赤外線温度センサおよびその製造方法
【課題】赤外線透過窓と赤外線感応部との距離を自由に小さくできるとともに、赤外線透過窓の径を自由に小さくできるようにして、ナノ領域の温度計測に好適な赤外線温度センサを提供する。
【解決手段】段差部の低い領域21に赤外線通過窓22が設けられた遮蔽基板 2と、赤外線検出部11が設けられたセンサ基板1とが対向している。赤外線通過窓22の延長線上に赤外線検出部11が位置し、センサ基板1と遮蔽基板2とが接合されている。
【解決手段】段差部の低い領域21に赤外線通過窓22が設けられた遮蔽基板 2と、赤外線検出部11が設けられたセンサ基板1とが対向している。赤外線通過窓22の延長線上に赤外線検出部11が位置し、センサ基板1と遮蔽基板2とが接合されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノテクノロジー分野における材料やデバイス等の微小領域の温度計測を行う赤外線温度センサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノテクノロジーの進展につれて、バイオ研究分野、材料研究分野あるいは電子デバイス研究分野などにおいて、生体・材料の熱物性評価や電子デバイスの熱問題の解決等に多くの取り組みがなされており、微小領域の温度分布を高精度に計測できる温度センサが強く求められている。
【0003】
このような微小領域の温度分布を計測する場合、計測対象に熱伝導による影響や変形・破壊などを与えないようにすることが重要であり、非接触式の温度計測法が必要とされる。
【0004】
非接触式の温度センサとしては、特許文献1に開示されているシリコン基板を用いた非接触式の赤外線センサが知られている。特許文献1に開示されている赤外線センサは、図23に示すように、シリコン基板102の両面にシリコンオキシナイトライド膜105が形成され、一方のシリコンオキシナイトライド膜105に赤外線感応部106bが設けられ、他方のシリコンオキシナイトライド膜105に赤外線透過窓107が設けられている。
【0005】
シリコン基板102は、赤外線透過窓107と赤外線感応部106bとの間が部分的にエッチング除去されて空洞部103が形成されており、赤外線透過窓107と赤外線感応部106bとの距離がシリコン基板102の厚さに等しくなっている。さらに、シリコン基板102は、空洞部103の周辺部が温度センサ全体の筐体となっている。
【0006】
このような赤外線センサは、温度センサ全体の強度を確保するために、厚さが数百μm以上のシリコン基板102を用いており、赤外線透過窓107と赤外線感応部106bとの距離も数百μm以上となる。そのため、微弱放射エネルギーの測定、すなわち径が1μm程度以下のナノ領域の温度あるいは数十℃程度の低温領域の温度を測定する場合には、赤外線感応部106bに到達するエネルギーが不十分で、感度不足となり、温度計測ができないという欠点があった。
【0007】
また、赤外線感応部106bの赤外線吸収膜108が赤外線吸収窓107を通して蒸着により形成されるので、赤外線吸収窓107の径は蒸着が行える100μm程度の大きさを確保しなければならない。そのため、径が数十μm程度より微小な領域の温度分布を計測できないという欠点があった。
【特許文献1】特開平6−160173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の赤外線センサのように赤外線透過窓と赤外線感応部との距離がシリコン基板の厚さに規制されるのを解消し、赤外線透過窓と赤外線感応部との距離を自由に近づけることができるようにするとともに、赤外線透過窓の径を自由に小さくできるようにして、ナノ領域の温度計測に好適な赤外線温度センサを提供することを目的としている。
また、MEMS技術等を用いて高精度にかつ簡便に製造することが可能な赤外線温度センサの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、一方の面に段差部が形成され、該段差部の低い領域に赤外線通過窓が設けられた遮蔽基板と、一方の面に赤外線検出部が設けられたセンサ基板とを備え、前記遮蔽基板の段差部が形成された面と前記センサ基板の赤外線検出部が設けられた面とが対向し、かつ前記赤外線検出部が前記赤外線通過窓の延長線上に位置して、前記遮蔽基板と前記センサ基板とが接合されたことを特徴とする赤外線温度センサが得られる。
【0010】
また、前記遮蔽基板がシリコンまたはゲルマニウムからなることを特徴とする赤外線温度センを提供する。さらに、前記赤外線検出部が焦電効果素子を有することを特徴とする赤外線温度センサを提供する。
【0011】
また、前記赤外線検出部が前記センサ基板に架橋部を介して支持されていることを特徴とする赤外線温度センサを提供する。
【0012】
さらに本発明によれば、第一基板の一方の面に段差部を形成するとともに、該段差部の低い領域に赤外線通過窓を形成する第一基板工程と、第二基板の一方の面に赤外線検出部を形成する第二基板工程と、前記第一基板工程で得られた前記第一基板の段差部が形成された面と前記第二基板工程で得られた前記第二基板の赤外線検出部が形成された面とを対向させ、前記赤外線通過窓の延長線上に前記赤外線検出部を位置づけして前記第一基板と前記第二基板とを接合する接合工程とを有することを特徴とする赤外線温度センサの製造方法が得られる。
【0013】
また、前記第一基板工程が、第一基板の一方の面に段差部をエッチングにより形成する工程と、該段差部の低い領域に赤外線通過窓を集束イオンビーム加工により形成する工程とを有することを特徴とする赤外線温度センサの製造方法を提供する。
【0014】
さらに、前記第二基板工程が、第二基板の一方の面に導電性薄膜により第一電極を形成する工程と、該工程にて形成された第一電極上に焦電効果薄膜と導電性薄膜とを積層して焦電素子と第二電極を形成する工程とを有することを特徴とする赤外線温度センサの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、段差部の低い領域に赤外線通過窓が設けられた遮蔽基板と、一方の面に赤外線検出部が設けられたセンサ基板とが対向し、赤外線検出部が赤外線通過窓の延長線上に位置して接合されているので、温度センサ全体の強度をセンサ基板により確保しつつ赤外線通過窓と赤外線検出部との距離は、段差部の段差に合わせて任意に設定できる。また、赤外線通過窓の大きさは、赤外線検出部の形成工程に規制されることなく、自由に選択することができる。
【0016】
従って、段差部の段差を必要に応じて小さくし、赤外線透過窓と赤外線感応部との距離を近づけて温度測定の感度を高めることができるとともに、赤外線透過窓の径の大きさを所望のサイズとしてナノ領域の温度計測を高精度に行うことが可能となる。
【0017】
段差部の段差が10μm以下であると、径が1μm程度以下の微小領域の温度あるいは数十℃程度の低温領域の細胞等の温度を測定が容易になる。
【0018】
また、赤外線透過窓の径が1μm以下であると、径が数十μm程度以下の微小領域の温度分布を正確に計測できる。
【0019】
また、遮蔽基板がシリコンまたはゲルマニウムであると、MEMS技術を用いて、段差の小さな段差部を容易に形成できるとともに、小さな赤外線透過窓を容易に形成できる。遮蔽基板は、赤外線が入射する面にアルミニウム等の金属薄膜を蒸着したものであると赤外線遮蔽効果を高めることができる。
【0020】
さらに、赤外線検出部が焦電効果素子を有するものであると、自発分極の変化に応じて発生する電位により温度が観測できるので、赤外線検出部の通電電流は不要になる。従って、赤外線検出部は、通電電流による発熱がなく、抵抗値変化に応じて生ずる電流変化により温度を観測するものに比べて、低温化が実現でき、ノイズを抑えて測定感度を高めることができる。また、測定時の応答速度を速めることも可能となる。
【0021】
焦電効果素子としては、PZTあるいは酸化亜鉛を利用したものが焦電効果が大きいので好ましい。
【0022】
焦電効果素子の電極材料は、Au、Pt、AgあるいはCuが好ましい。これらは、電気抵抗が小さく、かつ熱抵抗が小さいので、測定感度を高めることができる。Niは、熱吸収が大きい点で、電極材料として好ましい。
【0023】
また、赤外線検出部がセンサ基板に架橋部を介して支持されていると、赤外線感応部とセンサ基板との熱伝導を抑え、応答速度が速く、高感度な温度計測が可能となる。センサ基板がシリコンまたはゲルマニウムであると、異方性エッチングにより架橋部の形成が容易である。
【0024】
さらに本発明によれば、第一基板に段差部を形成するとともに、段差部の低い領域に赤外線通過窓を形成し、第二基板の一方の面に赤外線検出部を形成し、第一基板の段差部が形成された面と前記第二基板の赤外線検出部が形成された面とを対向させ、赤外線通過窓の延長線上に赤外線検出部を位置づけして接合したので、赤外線通過窓と赤外線検出部との距離が段差部の段差によって設定される。しかも、赤外線通過窓を利用することなく赤外線検出部が形成できるので、赤外線通過窓の大きさを自由に小さくできる。
【0025】
また、第一基板工程において、第一基板の一方の面に段差部をエッチングにより形成すると、10nmないし数十μmの段差を容易に形成できる。特に、第一基板がシリコンまたはゲルマニウムであると、異方性エッチングを適用して段差部をテーパー状に形成できる。従って、第一基板が薄いものであってもテーパー状段差部により第一基板のたわみが抑えられ、次工程以下において精度を保って加工を行うことができる。また、赤外線通過窓を集束イオンビーム加工により形成すると、径が10nmないし数十μmの赤外線通過窓を容易に、かつ精度よく形成できる。
【0026】
さらに、第二基板工程において、第二基板の一方の面に第一電極を形成し、第一電極上に焦電効果薄膜と導電性薄膜とを積層して焦電素子と第二電極を形成すると焦電素子と第二電極とを同一レジストパターンで形成することができ、工程が簡略化できる。
【0027】
焦電素子と第二電極とを形成する工程の後に、第二基板の焦電効果素子が形成された面を、適宜パターンエッチングすることにより、焦電効果素子を支持する架橋部を形成することが可能となる。
【0028】
第二基板がシリコンまたはゲルマニウムであると、エッチング技術により架橋部の形成が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施の形態の赤外線温度センサの要部構成を示す部分斜視図であり、図1において、1はセンサ基板であるシリコン基板、2は遮蔽基板であるシリコン基板である。シリコン基板1のシリコン基板2と対向する面には、図2以下に説明するように、赤外線検出部11が設けられている。
【0030】
シリコン基板2のシリコン基板1と対向する面には段差t1の段差部が形成され、その低い領域21が赤外線検出部11と距離t1を保って対向しており、シリコン基板2の赤外線検出部11の直下には赤外線通過窓22が設けられている。
また、シリコン基板2は、その段差の高い領域23においてシリコン基板1と接合されている。尚、図1では、説明の都合上、シリコン基板1およびシリコン基板2の要部のみを図示したものである。
【0031】
図2は、図1に示した赤外線温度センサのセンサ中心を通るS−S'線に沿った要部断面図である。シリコン基板1に設けられた赤外線検出部11は、直下のシリコン基板2に設けられた径がΦ1の赤外線通過窓22と対向しており、シリコン基板2の下側を測定対象物3に近づけると、測定対象物3から放射される赤外線が赤外線通過窓22を介して赤外線検出部11に入射し、赤外線検出部11にて測定対象物3の温度が測定できる構成となっている。
【0032】
次に、シリコン基板1の詳細について、図3を用いて説明する。図3は、図1に示したシリコン基板1の要部平面図および要部断面図である。
【0033】
図3(h)はシリコン基板1の要部平面図、図3(v)は図3(h)のA−A'線に沿った断面図、図3(t)は図3(h)のB−B'線に沿った断面図である。
【0034】
赤外線検出部11は、シリコン基板1上にSiO2薄膜12を介して形成されており、下部電極13、焦電効果素子であるPZT素子14、上部電極15が順次積層された構成になっている。下部電極13は、下部電極13と同一導電膜で形成された引出し電極16に引出し線を介して接続されている。
【0035】
また、上部電極15は、引出し電極16とA−A'線に対して対称な位置に形成された引出し電極17に引出し線を介して接続されている。尚、引出し電極17およびそれに接続される引出し線は、PZT素子14および上部電極15を形成する膜が積層されたものである。
【0036】
続いてシリコン基板2の詳細について、図4を用いて説明する。図4はシリコン基板2の要部斜視図であり、同図に示すようにシリコン基板2は赤外線検出部11と対向する側の一部21を深さt1だけエッチング加工して段差を設けたもので、その低い領域21の赤外線検出部11の直下には径がΦ1の赤外線通過窓22が設けられている。
【0037】
シリコン基板2は、赤外線が入射する面にアルミニウム等の金属薄膜24が蒸着されていて、赤外線遮蔽効果を高めている。
【0038】
尚、シリコン基板2の低い領域21と高い領域23の境界部は傾斜状の段差となっている。
【0039】
このような赤外線温度センサにおいて、赤外線通過窓22の径Φ1を10nmないし1000nmの範囲で適宜設定し、赤外線検出部11の一辺を1μmないし1000μmの範囲で適宜設定すると、径が数十μm程度以下の測定対象物3の微小領域の温度分布を正確に計測できる。
【0040】
また、シリコン基板2の段差t1が10μm以下であると、径が1μm程度以下の微小領域の温度あるいは数十℃程度の低温領域の細胞等の温度を測定が容易になる。
【0041】
尚、赤外線通過窓22が設けられたシリコン基板2の厚さは、10μm以下であることが望ましい。続いて、このような赤外線温度センサの製造方法について、図面を用いて説明する。
【0042】
図5ないし図16は、本発明の実施の形態の赤外線温度センサを構成するシリコン基板1の製造工程を示す要部工程図である。図5において、図5(h)は、図3(h)に示したシリコン基板1と同じ位置におけるシリコン基板1の要部平面図であり、図5(v)は、図3のA−A'線と同じ位置で図5(h)引いた線に沿う断面図であり、図5(t)は図3のB−B'線と同じ位置で図5(h)引いた線に沿う断面図であり、各々引いた線を省略したものである。
【0043】
以下、図6(h)、図6(v)および図6(t)ないし図16(h)、図16(v)および図16(t)についても同様である。
【0044】
まず、図5(h)、図5(v)および図5(t)に示すように所定の厚さのシリコン基板1を用意する。次に、図6(h)、図6(v)および図6(t)に示すように、シリコン基板1の一方の面に所定の厚さにSiO2薄膜31を熱酸化により形成する。
【0045】
その後、全面にポジレジストを塗布するとともに露光して、図7(h)、図7(v)および図7(t)に示すように、レジストパターン41を形成する。
【0046】
次に、パターン41に従ってSiO2薄膜31をドライエッチングし、図8(h)、図8(v)および図8(t)に示すように、SiO2薄膜12のパターンを作る。さらに、全面にポジレジストを塗布するとともに露光して、図9(h)、図9(v)および図9(t)に示すように、レジストパターン42を形成する。
【0047】
続いて、図10(h)、図10(v)および図10(t)に示すように、全面にTi/Pt薄膜32をスパッタにより所定厚さに形成する。その後、レジストパターン42に従ってTi/Pt薄膜32をリフトオフし、図11(h)、図11(v)および図11(t)に示すように、SiO2薄膜12の上に赤外線検出部11の下部電極13、引出し電極16およびそれらを接続する引出し線を形成する。
【0048】
次に、図12(h)、図12(v)および図12(t)に示すように、全面にPZT薄膜33をスパッタにより所定厚さに形成するとともに、図13(h)、図13(v)および図13(t)に示すように、その上全面にNi薄膜34をスパッタにより所定厚さに形成する。
【0049】
ここで、PZT薄膜33のスパッタ蒸着は、例えばマグネトロンスパッタリングにて行い、PZT(Pb(Zr0.48Ti0.52)O3)よりもPbリッチターゲットを用いて行うことができる。その条件は例えば、基板温度が700℃、圧力が3mTorr、電力が200Wであり、雰囲気ガスとしてはArガスを使用する。
【0050】
さらに、Ni薄膜34の上全面にネガレジストを塗布するとともに露光して、図14(h)、図14(v)および図14(t)に示すように、レジストパターン43を形成する。
【0051】
次いで、レジストパターン43に覆われていない領域のPZT薄膜33およびNi薄膜34をRIE(リアクテイブイオンエッチング)法により取り除き、図15(h)、図15(v)および図15(t)に示すように、焦電効果素子14、上部電極15およびそれらを接続するその引き出し線を形成する。
【0052】
その後、レジストパターン43を除去し、図16(h)、図16(v)および図16(t)に示すようにセンサ基板であるシリコン基板1を完成させる。図17ないし図22は、本発明の実施の形態の赤外線温度センサを構成するシリコン基板2の製造工程を示す要部工程図である。
【0053】
図17において図17(h)は、図4に示したシリコン基板2と同じ位置におけるシリコン基板2の要部平面図であり、図17(v)は、図4のC−C'線と同じ位置で図17(h)引いた線に沿う断面図であり、引いた線を省略したものである。以下、図18(h)、図18(v)ないし図22(h)、図22(v)についても同様である。
【0054】
まず、図17(h)、図17(v)に示すように、所定の厚さのシリコン基板2を用意し、続いて、図18(h)、図18(v)に示すように、シリコン基板2の一方の表面に所定の厚さのアルミニウムの金属薄膜24をスパッタ蒸着により形成する。
【0055】
次に、図19(h)、図19(v)に示すように、シリコン基板2の他方の表面にレジストを塗布し、露光してレジストパターン61を形成する。ここでレジストパターン61は、シリコン基板2に段差部を形成するもので、段差部の低い領域を露出させる形状となっている。
【0056】
次いで、図20(h)、図20(v)に示すように、シリコン基板2の露出面に異方性エッチングを行い、深さt1だけエッチングした時点でエッチングを終了し、シリコン基板2に段差を形成する。
【0057】
シリコン基板2は、異方性エッチングにより、レジストパターン61の境界線から段差部の低い領域21に向かう傾斜面が形成される。次に、レジストパターン61を除去し、図21(h)、図21(v)に示すように、シリコン基板2の段差部の高い領域23を露出させる。
【0058】
次いで、シリコン基板2の段差部の低い領域21の所定位置に、集束イオンビーム加工により、図22(h)、図22(v)に示すように、シリコン基板2と金属薄膜24を貫通する径Φ1の赤外線通過窓22を形成する。
【0059】
その後、図16に示すシリコン基板1の赤外線検出部11が形成された側と、図22に示すシリコン基板2の段差部が形成された側とを対向させ、赤外線通過窓22の延長線上に赤外線検出部11の中心が位置するように位置合わせを行い、シリコン基板2の段差部の高い領域23とシリコン基板1とを接合し、図1に示すような一体構造とする。
【0060】
これにより、赤外線温度センサが完成する。シリコン基板2とシリコン基板1との接合は、例えば、常温接合により行う。
【0061】
また、詳細な説明は省略するが、引出し電極16および引出し電極17と外部とを接続する配線は、シリコン基板1あるいはシリコン基板2に適宜形成される。
【0062】
尚、図1に示した赤外線温度センサにおいて、シリコン基板1とシリコン基板2の間の赤外線検出部11が形成された空間は、説明の便宜上シリコン基板1とシリコン基板2の周辺部を切り取ったものを図示しているので、3側面が開放されている。しかし、シリコン基板2の段差の高い領域が段差の低い領域の周囲を取り囲む構成となっており、赤外線検出部11が形成された空間は、赤外線通過窓22を除いて、シリコン基板1とシリコン基板2により遮蔽され、外部の光が入らない構造となっている。
【0063】
また、図16(h)、図16(v)および図16(t)に示すようにセンサ基板であるシリコン基板1を完成させた後に、適宜焦電効果素子14周辺および焦電効果素子14の引き出し線周辺などを覆うレジストパターンを形成して異方性エッチングを行うことにより、焦電効果素子14とシリコン基板1を架橋する架橋部を形成することができる。
【0064】
さらに、上述の実施の形態の赤外線温度センサにおいては、赤外線検出部が1個設けられているが、赤外線検出部を2個並べて設け、一方の赤外線検出部のみに赤外線通過窓を対向させ、他方に赤外線を入射させないようにすると、それら赤外線検出部の差動出力により赤外線を検出することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る赤外線温度センサは、ナノ領域の温度計測を高感度にしかも高速で行うことが可能であり、バイオ研究分野、材料研究分野あるいは電子デバイス研究分野などにおいて、熱物性評価や電子デバイスの熱問題の解決等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施の形態の赤外線温度センサの構成を示す要部斜視図である。
【図2】図1に示した赤外線温度センサの要部断面図である。
【図3】図1に示した赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の要部平面図および要部断面図である。
【図4】図1に示した赤外線温度センサに係わるシリコン基板2の要部斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第1の要部工程図である。
【図6】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第2の要部工程図である。
【図7】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第3の要部工程図である。
【図8】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第4の要部工程図である。
【図9】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第5の要部工程図である。
【図10】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第6の要部工程図である。
【図11】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第7の要部工程図である。
【図12】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第8の要部工程図である。
【図13】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第9の要部工程図である。
【図14】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第10の要部工程図である。
【図15】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第11の要部工程図である。
【図16】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第12の要部工程図である。
【図17】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板2の製造工程を示す第1の要部工程図である。
【図18】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板2の製造工程を示す第2の要部工程図である。
【図19】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板2の製造工程を示す第3の要部工程図である。
【図20】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板2の製造工程を示す第4の要部工程図である。
【図21】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板2の製造工程を示す第5の要部工程図である。
【図22】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板2の製造工程を示す第6の要部工程図である。
【図23】特許文献1に掲載の従来の赤外線温度センサの説明図である。
【符号の説明】
【0067】
1 シリコン基板
2 シリコン基板
3 測定対象物
11 赤外線検出部
12、31 SiO2薄膜
SiO2薄膜
13 下部電極
14 PZT素子
15 上部電極
16、17 引出し電極
21 段差部の低い領域
22 赤外線通過窓
23 段差部の高い領域
24 金属薄膜
32 Ti/Pt薄膜
33 PZT薄膜
34 Ni薄膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノテクノロジー分野における材料やデバイス等の微小領域の温度計測を行う赤外線温度センサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノテクノロジーの進展につれて、バイオ研究分野、材料研究分野あるいは電子デバイス研究分野などにおいて、生体・材料の熱物性評価や電子デバイスの熱問題の解決等に多くの取り組みがなされており、微小領域の温度分布を高精度に計測できる温度センサが強く求められている。
【0003】
このような微小領域の温度分布を計測する場合、計測対象に熱伝導による影響や変形・破壊などを与えないようにすることが重要であり、非接触式の温度計測法が必要とされる。
【0004】
非接触式の温度センサとしては、特許文献1に開示されているシリコン基板を用いた非接触式の赤外線センサが知られている。特許文献1に開示されている赤外線センサは、図23に示すように、シリコン基板102の両面にシリコンオキシナイトライド膜105が形成され、一方のシリコンオキシナイトライド膜105に赤外線感応部106bが設けられ、他方のシリコンオキシナイトライド膜105に赤外線透過窓107が設けられている。
【0005】
シリコン基板102は、赤外線透過窓107と赤外線感応部106bとの間が部分的にエッチング除去されて空洞部103が形成されており、赤外線透過窓107と赤外線感応部106bとの距離がシリコン基板102の厚さに等しくなっている。さらに、シリコン基板102は、空洞部103の周辺部が温度センサ全体の筐体となっている。
【0006】
このような赤外線センサは、温度センサ全体の強度を確保するために、厚さが数百μm以上のシリコン基板102を用いており、赤外線透過窓107と赤外線感応部106bとの距離も数百μm以上となる。そのため、微弱放射エネルギーの測定、すなわち径が1μm程度以下のナノ領域の温度あるいは数十℃程度の低温領域の温度を測定する場合には、赤外線感応部106bに到達するエネルギーが不十分で、感度不足となり、温度計測ができないという欠点があった。
【0007】
また、赤外線感応部106bの赤外線吸収膜108が赤外線吸収窓107を通して蒸着により形成されるので、赤外線吸収窓107の径は蒸着が行える100μm程度の大きさを確保しなければならない。そのため、径が数十μm程度より微小な領域の温度分布を計測できないという欠点があった。
【特許文献1】特開平6−160173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の赤外線センサのように赤外線透過窓と赤外線感応部との距離がシリコン基板の厚さに規制されるのを解消し、赤外線透過窓と赤外線感応部との距離を自由に近づけることができるようにするとともに、赤外線透過窓の径を自由に小さくできるようにして、ナノ領域の温度計測に好適な赤外線温度センサを提供することを目的としている。
また、MEMS技術等を用いて高精度にかつ簡便に製造することが可能な赤外線温度センサの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、一方の面に段差部が形成され、該段差部の低い領域に赤外線通過窓が設けられた遮蔽基板と、一方の面に赤外線検出部が設けられたセンサ基板とを備え、前記遮蔽基板の段差部が形成された面と前記センサ基板の赤外線検出部が設けられた面とが対向し、かつ前記赤外線検出部が前記赤外線通過窓の延長線上に位置して、前記遮蔽基板と前記センサ基板とが接合されたことを特徴とする赤外線温度センサが得られる。
【0010】
また、前記遮蔽基板がシリコンまたはゲルマニウムからなることを特徴とする赤外線温度センを提供する。さらに、前記赤外線検出部が焦電効果素子を有することを特徴とする赤外線温度センサを提供する。
【0011】
また、前記赤外線検出部が前記センサ基板に架橋部を介して支持されていることを特徴とする赤外線温度センサを提供する。
【0012】
さらに本発明によれば、第一基板の一方の面に段差部を形成するとともに、該段差部の低い領域に赤外線通過窓を形成する第一基板工程と、第二基板の一方の面に赤外線検出部を形成する第二基板工程と、前記第一基板工程で得られた前記第一基板の段差部が形成された面と前記第二基板工程で得られた前記第二基板の赤外線検出部が形成された面とを対向させ、前記赤外線通過窓の延長線上に前記赤外線検出部を位置づけして前記第一基板と前記第二基板とを接合する接合工程とを有することを特徴とする赤外線温度センサの製造方法が得られる。
【0013】
また、前記第一基板工程が、第一基板の一方の面に段差部をエッチングにより形成する工程と、該段差部の低い領域に赤外線通過窓を集束イオンビーム加工により形成する工程とを有することを特徴とする赤外線温度センサの製造方法を提供する。
【0014】
さらに、前記第二基板工程が、第二基板の一方の面に導電性薄膜により第一電極を形成する工程と、該工程にて形成された第一電極上に焦電効果薄膜と導電性薄膜とを積層して焦電素子と第二電極を形成する工程とを有することを特徴とする赤外線温度センサの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、段差部の低い領域に赤外線通過窓が設けられた遮蔽基板と、一方の面に赤外線検出部が設けられたセンサ基板とが対向し、赤外線検出部が赤外線通過窓の延長線上に位置して接合されているので、温度センサ全体の強度をセンサ基板により確保しつつ赤外線通過窓と赤外線検出部との距離は、段差部の段差に合わせて任意に設定できる。また、赤外線通過窓の大きさは、赤外線検出部の形成工程に規制されることなく、自由に選択することができる。
【0016】
従って、段差部の段差を必要に応じて小さくし、赤外線透過窓と赤外線感応部との距離を近づけて温度測定の感度を高めることができるとともに、赤外線透過窓の径の大きさを所望のサイズとしてナノ領域の温度計測を高精度に行うことが可能となる。
【0017】
段差部の段差が10μm以下であると、径が1μm程度以下の微小領域の温度あるいは数十℃程度の低温領域の細胞等の温度を測定が容易になる。
【0018】
また、赤外線透過窓の径が1μm以下であると、径が数十μm程度以下の微小領域の温度分布を正確に計測できる。
【0019】
また、遮蔽基板がシリコンまたはゲルマニウムであると、MEMS技術を用いて、段差の小さな段差部を容易に形成できるとともに、小さな赤外線透過窓を容易に形成できる。遮蔽基板は、赤外線が入射する面にアルミニウム等の金属薄膜を蒸着したものであると赤外線遮蔽効果を高めることができる。
【0020】
さらに、赤外線検出部が焦電効果素子を有するものであると、自発分極の変化に応じて発生する電位により温度が観測できるので、赤外線検出部の通電電流は不要になる。従って、赤外線検出部は、通電電流による発熱がなく、抵抗値変化に応じて生ずる電流変化により温度を観測するものに比べて、低温化が実現でき、ノイズを抑えて測定感度を高めることができる。また、測定時の応答速度を速めることも可能となる。
【0021】
焦電効果素子としては、PZTあるいは酸化亜鉛を利用したものが焦電効果が大きいので好ましい。
【0022】
焦電効果素子の電極材料は、Au、Pt、AgあるいはCuが好ましい。これらは、電気抵抗が小さく、かつ熱抵抗が小さいので、測定感度を高めることができる。Niは、熱吸収が大きい点で、電極材料として好ましい。
【0023】
また、赤外線検出部がセンサ基板に架橋部を介して支持されていると、赤外線感応部とセンサ基板との熱伝導を抑え、応答速度が速く、高感度な温度計測が可能となる。センサ基板がシリコンまたはゲルマニウムであると、異方性エッチングにより架橋部の形成が容易である。
【0024】
さらに本発明によれば、第一基板に段差部を形成するとともに、段差部の低い領域に赤外線通過窓を形成し、第二基板の一方の面に赤外線検出部を形成し、第一基板の段差部が形成された面と前記第二基板の赤外線検出部が形成された面とを対向させ、赤外線通過窓の延長線上に赤外線検出部を位置づけして接合したので、赤外線通過窓と赤外線検出部との距離が段差部の段差によって設定される。しかも、赤外線通過窓を利用することなく赤外線検出部が形成できるので、赤外線通過窓の大きさを自由に小さくできる。
【0025】
また、第一基板工程において、第一基板の一方の面に段差部をエッチングにより形成すると、10nmないし数十μmの段差を容易に形成できる。特に、第一基板がシリコンまたはゲルマニウムであると、異方性エッチングを適用して段差部をテーパー状に形成できる。従って、第一基板が薄いものであってもテーパー状段差部により第一基板のたわみが抑えられ、次工程以下において精度を保って加工を行うことができる。また、赤外線通過窓を集束イオンビーム加工により形成すると、径が10nmないし数十μmの赤外線通過窓を容易に、かつ精度よく形成できる。
【0026】
さらに、第二基板工程において、第二基板の一方の面に第一電極を形成し、第一電極上に焦電効果薄膜と導電性薄膜とを積層して焦電素子と第二電極を形成すると焦電素子と第二電極とを同一レジストパターンで形成することができ、工程が簡略化できる。
【0027】
焦電素子と第二電極とを形成する工程の後に、第二基板の焦電効果素子が形成された面を、適宜パターンエッチングすることにより、焦電効果素子を支持する架橋部を形成することが可能となる。
【0028】
第二基板がシリコンまたはゲルマニウムであると、エッチング技術により架橋部の形成が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施の形態の赤外線温度センサの要部構成を示す部分斜視図であり、図1において、1はセンサ基板であるシリコン基板、2は遮蔽基板であるシリコン基板である。シリコン基板1のシリコン基板2と対向する面には、図2以下に説明するように、赤外線検出部11が設けられている。
【0030】
シリコン基板2のシリコン基板1と対向する面には段差t1の段差部が形成され、その低い領域21が赤外線検出部11と距離t1を保って対向しており、シリコン基板2の赤外線検出部11の直下には赤外線通過窓22が設けられている。
また、シリコン基板2は、その段差の高い領域23においてシリコン基板1と接合されている。尚、図1では、説明の都合上、シリコン基板1およびシリコン基板2の要部のみを図示したものである。
【0031】
図2は、図1に示した赤外線温度センサのセンサ中心を通るS−S'線に沿った要部断面図である。シリコン基板1に設けられた赤外線検出部11は、直下のシリコン基板2に設けられた径がΦ1の赤外線通過窓22と対向しており、シリコン基板2の下側を測定対象物3に近づけると、測定対象物3から放射される赤外線が赤外線通過窓22を介して赤外線検出部11に入射し、赤外線検出部11にて測定対象物3の温度が測定できる構成となっている。
【0032】
次に、シリコン基板1の詳細について、図3を用いて説明する。図3は、図1に示したシリコン基板1の要部平面図および要部断面図である。
【0033】
図3(h)はシリコン基板1の要部平面図、図3(v)は図3(h)のA−A'線に沿った断面図、図3(t)は図3(h)のB−B'線に沿った断面図である。
【0034】
赤外線検出部11は、シリコン基板1上にSiO2薄膜12を介して形成されており、下部電極13、焦電効果素子であるPZT素子14、上部電極15が順次積層された構成になっている。下部電極13は、下部電極13と同一導電膜で形成された引出し電極16に引出し線を介して接続されている。
【0035】
また、上部電極15は、引出し電極16とA−A'線に対して対称な位置に形成された引出し電極17に引出し線を介して接続されている。尚、引出し電極17およびそれに接続される引出し線は、PZT素子14および上部電極15を形成する膜が積層されたものである。
【0036】
続いてシリコン基板2の詳細について、図4を用いて説明する。図4はシリコン基板2の要部斜視図であり、同図に示すようにシリコン基板2は赤外線検出部11と対向する側の一部21を深さt1だけエッチング加工して段差を設けたもので、その低い領域21の赤外線検出部11の直下には径がΦ1の赤外線通過窓22が設けられている。
【0037】
シリコン基板2は、赤外線が入射する面にアルミニウム等の金属薄膜24が蒸着されていて、赤外線遮蔽効果を高めている。
【0038】
尚、シリコン基板2の低い領域21と高い領域23の境界部は傾斜状の段差となっている。
【0039】
このような赤外線温度センサにおいて、赤外線通過窓22の径Φ1を10nmないし1000nmの範囲で適宜設定し、赤外線検出部11の一辺を1μmないし1000μmの範囲で適宜設定すると、径が数十μm程度以下の測定対象物3の微小領域の温度分布を正確に計測できる。
【0040】
また、シリコン基板2の段差t1が10μm以下であると、径が1μm程度以下の微小領域の温度あるいは数十℃程度の低温領域の細胞等の温度を測定が容易になる。
【0041】
尚、赤外線通過窓22が設けられたシリコン基板2の厚さは、10μm以下であることが望ましい。続いて、このような赤外線温度センサの製造方法について、図面を用いて説明する。
【0042】
図5ないし図16は、本発明の実施の形態の赤外線温度センサを構成するシリコン基板1の製造工程を示す要部工程図である。図5において、図5(h)は、図3(h)に示したシリコン基板1と同じ位置におけるシリコン基板1の要部平面図であり、図5(v)は、図3のA−A'線と同じ位置で図5(h)引いた線に沿う断面図であり、図5(t)は図3のB−B'線と同じ位置で図5(h)引いた線に沿う断面図であり、各々引いた線を省略したものである。
【0043】
以下、図6(h)、図6(v)および図6(t)ないし図16(h)、図16(v)および図16(t)についても同様である。
【0044】
まず、図5(h)、図5(v)および図5(t)に示すように所定の厚さのシリコン基板1を用意する。次に、図6(h)、図6(v)および図6(t)に示すように、シリコン基板1の一方の面に所定の厚さにSiO2薄膜31を熱酸化により形成する。
【0045】
その後、全面にポジレジストを塗布するとともに露光して、図7(h)、図7(v)および図7(t)に示すように、レジストパターン41を形成する。
【0046】
次に、パターン41に従ってSiO2薄膜31をドライエッチングし、図8(h)、図8(v)および図8(t)に示すように、SiO2薄膜12のパターンを作る。さらに、全面にポジレジストを塗布するとともに露光して、図9(h)、図9(v)および図9(t)に示すように、レジストパターン42を形成する。
【0047】
続いて、図10(h)、図10(v)および図10(t)に示すように、全面にTi/Pt薄膜32をスパッタにより所定厚さに形成する。その後、レジストパターン42に従ってTi/Pt薄膜32をリフトオフし、図11(h)、図11(v)および図11(t)に示すように、SiO2薄膜12の上に赤外線検出部11の下部電極13、引出し電極16およびそれらを接続する引出し線を形成する。
【0048】
次に、図12(h)、図12(v)および図12(t)に示すように、全面にPZT薄膜33をスパッタにより所定厚さに形成するとともに、図13(h)、図13(v)および図13(t)に示すように、その上全面にNi薄膜34をスパッタにより所定厚さに形成する。
【0049】
ここで、PZT薄膜33のスパッタ蒸着は、例えばマグネトロンスパッタリングにて行い、PZT(Pb(Zr0.48Ti0.52)O3)よりもPbリッチターゲットを用いて行うことができる。その条件は例えば、基板温度が700℃、圧力が3mTorr、電力が200Wであり、雰囲気ガスとしてはArガスを使用する。
【0050】
さらに、Ni薄膜34の上全面にネガレジストを塗布するとともに露光して、図14(h)、図14(v)および図14(t)に示すように、レジストパターン43を形成する。
【0051】
次いで、レジストパターン43に覆われていない領域のPZT薄膜33およびNi薄膜34をRIE(リアクテイブイオンエッチング)法により取り除き、図15(h)、図15(v)および図15(t)に示すように、焦電効果素子14、上部電極15およびそれらを接続するその引き出し線を形成する。
【0052】
その後、レジストパターン43を除去し、図16(h)、図16(v)および図16(t)に示すようにセンサ基板であるシリコン基板1を完成させる。図17ないし図22は、本発明の実施の形態の赤外線温度センサを構成するシリコン基板2の製造工程を示す要部工程図である。
【0053】
図17において図17(h)は、図4に示したシリコン基板2と同じ位置におけるシリコン基板2の要部平面図であり、図17(v)は、図4のC−C'線と同じ位置で図17(h)引いた線に沿う断面図であり、引いた線を省略したものである。以下、図18(h)、図18(v)ないし図22(h)、図22(v)についても同様である。
【0054】
まず、図17(h)、図17(v)に示すように、所定の厚さのシリコン基板2を用意し、続いて、図18(h)、図18(v)に示すように、シリコン基板2の一方の表面に所定の厚さのアルミニウムの金属薄膜24をスパッタ蒸着により形成する。
【0055】
次に、図19(h)、図19(v)に示すように、シリコン基板2の他方の表面にレジストを塗布し、露光してレジストパターン61を形成する。ここでレジストパターン61は、シリコン基板2に段差部を形成するもので、段差部の低い領域を露出させる形状となっている。
【0056】
次いで、図20(h)、図20(v)に示すように、シリコン基板2の露出面に異方性エッチングを行い、深さt1だけエッチングした時点でエッチングを終了し、シリコン基板2に段差を形成する。
【0057】
シリコン基板2は、異方性エッチングにより、レジストパターン61の境界線から段差部の低い領域21に向かう傾斜面が形成される。次に、レジストパターン61を除去し、図21(h)、図21(v)に示すように、シリコン基板2の段差部の高い領域23を露出させる。
【0058】
次いで、シリコン基板2の段差部の低い領域21の所定位置に、集束イオンビーム加工により、図22(h)、図22(v)に示すように、シリコン基板2と金属薄膜24を貫通する径Φ1の赤外線通過窓22を形成する。
【0059】
その後、図16に示すシリコン基板1の赤外線検出部11が形成された側と、図22に示すシリコン基板2の段差部が形成された側とを対向させ、赤外線通過窓22の延長線上に赤外線検出部11の中心が位置するように位置合わせを行い、シリコン基板2の段差部の高い領域23とシリコン基板1とを接合し、図1に示すような一体構造とする。
【0060】
これにより、赤外線温度センサが完成する。シリコン基板2とシリコン基板1との接合は、例えば、常温接合により行う。
【0061】
また、詳細な説明は省略するが、引出し電極16および引出し電極17と外部とを接続する配線は、シリコン基板1あるいはシリコン基板2に適宜形成される。
【0062】
尚、図1に示した赤外線温度センサにおいて、シリコン基板1とシリコン基板2の間の赤外線検出部11が形成された空間は、説明の便宜上シリコン基板1とシリコン基板2の周辺部を切り取ったものを図示しているので、3側面が開放されている。しかし、シリコン基板2の段差の高い領域が段差の低い領域の周囲を取り囲む構成となっており、赤外線検出部11が形成された空間は、赤外線通過窓22を除いて、シリコン基板1とシリコン基板2により遮蔽され、外部の光が入らない構造となっている。
【0063】
また、図16(h)、図16(v)および図16(t)に示すようにセンサ基板であるシリコン基板1を完成させた後に、適宜焦電効果素子14周辺および焦電効果素子14の引き出し線周辺などを覆うレジストパターンを形成して異方性エッチングを行うことにより、焦電効果素子14とシリコン基板1を架橋する架橋部を形成することができる。
【0064】
さらに、上述の実施の形態の赤外線温度センサにおいては、赤外線検出部が1個設けられているが、赤外線検出部を2個並べて設け、一方の赤外線検出部のみに赤外線通過窓を対向させ、他方に赤外線を入射させないようにすると、それら赤外線検出部の差動出力により赤外線を検出することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る赤外線温度センサは、ナノ領域の温度計測を高感度にしかも高速で行うことが可能であり、バイオ研究分野、材料研究分野あるいは電子デバイス研究分野などにおいて、熱物性評価や電子デバイスの熱問題の解決等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施の形態の赤外線温度センサの構成を示す要部斜視図である。
【図2】図1に示した赤外線温度センサの要部断面図である。
【図3】図1に示した赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の要部平面図および要部断面図である。
【図4】図1に示した赤外線温度センサに係わるシリコン基板2の要部斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第1の要部工程図である。
【図6】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第2の要部工程図である。
【図7】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第3の要部工程図である。
【図8】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第4の要部工程図である。
【図9】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第5の要部工程図である。
【図10】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第6の要部工程図である。
【図11】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第7の要部工程図である。
【図12】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第8の要部工程図である。
【図13】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第9の要部工程図である。
【図14】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第10の要部工程図である。
【図15】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第11の要部工程図である。
【図16】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板1の製造工程を示す第12の要部工程図である。
【図17】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板2の製造工程を示す第1の要部工程図である。
【図18】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板2の製造工程を示す第2の要部工程図である。
【図19】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板2の製造工程を示す第3の要部工程図である。
【図20】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板2の製造工程を示す第4の要部工程図である。
【図21】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板2の製造工程を示す第5の要部工程図である。
【図22】本発明の実施の形態の赤外線温度センサに係わるシリコン基板2の製造工程を示す第6の要部工程図である。
【図23】特許文献1に掲載の従来の赤外線温度センサの説明図である。
【符号の説明】
【0067】
1 シリコン基板
2 シリコン基板
3 測定対象物
11 赤外線検出部
12、31 SiO2薄膜
SiO2薄膜
13 下部電極
14 PZT素子
15 上部電極
16、17 引出し電極
21 段差部の低い領域
22 赤外線通過窓
23 段差部の高い領域
24 金属薄膜
32 Ti/Pt薄膜
33 PZT薄膜
34 Ni薄膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に段差部が形成され、該段差部の低い領域に赤外線通過窓が設けられた遮蔽基板と、一方の面に赤外線検出部が設けられたセンサ基板とを備え、前記遮蔽基板の段差部が形成された面と前記センサ基板の赤外線検出部が設けられた面とが対向し、かつ前記赤外線検出部が前記赤外線通過窓の延長線上に位置して、前記遮蔽基板と前記センサ基板とが接合されたことを特徴とする赤外線温度センサ。
【請求項2】
前記遮蔽基板がシリコンまたはゲルマニウムからなることを特徴とする請求項1記載の赤外線温度センサ。
【請求項3】
前記赤外線検出部が焦電効果素子を有することを特徴とする請求項1記載の赤外線温度センサ。
【請求項4】
前記赤外線検出部が前記センサ基板に架橋部を介して支持されていることを特徴とする請求項1記載の赤外線温度センサ。
【請求項5】
第一基板の一方の面に段差部を形成するとともに、該段差部の低い領域に赤外線通過窓を形成する第一基板工程と、第二基板の一方の面に赤外線検出部を形成する第二基板工程と、前記第一基板工程で得られた前記第一基板の段差部が形成された面と前記第二基板工程で得られた前記第二基板の赤外線検出部が形成された面とを対向させ、前記赤外線通過窓の延長線上に前記赤外線検出部を位置づけして前記第一基板と前記第二基板とを接合する接合工程とを有することを特徴とする赤外線温度センサの製造方法。
【請求項6】
前記第一基板工程が、第一基板の一方の面に段差部をエッチングにより形成する工程と、該段差部の低い領域に赤外線通過窓を集束イオンビーム加工により形成する工程とを有することを特徴とする請求項5記載の赤外線温度センサの製造方法。
【請求項7】
前記第二基板工程が、第二基板の一方の面に導電性薄膜により第一電極を形成する工程と、該工程にて形成された第一電極上に焦電効果薄膜と導電性薄膜とを積層して焦電素子と第二電極を形成する工程とを有することを特徴とする請求項5記載の赤外線温度センサの製造方法。
【請求項1】
一方の面に段差部が形成され、該段差部の低い領域に赤外線通過窓が設けられた遮蔽基板と、一方の面に赤外線検出部が設けられたセンサ基板とを備え、前記遮蔽基板の段差部が形成された面と前記センサ基板の赤外線検出部が設けられた面とが対向し、かつ前記赤外線検出部が前記赤外線通過窓の延長線上に位置して、前記遮蔽基板と前記センサ基板とが接合されたことを特徴とする赤外線温度センサ。
【請求項2】
前記遮蔽基板がシリコンまたはゲルマニウムからなることを特徴とする請求項1記載の赤外線温度センサ。
【請求項3】
前記赤外線検出部が焦電効果素子を有することを特徴とする請求項1記載の赤外線温度センサ。
【請求項4】
前記赤外線検出部が前記センサ基板に架橋部を介して支持されていることを特徴とする請求項1記載の赤外線温度センサ。
【請求項5】
第一基板の一方の面に段差部を形成するとともに、該段差部の低い領域に赤外線通過窓を形成する第一基板工程と、第二基板の一方の面に赤外線検出部を形成する第二基板工程と、前記第一基板工程で得られた前記第一基板の段差部が形成された面と前記第二基板工程で得られた前記第二基板の赤外線検出部が形成された面とを対向させ、前記赤外線通過窓の延長線上に前記赤外線検出部を位置づけして前記第一基板と前記第二基板とを接合する接合工程とを有することを特徴とする赤外線温度センサの製造方法。
【請求項6】
前記第一基板工程が、第一基板の一方の面に段差部をエッチングにより形成する工程と、該段差部の低い領域に赤外線通過窓を集束イオンビーム加工により形成する工程とを有することを特徴とする請求項5記載の赤外線温度センサの製造方法。
【請求項7】
前記第二基板工程が、第二基板の一方の面に導電性薄膜により第一電極を形成する工程と、該工程にて形成された第一電極上に焦電効果薄膜と導電性薄膜とを積層して焦電素子と第二電極を形成する工程とを有することを特徴とする請求項5記載の赤外線温度センサの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
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【図18】
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【図20】
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【図22】
【図23】
【公開番号】特開2006−349601(P2006−349601A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−178959(P2005−178959)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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