説明

走査型プローブ顕微鏡の探針先端評価方法

【課題】 使用中の探針の先端が摩耗したとき探針先端の太さの劣化を簡易な手順で評価できる走査型プローブ顕微鏡の探針先端評価方法を提供する。
【解決手段】 この走査型プローブ顕微鏡の探針先端評価方法は、寸法が既知のV字状の溝A1が形成された基準試料11について探針12A,12Bで溝A1を測定する測定ステップS13と、この測定ステップで得られた測定データに基づき探針の先端の太さを推定する推定ステップS15とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は走査型プローブ顕微鏡の探針先端評価方法に関し、特に、探針の先端の太さの推定に好適な走査型プローブ顕微鏡の探針先端評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型プローブ顕微鏡による従来の探針評価方法としては特許文献1に開示される方法がある。この特許文献1に開示される探針の評価方法は、2以上の突起(同一凹凸パターンの繰返し)を備えた標準試料を複数用意し、これらの標準試料を用いて走査型プローブ顕微鏡で測定を行い、当該測定に使用した被検査探針の先端形状を推定する方法である。複数の標準試料の間において突起の凹凸パターン(半径R、高さH、ピッチP等のパラメータ)は異ならせている。この探針評価方法では、最初に適切に選択した標準試料を用いて、これを被検査探針で走査してその凹凸像(実像)を求める。次に探針の先端形状を適宜なパラメータを用いて関数で表現する。当該関数で表現された探針を用いてシミュレーションにより上記標準試料を走査してその凹凸像(シミュレーション像)を求める。次にこのシミュレーション像と上記実像とを比較して、その差が小さくなるように探針を表現する上記関数のパラメータを決定する。その後、再び上記のシミュレーション像の作成ステップと関数パラメータの決定ステップと繰り返し、最終的に被検査探針の先端形状を推定する。
【特許文献1】特開平6−117844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示される走査型プローブ顕微鏡の探針先端の評価方法では、凹凸パターンのパラメータが異なる複数の標準試料を用意する必要があり、さらに、或る標準試料を用いて凹凸画像を取得してその結果から探針の形状をシミュレートし、評価に最適な標準試料に交換して再度画像を取得するという手順を繰り返す必要がある。従って、手順が複雑であるという問題を有する。
【0004】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、使用中の探針の先端が摩耗したとき探針先端の太さの劣化を簡易な手順で評価できる走査型プローブ顕微鏡の探針先端評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る走査型プローブ顕微鏡の探針先端評価方法は、上記目的を達成するために、次のように構成される。
【0006】
第1の本発明に係る走査型プローブ顕微鏡の探針先端評価方法(請求項1に対応)は、寸法が既知のV溝開口部が形成された基準試料について探針でV溝開口部を測定する測定ステップと、この測定ステップで得られた測定データに基づき探針の先端の太さを推定する推定ステップとから成る方法である。
【0007】
上記の探針先端評価方法では、既知寸法のV溝開口部が表面に形成された基準試料を探針によって通常の方式で測定すると、先端が太い探針ほど本来のV溝の深さよりも小さな深さが測定される。従って、探針使用前に当該探針をV溝を測定した時の深さ測定値を記録し、さらに探針使用後において当該探針で再度V溝を測定した時の深さ測定値を取得し、使用前後の深さ測定値を比較することにより探針先端の摩耗による劣化の様子を簡易に知ることが可能となる。
【0008】
第2の本発明に係る走査型プローブ顕微鏡の探針先端評価方法(請求項2に対応)は、上記の方法において、好ましくは、上記の測定データはV溝開口部の深さデータであることで特徴づけられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、寸法が既知であるV溝開口部が形成された基準試料を用意し、この基準試料を被検査対象である探針によって測定し、その測定データに基づいて探針の先端形状の摩耗状態を評価するようにしたため、探針の先端の摩耗前後の変化を確実に捉えることができる。さらに既知寸法としてV溝の開き角度が既知であれば、測定した深さデータから探針の先端の半径を推定することができる。
また本発明によれば、測定時の探針のすべりによる誤差のない評価が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
走査型プローブ顕微鏡(SPM)の一例として原子間力顕微鏡(AFM)の基本的な構成を概説する。通常、表面に集積回路等が形成された半導体基板等の試料が試料ステージに載置され、この試料の表面に接近させて探針が配置される。探針はカンチレバーの先端に形成され、極めて微細な形状を有する針部材である。測定の際、探針は試料に対して原子間力が発生するような距離にて接近される。また試料表面の特定領域を測定する時、探針を試料表面を走査するように移動させる。試料表面に対する探針の相対的な走査移動は試料側の粗動機構と探針側の微動機構によって行われる。上記試料ステージは粗動機構として機能する。微動機構は、探針を、試料表面に平行な方向、および試料表面に対して略直角な方向に移動させる。微動機構は例えば圧電素子を利用して構成される。
【0012】
原子間力顕微鏡では、探針が試料の表面に接近したときに探針・試料間に生じる原子間力を利用して試料表面の凹凸形状を測定する機能を有する。探針・試料間の原子間力は、探針が試料表面を走査する時に一定に保持されるように制御される。この制御を行うために探針を備えたカンチレバーの撓みと捩れを検出するための例えば光てこ式光学検出装置が設けられる。この光てこ式光学検出装置によって検出されたカンチレバーの変位・変形検出情報は制御部に入力され、そこで基準値と比較される。検出されたデータが基準値と一致するように制御信号が生成され、当該制御信号は上記探針(カンチレバー)の位置を決める上記微動機構にフィードバックされ、カンチレバーの変位・変形状態が基準値に一致にするように制御が行われる。
【0013】
上記の状態に保持するように、探針を試料の表面に沿って移動させ、その時の試料表面に対する探針の位置変化に係る情報を得ることにより、試料表面の原子レベルの凹凸形状を測定することが可能となる。
【0014】
試料の表面の凹凸形状を高い精度で測定するためには探針の先端の先鋭度が重要な要素である。そこで、探針の先端の先鋭度(または摩耗度)を正確に評価する方法を図を参照して以下に説明する。
【0015】
図1〜図3を参照して本発明に係る探針評価方法の実施形態を説明する。図1は基準試料11の表面に形成された複数の溝A1を被検査探針12A,12Bが測定する状態が示されている。図1で、被検査探針12Aは摩耗前の先端13Aを有する探針であり、被検査探針12Bは摩耗後の先端13Bを有する探針である。図2は探針先端評価方法を実施するフローチャートを示す。図3は、図1の測定で、V字溝の角度θが既知であるときの被検査探針と溝との関係を数学的に表現した図である。
【0016】
図1では、先端が摩耗される前の探針12Aと先端が摩耗された後の探針12Bが示されている。溝A1を有した基準試料11において、溝A1は断面V字の形状を有し、かつ溝A1の深さDは既知であるとする。溝A1を有した基準試料11を測定対象として探針12Aで当該溝A1を原子間力顕微鏡の原理で測定すると、図1に示されるごとく計測深さDaのデータを取得する。同様にして、基準試料11に対して探針12Bで当該溝A1を測定すると、図1に示されるごとく計測深さDbを取得する。
【0017】
従って、被検査探針を装着した原子間力顕微鏡によって上記の基準試料11の溝A1を測定すると、被検査探針(12A,12B)の先端(13A,13B)の太さに依存してV形状の溝A1の深さ計測値が異なる。探針の先端が細いほど、溝A1の深さは深く計測され、溝A1の本来の深さの値Dに近くなり、先端が太いほど溝A1の深さは浅く計測される。この結果、探針の摩耗前と磨耗後の劣化を確実に捉えることができる。
【0018】
以上に基づきこの実施形態による探針先端評価方法は、図2に示すごとく、被検査探針の取付け(ステップS11)、基準試料11のセット(ステップS12)、被検査探針による基準試料11の測定(ステップS13)、計測深さデータの取得(ステップS14)、被検査探針の先端の評価(ステップS15)によって構成される。
【0019】
また、図3に示されるごとく上記の基準試料11におけるV字形状の溝A1の角度θが既知である場合には、探針12Cの先端13Cを形成する丸みの半径が「r」であるとき、計測深さの値Dと計測深さdに基づいて、探針先端13Cの半径rを次式(2)によって推測することができる。
【0020】
D−d=r/sinθ−r …(1)
r=(D−d)sinθ/(1−sinθ) …(2)
【0021】
従って、角度θが既知である場合に上記の式(1),(2)を用いて被検査探針の先端評価のステップS15を実行するように構成すれば、本実施形態の探針評価方法によれば、探針先端の半径を推定することも可能となる。
【0022】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎず、また数値および各構成の組成(材質)については例示にすぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【0023】
例えば基準試料11に形成される複数のV字型溝A1は図1に示すように隙間なく連続的に形成することもできるし、間隔をあけて形成することもできる。
また、V字型溝が複数方向に形成された、または組み合わせた基準試料を用いることにより、探針の先端評価方向が複数となり、走査型プローブ顕微鏡(SPM)で測定する対象との整合性が向上する。
また、本発明での探針半径とは、V字型溝と接する部分を主として推定するつもりであり、各種V字型を用いれば、より複雑な針形状を推定できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡での測定で使用される探針の先端部の正確な評価に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る探針先端評価方法の実施形態を説明するための図である。
【図2】本実施形態の探針先端評価方法を実施するフローチャートである。
【図3】図1の測定で、V字溝の角度(θ)が既知であるときの被検査探針と溝との関係を数学的に表現した図である。
【符号の説明】
【0026】
11 基準試料
12A,12B,12C 被検査探針
13A,13B,13C 被検査探針の先端
A1 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
寸法が既知のV溝開口部が形成された基準試料について探針で前記V溝開口部を測定する測定ステップと、
前記測定ステップで得られた測定データに基づき前記探針の先端の太さを推定する推定ステップと、
から成ることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡の探針先端評価方法。
【請求項2】
前記測定データは前記V溝開口部の深さデータであることを特徴とする請求項1記載の走査型プローブ顕微鏡の探針先端評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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