説明

超広帯域無線通信測距装置、測距方法、時間間隔検出装置

【課題】高速なサンプリング信号を用いることなく、測距の距離分解能を向上させる。
【解決手段】受信系統において、スペクトラム拡散変調信号が空間に送信された時刻である第1時刻(Tr)を得て、スペクトラム拡散変調信号の同期ポイントから第2時刻(Ds)を得て、第1時刻においてクリアされ、クロック信号でカウントアップされ、第2時刻においてカウントアップが停止されるメインカウンタ163と、少なくとも第2時刻でラッチしてk個の1ビットの信号を得る、クロック位相器164からクロックが供給されるサブカウンタ162と、を備える、超広帯域無線通信測距装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超広帯域無線通信を用いた超広帯域無線通信測距装置、超広帯域無線通信を用いた測距方法、超広帯域無線通信測距装置に用いるに好適なる時間間隔検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スペクトラム拡散変調信号による無線通信(より広くは、超広帯域無線通信)を用いて、距離を測定する測距技術が提案されている。例えば、非特許文献1には、スペクトラム拡散変調信号を用いる無線通信は、電波伝搬に要する時間を正確に算出できることから、測距に用いることができることが記載されている。特許文献1には、スペクトラム拡散のためにPN符号を用い、測距データを検出するに際しては、高速なサンプリング信号でサンプリングして差分信号を得て検出することが記載されている。特許文献2には、自局から他局へ第1のスペクトラム拡散変調信号を送信し、他局ではこの第1のスペクトラム拡散変調信号を受信した時刻と第2のスペクトラム拡散変調信号を送信した時刻との差の時間を、この第2のスペクトラム拡散変調信号に含ませて、自局は、この第2のスペクトラム拡散変調信号を受信して、自局と他局との距離を測定する技術が記載されている。特許文献3には、測距の精度をより高めるために、チャープ方式を用いる技術が記載されている。
【0003】
しかし、非特許文献1、特許文献1〜特許文献3に記載されたいずれの技術においても、測距における距離の分解能(距離分解能)を向上させるためには、高速なサンプリング信号を用いなければ、その目的を達することができなかった。そして、高速なサンプリング信号を用いるためには回路構成が複雑となり、装置も高価なものとなった。また、高速なサンプリング信号を用いるための高速処理に耐える素子の提供が困難であった。このような理由から、現実的に得られるサンプリング信号の速度には限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−234072号公報
【特許文献2】特開2001−183447号公報
【特許文献3】特開2009−170968号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】山内雪路著 「スペクトラム拡散通信」 東京電気大学出版局 1994年11月20日第1版発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の問題点に鑑み、本発明の解決しようとする課題は、高速なサンプリング信号を用いることなく、測距の距離分解能を向上させることができる、超広帯域無線通信測距装置、超広帯域無線通信を用いた測距方法を提供することである。また、このような超広帯域無線通信測距装置に用いるに好適なる時間間隔検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の超広帯域無線通信測距装置は、空間に送信されて被測距物を経て電波伝搬するスペクトラム拡散変調信号を受信する受信部と、上記スペクトラム拡散変調信号が空間に送信された時刻である第1時刻を得る送信タイミング発生器と、上記受信部から得られるスペクトラム拡散変調信号の同期ポイントから第2時刻を得る同期ポイント検出器と、上記第1時刻と上記第2時刻との時間間隔をデジタル処理によって検出する時間間隔検出手段と、上記時間間隔に基づいて上記被測距物から上記受信部までの電波の到達時間を求める到達時間検出部と、上記到達時間に光速を積算して上記被測距物と上記受信部との間の距離を演算する演算手段と、を備え、上記時間間隔検出手段は、第1時間検出部と、第2時間検出部と、上記第1時間検出部で得られた第1時間間隔と上記第2時間検出部で得られた第2時間間隔とを合成する合成部と、を具備し、上記第1時間検出部は、上記第1時刻においてクリアされ、所定周期の第1クロック信号でカウントアップされ、上記第2時刻においてカウントアップが停止されてmビットのバイナリーデータをカウント値として出力するカウンタを有してなる上位ビット生成器を有し、上記第2時間検出部は、2の冪乗の数kに基づき、上記第1クロック信号を基準として、(180度/k)ずつ位相をずらしたk個のクロック信号である、第1クロック信号ないし第kクロック信号を発生させるクロック位相器と、上記第1クロック信号ないし上記第kクロック信号の各々を、少なくとも上記第2時刻でラッチしてk個の1ビットの信号を得るラッチ回路と、上記ラッチ回路で得られたk個の1ビットの信号から、上記第1クロック信号が上記カウンタをカウントアップする時刻と上記第2時刻との間の時間が短いほど小さな値となる(k−1)ビットのバイナリーデータを形成する下位ビット生成器と、を有し、上記合成部は、上記上位ビット生成器から得られる上記mビットを上位ビットとし、上記ラッチ回路から得られる上記(k−1)ビットを下位ビットとして、(m+n)ビットのバイナリーデータを出力する、ものである。
【0008】
本発明の測距方法は、受信部が、空間に送信されて被測距物を経て電波伝搬するスペクトラム拡散変調信号を受信し、上記スペクトラム拡散変調信号が空間に送信された時刻である第1時刻を得て、同期ポイント検出器が、上記受信部から得られるスペクトラム拡散変調信号の同期ポイントから第2時刻を得て、第1時間検出部のカウンタが、上記第1時刻においてクリアされ、所定周期の第1クロック信号でカウントアップされ、上記第2時刻においてカウントアップが停止されてmビットのバイナリーデータをカウント値として出力し、第2時間検出部が、2の冪乗の数kに基づき、上記第1クロック信号を基準として、(180度/k)ずつ位相をずらしたk個のクロック信号である、第1クロック信号ないし第kクロック信号を発生させ、上記第1クロック信号ないし上記第kクロック信号の各々を、少なくとも上記第2時刻でラッチしてk個の1ビットの信号を得て、上記ラッチ回路で得られたk個の1ビットの信号から、上記第1クロック信号が上記カウンタをカウントアップする時刻と上記第2時刻との間の時間が短いほど小さな値となる(k−1)ビットのバイナリーデータを形成し、合成部が、上記mビットを上位ビットとし、上記(k−1)ビットを下位ビットとして、(m+n)ビットのバイナリーデータを出力して、演算手段が、上記(m+n)ビットのバイナリーデータに基づいて上記被測距物と上記受信部との間の距離を演算する、ものである。
【0009】
本発明の時間間隔検出装置は、第1時刻と第2時刻との時間間隔をデジタル処理によって検出する時間間隔検出装置であって、該時間間隔検出装置は、第1時間検出部と、第2時間検出部と、上記第1時間検出部で得られた第1時間間隔と上記第2時間検出部で得られた第2時間間隔とを合成する合成部と、を備え、上記第1時間検出部は、上記第1時刻においてクリアされ、所定周期の第1クロック信号でカウントアップされ、上記第2時刻においてカウントアップが停止されてmビットのバイナリーデータをカウント値として出力するカウンタを有する上位ビット生成器を具備し、上記第2時間検出部は、2の冪乗の数kに基づき、上記第1クロック信号を基準として、(180度/k)ずつ位相をずらしたk個のクロック信号である、第1クロック信号ないし第kクロック信号を発生させるクロック位相器と、上記第1クロック信号ないし上記第kクロック信号の各々を、少なくとも上記第2時刻でラッチしてk個の1ビットの信号を得るラッチ回路と、上記ラッチ回路で得られたk個の1ビットの信号から、上記第1クロック信号が上記カウンタをカウントアップする時刻と上記第2時刻との間の時間が短いほど小さな値となる(k−1)ビットのバイナリーデータを形成する下位ビット生成器と、を具備し、上記合成部は、上記上位ビット生成器から得られる上記mビットを上位ビットとし、上記ラッチ回路から得られる上記(k−1)ビットを下位ビットとして、(m+n)ビットのバイナリーデータを出力する、ものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の超広帯域無線通信測距装置、超広帯域無線通信を用いた測距方法によれば、高速なサンプリング信号を用いることなく、高速処理に耐える素子を用いることなく、測距の距離分解能を向上させることができ、さらに、装置価格を廉価なものとできる。また、本発明の時間間隔検出装置によれば、高速なサンプリング信号を用いることなく、このような目的を達する超広帯域無線通信測距装置の提供ができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】超広帯域無線による測距の原理を示す図である。
【図2】超広帯域無線による測距の3つの方式を示す図である。
【図3】実施形態の超広帯域無線通信測距装置のブロック図である。
【図4】実施形態のフレームフォーマットを示す図である。
【図5】実施形態のフレームフォーマットと測距との関係を示す図である。
【図6】実施形態のベースバンドデータ、PN系列、スペクトラム拡散変調信号の各々を示す図である。
【図7】従来における、同期ポイントに該当するエッジの検出の手法を模式的に示す図である
【図8】実施形態の同期ポイント検出の手法の原理をタイムチャートで示す図である。
【図9】実施形態の受信処理ブロックの到達時間計測手段として機能する部分のブロック図を示す図である。
【図10】実施形態の要部を具体的な実施例によって示す図である。
【図11】実施形態の要部であるサブカウンタの別の実施例を示す図である。
【図12】実施例のサブカウンタの動作をタイムチャートで示す図である。
【図13】スペクトラム拡散変調信号にノイズが含まれる場合を模式的に示す図である。
【図14】実施形態の多数決処理、平均値処理の機能を有するサブカウンタのブロック図を示す図である。
【図15】クロック位相器からのクロック信号とは別のクロック信号でメインカウンタを動作させる実施例の回路を示す図である。
【図16】図15に示す実施例の回路における、スペクトラム拡散変調信号と、クロック信号との関係を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態の超広帯域無線通信測距装置、実施形態の測距方法、実施形態の時間間隔検出装置では、時間間隔の検出の技術に特徴を有している。
【0013】
実施形態の時間間隔の検出の技術では、第1時刻と第2時刻との時間間隔をデジタル処理によって検出するものであり、第1時間検出部で得られた時間分解能が粗い第1時間間隔と第2時間検出部で得られた時間分解能が細かい第2時間間隔とを合成するようにしている。
【0014】
第1時間検出部は、第1時刻においてクリアされ、所定周期の第1クロック信号でカウントアップされ、第2時刻においてカウントアップが停止されてmビットのバイナリーデータをカウント値として出力するカウンタを有する上位ビット生成器を具備している。第2時間検出部は、2の冪乗の数kに基づき、第1クロック信号を基準として、(180度/k)ずつ位相をずらしたk個のクロック信号である、第1クロック信号ないし第kクロック信号を発生させるクロック位相器と、第1クロック信号ないし第kクロック信号の各々を、少なくとも第2時刻でラッチしてk個の1ビットの信号を得るラッチ回路と、ラッチ回路で得られたk個の1ビットの信号から、第1クロック信号がカウンタをカウントアップする時刻と第2時刻との間の時間が短いほど、小さな値となる(k−1)ビットのバイナリーデータを形成する下位ビット生成器と、を具備している。合成部は、上位ビット生成器から得られるmビットを上位ビットとし、ラッチ回路から得られる(k−1)ビットを下位ビットとして、(m+n)ビットのバイナリーデータを出力するものである。
【0015】
(無線による測距の原理)
実施形態の超広帯域無線通信測距装置の説明に先立ち、図1、図2を参照して、無線測距の原理について簡単に説明をする。
【0016】
図1は無線による測距の原理を示す図である。無線による距離の測定、すなわち、測距、は、送信機TXから送信したデータを受信機RXで受信するまでの時間である到達時間Δt(単位Sec:秒)を計測し、到達時間Δtに電磁波の伝播速度(光速)を掛けることによって距離を測定するものである。ここで、光速は、約30万キロメートル/毎秒である。
【0017】
図2は無線による測距の3つの方式を示す図である。測距の方式には、大別すると、図2(a)に示す反射型測距と、図2(b)に示す一方向型測距と、図2(c)に示す双方向型測距と、がある。反射型測距では、送信機TXと受信機RXとを同一クロック信号で制御することによって、送信機TXからデータを送信する時刻と受信機RXでデータを受信する時刻とが正確に検出できる。また、送信機TXと受信機RXとで、アンテナを共用することによって、送信機TXと受信機RXの位置が異なることによる距離の修正も必要がないという利点がある。ここで送信機TXと受信機RXを一体として送受信機として構成するのが一般的である。しかしながら、距離を測定する対象物(被測距物)が電磁波を反射しない物質で形成されている場合には測距が困難である。
【0018】
一方向型測距では、被測距物が電磁波を反射しない物質で形成されている場合でも受信機RXを備えることによって、測距が可能である利点がある。しかしながら、送信機TXと受信機RXとの両方の内部に双方で同一時刻を得ることができる絶対時刻発生器を設ける必要があり、基準時刻の精度が、大きく測距の精度を支配することとなる。
【0019】
双方向型測距では、図2(a)に示すと同様の構成を有するようにされた、一組の送信機TXおよび受信機RX(符号(1)を付した第1の送受信機)と、他の一組の送信機TXおよび受信機RX(符号(2)を付した第2の送受信機)と、で形成される。第1の送受信機の送信機TX(第1の送信機TX)からデータを送信し、第2の送受信機の受信機RX(第2の受信機RX)でデータを受信する。そして、第2の受信機RXでデータを受信した後に再び、第2の送受信機の送信機TX(第2の送信機TX)から第2の受信機RXで受信した時刻を含むデータを送信し、第1の送受信機の受信機RX(第1の受信機RX)でデータを受信する。第1の送信機TXからデータを送信した時刻と、第1の受信機RXでデータを受信した時刻との差の時間から、第2の受信機RXでデータを受信して第2の送信機TXからデータを送信するまでの時刻を引き算して得られる時間に基づき測距をする。このようにすれば、距離を測定する対象物(被測距物)が電磁波を反射しない物質で形成されている場合にも測距が可能である。
【0020】
以下に述べる実施形態の、超広帯域無線通信測距装置、超広帯域無線通信を用いた測距方法は、反射型測距、一方向型測距、双方向型測距のいずれの方式であっても適用することが可能である。
【0021】
次に、測距における距離分解能について簡単に説明をする。距離分解能とは、測距において、どれだけ、距離を細かく測定できるかの指標である。ここで、距離分解能は、送受信されるデータの転送速度に依存している。データの転送速度が遅い場合には、データの区切りを高速に判別することができず、結果として、良好な距離分解能を得ることができないことになるからである。
【0022】
背景技術の測距装置では、データの転送速度を高くするに好適なる通信方式として、超広帯域無線通信方式を用いている。また、データの到達時間Δt(図1を参照)を正確に測定するために、クロック周波数を高くするようにしている。ここで、数式(1)で表されるようにして、測距距離ΔL(単位m:メータ)が求まる。
【0023】

ΔL=30×107×Δt (1)

【0024】
到達時間Δtの分解能を時間分解能δtとし、測距距離ΔLの距離分解能を距離分解能δLとすると、数式(2)で表すように、時間分解能δtは直接に距離分解能δLと関係する。ここで、時間分解能δtとは、どれだけ、短い時間を測定できるかの指標である。
【0025】

δL=30×107×δt (2)

【0026】
ここで、到達時間Δtの計測は、デジタルカウンタでカウントアップする手法が一般的であるので、時間分解能δtは、直ちに、カウンタのクロック周波数FC(単位Hz:ヘルツ)の逆数である周期が小さくなるほど、向上する。クロック周波数FCと距離分解能δLとの関係は数式(3)で表される。
【0027】

δL=30×107/FC (3)

【0028】
数式(3)から、例えば、クロック周波数FCが100MHz(メガ・ヘルツ)である場合には、距離分解能δLは3mとなる。従って、距離分解能δLとして、0.3mを得たい場合には、クロック周波数FCとしては、1GHz(ギガ・ヘルツ)が必要とされる。
【0029】
ここで、再び本実施形態について述べる、実施形態の技術では、このような従来技術とは大きく異なる。実施形態の、超広帯域無線通信測距装置、超広帯域無線通信を用いた測距方法では、距離分解能はクロック周波数ではなく、用いるクロック信号の数に依存する。実施形態においては、例えば、クロック周波数FCが100MHzである場合においても、例えば、クロック周波数FCが1GHzである場合と同様の距離分解能を得ることもできるものである。
【0030】
(超広帯域無線通信測距装置の概要)
図3は、実施形態の超広帯域無線通信測距装置のブロック図を示す図である。図3に示す超広帯域無線通信測距装置1は、アンテナ20に接続される、送信系統と受信系統とを備えており、装置全体の制御を制御部(CPU(シーピーユー):中央演算装置)19で行っている。超広帯域無線通信測距装置1は、測距の機能のみならず、他の超広帯域無線通信測距装置と通信をする機能を備えるようにしても良い。実施形態の説明においては、測距機能に係る部分についてのみ説明を行い、通信機能に係る部分の説明は省略する。なお、実施形態の超広帯域無線通信測距装置1の送信系統は図1、図2で示す送信機TXに対応し、実施形態の超広帯域無線通信測距装置1の受信系統は図1、図2で示す受信機RXに対応する。
【0031】
送信系統は、送信部11、送信処理ブロック12、データ変換部13、バッファー14、およびCPU19を有して形成されている。CPU19は、超広帯域無線通信測距装置1を使用する使用者とのインターフェイスであるユーザーインターフェイス(ユーザI/F)と接続される。CPU19は、ユーザーI/Fを介して使用者からの原データをバッファー14に送出する。バッファー14は、適宜なタイミングで原データをデータ変換部13に送出する。データ変換部13は、バッファー14からの原データに基づき所定のデータフォーマットに基づいたベースバンドデータを発生するエンコードの処理を行う。送信処理ブロック12は、ベースバンドデータに対してスペクトラム拡散変調を施す処理を行う。送信部11は電力増幅部と周波数変換部とを有し、送信処理ブロック12で発生されたスペクトラム拡散変調信号に周波数変換を施すことによって、さらに、高い周波数に変換し、例えば、3.3GHzの高周波をアンテナ20に送出する。
【0032】
送信処理ブロック12は送信タイミング発生器121を有しており、送信タイミング発生器121は計測開始トリガー信号Trを発生させる。なお、一方向型測距では、互いに分離された送信系統と受信系統との各々において、同一の時刻を両者に知らせるために、絶対時間基準を発生する2つの絶対時刻発生器が送信タイミング発生器121として、送信系統と受信系統の両者で独立して用いられる。そして、受信系統では、予めの取り決めに従った時刻に送信系統から発生されるスペクトラム拡散変調信号の送信時刻(第1時刻)を受信部に設けられた送信タイミング発生器121で検出することができる。
【0033】
受信系統は、受信部15、受信処理ブロック16、データ変換部17、バッファー18、およびCPU19を有して形成されている。受信部15はアンテナ20からの得られる高周波信号を同調増幅して、3.3GHzの高周波をベースバンド帯域のスペクトラム拡散変調信号に周波数変換して、受信処理ブロック16に対して出力する。受信処理ブロック16は、スペクトラム拡散変調信号からベースバンドデータを再生する処理を行う。データ変換部13は、ベースバンドデータから原データを得るデコードの処理を行う。バッファー14は、原データをバッファー18に蓄え、CPU19が指定する所定のタイミングでCPU19に送出する。CPU19はユーザーI/Fを介して、使用者が原データを使用することができるようにする。
【0034】
上述した原データとしては、測定装置からの測定データ、音声データ、映像データ、をはじめとする種々のデータを用いることができる。
【0035】
図4は、データ変換部13、データ変換部17で処理されるベースバンドデータの1フレームのデータフォーマット(フレームフォーマット)を示す図である。プリアンブルは、フレームシンク(FLM)に先立つ引き込み用の領域であり、プリアンブル1(P1)およびプリアンブル2(P2)から成っている。プリアンブル1(P1)、プリアンブル2(P2)、フレームシンク(FLM)は、それらの各々が8ビットで構成されている。フレームシンクはフレーム同期を得るための信号であり、ユニークパターンとされ、他の領域から識別可能とされている。つまり、フレームシンクは、1フレーム内の各データの位置を特定する役目を果す。
【0036】
プリアンブルとフレームシンクとを合わせて24ビットのデータとされている。データ1(D1)およびデータ2(D2)は、ユーザーI/Fを介してやり取りされる原データをブロックコードとしたものである。データ1(D1)およびデータ2(D2)は、各々所定ビットで構成されている。エンドコード(END)は、1フレームの最後を示すデータであり、8ビットで構成されている。
【0037】
送信系統においては、バッファー14からデータ1(D1)およびデータ2(D2)が供給され、データ変換部13で、プリアンブル1(P1)、プリアンブル2(P2)、フレームシンク(FLM)、エンドコード(END)を付加するエンコードの処理がされる。そして、図4に示すフレームフォーマットに従いエンコードされたベースバンドデータは送信処理ブロック12へ送出される。ここで、ユーザーI/Fから入力される原データを構成する、データ1(D1)およびデータ2(D2)が連続時系列データである場合には、CPU19とバッファー18とを介してデータ変換部13へのデータ出力のタイミングの調整がなされる。
【0038】
受信系統においては、図4に示すフレームフォーマットに従ったベースバンドデータが受信処理ブロック16からデータ変換部17に対して出力される。データ変換部17で、プリアンブル1(P1)、プリアンブル2(P2)、フレームシンク(FLM)、エンドコード(END)を除き、データ1(D1)およびデータ2(D2)のみがバッファー18に対して供給される。ここで、原データを構成する、データ1(D1)およびデータ2(D2)が連続時系列データである場合には、バッファー18とCPU19とを介して連続時系列データとしてユーザーI/Fに出力される。また、受信処理ブロック16は、後述する同期ポイントの検出時刻(第2時刻)を検出することができる。
【0039】
図5は、図4に示すフレームフォーマットと測距との関係(測距同期タイミング)を示す図である。図5の上段の、符号TXを付して示す信号は、送信処理ブロック12から出力されて送信部11に入力される信号である。また、図5の中段の、符号RXを付して示す信号は、受信部15から出力されて受信処理ブロック16に入力される信号である。図5の下段は測距のためのカウンタであるメインカウンタのカウント値を示すものである。図5の横軸は時間である。
【0040】
実施形態の送信処理ブロック12でのスペクトラム拡散変調は、PN系列(擬似乱数系列:Pseudorandom Noise系列)を乗算する直接拡散(DS)が用いられる。また、実施形態の受信処理ブロック16でのスペクトラム逆拡散変調は、送信時に用いたと同じ、PN系列が用いられる。ここで、ベースバンドデータの1ビット区間は、PN系列の7チップ区間に対応するようにされているので、ベースバンドデータの、プリアンブル1(P1)、プリアンブル2(P2)およびフレームシンク(FLM)の連続する24ビットの区間は、168チップを有するようにされている。
【0041】
図5を参照して、このような、フレームフォーマットを有する信号を用いた測距について、より、詳細に説明をする。
【0042】
送信処理ブロック12で発生されたスペクトラム拡散変調信号の1フレームの先頭に配されたプリアンブル1(P1)の先頭が送出される時刻(第1時刻)からメインカウンタのカウントをスタートさせる。そして、反射型測距、一方向型測距、双方向型測距を問わず、空間を伝播した後の電波を受信し、受信処理ブロック16で、フレームシンク(FLM)の終わりを同期ポイントとして検出して、同期ポイントの検出時刻(第2時刻)にメインカウンタのカウントアップを停止させる。現実問題として、受信処理ブロック16における内部処理時間Otが発生するので、メインカウンタが停止するのは内部処理時間Otが経過した後である。なお、一方向型測距においては、メインカウンタのカウント開始の時刻(第1時刻)は、送信側と受信側の両者が認識できる共通の絶対時間を発生する絶対時刻発生器(送信タイミング発生器)が受信系統に配され、これによって定められる。
【0043】
ここで、プリアンブル1(P1)、プリアンブル2(P2)およびフレームシンク(FLM)の連続する24ビットの区間に対応する時間であるデータ転送時間Dtと、内部処理時間Otとの各時間は既知であり、受信系統、実際にはCPU19の内部にこの時間が記憶されている。フレームシンク(FLM)の終わりを同期ポイントとして検出するのは、フレームシンク(FLM)であることを検出終了した時点で、1フレーム中の位置が特定できるからである。送信処理ブロック12から受信処理ブロック16に電波を介して信号が到達するまでの時間は、以下の数式(4)で表される。また、到達時間Δtから、すでに述べた数式(1)に示すようにして、測距距離ΔLを求めることができる。ここで、送信部11、受信部15における時間遅れは、短時間であるので考慮していない。しかしながら、送信部11、受信部15における時間遅れが無視できない場合には、これを数式(4)の右辺から減じて、さらに、測距の分解能を良好なものとすることができる。
【0044】

Δt=T−Dt−Ot (4)

【0045】
図5を参照すれば、明らかなように、このようにして到達時間Δtを計測して測距を行うと、符号TXを付す送信信号と、符号RXを付す受信信号と、が一体構成されている同一の装置からのものとされる場合には、プリアンブル1(P1)の先頭は、計測開始トリガー信号Tr(図3を参照)によって容易に検知することができる。よって、反射型測距および双方向測距においては、計測開始トリガー信号Trをカウント開始のトリガー(第1時刻)として有効に活用することができる。
【0046】
図6は、直接拡散方式における、ベースバンドデータ、PN系列、スペクトラム拡散変調信号の各々を示す図である。PN系列は符号長が1チップを単位として変化する可変長符号である。また符合長の最大長さが拘束されている可変長拘束符号(ランレングスリミッテッドコード)である。例えば、図6に示す1ビット区間の例では、1010011の7チップの情報を有している。また、ベースバンドデータは符号長が1ビットを単位として変化する符号である。ここで、1ビット区間は、複数個のチップ区間で構成されている。結果として、スペクトラム拡散変調信号は、1チップを単位として、1、0が反転するまでの長さ(反転長)が変化する可変長拘束符号とされている。そして、スペクトラム拡散変調信号は0の並びの個数、または、1の並びの個数、すなわち、信号の立上エッジ、信号の立下エッジに情報を有している。
【0047】
このような可変長拘束符号においては、同期ポイントが存在するエッジ情報の検出精度がそのまま時間分解能と関係することとなる。そして、図5に示す到達時間Δtの時間分解能δtを小さくするためには、スペクトラム拡散変調信号のエッジ位置にある同期ポイントを正確に検出する必要がある。時間Td(図6を参照)だけエッジ位置の検出時間の誤りがあれば、そのまま、距離分解能δLに影響があることは先にのべた通りである。ここで、送信処理ブロック12では、自らタイミングを管理しているのでスペクトラム拡散変調信号のエッジ位置を正確に管理できる。一方、受信処理ブロック16に入力されるスペクトラム拡散変調信号のエッジ位置は、測距される距離に応じて変化するのであるから、無限に小さい周期のクロック信号でカウントしない限り、時間Tdを0とすることはできない。
【0048】
このように、無限に小さい周期のクロック信号、すなわち、無限に高い周波数のクロック信号でメインカウンタを動作させれば、時間分解能δt=0となり、距離分解能δL=0となり、測距距離ΔLは正確に検出されることとなる。すなわち、距離分解能δLを可能な限り小さくするためには、可能な限り高い周波数のクロック信号を用いれば良いこととなる。しかしながら、上述したように、高い周波数のクロック信号、例えば、1GHzのクロック信号で動作するハードウエアを実現することは困難である。以下どのようにして、時間分解能を向上させるかについて具体的に説明をする。
【0049】
(実施形態の到達時間計測回路の原理)
実施形態の超広帯域無線通信測距装置の要部である、到達時間計測回路の原理について説明をする。この到達時間計測回路は、到達時間Δtを計測するものである。到達時間Δtは、図4、図5に示すフォーマットを有する信号を少なくとも1フレーム分を送信系統から送出し、これを受信系統で受信することによって行うことができる。ここで、受信系統においては、フレームシンクをデコードして、同期ポイントを検出できる。ここで、図4、図5に示すフォーマットは1フレーム完結フォーマットであるので、測距の目的を達するためには、少なくとも1フレーム分のデータを送信すれば十分である。実施形態のエッジ検出回路に与えられた命題は、より低いクロック周波数で、スペクトラム拡散変調信号の同期ポイントのエッジの位置をより正確に検出し、より小さい時間分解能δtを得ることができる回路を構成することである。なお、時系列連続データを送信する場合には、複数のフレームが連続して送信されるが、この場合には、マルチパスの影響が生じ、被測距物が極めて大きな送度を有して移動する事態が生じない限り、受信系統で検出する同期ポイントは、一定の時間間隔で発生することとなる。
【0050】
図7は、従来技術における、同期ポイントに該当する反転エッジ(同期ポイントのエッジと省略する)の検出の手法を模式的に示す図である。図7を参照して、従来のエッジの位置の検出の技術を簡単に説明する。従来は、受信されるスペクトラム拡散変調信号の同期ポイント(図5を参照)を検出するまでクロック信号の毎回の、例えば、立上エッジのタイミングにおいてメインカウンタ(図5を参照)でカウントしている。そして、このメインカウンタでのカウント値のみを測距に用いている。
【0051】
ここで、送信されるスペクトラム拡散変調信号のプリアンブル1(P1)の先頭、および同期ポイント(図5を参照)はクロック信号の立上エッジと一致している。また、送信されるスペクトラム拡散変調信号のプリアンブル1(P1)の先頭でカウンタのカウント値はクリア(0にセット)される。一方、電波の伝播経路の長さに応じた伝播時間遅れを伴うことにより、受信されるスペクトラム拡散変調信号の同期ポイントは、クロック信号の立上エッジに対して位相が非同期である。ここで位相が非同期とは、同期ポイントのエッジとクロック信号のエッジとが同時刻に検知される保障がないという意味である。そのために、従来のエッジ検出技術によれば、同期ポイントのエッジとクロック信号のエッジの位相差分は誤差が生じ、その分、時間分解能が低下したこととなる。
【0052】
図7を用いて具体的に、従来方式における分解能について説明をする。図7には、スペクトラム拡散変調信号S1、スペクトラム拡散変調信号S2の2つの異なる位相の信号を示している。スペクトラム拡散変調信号S1、スペクトラム拡散変調信号S2のいずれかが、受信部15から受信処理ブロック16に入力されるものとして、両者を対比して説明をする。スペクトラム拡散変調信号S1、スペクトラム拡散変調信号S2は、クロック信号φの立上エッジでカウントされる。符合Qを付した信号が1である時点がカウントアップの時点を示す。また、丸印を付したエッジがフレームシンクの最後尾のエッジである同期ポイントである。送信系統からは、スペクトラム拡散変調信号のプリアンブル1(P1)の先頭が送信される時刻にクロック信号φの0番目の立上エッジが発生し、また、同期ポイントのエッジとクロック信号のエッジとが同期状態の信号が送信される。
【0053】
図7に対比のために示したスペクトラム拡散変調信号S1については、その同期ポイントは、クロック信号φのj番目の立上エッジ(j番目のクロックと省略する、以下同様)の直後に来る。したがって、j番目のクロックは、この同期ポイントを検出することができず、(j+1)番目のクロックがエッジの反転を検出してカウントの停止をする。そして、カウンタには(j+1)という値が保持される。
【0054】
一方、スペクトラム拡散変調信号S2については、スペクトラム拡散変調信号S2の同期ポイントは、(j+1)番目のクロックの直前に来るので、j+1番目のクロックで、この同期ポイントを検出してカウント停止をする。そして、そして、カウンタには(j+1)という値が保持される。
【0055】
このようにして、スペクトラム拡散変調信号S1についてのメインカウンタのカウント値は(j+1)を示し、スペクトラム拡散変調信号S2についてのメインカウンタのカウント値も(j+1)を示す。このように、両者の到達時間が、時間差TCを有していても、メインカウンタのカウント値は(j+1)と同一値となる。つまり、従来の方法によれば、時間は、TC単位で切上の処理がなされ、実際の時間よりも、長い時間として時間T(図5を参照)が検出されることとなる。その結果、時間分解能δtは、数式(5)で表されることとなる。
【0056】

δt=TC (5)

【0057】
ここで、時間分解能δt=TCであるとは、カウントによって生じる時間の誤差の最大値である時間誤差最大値δmax=TCとなることを言うものである。
【0058】
図8は、実施形態のエッジ検出(同期ポイント検出を含む)の手法の原理をタイムチャートで示す図である。図8には、クロック信号φ0を0°(度)として、45°、90°、135°と、異なる4個のクロック信号である、クロック信号φ0〜クロック信号φ3が示されている。ここで、各クロック信号の1の期間の長さと、0の期間の長さとは同一とされている。スペクトラム拡散変調信号S3〜スペクトラム拡散変調信号S10は、そのいずれかが、受信部15から受信処理ブロック16に入力されるものとして対比されている。矢印を付した立上エッジが受信された同期ポイントであるとして、クロック信号の周期TCを0〜7の符号を付した8つの領域に分割して説明する。
【0059】
表1は、ラッチ後信号Q0〜ラッチ後信号Q3を示す表である。ラッチ後信号Q0〜ラッチ後信号Q3は、図8に示すように、スペクトラム拡散変調信号の同期ポイントでクロック信号φ0〜クロック信号φ3の各々をラッチしたものである。表1の枡内には、スペクトラム拡散変調信号S3〜スペクトラム拡散変調信号S10の各々の同期ポイントにおいて、クロック信号φ0〜クロック信号φ3の各々をラッチした場合の、ラッチ後信号Q0〜ラッチ後信号Q3の1、0の極性の各々が記載されている。ここで、1はクロック信号φ0〜クロック信号φ3の各々が図8に示すハイレベルである状態、0はクロック信号φ0〜クロック信号φ3の各々が図8に示すローレベルである状態に対応する。
【0060】

【表1】

【0061】
表1を参照すれば、実施形態においては、スペクトラム拡散変調信号の同期ポイント検出の時間分解能を向上できることが理解される。つまり、実施形態では、同期ポイントのエッジとクロック信号のエッジの位相差分も計測の対象として分解能を向上させているのである。例えば。クロック信号φ0をラッチして検出されるラッチ後信号Q0が1、クロック信号φ1をラッチして検出されるラッチ後信号Q1が0、クロック信号φ2をラッチして検出されるラッチ後信号Q2が0、クロック信号φ3をラッチして検出されるラッチ後信号Q0が0、である場合には、矢印を付したエッジに同期ポイントを有するスペクトラム拡散変調信号S3であることが検出される。そして、表1を参照すれば、ラッチ後信号Q0〜ラッチ後信号Q3の各状態が1、または、0のいずれであるかによって、その他のスペクトラム拡散変調信号S4〜スペクトラム拡散変調信号S10についても、クロック信号が1個の場合よりも小さい時間分解能を有して同期ポイントの検出が行えることが理解される。
【0062】
ここで、ラッチ後信号Q0〜ラッチ後信号Q3の取りうる状態の数について述べる。取りうる状態の数は、原理的には、クロック信号の数k=4であるので、2k=24=16である。しかしながら、各クロック信号は、周期TCを有し、時間TC/2で極性が反転するという拘束があるために、クロック信号の周期TC/4ごとの離散時間に対して4個の連続した1、4個の連続した0を有することが加重条件となる。よって、取りうる状態の数、すなわち、1周期TCを分割できる数は、数式(6)で表される。そして、時間分解能δtは数式(7)で表される。
【0063】

取りうる状態の数=2×4 (6)

δt=TC/(2×4) (7)
【0064】
ここで、時間分解能δt=TC/(2×4)であるとは、位相差によって検出する時間の誤差の最大値である時間誤差最大値δmax=TC/(2×4)となることを言うものである。一般式で、クロック信号の数と時間分解能との関係について以下に説明をする。位相が順次、等間隔に180/k(度)ずつずれたクロック信号の数を整数kとし、周期TC/kごとの離散時間に対してk個の連続した1、または、0を有するという加重条件を加味すると、整数kと整数nとの関係は、数式(8)で表される。数式(8)をnについて解けば、数式(9)を得ることができる。また、数式(8)をkについて解けば、数式(10)を得ることができる。このときの、時間分解能は、時間分解能TC/(2n)で表される。
【0065】

n=2×k (8)

n=Log(2×k)/Log(2) (9)

k=2n-1 (10)
【0066】
よって、クロック信号の数k=4の場合は、1周期を分割できる数は2×k=8となり、n=3、すなわち、3ビットで表せる数となる。他のクロック信号の数については、例えば、クロック信号の数k=2の場合は、1周期を分割できる数は2×k=4となり、n=2、すなわち、2ビットで表せる数となる。また、クロック信号の数k=8の場合は、1周期を分割できる数は2×k=16となり、n=4、すなわち、4ビットで表せる数となる。ここで、当然に、クロック信号の数k=5の場合にも上式は適用できる。クロック信号の数k=5の場合には、1周期を分割できる数は2×k=10となり、クロック信号の数が1個の場合に比べて10倍、時間分解能を向上させることができる。しかしながら、この場合には、10は2の冪乗で表すことができないのでデジタル処理に適しておらず、後述する、上位ビットと下位ビットの加算の演算を用いて測距の処理に用いるに適当ではない。
【0067】
つまり、数式(8)において、nの数が整数となるように、クロック信号の数kを選んでおくのが望ましく、k=2、4、8、16、32・・・と、2の冪乗となる数が望ましい。
【0068】
(実施形態の到達時間計測回路のブロック図)
図9は、受信処理ブロック16(図3を参照)における、到達時間計測手段として機能する到達時間計測回路を中心とするブロック図を示す図である。図9を参照して実施形態の到達時間計測回路を中心とするブロック図について説明をする。受信処理ブロック16は、データのデコード(復号)に係る部分も含まれるが、この部分についての説明は省略する。
【0069】
受信処理ブロック16の到達時間計測回路は、相関器161、サブカウンタ162、メインカウンタ163、クロック位相器164、データ同期器165、合成器168を主要なる構成部として形成されている。相関器161、メインカウンタ163、クロック位相器164、データ同期器165、は、周期TCを一定周期とするクロック信号に同期して動作する同期処理がなされる。一方、サブカウンタ162は、スペクトラム拡散変調信号Sに同期して動作し、クロック信号には非同期で動作する非同期処理がなされる。同期処理のクロック信号の周波数は、例えば、100MHzとされている。合成器168の構成については、後述する。
【0070】
スペクトラム拡散変調信号Sは、サブカウンタ162と相関器161に入力される。相関器161は、送信に際して用いられたのと同一のPN系列を発生させてスペクトラム拡散変調信号Sからベースバンドデータを再生する。データ同期器165は、フレームシンク(FLM)からフレーム同期のための、同期ポイントで発生する同期ポイント信号DSを検出する。同期ポイント信号DSは、上述したように、測距に用いられるとともに、ベースバンドデータの位置基準(時間基準)として用いられる。例えば、データ1(D1)、データ2(D2)、の位置検出に用いられる。そして、データ同期器165を経たベースバンド信号からデータ領域である、データ1(D1)、データ2(D2)が抜き出され、内部処理、すなわち、データのデコードの処理が行われるようになされている。
【0071】
メインカウンタ163は、クロック信号に同期してカウントの動作を行う。このメインカウンタの動作は、図7を参照して説明をした従来のメインカウンタの動作と同様である。メインカウンタ163は、送信タイミング発生器121(図3を参照)から出力される、計測開始トリガー信号Trが入力されるとカウントを開始(第1時刻)し、同期ポイント信号DSが入力されるとカウントを停止するが、上述したように、現実のカウント停止の時間(第2時刻)は最大で時間TC遅れる。このカウント結果にクロック信号の周期を掛けた時間が、時間T(図5を参照)である。ここで、メインカウンタ163で計測した時間Tの時間分解能の値は、数式(5)で表されるように時間分解能TCとなる。
【0072】
メインカウンタ163で検出した時間Tから、数式(4)に基づき、到達時間Δtの粗い量(切上げられた、時間分解能TC単位の量)を求めることが可能となる。ここで、内部処理時間Ot(図5を参照)は、データ同期器165においてフレームシンクを検出するのに必要な時間である。また、データ転送時間Dt(図5を参照)は、プリアンブル1(P1)の先頭からフレームシンク(FLM)の終わりまでの時間である。
【0073】
サブカウンタ162は、図8に示す原理に基づき、クロック信号の周期TCよりも短い時間を計測して、到達時間Δtの細かい量(切上げにより捨てられた量)を求めるためのものである。
【0074】
サブカウンタ162は、クロック位相器164からの複数個の位相が異なるクロック信号を、スペクトラム拡散変調信号Sのエッジのタイミング(スペクトラム拡散変調信号Sの反転のタイミング)でラッチする作用を行う。そして、この複数個の各クロック信号のラッチされたレベルに基づき、周期TCよりも短い時間を計測する。サブカウンタ162では、メインカウンタ163では検出できない時間Tよりも短い時間tを検出して時間分解能を、数式(7)で表せる、時間分解能TC/(2×k)まで向上させる。
【0075】
つまり、メインカウンタ163で計測した時間Tと、サブカウンタ162で計測した時間tと、を用いることによって以下の数式(11)によって、到達時間Δtを求め、時間分解能TC/(2×k)を有する測距が可能となる。ここで、(T−TC)+tの演算をおこなう理由は、メインカウンタ163での処理では、時間の切上げ処理が行われるからこれを補正して、時間分解能を向上するためである。この演算はCPU19で行われる。なお、予め、時間Otに切上によって生じる誤差の時間TCを予め含ませるようにしておいても良い。数式(11)から、さらに、測距距離ΔLを求める数式(12)を得ることができる。
【0076】

Δt=(T−TC)+t−Dt−Ot (11)

ΔL=30×107×{(T−TC)+t−Dt−Ot} (12)
【0077】
(実施例)
図10は、実施形態の要部を具体的な実施例によって示す図である。
【0078】
到達時間Δtの上位mビットは、上位ビット生成器として機能するメインカウンタ163から得られる。メインカウンタ163は計測開始トリガー信号Trが入力されるごとにリセットされ、同期ポイント(図5を参照)が検出されるごとに、合成器168に時間T(図5を参照)に相当するmビットのバイナリーデータで表すカウント値を取り込むようにしている。合成器168にmビットのバイナリーデータを取り込むタイミングは、ノア(NOR)ゲート165bの出力信号である同期ポイント信号DSによって制御される。
【0079】
フレームシンクパターン発生器165aには、予め定められているユニークパターンが保存されている。ユニークパターンと、時系列のベースバンドデータのパターンとが一致するときに、NORゲート165bは、同期ポイント信号DSを発生する。1ビットのシフトレジスタ1711〜シフトレジスタ171nは、フレームシンクを形成するビット数と同数が直列に接続されており、クロック信号φ0によってビットシフトの動作をする。イクスクルーシブオア(EXOR)は、ベースバンドデータとフレームシンクとの1ビットごとの一致を検出するものである。
【0080】
サブカウンタ162は、フリップフロップ162a〜フリップフロップ162dの4個のディフリップフロップ(DFF)を有している。フリップフロップ162aのディ入力端子(D入力端子)にはクロック信号φ0(図8を参照)が入力され、フリップフロップ162bのD入力端子にはクロック信号φ1(図8を参照)が入力され、フリップフロップ162cのD入力端子にはクロック信号φ2(図8を参照)が入力され、フリップフロップ162dのD入力端子にはクロック信号φ3(図8を参照)が入力されている。すべてのフリップフロップのクロック端子(CK端子)には、エッジ検出器174から得られるスペクトラム拡散変調信号Sの極性が反転する時刻(反転エッジの生じる時刻)を知らせるためのタイミング信号が入力されている。なお、フリップフロップ162a〜フリップフロップ162dのCK端子には、直接にスペクトラム拡散変調信号Sを入力して、立上エッジ、または、立下エッジのどちらか一方のエッジのみをトリガーとして用い、クロック信号φ0〜クロック信号φ3の1、または、0の状態をラッチするようにしても良い。この場合には、エッジ検出器174は必要とはされない。
【0081】
下位ビット生成器166には、フリップフロップ162aの出力端子(Q端子)〜フリップフロップ162dの出力端子(Q端子)の各々から出力される、1、または、0の出力が、4ビットのデータとして入力される。そして、下位ビット生成器166からは、3ビットのバイナリーデータが出力される。一般的に述べると、下位ビット生成器166は、クロック信号の数kに等しい数のディフリップフロップからのk個の入力信号が入力され、数式(9)で与えられるnビットのバイナリーデータが出力される。
【0082】
表2は、フリップフロップ162aの出力端子(Q端子)〜フリップフロップ162dの出力端子(Q端子)の各々から出力されるk個のデータ(この場合は4個のデータQ0〜データQ3)に対する、nビット(この場合は3ビット)のバイナリーデータを対応させた表である。表2の左側の欄は、nビットデータの各々に対応する時間であり、上段から順に、0、(TC/2n)、2×(TC/2n)、〜7×(TC/2n)となっている。なお、表1に示すテーブルが下位ビット生成器166に設けられている。
【0083】

【表2】

【0084】
合成器168は、メインカウンタ163からの上位mビットのバイナリーデータと下位ビット生成器166からの下位nビットのバイナリーデータとを合成して、m+nビットのデータをCPU19に出力する。このとき、メインカウンタ163からのmビットのバイナリーデータの値には、上述したように、切上げによって、最大で1エルエスビー(1LSB:Least significant bit)分の誤差が生じている。この誤差に相当する、下位ビット生成器166からの下位nビットを連結して、合成器168から出力する。
【0085】
なお、メインカウンタ163のmビットと下位ビット生成器166のnビットを加算する演算は、合成器168で行うことなく、CPU19で行うようにしても良い。また、上述したように切上げによって、mビットのバイナリーデータの値が1LSB分大きくなっているが、この補正はどの段階で行うようにしても良い。例えば、メインカウンタ163で、最初のクロック信号を無視して実質的に、−1をカウント初期値とするようにしても良く、後述する合成器168で補正をするようにしても良く、さらには、上述したように、CPU19で補正をするようにしても良い。
【0086】
なお、下位nビットは、スペクトラム拡散変調信号Sの反転エッジのタイミングで、検出する信号であが、同期ポイントエッジのみを利用するようにしても良く、図10に示すように、同期ポイントエッジを含み、すべての反転エッジを利用するようにしても良い。一方、上位mビットは、ベースバンドデータをクロック同期して検出する信号であり、さらにフレームシンク検出用のシフトレジスタによる遅延も存在している。そして、時系列データであるスペクトラム拡散変調信号Sをサンプルするポイントが、上位ビットの検出におけると、下位ビットの検出におけるとでは、異なり、両者のフォーマット上の反転エッジの検出位置にはずれが生じている。
【0087】
しかしながら、送信系統から送信されるスペクトラム拡散変調信号は、クロック信号に同期しており、受信系統でも同一のクロック信号が関与して同期ポイントが検出される。つまり、送信処理、受信処理のいずれもが、同一の水晶発振子からの基準信号をもとに行われている。ここで、水晶発振子の発振精度は、±50ppm〜±100ppm(1ppm=1×10-6)の範囲と高く、両者(上位ビット検出の時刻、下位ビット検出の時刻)の検出時間差が測距の距離分解能に及ぼす影響はほとんどない。よって、実施形態のエッジ検出方法は十分な精度を有することが理解される。
【0088】
特に、反射型測距(図2(a)を参照)においては、同一のクロック信号以外には、送信処理と受信処理に関与しないので、水晶発振子の発振精度が距離分解能に与える影響は、さらに、少ない。また、被測定物と超広帯域無線通信測距装置との間の距離が変化する場合においても、通常の車輌速度程度の速度を有して距離が時間に応じて変化する場合には、両者間の検出時間差が測距の距離分解能に及ぼす影響はほとんどない。よって、反射型測距において、実施形態のエッジ検出方法は十分な精度を有することが理解される。
【0089】
また、詳細は省略するが、図2(c)に示す双方向型測距において、送信側と受信側とで異なる水晶発振子を用いる場合においても、2つの水晶発振子の周波数の誤差が、±50ppm〜±100ppmの範囲に収まる場合には、測距の距離分解能に及ぼす影響はほとんどない。なお、図2(b)に示す一方向型測距においては、送信機TXと受信機RXとの両方で用いる絶対時刻のずれが無視できるのであれば、この絶対時刻によって校正したクロック信号を送信機TXと受信機RXとで共に用いることによって測距の距離分解能に及ぼす影響はほとんどない。よって、双方向型測距および一方向型測距においても、実施形態のエッジ検出方法は十分な精度を有することが理解される。
【0090】
CPU19では、数式(12)に基づき、以下の演算を行い、測距距離ΔLを得る。カウント値(m+n)は、上述したように、上位ビットのLSBに補正を加え、上位mビットと下位nビットとを連結した後の値である。
【0091】

ΔL=30×107×[{カウント値(m+n)/2n}×TC−Dt−Ot] (13)
【0092】
上述した図10に示すハードウエア構成は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)によって、実現することができる。この場合において、例えば、クロック信号の周波数が100MHzであり、4つの位相が異なるクロック信号を用いる場合には、800MHzのクロック信号を用いたのと等価である。クロック信号の周波数が100MHzであるときに得られる距離分解能が3mであるのに対して、4つの位相が異なるクロック信号を用いることによって、距離分解能が0.375mに向上する。なお、位相が異なるクロック信号を発生させるには遅延素子を用いるが、FPGA内のPLL(Phase Locked Loop)を用いても良く、プロパゲーションディレー量が管理されたゲート回路を用いるようにしても良い。
【0093】
要するに、実施形態の超広帯域無線通信測距装置は、以下の特徴を有している。
【0094】
空間に送信されて被測距物を経て電波伝搬するスペクトラム拡散変調信号を受信する受信部と、スペクトラム拡散変調信号が空間に送信された時刻である第1時刻(例えば、プリアンブルの先頭の送信時刻)を知らせる送信タイミング発生器と、受信部から得られるスペクトラム拡散変調信号の同期ポイントから第2時刻(例えば、フレームシンク終了時刻)を得る同期ポイント検出器(例えば、データ同期器)と、第1時刻と第2時刻との時間間隔をデジタル処理によって検出する時間間隔検出手段と、時間間隔に基づいて被測距物から受信部までの電波の到達時間を求める到達時間検出部(例えば、CPU)と、到達時間に光速を積算して被測距物と受信部との間の距離を演算する演算手段(例えば、CPU)と、を備えている。
【0095】
そして、時間間隔検出手段は、第1時間検出部(例えば、上位ビット生成器)と、第2時間検出部(例えば、下位ビット生成器)と、第1時間検出部で得られた第1時間間隔と第2時間検出部で得られた第2時間間隔とを合成する合成部(例えば、合成器)と、を備えている。第1時間検出部は、第1時刻においてクリアされ、所定周期の第1クロック信号でカウントアップされ、第2時刻においてカウントアップが停止されてmビットのバイナリーデータをカウント値として出力するカウンタを有する上位ビット生成器を具備している。ここで、第1クロック信号の周期である所定周期は、例えば、装置を動作させる基準となる、最も周期の短い繰り返し信号であるシステムクロックの周期である。
【0096】
第2時間検出部は、2の冪乗の数kに基づき、1クロック信号を基準として、(180度/k)ずつ位相をずらしたk個のクロック信号である、第1クロック信号ないし第kクロック信号を発生させるクロック位相器と、第1クロック信号ないし第kクロック信号の各々を、少なくとも第2時刻でラッチしてk個の1ビットの信号を得るラッチ回路(例えば、サブカウンタ)と、ラッチ回路で得られたk個の1ビットの信号から、第1クロック信号がカウンタをカウントアップする時刻と第2時刻との間の時間が短いほど小さな値となる(k−1)ビットのバイナリーデータを形成する下位ビット生成器と、を具備している。
【0097】
合成部(例えば、合成器)は、上位ビット生成器から得られるmビットを上位ビットとし、ラッチ回路から得られる(k−1)ビットを下位ビットとして、(m+n)ビットのバイナリーデータを出力するものである。
【0098】
上述した、実施例のサブカウンタ162では、スペクトラム拡散変調信号Sの同期ポイントの反転エッジをトリガーとして、クロック信号φ0〜クロック信号φ3の1、または、0の状態をトリガー時点でラッチするようにした。しかしながら、下位nビットのバイナリーデータを発生させるサブカウンタは、スペクトラム拡散変調信号Sの同期ポイントの反転エッジと、クロック信号のエッジとの相対関係を検出するものである。より具体的には、クロック信号の1周期内の位相量と検出している。しかしながら、この相対関係を検出するものであれば、サブカウンタとしての機能を果すことができ、上述の実施例に限るものではない。
【0099】
図11は、実施形態の要部であるサブカウンタの別の実施例を示す図である。サブカウンタ262は、8個のディフリップフロップ(DFF)を有している。8個のディフリップフロップの各々のクロック端子には、クロック信号φ0〜クロック信号φ7が入力されている。クロック信号φ0〜クロック信号φ7は、クロック位相器264で発生される相互に位相が45度異なるクロックである。8個のディフリップフロップの各々のディ入力端子には、スペクトラム拡散変調信号Sが印加されている。そして、8個のディフリップフロップの各々の出力端子からは、出力信号Q0〜出力信号Q7が出力される。下位ビット生成器266は、出力信号Q0〜出力信号Q7の8ビットの信号から3ビットのバイナリーデータを生成する。
【0100】
図12は、サブカウンタ262の動作をタイムチャートで示す図である。図12は図8に対応するもので、スペクトラム拡散変調信号S3〜スペクトラム拡散変調信号S10の各々を検出する場合における概念を示す図である。
【0101】
表3は、フリップフロップの出力端子(Q端子)の各々から出力される8個のデータQ0〜データQ7に対する、nビット(この場合は3ビット)のバイナリーデータを対応させた表である。表3の左側のS3〜S10の欄は、図12に示すスペクトラム拡散変調信号S3〜スペクトラム拡散変調信号S10の各々を意味している。
【0102】

【表3】

【0103】
この表3をテーブルとして、下位ビット生成器266において用いることによって、8ビットの信号を3ビットのバイナリーデータに変換することができる。つまり、図10に示す回路におけるクロック位相器164、サブカウンタ162を、図11に示すクロック位相器264、サブカウンタ262に置き換えることによって、同様の分解能を得るようにすることができる。図8に示す回路に比べて、クロック信号の数は2倍となるが、インバータ回路によって半数のクロック信号を発生させることができる。
【0104】
(実施形態の変形例)
図13、図14、表4、表5を参照して、実施形態の変形例について説明をする。
【0105】
通信障害(ノイズ、マルチパス等)によって、クロック周期から外れる信号が発生した場合に、非同期処理を行うサブカウンタ162(図9を参照)において、誤動作が生じることがある。実施形態の変形例は、このような誤動作を防止するものである。
【0106】
図13は、スペクトラム拡散変調信号Sにノイズが含まれる場合を模式的に示す図である。
【0107】
表3は、図13に示されるスペクトラム拡散変調信号Sのノイズのエッジ(p番目のエッジと(p+1)番目のエッジ)の近傍の立上エッジ、立下エッジの位置と、4個のフリップフロップ(図10を参照)の出力端子からの、出力信号Q0〜出力信号Q3との関係を示す表である。
【0108】

【表4】

【0109】
表4に示すように、本来のエッジに対応する出力信号Q0〜出力信号Q3の値は、1000である。一方、ノイズによってラッチされたp番目に対応する出力信号Q0〜出力信号Q3の値は、0111である。また、ノイズによってラッチされた(p+1)番目に対応する出力信号Q0〜出力信号Q3の値は、0011である。
【0110】
表5は、図13に図示しない範囲を含む、スペクトラム拡散変調信号Sから検出されるノイズのエッジを含め、これらの近傍の立上エッジ、立下エッジの位置と、4個のフリップフロップ(図10を参照)の出力端子からの、出力信号Q0〜出力信号Q3との関係を示す表である。また、現在のエッジの位置の出力信号Q0〜出力信号Q3と、それより前の4個のエッジの位置の出力信号Q0〜出力信号Q3との5個において、多数決を取ったエッジの位置の出力信号Q0〜出力信号Q3である。
【0111】

【表5】

【0112】
表5から解るように、このようにして、それ以前の複数個のエッジの位置の出力信号Q0〜出力信号Q3に基づいて、ノイズを排除することが可能となる。ノイズを排除するためのアルゴリズムは、ノイズであるか否かを判定される当該エッジより以前の複数個のエッジの多数決処理(発生頻度処理)のみならず、当該エッジよりも遅れてくるエッジを多数決処理の対象とすることができる。
【0113】
また、多数決処理によるのみならず、時系列の出力信号Q0を複数個加算して、加算個数で除して平均値を求め、四捨五入をして、0、または、1のいずれとなるかを決するようにして、他の出力信号Q1〜出力信号Q3についても同様に、平均値を求めた後に四捨五入を行い、ノイズを除去するようにしても良い。このような平均値処理を採用することもできる。そして、多数決処理、平均値処理の結果に基づき、ノイズ、マルチパス等により生じた他の部分と異なるエッジのデータを、他の部分のデータに置き換えて、下位ビットについての測距の誤りが生じないようにできる。
【0114】
具体的には、図10に示す合成器168にサブカウンタ362は接続され、同期ポイント信号DSに同期して、サブカウンタ362での演算結果は合成器168に取り込まれる。ここで、ノイズ除去器366cを備えない場合には、同期ポイント信号DSが出力された時点で、表5に示すエッジPの時点のスペクトラム拡散変調信号Sがラッチ回路366aに取り込まれていたとすると、誤った位相差に基づく情報を合成器168に取り込んでしまうこととなる。しかしながら、ノイズ除去器366cを備える場合には、スペクトラム拡散変調信号Sのエッジごとに、ノイズであるか否かを検出しているので、ノイズによって検出される位相差信号は排除されており、下位nビットの情報がノイズで誤りを生ずることはない。
【0115】
図14は、上述した多数決処理、平均値処理の機能を有するサブカウンタであるサブカウンタ362のブロック図を示す図である。ラッチ回路366aは、図10に示すと同様にディフリップフロップ回路を有している。ラッチ回路366aからのクロック数と等しい複数個の信号(例えば、Q1〜Q3)は、ラッチ時刻ごとに、メモリ366b(例えば、4ビット幅のリング状シフトレジスタ)に順次、保存される。例えば、pで示す記憶位置の信号が処理対象信号である場合には、それ以前の信号((p−4)で示す位置の信号〜(p−1)で示す位置の信号)、または、それ以降の信号(p+1)で示す位置の信号〜(p+4)で示す位置の信号)、もしくは、それ以前とそれ以降の信号が、ノイズの除去の目的で使用できる。
【0116】
ノイズ除去器366cは、上述した、多数決処理、または、平均値処理によって、ノイズを除去する。下位ビット生成器366dは、ノイズ除去後の信号について、変換テーブルを用いて、nビットのデータを形成する。なお、ノイズ除去器366cで行う処理は、複数個の信号(例えば、Q1〜Q3)を処理する段階で行うのみならず、nビットデータに変換した後に行うようにしても良い。例えば、(m+n)ビットのバイナリーデータをCPU19に取り込んだ後、CPU19での演算処理によってノイズを除去するようにしても良い。
【0117】
(実施形態の別の変形例)
図15、図16を参照して別の変形例の説明をする。図10に示す回路では、メインカウンタ163とサブカウンタ162aには同一のクロック信号φ0が入力されている。そのために、サブカウンタ162のフリップフロップのクロック端子CKにスペクトラム拡散変調信号Sのエッジとクロック信号φ0のエッジが一致する場合には、サブカウンタ162で0000(バイナリーでは、111)がラッチされながら、同時にメインカウンタ163でもカウントアップされ、誤計測が生じるおそれがある。
【0118】
図15は、クロック位相器164からのクロック信号とは別のクロック信号でメインカウンタ163を動作させる回路を示す図である。図15に示すように、遅延素子Ddを用いて、メインカウンタ163のクロック信号φ0'は、クロック信号φ0に対して遅れるようにする。このようにすれば、サブカウンタ162で0000が発生するときにメインカウンタ163のカウントアップが行われることとなり、誤った時間計測をすることがない。図16は、図15に示す回路における、スペクトラム拡散変調信号Sと、クロック信号φ0'およびクロック信号φ0〜 クロック信号φ3との関係を示すタイムチャートである。
【0119】
以上に説明した実施形態、実施例を組み合わせて、新たな実施形態とすることも当然可能であり、また、本発明は、上述した実施形態に限られないことも当然である。
【符号の説明】
【0120】
1 超広帯域無線通信測距装置、 11 送信部、 12 送信処理ブロック、 13 データ変換部、 14 バッファー、 15 受信部、 16 受信処理ブロック、 17 データ変換部、 18 バッファー、 20 アンテナ、 121 送信タイミング発生器、 161 相関器、 162 サブカウンタ、 162a〜162d ディフリップフロップ(DFF)、 163 メインカウンタ、 164 クロック位相器、 165 データ同期器、 165a フレームシンクパターン発生器、 165b ノアゲート、 166 下位ビット生成器、 168 合成器、 1711〜171n シフトレジスタ、 174 エッジ検出器、 262 サブカウンタ、 264 クロック位相器、 266 下位ビット生成器、 362 サブカウンタ、 366a ラッチ回路、 366b メモリ、 366c ノイズ除去器、 366d 下位ビット生成器、 D1、D2 データ、 DS 同期ポイント信号、 Dt データ転送時間、 END エンドコード、 FLM フレームシンク、 Ot 内部処理時間、 P1、P2 プリアンブル、 Q0〜Q7 ラッチ後信号(出力信号、データ)、 RX 受信機、 S スペクトラム拡散変調信号、 S1〜S10 スペクトラム拡散変調信号、 TX 送信機、 Tr 計測開始トリガー信号、 ΔL 測距距離、 Δt 到達時間、 δL 距離分解能、 δt 時間分解能、 φ クロック信号、 φ0〜φ7 クロック信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間に送信されて被測距物を経て電波伝搬するスペクトラム拡散変調信号を受信する受信部と、
上記スペクトラム拡散変調信号が空間に送信された時刻である第1時刻を得る送信タイミング発生器と、
上記受信部から得られるスペクトラム拡散変調信号の同期ポイントから第2時刻を得る同期ポイント検出器と、
上記第1時刻と上記第2時刻との時間間隔をデジタル処理によって検出する時間間隔検出手段と、
上記時間間隔に基づいて上記被測距物から上記受信部までの電波の到達時間を求める到達時間検出部と、
上記到達時間に光速を積算して上記被測距物と上記受信部との間の距離を演算する演算手段と、を備え、
上記時間間隔検出手段は、第1時間検出部と、第2時間検出部と、上記第1時間検出部で得られた第1時間間隔と上記第2時間検出部で得られた第2時間間隔とを合成する合成部と、を具備し、
上記第1時間検出部は、
上記第1時刻においてクリアされ、所定周期の第1クロック信号でカウントアップされ、上記第2時刻においてカウントアップが停止されてmビットのバイナリーデータをカウント値として出力するカウンタを有してなる上位ビット生成器を有し、
上記第2時間検出部は、
2の冪乗の数kに基づき、上記第1クロック信号を基準として、(180度/k)ずつ位相をずらしたk個のクロック信号である、第1クロック信号ないし第kクロック信号を発生させるクロック位相器と、
上記第1クロック信号ないし上記第kクロック信号の各々を、少なくとも上記第2時刻でラッチしてk個の1ビットの信号を得るラッチ回路と、
上記ラッチ回路で得られたk個の1ビットの信号から、上記第1クロック信号が上記カウンタをカウントアップする時刻と上記第2時刻との間の時間が短いほど、小さな値となる(k−1)ビットのバイナリーデータを形成する下位ビット生成器と、を有し、
上記合成部は、
上記上位ビット生成器から得られる上記mビットを上位ビットとし、上記ラッチ回路から得られる上記(k−1)ビットを下位ビットとして、(m+n)ビットのバイナリーデータを出力する、
超広帯域無線通信測距装置。
【請求項2】
上記スペクトラム拡散変調信号は、可変長符号で形成され、
上記第2時間検出部のラッチ回路は、
上記可変長符号とされる上記スペクトラム拡散変調信号の反転エッジの発生時に上記k個の1ビットの信号を得る、
請求項1に記載の超広帯域無線通信測距装置。
【請求項3】
上記スペクトラム拡散変調信号は、可変長符号で形成され、
上記第2時間検出部は、メモリを有し、
上記メモリに上記可変長符号のエッジが反転する時刻に得られる、上記k個の1ビットの信号を時系列に従って順次、記憶させ、
上記メモリに記憶された複数組の上記k個の1ビットの信号の中から発生頻度が高いk個の1ビットの信号を選択して、上記下位ビット生成器に対して出力する、
請求項1または請求項2に記載の超広帯域無線通信測距装置。
【請求項4】
上記スペクトラム拡散変調信号は、可変長符号で形成され、
上記第2時間検出部は、メモリを有し、
上記メモリに上記可変長符号のエッジが反転する時刻に得られる、上記k個の1ビットの信号を時系列に従って順次、記憶させ、
上記メモリに記憶された複数組の上記k個の1ビットの信号をビットごとに平均して、四捨五入して得たk個の1ビットの信号を選択して、上記下位ビット生成器に対して出力する、
請求項1または請求項2に記載の超広帯域無線通信測距装置。
【請求項5】
さらに、
スペクトラム拡散変調信号を送信する送信部を具備し、
上記第1時刻を上記送信部から得る、
請求項1に記載の超広帯域無線通信測距装置。
【請求項6】
受信部が、空間に送信されて被測距物を経て電波伝搬するスペクトラム拡散変調信号を受信し、上記スペクトラム拡散変調信号が空間に送信された時刻である第1時刻を得て、
同期ポイント検出器が、上記受信部から得られるスペクトラム拡散変調信号の同期ポイントから第2時刻を得て、
第1時間検出部のカウンタが、
上記第1時刻においてクリアされ、所定周期の第1クロック信号でカウントアップされ、上記第2時刻においてカウントアップが停止されてmビットのバイナリーデータをカウント値として出力し、
第2時間検出部が、
2の冪乗の数kに基づき、上記第1クロック信号を基準として、(180度/k)ずつ位相をずらしたk個のクロック信号である、第1クロック信号ないし第kクロック信号を発生させ、上記第1クロック信号ないし上記第kクロック信号の各々を、少なくとも上記第2時刻でラッチしてk個の1ビットの信号を得て、上記ラッチ回路で得られたk個の1ビットの信号から、上記第1クロック信号が上記カウンタをカウントアップする時刻と上記第2時刻との間の時間が短いほど、小さな値となる(k−1)ビットのバイナリーデータを形成し、
合成部が、
上記mビットを上位ビットとし、上記(k−1)ビットを下位ビットとして、(m+n)ビットのバイナリーデータを出力して、
演算手段が、上記(m+n)ビットのバイナリーデータに基づいて上記被測距物と上記受信部との間の距離を演算する、
測距方法。
【請求項7】
第1時刻と第2時刻との時間間隔をデジタル処理によって検出する時間間隔検出装置であって、
該時間間隔検出装置は、第1時間検出部と、第2時間検出部と、上記第1時間検出部で得られた第1時間間隔と上記第2時間検出部で得られた第2時間間隔とを合成する合成部と、を備え、
上記第1時間検出部は、
上記第1時刻においてクリアされ、所定周期の第1クロック信号でカウントアップされ、上記第2時刻においてカウントアップが停止されてmビットのバイナリーデータをカウント値として出力するカウンタを有する上位ビット生成器を具備し、
上記第2時間検出部は、
2の冪乗の数kに基づき、上記第1クロック信号を基準として、(180度/k)ずつ位相をずらしたk個のクロック信号である、第1クロック信号ないし第kクロック信号を発生させるクロック位相器と、
上記第1クロック信号ないし上記第kクロック信号の各々を、少なくとも上記第2時刻でラッチしてk個の1ビットの信号を得るラッチ回路と、
上記ラッチ回路で得られたk個の1ビットの信号から、上記第1クロック信号が上記カウンタをカウントアップする時刻と上記第2時刻との間の時間が短いほど小さな値となる(k−1)ビットのバイナリーデータを形成する下位ビット生成器と、を具備し、
上記合成部は、
上記上位ビット生成器から得られる上記mビットを上位ビットとし、上記ラッチ回路から得られる上記(k−1)ビットを下位ビットとして、(m+n)ビットのバイナリーデータを出力する、
時間間隔検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−211346(P2011−211346A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75044(P2010−75044)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000201814)双葉電子工業株式会社 (201)
【Fターム(参考)】