説明

超微粒子原料を用いる窒化アルミニウム単結晶の育成法

【課題】窒化アルミニウム単結晶を種結晶上に成長させる窒化アルミニウム単結晶の製造方法で、窒化アルミニウム単結晶の製造を絶え間なく連続的に行うことを可能とする方法を提供する。
【解決手段】種結晶3として、炭化珪素、サファイア、又は、窒化アルミニウム等からなるウルツ鉱型の結晶構造を有する単結晶を用い、種結晶3上に窒化アルミニウム単結晶を成長させてなる窒化アルミニウム単結晶の製造方法であって、窒素を含む雰囲気中に加熱状態で保持されている種結晶3表面に向けて、アルミニウム原子を含有する化合物超微粒子と炭素含有超微粒子、及び又は、炭素原子と窒素原子を含有する化合物超微粒子を供給し、種結晶3表面、及び又は、近傍において、還元窒化させ、窒化アルミニウム単結晶を種結晶3上に成長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
種結晶として、炭化珪素、サファイア、又は、窒化アルミニウム等からなるウルツ鉱型の結晶構造を有する単結晶を用い、該種結晶上に窒化アルミニウム単結晶を成長させてなる窒化アルミニウム単結晶の製造方法であって、窒素を含む雰囲気中に加熱状態で保持されている該種結晶表面に向けて、アルミニウム原子を含有する化合物超微粒子と炭素含有超微粒子、及び又は、炭素原子と窒素原子を含有する化合物超微粒子を供給し、該種結晶表面、及び又は、近傍において、アルミニウム原子を含有する化合物超微粒子を炭素含有超微粒子、及び又は、炭素原子と窒素原子を含有する化合物超微粒子により、還元窒化させ、窒化アルミニウム単結晶を該種結晶上に成長させることを特徴とする窒化アルミニウム単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムは液相状態を有しないので、融液法での製造は困難であり、工夫(特許文献1に記載の方法等)により製造できても成長速度が遅く、反応温度における保持時間が24時間程度と長時間を要し、生産性が悪く、エネルギー消費も大きく、生産コストの面でも問題があった。特許文献2に記載の方法は1.6mm/時間程度と比較的速い結晶成長速度を達成することができるが、結晶の引き上げ装置、各種制御装置等の複雑な機構を備えた、高価な特殊装置を用いて初めて製造することができる。
【0003】
一方、窒化アルミニウムは単結晶を用いた電子デバイスを実用化するためには結晶欠陥の少ない高品質で低コストの窒化アルミニウム単結晶基板の製造を可能にしなければならない。そこで、窒化アルミニウム単結晶の薄膜が、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法やMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法により、炭化珪素基板、サファイア基板上にガス原料を用いたヘテロエピタキシャル成長により製造されているが、いずれも成長反応に用いられる原料の濃度が希薄であり、結晶の成長速度が遅く生産性が悪く、また、希薄環境下での結晶の成長においては、螺旋転移の発生が優勢と成りやすいことからモザイク結晶と成り易いなどの欠点がある。
【特許文献1】特開平10−53495号公報
【特許文献2】特表2003−505331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、螺旋転位などの欠陥が少なくフラックスなどの不純物が少ない高品質の窒化アルミニウム単結晶を速い成長速度で製造すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
種結晶として、炭化珪素、サファイア、又は、窒化アルミニウム等からなるウルツ鉱型の結晶構造を有する単結晶を用い、該種結晶上に窒化アルミニウム単結晶を成長させてなる窒化アルミニウム単結晶の製造方法であって、窒素を含む雰囲気中に加熱状態で保持されている該種結晶表面に向けて、アルミニウム原子を含有する化合物超微粒子と炭素含有超微粒子、及び又は、炭素原子と窒素原子を含有する化合物超微粒子を供給し、該種結晶表面、及び又は、近傍において、アルミニウム原子を含有する化合物超微粒子を炭素含有超微粒子、及び又は、炭素原子と窒素原子を含有する化合物超微粒子により、還元窒化させ、窒化アルミニウム単結晶を該種結晶上に成長させることを特徴とする窒化アルミニウム単結晶の製造方法である。
【0006】
本発明におけるアルミニウム原子を含有する化合物超微粒子と炭素含有超微粒子、及び又は、炭素原子と窒素原子を含有する化合物超微粒子を該種結晶表面に向けて、供給される際のアルミニウム原子を含有する化合物超微粒子が、Alである場合は、該種結晶表面、及び又は、その近傍において、下記式(1)に示すような反応により、窒化アルミニウムを生成する。
【0007】
この反応は、式(2)に示す炭素による還元反応と(3)に示す窒素による窒化反応の2段階からなると考えられ、該種結晶表面、及び又は、その近傍で超微粒子の化学反応により、合成される窒化アルミニウム(AlN)分子は、極めて高濃度であり、急速に該種結晶表面に融合して単結晶としてエピタキシャルに成長するため、成長速度が速く螺旋転位などが発生し難く、高品質の窒化アルミニウム単結晶が得られる。
【0008】
Al+3C+N→2AlN+3CO ・・・(1)
Al+2C→AlO+2CO ・・・・・・(2)
AlO+C+N→2AlN+CO・・・・・・(3)
【発明の効果】
【0009】
本発明の窒化アルミニウム単結晶の製造方法によれば、螺旋転位などの欠陥が少なくフラックスなどの不純物が少ない高品質の窒化アルミニウム単結晶を速い成長速度で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の窒化アルミニウム単結晶の製造方法を実施するための形態について具体的に説明するが、本発明の製造方法は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本発明に使用するアルミニウム原子を含有する化合物超微粒子の種類、粒径、粒子形状などの構成は、特に限定されず、例えば、AlClを酸水素炎中で加水分解して得られる超微粒子酸化アルミニウムなどが挙げられる。
【0012】
本発明に使用する炭素含有超微粒子、及び又は、炭素原子と窒素原子を含有する化合物超微粒子の種類、粒径、粒子形状などの構成は、特に限定されず、例えば、カーボンブラックと尿素(NCO)の混合物などが挙げられる。
【0013】
上記アルミニウム原子を含有する化合物超微粒子と炭素含有超微粒子、及び又は、炭素原子と窒素原子を含有する化合物超微粒子の供給量の比は、適宜選択できる。上記アルミニウム原子を含有する化合物超微粒子と炭素含有超微粒子、及び又は、炭素原子と窒素原子を含有する化合物超微粒子のいずれもが、2種類以上の物を混合して使用しても良い。また、上記アルミニウム原子を含有する化合物超微粒子と炭素含有超微粒子、及び又は、炭素原子と窒素原子を含有する化合物超微粒子は、必要に応じ、本発明の作用を阻害しない範囲で、前処理を施したり、他の成分を微量添加してもよい。
【0014】
上記アルミニウム原子を含有する化合物超微粒子と炭素含有超微粒子、及び又は、炭素原子と窒素原子を含有する化合物超微粒子の該種結晶表面への供給は、該種結晶表面に上記超微粒子が効率よく付着するために、上記超微粒子に適当な速度が与えられることが望ましい。
上記超微粒子の該種結晶表面への供給方法は特に限定されず、例えば、所望の流速を有するキャリアガスと混合して該種結晶表面に向けて供給する方法が挙げられる。この際、使用するキャリアガスは、窒素、及び又は、アンモニア等の窒素を含むガスあるいは、これにアルゴン等の不活性ガスを加えたガスを用いることもできる。なお、上記アルミニウム原子を含有する化合物超微粒子と炭素含有超微粒子、及び又は、炭素原子と窒素原子を含有する化合物超微粒子は、該種結晶表面へ混合された状態で供給されるのであれば、別個に供給しても混合した状態で供給しても良い。混合した状態で供給する場合、予め原料の段階で混合しても。キャリアガス中に別個に供給し混合するようにしても良い。
【0015】
さらに、例えば、窒化アルミニウム単結晶中にドーピングを行う場合には、上記超微粒子やキャリアガスにドーパントとなる成分を混合しても良い。
【0016】
本発明で使用する該種結晶の構成、サイズ、形状は、目的とする窒化アルミニウム単結晶の構成、大きさ、形状などによって選択すれば良く、例えばレーリー法による炭化珪素単結晶、ベルヌーイ法によるサファイア単結晶、昇華法による窒化アルミニウム単結晶など、必要に応じ処理を施したものを用いることができる。
【0017】
該種結晶表面は、供給されたアルミニウム原子を含有する化合物超微粒子と炭素含有超微粒子、及び又は、炭素原子と窒素原子を含有する化合物超微粒子が、溶融しながら反応して、窒化アルミニウム(AlN)分子を生成し、該種結晶表面にエピタキシャルに融合し、結晶成長する温度であれば、特に限定されず、好ましくは1400〜2300℃とするのが良い。
【0018】
本発明の窒化アルミニウム単結晶を得るために使用する窒化アルミニウム単結晶の製造装置の構成(サイズ、加熱方法、原料供給方法、雰囲気調整方法など)は、特に限定されず、目的とする窒化アルミニウム単結晶の大きさや形状、原料の種類などに応じて選択する。
【0019】
また、窒化アルミニウム単結晶の製造条件も特に限定されず、目的とする窒化アルミニウム単結晶の大きさや形状、原料の種類や供給方法、キャリアガスの種類等に応じて選択する。
【実施例】
【0020】
本発明の窒化アルミニウム単結晶を得るための製造装置の一例を用いて窒化アルミニウム単結晶を合成した過程を図1により示す。
【0021】
図1に示すような製造装置を用いて、窒化アルミニウム単結晶の育成を行った。図1の製造装置は、グラファイト製のヒートゾーンを有する抵抗加熱炉1の水冷された底部から立てられたグラファイト製の支持棒2の上に種結晶3を密着固定し、該種結晶上部のヒートゾーン上端に超微粒子原料粉の供給口を設け、原料粉貯蔵ホッパー4から、落下する超微粒子原料粉をバルブ5を開いて窒素ガスボンベから窒素ガスを流すことにより該種結晶3の表面に供給する。抵抗加熱炉1には、図示しない放射温度計が設置されていてヒートゾーンの温度を測定し、それに応じて抵抗加熱炉のヒーター電力を制御することにより、該種結晶の温度を調整する。
【0022】
抵抗加熱炉内は、図示しない真空ポンプ、及び、圧力調整弁により、圧力調整が可能であって、ヒートゾーン内部の反応雰囲気の圧力調整を行うことができる。超微粒子原料粉をキャリアガスと窒素源を兼ねる窒素ガスと共に供給することにより、超微粒子原料粉に適度な速度を与え、ヒートゾーン内に固定された該種結晶に向かって移動し、該種結晶表面に到達させることができる。超微粒子原料粉の供給量はバルブ7により、調節される。
【0023】
窒化アルミニウム単結晶の製造(単結晶の成長)は、次のように行われる。
抵抗加熱炉のグラファイト製のヒートゾーン内に下端を水冷されて立てられたグラファイト製の支持棒上端に、下記に示す構成の炭化珪素種結晶を密着固定して、抵抗加熱炉内を減圧状態とし、窒素ガスによりガス置換を行う、次いで抵抗加熱炉を加熱し、炭化珪素種結晶表面が1400〜2300℃となるようにする。
【0024】
原料として下記の材料を用い、アルミニウム原子を含有する化合物超微粒子と炭素含有超微粒子、及び又は、炭素原子と窒素原子を含有する化合物超微粒子を窒素ガス(キャリアガス)と共に、下記製造条件でヒートゾーン内に供給した。その結果、炭化珪素種結晶表面上に厚さ約200μmの窒化アルミニウム単結晶が成長した。
【0025】
<原料>
(1)アルミニウム原子を含有する化合物超微粒子:(Al
酸化アルミニウム粉末、AEROXIDE AluC(日本アエロジル(株)製)
一次平均粒径=13nm、BET比表面積=100m/g
(2)炭素含有超微粒子:(C)
カーボンブラック、MA600(三菱化学(株)製)
一次平均粒径=18nm、窒素吸着法による比表面積=140m/g
(3)炭素原子と窒素原子を含有する化合物超微粒子:(NCO)
尿素を用いる。
上記、3原料をモル比で(1):(2):(3)=1:3:1で混合し、純水と共にテフロンボールを用いて24時間ボールミルして水性サスペンションとし、スプレードライヤーにより乾燥造粒し、平均粒子径40μmのほぼ球形として単結晶連続成長装置のホッパー4に収納する。
【0026】

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の窒化アルミニウム単結晶の製造方法によれば、螺旋転位などの欠陥が少なくフラックスなどの不純物が少ない高品質の窒化アルミニウム単結晶を速い成長速度で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の窒化アルミニウム単結晶を得るための製造装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 抵抗加熱炉
2 グラファイト製支持棒
3 種結晶
4 超微粒子原料粉ホッパー
5 キャリアガス用開閉バルブ
6 キャリアガスボンベ
7 超微粒子原料粉調節バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種結晶として、炭化珪素、サファイア、又は、窒化アルミニウム等からなるウルツ鉱型の結晶構造を有する単結晶を用い、該種結晶上に窒化アルミニウム単結晶を成長させてなる窒化アルミニウム単結晶の製造方法であって、窒素を含む雰囲気中に加熱状態で保持されている該種結晶表面に向けて、アルミニウム原子を含有する化合物超微粒子と炭素含有超微粒子、及び又は、炭素原子と窒素原子を含有する化合物超微粒子を供給し、該種結晶表面、及び又は、近傍において、アルミニウム原子を含有する化合物超微粒子を炭素含有超微粒子、及び又は、炭素原子と窒素原子を含有する化合物超微粒子により、還元窒化させ、窒化アルミニウム単結晶を該種結晶上に成長させることを特徴とする窒化アルミニウム単結晶の製造方法。
【請求項2】
窒化アルミウム単結晶を成長させる種結晶の表面温度が、1400〜2300℃であることを特徴とする請求項1に記載する窒化アルミニウム単結晶の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−62248(P2009−62248A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233632(P2007−233632)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(507303686)有限会社CPD技術研究所 (1)
【Fターム(参考)】