説明

超伝導加速空洞の製造方法

【課題】溶接時における支持構造の簡素化をはかるとともに製品内面の平滑化をはかることができる超伝導加速空洞の製造方法を提供する。
【解決手段】軸線方向の両端に開口部(赤道部13、アイリス部)を有する複数のハーフセル15を軸線方向に配列し、相互の開口部同士が接触する接触部21を溶接によって接合して超伝導加速空洞を製造する超伝導加速空洞の製造方法であって、接合されるハーフセル15は軸線方向が上下方向に延在するように配置されるとともに下側に位置するハーフセル15における接触部21の下方に位置する内周面に外側に向かい凹む凹部25が形成され、接触部21を外側から貫通溶接して接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導加速空洞の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超伝導加速空洞は内部を通る素粒子を加速するものであるので、超伝導加速空洞が所定の性能を発揮するためには、内表面の性状が重要となる。
超伝導加速空洞は、軸線方向に配列された、セル、ビームパイプ等の複数の環状部材が接合されて形成される(特許文献1、特許文献2参照)。
従来、この接合は不純物の混入が少ないので、真空雰囲気中で電子ビーム溶接あるいはレーザ溶接によって外側から貫通溶接が行われている。
【0003】
このように外側から貫通溶接するものでは、超伝導加速空洞の内部における溶接状態に予期せぬ凹凸ができることがあり、その後処理に時間を要することになる。
このため、溶接作業は、特許文献1および特許文献2に示されるように、複数の環状部材を軸線方向が水平になるように配列し、接合部が上下方向になるようにして接合するのが一般的である。こうすることによって、接合部を挟む両側で溶接ビードが略均一とでき、比較的平滑な溶接ビードを形成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−180899号公報
【特許文献2】特開2006−318890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、複数の環状部材を軸線方向が水平になるように配列すると、重量によって中央部分が下方に移動する傾向があるので、変形によって製品不良となる恐れがある。
この重量による変形を抑制するために、複数の環状部材を大型で、強固な治具によって支持することとなり、溶接装置が大型化するとともに環状部材の設置が複雑で、時間を要するという課題がある。
【0006】
複数の環状部材を軸線方向が上下方向になるように配列して接合するようにすると、重力による接合部の位置変動は抑制されるので、複数の環状部材を支持する大型の治具を省略することができ、上述の不具合を解消することができる。
しかし、この場合、接合部が略水平方向に延在することになるので、溶融池が重力によって下方に垂れる傾向がある。これにより下側の環状体の内周面に盛り上がった溶接ビードができるので、後処理に時間を要するという課題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、溶接時における支持構造の簡素化をはかるとともに製品内面の平滑化をはかることができる超伝導加速空洞の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明の一態様は、軸線方向の両端に開口部を有する複数の環状体を該軸線方向に配列し、相互の開口部同士が接触する接触部を溶接によって接合して超伝導加速空洞を製造する超伝導加速空洞の製造方法であって、接合される前記環状体は前記軸線方向が上下方向に延在するように配置されるとともに下側に位置する前記環状体における前記接触部の下方に位置する内周面に外側に向かい凹む凹部が形成され、前記接触部を外側から貫通溶接して接合する超伝導加速空洞の製造方法である。
【0009】
本態様にかかる超伝導加速空洞の製造方法によれば、接合される環状体は軸線方向が上下方向に延在するように配置される。言い換えると、相互の開口部同士が接触する接触部は略水平方向に延在するように位置される。このようにして形成された接触部を外側から貫通溶接して環状体同士が接合される。
このように、接合される環状体は軸線方向が上下方向に延在するように配置されるので、重力による接触部の位置変動を環状体自体で十分に抑制することができる。したがって、複数の環状部材を保持する構造が簡素化できるので、溶接装置を小型化するとともに環状部材の設置作業が簡単で短時間に行うことができる。
【0010】
また、下側に位置する環状体における接触部の下方に位置する内周面に外側に向かい凹む凹部が形成されているので、重力によって下方に向かって垂れる溶融池は凹部に流れ込むことになる。このように、下方に向かって垂れる溶融池が凹部に流れ込む、言い換えると、凹部を埋めると、溶融池が内側に向かって盛り上がることがなくなるので、環状体の内周面に形成される溶接ビードを平滑にすることができる。
言い換えると、重力によって下方に向かって垂れる溶融池を見越して、下側の環状体で発生する溶融池の量(下側の環状体の体積)を低減し、あるいは、反対に上側の環状体で発生する溶融池の量(上側の環状体の体積)を増加していることになる。
このように、溶接ビードが平滑化されると、後処理に要する時間を短縮することができる。
【0011】
この場合、前記凹部は、深さが下側に行くにしたがって浅くなるように形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、接合される環状体は軸線方向が上下方向に延在するように配置されるので、溶接装置を小型化するとともに環状部材の設置作業が簡単で短時間に行うことができる。
また、下側に位置する環状体における接触部の下方に位置する内周面に外側に向かい凹む凹部が形成されているので、環状体の内周面に形成される溶接ビードを平滑にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態にかかる超伝導加速空洞の製造方法によって製造された超伝導加速空洞の断面図である。
【図2】図1の超伝導加速空洞の一部を拡大して示す断面図である。
【図3】図2のA部を示す部分断面図である。
【図4】図2のA部の溶融池の状態を示す部分断面図である。
【図5】図2のA部の別の実施態様を示す部分断面図である。
【図6】図2のA部のさらに別の実施態様を示す部分断面図である。
【図7】従来の溶融池の状態を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図1〜図7を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかる超伝導加速空洞の製造方法によって製造された超伝導加速空洞の断面図である。
超伝導加速空洞1には、図1に示されるように、中央部が膨らんだ中空の円筒形状をしたセル(環状体)3が、たとえば、9個溶接によって接合され、組み合わされた空洞部5と、空洞部5の両端部に取り付けられている中空の円筒形状をした一対のビームパイプ(環状体)7とが備えられている。
【0015】
各ビームパイプ7の空洞部5側の外周面には、空洞部5を覆うように形成される容器であるジャケットの両端部を構成する端板9が取り付けられている。
ビームパイプ7には、図示を省略しているが、インプットカプラが取り付けられるインプットポートと、空洞部5内に励起されたビーム加速を妨げる高調波を空洞部5の外部に放出するための高調波カプラ等が備えられている。
【0016】
空洞部5には、セル3間に最も引っ込んだ部分であるアイリス部11が形成されている。セル3の軸線方向Lの中央部は最も膨らんだ部分である。この最も膨らんだ部分を赤道部13という。
セル3は、赤道部13を境として軸線方向Lで2分割されたハーフセル(環状体)15で構成されている。ハーフセル15の両端部はアイリス部(開口部)11と赤道部(開口部)13とになる。
ハーフセル15およびビームパイプ7は、超伝導材料である、たとえば、ニオブ材で形成されている。
【0017】
以下、超伝導加速空洞1の製造方法について説明する。
まず、各構成部材としてビームパイプ7、端板9およびハーフセル15が製造される。
まず、ビームパイプ7と、端板9と、ハーフセル15とで構成されている2個のエンドパーツ(環状体)17が製造される。エンドパーツ17は、ビームパイプの一端部の外周側に端板9の内周部を溶接によって接合し、内周側にハーフセル15のアイリス部11が溶接によって接合されて形成される。
【0018】
次いで、溶接装置によって2個のエンドパーツ17および複数のハーフセル15が溶接によって接合される。
まず、溶接装置に1個のエンドパーツ17が、軸線方向Lが上下方向に延在し、ハーフセル15が上側に位置するように設置される。
次に、複数のハーフセル15が赤道部13同士あるいはアイリス部11同士が重なるように軸線方向Lに配列され、その上に他のエンドパーツ17が、積み重ねられる。
【0019】
このように、溶接によって接合されるエンドパーツ17のハーフセル15および複数のハーフセル15は軸線方向が上下方向に延在するように配置されるので、相互の接触部21は略水平方向に延在することになる。接触部21が水平に延在すると、重力による接触部21の位置変動をハーフセル15等自体で十分に抑制することができるので、ハーフセル15等を保持する構造を簡素化することができる。これにより、溶接装置を小型化するとともにハーフセル15等の設置作業が簡単で短時間に行うことができる。
【0020】
次に、接触部21について図2および図3に基づいて説明する。たとえば、2個のハーフセル15は、赤道部13同士が重ねられて接触部21を形成している。2個のハーフセル15の端面は、積み重ねられた際に水平方向の位置がずれないようにインロー加工されている。
下側に位置するハーフセル15の内周側端面には、直線状の面取り23が施されている。これにより接触部21における下側に位置するハーフセル15の内周面には、上側に位置するハーフセル15の下端面と面取り23とによって外側に向かい凹む凹部25が形成されている。
【0021】
凹部25は水平方向の深さが下側に行くにしたがって浅くなるように形成されている。
本実施形態では、凹部25を形成する面取り23が直線状に形成されているが、これに限定されず曲線状であってもよいし、また、図5に示されるような外側に凸な曲線状の切欠きで凹部25を形成するようにしてもよい。
また、本実施形態では、2個のハーフセル15の端面はインロー加工されているが、これに限定されず、図6に示されるような平面とされていてもよい。
【0022】
このように構成された接触部21に、外側から、たとえば、ビーム27を貫通するように照射し、接触部21を電子ビーム溶接する。
なお、溶接方法は電子ビーム溶接に限定されるものではなく、レーザ溶接であってもよい。
【0023】
このように、外側からビーム27を貫通するように照射すると、ビーム27によって加熱され、溶融池が形成される。この溶融池は液体の性質を持つので、移動し易く、重力によって下方に移動することになる。
従来のように重ね合されただけの接触部21では、図7に示されるように、ハーフセル15の内面に沿って溶融池が垂れ、ハーフセル15の内周面に下側ほど盛り上がった溶接ビード31ができる。
【0024】
本実施形態では、凹部25が形成されているので、重力によって下方に向かって垂れる溶融池は凹部25に流れ込むことになる。このように、下方に向かって垂れる溶融池が凹部25に流れ込む、言い換えると、凹部25を埋めると、溶融池が内側に向かって盛り上がることがなくなるので、ハーフセル15の内周面に形成される溶接ビード31を平滑にすることができる。
【0025】
言い換えると、重力によって下方に向かって垂れる溶融池を見越して、下側のハーフセル15で発生する溶融池の量(下側のハーフセル15の溶融する体積)を低減し、あるいは、反対に上側のハーフセル15で発生する溶融池の量(上側のハーフセルの溶融する体積)を増加していることになる。
このように、溶接ビード31が平滑化されると、後処理に要する時間を短縮することができる。
【0026】
なお、本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形を行ってもよい。
たとえば、本実施形態では、ハーフセル15同士を接合するようにしているが、これに限定されない。たとえば、2個のハーフセル15が相互のアイリス部11同士が重なるように溶接された環状体としてのダンベルを形成し、このダンベル同士を接合するようにしてもよい。また、パイプ材を加工して形成したダンベル同士を接合してもよい。空洞部5を部分的、あるいは全体として一体形成し、環状体としてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 超伝導加速空洞
3 セル
7 ビームパイプ
11 アイリス部
13 赤道部
21 接触部
25 凹部
L 軸線方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向の両端に開口部を有する複数の環状体を該軸線方向に配列し、相互の開口部同士が接触する接触部を溶接によって接合して超伝導加速空洞を製造する超伝導加速空洞の製造方法であって、
接合される前記環状体は前記軸線方向が上下方向に延在するように配置されるとともに下側に位置する前記環状体における前記接触部の下方に位置する内周面に外側に向かい凹む凹部が形成され、
前記接触部を外側から貫通溶接して接合することを特徴とする超伝導加速空洞の製造方法。
【請求項2】
前記凹部は、深さが下側に行くにしたがって浅くなるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の超伝導加速空洞の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−238517(P2011−238517A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110145(P2010−110145)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】