説明

走査光学系光量測定方法、走査光学系検査方法及び光学系検査装置

【課題】走査光学系の光学異常を容易且つ高精度に検査するための走査光学系光量測定方法を提供する。
【解決手段】光走査装置1のレーザダイオード111より射出された走査ビームを連続点灯させて走査している状態で、フォトセンサ3及びスリット2を移動ステージ4により走査速度よりも遅い速度で主走査方向に移動させ、フォトセンサ3の移動中にフォトセンサ3を走査ビームが通過するよりも短いサンプリング周期で測定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光走査装置及び画像形成装置における走査光学系の異常を検査する走査光学系検査方法、該検査方法に用いる測定値を得るための走査光学系光量測定方法、該検査方法を実施する光学系検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やプリンタなどで用いられる走査光学系を有した書込ユニット(光走査装置)は、反射又は透過性のある高精度面が要求される光学素子や光学部品を有する。
これらの光学素子や光学部品の品質は走査光学系によって形成される画像品質に大きな影響を与える。例えば前記面精度上の欠陥や、傷、汚れ、異物付着等による表面欠陥、歪み、異物混入等による内部欠陥などがあると、前記光学素子等を含む光学系によって形成される画像にムラを生じ、画像品質が劣化する。
従って、光学素子や光学部品の品質すなわち面精度、表面欠陥、内部欠陥等による画像ムラ等の光学性能上の影響を測定する必要性が生じる。
光学性能上の影響を測定する方法として、特許文献1には、走査ビームが走査される領域のビームを測定した光量分布を用いる方法が記載されている。
この方法は、例えば、光走査装置の光源から出力される走査ビームをそのまま走査光学系の被検体表面に入射すると共に被検体表面上を走査し、その反射光を検出することによって被検体の異常を検出するものである。このとき正常な状態との相対評価によって異常の判断を行うものである。
【0003】
従前においては、走査光光量を測定したい位置に光量測定手段を配置し、光源から出力されるビームの走査を行わずに光量測定手段に入射した光量の測定を行っていた。しかしながら、出力ビームの入射位置を正確に制御することは難しく、また細かい間隔で計測を行うと莫大な時間が掛かった。
そこで、上記のように、光源から出力される走査ビームを走査した状態で計測する方法が考えられている。一般的に、走査ビームが光量測定手段に入射するタイミングを他のセンサなどで調べそのタイミングに合わせて測定を行うものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、出力ビームを連続点灯して走査すると光量検知手段(光量測定手段)が測定する走査ビームは光量検知手段の主走査方向の幅分移動できる。その時走査ビームの光路も移動してしまう。
従来技術では光量検知手段より出力されるピーク値又は積分値を測定値とするため、光量検知手段の幅より狭い範囲での出力変動は捉えることができなかった。
微小間隔の出力変動を捉えるために光量検知手段の幅を狭くすると、光量検知手段が十分に反応する前に走査ビームが通過してしまい、正しい測定が行えないため走査速度を高速にすることができなかった。
他の従来技術としては、出力ビームの点灯制御を行い走査する方法がある。これは走査領域上のある位置に点灯タイミングを決めるための同期センサを配置し、該同期センサに走査ビームが入射してから一定のタイミングで半導体レーザの点灯状態を制御するというものである。
この方法で予め設定した極小範囲のみに走査ビームを入射することができるが、この方法は出力ビームを連続点灯して走査する方法に比べ半導体レーザの点灯時間が短いため、光量測定手段へ入射する光量が減少するという問題がある。
そのため測定バラツキなどのノイズの影響が光量検知手段の出力信号に対して相対的に大きくなり正しい測定結果が得られなかった。これを避けるためにはパワーの大きい半導体レーザを使用する必要があるが、これでは走査光学系が予め有している半導体レーザを使用して検査を行うことができなかった。
また、上記の方法で走査領域の光量分布を測定しても実際の光量分布は光学部品の組み付けばらつき等の影響で一定ではない。そのため走査領域の光量分布の測定を行ってもその結果が異常であることを相対的に評価することは難しく、異常検査は人による光学部品の目視検査が主流となっている。
人の目視による検査は作業者に負担をかける、作業者の熟練度の違いによるバラツキが大きい等の問題があった。
【0005】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたもので、走査光学系の光学異常を容易且つ高精度に検査するための走査光学系光量測定方法の提供を、その主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、走査光学系より出力される走査ビームの走査領域上に設けられ走査ビームの光量を測定する光量測定手段と、前記光量測定手段を走査領域の主走査方向に移動させる移動手段とを有し、前記光量測定手段を移動させながら走査ビームの光量を測定する方法において、走査ビームを連続点灯させて走査している状態で、前記光量測定手段を走査速度よりも遅い速度で移動させ、前記光量測定手段の移動中に前記光量測定手段上を走査ビームが通過するよりも短いサンプリング周期で測定を行うことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の走査光学系光量測定方法において、前記光量測定手段を一定速度で移動させことにより、前記光量測定手段における1回の走査内で測定できる回数を一定にし、全ての測定結果を走査内測定回数で分割することで前記光量測定手段に走査ビームが入射中の測定値とすることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の走査光学系光量測定方法において、前記光量測定手段における1回の走査内で測定した複数の測定値のうち、最大値から所定範囲内の測定値のみを抽出してその平均値を測定値とすることを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、走査光学系より出力される走査ビームの光量の主走査方向分布を測定することで走査光学系の光路上の異常を検査する走査光学系検査方法において、前記主走査方向分布が、請求項1〜3のいずれか1つに記載の走査光学系光量測定方法により得られた測定値に基づいており、前記主走査方向分布の高次近似を取り、その高次近似と前記主走査方向分布との差分が基準値を超える場合、異常と判別すること特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の走査光学系検査方を実施する光学系検査装置である。
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の光学系検査装置において、走査ビームを反射又は透過性のある被検査部品に入射し、反射光又は透過光を測定することで前記被検査部品の表面形状や光学異常の検査を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光量測定手段幅より高分解能でビーム走査領域の光量を測定することができる。これより走査光学系の光学異常を高品質で検査することができる。
また、本発明によれば、ビーム走査領域の光量の測定タイミングを厳密に合わせることなく高速・高分解能でビーム走査領域の光量を測定することができる。これより走査光学系の光学異常を容易に検査することができる。
また、本発明によれば、ビーム走査領域の光量分布を高精度で測定することができる。これより走査光学系の光学異常を高品質で検査することができる。
また、本発明によれば、光量分布が一様ではない複数の走査光学系の光学異常を容易に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る走査光学系(光走査装置)の要部斜視図である。
【図2】走査光学系と光学系検査装置とを示す平面図である。
【図3】連続点灯状態の主走査ビームの測定を行う方法を説明するための図である。
【図4】フォトセンサを移動させたときの測定状態を説明するための図である。
【図5】フォトセンサの出力信号のタイミングを表す図である。
【図6】光量と測定位置との関係を示す光強度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図を参照して説明する。
図1は、検査される走査光学系(光走査装置を意味する)の一例を示す説明図である。図1において、符号1は走査光学系、111は光源としてのレーザダイオード(半導体レーザ)、112はコリメートレンズ、115はシリンドリカルレンズ、117はポリゴンミラー、120は防塵ガラス、118はf-θレンズ、119は折り返しミラー、20は走査面をそれぞれ示している。
レーザダイオード111より射出された走査ビームとしての光ビームはコリメートレンズ112及びシリンドリカルレンズ115によって平行光束とされて走査光学系の一部を構成するポリゴンミラー117に導かれ、反射偏向される。
反射偏向された走査ビームはf-θレンズ118により等速走査され、複数の折り返しミラー119により光路を折り畳まれる。その後防塵ガラス120を通過した後感光体上の走査面20に導かれる。
【0012】
図2は、走査光学系と、該走査光学系の異常を検査する光学系検査装置(「走査光学系評価装置」ともいう)とを示す平面図である。
走査光学系評価装置5には、被測定走査光学系1より出力される走査ビームの走査領域上に光量検出手段としてのフォトセンサ3が設けられている。
フォトセンサ3の前方には測定範囲外の走査ビームを遮断する為のスリット2が設けられている。フォトセンサ3とスリット2は移動手段としての移動ステージ4の上に支持されており、走査領域上の全部を含む領域を主走査方向に移動可能となっている。
フォトセンサ3はセンサに入射したビーム光量に比例した電気信号を出力する。電気信号はA/D変換されて異常判別手段としてのホストPC6に入力される。
フォトセンサ3及びスリット2の移動は、ステージコントローラ7により移動ステージ4の図示しないモータを駆動することによりなされる。
【0013】
図3は、フォトセンサ3の位置を固定したときに連続点灯状態の主走査ビームの測定を行う方法を説明するための図である。フォトセンサ3の前方には、上記のように主走査方向に一定の幅を持ったスリット2が設けられており、スリット2を通過した走査ビームのみがフォトセンサ3で測定される。
すなわち、スリット2によってフォトセンサ3の主走査方向における受光範囲が規定されている。
スリット2を走査ビームが通過する時間よりも短いサンプリング間隔で光量の測定を行うことで図3の光量グラフが得られる。
このときのサンプリング間隔は走査ビームがスリット2上を主走査方向に通過する時間の10分の1程度が望ましい。
これらの測定結果を平均した値がフォトセンサ3を固定した位置での走査ビーム光量となる。このとき、フォトセンサ3の立ち上がり特性などの影響をなくすため、最大受光光量から一定レベル以上の測定結果を抜き出し、その測定値中央の平均値を用いる。図3では最大値からのレベル低下が30%以内(所定範囲)の測定値を用いることを示している。
なだらかな光量分布を示す走査光学系では各測定位置は微小間隔しか離れていないため、光学系に異常が無い場合の測定結果はほぼ同値となる。これを平均することでノイズの影響を減らすことができる。
【0014】
図4は、フォトセンサ3を移動させた時の状態を説明する為の図である。
フォトセンサ3を各測定位置で一時停止を行わず移動を行いながら連続点灯状態の主走査ビームの測定を行う場合、走査ビームがフォトセンサ3に入射した状態は走査速度をフォトセンサ3の移動速度より十分に高速にすることで、フォトセンサ3を固定した場合と同様になる。
フォトセンサ3の移動速度は1回の走査時間に測定間隔だけフォトセンサ3が移動するように設定する。このときの測定間隔はスリット2の幅より小さくする。例えば画像形成装置の走査光学系なら出力画像に影響するレベルの光学異常を検知するのに1ドットから2ドット相当がフォトセンサ3の移動間隔として望ましい。
【0015】
移動後の測定値は移動前の測定値の一部を含むため、光学系に異常があった場合のフォトセンサ3の移動後も同じ光学位置で測定結果が変動する。このためフォトセンサ3の入射位置による感度バラツキによる光量変動と光学系異常による光量変動を判別することができる。
図5は、走査領域全てでフォトセンサ3を一定速度で移動しながら連続点灯状態の主走査ビームの測定を行うときのフォトセンサ3の出力信号タイミングを表す図である。
タイミングを分かり易くするため、受光光量のグラフに初回のフォトセンサ3の出力信号を破線で示している。
このとき、フォトセンサ3からの出力信号の取り込み速度を高速にするためにメモリなどの高速記録装置に計測結果の一時記憶を行ったほうが良い。
【0016】
図5に示すフォトセンサ3からの出力信号は、走査ビームがフォトセンサ3に入射した状態の測定データと、本来は必要ではない走査ビームがフォトセンサ3に入射していない状態の測定データとを含んでいる。
そこでこの中から光量分布を構成するのに必要な測定結果(測定値)を判別する必要がある。
判別の際には1走査内に1回フォトセンサ3に走査ビームが入射することを利用する。
初めに走査ビームが入射したタイミングから走査間隔から決定した一定間隔ごとに光量ピークを検索することで位置毎の測定値が判別できる。
走査光学系又は走査光学系測定装置(走査光学系評価装置5)に固定された図示しない同期センサの出力である同期検知信号を用いて作成した間隔ごとに判別を行っても良い。
【0017】
走査ビームがフォトセンサ3に入射した位置は、走査速度とフォトセンサ3の移動速度とを一定にすることでサンプリング間隔から逆算することができる。
走査ビーム入射位置の移動はf-θ特性より一定であるので1サンプリング間隔で移動する量も一定である。このことより初めに走査ビームが入射した位置との相対位置を取得することができる。
また、フォトセンサ3の移動速度を変更することで測定中に測定分解能を変更できるように設計したい場合、フォトセンサ3の現在位置を取得できる手段を設け、フォトセンサ3の出力信号と同期させて現在位置を取得することで実現することができる。
【0018】
図6は、上記走査光学系検査装置で測定した光量と測定位置との関係を示す光強度分布図である。
横軸には測定位置、縦軸には測定光量の最大値を100%とした走査線強度比をとっている。実線mは実測値を示し、破線nは実測値の高次近似式でフィッティングした値である。
光強度分布は走査光学系を構成する光学部品の品質や組み付けのバラツキによって設計値の光強度分布と一致しない。しかし光強度分布は一般的な走査光学系が正常な場合はなだらかな分布を示す。
そのため、正常な走査光学系の光強度分布は高次近似式による値と一致する。光強度分布図と高次近似式による値との差分を取ることで急激な光量変化を示す位置を判別することができ、走査光学系(ここではポリゴンミラー117以降の光学系を意味する)の光路上の傷や異物付着・曇り等の光学系異常を判別することができる。
近似式の次数は小さいと光強度分布と近似しないため、光学系異常を判別することができない。近似式の次数が大きいと指紋などのなだらかな光量変化を起こす光学系異常を捉えにくくなる。最適な次数は光学設計によって異なるが、例えば5次、6次程度が望ましい。
【0019】
図6において、Aは光量分布が急激にかつ小範囲で落ち込んでいる部分を示している。この場合は走査光学系の出力側(光源側)に近い光学素子である折り返しミラー119や防塵ガラス120などに傷や異物の付着があると考えられる。
図6においてBは光量分布が比較的広範囲で落ち込んでいる部分を示している。この場合は走査光学系の出力側に近い光学素子である折り返しミラー119や防塵ガラス120などに指紋や曇りなどの異常があるか、走査直後の光学素子であるf-θレンズ118などに傷や異物の付着があると考えられる。
これらの判別は人が光強度分布図を見て官能的に行うこともできるが、光量分布とその高次近似による値との差分が一定量を超えた位置を異常と判別しても良い。
すなわち、図2に示すホストPC6には差分の閾値が記憶されており、光量分布とその高次近似による値との差分が閾値を超えた場合、ホストPC6は自動的に異常と判別する。
【符号の説明】
【0020】
1 走査光学系としての光走査装置
3 光量測定手段としてのフォトセンサ
4 移動手段としての移動ステージ
5 光学系検査装置
118 被検査部品としてのf-θレンズ
119 被検査部品としての折り返しミラー
120 被検査部品としての防塵ガラス
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開平10−111256号公報
【特許文献2】特開平11−142289号公報
【特許文献3】特開2003−177343号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査光学系より出力される走査ビームの走査領域上に設けられ走査ビームの光量を測定する光量測定手段と、前記光量測定手段を走査領域の主走査方向に移動させる移動手段とを有し、前記光量測定手段を移動させながら走査ビームの光量を測定する方法において、
走査ビームを連続点灯させて走査している状態で、前記光量測定手段を走査速度よりも遅い速度で移動させ、前記光量測定手段の移動中に前記光量測定手段上を走査ビームが通過するよりも短いサンプリング周期で測定を行うことを特徴とする走査光学系光量測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の走査光学系光量測定方法において、
前記光量測定手段を一定速度で移動させことにより、前記光量測定手段における1回の走査内で測定できる回数を一定にし、全ての測定結果を走査内測定回数で分割することで前記光量測定手段に走査ビームが入射中の測定値とすることを特徴とする走査光学系光量測定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の走査光学系光量測定方法において、
前記光量測定手段における1回の走査内で測定した複数の測定値のうち、最大値から所定範囲内の測定値のみを抽出してその平均値を測定値とすることを特徴とする走査光学系光量測定方法。
【請求項4】
走査光学系より出力される走査ビームの光量の主走査方向分布を測定することで走査光学系の光路上の異常を検査する走査光学系検査方法において、
前記主走査方向分布が、請求項1〜3のいずれか1つに記載の走査光学系光量測定方法により得られた測定値に基づいており、
前記主走査方向分布の高次近似を取り、その高次近似と前記主走査方向分布との差分が基準値を超える場合、異常と判別すること特徴とする走査光学系検査方法。
【請求項5】
請求項4に記載の走査光学系検査方を実施する光学系検査装置。
【請求項6】
請求項5に記載の光学系検査装置において、
走査ビームを反射又は透過性のある被検査部品に入射し、反射光又は透過光を測定することで前記被検査部品の表面形状や光学異常の検査を行うことを特徴とする光学系検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−257639(P2011−257639A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133000(P2010−133000)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】