%の溶液を用い、陽極酸化を行う表面のみを電解液に接触させ、半導体基板1の上面に図示しない白金電極を配置して、下面より通電可能な治具にセットし、所定の電流密度(例えば、100mA/cm2)の電流を所定時間だけ流すことにより1μmの厚みを持った多孔質層を形成する。
【0083】
また、保持層2の厚みは、前記式1に基づいて形成されることで、赤外線放射層5は印加される電圧の周波数に対応して高速に昇温が行われ、大きな赤外線強度振幅を得ることができる。
【0084】
続いて、図3(d)に示すように、前記多孔質層からなる保持層2を介して保持層2と対向する半導体基板1の厚み方向の領域を電解研磨する電解研磨工程を行うことで気体層3を形成する。その際、不純物ドープ7が施された箇所の下方の半導体基板1を残存することで略円錐台状の支持部4が同時形成される。ここで、電解研磨処理では、当該電解液として、フッ化水素水溶液とエタノールとを混合したフッ化水素15%の溶液を用い、陽極酸化を行う表面のみを電解液に接触させ、半導体基板1の上面に図示しない白金電極を配置して、下面から通電可能な治具にセットし、所定の電流密度(例えば、1000mA/cm2)の電流を所定時間だけ流すことにより25μmの厚みを持った気体層3を形成する。
【0085】
ここで、気体層3の厚みは、前記式2に基づいて形成されることで、気体層3が断熱層から放熱層に切り替わるタイミングと、赤外線放射層5に印加される電圧が昇圧から降圧に切り替わるタイミングとを略一致させることができ、赤外線放射層5に印加される電圧が高周波変調されている場合であっても、電圧の周波数に略同期して赤外線放射層5を昇降温させることができると共に、大きな赤外線放射振幅を得ることができる。
【0086】
また、上記多孔質化工程及び電解研磨工程では等方的に処理が進行するため、不純物ドープ8が施されていない場合には、図6に示すように保持層2の周縁が陽極酸化マスク11のみによって支持された状態となって機械的強度が小さいものとなる。しかし、本実施形態では、保持層2の周縁と半導体基板1の境界に不純物ドープ8が施されていることで、保持層2の周縁は不純物ドープ8によって形成されるn型シリコン基板を介して半導体基板1と接続されて機械的強度の大きいものとなっている。
【0087】
そして、図3(e)に示すように、陽極酸化マスク11に囲まれた領域に、通電により発熱する貴金属(Ir)からなる赤外線放射層5を100nm程度積層する赤外線放射層形成工程を行い、その後に当該赤外線放射層5の左右両端に一対の電極6を設ける電極形成工程を行う。ここで、電極6は、メタルマスクなどを利用した蒸着法などによって設けられる。なお、本実施形態では、赤外線放射層5として貴金属のIrから形成しているが材料はこれに限定されず、耐熱性金属、金属窒化物、金属炭化物等、通電により発熱する耐熱性材料であればよく、好ましくは放射率の高いものが望ましい。
【0088】
以上、図3(a)〜(e)で示される赤外線放射素子Aの製造方法によれば、陽極酸化による多孔質化工程と陽極酸化による電解研磨工程の2段階の陽極酸化を施すことによって、低体積熱容量及び高断熱性を有する多孔質層(保持層2)を容易に中空上に形成することができる。
【0089】
また、半導体基板1の上面において支持部4を形成する箇所に不純物ドープ7を施していることで、支持部4を形成する箇所にマスク工程で別途段差を伴う陽極酸化マスクを施す必要がないため、その上面に積層される赤外線放射層5に段切れや不均一な抵抗部の発生が起こらず、安定動作可能な赤外線放射素子Aを製造できる。
【0090】
更に、支持部4が形成されることで、電解研磨工程の後に行われる乾燥過程において保持層2が半導体基板1に付着することを防止することができる。
【0091】
なお、本実施形態では、入力電圧として略正弦波状の電圧が印加されるが、入力電圧はこれに限定されず略矩形パルス状の電圧であってもよい。
【0092】
また、本実施形態では、上述したように半導体基板1を陽極酸化により多孔質化したポーラス半導体を保持層2として用い、赤外線放射層5の発熱により赤外線を発生させるのに加えて、赤外線放射層5で保持層2を加熱することにより赤外線を発生させ、赤外線の放射効率を高めているが、保持層2として以下の構造を採用することにより、赤外線の放射効率を更に高めることが可能になる。
【0093】
すなわち、保持層2は、図7に示すように、バルク状シリコンからなる数μmのマクロポア(図示していないが、バルク状シリコンの表面が微視的に波打っている)内に、数nmのナノポアが形成された構造を有する。この構成は、陽極酸化の際に、半導体基板1の導電型、比抵抗、陽極酸化の条件(電解液の組成、電流密度、処理時間)を調節することにより形成する。たとえば、半導体基板1として、100Ωcm程度の高抵抗のp型シリコン基板を用い、陽極酸化の条件としてはフッ酸濃度が25%程度の高濃度のフッ酸溶液を用い、100mA/cm2程度の比較的大きな電流密度で処理すればいい。
【0094】
保持層2として図7に示す構造を採用すると、赤外線放射層5からの熱で保持層2が加熱されると、マクロポアによる空洞放射が生じて赤外線の放射率を一層高くすることができる。しかも、マクロポア内にナノポアが形成されていることにより、保持層2の表面にナノサイズの微細な凹凸が生じるだけであって、保持層2の表面状態が赤外線放射層5にほどんど影響しないから、赤外線放射層5を数十nm程度の厚みに形成することが可能である。
【0095】
保持層2を赤外線の放射に寄与させるには、保持層2の厚み寸法を0.5μm以上に設定する必要がある。この厚み寸法は、前記式1を用いて、赤外線放射層5に印加する電圧の周波数との関係により設定される。
【0096】
(実施形態2)
本実施形態における赤外線放射素子Bは、前記実施形態1の赤外線放射素子Aと、赤外線放射層5の配置のみが異なる。なお、実施形態1の赤外線放射素子Aと同様の機能を有するものについては同一の符号を付して説明を省略する。
【0097】
前記実施形態1では、赤外線放射層5が保持層2の上面全面に積層されていたが、本実施形態では、図8に示すように、赤外線放射層5は、保持層2の上面において前後方向に3分割されて配設されており、3つの赤外線放射層5間に露出する2箇所の保持層2の下面側に左右方向に所定の間隔を空けて2つの支持部4がそれぞれ設けられている。なお、本実施形態では、赤外線放射層5は3箇所に分割されているが、分割数はこれに限定されず、2箇所または4箇所以上であってもよいものとする。
【0098】
以上により、熱伝導率が保持層2に比べて高い赤外線放射層5が、支持部4に直接接しないため、赤外線放射層5で発生する熱が支持部4を介して半導体基板1側へ放熱されることを抑制でき、赤外線放射層5の発光効率を高めることができる。
【0099】
また、赤外線放射層5と支持部4とが直接接していないことで、赤外線放射層5と支持部4との間に大きな温度勾配が発生することを抑制でき、当該温度勾配に起因する大きな熱応力によって赤外線放射層5と支持部4とが破損することを防止できる。
【0100】
(実施形態3)
本実施形態における赤外線放射素子Cの製造方法について図9(a)〜(f)を用いて説明を行う。なお、実施形態1の赤外線放射素子Aと同様の機能を有するものについては、同一の符号を付して説明を省略する。また、図9における上下左右を基準として上下左右方向と直交する方向を前後方向とする。
【0101】
まず、図9(a)に示すように、半導体基板1の上面側において気体層3を形成する箇所に、プラズマCVDによって5μm程度の厚みをもった犠牲層13を積層する犠牲層形成工程を行う。
【0102】
次に、図9(b)に示すように、半導体基板1の下面に陽極酸化処理時にバックコンタクト用に用いられるアルミ電極9を形成した後、不純物ドープ7が施された厚み1μmのポリシリコン層(保持層)2によって犠牲層13を覆設するポリシリコン層形成工程を行う。
【0103】
ここで、ポリシリコン層2の厚みは、前記式1に基づいて形成されることで、赤外線放射層5は印加される電圧の周波数に対応して高速に昇温が行われ、大きな赤外線強度振幅を得ることができる。
【0104】
そして、図9(c)に示すように、犠牲層13に略対向するポリシリコン層2の厚み方向の領域に、左右方向に所定の間隔を空けてP+の不純物ドープ7をイオン注入法によって2箇所に施すドープ工程を行う。
【0105】
続いて、図9(d)に示すように、ポリシリコン層2を陽極酸化することにより多孔質化を行う多孔質化工程を行う。これにより、前記不純物ドープ7が施された箇所は多孔質化されず、不純物ドープ7が施されていない箇所は多孔質化される。ここで、陽極酸化処理では、当該電解液として、フッ化水素水溶液とエタノールとを混合したフッ化水素30%の溶液を用い、陽極酸化を行う表面のみを電解液に接触させ、ポリシリコン層2の上面に図示しない白金電極を配置して、下面から通電可能な治具にセットし、所定の電流密度(例えば、100mA/cm2)の電流を所定時間だけ流すことにより多孔質層を形成する。
【0106】
更に、図9(e)に示すように、犠牲層13において、ポリシリコン層2の厚み方向で前記不純物ドープ7と対向する箇所は、エッチングによって除去せずに残存することで支持部を形成し、不純物ドープ7と対向していない箇所は、エッチングによって除去することで気体層3を形成するエッチング工程を行う。ここで、エッチングには、HF溶液が用いられる。
【0107】
ここで、気体層3の厚みは、前記式2に基づいて形成されることで、気体層3が断熱層から放熱層に切り替わるタイミングと、赤外線放射層5に印加される電圧が昇圧から降圧に切り替わるタイミングとを略一致させることができ、赤外線放射層5に印加される電圧が高周波変調されている場合であっても、電圧の周波数に略同期して赤外線放射層5を昇降温させることができると共に、大きな赤外線放射振幅を得ることができる。
【0108】
そして、図9(f)に示すように、保持層2の上面に、通電により発熱する貴金属(Ir)かからなる赤外線放射層5を100nm程度積層する赤外線放射層形成工程を行い、その後に当該赤外線放射層5の左右両端に一対の電極6を設ける電極形成工程を行う。ここで、電極6は、メタルマスクなどを利用した蒸着法などによって設けられる。なお、本実施形態では、赤外線放射層5として貴金属のIrから形成しているが材料はこれに限定されず、耐熱性金属、金属窒化物、金属炭化物等であってもよい。
【0109】
以上、図9(a)〜(f)で示される赤外線放射素子Cの製造方法によれば、エッチングにより除去される犠牲層13を設けた後に、犠牲層13に覆設するポリシリコン層2を陽極酸化により多孔質層とし、当該多孔質層を介して犠牲層13をエッチングすることで、気体層3を形成すると共に多孔質層を中空上に容易に形成することができる。
【0110】
また、予めポリシリコン層2に不純物ドープ7を施すことにより、ポリシリコン層2に陽極酸化されない領域を形成でき、犠牲層13をエッチングする際にその厚み方向において不純物ドープ7と対向する箇所を残存することで、気体層3と支持部4とを容易に同時形成することができる。
【0111】
(実施形態4)
本発明の実施形態について図10を用いて説明を行う。
【0112】
本実施形態における赤外線式ガス検知器は、図10に示すように、赤外線放射素子Aを有する赤外線送信器20と、赤外線送信器20から送信される赤外線を受光する赤外線検知器30と、赤外線送信器20から送信される赤外線を赤外線検知器30へと導く導光管40とを備え、例えば、ガス漏れ検知に用いられる。なお、本実施形態では、実施形態1で示す赤外線放射素子Aを用いているが、実施形態2で示した赤外線放射素子B、または、実施形態3で示した赤外線放射素子Cであってもよい。
【0113】
赤外線送信器20は、赤外線放射素子Aと、赤外線放射素子Aに単パルス電力を周期的に供給して赤外線を放射させる駆動回路(駆動手段)21と、赤外線放射素子Aを収納する中空箱型の第一の筐体22と、第一の筐体22の一面に貫設されると共に赤外線放射素子Aから放射される赤外線を透過させて導光管40へ導入させるレンズ23とから構成される。なお、パルス電力は、単パルス、または、連続的な複数のパルスのいずれであってもよい。
【0114】
赤外線検知器30は、中空箱型の第二のケース31と、第二のケース31の一面に貫設されて導光管40から入射する赤外線の内で後述の検出ガスが吸収する波長帯の成分のみを透過させるフィルタ32と、第二のケース31内に配設されてフィルタ32を透過する赤外線を受光する焦電型の赤外線受光素子(赤外線受光手段)33と、赤外線受光素子33の受光結果に基づいて検知信号を出力する検知回路(検知手段)34とから構成される。
【0115】
フィルタ32は、互いに異なる波長帯の赤外線を透過させる2つのバンドパスフィルタ321、322が、並設されることで構成されている。ここで、バンドパスフィルタ321,322は、検出対象とするガス(検出ガス)の種類によって通過させる赤外線の波長が決定される。
【0116】
そして、バンドパスフィルタ321、322には、それぞれ対向して赤外線受光素子331、332設けられている。なお、赤外線受光素子331,332を区別しない場合には、赤外線受光素子33と称す。
【0117】
導光管40は、金等の金属薄膜がスパッタ法によって内面全体に形成された筒状に形成され、一端が赤外線送信器20のレンズ23に対向し、他端が赤外線検知器30のフィルタ32に対向して大気中に設けられる。そして、導光管40の筒壁には、検出対象のガスが流入または流出する複数の流入出孔40aが形成されており、大気中にガスが存在する場合には、流入出孔40aを介して導光管40内にもガスが流入する。
【0118】
そして、導光管40内にガスが流入した状態で赤外線送信器20から導光管40内へ赤外線が送出されると、当該赤外線は導光管40内をガスを含んだ大気を介して赤外線検知器30に到達する。
【0119】
ところで、検出ガスとしては、例えば、一酸化炭素や二酸化炭素、メタンガスを対象としており、ガスの種類によって吸収される赤外線の波長帯が異なっている(例えば、二酸化炭素を検出する場合には、4.25μm)。そのため、導光管40内にガスが存在する場合には、導光管40内にガスが存在しない場合と比べて、当該導光管40を介して赤外線検知器30に入射する赤外線において、前記ガスによって吸収される波長帯の成分が、減少する。
【0120】
そして、赤外線検知器30に到達した赤外線の内、バンドパスフィルタ321、322を透過する赤外線だけが、赤外線受光素子331、332にそれぞれ受光される。続いて、赤外線受光素子331,332は受光した赤外線量に基づいて受光信号を検知回路34へ出力し、検知回路34は、赤外線受光素子331、332から入力される受光信号の差分に基づいてガスの有無を判定し、検知信号を出力する。
【0121】
そして、上記赤外線式ガス検知器は、高出力、高周波駆動が可能な赤外線放射素子Aを備えていることから、高精度、低消費電力化を図ることができる。
【0122】
なお、本実施形態では、フィルタ32が2つのバンドパスフィルタ321,322を有しているが、バンドパスフィルタの数は3つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0123】
1 半導体基板
2 保持層
3 気体層
4 支持部
5 赤外線放射層
6 電極
21 駆動回路(駆動手段)
32 フィルタ
33 赤外線受光素子(赤外線受光手段)
34 検知回路(検知手段)
A〜C 赤外線放射素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
半導体基板の一面に形成された薄膜状の保持層と、
半導体基板の一面及び保持層の一面によって囲まれた空間からなる気体層と、
保持層の他面に積層され、電気入力されることによる発熱によって赤外線を放射する赤外線放射層とを備え、
前記気体層は、赤外線放射層に印加される電圧の周波数に基づいてその厚みが設定され、赤外線放射層の昇温時には断熱層として働き、赤外線放射層の降温時には放熱層として働くことを特徴とする赤外線放射素子。
【請求項2】
前記気体層には、半導体基板と保持層とを連結し、保持層を支持する支持部が設けられることを特徴とする請求項1記載の赤外線放射素子。
【請求項3】
前記支持部は、単結晶シリコンからなることを特徴とする請求項2記載の赤外線放射素子。
【請求項4】
前記保持層の他面には、赤外線放射層が複数箇所に積層され、赤外線放射層間に露出する保持層の一面側に支持部が設けられていることを特徴とする請求項2または3記載の赤外線放射素子。
【請求項5】
前記保持層は、多孔質層からなることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の赤外線放射素子。
【請求項6】
前記多孔質層は、ポーラスシリコン、またはポーラスポリシリコンからなることを特徴とする請求項5記載の赤外線放射素子。
【請求項7】
前記保持層は、その周縁が半導体基板に固定されていることを特徴とする請求項1乃至6いずれか記載の赤外線放射素子。
【請求項8】
前記半導体基板と保持層とが接合する箇所は、保持層と半導体基板の接合を補強する補強部を備えることを特徴とする請求項7記載の赤外線放射素子。
【請求項9】
前記保持層は、熱伝導率が半導体基板よりも小さく、赤外線放射層の通電に伴う赤外線放射層からの伝熱による一部の温度上昇と、赤外線放射層から入射する赤外線の反射との少なくとも一方により、赤外線放射層に向かう向きに赤外線を放射し、
前記赤外線放射層は、保持層から放射された赤外線を通過させる機能を有することを特徴とする請求項1乃至8いずれか記載の赤外線放射素子。
【請求項10】
前記保持層の厚み寸法は、目的波長の赤外線に対する光路長が当該赤外線の半波長の自然数倍となる寸法に設定されていることを特徴とする請求項1乃至9いずれか記載の赤外線放射素子。
【請求項11】
前記保持層は、加熱時に空洞放射により赤外線を放射するマクロポアがバルク半導体に形成され、かつマクロポア内にナノポアが形成された構造であることを特徴とする請求項1乃至10いずれか記載の赤外線放射素子。
【請求項12】
前記保持層は、半導体の酸化物を含む電気絶縁膜により形成されていることを特徴とする請求項1乃至10いずれか記載の赤外線放射素子。
【請求項13】
前記赤外線放射素子は、負の抵抗温度係数を持つ材料により形成されていることを特徴とする請求項1乃至12いずれか記載の赤外線放射素子。
【請求項14】
前記赤外線放射素子は、TaN,TiNから選択されることを特徴とする請求項1乃至13いずれか記載の赤外線放射素子。
【請求項15】
請求項1乃至14いずれか記載の赤外線放射素子、及び赤外線放射素子に電力を供給して赤外線を放射させる駆動手段を有する赤外線送信器と、
所定の波長を有する赤外線のみを透過させるフィルタ、及び前記波長を有する赤外線に対して最も高い感度を有し、フィルタを透過した赤外線を受光して受光信号を出力する赤外線受光手段、及び受光信号に基づいて検知信号を出力する検知手段を有する赤外線検知器と備えることを特徴とする赤外線式ガス検知器。
【請求項16】
半導体基板の一面における所定領域の周縁に陽極酸化マスクを施すマスク工程と、
前記所定領域を陽極酸化することで多孔質層を形成する多孔質化工程と、
前記多孔質層に対向する半導体基板の厚み方向の領域を陽極酸化により電解研磨することで気体層を形成する電解研磨工程と、
前記多孔質層の他面側に赤外線放射層を形成する赤外線放射層形成工程とを備え、
前記気体層は、赤外線放射層に印加される電圧の周波数に基づいてその厚みが設定され、赤外線放射層の昇温時には断熱層として働き、赤外線放射層の降温時には放熱層として働くことを特徴とする赤外線放射素子の製造方法。
【請求項17】
前記マスク工程の前に、前記所定領域の所定の箇所に不純物ドープを施す第一のドープ工程を備え、当該不純物ドープが施された箇所は、前記多孔質化工程によって多孔質化されず前記電解研磨工程においてドープの厚み方向に研磨されずに残存する半導体基板とから支持部が形成され、不純物ドープが施されていない箇所は、前記多孔質化工程によって多孔質層が形成され、前記電解研磨工程において前記多孔質層の厚み方向に対向する半導体基板の領域に気体層が形成されることを特徴とする請求項16記載の赤外線放射素子の製造方法。
【請求項18】
前記マスク工程の前に、半導体基板の一面において陽極酸化マスクと所定領域との境界において、陽極酸化マスクと所定領域の両方にかかる不純物ドープを施す第二のドープ工程を備え、当該不純物ドープが施された箇所には、当該ドープと前記多孔質化工程によって多孔質化されず前記電解研磨工程によってドープの厚み方向に研磨されずに残存する半導体基板とから補強部が形成され、不純物ドープが施されていない箇所には、前記多孔質化工程によってポーラスシリコン層が形成され、前記電解研磨工程において前記ポーラスシリコン層の厚み方向に対向する半導体基板の領域に気体層が形成されることを特徴とする請求項16または17記載の赤外線放射素子の製造方法。
【請求項19】
半導体基板の一面の所定の領域に犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、
前記犠牲層の表面に不純物ドープされたポリシリコン層を形成するポリシリコン層形成工程と、
前記ポリシリコン層を陽極酸化することにより多孔質層を形成する多孔質化工程と、
前記多孔質層を介して犠牲層をエッチングすることで犠牲層を除去し、多孔質層の一面と半導体基板の一面との間に気体層を形成するエッチング工程と、
前記多孔質層の他面に赤外線放射層を形成する赤外線放射層形成工程とを備え、
前記気体層は、赤外線放射層に印加される電圧の周波数に基づいてその厚みが設定され、赤外線放射層の昇温時には断熱層として働き、赤外線放射層の降温時には放熱層として働くことを特徴とする赤外線放射素子の製造方法。
【請求項20】
前記ポリシリコン層形成工程と多孔質化工程との間に、ポリシリコン層の厚み方向において当該ポリシリコン層の犠牲層と対向する領域の所定の位置に不純物ドープを施すドープ工程を備え、当該不純物ドープが施された箇所は、多孔質化工程によって陽極酸化されず、当該ドープが施された箇所とドープが施された箇所に対向する犠牲層の一部とが、エッチング工程で除去されず残存することで支持部を形成し、不純物ドープが施されていない箇所は、多孔質化工程によって多孔質層が形成され、エッチング工程により前記支持部となる箇所を除いて犠牲層を除去することで気体層が形成されることを特徴とする請求項19記載の赤外線放射素子の製造方法。
【請求項1】
半導体基板と、
半導体基板の一面に形成された薄膜状の保持層と、
半導体基板の一面及び保持層の一面によって囲まれた空間からなる気体層と、
保持層の他面に積層され、電気入力されることによる発熱によって赤外線を放射する赤外線放射層とを備え、
前記気体層は、赤外線放射層に印加される電圧の周波数に基づいてその厚みが設定され、赤外線放射層の昇温時には断熱層として働き、赤外線放射層の降温時には放熱層として働くことを特徴とする赤外線放射素子。
【請求項2】
前記気体層には、半導体基板と保持層とを連結し、保持層を支持する支持部が設けられることを特徴とする請求項1記載の赤外線放射素子。
【請求項3】
前記支持部は、単結晶シリコンからなることを特徴とする請求項2記載の赤外線放射素子。
【請求項4】
前記保持層の他面には、赤外線放射層が複数箇所に積層され、赤外線放射層間に露出する保持層の一面側に支持部が設けられていることを特徴とする請求項2または3記載の赤外線放射素子。
【請求項5】
前記保持層は、多孔質層からなることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の赤外線放射素子。
【請求項6】
前記多孔質層は、ポーラスシリコン、またはポーラスポリシリコンからなることを特徴とする請求項5記載の赤外線放射素子。
【請求項7】
前記保持層は、その周縁が半導体基板に固定されていることを特徴とする請求項1乃至6いずれか記載の赤外線放射素子。
【請求項8】
前記半導体基板と保持層とが接合する箇所は、保持層と半導体基板の接合を補強する補強部を備えることを特徴とする請求項7記載の赤外線放射素子。
【請求項9】
前記保持層は、熱伝導率が半導体基板よりも小さく、赤外線放射層の通電に伴う赤外線放射層からの伝熱による一部の温度上昇と、赤外線放射層から入射する赤外線の反射との少なくとも一方により、赤外線放射層に向かう向きに赤外線を放射し、
前記赤外線放射層は、保持層から放射された赤外線を通過させる機能を有することを特徴とする請求項1乃至8いずれか記載の赤外線放射素子。
【請求項10】
前記保持層の厚み寸法は、目的波長の赤外線に対する光路長が当該赤外線の半波長の自然数倍となる寸法に設定されていることを特徴とする請求項1乃至9いずれか記載の赤外線放射素子。
【請求項11】
前記保持層は、加熱時に空洞放射により赤外線を放射するマクロポアがバルク半導体に形成され、かつマクロポア内にナノポアが形成された構造であることを特徴とする請求項1乃至10いずれか記載の赤外線放射素子。
【請求項12】
前記保持層は、半導体の酸化物を含む電気絶縁膜により形成されていることを特徴とする請求項1乃至10いずれか記載の赤外線放射素子。
【請求項13】
前記赤外線放射素子は、負の抵抗温度係数を持つ材料により形成されていることを特徴とする請求項1乃至12いずれか記載の赤外線放射素子。
【請求項14】
前記赤外線放射素子は、TaN,TiNから選択されることを特徴とする請求項1乃至13いずれか記載の赤外線放射素子。
【請求項15】
請求項1乃至14いずれか記載の赤外線放射素子、及び赤外線放射素子に電力を供給して赤外線を放射させる駆動手段を有する赤外線送信器と、
所定の波長を有する赤外線のみを透過させるフィルタ、及び前記波長を有する赤外線に対して最も高い感度を有し、フィルタを透過した赤外線を受光して受光信号を出力する赤外線受光手段、及び受光信号に基づいて検知信号を出力する検知手段を有する赤外線検知器と備えることを特徴とする赤外線式ガス検知器。
【請求項16】
半導体基板の一面における所定領域の周縁に陽極酸化マスクを施すマスク工程と、
前記所定領域を陽極酸化することで多孔質層を形成する多孔質化工程と、
前記多孔質層に対向する半導体基板の厚み方向の領域を陽極酸化により電解研磨することで気体層を形成する電解研磨工程と、
前記多孔質層の他面側に赤外線放射層を形成する赤外線放射層形成工程とを備え、
前記気体層は、赤外線放射層に印加される電圧の周波数に基づいてその厚みが設定され、赤外線放射層の昇温時には断熱層として働き、赤外線放射層の降温時には放熱層として働くことを特徴とする赤外線放射素子の製造方法。
【請求項17】
前記マスク工程の前に、前記所定領域の所定の箇所に不純物ドープを施す第一のドープ工程を備え、当該不純物ドープが施された箇所は、前記多孔質化工程によって多孔質化されず前記電解研磨工程においてドープの厚み方向に研磨されずに残存する半導体基板とから支持部が形成され、不純物ドープが施されていない箇所は、前記多孔質化工程によって多孔質層が形成され、前記電解研磨工程において前記多孔質層の厚み方向に対向する半導体基板の領域に気体層が形成されることを特徴とする請求項16記載の赤外線放射素子の製造方法。
【請求項18】
前記マスク工程の前に、半導体基板の一面において陽極酸化マスクと所定領域との境界において、陽極酸化マスクと所定領域の両方にかかる不純物ドープを施す第二のドープ工程を備え、当該不純物ドープが施された箇所には、当該ドープと前記多孔質化工程によって多孔質化されず前記電解研磨工程によってドープの厚み方向に研磨されずに残存する半導体基板とから補強部が形成され、不純物ドープが施されていない箇所には、前記多孔質化工程によってポーラスシリコン層が形成され、前記電解研磨工程において前記ポーラスシリコン層の厚み方向に対向する半導体基板の領域に気体層が形成されることを特徴とする請求項16または17記載の赤外線放射素子の製造方法。
【請求項19】
半導体基板の一面の所定の領域に犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、
前記犠牲層の表面に不純物ドープされたポリシリコン層を形成するポリシリコン層形成工程と、
前記ポリシリコン層を陽極酸化することにより多孔質層を形成する多孔質化工程と、
前記多孔質層を介して犠牲層をエッチングすることで犠牲層を除去し、多孔質層の一面と半導体基板の一面との間に気体層を形成するエッチング工程と、
前記多孔質層の他面に赤外線放射層を形成する赤外線放射層形成工程とを備え、
前記気体層は、赤外線放射層に印加される電圧の周波数に基づいてその厚みが設定され、赤外線放射層の昇温時には断熱層として働き、赤外線放射層の降温時には放熱層として働くことを特徴とする赤外線放射素子の製造方法。
【請求項20】
前記ポリシリコン層形成工程と多孔質化工程との間に、ポリシリコン層の厚み方向において当該ポリシリコン層の犠牲層と対向する領域の所定の位置に不純物ドープを施すドープ工程を備え、当該不純物ドープが施された箇所は、多孔質化工程によって陽極酸化されず、当該ドープが施された箇所とドープが施された箇所に対向する犠牲層の一部とが、エッチング工程で除去されず残存することで支持部を形成し、不純物ドープが施されていない箇所は、多孔質化工程によって多孔質層が形成され、エッチング工程により前記支持部となる箇所を除いて犠牲層を除去することで気体層が形成されることを特徴とする請求項19記載の赤外線放射素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−164550(P2010−164550A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217332(P2009−217332)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]