説明

赤外蛍光体と発光ダイオード素子を組み合わせた発光装置

【課題】
従来の赤外発光素子では、温度特性が悪いため高出力化が困難だった。また、可視−赤外蛍光体を可視光で励起し、赤外光を得ても、可視光によるグレアが発生し、センサ用途に使うことが困難だった。
【解決手段】
紫外光及び/又は可視光を発する発光ダイオード素子と、その発光によって励起され、少なくとも赤外光を発する蛍光体とを組み合わせた発光装置において、紫外光及び可視光を通さないためのフィルタを用いて赤外光のみを取り出すと共に、フィルタに蛍光体からの熱を外部へ放散する機能をも兼ねさせ、温度消光を低減させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード素子を用いた発光装置に関する。より詳しくは、可視光を発する発光ダイオード素子と、赤外光を蛍光として発する蛍光体とを組み合わせた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外光を発する発光装置として、GaAs系化合物半導体を材料とした赤外線発光ダイオードが知られている。この発光ダイオードは、センサなどの領域で広く利用されている。
【0003】
しかし、GaAs系化合物半導体発光ダイオードは、温度変化に対して光出力の変動が大きい、即ち温度特性が悪いという問題がある。発光ダイオード素子に大電流を流せば必ず温度上昇を伴うため、これら発光ダイオード素子は高出力化に不向きである。
【0004】
従って、高出力化のために、より温度特性の良い発光装置が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−242513
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett, Vol.91, No.15, p.151103-7 (2007) 特許文献1は、GaN系化合物半導体青色発光ダイオード素子にYAG:Ce蛍光体とを組み合わせて白色発光ダイオード装置とするものを開示している。また、非特許文献1は、青色光を吸収して黄色光及び赤外光を蛍光として発するYAG:Ce,Er蛍光体を開示している。GaN系化合物半導体青色発光ダイオード素子とYAG:Ce,Er系蛍光体とは、少なくともGaAs系化合物半導体発光ダイオードよりも温度特性が良いため、両者を組み合わせることで温度特性の良い赤外発光装置を作製しうるとも思われた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、このような赤外発光装置を実際に作製したところ、青色発光ダイオード素子へ投入する電流を大きくするに従って、YAG:Ce,Er系蛍光体自体の温度が上昇し、温度消光が生じ始める。この結果、期待ほどにに高出力化した赤外発光装置とならないことが分かった。
【0008】
また、青色発光ダイオード素子もYAG:Ce,Er系蛍光体も可視光を強く発する。この可視光は、センサ用途にとってグレアとなって受光素子のノイズとなってしまう問題もある。更に、センサをセキュリティ用に用いる場合、センサ自体の存在を感じさせないことが求められるため、強い可視光を発せずに強い赤外光だけが得られる発光装置の実現が課題とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
蛍光体の温度消光を低減し、かつ、可視光によるグレアを抑制するため、本発明者らは以下の手段を発明した。即ち、紫外光及び/又は可視光を発する発光ダイオード素子と、その発光によって励起され、少なくとも赤外光を発する蛍光体とを組み合わせた発光装置において、紫外光及び可視光を通さないためのフィルタを用いて赤外光のみを取り出すと共に、フィルタに蛍光体からの熱を外部へ放散する機能をも兼ねさせ、温度消光を低減させたのである。
【発明の効果】
【0010】
上記構成により、蛍光体の温度消光を低減しつつ、可視光によるグレアを抑制した、温度特性の良い高出力の赤外発光装置を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による赤外光発光装置の概略図である。
【図2】本発明による赤外発光装置の発光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図面に従って説明する。
【0013】
図1は、本発明を使用した典型的な発光装置の概略図である。発光ダイオード素子1は、基体4の凹部6の底面に配置されている。凹部6の底面には配線5が形成されており、これと発光ダイオード素子1の電極との間はワイヤ7によって電気的に接続されている。凹部6の開口はフィルタ2によって覆われている。また、蛍光体3はフィルタ2に接するように形成されている。
【0014】
発光ダイオード素子1に配線5、ワイヤ7を通じて電力を供給することで発光ダイオード素子1は、例えば青色光を発する。この青色光は、その上方に配置された蛍光体3を励起する。この結果、蛍光体3は少なくとも赤外光を発し、この赤外光はフィルタ2を介して発光装置の外部へ放出される。一方、発光ダイオード素子1から発して蛍光体3を励起せずに透過した青色光と、蛍光体3から発した可視光領域の蛍光は、フィルタ2によって吸収又は凹部内に反射され、外部に放出されることはない。
【0015】
また、蛍光体3の励起−蛍光放出の過程において、ストークスシフトによる蛍光体自身の発熱が生じる。こうして生じた熱は、蛍光体3が接しているフィルタ2を通じて外部へ放出される。本発光装置は、このような熱の放出を助けるために、フィルタ2及び基体4に熱伝導性の良い材料を用いることができる。また、本発光装置自体を熱伝導性の高い基板やヒートシンクなどの放熱体に実装することもできる。
【0016】
以下、各部についてより具体的に説明する。発光ダイオード素子とは、例えば直接遷移型化合物半導体によるn型層とp型層で発光層を挟んだ半導体積層構造であって、n型層とp型層には電力供給のための電極がそれぞれ形成されている素子である。両電極に電流を入力することで、発光層のバンドギャップに応じた光を発する。本発明に用いる発光ダイオード素子1は、窒化ガリウム系化合物半導体によって構成された紫外から緑色領域の光を発する発光ダイオード素子が望ましい。この発光ダイオード素子は、温度変化に対する出力又は波長変動が比較的少なく、温度特性の良い素子を得るために好適だからである。
【0017】
基体4は、発光ダイオード素子1を凹部6底面に納めるための部材である。この凹部6の底面には、発光ダイオード素子1と電気的に接続するための配線5が露出されている。これらと配線5との間は導電性ワイヤ7によって接続されている。
【0018】
従来の発光ダイオード装置に用いられるパッケージ用部品として樹脂製のもの、セラミック製のもの、金属製のもの等があり、本発明においてもこれらは利用可能である。ただし、熱伝導性又は放熱性の観点からシリコン製又は金属製が好適である。
【0019】
また、図1において簡略化して記載しているが、例えば平坦な配線基板上に発光ダイオード素子1を配置し、これをを囲むようにリング状の部材や孔の開いた他の基板を配置することによって基体4を構成しても良い。
【0020】
なお、基体4に使用する材料によっては、紫外光及び/又は可視光が、基体4を介して外部へ放出される場合がある。この場合には、基体4の凹部6内面又は外面に紫外光及び/又は可視光を遮蔽するための黒色塗膜などを形成することは、可視光等によるグレア発生を防止するためにも望ましい。特に、凹部6内面に金膜を形成することで、赤外光を効率的に反射してフィルタ方向へ導きつつ可視光等が外部へ漏れることを防ぐことができるため、高出力化のためにも望ましい。
【0021】
蛍光体3は、発光ダイオード素子1によって励起され、少なくとも赤外光を発するものであれば良い。例えば、紫外から緑色領域の光を発する発光ダイオード素子によって励起される蛍光体としてYAG:Ce,Erを挙げることができる。その他、赤色光及び/又は赤外光で励起され、より長波長の赤外光を発する蛍光体も存在するが、温度特性の良い発光ダイオード素子1として前述の窒化ガリウム系化合物半導体発光ダイオード素子を利用しうる点や、蛍光体自身の温度特性が良好な点を鑑みて、前述のYAG:Ce,Erが望ましい。
【0022】
図1において、蛍光体3はシリコーン樹脂等のバインダー樹脂に混合され、凹部6に樹脂と共に充填されることを想定して記載している。しかし、例えばフィルタ3内面に薄膜状に形成し、凹部6に空洞を含んでも良い。
【0023】
フィルタ2は、発光ダイオード素子1及び/又は蛍光体3から放出される、所望の赤外光ではない光を遮蔽するためのものである。発光ダイオード素子1として窒化ガリウム系化合物半導体によって構成された紫外から緑色領域の光を発する発光ダイオード素子を用い、かつ、蛍光体としてYAG:Ce,Erを選択した場合、赤外光の他、可視光も放射されてしまう。この可視光は、蛍光体に吸収されなかった発光ダイオード素子1からの発光と、蛍光体自身が発する蛍光である。これらが外部に放出されることでセンサのグレアの原因となるため、フィルタ2によってこれらが外部に漏れることを規制している。
【0024】
また、フィルタ2は、蛍光体3と接し、蛍光体3の発熱を外部へ放出する役割をも担っている。一般に、蛍光体は外部からの光を吸収してより長波長の蛍光を放出する際、ストークスシフトによって自ら発熱する。この発熱が原因となって、蛍光体の温度消光が生じてしまう。フィルタ2に熱伝導性の高い材料を選択することで、この温度消光による出力低下をある程度防ぐことが可能である。本発明において、好適にはシリコンを用いる。赤外光に対して透明である上、ある程度の熱伝導性も備えることによる。
【実施例1】
【0025】
以下の構成で、本発明に係る赤外発光装置を試作した。
【0026】
発光ダイオード素子として、ピーク波長が450nmの窒化ガリウム系化合物半導体青色発光ダイオード素子を用いた。この素子を、凹部底面にリードフレームが露出した基体に固定し、リードフレームと素子の電極との間を金線で電気的に接続した。
【0027】
次に、シリコーン樹脂にYAG:Ce0.02,Er0.03蛍光体をシリコーン樹脂に対して30重量%投入し、これをミキサーで混練して均一にした。
【0028】
次に、上記樹脂混合物を、基体の凹部に注入した。注入量は凹部の上面までである。
【0029】
次に、凹部上に、凹部前面を覆う程度の大きさに切断したシリコン基板を配置し、そのまま樹脂硬化を行った。樹脂硬化条件は、60℃、2時間の加熱後、150℃、2時間程度である。これにより、樹脂が硬化すると共に、開口部上面まであった樹脂とシリコン基板とが接着され、シリコン基板が基体に対して固定される。
【0030】
上記の方法で作製した赤外発光装置の発光スペクトルを、分光光度計を用いて測定した。これを図2に示す。なお、参考までにシリコン基板を配置せずに作製したものの発光スペクトルも合わせて示す。
【0031】
図2の上段を見るに、シリコン基板を配置せずに発光スペクトルを測定した場合、波長が1.4〜1.7μmの赤外光領域のいくつかの発光と共に、可視光領域である400〜700nmの間に顕著な発光が観測されていることが分かる。これに対し、図2の下段から、シリコン基板を配置して発光スペクトルを測定した場合、上記可視光領域の発光はほとんど完全に遮蔽され、赤外光領域の発光のみが観測されたことが分かる。
【符号の説明】
【0032】
1 発光ダイオード素子
2 フィルタ
3 蛍光体
4 基体
5 配線
6 凹部
7 ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外光及び/又は可視光を発する発光ダイオード素子と、
前記発光ダイオード素子からの発光の光路上に配置された、前記発光ダイオード素子からの発光及び可視光を透過せず、かつ、赤外光を透過するフィルタと、
前記発光ダイオード素子と前記フィルタの間に配置された、前記発光ダイオード素子の発光により励起され、少なくとも赤外光を蛍光として発する蛍光体と、
からなり、
前記蛍光体は前記フィルタと接していて、少なくとも前記フィルタを介して外部へ前記蛍光体の熱を逃がす構成となっている、
発光装置。
【請求項2】
前記フィルタはシリコンである、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記フィルタの表面にダイヤモンドライクカーボン膜が形成されている、請求項2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記蛍光体はYAG:Ce,Er系蛍光体である、請求項1から3に記載の発光装置。
【請求項5】
紫外光及び/又は可視光を発する発光ダイオード素子と、
凹部を有し、その底面に前記発光ダイオード素子を配置した基体と、
前記凹部の開口部に配置された、前記発光ダイオード素子からの発光及び可視光を透過せず、かつ、赤外光を透過するフィルタと、
前記発光ダイオード素子と前記フィルタの間に配置された、前記発光ダイオード素子の発光により励起され、少なくとも赤外光を蛍光として発する蛍光体と、
からなり、
前記蛍光体は前記フィルタと接していて、少なくとも前記フィルタを介して外部へ前記蛍光体の熱を逃がす構成となっている、
発光装置。
【請求項6】
前記凹部内面には、金の膜が形成されている、請求項5に記載の発光装置。
【請求項7】
請求項1から6に記載の発光装置と、受光素子と、を含むメタンガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−233586(P2011−233586A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100146(P2010−100146)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】