説明

超親水性基材及びその製造方法

【課題】超親水性基材、特に、透明性、耐久性に優れた超親水性基材を簡便に製造する。
【解決手段】微細な凹凸形状を有する基板の上に、更に別の微細な凹凸表面を有する親水性凹凸構造部材を有することを特徴とする親水性基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超親水性基材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の部材表面を親水化することで、多くの用途が期待される。具体的には、例えば、食品工業、医療(人工臓器等の医療用具や診断を含む)、医薬品工業、廃水処理、塗装、印刷等の分野において用いられる、タンパク質、コロイド、バクテリア、フミン質、油脂、大気中の汚染物質等の吸着が少ない成形物や生体適合性の成形物、また、酵素、菌体等を変性させない固定化用担体、商業、農業、交通、家庭用品、光学機器、塗料などの分野において用いられる防曇性フィルム、防曇性塗膜などの防曇性部材、電子工業などの分野において用いられる静電気防止などの用途に使用できる表面親水性部材などが挙げられる。
【0003】
上記の各分野で使用されている親水性部材に求められる表面特性としては、タンパク質、油脂、フミン質等の物質の材料表面への吸着抑制性、防曇性、生態適合性、帯電防止性などが挙げられる。これらの機能は高い親水性により実現が可能であり、例えば、塗料分野においては、雨水中の油性物質が付着しない防汚性塗膜、センサー表面に使用する場合には、特にこれらの物質が特異的に吸着しない表面が所望される。また、強い親水性により、水滴が拡張濡れの状態となる防曇性表面は、この親水性に加えて更に光学的に高い透明度と平滑性が求められる。また、生態適合性に関しては、人工臓器などの医療分野において、血栓、溶血、感作性、抗原抗体反応などを抑制する表面が求められている。更に、親水性による帯電防止能の発現は、特に電子工業分野において重要視される。
【0004】
このような要求を満足させるための表面の親水化方法の一例として、親水性モノマーを表面グラフトする方法が知られている。
具体的な方法としては、炭素−炭素二重結合及び(又は)第3級炭素に結合した水素基を所定量有する親油性樹脂を主成分とする親油性基材表面に親水性ラジカル重合性化合物を塗布し、活性光線を照射して、表面に親水性層を形成する方法(例えば、特許文献1参照)、基板表面に光重合開始層(光重合開始剤、モノマー及び/又はオリゴマーからなる)を塗布した下層に、親水性モノマーを接触させた状態で、エネルギーを付与することで該下層の表面に親水性ポリマーをグラフトさせる手法(例えば、特許文献2参照)、基材上に、側鎖に重合開始能を有する官能基及び架橋性基を有するポリマーを架橋反応により固定化してなる重合開始層を設け、該重合開始層に重合性基を有する親水性化合物を直接結合させて親水性層を形成する手法(特許文献3)等が知られている。
【特許文献1】特開昭53−17407号公報
【特許文献2】特開平10−53658号公報
【特許文献3】特開2004−123837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記いずれの方法も未だ十分な親水性表面の発現が難しく、より簡易に超親水性基材を製造できる技術が望まれた。また、透明性に優れた超親水性基材、更には耐久性に優れた超親水性基材の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は、微細な凹凸形状を有する基板の上に、親水性基を有する化合物を含有する、別の微細な凹凸表面を有する親水性凹凸構造体を有する親水性基材により達成されることが見出された。
すなわち、本発明は、凹凸形状を有する基材表面に、更に他の部材からなる親水性の表面凹凸構造体を設けることによって、多段凹凸形状を達成することを大きな特徴とする。これにより、多段の表面凹凸形状を簡便に制御することができると同時に、上記表面凹凸構造体が、親水性基を有する化合物を含有させることにより、より超親水性表面の基材をより簡便に得ることができる。
特に、該親水性の表面凹凸構造体を、重合反応を利用して表面凹凸を形成することにより、多段凹凸構造を極めて微細に且つ簡便に制御することができ好ましい。該表面凹凸構造体を形成するには、重合開始能を有する化合物と重合性化合物の存在が必要であるが、これらの機能を分離させて重合開始層と重合性表面親水性層とに分けることにより、更に重合開始層と基材との密着性を向上させ、耐久性を向上させることができる。
【0007】
すなわち、本発明の構成は下記の通りである。
(1)微細な凹凸形状を有する基板の上に、更に別の微細な凹凸表面を有する親水性凹凸構造部材を有することを特徴とする親水性基材。
(2)上記親水性凹凸構造部材が、重合反応を利用して凹凸表面が形成されたものである上記(1)記載の親水性基材。
(3)上記親水性凹凸構造部材が、重合開始能を有する化合物を含有する重合開始層と、該重合開始層に、重合性基を含有する化合物が直接結合してなる親水性層とからなることを特徴とする上記(2)記載の親水性基材。
【0008】
(4)該基板の少なくとも一つの微細な凹凸形状が、フォトリソグラフィーにより形成されたものである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の親水性基材。
(5)該基板の少なくとも一つの微細な凹凸形状が、微粒子を含有する塗布層により形成されたものである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の親水性基材。
【0009】
(6)微細な凹凸形状を有する基板上に、重合開始能及び重合能を有する親水性層を形成し、画像様に露光することにより微細な凹凸表面を有する親水性凹凸構造部材を形成することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の親水性基材の製造方法。
(7)微細な凹凸形状を有する基板上に、重合開始能を有する層及び重合能を有する親水性層を形成し、画像様に露光することにより微細な凹凸表面を有する親水性凹凸構造部材を形成することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の親水性基材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、超親水性基材を、簡便に製造することができる。更に、透明性、耐久性に優れた超親水性基材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<基板>
本発明の基板は、微細な凹凸形状を有する。
基板上への凹凸形状の形成が可能であれば、特に限定されず、無機物でも高分子などの有機物質からなる基板いずれも用いることが出来る。無機物質からなる基板としては、ガラス板、シリコン板、アルミ板、ステンレス板、および金、銀、亜鉛、銅等などの金属板、およびITO、酸化錫、アルミナ、酸化チタン、などの金属酸化物を表面に設けた基板なども使用することが出来る。
また高分子基板としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレー卜、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂からなる基板を使用することができる。
これらの高分子基板は、基板上に設けられる親水性凹凸構造部材が反応性基(例えば重合開始剤)を有する場合には、該反応性基との結合性を向上するために、コロナ処理、プラズマ処理などにより、表面に水酸基、カルボキシル基などの官能基が導入されたものであっても良い。
【0012】
(基板上へのパターンの形成・手段)
基板上へ微細な凹凸形状を形成する方法としては、従来公知の種々の方法をいずれも用いることができる。
例えば、物理的に施削加工もしくは研削加工、または集積回路製作に用いられている真空蒸着、リソグラフィー、イオンビーム加工、プラズマ加工などにより形成することが可能であり、レーザー加工または印刷技術によっても形成することができる。温度や温度勾配、化学物質の濃度や濃度勾配、電磁場などの外部因子を制御することにより自然発生させるものとして、電気分解、化学反応、微生物反応などにより固体表面を溶解あるいは腐食させる方法、電気分解や拡散律速凝集などにより固体表面に物質を析出させる方法、微粒子凝集体を固体表面に付着させる方法、互いに非相溶な二種類の物質を混合し相分離を進行させて二つの相が互いに入り組んだ相分離パターンができたときにどちらか片方の物質のみを溶出させる方法、あるいは、アルキルケテンダイマーやジアルキルケトンなどのように温度により結晶相を制御して自然に多段凹凸化するものを利用する方法などがある。特に室温で固化時に自然に多段凹凸化するものは撥水塗料として用いることができる。
特に表面凹凸を形成する方法の一つにフォトリソグラフィー法があげられる。半導体製造に汎用されており、1μmから100μm程度の凹凸を簡便かつ安価に作成できる。
また微粒子含有液塗布法も表面凹凸を形成する方法として、また簡便に用いられる。直径0.01〜100μmのシリカ、ジルコニウム、酸化チタンなどの微粒子を塗布液に分散させて基板上にスピンコート、キャストなどにより塗布して作成することができる。
【0013】
さらに、該基板自体が、大きな周期の凹凸構造Aを機械加工により形成し、それに腐食などの方法により小さい周期の凹凸構造を形成した、いわゆる多段凹凸構造表面であってもよい。前述の各方法を種々組み合わせて多段凹凸構造表面を形成してもよいし、あるいは蓮の葉の表面などの自然界にすでに存在している多段凹凸構造表面から金属やエポキシ樹脂などで金型を作成し、金型そのものあるいはその金型から作成した多段凹凸構造表面のレプリカを用いても形成することができる。
【0014】
基板が有する微細な凹凸形状の形態、具体的には、凸部や凹部の形状、凸部や凹部の幅、凸部の高さ、凹部の深さ、更には、凸部間又は凹部間の距離等は特に限定的でなく、最終的に所望の親水性が得られるように、適宜設定することができる。凸部の形状は、例えば、四角形、三角形、不規則形等いずれでもよい。一般に、凸部の高さは0.05〜100μmの範囲が好ましい。凸部間の距離は、通常0.05〜1000μmの範囲が好ましく、0.5〜100μmの範囲がより好ましい。
【0015】
<親水性凹凸構造部材>
本発明の親水性凹凸構造部材は、上記微細な凹凸形状を有する基板上に、別の構造体として、別の手段により設けられる。これにより、親水性表面部材を独立して設けることができるため、親水性の発現を制御し易く、特に微細な表面凹凸形状を簡易に制御することができる。該親水性構造部材の凹凸形状は、基材表面の凹凸形状より微細であることが好ましく、基材表面の凹凸周期よりも1/50〜1/2の範囲の周期であることが好ましい。
【0016】
表面凹凸形状の制御という観点からは、特に、重合反応を利用した化学的方法により、微細凹凸形状を形成することが好ましい。具体的には、重合性化合物を重合開始剤の存在下で像様に露光することによりパターンを形成させて、容易に微細な凹凸形状を形成することができる。その際に、親水性基を有する重合性化合物を基材表面上に重合させることにより、親水性基を表面グラフトの形で導入することができるため、より親水性が発現され、好ましい。
【0017】
重合性化合物と重合開始剤とは同一の層に含有させてもよいし、二層以上の層に分けて含有させてもよい。特に、重合開始剤を含有する重合開始層を、上記親水性重合性層と分離させて、基板と重合性層との間に設けることにより、基板との密着性を高めることができ、得られる親水性基材の耐久性を向上させることができるため、好ましい。
重合開始層を設ける場合には、該層に含有させる重合開始能を有する化合物として、重合開始能を有する重合性化合物又は重合開始能を有するポリマーを用いることが、重合開始層の強化する上で好ましい。重合開始能を有する重合性化合物を用いる場合には、該化合物を含有する層を基板上に設け、基板上で該化合物を重合させることにより、基板との密着性をより向上させることができる。重合開始能を有するポリマーを用い場合には、該ポリマーに更に架橋性基を含有させ、基板上で架橋反応を起こさせることにより、基板との密着性をより向上させることができる。いずれの場合でも、基板表面をコロナ処理、プラズマ処理などにより、表面に上記化合物との反応する官能基を導入させておくことにより、両者の密着性を更に強固にすることができる。
【0018】
〔開始剤〕
(重合開始能を有する官能基)
重合開始ポリマーを構成する重合開始基を有する共重合成分、または、重合開始能を有する重合性化合物(モノマー成分)としては、以下の重合開始能を有する構造がペンダントされた、ラジカル、アニオン、又はカチオン重合可能な重合性基からなることが好ましい。即ち、この共重合成分は、分子内に、重合可能な重合性基と、重合開始能を有する官能基と、が共に存在する構造を有する。
重合開始能を有する構造としては、(a)芳香族ケトン類、(b)オニウム塩化合物、(c)有機過酸化物、(d)チオ化合物、(e)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(f)ケトオキシムエステル化合物、(g)ボレート化合物、(h)アジニウム化合物、(i)活性エステル化合物、(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物、(k)ピリジウム類化合物等が挙げられる。以下に、上記(a)〜(k)の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
(a)芳香族ケトン類
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(a)芳香族ケトン類としては、「RADIATION CURING IN POLYMER SCIENCE AND TECHNOLOGY」J.P.Fouassier,J.F.Rabek(1993),p77−117記載のベンゾフェノン骨格或いはチオキサントン骨格を有する化合物が挙げられる。例えば、下記化合物が挙げられる。
【0020】
【化1】

【0021】
中でも、特に好ましい(a)芳香族ケトン類の例を以下に列記する。
特公昭47−6416記載のα−チオベンゾフェノン化合物、特公昭47−3981記載のベンゾインエーテル化合物、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0022】
【化2】

【0023】
特公昭47−22326記載のα−置換ベンゾイン化合物、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0024】
【化3】

【0025】
特公昭47−23664記載のベンゾイン誘導体、特開昭57−30704記載のアロイルホスホン酸エステル、特公昭60−26483記載のジアルコキシベンゾフェノン、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0026】
【化4】

【0027】
特公昭60−26403、特開昭62−81345記載のベンゾインエーテル類、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0028】
【化5】

【0029】
特公平1−34242、米国特許第4,318,791号、ヨーロッパ特許0284561A1号記載のα−アミノベンゾフェノン類、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0030】
【化6】

【0031】
特開平2−211452記載のp−ジ(ジメチルアミノベンゾイル)ベンゼン、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0032】
【化7】

【0033】
特開昭61−194062記載のチオ置換芳香族ケトン、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0034】
【化8】

【0035】
特公平2−9597記載のアシルホスフィンスルフィド、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0036】
【化9】

【0037】
特公平2−9596記載のアシルホスフィン、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0038】
【化10】

【0039】
また、特公昭63−61950記載のチオキサントン類、特公昭59−42864記載のクマリン類等を挙げることもできる。
【0040】
(b)オニウム塩化合物
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(b)オニウム塩化合物としては、下記一般式(1)〜(3)で表される化合物が挙げられる。
【0041】
【化11】

【0042】
一般式(1)中、ArとArは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下のアリール基を示す。このアリール基が置換基を有する場合の好ましい置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素原子数12個以下のアルキル基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、又は炭素原子数12個以下のアリールオキシ基が挙げられる。(Zはハロゲンイオン、過塩素酸イオン、カルボン酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンからなる群より選択される対イオンを表し、好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0043】
一般式(2)中、Arは、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下のアリール基を示す。好ましい置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素原子数12個以下のアルキル基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、炭素原子数12個以下のアリールオキシ基、炭素原子数12個以下のアルキルアミノ基、炭素原子数12個以下のジアルキルアミノ基、炭素原子数12個以下のアリールアミノ基又は、炭素原子数12個以下のジアリールアミノ基が挙げられる。(Zは(Zと同義の対イオンを表す。
【0044】
一般式(3)中、R23、R24及びR25は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素原子数12個以下のアルキル基、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、又は炭素原子数12個以下のアリールオキシ基が挙げられる。(Zは(Zと同義の対イオンを表す。
【0045】
本発明において、好適に用いることのできる(b)オニウム塩化合物の具体例としては、特開2001−133969号公報の段落番号[0030]〜[0033]、特開2001−305734号公報の段落番号[0048]〜[0052]、及び、特開2001−343742公報の段落番号[0015]〜[0046]に記載されたものなどを挙げることができる。
【0046】
(c)有機過酸化物
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(c)有機過酸化物としては、分子中に酸素−酸素結合を1個以上有する有機化合物のほとんど全てが含まれるが、その例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−キサノイルパーオキサイド、過酸化こはく酸、過酸化ベンゾイル、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、メタ−トルオイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジメトキシイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシオクタノエート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、ターシャリーカーボネート、3,3’ ,4,4’−テトラ−(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’ ,4,4’−テトラ−(t−アミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’ ,4,4’−テトラ−(t−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’ ,4,4’−テトラ−(t−オクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’ ,4,4’−テトラ−(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’ ,4,4’−テトラ−(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、カルボニルジ(t−ブチルパーオキシ二水素二フタレート)、カルボニルジ(t−ヘキシルパーオキシ二水素二フタレート)等が挙げられる。
【0047】
これらの中でも、3,3’,4,4’−テトラ−(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ−(t−アミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ−(t−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ−(t−オクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ−(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ−(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジ−t−ブチルジパーオキシイソフタレートなどの過酸化エステル系が好ましく用いられる。
【0048】
(d)チオ化合物
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(d)チオ化合物としては、下記一般式(4)で示される構造を有する化合物が挙げられる。
【0049】
【化12】

【0050】
(一般式(4)中、R26はアルキル基、アリール基又は置換アリール基を示し、R27は水素原子又はアルキル基を示す。また、R26とR27は、互いに結合して酸素、硫黄及び窒素原子から選ばれたヘテロ原子を含んでもよい5員ないし7員環を形成するのに必要な非金属原子群を示す。)
上記一般式(4)におけるアルキル基としては炭素原子数1〜4個のものが好ましい。また、アリール基としてはフェニル、ナフチルのような炭素原子数6〜10個のものが好ましく、置換アリール基としては、上記のようなアリール基に塩素原子のようなハロゲン原子、メチル基のようなアルキル基、メトシキ基、エトキシ基のようなアルコキシ基で置換されたものが含まれる。R27は、好ましくは炭素原子数1〜4個のアルキル基である。一般式(4)で示されるチオ化合物の具体例としては、下記に示すような化合物が挙げられる。
【0051】
【表1】

【0052】
(e)ヘキサアリールビイミダゾール化合物
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(e)ヘキサアリールビイミダゾール化合物としては、特公昭45−37377号、特公昭44−86516号記載のロフィンダイマー類、例えば、2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o−ブロモフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o,p−ジクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラ(m−メトキシフェニル)ビイミダゾール、2,2’−ビス(o,o’−ジクロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o−ニトロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o−メチルフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール、2,2’−ビス(o−トリフルオロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビイミダゾール等が挙げられる。
【0053】
(f)ケトオキシムエステル化合物
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(f)ケトオキシムエステル化合物としては、3−ベンゾイロキシイミノブタン−2−オン、3−アセトキシイミノブタン−2−オン、3−プロピオニルオキシイミノブタン−2−オン、2−アセトキシイミノペンタン−3−オン、2−アセトキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンゾイロキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、3−p−トルエンスルホニルオキシイミノブタン−2−オン、2−エトキシカルボニルオキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0054】
(g)ボレート化合物
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(g)ボレート化合物の例としては、下記一般式(5)で表される化合物を挙げることができる。
【0055】
【化13】

【0056】
(一般式(5)中、R28、R29、R30及びR31は互いに同一でも異なっていてもよく、各々置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアリール基、置換若しくは非置換のアルケニル基、置換若しくは非置換のアルキニル基、又は置換若しくは非置換の複素環基を示し、R28、R29、R30及びR31はその2個以上の基が結合して環状構造を形成してもよい。ただし、R28、R29、R30及びR31のうち、少なくとも1つは置換若しくは非置換のアルキル基である。(Zはアルカリ金属カチオン又は第4級アンモニウムカチオンを示す。)
一般式(5)で示される化合物例としては具体的には米国特許3,567,453号、同4,343,891号、ヨーロッパ特許109,772号、同109,773号に記載されている化合物及び以下に示すものが挙げられる。
【0057】
【化14】

【0058】
(h)アジニウム化合物
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(h)アジニウム塩化合物としては、特開昭63−138345号、特開昭63−142345号、特開昭63−142346号、特開昭63−143537号並びに特公昭46−42363号記載のN−O結合を有する化合物群を挙げることができる。
【0059】
(i)活性エステル化合物
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(i)活性エステル化合物としては、特公昭62−6223記載のイミドスルホネート化合物、特公昭63−14340号、特開昭59−174831号記載の活性スルホネート類を挙げることができる。
【0060】
(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(j)炭素ハロゲン結合を有する化合物としては、下記一般式(6)から(12)のものを挙げることができる。
【0061】
【化15】

【0062】
上記一般式(6)で表される化合物。
(一般式(6)中、Xはハロゲン原子を表し、Yは−C(X、−NH、−NHR38、−NR38、−OR38を表す。ここでR38はアルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基を表す。また、R37は−C(X、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、置換アルケニル基を表す。)
【0063】
【化16】

【0064】
上記一般式(7)で表される化合物。
(一般式(7)中、R39は、アルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アリール基、置換アリール基、ハロゲン原子、アルコキシ基、置換アルコキシル基、ニトロ基又はシアノ基であり、Xはハロゲン原子であり、nは1〜3の整数である。)
【0065】
【化17】

【0066】
上記一般式(8)で表される化合物。
(一般式(8)中、R40は、アリール基又は置換アリール基であり、R41は、以下に示す基又はハロゲンであり、Zは−C(=O)−、−C(=S)−又は−SO−である。また、Xはハロゲン原子であり、mは1又は2である。)
【0067】
【化18】

【0068】
(式中、R42、R43はアルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アリール基又は置換アリール基であり、R44は一般式(6)中のR38と同じである。)
【0069】
【化19】

【0070】
上記一般式(9)で表される化合物。
(一般式(9)中、R45は置換されていてもよいアリール基又は複素環式基であり、R46は炭素原子1〜3個を有するトリハロアルキル基又はトリハロアルケニル基であり、pは1、2又は3である。)
【0071】
【化20】

【0072】
上記一般式(10)で表されるトリハロゲノメチル基を有するカルボニルメチレン複素環式化合物。
(一般式(10)中、Lは水素原子又は式:CO−(R47(C(Xの置換基であり、Qはイオウ、セレン又は酸素原子、ジアルキルメチレン基、アルケン−1,2−イレン基、1,2−フェニレン基又はN−R基であり、Mは置換又は非置換のアルキレン基又はアルケニレン基であるか、又は1,2−アリーレン基であり、R48はアルキル基、アラルキル基又はアルコキシアルキル基であり、R47は炭素環式又は複素環式の2価の芳香族基であり、Xは塩素、臭素又はヨウ素原子であり、q=0及びr=1であるか又はq=1及びr=1又は2である。)
【0073】
【化21】

【0074】
上記一般式(11)で表される4−ハロゲノ−5−(ハロゲノメチル−フェニル)−オキサゾール誘導体。
(一般式(11)中、Xはハロゲン原子であり、tは1〜3の整数であり、sは1〜4の整数であり、R49は水素原子又はCH3−t基であり、R50はs価の置換されていてもよい不飽和有機基である)
【0075】
【化22】

【0076】
上記一般式(12)で表される2−(ハロゲノメチル−フェニル)−4−ハロゲノ−オキサゾール誘導体。
(一般式(12)中、Xはハロゲン原子であり、vは1〜3の整数であり、uは1〜4の整数であり、R51は水素原子又はCH3−v基であり、R52はu価の置換されていてもよい不飽和有機基である。)
【0077】
このような炭素−ハロゲン結合を有する化合物の具体例としては、例えば、若林ら著、Bull.Chem.Soc.Japan,42、2924(1969)記載の化合物、例えば、2−フェニル4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2−(p−クロルフェニル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2−(2’,4’−ジクロルフェニル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2,4,6−トリス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2−n−ノニル−4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2−(α,α,β−トリクロルエチル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン等が挙げられる。その他、英国特許1388492号明細書記載の化合物、例えば、2−スチリル−4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2−(p−メチルスチリル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2−(p−メトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−S−トリアジン、2−(p−メトキシスチリル)−4−アミノ−6−トリクロルメチル−S−トリアジン等、特開昭53−133428号記載の化合物、例えば、2−(4−メトキシ−ナフト−1−イル)−4,6−ビス−トリクロルメチル−S−トリアジン、2−(4−エトキシ−ナフト−1−イル)−4,6−ビス−トリクロルメチル−S−トリアジン、2−〔4−(2−エトキシエチル)−ナフト−1−イル〕−4,6−ビス−トリクロルメチル−S−トリアジン、2−(4,7−ジメトキシ−ナフト−1−イル)−4,6−ビス−トリクロルメチル−S−トリアジン)、2−(アセナフト−5−イル)−4,6−ビス−トリクロルメチル−S−トリアジン等、独国特許3337024号明細書記載の化合物、例えば、下記化合物等を挙げることができる。
【0078】
【化23】

【0079】
また、F.C.Schaefer等によるJ.Org.Chem.29、1527(1964)記載の化合物、例えば、2−メチル−4,6−ビス(トリブロムメチル)−S−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロムメチル)−S−トリアジン、2,4,6−トリス(ジブロムメチル)−S−トリアジン、2−アミノ−4−メチル−6−トリブロムメチル−S−トリアジン、2−メトキシ−4−メチル−6−トリクロルメチル−S−トリアジン等を挙げることができる。更に特開昭62−58241号記載の、例えば、下記化合物等を挙げることができる。
【0080】
【化24】

【0081】
更に、特開平5−281728号記載の、例えば、下記化合物等を挙げることができる。
【0082】
【化25】

【0083】
或いは更に、M.P.Hutt、E.F.Elslager及びL.M.Herbel著「Journalof Heterocyclic chemistry」第7巻(No.3)、第511頁以降(1970年)に記載されている合成方法に準じて、当業者が容易に合成することができる次のような化合物群、例えば、下記化合物等を挙げることができる。
【0084】
【化26】

【0085】
(k)ピリジウム類化合物
本発明において、重合開始能を有する構造として好ましい(k)ピリジウム類化合物の例としては、下記一般式(13)で表される化合物を挙げることができる。
【0086】
【化27】

【0087】
(一般式(13)中、好ましくは、Rは水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、又は置換アルキニル基を表し、R、R、R、R、R10は同一であっても異なるものであってもよく、水素原子、ハロゲン原子又は一価の有機残基を表し、少なくとも一つは、下記一般式(14)で表される構造の基を有する。また、RとR、RとR10、RとR、RとR、RとR、RとR10が互いに結合して環を形成してもよい。更に、Xは対アニオンを表す。mは1〜4の整数を表す。)
【0088】
【化28】

【0089】
(一般式(14)中、R12、R13はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基又は置換アルキニル基を表し、R11は水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基、置換アルキニル基、ヒドロキシル基、置換オキシ基、メルカプト基、置換チオ基、アミノ基又は置換アミノ基を表す。また、R12とR13、R11とR12、R11とR13が互いに結合して環を形成してもよい。Lはヘテロ原子を含む2価の連結基を表す。)
【0090】
以下に、一般式(13)で表される化合物の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
【表4】

【0094】
【化29】

【0095】
【化30】

【0096】
【表5】

【0097】
【表6】

【0098】
【表7】

【0099】
【表8】

【0100】
【表9】

【0101】
これらの重合開始能を有する構造の中でも、下記に示す構造を有する芳香族ケトン類やトリアジン類が重合性基にペンダントされていることが好ましい。
【0102】
【化31】

【0103】
また、このような重合開始能を有する構造は、1種のみが重合性基にペンダントされていてもよいし、2種以上がペンダントされていてもよい。
【0104】
これらの重合開始能を有する構造をペンダントする重合性基としては、アクリル基、メタクリル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニル基などラジカル、アニオン、カチオン重合できる重合性基が挙げられる。中でも、特に好ましいのは合成のし易さよりアクリル基、メタクリル基が好ましい。
【0105】
本発明における重合開始能を有する官能基を有する共重合成分の具体例としては、以下に示す構造のモノマーが挙げられる。
【0106】
【化32】

【0107】
(光照射)
工程において、グラフト重合反応を生起させるための露光に用いる活性エネルギー線としては、基材表面に残存する光重合開始部位が該エネルギーを吸収して活性点を生成させうる波長であれば特に制限はないが、具体的には、波長200〜800nm、好ましくは、300〜600nmの紫外線及び可視光線が望ましい。
露光光源としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、ハロゲンランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー、色素レーザー、YAGレーザー、太陽光等が挙げられる。露光エネルギーとしては、10mJ/m3〜10000J/m3程度が好ましい。
【0108】
(反応溶媒)
本発明においてグラフト重合反応は無溶媒、即ち溶媒を用いることなくモノマー単独で行なってもよく、また、各種の溶媒中で行ってもよい。重合反応に用い得る溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒、および水、等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を混合して用いることができる。溶媒を用いるグラフト重合反応は、一般的には、溶媒中にモノマーを添加し、必要に応じて触媒を添加した後、該溶媒中に開始剤を固定化してなる基板を浸漬し、所定時間反応させることにより、行なわれる。また、無溶媒でのグラフト重合反応は、一般的には、室温下若しくは100℃までの加熱状態で行なわれる。
【0109】
<親水性表面の作成>
本発明では、表面凹凸構造部材に親水性をもたせるために、親水性基を有する化合物を含有させることが好ましい。ここで、該構造部材への凹凸形状の付与に重合反応を利用する場合には、親水性基を有する化合物が更に重合性基を有することが好ましい。
以下、親水性基を有する化合物が重合性基を併せ持つ場合(モノマー)について、詳述する。
【0110】
親水性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、イタコン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アリルアミン若しくはそのハロゲン化水素酸塩、3−ビニルプロピオン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、ビニルスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基若しくはそれらの塩、水酸基、アミド基及びエーテル基などの親水性基を有するモノマーが挙げられる。親水性層を構成するラジカル重合性基含有親水性ポリマーとしては、これらの親水性モノマーから選ばれる少なくとも一種を用いて得られる親水性ホモポリマー若しくはコポリマーが挙げられる。
【0111】
ラジカル重合性基含有親水性ポリマーは、(a)親水性モノマーとエチレン付加重合性不飽和基を有するモノマーを共重合する方法、(b)親水性モノマーと二重結合前駆体を有するモノマーを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、(c)親水性ポリマーの官能基とエチレン付加重合性不飽和基を有するモノマーとを反応させる方法により合成することができ、これらの中でも、合成適性の観点から、親水性ポリマーの官能基とエチレン付加重合性不飽和基を有するモノマーとを反応させる方法が好ましい。
【0112】
(a)の方法でラジカル重合性基含有親水性ポリマーを合成する際、親水性モノマーと共重合するエチレン付加重合性不飽和基を有するモノマーとしては、例えば、アリル基含有モノマーがあり、具体的には、アリル(メタ)アクリレート、2−アリルオキシエチルメタクリレートが挙げられる。
また、(b)の方法でラジカル重合性基含有親水性ポリマーを合成する際、親水性モノマーと共重合する二重結合前駆体を有するモノマーとしては、2−(3−クロロ−1−オキソプロポキシ)エチルメタクリレー卜が挙げられる。
【0113】
更に、(c)の方法でラジカル重合性基含有親水性ポリマーを合成する際、親水性ポリマー中のカルボキシル基、アミノ基若しくはそれらの塩と、水酸基及びエポキシ基などの官能基と、の反応を利用して不飽和基を導入するために用いられる付加重合性不飽和基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルユーテル、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレートなど挙げられる。
【0114】
また、上層に含まれるラジカル重合性基含有親水性ポリマーが、親水性マクロモノマーであってもよい。本発明において用いられるマクロモノマーの製造方法は、例えば、平成1年9月20日にアイピーシー出版局発行の「マクロモノマーの化学と工業」(編集者 山下雄也)の第2章「マクロモノマーの合成」に各種の製法が提案されている。
【0115】
本発明で用いられる親水性マクロモノマーで特に有用なものとしては、アクリル酸、メタクリル酸などのカルホキシル基含有のモノマーから誘導されるマクロモノマー、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスチレンスルホン酸、及びその塩のモノマーから誘導されるスルホン酸系マクロモノマー、(メタ)アクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルカルボン酸アミドモノマーから誘導されるアミド系マクロモノマー、ヒドロキシエチルメタクリレー卜、ヒドロキシエチルアクリレート、グリセロールモノメタクリレートなどの水酸基含有モノマーから誘導されるマクロモノマー、メトキシエチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレートなどのアルコキシ基若しくはエチレンオキシド基含有モノマーから誘導されるマクロモノマーである。またポリエチレングリコール鎖若しくはポリプロピレングリコール鎖を有するモノマーも本発明のマクロモノマーとして有用に使用することができる。
【0116】
これらの親水性マクロモノマーのうち有用なものの分子量は、250〜10万の範囲で、特に好ましい範囲は400〜3万である。
【0117】
また、上層の形成にあたって、上記ラジカル重合性基含有親水性ポリマーの他に、更に、親水性モノマーを添加してもよい。親水性モノマーを添加することにより、重合開始層と結合したラジカル重合性基含有親水性ポリマー(グラフト鎖)の側鎖の重合性基に、更に親水性グラフト鎖が結合することで、枝分かれ構造を有するグラフト鎖が形成される。これにより、運動性が高い親水性グラフトの形成密度、運動性ともに飛躍的に向上するため、更なる高い親水性が発現するものである。
この親水性モノマーの添加量は上層の全固形分に対し、0〜60重量%が好ましい。60重量%以上では塗布性が悪く均一に塗布できないので不適である。
【0118】
(他の親水性モノマー)
上層を形成する際、ラジカル重合性基含有親水性ポリマーと併用するのに有用な、親水性モノマーとしては、アンモニウム、ホスホニウムなどの正の荷電を有するモノマー、若しくは、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基などの負の荷電を有するか負の荷電に解離しうる酸性基を有するモノマーが挙げられるが、その他にも、例えば、水酸基、アミド基、スルホンアミド基、アルコキシ基、シアノ基などの非イオン性の基を有する親水性モノマーを用いることもできる。
【0119】
本発明において、ラジカル重合性基含有親水性ポリマーとの併用に、特に有用な親水性モノマーの具体例としては、次のモノマーを挙げることができる。
例えば、(メタ)アクリル酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、イタコン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン酸塩、アリルアミン若しくはそのハロゲン化水素酸塩、3−ビニルプロピオン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、ビニルスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、ビニルスチレンスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−スルホエチレン(メタ)アクリレート、3―スルホプロピレン(メタ)アクリレー卜若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、アシッドホスホオキシポリオキンエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリルアミン若しくはそのハロゲン化水素酸塩等の、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸、アミノ基若しくはそれらの塩、2−トリメチルアミノエチル(メタ)アクリレート若しくはそのハロゲン化水素酸塩等の、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸、アミノ基若しくはそれらの塩、などを使用することができる。また2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N―ジメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルアセトアミド、アリルアミン若しくはそのハロゲン化水素酸塩、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N−メタクリロイルオキシエナルカルバミン酸アスパラギン酸の如き分子中にアミノ酸骨格を有するモノマー、グリコキシエチルメタクリレートの如き分子中に糖骨格を有するモノマーなども有用である。
【0120】
(その他のモノマー)
本発明の親水性の官能基と重合性不飽和二重結合を側鎖に有する高分子化合物は構成要素として親水性基、および重合性不飽和二重結合基の他にも他のモノマーが共重合されていても良い。これらのモノマーは本発明の高分子化合物の溶剤溶解性などを上げるのに使用される。このような目的で使用されるモノマーとしては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸メチルエステル、(メタ)アクリル酸ブチルエステル、(メタ)アクリル酸メトキシエチルエステル、などのアクリル酸エステルを使用することができる。
【0121】
親水性の官能基と重合性不飽和二重結合を側鎖に有する高分子化合物の分子量としては1000〜100万の範囲であり、とくに5000〜10万の範囲が好ましい。この分子量の範囲の特定親水性ポリマーを用いることで、優れた親水性が実現され、且つ、基材表面に接触させる際などの溶剤の溶解性に優れ、取り扱い性も良好となる。
【0122】
本発明においては、微細な凹凸形状を有する基板上に、重合開始能及び重合能を有する親水性層を形成し、画像様にパターン露光することにより微細な凹凸表面を有する親水性凹凸構造部材を形成することが好ましい。表面凹凸構造部材におけるパターン形状については特に限定的ではなく、円形、三角形、四角形、またはそれ以外の多角形も用いることができる。通常の半導体製造で用いられるフォトマスクを用いてできる形状が作業性の点から好ましい。
【0123】
更に、重合開始能を有する層と重合能を有する親水性層とを分けて設定する場合には、下記の二種の方法を用いることができる。
(1)側鎖に重合開始能を有するポリマーを含有する塗布液を基板上に塗布などにより配置し、成膜させて重合開始層を得る。その際に、該ポリマーに架橋性基を含有する場合には、架橋反応を進行させてより強固に成膜することができる。
かかる重合開始層上に、表面グラフト重合と呼ばれる手段により、重合性基を有する親水性化合物を直接結合させることにより、親水性層を作成する。本発明においては、微細凹凸形状を形成させるため、上記重合開始層上に、重合性基を有する親水性化合物を含有する層を設けた後、該重合開始層を構成する重合開始ポリマーに活性種を与えるためのエネルギーを画像様に付与する。これにより重合開始層中の重合開始基を画像様に活性化させ、その活性種に重合性基を有する親水性化合物を結合(グラフト重合)させ、重合終了後、表面に残存するモノマーを洗浄等により除去することにより、本発明の親水性の凹凸構成部材を形成することができる。
【0124】
(2)基板上に、重合開始剤と重合性不飽和結合を有する化合物とを含む層を形成し、該層を画像様に露光して、硬化部と未硬化部を形成した後、未硬化部を現像により除去し、未反応の重合開始剤を含む画像用の重合開始層を設ける。該重合開始層に、重合性基を有する親水性化合物を接触させ、光を照射することにより、該重合開始層表面にグラフトポリマーを生成させて、親水性を有するグラフトポリマーの生成領域と非生成領域とをつくることによって、結果的に表面凹凸構造部材を形成することができる。
【実施例】
【0125】
以下、本発明の実施例により例証するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0126】
実施例1
Si基板上に半導体製造で用いているフォトリソグラフィーを用いて、幅2μm、深さ5μm、ライン間隔5μmのストライプパターンを形成した。
作成した基板表面にグラフトポリマー層を下記の「1.光ラジカル発生剤結合工程」と「2.グラフトポリマー形成工程」により形成した。
【0127】
1.光ラジカル発生剤結合工程
シリコン基板をアセトンで洗浄した後、UVオゾンクリーナー(日本レーザー電子株式会社製 NL−UV253)に5分間曝した。この基板上に1質量%の1−ベンゾイル−1−(11−トリクロロシリルウンデシルオキシ)シクロヘキサンの脱水トルエン溶液をスピナーで塗布し、100℃で1分間乾燥した。その後、トルエン、アセトン、純水で順に洗浄した。
【0128】
2.グラフトポリマー形成工程
作成した光ラジカル発生剤結合シリコン基板上に、5質量%のHEMA(ヒドロキシエチルメチルメタクリレート)の水溶液の薄膜を重畳し石英板で挟み込み、その上に幅5μm、ライン間隔10μmのストライプのパターンマスクをフォトリソグラフィーで生成したラインと垂直になるように載せてXUV露光装置UVX−02516S1LP01(高圧水銀灯、USHIO製)で5分間露光し、アセトン中に一時間浸漬した後、アセトンで洗浄して表面に残存するモノマーを除去後、乾燥させた。
【0129】
上記の通りにして得た基材表面の接触角を測定した(データフィジックス社製、OCA20)。接触角は15°未満であった。また屋外に2週間放置の耐久性試験の後、接触角を再度測定したところ15°未満であった。
【0130】
実施例2
実施例1において、フォトリソグラフィーを用いて幅2μm、深さ5μm、ライン間隔5μmのストライプパターンを形成した代わりに、フォトリソグラフィーを用いて幅2μm、深さ10μm、ライン間隔5μmのストライプパターンを形成した以外は、実施例1と同様にして、基材を作成した。得られた基材表面の接触角は15°未満であった。また耐久性試験の後、接触角を再度測定したところ15°未満であった。
【0131】
実施例3
実施例1において、幅5μm、ライン間隔10μmのストライプのパターンマスクの代わりに、幅5μm、ライン間隔15μmのストライプのパターンマスクを用いた以外は、実施例1と同様にして、基材を作成した。得られた基材表面の接触角は15°未満であった。また耐久性試験の後、接触角を再度測定したところ15°未満であった。
【0132】
比較例1
フォトリソグラフィーを用いたストライプパターンの形成を行わなかった以外は実施例1と同様にして、基材を作成した。得られた基材表面の接触角は20°であった。また耐久性試験の後、接触角を再度測定したところ40°未満であった。
【0133】
実施例4
5質量%のトリエトキシシランのメタノール液中に1質量%のシリカ微粒子を懸濁させた懸濁液を、ガラス基板上にスピンコートにより膜厚1.0μmで塗布し、120℃で1時間乾燥させた。
作成した上記基板表面にグラフトポリマー層を下記の「1.光ラジカル発生剤結合工程」と「2.グラフトポリマー形成工程」により形成した。
【0134】
1.光ラジカル発生剤結合工程
基板上に1質量%の1−ベンゾイル−1−(11−トリクロロシリルウンデシルオキシ)シクロヘキサンの脱水トルエン溶液をスピナーで塗布し、100℃で1分間乾燥した。その後、トルエン、アセトン、純水で順に洗浄した。
【0135】
2.グラフトポリマー形成工程
作成した光ラジカル発生剤結合基板上に、5質量%のHEMA(ヒドロキシエチルメチルメタクリレート)の水溶液の薄膜を重畳し石英板で挟み込み、その上に幅5μm、ライン間隔10μmのストライプのパターンマスクを載せてXUV露光装置UVX−02516S1LP01(高圧水銀灯、USHIO製)で5分間露光し、アセトン中に一時間浸漬した後、アセトン、純水で洗浄して表面に残存するモノマーを除去後、乾燥させた。
【0136】
上記の通りにして得た基材表面の接触角を測定した(データフィジックス社製、OCA20)。基材表面の接触角は15°未満であった。また屋外に2週間放置の耐久性試験の後、接触角を再度測定したところ15°未満であった。
【0137】
実施例5
実施例4において、スピンコートにより膜厚1.0μmで塗布した代わりに、スピンコートにより膜厚0.8μmで塗布した以外は、実施例4と同様にして、基材を作成した。得られた基材表面の接触角は15°未満であった。また耐久性試験の後、接触角を再度測定したところ15°未満であった。
【0138】
実施例6
実施例4において、幅5μm、ライン間隔10μmのストライプのパターンマスクの代わりに、幅5μm、ライン間隔15μmのストライプのパターンマスクを用いた以外は、実施例4と同様にして、基材を作成した。得られた基材表面の接触角は15°未満であった。また耐久性試験の後、接触角を再度測定したところ15°未満であった。
【0139】
比較例3
スピンコートによる膜厚1.0μmの塗布を行わなかった以外は実施例4と同様にして、基材を作成した。得られた基材表面の接触角は22°であった。また耐久性試験の後、接触角を再度測定したところ25°であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細な凹凸形状を有する基板の上に、更に別の微細な凹凸表面を有する親水性凹凸構造部材を有することを特徴とする親水性基材。
【請求項2】
上記親水性凹凸構造部材が、重合反応を利用して凹凸表面が形成されたものである請求項1記載の親水性基材。
【請求項3】
上記親水性凹凸構造部材が、重合開始能を有する化合物を含有する重合開始層と、該重合開始層に、重合性基を含有する化合物が直接結合してなる親水性層とからなることを特徴とする請求項2記載の親水性基材。
【請求項4】
該基板の少なくとも一つの微細な凹凸形状が、フォトリソグラフィーにより形成されたものである、請求項1〜3のいずれかに記載の親水性基材。
【請求項5】
該基板の少なくとも一つの微細な凹凸形状が、微粒子を含有する塗布層により形成されたものである、請求項1〜3のいずれかに記載の親水性基材。
【請求項6】
微細な凹凸形状を有する基板上に、重合開始能及び重合能を有する親水性層を形成し、画像様に露光することにより微細な凹凸表面を有する親水性凹凸構造部材を形成することを特徴とする請求項1又は2記載の親水性基材の製造方法。
【請求項7】
微細な凹凸形状を有する基板上に、重合開始能を有する層及び重合能を有する親水性層を形成し、画像様に露光することにより微細な凹凸表面を有する親水性凹凸構造部材を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の親水性基材の製造方法。

【公開番号】特開2007−106966(P2007−106966A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302020(P2005−302020)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】