説明

走査型サイトメータの画像処理方法及び装置

【課題】 細胞構成部から発せられ.蛍光量を正確に測定することができるサイトメータの画像処理方法及び装置を提供する。
【解決手段】 蛍光標識された細胞集団をスライドグラス上に固定した標本10を、細胞の構成部の注目領域の大きさと同程度の径を有する励起光スポットにより二次元走査し、細胞集団の特性を統計的手段で特徴付ける走査型サイトメータであって、二次元走査により取得した画像の各画の素輝度値に対し制御部16の輝度情報取得機能16bにより励起光スポットの強度分布を用いてデコンボリューションを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標本が発する蛍光を顕微鏡の光学系を利用して細胞標本上の複数点の蛍光を測光することのできる走査型サイトメータの画像処理方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スライドグラス上の細胞集団をレーザ(レーザビーム)を収束させたスポットで走査し、これら細胞集団の個々の細胞が発する蛍光量、面積、蛍光色等を検出し、さらに走査画像データを画像処理して個々の細胞データとして抽出し測定するものとして、例えば特許文献1に開示されたレーザ走査型サイトメータ(LSC:Laser Scanning Cytometer)が知られている。
【0003】
このようなレーザ走査型サイトメータ(以下、「走査型サイトメータ」と称する)は、スライドグラス上に静置された細胞集団に対しレーザスポットを光学的および機械的に走査させて各細胞を測定するもので、固定されたレーザ及び該レーザビームを収束させたスポットに対して、単離細胞浮遊液標本の細胞集団を、超音波振動で毎秒数万個の水滴に分断させジェット水流として通過させて、各細胞を測定するフロサイトメータとは基本構成に差がある。しかし、走査型サイトメータは、蛍光色素で生化学的に標識された細胞集団に対してレーザスポットを照射、励起し、個々の細胞の発する蛍光を測定し、細胞集団の免疫学的特性、遺伝学的特性、細胞増殖性等を表す統計的なデータとして測定結果を提示することを目的としている点においては、フローサイトメータと同じである。
【0004】
一方で、走査型サイトメータは、スライドグラス上の各細胞の座標位置を記録し、且つ、走査ステージによる座標位置の再現が可能である。これにより、統計データのうち特定の部分集合に相当する測光値を示した個々の細胞を顕微鏡視野内に移動させて顕微鏡観察することができる。すなわち、走査型サイトメータは、フローサイトメータに比べて、顕微鏡観察像と細胞データとを対応付けることができるという点で優れている。このような細胞集団標本を測定した後に、個々の細胞を顕微鏡下へ順次位置再現して顕微形態観察する機能を、走査型サイトメータの「リコール観察機能」と呼んでいる。
【0005】
また、走査型サイトメータの典型的な医学生物学的研究用途として、がん腫瘍の細胞周期解析が挙げられる。がん腫瘍においては、特に「増殖性」という性質が重要になるが、これは細胞一個一個を顕微鏡観察しても何ら知見は得られるものでなく、腫瘍組織を構成する数百から数千個の細胞のうち、細胞分裂周期の安定期、DNA合成期、分裂期に属する細胞個数比率によって統計的な数値指標として客観的に表現することができる。
【0006】
走査型サイトメータは、このような統計的数値指標を提供する一方、細胞分裂周期内の特定の期(例えば、分裂中期)に属する細胞データを指定して個々の細胞を顕微鏡視野内に順次呼び出すリコール観察機能により、形態的な検討を顕微鏡下で行うことができる。これらの分析方法を、サイトメトリーと呼称する。
【特許文献1】特許第3090679号公報
【特許文献2】特願2004−381511号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前述したようにサイトメトリーには一組の標本として数千から数万個という多数の細胞を必要とする。この場合、解析の速度が必要とされることは当然であるが、例えば臨床試験のスクリーニングなどとして有効な装置であるためには、個々の細胞の蛍光量測定の正確さを向上させることが大きなポイントとなる。
【0008】
特許文献1には、その為の一つの要素技術として、測定する細胞の注目領域を細胞核部分とした時、その蛍光量を測定する際に、注目領域外である細胞質に由来するバックグラウンドの蛍光量を注目領域から除去する方法が開示されている。
【0009】
図7は、かかる方法の概略を説明するための図である。図において、101は、蛍光量測定する細胞の注目領域である細胞核で、この細胞核101には、周囲の注目領域外の細胞質領域102の蛍光量が重畳されることがある。そこで、まず、細胞核101の領域周囲に沿ってバックグラウンド算定用閉曲線103を設定する。次に、このバックグラウンド算定用閉曲線103に沿った画素の輝度の強度平均値をバックグラウンド値として求め、このバックグラウンド値を細胞核101の領域の各画素の輝度値から減算することによって、バックグラウンドの蛍光量を除去した細胞核101の蛍光量を求めるようにしている。
【0010】
細胞核101の領域の境界線を決める方法として、オペレータが細胞サイズに応じて明るさの閾値を決め、この閾値に基づいて一定の領域を抽出する。その後、閾値で決められた領域の境界を、オペレータが決定する一定の画素数だけ拡大する。これにより得られた領域を「近傍」と称している。
【0011】
次に、前記「近傍」中の明るさ最大値を持つ画素を中心に「近傍」を決定し直す。つまり、細胞核101の「骨格」を決める閾値と、「近傍」を決定する「膨張」のための画素致をオペレータが試行錯誤の後、全ての細胞に対して一律に決定するものである。
【0012】
しかし、このような方法によると、以下述べるような問題点がある。
第1に、標本内の細胞核101及び細胞質領域102を含んだ細胞そのものの大きさは必ずしも一定ではなく、形状も様々である。このため、オペレータによる閾値や、「近傍」を決定する「膨張」の画素数などを一律に決めることができない。第2に、励起ビームは細胞の厚み方向に対する励起効果も考慮して、ビームウエストが急激に細くなる(NAが大きい)ような状態を避けるためにNAを小さくして、試料上のスポット径が細胞又は細胞核と同程度の大きさにすることが望ましい。しかし、このようにすると、実際の細胞走査で得られた画像の1画素あたりの蛍光強度は、励起光スポット内の全ての構造物から発せられた蛍光量ということになり、上述した方法では除去しきれないいくつかの誤差原因を含む。そして、第3に、近接して細胞質領域が重なっている2個の細胞と、分裂後期にある2核細胞などとの区別について上述した方法では考慮が払われていない。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、細胞構成部から発せられる蛍光量を正確に測定することができるサイトメータの画像処理方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の発明は、蛍光標識された細胞集団をスライドグラス上に固定した標本を、前記細胞の構成部の注目領域の大きさと同程度の径を有する励起光スポットにより二次元走査し、前記細胞集団の特性を統計的手段で特徴付ける走査型サイトメータにおいて、前記二次元走査により取得した画像の各画素の輝度値に対して励起光スポットの強度分布を用いてデコンボリューションを実行するステップを有することを特徴としている。
【0015】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、さらに前記細胞の注目領域外の細胞構成部内にある複数の画素から、注目領域内外双方の相互干渉から生じるバックグラウンド補正のための輝度値を計算するステップと、前記バックグラウンド補正のための輝度値を前記細胞構成部の注目領域内の各画素の輝度値から減算するステップを有することを特徴としている。
【0016】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記細胞は、少なくとも2個あって、一方の細胞の注目領域の細胞構成部に、他の細胞の注目領域外の細胞構成部が重畳している場合、前記一方の細胞の注目領域外の細胞構成部と前記他の細胞の注目領域外の細胞構成部の重畳都分の輝度データから前記バックグラウンド補正のための輝度値を算出することを特徴としている。
【0017】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明において、前記バックグラウンド補正のための輝度値は、1以下の係数がかけられていることを特徴としている。
【0018】
請求項5記載の発明は、蛍光標識された細胞集団をスライドグラス上に固定した標本を、前記細胞の構成部の注目領域の大きさと同程度の径を有する励起光スポットにより二次元走査し、前記細胞集団の特性を統計的手段で特徴付ける走査型サイトメータにおいて、前記二次元走査により取得した画像の各画素の輝度値に対して励起光スポットの強度分布を用いてデコンボリューションを実行する手段を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、細胞構成部(特に細胞核)から発せられる蛍光量を正確に測定することができるサイトメータの画像処理方法及び装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に従い説明する。
【0021】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の画像処理方法が適用される走査型サイトメータ(LSC)の概略構成を示している。
図1において、1はレーザ光源で、このレーザ光源1から発せられるレーザ光の光路上には、集光レンズ2、コリメータレンズ3、可変光束絞り4及びダイクロイックミラー5が配置されている。集光レンズ2は、レーザ光源1から発せられるレーザ光を集光し、コリメータレンズ3は、集光されたレーザ光を平行光に変換する。可変光束絞り4は、所定形状の複数の孔を有するもので、コリメータレンズ3により平行光に変換されたレーザ光の光束径を所定の光束径に絞り込み、収束されるレーザ光の実効的開口数(NA)を小さくし、励起光のスポット径を最値化する。ダイクロイックミラー5は、コリメータレンズ3からの平行光を反射し、後述する標本10上で励起された蛍光を透過するような特性を有している。
【0022】
ダイクロイックミラー5の反射光路上には、XYスキャナミラー6が配置されている。XYスキャナミラー6は、直交する2方向に光を偏向するための不図示の2枚のガルバノミラーを有し、これらのミラーによりレーザ光を二次元方向、つまりX、Y方向に走査するようになっている。
【0023】
XYスキャナミラー6で二次元走査されたレーザ光の光路上には、瞳投影レンズ7、対物レンズ8が配置されている。この場合、XYスキャナミラー6で二次元走査されたレーザ光は、瞳投影レンズ7、対物レンズ8を介して標本10上の焦点位置に集光され、標本10上で励起された蛍光は、レーザ光と逆の光路をたどって対物レンズ8、瞳投影レンズ7、XYスキャナミラー6を介してダイクロイックミラー5まで戻される。ここで、標本10は、XYステージ9上に載置され、このXYステージ9によりXY方向に移動可能になっている。
【0024】
ダイクロイックミラー5の蛍光の反射光路上には、ダイクロイックミラー12が配置されていて、蛍光の波長によって光路を分割する。
【0025】
ダイクロイックミラー12により分割された反射側光路には、バリアフィルタ14aを介して光電変換素子(PMT)15aが配置され、また、透過側光路には、バリアフィルタ14bを介して光電変換素子(PMT)15bが配置されている。バリアフィルタ14a、14bは、所定の波長以外の蛍光を遮断する。また、光電変換素子(PMT)15a、15bは、入射される蛍光の強度を検出し、この蛍光強度を電気信号に変換して出力する。
【0026】
光電変換素子(PMT)15a、15bには、制御手段として制御部16が接続されている。制御部16には、XYスキャナミラー6及びXYステージ9が接続され、さらに記憶部17及び表示部18が接続されている。
【0027】
制御部16には、画像処理機能16a、輝度情報取得機能16b、画像修正処理機能16cが設けられている。画像処理機能16aは、XYスキャナミラー6によるレーザ光の二次元走査に対応させて光電変換素子(PMT)15a、15bからの電気信号を取り込み、この電気信号をデジタル値に変換し、記憶部17に記憶させ、さらに二次元走査にしたがって標本10上の蛍光の強度に応じた濃淡画面を生成して表示部18に表示させる。輝度情報取得機能16bは、二次元走査により取得される画像(輝度)データに基づいて真の輝度情報を取得するための処理を実行する。画像修正処理機能16cは、輝度情報取得機能16bにより取得された輝度情報に対し、さらにバックグラウンド補正を実行する。
【0028】
このように構成された走査型サイトメータについて簡単に説明する。
【0029】
レーザ光源1からレーザ光が発生すると、集光レンズ2を透過し、コリメータレンズ3で平行光に変換され、最値な絞り径が選択された可変光束絞り4に入射して光束径が絞られる。可変光束絞り4で光束径が絞られたレーザ光は、ダイクロイックミラー5で反射し、XYスキャナミラー6、瞳投影レンズ7、対物レンズ8を介して標本10上の焦点位置に集光される。この場合、レーザ光は、可変光束絞り4により光束径が絞られ開口数(NA)が小さくなっており、対物レンズ8から出射するレーザ光のNAも小さくなることから、標本10上において集光されるスポット径は、前述したように細胞又は細胞核と同程度の大きさに調整されている。
【0030】
ここで、XYスキャナミラー6によってレーザ光を標本10上で二次元走査させると、このレーザ光で励起された蛍光は、標本10を照射したレーザ光と同じ光路をダイクロイックミラー5まで逆行し、ダイクロイックミラー5を透過し、ダイクロイックミラー12に入射し、さらに蛍光波長の違いによって透過と反射とに分岐され、バリアフィルタ14a,14bを介して光電変換素子(PMT)15a、15bに入射する。
【0031】
光電変換素子(PMT)15a、15bは、入射される蛍光の輝度を電気信号に変換し、制御部16に出力する。制御部16は、画像処理機能16aにより光電変換素子(PMT)15a、15bからの電気信号をデジタル値に変換し、さらにXYスキャナミラー6による二次元走査にしたがって標本10上の蛍光の強度に応じた濃淡画面を生成して表示部18に表示させる。この場合、表示部18に表示される走査画像は、分解能は低くいが、標本10のZ方向も含めた細胞全体を捉えたものとなり、蛍光測定を行う上でS/N比の良いLSC機能を十分満たすものが得られる。
【0032】
次に、このようにして取得される画像データに対し、輝度情報取得機能16bにより真の輝度情報を取得するための処理が実行される。
いま、図2に示すように細胞200の構成部として、注目領域を細胞核201、その外側の注目領域外をを細胞質202とすると、細胞核201についてDAPI/DNAやPIなどの蛍光物質を用いて蛍光標識を施した場合、細胞核201において高強度の蛍光を発するが、細胞質内物質や核蛍光の細胞質内構造物による散乱等の影響により、注目領域外の細胞質202においても比較的低輝度の蛍光が発生することが知られている。
【0033】
このような細胞200に対し、上述した走査型サイトメータにおいて、細胞核201とほぼ同じ大きさを持った励起光スポット301を走査線302に沿って移動する。この励起光スポット301の移動において、細胞200の存在しない部分(a)から(b)までの走査過程では、システムノイズ以外にバックグラウンドに相当する輝度値は無いので、同図Aに示すグラフで表わされる蛍光強度プロファイルはほぼ平らである。このとき値は、画面全体で一定であるか又はシェーディング補正の中に含まれるので、ここでは問題にする必要は無い。
【0034】
次に、(b)から(c)の走査過程では、蛍光強度プロファイルは緩やかな上昇を示し(c)から(d)では急激な上昇カーブとなる。一般に用いられる画像処理では、このプロファイルの傾き係数が大きく変化する励起光スポット301の中心位置(図示(c))近辺を細胞核201の境界領域と判断するアルゴリズムや、又はプロファイルの半値幅を基準とした閾値で境界領域を決めるアルゴリズムなどが用いられる。ところが、このようにすると、前者のアルゴリズムでは、細胞核201の大きさは実際の大きさよりかなり大きめに決定されてしまうことになる。つまり、図3に示すように、真の細胞核の領域を201Aとすると、励起光スポット301が感じる細胞核の領域201Bは、実際の大きさよりかなり大きめに決定されてしまう。また、後者のアルゴリズムでは、閾値を決定する段階でオペレータの主観が入るため、正確な領域境界を決定することは難しい。さらに、図2に示す(c)(d)(e)の走査過程にある励起光スポット301は、注目領域の細胞核201ばかりではなく、注目領域外の細胞質202、さらには細胞のない領域も含んでいる。各スポット位置に対応する画素はその中心位置で代表され、その輝度値は、励起光スポット301の領域全体の輝度で決まる。このため、図2(c)(d)(e)の各走査過程にある励起光スポット301に対応する画素の輝度値は、著しく正確さに欠けるものとなる。さらに、励起光スポット301の強度分布は、一般に平坦ではなく、例えば光源にレーザを用いる場合、図4に示すようににガウス分布に近い分布になる。これも各画素の輝度に不正確さを生じさせる一因となる。
【0035】
ところで、励起光スポット301の二次元走査により取得される画像の輝度値は、励起光スポット301の強度分布(=PSF(ポイント・スプレッド・ファンクション))と細胞200(細胞核201及び細胞質202)の真値のコンボリューションで与えられている。つまり、励起光スポット301より得られた輝度値のフーリエ変換を行なうと、励起光スポット301のPSFのフーリエ変換と細胞200の真値のフーリエ変換の積となる。このことから、細胞200の真値のフーリエ変換は、励起光スポット301より得られた輝度値のフーリエ変換を励起光スポット301のPSFのフーリエ変換で割り算したものとなり、さらに、これを逆フーリエ変換することで、細胞200の真値が得られる。つまり、励起光スポット301の二次元走査により得られる輝度値に対して励起光スポットのPSFを用いてデコンボリューションを実行することにより、細胞200の真値が得られることとなる。
【0036】
図5は、このようなデコンボリューションを実行した結果を説明するもので、同図(a)に示すように、真の細胞核領域201Aに対して励起光スポット301が感じる細胞核領域を201Bとし、真の細胞質領域202Aに対して励起光スポット301が感じる細胞質領域を202Bとしたとき、上述したデコンボリューションを実行することにより、同図(b)に示すように細胞200の真値として、真の細胞核領域201Aと真の細胞質領域202Aに修正された輝度情報が得られる。
【0037】
そして、これ以降、制御部16の画像修正処理機能16cにおいて、バックグラウンドの蛍光量を除去するバックグラウンド補正が実行される。ここでのバックグラウンド補正は、上述した図7で説明した方法に準じたものである。まず、細胞の注目領域外の細胞構成部内にある複数の画素から、注目領域内外双方の相互干渉から生じるバックグラウンド補正のための輝度値を求める。具体的には、図5(b)に示す注目領域の細胞核領域201Aの周囲の注目領域外の細胞質領域202Aに対しバックグラウンド算定用閉曲線203を設定し、このバックグラウンド算定用閉曲線203に沿った画素の輝度の強度平均値をバックグラウンド補正のための輝度値として求め、次いで、この輝度値を細胞質領域202A内の各画素の輝度値から減算することによって、バックグラウンドの蛍光量を除去した細胞核領域201Aの蛍光量を求める。
【0038】
したがって、このようにすれば、励起光スポット301の二次元走査により得られ二次元画像の各画素の輝度値に対して励起光スポットの強度分布を用いてデコンボリューションを実行することにより、細胞200の真値が得られる。これにより、走査型サイトメータの走査画像の分解能の低さを補って、細胞内の細胞核から発せられた蛍光強度の励起光スポットの広がりや強度分布による誤差要因を確実に除去することができる。つまり、走査型サイトメータは、ビーム径を小さくできないため、走査画像の分解能が低いが、上述したようなデコンボリューションを実行することで、分解能の低さを補って、精度の高い細胞測定を実現することができる。そして、さらに細胞200の真値に対してバックグラウンド補正を行なうことにより、蛍光測定の注目領域である細胞核201A以外の細胞質領域202Aに由来するバックグラウンドの蛍光量を除去することができ、注目領域の細胞構成部から発せられる蛍光量を、さらに正確に測定することができる。
【0039】
さらに、測定対象となる細胞には、図6に示すように、2個の真の細胞核領域401A、402Aのそれぞれの真の細胞質領域403A部分に重なりを生じていることもある。この場合も、真の細胞核領域401Aに対して励起光スポット301が感じる細胞核領域を401B、真の細胞核領域402Aに対して励起光スポット301が感じる細胞核領域を402Bとし、真の細胞質領域403Aに対して励起光スポット301が感じる細胞質領域を403Bとしたとき、上述したデコンボリューションを実行することにより、同図(b)に示すように、真値として、細胞核領域401A、402Aと、これら真の細胞核領域401A、402Aに対応する真の細胞質領域403A1、403A2に修正された輝度情報が得られる。
【0040】
ここで、注意されるべき点として、一般に走査型の結像系では、PSF(ポイント・スプレッド・ファンクション)は、系のPSFの二乗とするのが常識であるが、ここでは、蛍光顕微鏡を前提としているので、PSF(図4に示したガウス分布)がそのままを用いられている。
次に、細胞核領域401A、402Aに対し、他の細胞の細胞質領域403A2、403A1が一部重なっているような場倉のバックグラウンド補正では、図6(b)に示すように、これらの重なり部分である細胞核重畳領域404の輝度値修正は、細胞質領域403A1、403A2が重なっている細胞質重畳領域405の輝度値を元に滅算を行うようにする。細胞質重畳領域405の境界と、細胞核重畳領域404の境界を決めるには、細胞質領域403A1、403A2、細胞核領域401A、402Aの全画素の中で、蛍光輝度がそれぞれの領域の基準値に対して、あらかじめ決められた値(+α)以上の画素を選択し、その画素集団が、細胞質又は細胞核の領域閉曲線と連続性が保たれるように再構築するなどのアルゴリズムを用いることができる。前記基準値と+αの値は、オペレータによって入力されるようにしても良いし、複数個の単離細胞から統計的に決定するようにしても良い。
【0041】
この作業は2個の細胞が重なつている場合にのみ必要なので、上記の処理は、対象の細胞が、2個の細胞が重なっているのか、1個の細胞が分裂中期から後期の間に2核細胞となっているのか、又は小核が存在する細胞かの判断を先に行ってから実行した方が良い。その手段は、本出願人が特許文献2で出願したように、細胞質領域の蛍光強度ヒストグラムが単峰(single peak)か双峰(twin peak)かを調べることによって実行できる。すなわち、2個の細胞の細胞質が重なっている領域では、重なっていない細胞質領域に対して蛍光強度が2倍近くになるので、蛍光強度ヒストグラムが単峰(single peak)であれば細胞の重なりがなく、双峰(twin peak)であれば重なりがあると判断できる。
【0042】
また、2個の細胞が重なっている場合でも、それぞれの細胞核に他の細胞の細胞質が重なっていないような場合も想定されるので、上記の重畳領域境界判定処理は、細胞質について先に実行すべきである。細胞核が細胞質重畳領域外に有る場合にはその後の処理は不要である。つまり、単離細胞と同じ処理に戻ればよい事になる。但し、それぞれの細胞は1個の個別細胞として統計処理されなければならない。
【0043】
ここでのバックグラウンド補正にともなう減算処理についても、上述した図7で説明した方法を用いれば、比較的正しく行なうことができる。いずれの場合でも、バックグラウンド補正に際しては、細胞核部分に被さったり又は下敷きになっている細胞質の厚さは、一般に細胞核の外側に位置するものより薄くなっているので、実際の減算に際しては、バックグラウンド補正のための輝度値に適当な係数、例えば1以下の係数をかけてやることが必要である。これはオペレータが自由に選択できるようになっている。
【0044】
その他に、図示していないが、一個の細胞内に複数個の核、つまり小核が存在する細胞、分裂後期で細胞核がくびれた状態にある細胞など、種々の細胞が考えられるが、これらの細胞に対しても何ら特別な処理を施すことなく、上述したデコンボリューションを実行することにより、原画像から真の細胞核領域に修正された輝度情報を得ることができる。
【0045】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものでなく、実施段階では、その要旨を変更しない範囲で種々変形することが可能である。
【0046】
さらに、上記実施の形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示されている複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出できる。例えば、実施の形態に示されている全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題を解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施の形態が適用される走査型サイトメータの概略構成を示す図。
【図2】一実施の形態に用いられる輝度情報取得機能により真の輝度情報を取得するための処理を説明する図。
【図3】一実施の形態に用いられる輝度情報取得機能により取得される真の細胞核領域と励起光スポットが感じる細胞核領域を説明する図。
【図4】光源にレーザを用いる場合の励起光スポットの強度分布を示す図。
【図5】一実施の形態に用いられるデコンボリューションを実行した結果を説明する図。
【図6】2個の真の細胞核領域のそれぞれの細胞質領域部分が重なっている場合のデコンボリューションを実行した結果を説明する図。
【図7】従来のバックグラウンドの蛍光量を注目領域から除去する方法を説明する図。
【符号の説明】
【0048】
1…レーザ光源、2…集光レンズ
3…コリメータレンズ、5…ダイクロイックミラー
6…XYスキャナミラー、7…瞳投影レンズ
8…対物レンズ、9…XYステージ
10…標本、
12…ダイクロイックミラー、14a…バリアフィルタ
14b…バリアフィルタ、16…制御部
16a…画像処理機能、16b…輝度情報取得機能
16c…画像修正処理機能、18…表示部
200…細胞、201…細胞核、201A…細胞核領域
201B…細胞質領域、202…細胞質
202A…細胞質領域、203…バックグラウンド算定用閉曲線
301…励起光スポット、302…走査線
401A.402A…細胞核領域、403A…細胞質領域
403A1.403A2…細胞質領域、404…細胞核重畳領域
405…細胞質重畳領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光標識された細胞集団をスライドグラス上に固定した標本を、前記細胞の構成部の注目領域の大きさと同程度の径を有する励起光スポットにより二次元走査し、前記細胞集団の特性を統計的手段で特徴付ける走査型サイトメータにおいて、
前記二次元走査により取得した画像の各画素の輝度値に対して励起光スポットの強度分布を用いてデコンボリューションを実行するステップを有することを特徴とする走査型サイトメータの画像処理方法。
【請求項2】
さらに前記細胞の注目領域外の細胞構成部内にある複数の画素から、注目領域内外双方の相互干渉から生じるバックグラウンド補正のための輝度値を計算するステップと、
前記バックグラウンド補正のための輝度値を前記細胞構成部の注目領域内の各画素の輝度値から減算するステップを有する
ことを特徴とする走査型サイトメータの画像処理方法。
【請求項3】
前記細胞は、少なくとも2個あって、一方の細胞の注目領域の細胞構成部に、他の細胞の注目領域外の細胞構成部が重畳している場合、前記一方の細胞の注目領域外の細胞構成部と前記他の細胞の注目領域外の細胞構成部の重畳都分の輝度データから前記バックグラウンド補正のための輝度値を算出することを特徴とする請求項2記載の走査型サイトメータの画像処理方法。
【請求項4】
前記バックグラウンド補正のための輝度値は、1以下の係数がかけられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の走査型サイトメータの画像処理方法。
【請求項5】
蛍光標識された細胞集団をスライドグラス上に固定した標本を、前記細胞の構成部の注目領域の大きさと同程度の径を有する励起光スポットにより二次元走査し、前記細胞集団の特性を統計的手段で特徴付ける走査型サイトメータにおいて、
前記二次元走査により取得した画像の各画素の輝度値に対して励起光スポットの強度分布を用いてデコンボリューションを実行する手段を備えたことを特徴とする画像処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−317261(P2006−317261A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139771(P2005−139771)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】