説明

超電導線材の製造方法

【課題】本発明は、臨界電流値の異なる超電導線材を作り分けることができる技術の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、基材上に、イオンビームアシスト蒸着法による中間層とキャップ層と酸化物超電導層が設けられた超電導線材であって、臨界電流値が異なる複数の超電導線材を製造し分けるに際し、酸化物超電導層は同一厚さに形成し、基材表面の表面粗さRaの値に応じて同一厚さの酸化物超電導層において得られる臨界電流値が上限値を示す表面粗さRaの値の内、最大値が存在し、この最大値よりも大きな表面粗さRaの値に応じて先の臨界電流値の上限値よりも低い臨界電流値を示す酸化物超電導層が得られる範囲が存在し、この範囲において、表面粗さRaの値が大きくなる程、臨界電流密度が低下する関係を利用し、基材の表面粗さRaにより、臨界電流値が異なる複数の超電導線材を製造し分けることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨界電流値の異なる超電導線材を作り分けることができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年になって発見されたRE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−X:REは希土類元素)は、液体窒素温度以上で超電導性を示すことから実用上極めて有望な素材とされており、これを線材に加工して電力供給用の導体として用いることが強く要望されている。中でも、Y系酸化物超電導体(YBaCu7−X)を用いた超電導線材は、外部磁界に対して強く、強磁界内でも高い電流密度を維持することができるため、超電導コイル用導体としての利用、あるいは電力供給用ケーブルとしての利用の他、超電導線材への通電時に発生するおそれのある故障電流の遮断を目的とした超電導限流器用の導体としての研究開発も進められている。
これらの開発用途において電力供給用超電導線材、磁気コイル用超電導線材はできる限り高電流対応の超電導線材が必要である反面、超電導限流器用の超電導線材は規格に合った臨界電流特性をある程度制御した超電導線材が必要となる。
このため、従来では、臨界電流値(Ic)または臨界電流密度(Jc)の異なる超電導線材を作製するためには、超電導層の膜厚を変えることで製造するようにしていた。
【0003】
ここで、この種のRE−123系酸化物超電導線材の一構造例として、図7に示す如くテープ状の金属基材100上に、ベッド層101を介してIBAD(Ion-Beam-Assisted Deposition)法によって成膜された中間層102と、その上に成膜されたキャップ層103と、酸化物超電導層104とを積層形成した酸化物超電導線材Cが知られている(例えば、特許文献1参照)。
前記構造においてキャップ層103の結晶面内配向性が高い方が、更にその上に成膜される酸化物超電導層104も高い結晶配向性となり、この酸化物超電導層104の結晶面内配向性が高くなる程、臨界電流値等の超電導特性が優れた酸化物超電導線材Cを得ることができる。
【0004】
以下、IBAD法により形成される中間層102と超電導線材Cの特性の関連性について説明する。
図8に示すように、IBAD法に用いる中間層形成装置は、ベッド層101を備えた金属基材100をその長手方向に走行するための走行系と、その表面が金属基材100の表面に対して斜めに向いて対峙されたターゲット201と、ターゲット201にイオンを照射するスパッタビーム照射装置202と、金属基材100の表面に対して斜め方向からイオン(希ガスイオンと酸素イオンの混合イオン)を照射するイオン源203とを有しており、これら各部は真空容器(図示せず)内に配置されている。
この中間層形成装置によって金属基材100のベッド層101上に中間層102を形成するには、真空容器の内部を減圧雰囲気とし、スパッタビーム照射装置202及びイオン源203を作動させる。これにより、スパッタビーム照射装置202からターゲット201にイオンが照射され、ターゲット201の構成粒子が叩き出されるか蒸発されてベッド層101上に堆積する。これと同時に、イオン源203から、希ガスイオンと酸素イオンとの混合イオンを放射し、金属基材100の表面(ベッド層101)に対して所定の入射角度(θ)で照射する。
このように、ベッド層101の表面に、ターゲット201の構成粒子を堆積させつつ、所定の入射角度でイオン照射を行うことにより、形成されるスパッタ膜の特定の結晶軸がイオンの入射方向に固定され、結晶のc軸が金属基板の表面に対して垂直方向に配向するとともに、a軸及びb軸が面内において一定方向に配向する。このため、IBAD法によってベッド層101上に形成された中間層102は、高い面内配向度を有する。
【0005】
一方、キャップ層103は、このように面内結晶軸が配向した中間層102表面に成膜されることによってエピタキシャル成長し、その後、横方向に粒成長して、結晶粒が面内方向に自己配向し得る材料、例えばCeOによって構成される。キャップ層103は、このように自己配向していることにより、中間層102よりも更に高い面内配向度を得ることができる。従って、ベッド層101上に、このような中間層102及びキャップ層103を介して酸化物超電導層104を成膜すると、面内配向度の高いキャップ層103の結晶配向に整合するように酸化物超電導層104がエピタキシャル成長するため、面内配向性に優れ、臨界電流密度の大きな超電導特性の優れた酸化物超電導層104を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−71359号公報
【特許文献2】特開2007−280710号公報
【特許文献3】特開2009−16257号公報
【特許文献4】特開2006−27958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記構造の酸化物超電導線材Cにおいて、ベッド層101と中間層102及びキャップ層103は、酸化物超電導層104の結晶配向性を整え、成膜時の加熱処理に伴う元素の不要拡散を抑制するとともに、基材100と酸化物超電導層104の中間の膨張係数を有して熱ストレスを緩和するなどの複合的な効果を得るための層であって、これらの層を順序に積層することで始めて単結晶に近い結晶配向性であって、超電導特性の優れた酸化物超電導層104を得ることができる。
【0008】
また、上述のような単結晶に近い結晶配向性のキャップ層103と酸化物超電導層104を成長させる必要があるため、成膜の土台となる基材100の表面は凹凸の少ない平滑な面とする必要がある。
酸化物超電導導体の基材表面の凹凸を小さくするための技術として、従来、電解研磨により基材の表面粗さRaを9nm以下、具体的には3nm以下に研磨する方法(特許文献2参照)、超電導層に接する中間層の表面粗さを電解研磨法、酸を用いた化学研磨法、圧延ロールを用いた鏡面転写法などにより20nm以下とする方法(特許文献3参照)、基板表面をCMP(Chemical Mechanical Polishing)法により表面粗さRa20nm以下、例えば2.5nmにすることで臨界電流密度の優れた超電導層を生成しようとする方法(特許文献4)が知られている。
【0009】
しかし、これらの従来技術では、基材表面の凹凸を小さくすると、即ち、基材表面の凹凸を特定の微細な表面粗さに加工すると、臨界電流密度の高い酸化物超電導層を生成できることを開示しているに過ぎない。
従って、酸化物超電導線材Cについて、前述の超電導限流器用途などのように規格に合った臨界電流特性をある程度制御した超電導線材とするためには、即ち、臨界電流値(Ic)の異なる複数の超電導線材を作製するためには、超電導電流を流す主体である酸化物超電導層の膜厚を変更することで対応するのが一般的な手段とされている。
【0010】
しかし、低臨界電流値の酸化物超電導線材を製造することを考慮すると、酸化物超電導層104を薄く形成する必要がある。しかし、酸化物超電導層104の膜厚を薄くすることは、均一な超電導特性の酸化物超電導層104を生成できなくなるおそれを伴っている。即ち、超電導線材は長尺のものであっても、長手方向に均一な超電導特性が要求されるので、膜厚の薄い酸化物超電導層104を超電導線材の全長に渡り均一な超電導特性を発揮できるように薄いまま均一成膜することは容易ではない問題があった。
【0011】
このような背景に基づき本発明者らが研究したところ、IBAD法に基づき基材上に形成した中間層とその上に形成したキャップ層と酸化物超電導層からなる積層構造の超電導導体について、基材表面の凹凸の大小と酸化物超電導層が示す超電導特性との間に明確な相関関係が存在することを見出した。
即ち、IBAD法に基づき基材上に形成した中間層とその上に形成したキャップ層と酸化物超電導層からなる積層構造の超電導導体の開発により、実用に供し得る400A級のIc値を有する酸化物超電導導体を安定的に製造できるようになったが、これらの酸化物超電導導体の開発が進むにつれて、超電導限流器などのような実用用途に応じた超電導機器の研究も進められ、これらの研究の進展に基づき、段階的なIc値を示す超電導線材をできるだけ簡便に作り分けしようとする課題が生じ、この課題に鑑み本願発明に到達した。
【0012】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、電力供給用超電導線材、超電導コイル用超電導線材などのようにできる限り高電流対応の超電導線材と、超電導限流器用途などのように臨界電流特性を規格に合わせてある程度制御した超電導線材とを確実かつ容易に製造し分けることができる製造方法の提供を目的とする。
また、本発明は、高電流対応の超電導線材と臨界電流特性をある程度制御した超電導線材とが作り分けられ、それらが個々の超電導機器に備えられた超電導設備の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために以下の構成を有する。
本発明は、基材上に、イオンビームアシスト蒸着法により結晶配向性が整えられてなる中間層と、該中間層の結晶配向性の影響を受けて結晶配向性が整えられたキャップ層と、該キャップ層の結晶配向性の影響を受けて結晶配向性が整えられた酸化物超電導層とが少なくとも設けられてなる超電導線材であって、酸化物超電導層が示す臨界電流値が異なる複数の超電導線材を製造し分けるに際し、臨界電流値が異なるいずれの超電導線材を製造する場合であっても、酸化物超電導層は同一厚さに形成するとともに、基材表面の表面粗さRaの値に応じて同一厚さの酸化物超電導層において得られる臨界電流値が上限値を示す表面粗さRaの値の内、最大値が存在し、この最大値よりも大きな表面粗さRaの範囲であって、この範囲の表面粗さRaの値に応じて先の臨界電流値の上限値よりも低い臨界電流値を示す酸化物超電導層が得られる範囲が存在し、この低い臨界電流値を示す範囲において、表面粗さRaの値が大きくなる程、臨界電流値が比例して低下する関係を利用し、臨界電流値が比例関係を示す範囲において基材の表面粗さRaを選定仕分けることにより、酸化物超電導層が示す臨界電流値が異なる複数の超電導線材を製造し分けることを特徴とする。
【0014】
本発明は、基材上に、ベッド層を介して中間層を形成することができる。
本発明は、基材上に、拡散防止層とベッド層を介して中間層を形成することができる。
本発明は、基材表面の表面粗さRaの値に応じて同一厚さの酸化物超電導層において得られる臨界電流値が上限値を示す範囲を2nm以上7nm未満の範囲とすることができる。
【0015】
本発明は、Ni合金の基材とAlの拡散防止層とYのベッド層とMgOの中間層とRE−123系酸化物超電導層(REBaCu7−X:REは希土類元素)として超電導線材を製造するに際し、基材表面の表面粗さRaを2nm以上、7nm以下の範囲として臨界電流値Ic:400A級の超電導線材を製造する工程と、基材表面の表面粗さRaを7nm超、8nm以下の範囲として臨界電流値Ic:300A級の超電導線材を製造する工程と、基材表面の表面粗さRaを8nm超、8.6nm以下の範囲として臨界電流値Ic:200A級の超電導線材を製造する工程と、基材表面の表面粗さRaを8.6nm超、9nm以下の範囲として臨界電流値Ic:100A級の超電導線材を製造する工程の内、複数を組み合わせて酸化物超電導層が示す臨界電流値が異なる複数の超電導線材を製造し分けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の超電導線材の製造方法によれば、基材の表面粗さRaに応じた臨界電流値の最大値を示す領域よりも大きな表面粗さRaの値に応じて低い臨界電流値を示す範囲が存在し、この低い臨界電流値を示す範囲において、表面粗さRaの値が大きくなる程、臨界電流値が比例して低下する関係を利用し、基材の表面粗さRaを選定仕分けることにより、酸化物超電導層が示す臨界電流値が異なる複数の超電導線材を製造し分けることができる。これにより、酸化物超電導層の厚さを薄くしなくとも、規格値の小さい臨界電流値の酸化物超電導線材を作り分けることができる。
本発明では、酸化物超電導層の厚さは均一としても、基材の表面粗さRaの調整のみで、規格値の小さい臨界電流値の酸化物超電導線材を段階的に作り分けることができるので、超電導線材の作り分けが従来よりも容易に実現できる。
【0017】
また、具体例の1つとして、基材の表面粗さRaを2nm以上、7nm以下として400A級の酸化物超電導線材を得ることができ、基材の表面粗さRaを7nm超、8nm以下として300A級の酸化物超電導線材を得ることができ、基材の表面粗さRaを8nm超、8.6nm以下として200A級の酸化物超電導線材を得ることができ、基材の表面粗さRaを8.6nm超、以上9nm以下として100A級の酸化物超電導線材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る超電導線材の一例を示す概略構成図。
【図2】本発明に係る超電導線材の他の例を示す概略構成図。
【図3】同超電導線材を製造するための成膜装置の一例を示す概略構成図。
【図4】同超電導線材を製造する際に使用するイオンガンの一例を示す概略構成図。
【図5】本発明に係る製造方法により得られる酸化物超電導層において基材表面の粗さと臨界電流値の相関関係を示す説明図。
【図6】実施例により製造された酸化物超電導層において基材表面の粗さと臨界電流値の相関関係を示す説明図。
【図7】従来の方法により得られた超電導線材の一例を示す概略構成図。
【図8】IBAD法により成膜する場合の基材とイオンガン及びターゲットの配置関係の一例を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る超電導線材の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1と図2は、本発明に係る超電導線材の一例を模式的に示す概略斜視図である。
図1に示す超電導線材Aは、テープ状の基材10Aの上に、拡散防止層11、ベッド層12、中間層15、キャップ層16、酸化物超電導層17及び安定化層18をこの順に積層し構成され、図2に示す超電導線材Bはテープ状の基材10Bの上に、拡散防止層11、ベッド層12、中間層15、キャップ層16、酸化物超電導層17及び安定化層18をこの順に積層し構成されている。この実施形態の超電導線材Aと超電導線材Bにおいて異なる点は、超電導線材Aが超電導線材Bよりも高い臨界電流値Ic(または臨界電流密度Jc)とされている点であり、超電導線材Aに適用されている基材10Aの表面粗さRaが超電導線材Bに適用されている基材10Bの表面粗さRaよりも小さい点にある。基材10Aと基材10Bの表面粗さRaの具体例については後に詳述する。
【0020】
超電導線材A、Bに適用できる基材10A、10Bは、通常の超電導線材の基材として使用することができ、高強度であれば良く、長尺のケーブルとするためにテープ状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。例えば、銀、白金、ステンレス鋼、銅、ハステロイ等のニッケル合金等の各種金属材料、もしくはこれら各種金属材料上にセラミックスを配したもの、等が挙げられる。各種耐熱性の金属の中でも、ニッケル合金が好ましい。なかでも、市販品であれば、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)が好適であり、ハステロイとして、モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。基材11の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmの範囲とすることができる。
【0021】
基材10Aと基材10Bが異なるのは表面粗さRaの値である。基材10Aの表面粗さRaの値は2nm以上、7nm以下の範囲のいずれかの値に形成され、基材10Bの表面粗さRaの値は7nm超、9nm以下の範囲でいずれかの値に形成されている。
また、基材10Aと基材10Bの表面粗さRaの値の選定については後に詳述する。
【0022】
拡散防止層11は、基材11の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)、あるいは、GZO(GdZr)等から構成され、その厚さは例えば10〜400nmである。
拡散防止層12の厚さが10nm未満となると、基材10の構成元素の拡散を十分に防止できなくなる虞がある。一方、拡散防止層11の厚さが400nmを超えると、拡散防止層11の内部応力が増大し、これにより、他の層を含めて全体が基材10から剥離しやすくなる虞がある。また、拡散防止層11の結晶性は特に問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すればよい。
【0023】
ベッド層12は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層12は、例えば、イットリア(Y)などの希土類酸化物であり、組成式(α2x(β(1−x)で示されるものが例示できる。より具体的には、Er、CeO、Dy、Er、Eu、Ho、La等を例示することができる。このベッド層12は、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜100nmである。
【0024】
中間層15は、単層構造あるいは複層構造のいずれでも良く、その上に積層されるキャップ層16の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から選択される。中間層15の好ましい材質として具体的には、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物を例示することができる。
この中間層15をIBAD法により良好な結晶配向性(例えば結晶配向度15゜以下)で成膜するならば、その上に形成するキャップ層16の結晶配向性を良好な値(例えば結晶配向度5゜前後)とすることができ、これによりキャップ層16の上に成膜する酸化物超電導層17の結晶配向性を良好なものとして優れた超電導特性を発揮できる酸化物超電導層17を得るようにすることができる。
【0025】
中間層15の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、5〜300nmの範囲とすることができる。
中間層15は、イオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と略記する)で積層する。このIBAD法で形成された前記金属酸化物層は、結晶配向性が高く、酸化物超電導層17やキャップ層16の結晶配向性を制御する効果が高い点で好ましい。IBAD法とは、先にも説明した如く蒸着時に、下地の蒸着面に対して所定の角度でイオンビームを照射することにより、結晶軸を配向させる方法である。通常は、イオンビームとして、アルゴン(Ar)イオンビームを使用する。例えば、GdZr、MgO又はZrO−Y(YSZ)からなる中間層15は、IBAD法における結晶配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
【0026】
図3に示す如く中間層15を製造する場合のイオンビームアシストスパッタ装置20は、テープ状の基材などが配置される成膜領域21に面するようにターゲット22が配置され、このターゲット22に対して斜め方向に対向するようにスパッタイオンソース源23が配置されるとともに、成膜領域21の法線に対し所定の角度で(例えば45゜など)斜め方向から対向するようにアシストイオンソース源25を配置し構成される。
この例のイオンビームアシストスパッタ装置20は、真空チャンバに収容される形態で設けられる成膜装置であり、テープ状の基材27が対向配置された第1のロール28と第2のロール29とに複数回往復巻回されて成膜領域21を往復走行される構造などを例示することができる。
この実施形態において適用されるイオンソース源23、25は、容器30の内部に、引出電極31とフィラメント32とArガス等の導入管33とを備えて構成され、容器30の先端からイオンをビーム状に平行に照射できる装置である。
【0027】
実施形態で用いる真空チャンバは、外部と成膜空間とを仕切る容器であり、気密性を有するとともに、内部が高真空状態とされるため耐圧性を有するものとされる。この真空チャンバには、真空チャンバ内にキャリアガス及び反応ガスを導入するガス供給手段と、真空チャンバ内のガスを排気する排気手段が接続されているが、図3ではこれら供給手段と排気手段を略し、各装置の配置関係のみを示している。
ここで用いるターゲット12とは、前述した材料の中間層15を形成する場合に見合った組成のターゲットとすることができる。
図3に示す構造のイオンビームアシストスパッタ装置20を用いることでIBAD法を実現し、目的の中間層15を成膜することができる。
【0028】
キャップ層16は、前記中間層15の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。このようなキャップ層は、前記金属酸化物層からなる中間層15よりも高い面内配向度が得られる。
キャップ層の材質は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等が例示できる。キャップ層の材質がCeOである場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
【0029】
このCeO層は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができるが、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが望ましい。PLD法によるCeO層の成膜条件としては、基材温度約500〜1000℃、約0.6〜100Paの酸素ガス雰囲気中で行うことができる。
CeO層の膜厚は、50nm以上であればよいが、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましい。但し、厚すぎると結晶配向性が悪くなるので、50〜5000nmの範囲、より好ましくは100〜5000nmの範囲とすることができる。
【0030】
酸化物超電導層17は公知のもので良く、具体的には、REBaCu(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のものを例示できる。この酸化物超電導層17として、Y123(YBaCu7−X)又はGd123(GdBaCu7−X)などを例示することができる。
酸化物超電導層17は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相成長法(CVD法)等の物理的蒸着法;熱塗布分解法(MOD法)等で積層することができ、なかでも生産性の観点から、PLD(パルスレーザー蒸着)法、TFA−MOD法(トリフルオロ酢酸塩を用いた有機金属堆積法、塗布熱分解法)又はCVD法を用いることが好ましい。
【0031】
ここで前述のように、良好な配向性を有するキャップ層16上に酸化物超電導層17を形成すると、このキャップ層16上に積層される酸化物超電導層17もキャップ層16の配向性に整合するように結晶化する。よって前記キャップ層16上に形成された酸化物超電導層17は、結晶配向性に乱れが殆どなく、この酸化物超電導層17を構成する結晶粒の1つ1つにおいては、金属基材11の厚さ方向に電気を流しにくいc軸が配向し、金属基材11の長さ方向にa軸どうしあるいはb軸どうしが配向している。従って得られた酸化物超電導層17は、結晶粒界における量子的結合性に優れ、結晶粒界における超電導特性の劣化が殆どないので、金属基材2の長さ方向に電気を流し易くなり、十分に高い臨界電流密度が得られる。
酸化物超電導層17の上に積層されている安定化層18はAgなどの良電導性かつ酸化物超電導層17と接触抵抗が低くなじみの良い金属材料からなる層として形成され、必要に応じて更にCuなどの良電導性金属材料の層を複合した積層構造としても良い。なお、安定化層18をAgから構成する理由として、酸化物超電導体に酸素をドープするアニール工程においてドープした酸素を酸化物超電導体から逃避し難くする性質を有する点を挙げることができる。
【0032】
<基材の表面粗さRaについて>
次に、基材10A、10Bの表面粗さRaの調節により酸化物超電導線材Aと酸化物超電導線材Bを作り分ける場合について説明する。
酸化物超電導線材Aは超電導コイル用ケーブル、超電導送電用ケーブルなどに適用されるもので臨界電流値が酸化物超電導線材Bよりも高い必要がある。また、酸化物超電導線材Bは超電導限流器などの用途に供され、酸化物超電導線材Aの臨界電流値よりも低い臨界電流値で良い。また、適用される超電導限流器の規格や要求に応じ、酸化物超電導線材Aの臨界電流値よりも低い臨界電流値の範囲であっても、規格に応じた数段階の臨界電流値のいずれかの値とされることが好ましい。例えば、一例として、酸化物超電導線材Aの臨界電流値が400A級である必要があるのに対し、超電導線材Bの臨界電流値は300A級、200A級、100A級のいずれかが要求される。
なおここで、級の表示は該当する規格電流値の値を最低補償できる値を示すものとする。例えば、400A級とは、400Aを基準として、±15%の範囲(340A〜460A)の臨界電流値Icを得られる超電導線材であり、300A級とは、300Aを基準として、±15%の範囲(255A〜345A)の臨界電流値Icを得られる超電導線材であり、200A級とは、200Aを基準として、±15%の範囲(170A〜230A)の臨界電流値Icを得られる超電導線材であり、100A級とは、100Aを基準として、±15%の範囲(85A〜115A)の臨界電流値Icを得られる超電導線材であることを意味する。
【0033】
酸化物超電導線材A、Bにおいて、図1、図2に示す積層構造を採用すると、基材10A、10Bの表面粗さRaの大小に対応して、酸化物超電導線材A、Bが示す臨界電流値が一定の割合で変動する。本実施形態では、この変動割合が一定である現象を利用し、400A級、300A級、200A級、100A級に区分けして酸化物超電導線材を作り分けることとする。
そのためには、基材の表面粗さRaのみを2nm〜10nmの間で変更して作り分けた酸化物超電導線材を試作し、これらの試作された酸化物超電導線材から得られる臨界電流値を計測し、その計測結果から、表面粗さRaの値との相関関係を把握し、その関係に応じて400A級、300A級、200A級、100A級の超電導線材を作り分けることにする。例えば、表面粗さを2nm〜9nmの範囲内で特定値に定めた基材を複数種類用意する。これらの基材を利用して以下のように酸化物超電導線材を試作する。
【0034】
基材の表面粗さRaを制御する方法としては、基材表面を研磨加工により研磨する際、アルミナ(Al)粒子の粒径として平均粒径3μmの研磨粒子を用いて研磨することにより、基材の表面粗さRaを9nmとすることができ、アルミナ(Al)粒子の粒径として平均粒径2.5μmの研磨粒子を用いて研磨することにより、基材の表面粗さRaを8.6nmとすることができ、アルミナ(Al)粒子の粒径として平均粒径2.0μmの研磨粒子を用いて研磨することにより、基材の表面粗さRaを7.9nmとすることができ、アルミナ(Al)粒子の粒径として平均粒径1.5μmの研磨粒子を用いて研磨することにより、基材の表面粗さRaを7.4nmとすることができ、アルミナ(Al)粒子の粒径として平均粒径1μmの研磨粒子を用いて研磨することにより、基材の表面粗さRaを7nmとすることができる。
また、基材表面を研磨加工により研磨する際、ダイヤモンド砥粒の粒径として平均粒径2μmの研磨粒子を用いて研磨することにより、基材の表面粗さRaを6.5nmとすることができ、ダイヤモンド砥粒の粒径として平均粒径1.5μmの研磨粒子を用いて研磨することにより、基材の表面粗さRaを4.9nmとすることができ、ダイヤモンド砥粒の粒径として平均粒径1μmの研磨粒子を用いて研磨することにより、基材の表面粗さRaを3.4nmとすることができ、ダイヤモンド砥粒の平均粒径を0.5μmとすることにより基材の表面粗さを2nmとすることができる。
【0035】
なお、基材の表面粗さRa以外の条件は全ての超電導線材で同一として試作試験する。即ち、Ni合金(商品名ハステロイ)の基材を用いてその基材の表面粗さRaを変更する以外は、形成する拡散防止層11、ベッド層12、中間層15、キャップ層16、酸化物超電導層17及び安定化層18を試作する超電導線材どうしにおいて同一条件として試作する。
例えば、試作用の超電導線材を製造する場合、上述の各表面粗さRaとした複数の基材上に形成する拡散防止層11としてイオンビームスパッタ法により厚さ150nmのAl層を形成し、ベッド層12としてイオンビームスパッタ法により厚さ30nmのY層を形成し、中間層15としてIBAD法により厚さ10nmのMgO層を形成し、パルスレーザ蒸着法により厚さ500nmのCeO層を形成し、パルスレーザ蒸着法により厚さ1μmのGdBaCu7−x層を形成し、安定化層として厚さ10μmのAg層を形成し、酸素アニールを500℃で10時間行い、炉冷した後、酸化物超電導線材を取り出す方法とする。
【0036】
次に、これら複数の試作超電導線材を液体窒素に浸漬して超電導特性を測定する。
そして、横軸に表面粗さRaの値、縦軸にJc値の測定結果をプロットした図5に示す相関図を得る。この相関図の関係を得ることにより、図5から相関関係を読み取り、基材の表面粗さRaの値を選定すると、400A級、300A級、200A級、100A級のいずれの酸化物超電導線材が得られるのか判明するので、必要な特性に応じて基材の表面粗さRaのみを調整することで、その後の各層の生成は同一材料同一厚さの条件でもって目的の臨界電流値の酸化物超電導線材を得られる。
なお、図5に示すように基材表面粗さRaが2nm以上7nm未満の範囲では臨界電流値が400A級を確保でき、その後、表面粗さRaの値が7nm〜9nmの範囲で増加する毎に臨界電流値が徐々に比例的に減少して300A級、200A級、100A級の酸化物超電導線材が得られることは、本実施形態の酸化物超電導線材において、IBAD法を用いて形成した2軸配向層としての薄い中間層15を備えていて、この中間層15が基材表面の表面粗さRaの影響を受けるため、この影響に応じて最終的に得られる酸化物超電導線材の臨界電流値に影響するためである。この事情から、IBAD法に基づく2軸配向の薄い中間層15を有していない他の積層構造の酸化物超電導線材では得られない作用効果である。
図5に示す如くIBAD法により形成した中間層15を備え、基材の表面粗さを制御した超電導線材Aに、Bにあっては、表面粗さRa2〜7nmの範囲に臨界電流値Ic(あるいは臨界電流密度Jc)の上限値が存在し、この上限値を示す表面粗さRa2〜7nmの範囲の最大値(7nm近傍)が存在し、ここから表面粗さRaが増加するにつれて臨界電流値Ic(あるいは臨界電流密度Jc)が比例的に減少する領域(表面粗さRa7〜9nmの範囲)が存在する。
【0037】
例えば、IBAD法の中間層を適用していない他の構造の超電導線材の場合は、基材の表面粗さRaに超電導線材の臨界電流値が単純に比例関係を示すか否かは不明であり、臨界電流値Ic(あるいは臨界電流密度Jc)が比例的に減少するようになる変曲点が存在する否か不明である。
IBAD法による中間層15であるならば、基材の表面粗さRaに敏感に反応し、基材の表面粗さRaのみを変更して他の層は全て同等条件で製造するならば、表面粗さRaの値に連動して確実に400A級、300A級、200A級、100A級のいずれかの酸化物超電導線材を得ることができる。
例えば、基材10Aの表面粗さRaを4nmの範囲として酸化物超電導線材Aを製造し、基材10Bの表面粗さRaを8.5nmとして酸化物超電導線材Bを製造するならば、400A級の酸化物超電導線材Aと200A級の酸化物超電導線材Bを確実に製造することができる。また、基材10Bの表面粗さRaを7.5nmとして酸化物超電導線材Bを製造するならば、300A級の酸化物超電導線材Bを製造することができ、基材10Bの表面粗さRaを8.5nmとして酸化物超電導線材Bを製造するならば、200A級の酸化物超電導線材Bを製造することができ、基材10Bの表面粗さRaを9nmとして酸化物超電導線材Bを製造するならば、100A級の酸化物超電導線材Bを製造することができる。
【0038】
本実施形態において得られた酸化物超電導線材Aは例えば高臨界電流値が要求される超電導コイル用導体あるいは送電用超電導導体などに利用されるとともに、酸化物超電導線材Bは超電導限流器用超電導導体などのように酸化物超電導線材Aよりも低い臨界電流値で適用可能な用途に適用される。
従来では臨界電流値が低い酸化物超電導線材を製造する場合、酸化物超電導層の膜厚を薄くする方法が採用されていたが、これでは薄い超電導層となって長尺の超電導線材の場合に長さ方向で均一な超電導特性を得られないおそれがあったが、本実施形態の如く基材の表面粗さRaを調整するのみで同一厚さの酸化物超電導層を備えていても臨界電流値の異なる酸化物超電導線材を作り分けることができるので、規格や要求に合わせた臨界電流値の抑制された酸化物超電導線材を確実かつ容易に製造することができる効果がある。
【0039】
以上、本発明に係る超電導線材の実施形態について説明したが、実施形態において、超電導線材を構成する各部は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の具体的実施例について説明するが、本願発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
幅10mm、長さ30mのテープ状のハステロイ276(米国ヘインズ社商品名)基材を複数用意し、これら基材の表面粗さRaを9nm、8.6nm、7.9nm、7.4nm、7nm、6.5nm、4.9nm、3.4nm、2nmに研磨した。表面粗さRaを9nmに研磨するにはアルミナの平均粒径3μmの砥粒を用い、8.6nmに研磨するにはアルミナの平均粒径2.5μmの砥粒を用い、7.9nmに研磨するにはアルミナの平均粒径2.0μmの砥粒を用い、7.4nmに研磨するにはアルミナの平均粒径1.5μmの砥粒を用い、7nmに研磨するにはアルミナの平均粒径1μmの砥粒を用い、6.5nmに研磨するには平均粒径2μmのダイヤモンド砥粒を用い、4.9nmに研磨するには平均粒径1.5μmのダイヤモンド砥粒を用い、3.4nmに研磨するには平均粒径1μmのダイヤモンド砥粒を用い、2nmに研磨するには平均粒径0.5μmのダイヤモンド砥粒を用いた。
【0041】
各表面粗さRaの基材を用いてこれらの基材上に以下の層を積層し、酸素アニールを施して酸化物超電導線材を得た。
基材上にイオンビームスパッタ法により厚さ150nmのAlの拡散防止層を形成し、イオンビームスパッタ法により厚さ30nmのYのベッド層を形成し、IBAD法により厚さ10nmのMgOの中間層を形成し、パルスレーザ蒸着法により厚さ500nmのCeOのキャップ層を形成し、パルスレーザ蒸着法により厚さ1μmのGdBaCu7−xなる組成の酸化物超電導層を形成し、厚さ10μmのAgの安定化層を形成し、酸素アニールを500℃で10時間行い、炉冷した後、酸化物超電導線材を得た。
【0042】
各酸化物超電導線材について、液体窒素により冷却し、Ic測定を行った。両端の電圧が1μV/cmとなった時の電流値をIcとした。その結果を図6に示す。
図6に示す結果から、図5に示す相関関係と同等の相関関係を得ることができ、図6に示す結果から、臨界電流値400A級の酸化物超電導線材を得るためには基材の表面粗さRaを2nm以上、7nm以下の範囲とすると実現可能であり、臨界電流値300A級の酸化物超電導線材を得るためには基材の表面粗さRaを7nm超、8nm以下の範囲とすると実現可能であり、臨界電流値200A級の酸化物超電導線材を得るためには基材の表面粗さRaを8nm超、8.6nm以下の範囲とすると実現可能であり、臨界電流値100A級の酸化物超電導線材を得るためには基材の表面粗さRaを8.6nm超、9nm以下の範囲とすると実現可能であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、電力供給用超電導導体、超電導コイルなどに適用される超電導線材と超電導限流器などに適用される臨界電流値を抑制した酸化物超電導線材を作り分けすることができる技術として利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
A、B…超電導線材、10A、10B…基材、11…拡散防止層、12…ベッド層、15…中間層、16…キャップ層、17…酸化物超電導層、18…安定化層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、イオンビームアシスト蒸着法により結晶配向性が整えられてなる中間層と、該中間層の結晶配向性の影響を受けて結晶配向性が整えられたキャップ層と、該キャップ層の結晶配向性の影響を受けて結晶配向性が整えられた酸化物超電導層とが少なくとも設けられてなる超電導線材であって、酸化物超電導層が示す臨界電流値が異なる複数の超電導線材を製造し分けるに際し、
臨界電流値が異なるいずれの超電導線材を製造する場合であっても、酸化物超電導層は同一厚さに形成するとともに、
基材表面の表面粗さRaの値に応じて同一厚さの酸化物超電導層において得られる臨界電流値が上限値を示す表面粗さRaの値の内、最大値が存在し、この最大値よりも大きな表面粗さRaの範囲であって、この範囲の表面粗さRaの値に応じて先の臨界電流値の上限値よりも低い臨界電流値を示す酸化物超電導層が得られる範囲が存在し、この低い臨界電流値を示す範囲において、表面粗さRaの値が大きくなる程、臨界電流値が比例して低下する関係を利用し、臨界電流値が比例関係を示す範囲において基材の表面粗さRaを選定仕分けることにより、酸化物超電導層が示す臨界電流値が異なる複数の超電導線材を製造し分けることを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項2】
基材上に、ベッド層を介して中間層を形成することを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項3】
基材上に、拡散防止層とベッド層を介して中間層を形成することを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項4】
基材表面の表面粗さRaの値に応じて同一厚さの酸化物超電導層において得られる臨界電流値が上限値を示す範囲が2nm以上7nm未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項5】
Ni合金の基材とAlの拡散防止層とYのベッド層とMgOの中間層とRE−123系酸化物超電導層(REBaCu7−X:REは希土類元素)として超電導線材を製造するに際し、基材表面の表面粗さRaを2nm以上、7nm以下の範囲として臨界電流値Ic:400A級の超電導線材を製造する工程と、基材表面の表面粗さRaを7nm超、8nm以下の範囲として臨界電流値Ic:300A級の超電導線材を製造する工程と、基材表面の表面粗さRaを8nm超、8.6nm以下の範囲として臨界電流値Ic:200A級の超電導線材を製造する工程と、基材表面の表面粗さRaを8.6nm超、9.0nm以下の範囲として臨界電流値Ic:100A級の超電導線材を製造する工程の内、複数を組み合わせて酸化物超電導層が示す臨界電流値が異なる複数の超電導線材を製造し分けることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物超電導線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−249162(P2011−249162A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121749(P2010−121749)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】