説明

超電導線材の修復方法及び修復構造を有する超電導線材

【課題】本発明は、超電導線材の修復方法、及び、密着不良箇所が修復された超電導線材を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、超電導積層体1と、該超電導積層体1の表面18aに、ハンダ層3を介して接合された安定化層2とを有する超電導線材Aについて、安定化層2の密着不良箇所を修復するに際し、密着不良箇所のハンダ層3を、エッチング液を用いて選択的に除去し、密着不良箇所の安定化層2を、超電導積層体1の表面18aから剥離する工程と、超電導積層体1の表面18aから剥離した安定化層2を、超電導線材Aから除去する工程と、安定化層2及びハンダ層3の前記各工程で除去された欠損部22に、金属微粒子41を含有する導電性ペースト4を供給し、焼成することによって、欠損部22を金属微粒子41の焼結体43によって補填する工程とによって安定化層2の密着不良箇所21を修復する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化層を有する超電導線材について、安定化層の密着不良箇所を修復する超電導線材の修復方法及び修復構造を有する超電導線材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年になって発見されたRE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−X:REは希土類元素)は、液体窒素温度以上で超電導性を示すことから実用上極めて有望な素材とされており、これを線材に加工して電力供給用の導体として用いることが強く要望されている。中でも、Y系酸化物超電導体(YBaCu7−X)を用いた超電導線材は、外部磁界に対して強く、強磁界内でも高い電流密度を維持することができるなどの優れた特徴を有しているため、コイル用超電導導体あるいは電力送電用超電導導体などとしての利用が期待されている。
【0003】
ところで、超電導線材では、事故電流のバイパスなどを目的として超電導層上に銀などの良導電性を有する金属材料からなる安定化層を設け、超電導層が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたとき、超電導層の電流を安定化層に転流できるような構成とされている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、図9に示す如く、銀の安定化層上にはんだを介して安価な銅の安定化層を設けた構造の超電導線材が知られている。(特許文献2参照)この従来の超電導線材100は、基板101上に、中間層102、キャップ層103、超電導層104、保護層105がこの順に設けられ、該保護層105の表面に金属製の安定化層106が設けられ、全体が絶縁被覆20により覆われている。
ここで例えば、安定化層106は、良導電性を有する銅などの金属層からなり、例えばハンダ付きの銅の金属テープを銀からなる保護層105の表面(安定化層形成面)105aに貼り合わせることで形成されている。
【0005】
このような安定化層106を、事故電流を転流させるバイパスとして確実に機能させるためには、安定化層106に、線材に供給される電流に見合った厚みをもたせることが必要となる。例えば500A以上の電流が供給される超電導線材では、安定化層106は0.2mm以上の厚みが必要となる場合がある。この場合、安定化層106をメッキによって形成しようとすると成膜時間がかかって実用的でない。このため、大電流が供給される超電導線材100では、安定化層106はハンダメッキ付きの金属テープを貼り合わせる方法で形成するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−236652号公報
【特許文献2】特開2008−60074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ハンダメッキ付き金属テープを貼り合わせる方法では、貼り合わせに際して行う加熱条件、加圧条件の変動等によって、安定化層106が安定化層形成面105aに対して十分に密着していない密着不良箇所が生じることがある。安定化層106の密着不良箇所は、超電導層104が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたときに、超電導層104の電流を安定化層106に転流する際の支障になるおそれを有するため、超電導層104への負荷の原因となり得る問題がある。このため、このような密着不良箇所を有する超電導線材100は、現状では特に有効な補修方法が見あたらないので、不良品として排除するしかなく、生産効率の低下およびコスト高を招く結果となっている。
【0008】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、安定化層の密着不良箇所を、超電導層に対する損傷を抑えつつ密着性良く修復することができる超電導線材の修復方法を提供することを目的とする。
本発明は、安定化層の密着不良箇所が密着性良く修復されており、良好な超電導特性が得られるとともに、超電導層が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたとき、超電導層の電流を安定化層に確実に転流することができる構成の超電導線材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために以下の構成を有する。
本発明は、基材上に、少なくとも超電導層が設けられてなる超電導積層体と、該超電導積層体の前記基材と反対側の表面に、導電性接合材を介して接合された安定化層とを有する超電導線材について、前記超電導積層体の表面に対して前記安定化層の密着性が低い密着不良箇所を修復する超電導線材の修復方法であって、前記密着不良箇所付近の導電性接合材を、エッチング液を用いて選択的に除去し、前記密着不良箇所の前記安定化層を、前記超電導積層体の表面から剥離する工程と、前記超電導積層体の表面から剥離した前記安定化層を、前記超電導線材から除去する工程と、前記導電性接合材および前記安定化層の前記各工程で除去された欠損部に、金属微粒子を含有する導電性ペーストを供給し、焼成することによって、前記欠損部を前記金属微粒子の焼結体によって補填する工程とを有することを特徴とする。
本発明において、前記導電性ペーストは、銀微粒子と界面活性剤とを含有するものを使用することができる。
【0010】
また、本発明は、基材上に、少なくとも超電導層が設けられてなる超電導積層体と、該超電導積層体の前記基材と反対側の表面に、導電性接合材を介して接合された安定化層とを有する超電導線材について、前記超電導積層体の表面に対して前記安定化層の密着性が低い密着不良箇所を修復する超電導線材の修復方法であって、前記密着不良箇所付近の導電性接合材を、エッチング液を用いて選択的に除去し、前記密着不良箇所の前記安定化層を前記超電導積層体の表面から剥離する工程と、前記超電導積層体の表面と、該表面から剥離した前記安定化層との隙間に、溶融状態のハンダを供給して固化し、前記超電導積層体の表面と、該表面から剥離した前記安定化層とをハンダを介して接着する工程とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明において、前記エッチング液は、無機酸と、有機酸塩を含む無機酸の水溶液との混合エッチング液であることが好ましい。
本発明において、エッチング液により選択的に除去する際のエッチング液の温度は、80℃以上であることが好ましい。
【0012】
本発明は、基材上に、少なくとも超電導層が設けられてなる超電導積層体と、該超電導積層体の前記基材と反対側の表面に、導電性接合材を介して接着された金属材料製の安定化層とを有する超電導線材であって、前記安定化層は、その一部が金属微粒子の焼結体によって構成されている修復構造を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の超電導線材の修復方法によれば、超電導層を有する超電導積層体と、超電導積層体の表面に、導電性接合材を介して接合された安定化層とを有する超電導線材について、安定化層の密着不良箇所を修復するに際し、まず、密着不良箇所付近の導電性接合材を、エッチング液を用いて選択的に除去することによって、密着不良箇所の安定化層を超電導積層体の表面から剥離し、その後、剥離した安定化層を除去する。このため、例えば、密着不良箇所の安定化層を直接機械的に除去する場合に比べ、超電導層の損傷を抑えつつ、密着不良箇所の安定化層を容易且つ確実に除去することができる。
【0014】
本発明の超電導線材の修復方法では、導電性接合材および安定化層の前記工程で除去された欠損部に、金属微粒子を含有する導電性ペーストを供給し、焼成することによって、欠損部を金属微粒子の焼結体によって補填する。
このようにして欠損部に補填された金属微粒子の焼結体は、隣り合う各金属微粒子同士が各界面で接合しており、優れた導電性を有する。また、この金属微粒子の焼結体は、超電導積層体の表面、及び、欠損部周囲の導電性接合材及び安定化層の各端面と密着性良く接合しており、これら各部と電気的に接続している。このため、修復された超電導線材では、金属微粒子で補填された部分が安定化層の一部として良好に機能し、超電導層が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたとき、超電導層の電流が安定化層に確実に転流し、超電導層の特性劣化や焼損を抑止することができる。
【0015】
また、本発明の超電導線材の修復方法では、超電導積層体の表面と、該表面から剥離した安定化層との隙間に、溶融状態のハンダを供給し、固化することで、超電導積層体の表面と、該表面から剥離した安定化層とを接着する。このため、安定化層の密着不良箇所であった部分も、超電導積層体の表面にハンダを介して密着性良く接合され、電気的に接続される。このため、補修された超電導線材では、安定化層の密着不良箇所であった部分も安定化層の一部として良好に機能し、事故電流によって超電導層が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたとき、超電導層の電流が安定化層に確実に転流し、超電導層の特性劣化や損傷を抑止することができる。
【0016】
さらに、本発明の各超電導線材の修復方法によれば、このように安定化層の密着不良箇所を修復して、安定化層の機能を回復させることができるので、密着不良箇所を有する超電導線材を再利用することが可能となり、超電導線材の生産効率の向上および低コスト化に貢献することができる。
【0017】
また、本発明の超電導線材は、安定化層の一部に、金属微粒子の焼結体によって構成された修復構造を有しており、安定化層の密着不良箇所がこの修復構造によって修復されている。金属微粒子の焼結体は、前述のように優れた導電性を有し、また、超電導積層体の表面、及び、その周囲の導電性接合材及び安定化層の各端面と良好な密着性でもって接合しており、これら各部と電気的に接続している。このため、修復された超電導線材では、修復構造が安定化層の一部として良好に機能し、超電導層が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたとき、超電導層の電流が安定化層に確実に転流し、超電導層の特性劣化や損傷を抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る超電導線材の修復方法によって修復される超電導線材の一例を示す模式的な斜視図。
【図2】同超電導線材の密着不良箇所を示す概略縦断面図。
【図3】第1実施形態の超電導線材の修復方法において、ハンダ層除去工程を示す概略縦断面図。
【図4】第1実施形態の超電導線材の修復方法において、安定化層除去工程を示す概略縦断面図。
【図5】第1実施形態の超電導線材の修復方法において、導電性ペースト供給工程を示す概略縦断面図。
【図6】第1実施形態の超電導線材の修復方法において、導電性ペースト焼成工程を示す概略縦断面図。
【図7】第2実施形態の超電導線材の修復方法において、溶融ハンダ供給工程を示す概略縦断面図。
【図8】第2実施形態の超電導線材の修復方法において、ハンダ固化工程を示す概略縦断面図。
【図9】従来の超電導線材の一例を示す概略縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る超電導線材の修復方法及び修復構造を有する超電導線材の一実施形態について図面に基づいて説明する。
まず、本発明の修復方法によって修復される超電導線材の一構造例について説明する。
図1は、本発明の修復方法によって修復される超電導線材の一例を模式的に示す概略斜視図である。
図1に示す超電導線材Aは、テープ状の基材11の上に、ベッド層12、中間層15、キャップ層16、酸化物超電導層17及び安定化基層18がこの順に積層されて構成された超電導積層体1と、該超電導積層体1の表面18aに、ハンダ層3を介して接着された安定化層2とによって概略構成されている。なお、超電導線材Aの構造においてベッド層12は略することもできる。
【0020】
超電導線材Aに適用できる基材11は、通常の超電導線材の基材として使用でき、高強度であれば良く、長尺のケーブルとするためにテープ状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。例えば、銀、白金、ステンレス鋼、銅、ハステロイ等のニッケル合金等の各種金属材料、もしくはこれら各種金属材料上にセラミックスを配したもの、等が挙げられる。各種耐熱性の金属の中でも、ニッケル合金が好ましい。なかでも、市販品であれば、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)が好適であり、ハステロイとして、モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。基材11の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmの範囲とすることができる。
【0021】
ベッド層12は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層12は、必要に応じて配され、例えば、イットリア(Y)などの希土類酸化物であり、組成式(α2x(β(1−x)で示されるものが例示できる。より具体的には、Er、CeO、Dy、Er、Eu、Ho、La等を例示することができる。このベッド層12は、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜100nmである。
なお、ベッド層12と基材11との間には拡散防止層を設けることもできる。拡散防止層11は、基材11の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)、あるいは、GZO(GdZr)等から構成され、その厚さは例えば10〜400nmである。
【0022】
中間層15は、単層構造あるいは複層構造のいずれでも良く、その上に積層される酸化物超電導層17の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から選択される。中間層15の好ましい材質として具体的には、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物を例示することができる。
この中間層15をIBAD法により良好な結晶配向性(例えば結晶配向度15゜以下)で成膜するならば、その上に形成するキャップ層16の結晶配向性を良好な値(例えば結晶配向度5゜前後)とすることができ、これによりキャップ層16の上に成膜する酸化物超電導層17の結晶配向性を良好なものとして優れた超電導特性を発揮できるようにすることができる。
【0023】
中間層15の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、5nm〜2000nmの範囲とすることができる。
中間層15は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と略記する)、化学気相成長法(CVD法)等の物理的蒸着法;熱塗布分解法(MOD法);溶射等、酸化物薄膜を形成する公知の方法で積層できる。特に、IBAD法で形成された前記金属酸化物層は、結晶配向性が高く、酸化物超電導層17やキャップ層の結晶配向性を制御する効果が高い点で好ましい。IBAD法とは、蒸着時に、下地の蒸着面に対して所定の角度でイオンビームを照射することにより、結晶軸を配向させる方法である。通常は、イオンビームとして、アルゴン(Ar)イオンビームを使用する。例えば、GdZr、MgO又はZrO−Y(YSZ)からなる中間層15は、IBAD法における結晶配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
【0024】
キャップ層16は、前記中間層15の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。このようなキャップ層は、前記金属酸化物層からなる中間層15よりも高い面内配向度が得られる。
キャップ層の材質は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等が例示できる。キャップ層の材質がCeOである場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
【0025】
このCeO層は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができるが、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが望ましい。PLD法によるCeO層の成膜条件としては、基材温度約500〜1000℃、約0.6〜100Paの酸素ガス雰囲気中で行うことができる。
CeO層の膜厚は、50nm以上であればよいが、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましく、500nm以上であれば更に好ましい。但し、厚すぎると結晶配向性が悪くなるので、500〜1000nmとすることが好ましい。
【0026】
酸化物超電導層17は公知のもので良く、具体的には、REBaCu(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のものを例示できる。この酸化物超電導層17として、Y123(YBaCu7−X)又はGd123(GdBaCu7−X)などを例示することができる。
酸化物超電導層17は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相成長法(CVD法)等の物理的蒸着法;熱塗布分解法(MOD法)等で積層することができ、なかでも生産性の観点から、TFA−MOD法(トリフルオロ酢酸塩を用いた有機金属堆積法、塗布熱分解法)、PLD法又はCVD法を用いることが好ましい。
このMOD法は、金属有機酸塩を塗布後熱分解させるもので、金属成分の有機化合物を均一に溶解した溶液を基材上に塗布した後、これを加熱して熱分解させることにより基材上に薄膜を形成する方法であり、真空プロセスを必要とせず、低コストで高速成膜が可能であるため長尺のテープ状酸化物超電導導体の製造に適している。
【0027】
ここで前述のように、良好な配向性を有するキャップ層16上に酸化物超電導層17を形成すると、このキャップ層16上に積層される酸化物超電導層17もキャップ層16の配向性に整合するように結晶化する。よって前記キャップ層16上に形成された酸化物超電導層17は、結晶配向性に乱れが殆どなく、この酸化物超電導層17を構成する結晶粒の1つ1つにおいては、金属基材11の厚さ方向に電気を流しにくいc軸が配向し、金属基材11の長さ方向にa軸どうしあるいはb軸どうしが配向している。従って得られた酸化物超電導層16は、結晶粒界における量子的結合性に優れ、結晶粒界における超電導特性の劣化が殆どないので、金属基材2の長さ方向に電気を流し易くなり、十分に高い臨界電流密度が得られる。
【0028】
酸化物超電導層17の上に積層されている安定化基層18はAgなどの良電導性かつ酸化物超電導層17と接触抵抗が低くなじみの良い金属材料からなる層として形成される。
ここで、本実施形態では、以上に説明した基材11、ベッド層12、中間層15、キャップ層16、酸化物超電導体層17及び安定化基層18が、超電導積層体1を構成する。
安定化層2は、良導電性の金属材料からなり、超電導線材Aに臨界電流を越える事故電流などが供給されて超電導層Aが超電導状態から常電導状態に遷移しとうとしたときに、安定化基層18とともに、酸化物超電導層17の電流が転流するバイパスとして機能する。これにより、事故電流による酸化物超電導層17の特性劣化や損傷が防止される。
【0029】
安定化層2を構成する金属材料としては、良導電性を有するものであればよく、特に限定されないが、比較的安価で導電率の高い金属材料を用いるのが好ましい。安定化層2は、前述のように事故電流発生時に酸化物超電導層17の電流が転流するバイパスとして機能するため、特に大電流が供給される超電導線材Aでは比較的厚く形成することが求められる。ここで、安定化層2の構成材料として、銅などの比較的安価な良導電性金属材料を用いることにより、材料コストを低く抑えながら安定化層2を厚膜化することが可能となり、事故電流に耐える超電導線材Aを安価に得ることができる。
【0030】
そして、この実施形態の超電導線材Aでは、安定化層2は、良導電性の金属層を有する金属テープと、該金属層上に設けられたハンダ層(導電性接合材)3とを有するハンダ付き金属テープを、ハンダ層3表面が安定化基層18の表面18a(超電導積層体1の表面18a)と接触するように、超電導積層体1上に重ね合わせ、加圧状態で、ハンダ層を加熱溶融させ、その後、固化させることによって形成されている。すなわち、安定化層2は、ハンダ層3を介して安定化基層18の表面18aに接着形成されている。
ここで、このようにして形成された安定化層2は、安定化基層18の表面18aに対して密着性が低い密着不良箇所が生じる場合がある。安定化層2の密着不良箇所では、酸化物超電導層17が超電導状態から常電導状態に遷移したときに、酸化物超電導層17の電流が安定化層2側に転流され難くなるため、酸化物超電導層17の特性劣化や損傷の原因となるおそれがある。
【0031】
本実施形態の超電導線材の修復方法は、このような安定化層2の密着不良箇所を修復する方法である。以下、本発明に係る超電導線材の修復方法の実施形態について、図1に示す超電導線材Aを修復する場合を例にして説明する。
まず、本発明の超電導線材の修復方法の第1実施形態について説明する。
図2は、超電導線材の密着不良箇所を示す概略縦断面図である。また、図3〜図6は、それぞれ第1実施形態の超電導線材の修復方法を工程順に示すもので、図3は、ハンダ層除去工程を示す概略縦断面図、図4は、安定化層除去工程を示す概略縦断面図、図5は、導電性ペースト供給工程を示す概略縦断面図、図6は、導電性ペースト焼成工程を示す概略縦断面図である。
【0032】
本実施形態にかかる超電導線材Aの修復方法は、密着不良箇所21付近のハンダ層3を、エッチング液を用いて選択的に除去し、密着不良箇所21の安定化層2を安定化基層18の表面18aから剥離する剥離工程と、安定化基層18の表面18aから剥離した安定化層2を、超電導線材Aから除去する除去工程と、密着不良箇所21の安定化層2及びハンダ層3の前記各工程で除去された欠損部22に、金属微粒子41を含有する導電性ペースト4を供給し、焼成することによって、欠損部22を金属微粒子41の焼結体43によって補填する補修工程とを少なくとも有する。
以下、本実施形態にかかる超電導線材の修復方法の各工程について順次説明する。
【0033】
まず、修復対象となる超電導線材Aを用意する。そして、図2に示すように、安定化層2の密着不良箇所21を検出する。
密着不良箇所21の検出方法は、特に限定するものではないが、例えば、超電導線材Aの端面や側面を目視もしくは顕微鏡によって観察するか、あるいは、冷却して超電導状態としてから部分的に通電試験を行い、超電導線材Aの臨界電流密度を長手方向あるいは幅方向に部分的に計測するなどの手段を行い、製品に求められている規格値よりも臨界電流密度が低下している部分を密着不良部分として検知することができる。
【0034】
次に、図3に示すように、密着不良箇所21のハンダ層3を、エッチング液に浸漬して選択的に除去し、密着不良箇所21の安定化層2を、安定化基層18の表面18aから分離する。
具体的には、超電導線材Aの密着不良箇所21付近を、他の各部に対してハンダ層3を選択的にエッチングするエッチング液に浸漬する。これにより、他の各部の侵食を抑えて密着不良箇所21のハンダ層3のみを選択的に除去し、安定化基層18の表面18aから安定化層2を分離することができる。
【0035】
本実施形態において用いるエッチング液としては、ハンダ層3や他の各部の組成によっても異なるが、塩酸、硫酸などの無機酸と、該無機酸よりもハンダ層3の酸化物超電導層17に対するエッチング選択比が高いエッチング液(以下、「選択エッチング液」と言う)との混合エッチング液等を用いるのが好ましい。
これにより、無機酸と選択エッチング液との容量比や、温度等のエッチング条件を制御することで、ハンダ層3を、他の各部に対して選択的にエッチングすることができる。
【0036】
無機酸としては、ハンダ層3の組成に応じて適宜選択され、特に限定されないが、例えば塩酸、硫酸を主成分とする無機酸が好適である。なお、選択エッチング液については、これらの無機酸をベース浴としてこれに混合する形式で、銅腐食電位を卑にする添加剤として銅の錯体化合物、有機錯体またはその誘導体あるいはチオ尿素またはその誘導体、チオカルボニル化合物、ベンゾトリアゾールなどを添加してなるものである。
これらは、無機酸と、該無機酸よりも前記導電性接合材の前記超電導層に対するエッチング選択比が高い選択エッチング液との混合エッチング液と表記することができる。
また、選択エッチング液には、例えば、市販品として、クロムを溶解することができる薬液として著名なメック社製のCHシリーズ(1860、1920など)、ADEKA社製のアデカテックWシリーズ、日本化学産業社製のFLICKER、荏原社製のシードロン等、主にCrを溶解することで知られる選択エッチング液があり、これらのうちから1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でもメック社製のCHシリーズが好適である。
【0037】
塩酸とメック社製のCHシリーズとの混合エッチング液を用いる場合、その容量比(塩酸:選択エッチング液)は、10:1〜1:1の範囲であるのが好ましい。塩酸の含有量が前記範囲を超える場合には、超電導線材Aをエッチング液に浸漬したときに酸化物超電導層17かあるいは他の層まで溶出させてしまい、超電導特性が損なわれる可能性がある。また、塩酸の含有量が前記範囲より少ない場合には、ハンダ層3のエッチングレートが非常に小さくなる、もしくは、ハンダ層がほとんど溶出しない状態になり、目的とするハンダ層3の除去が困難になる。
【0038】
エッチング液の温度は、80℃以上100℃未満であることが好ましい。エッチング液の温度が、80℃より低い場合には、ハンダ層3のエッチングレートが小さくなり、目的とするハンダ層3の除去のために長い時間がかかるようになる。また、エッチング液の温度が100℃以上になると、エッチング液が沸騰するおそれが高くなり、作業に危険が伴うようになる。
エッチング液に浸漬する時間は、エッチング温度やハンダ層3の組成等によっても異なるが、60〜120分程度が適当である。
【0039】
次に、図4に示すように、安定化基層18の表面18aから剥離した安定化層2を超電導線材Aから除去する。これにより、安定化層2は、一部欠損した状態になる。
安定化層2を除去する方法は、特に限定されないが、例えば、機械的な刃を用いた切断やレーザービームによる溶断、あるいは、銅のみを溶解するエッチング液を用いて部分的に溶解除去するなどの方法を単独あるいは適宜組み合わせて適用することができる。この安定化層2の部分除去工程においてハンダ層3はエッチング液にて除去しているので安定化基層18から分離している安定化層2を容易に切断あるいは溶断することができ、安定化基層18あるいはその下の酸化物超電導層17を損傷させることなく安定化層2の部分除去ができる。
【0040】
次に、図5に示すように、ハンダ層3および安定化層2の前記各工程で除去された部分(欠損部22)に導電性ペースト4を供給し、該導電性ペースト4を焼成する。
導電性ペースト4は、導電性を有する金属微粒子41を界面活性剤などの分散媒中に含有するものである。導電性ペースト4を欠損部22に供給して焼成すると、導電性ペースト4に含まれる各金属微粒子41間で元素拡散が生じること等により、隣り合う各金属微粒子41同士が各界面で接合するとともに、安定化基層18の表面18aに接する各金属微粒子41、および、欠損部2周囲の安定化層2及びハンダ層3の端面に接する各金属微粒子41が、これら表面と接合する。その結果、図6に示すように、欠損部22に、金属微粒子41の焼結体43が該欠損部を補填するように生成される。なお、図6では見やすいように金属微粒子41の大きさを誇張して示しているが、金属微粒子41は実際は後述する大きさのナノオーダーの大きさの微粒子である。
【0041】
このようにして欠損部22に補填された焼結体43は、隣り合う各金属微粒子41同士が各界面で接合していることにより、優れた導電性を有する。また、この焼結体43は、安定化基層18の表面18a、及び、欠損部22周囲の安定化層2及びハンダ層3の各端面と密着性良く接合するので、これら各部18、2、3と電気的に良好に接続している。このため、修復された超電導線材Aでは、焼結体43で補填された部分も安定化層2の一部として良好に機能し、酸化物超電導層17が超電導状態から常電導状態に遷移したとき、酸化物超電導層17の電流が安定化層2に確実に転流し、酸化物超電導層17の特性劣化や焼損を抑止することができる。
【0042】
ここで、導電性ペースト4に含まれる金属微粒子41は、良導電性を有するとともに、焼結温度が比較的低いものであるのが好ましい。これにより、導電性ペースト4の焼成温度を低く設定できるため、焼成工程での酸化物超電導層17の熱劣化を抑えることができる。そのような金属微粒子41としては、ナノオーダーの粒径の銀微粒子が好適である。また、導電性ペースト4の界面活性剤としては、特に限定されないが、例えばエチレングリコール等が用いられる。
【0043】
金属微粒子41の粒径は、特に限定されないが、ナノオーダー(平均粒径5nm〜50nm程度)であるのが好ましい。これにより、導電性および密着性により優れた金属微粒子41の焼結体43を得ることができる。
導電性ペースト4の焼成温度は、金属微粒子41の種類によっても異なるが、銀微粒子を含む導電性ペースト4の場合には150〜200℃程度とすることが好ましい。これにより、酸化物超電導層17の熱劣化を抑えつつ、銀微粒子を確実に焼結させることができる。なお、具体的に使用できる導電ペーストは藤倉化成株式会社の商品名「ナノドータイトシリーズ」、ハリマ化成株式会社の商品名「ナノペースト」などを適用することができる。
【0044】
以上のように、本実施形態の超電導線材の修復方法によれば、このように安定化層2の密着不良箇所21を修復して、安定化層2の機能を回復させることができるので、密着不良箇所21を有する超電導線材Aを再利用することが可能となり、超電導線材Aの生産効率の向上および低コスト化に貢献することができる。
【0045】
次に、本発明の超電導線材の修復方法の第2実施形態について説明する。
図7、図8は、それぞれ第2実施形態の超電導線材の修復方法を工程順に示すもので、図7は、溶融ハンダ供給工程を示す概略縦断面図、図8は、ハンダ固化工程を示す概略縦断面図である。
以下、第2実施形態に係る超電導線材の修復方法について説明するが、先の第1実施形態と同じ工程については説明を略し、相違点を中心に説明する。
【0046】
本実施形態に係る超電導線材の修復方法は、密着不良箇所21付近のハンダ層3を、エッチング液を用いて選択的に除去し、密着不良箇所21の安定化層2を安定化基層18の表面18aから剥離する剥離工程と、安定化基層18の表面18aと、該表面18aから剥離した安定化層2との隙間に、溶融状態のハンダ5を供給して固化し、安定化基層18の表面18aと安定化層2とをハンダ51を介して接着する接着工程とを有する。
【0047】
先の第1実施形態と同様にして、密着不良箇所21のハンダ層3を、エッチング液を用いて選択的に除去し、密着不良箇所21の安定化層2を安定化基層18の表面18aから剥離する(図3参照)。
ここで、仮に安定化層2を直接機械的に剥離した場合、その際の負荷によって酸化物超電導層17に損傷を与える可能性がある。これに対して、本実施形態のように、密着不良箇所21のハンダ層3を、エッチング液を用いて選択的に除去して安定化層2を剥離し、安定化層2を除去しない状態のまま、以下のハンダ供給工程を行うことにより、酸化物超電導層17の損傷を抑えて、密着不良箇所21の安定化層2を容易且つ確実に剥離し修復することができる。
【0048】
次に、図7に示すように、安定化基層18の表面18aと、該表面18aから剥離した安定化層2との隙間31に、溶融状態のハンダ51を供給して固化し、図8に示すように、安定化基層18の表面18aと、該表面18aから剥離した安定化層2とをハンダ5を介して接着する。
これにより、安定化層2の密着不良箇所21であった部分も、安定化基層18の表面18aにハンダ5を介して密着性良く接合され、電気的に接続される。このため、補修された超電導線材Aでは、安定化層2の密着不良箇所21であった部分が安定化層2の一部として良好に機能し、酸化物超電導層17が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたとき、酸化物超電導層17の電流が安定化層2に確実に転流し、酸化物超電導層17の特性劣化や損傷を抑止することができる。
ここで用いるハンダ5としては、特に限定されず、例えば、Pb−Sn系合金ハンダの他、Sn−Ag系合金、Sn−Bi系合金、Sn−Cu系合金、Sn−Zn系合金等の鉛フリーハンダ等が挙げられ、これらのうちから1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
以上のように、本実施形態の超電導線材の修復方法によれば、安定化層の密着不良箇所を修復して、安定化層の機能を回復させることができるので、密着不良箇所を有する超電導線材を再利用することが可能となり、超電導線材の生産効率の向上および低コスト化に貢献することができる。
【0050】
<超電導線材>
次に、本発明の超電導線材の実施形態について説明する。
本実施形態の超電導線材は、安定化層及びハンダ層の一部が、金属微粒子の焼結体(修復構造)によって構成されており、前記第1実施形態の修復方法によって修復された超電導線材(図6に示す超電導線材)の構成とされている。
金属微粒子41の焼結体43は、例えば、安定化層2の密着不良箇所21を、前記第1実施形態の修復方法によって修復することによって形成することができる。
金属微粒子41の焼結体43は、隣り合う各金属微粒子41同士が各界面で接合していることにより、優れた導電性を有する。また、この焼結体43は、安定化基層18の表面18a、及び、焼結体43周囲の安定化層2及びハンダ層3の各端面と密着性良く接合しており、これら各部18、2、3と電気的に接続している。このため、金属微粒子41の焼結体43によって密着不良箇所21が修復構造とされた超電導線材Aでは、焼結体43も安定化層2の一部として良好に機能し、酸化物超電導層17が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたとき、酸化物超電導層17の電流が安定化層2に確実に転流し、酸化物超電導層17の特性劣化や損傷を抑止することができる。従ってこの実施形態では焼結体43で修復された部分が修復構造とされている。
【0051】
以上、本発明の超電導線材の修復方法及び超電導線材の各実施形態について説明したが、各実施形態において、修復対象となる超電導線材、修復方法の各工程、また、超電導線材を構成する各部は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明の具体的実施例について説明するが、本願発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<ハンダ層のエッチング条件の検討>
まず、修復対象となる超電導線材を用意した。
超電導線材は、10mm幅のハステロイテープ(ハステロイC276:米国ヘインズ社商品名)の基材上に、拡散防止層としての厚さ150nmのAl層と、ベッド層としての厚さ50nmのY膜と、MgO膜(10nm)からなる中間層と、CeOからなるキャップ層(500nm)、Gd123(GdBaCu7−X)系超電導層(1000nm)、Agの安定化基層(10μm)、ハンダ層、Cuの安定化層がこの順に積層されたものである。なお、Cuの安定化層はハンダ層付きの銅テープからなり、この銅テープを加熱し加圧することで銀の安定化基層に溶着したものである。
【0053】
ここで、MgO膜は、IBAD法によって成膜されており、CeOキャップ層とGd123系超電導層は、それぞれPLD法によって成膜されている。また、Cu安定化層は、ハンダ付きCuテープを、常法によって安定化基層表面に貼り合わせることで形成されている。
【0054】
次に、表1に示す3種類の無機酸を、加温用と室温用の2系統用意し、加温用の無機酸はウォーターバスで80℃に加温した。
そして、80℃に加温された無機酸及び室温の無機酸に、それぞれ上述の構成の超電導線材を90分間浸漬し、超電導線材のエッチング状況を調べた。
また、無機酸の代わりに、表1に示す選択エッチング液を用いた試験例と、無機酸の代わりに、表1に示す塩酸+選択エッチング液(容量比2:1)の混合エッチング液を用いて超電導線材のエッチング状況を調べた。
なお、ここでは選択エッチング液として、メック社製のCHシリーズ1860を用いた。
各実験例におけるエッチング状況の試験結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示すように、室温下では、いずれのエッチング液を用いた場合であっても超電導線材はエッチングできなかった。一方、80℃に加温すると、無機酸のみを用いた系(実験例1〜3)では、ハンダ層がエッチングされるのと同時に、超電導層も溶出してしまった。また、選択エッチング液のみを用いた系(実験例4)では、超電導線材のいずれの層もエッチングされなかった。これに対して、塩酸と選択エッチング液の混合エッチング液を用いた系(実験例5)では、他の層を溶出させずにハンダ層のみを選択的にエッチングすることができた。
このことから、超電導層に損傷を与えることなくハンダ層のみを超電導線材からエッチングして除去するには、塩酸と選択エッチング液の混合エッチング液を加温して用いるのが良いことがわかった。
【0057】
無機酸の代わりに、塩酸と選択エッチング液(メック(株):CHシリーズ1860)の混合エッチング液を80℃に加温して用いる以外は、前記実験例1と同様にして超電導線材のエッチング状況を調べた。なお、塩酸と選択エッチング液(メック(株):CHシリーズ1860)の容量比を表2に示すように変化させて試験した。
更に、塩酸と選択エッチング液(CHシリーズ1860)を2:1の容量比で混合した混合エッチング液を用い、混合エッチング液の温度は、表2に示すように変化させて試験した。
各実験例におけるエッチング状況の試験結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2の実験例6〜10の試験結果に示すように、塩酸の選択エッチング液に対する容量比が1を下回る場合には、超電導線材のいずれの層もエッチングされなかった。また、塩酸の選択エッチング液に対する容量比が10を超えた場合には、ハンダ層がエッチングされるのと同時に、安定化基層の銀も部分的にわずかに溶出してしまった。
このことから、塩酸と選択エッチング液の混合エッチング液を用いる場合には、その容量比は1:1〜10:1の範囲が好ましいことがわかった。
【0060】
また、表2の実験例12〜17の試験結果に示すように、混合エッチング液の温度が70℃を下回る場合には、超電導層のいずれの層もエッチングされなかった。また、混合エッチング液の温度を100℃にすると、エッチング液が沸騰状態になり易く、危険であった。
以上のことから、混合エッチング液の温度は70℃以上100℃未満とするのが望ましいことがわかった。
【0061】
<超電導線材の修復試験>
まず、予めハンダを欠損させて密着不良箇所を形成した超電導線材を作成した。ハンダ欠損部分はハステロイの基材上において、幅5mm×長さ10mmの領域に渡り、ハンダを故意的に溶融不足状態として密着不良部分を有する超電導線材を作成した。
塩酸と選択エッチング液(CHシリーズ1860)とを2:1の容量比で混合した混合エッチング液を調製し、ウォーターバスで80℃に加温した。
次に、加温された混合エッチング液に、超電導線材の前記ハンダ欠損部分とその周囲部分を90分間、浸漬した。これにより、密着不良箇所を含むハンダ層を選択的に溶解して除去され、安定化基層の表面から安定化層が剥離した。
【0062】
次に、安定化基層の表面から剥離した安定化層を切断することで除去した。
次に、ハンダ層と安定化層の除去された欠損部に、銀ナノペースト(藤倉化成株式会社:商品名ナノドータイトシリーズ)を塗布し、150℃で30分間焼成した。その結果、ハンダ層と安定化層の欠損部を銀ナノペーストの焼結体で補填することができた。
このことから、本発明の超電導線材の修復方法によって安定化層の密着不良箇所を修復することにより、安定化層の機能が回復し、臨界電流以上の電流による超電導層の焼損が防止できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、例えば超電導コイル、限流器など、各種電力機器に用いられる超電導線材の修復方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
A…超電導線材、1…超電導積層体、2…安定化層、21…密着不良箇所、22…欠損部、3…ハンダ層(導電性接合材)、4…導電性ペースト、41…金属微粒子、43…金属微粒子焼結体、5…ハンダ、51…溶融状態のハンダ、11…基材、12…ベッド層、15…中間層、16…キャップ層、17…超電導層、18…安定化基層、18a…安定化基層の表面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、少なくとも超電導層が設けられてなる超電導積層体と、該超電導積層体の前記基材と反対側の表面に、導電性接合材を介して接合された安定化層とを有する超電導線材について、前記超電導積層体の表面に対して前記安定化層の密着性が低い密着不良箇所を修復する超電導線材の修復方法であって、
前記密着不良箇所付近の導電性接合材を、エッチング液を用いて選択的に除去し、前記密着不良箇所の前記安定化層を、前記超電導積層体の表面から剥離する工程と、
前記超電導積層体の表面から剥離した前記安定化層を、前記超電導線材から除去する工程と、
前記導電性接合材および前記安定化層の前記工程で除去された欠損部に、金属微粒子を含有する導電性ペーストを供給し、焼成することによって、前記欠損部を前記金属微粒子の焼結体によって補填する工程とを有することを特徴とする超電導線材の修復方法。
【請求項2】
前記導電性ペーストは、銀微粒子と界面活性剤とを含有することを特徴とする請求項1に記載の超電導線材の修復方法。
【請求項3】
基材上に、少なくとも超電導層が設けられてなる超電導積層体と、該超電導積層体の前記基材と反対側の表面に、導電性接合材を介して接合された安定化層とを有する超電導線材について、前記超電導積層体の表面に対して前記安定化層の密着性が低い密着不良箇所を修復する超電導線材の修復方法であって、
前記密着不良箇所付近の導電性接合材を、エッチング液を用いて選択的に除去し、前記密着不良箇所の前記安定化層を前記超電導積層体の表面から剥離する工程と、
前記超電導積層体の表面と、該表面から剥離した前記安定化層との隙間に、溶融状態のハンダを供給して固化し、前記超電導積層体の表面と、該表面から剥離した前記安定化層とをハンダを介して接着する工程とを有することを特徴とする超電導線材の修復方法。
【請求項4】
前記エッチング液は、無機酸と、有機酸塩を含む無機酸の水溶液との混合エッチング液であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の超電導線材の修復方法。
【請求項5】
前記エッチング液により選択的に除去する際のエッチング液の温度は、80℃以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の超電導線材の修復方法。
【請求項6】
基材上に、少なくとも超電導層が設けられてなる超電導積層体と、該超電導積層体の前記基材と反対側の表面に、導電性接合材を介して接着された金属材料製の安定化層とを有する超電導線材であって、
前記安定化層は、その一部が金属微粒子の焼結体により構成されている修復構造を有することを特徴とする超電導線材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−138706(P2011−138706A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298519(P2009−298519)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】