説明

超音波探傷装置

【課題】装置を大型化することなく、被検査構造物内の微細信号を高精度に連続して捉えることの可能な超音波探傷装置を提供する。
【解決手段】液体中に配置された被検査構造物に発生した欠陥を、複数の振動子が線状に配列されたフェーズドアレイ探触子の電子制御により焦点位置を調整して非接触で検査する超音波探傷装置である。フェーズドアレイ探触子は、被検査構造物に超音波ビームを送信する送信用フェーズドアレイ探触子1と、被検査構造物からの超音波ビームを受信する受信用フェーズドアレイ探触子2が並設され、電子制御により調整された焦点位置に合せて送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2との超音波ビーム軸の交点位置を機械的に可変するビーム軸交点位置可変手段3を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば原子力施設における配管などの溶接構造物(被検査構造物)に発生したひびなどの内在欠陥を検出するための超音波探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、オーステナイト系の溶接金属の内部は、フェーズドアレイ探触子の各振動子からの超音波ビームが透過しにくく、また応力腐食割れ(SCC)などの欠陥深さを測定する場合、その欠陥先端からの信号は非常に微細なため、金属組織エコーに妨害されて検出することが困難であった。
【0003】
特に、完全に溶接金属部のみを透過させて探傷する必要がある場合には、妨害エコーの影響を極力低減させるため、二分割型のフェーズドアレイ探触子などを使用して、一定のポイントに超音波ビームを集中させて検出感度を向上させるような手段が採用されている。
【0004】
しかしながら、溶接金属部における欠陥深さは不明であることから、深さ方向の焦点位置が異なる複数の種類のフェーズドアレイ探触子を準備して超音波探傷を実施する必要があり、得られた複数の探傷結果から総合的に評価して欠陥深さを求めなければならなかった。
【0005】
一方、特許文献1に記載された技術は、複数個の振動子を有するフェーズドアレイ探触子を超音波センサとして用いるようにし、このフェーズドアレイ探触子から発信される超音波ビームが内側配管の肉厚部内で多重反射しながら、又は反射することなく直接に探傷目標領域に到達するように、探傷屈折角を順次変化させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−25676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したようにオーステナイト系の溶接金属内における超音波探傷はかなり困難であることから、複数の探傷結果に基づいて総合的に判断する必要があり、深さ方向の焦点位置の設定を変えながら何度も探傷する必要があった。
【0008】
特に、遠隔水中における超音波探傷では、アクセス装置を引き上げる度に設定条件を変えるか、あるいは予め想定されるだけの条件に対応可能なフェーズドアレイ探触子を具備させておいて探傷する必要があることから、超音波探傷に時間がかかるか、あるいは装置が大型化するなどの問題があった。
【0009】
本発明は上記事情を考慮してなされたものであり、装置を大型化することなく、被検査構造物内の微細信号を高精度に連続して捉えることの可能な超音波探傷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る超音波探傷装置は、液体中に配置された被検査構造物に発生した欠陥を、複数の振動子が線状に配列されたフェーズドアレイ探触子の電子制御により焦点位置を調整して非接触で検査する超音波探傷装置であって、前記フェーズドアレイ探触子は、前記被検査構造物に超音波ビームを送信する送信用フェーズドアレイ探触子と、前記被検査構造物からの超音波ビームを受信する受信用フェーズドアレイ探触子が並設され、前記電子制御により調整された焦点位置に合せて前記送信用フェーズドアレイ探触子と前記受信用フェーズドアレイ探触子との超音波ビーム軸の交点位置を機械的に可変するビーム軸交点位置可変手段を設けたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る超音波探傷装置は、液体中に配置された被検査構造物に発生した欠陥を、複数の振動子が線状に配列されたフェーズドアレイ探触子の電子制御により焦点位置を調整して非接触で検査する超音波探傷装置であって、前記フェーズドアレイ探触子の超音波送受信面に、前記被検査構造物に対向する面が凹面に形成された音響レンズを取り付け、前記凹面の曲率を前記電子制御により調整された焦点位置に合せて可変する凹面曲率可変手段を設けたことを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明に係る超音波探傷装置は、液体中に配置された被検査構造物に発生した欠陥を、複数の振動子が線状に配列されたフェーズドアレイ探触子の電子制御により焦点位置を調整して非接触で検査する超音波探傷装置であって、前記フェーズドアレイ探触子は、前記被検査構造物に超音波ビームを送信する送信用フェーズドアレイ探触子と、前記被検査構造物からの超音波ビームを受信する受信用フェーズドアレイ探触子が並設され、前記電子制御により調整された焦点位置に合せて前記送信用フェーズドアレイ探触子と前記受信用フェーズドアレイ探触子との超音波ビーム軸の交点位置を機械的に可変するビーム軸交点位置可変手段を設け、前記送信用フェーズドアレイ探触子の超音波ビーム送信面と、前記受信用フェーズドアレイ探触子の超音波ビーム受信面のそれぞれに、前記被検査構造物に対向する面が凹面に形成された音響レンズを取り付け、前記凹面の曲率を前記電子制御により調整された焦点位置に合せて可変する凹面曲率可変手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、探傷目的位置に超音波ビームを集中させて探傷することができる上、金属組織などに起因したノイズの影響も低減させて欠陥先端からの微細信号を高感度に連続して検出するため、装置を大型化することなく、被検査構造物の健全性を短時間で高精度に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る超音波探傷装置の第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態においてフェーズドアレイ探触子の角度可変機構を示す正面図である。
【図3】図2においてフェーズドアレイ探触子の角度を変えた状態を示す正面図である。
【図4】本発明に係る超音波探傷装置の第1実施形態の変形例を示す正面図である。
【図5】図4においてフェーズドアレイ探触子間の距離を変えた状態を示す正面図である。
【図6】本発明に係る超音波探傷装置の第2実施形態を示す斜視図である。
【図7】第2実施形態において音響レンズの幅を可変する機構を示す正面図である。
【図8】図7において音響レンズの幅を変えた状態を示す正面図である。
【図9】本発明に係る超音波探傷装置の第2実施形態の変形例を示す正面図である。
【図10】図9において音響レンズ内の圧力を変えた状態を示す正面図である。
【図11】本発明に係る超音波探傷装置の第1実施形態と第2実施形態を組み合せた第3実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る超音波探傷装置の各実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
(第1実施形態)
図1は本発明に係る超音波探傷装置の第1実施形態を示す斜視図である。図2は第1実施形態においてフェーズドアレイ探触子の角度可変機構を示す正面図である。図3は図2においてフェーズドアレイ探触子の角度を変えた状態を示す正面図である。
【0017】
なお、本実施形態では、フェーズドアレイ探触子は、原子炉内の水中に没した状態で取り付けられているので、いわゆる「水浸探傷法」(振動子と被検査構造物との間に水ギャップを設けて探傷する方法)での超音波探傷となる。但し、本発明のフェーズドアレイ探触子は、原子炉以外の各種容器内に取り付けることが可能であり、水中に限らずその他の液体中に没した状態で用いることもある。
【0018】
図1に示すように、本実施形態は、超音波ビームを送信するための送信用フェーズドアレイ探触子1と、超音波ビームを受信するための受信用フェーズドアレイ探触子2を備えている。これらのフェーズドアレイ探触子1およびフェーズドアレイ探触子2は、それぞれ図示しない振動子が複数、線(ライン)状に配列されている。また、フェーズドアレイ探触子1およびフェーズドアレイ探触子2は、それぞれケーブル11を介して図示しない探傷器に接続されている。
【0019】
さらに、送信用フェーズドアレイ探触子1と、受信用フェーズドアレイ探触子2は、超音波ビームのビーム軸が交点を結ぶような角度(挟角)を有して並設されている。また、送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2には、図2に示すようにそれぞれ送信および受信される超音波ビームのビーム軸交点位置を可変させるビーム軸交点位置可変手段としての調整用アクチュエータ3が双方を連結するように取り付けられている。そして、送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2は、それぞれの下端部がヒンジ4を介して回転可能な状態で固定されている。
【0020】
調整用アクチュエータ3は、図2および図3に示すように送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2の超音波ビームのビーム軸が交点を結ぶような角度を可変としている。
【0021】
また、送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2の電子制御により焦点位置を調整するには、種々の探傷条件(例えば、探傷屈折角度を変化させる場合の変化範囲やピッチ角度など)を予め記録されているプログラムにより設定する。
【0022】
調整用アクチュエータ3は、電子制御により調整された焦点位置に合せて、遠隔水中において送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2の上端部の距離を広げたり狭めたりするように作動することで、送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2の超音波ビームのビーム軸が交点を結ぶような角度を可変する。
【0023】
例えば、調整用アクチュエータ3の駆動部は、電子制御により調整された焦点位置の信号を取得し、その信号に基づいて送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2の上端部の距離を広げたり狭めたりするように作動する。これにより、電子制御により調整された焦点位置に合せて、各超音波ビームのビーム軸が交点を結ぶ角度を可変することとなる。
【0024】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0025】
まず、送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2から被検査構造物Aまでの距離を一定の水距離(振動子と被検査構造物Aとの間で超音波が水中を進行する距離)に設定する。そして、送信用フェーズドアレイ探触子1および受信用フェーズドアレイ探触子2のプログラムで探傷する屈折角度、焦点距離を設定する。
【0026】
次いで、図2および図3に示すように上記プログラムで設定した焦点深さに超音波ビーム5の交軸が合うように調整用アクチュエータ3を作動させて送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2の上端部の距離を広げたり狭めたりすることで、下端部がヒンジ4で回転可能に固定されていることから、送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2の角度を調整する。その後、探傷データの採取を実施し、屈折角度、焦点距離の条件パラメータを変えて探傷検査を繰り返す。
【0027】
このように超音波ビームの交点位置を調整するには、図2および図3に示すように調整用アクチュエータ3を作動させ、送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2の上端部の距離を広げたり狭めたりすることで、送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2の角度を変えることが可能となる。その結果、超音波ビーム5の交点位置は、被検査構造物A内で上下(深さ)方向に可変することとなる。
【0028】
したがって、本実施形態は、フェーズドアレイ探触子1,2による音の合成による音軸方向の音の集中位置、送受信交点による音の交差位置が一致し、任意の位置から設定した深さとそのごく限られた範囲にのみ超音波を集中することができるため、他の部位から発生する金属組織などに起因したノイズを低減して欠陥先端からの微細信号を捉えることが可能となる。
【0029】
また、一般の超音波探傷装置では、欠陥先端を探すため深さ方向の焦点位置を順次変更しながら探傷を行う必要があるか、あるいは予め想定されるだけの条件に対応可能なフェーズドアレイ探触子を具備させておく必要があるが、本実施形態では、フェーズドアレイ探触子のプログラムで設定する焦点距離に合せて、遠隔で機械的な焦点位置も可変することができるため、装置を大型化することなく、超音波探傷検査を連続して短時間で行うことが可能となる。
【0030】
その結果、本実施形態では、超音波ビームの減衰、散乱が大きく金属組織などに起因したノイズに影響されるため微細な欠陥先端からの信号が検出しにくいオーステナイト系溶接部内部における超音波探傷試験においても、探傷目的位置に超音波ビームを集中させて探傷することができる上、被検査構造物A全体に亘って金属組織などに起因したノイズの影響を低減しながら欠陥先端からの微細信号を高感度に連続して検出可能となり、被検査構造物Aの健全性を短時間で高精度に評価することが可能となる。
【0031】
また、本実施形態によれば、フェーズドアレイ探触子1,2を水浸式としたことにより、超音波送受信面の角度、形状が変化しても被検査構造物Aの探傷面に対する超音波ビームの伝播特性に変化が発生することなく、安定して超音波ビームを被検査構造物A内に送受信させることができる。
【0032】
(第1実施形態の変形例)
図4は本発明に係る超音波探傷装置の第1実施形態の変形例を示す正面図である。図5は図4においてフェーズドアレイ探触子間の距離を変えた状態を示す正面図である。なお、前記第1実施形態と同一または対応する部分には、同一の符号を付して説明する。その他の実施形態および変形例も同様である。
【0033】
前記第1実施形態では、送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2は、それぞれの下端部がヒンジ4を介して回転可能な状態で固定されていたが、本変形例では、図4および図5に示すように、送信用フェーズドアレイ探触子1と、受信用フェーズドアレイ探触子2は、それぞれの下部がガイドシャフト6により接続されている。
【0034】
ガイドシャフト6は、調整用アクチュエータ3を作動させることにより、送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2の傾き角度を一定とした状態で、送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2の双方を互いに平行移動させ、電子制御により調整された焦点位置に合せて、送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2間の距離を可変させることができる。
【0035】
次に、本変形例の作用を説明する。
【0036】
図4および図5に示すように、まず、送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2から被検査構造物Aまでの距離を一定の水距離に設定する。そして、送信用フェーズドアレイ探触子1および受信用フェーズドアレイ探触子2のプログラムで探傷する屈折角度、焦点距離を設定する。
【0037】
次いで、図4および図5に示すように上記プログラムで設定した焦点深さに超音波ビーム5の交軸が合うように調整用アクチュエータ3を作動させ、送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2の傾き角度は一定としたまま、調整用アクチュエータ3を作動させることで、送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2がガイドシャフト6に沿って平行移動する。
【0038】
すると、送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2間の距離を可変させることとなり、超音波ビーム5の交点位置を被検査構造物A内において上下(深さ)方向に可変することが可能となる。その後、探傷データの採取を実施し、屈折角度、焦点距離の条件パラメータを変えて探傷検査を繰り返す。
【0039】
このようにして調整される被検査構造物A内での超音波ビーム5の交点位置は、フェーズドアレイ探触子自体の電子制御による焦点位置設定と連動させて同じ深さに調整することにより、フェーズドアレイ探触子の電子制御による超音波ビームの設定位置への集中効果と、送信用フェーズドアレイ探触子1と受信用フェーズドアレイ探触子2のように送受信を分離させて超音波ビームを設定位置へ交差させるため交点近傍以外からの散乱ノイズの低減効果とが相俟って、金属組織などに起因したノイズの影響を低減しながら、より欠陥先端からの微細信号を高感度に検出することができるようになる。その他の構成および作用は、前記第1実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0040】
(第2実施形態)
図6は本発明に係る超音波探傷装置の第2実施形態を示す斜視図である。図7は第2実施形態において音響レンズの幅を可変する機構を示す正面図である。図8は図7において音響レンズの幅を変えた状態を示す正面図である。
【0041】
本実施形態では、図6に示すようにフェーズドアレイ探触子7の超音波送受信面全体に、被検査構造物Aに対向する面が凹面8aに形成された音響レンズ8が取り付けられている。この音響レンズ8の凹面8aの曲率は、遠隔水中にて可変することのできるように構成されている。フェーズドアレイ探触子7は、図示しない振動子が複数、線(ライン)状に配列されている。
【0042】
音響レンズ8は、凹面8aを構成する部分の材質は弾性体製であり、また音響レンズ8の内部は、水よりも音速の速いシリコンオイルなどの液体が充填され、凹面8aの形状を変形可能な構造であるにもかかわらず、安定して超音波ビームを送受信可能な構造となっている。
【0043】
音響レンズ8の両壁面は、図7および図8に示すように凹面曲率可変手段としての曲率変更アクチュエータ9により広げたり狭めたりすることができる構造となっている。そのため、音響レンズ8の幅が広がれば、弾性体で構成されている凹面8aの曲率は大きくなる一方、音響レンズ8の幅が狭まれば、凹面8aの曲率を小さくすることができることから、これに伴う超音波ビーム5の幅を任意の位置で絞ることが可能となる。
【0044】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0045】
まず、フェーズドアレイ探触子7から被検査構造物Aまでの距離を一定の水距離に設定する。そして、フェーズドアレイ探触子7のプログラムで探傷する屈折角度、焦点距離を設定する。
【0046】
次いで、図7および図8に示すように上記プログラムで設定した焦点深さに超音波ビーム5の交軸が合うように曲率変更アクチュエータ9を作動させ、音響レンズ8の両壁面を広げたり狭めたりする。
【0047】
すると、音響レンズ8の幅が広がれば、弾性体で構成されている凹面8aの曲率は大きくなる一方、音響レンズ8の幅が狭まれば、凹面8aの曲率を小さくすることができることから、これに伴う超音波ビーム5の幅を任意の位置で絞ることが可能となる。その後、探傷データの採取を実施し、屈折角度、焦点距離の条件パラメータを変えて探傷検査を繰り返す。
【0048】
このように本実施形態によれば、音響レンズ8の凹面8aがフェーズドアレイ探触子7の電子制御による焦点位置に合せて曲率を変化させることで、フェーズドアレイ探触子7自体の電子制御による焦点位置の設定と連動させて同じ深さに超音波ビーム5の幅を絞ることができ、フェーズドアレイ探触子7の電子制御による超音波ビームの設定位置への集中効果と、音響レンズ8による設定位置への集中効果とが相俟って、金属組織などに起因したノイズの影響を低減しながら、より欠陥先端からの微細信号を高感度に検出することができるようになる。その他の構成および作用は、前記第1実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0049】
(第2実施形態の変形例)
図9は本発明に係る超音波探傷装置の第2実施形態の変形例を示す正面図である。図10は図9において音響レンズ内の圧力を変えた状態を示す正面図である。
【0050】
前記第2実施形態では、音響レンズ8の幅を可変させるようにしたが、本変形例では、図9および図10に示すように、音響レンズ8の側面に凹面曲率可変手段としての圧力調整器10を取り付け、この圧力調整器10で音響レンズ8内に充填された液体の圧力を増減させることにより、フェーズドアレイ探触子7の電子制御による焦点位置に合せて音響レンズ8の凹面の曲率を可変することができるようにしている。その他の構成および作用は、前記第2実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0051】
(第3実施形態)
図11は本発明に係る超音波探傷装置の第1実施形態と第2実施形態を組み合せた第3実施形態を示す斜視図である。
【0052】
図11に示すように、本実施形態は、フェーズとアレイ探触子を、超音波ビームを送信するための送信用フェーズドアレイ探触子7aと、超音波ビームを受信するための受信用フェーズドアレイ探触子7bに分け、それぞれの超音波ビームのビーム軸が交点を結ぶような角度を有して並設されている。
【0053】
また、送信用フェーズドアレイ探触子7aと、受信用フェーズドアレイ探触子7bには、図11に示すようにそれぞれ送信および受信される超音波ビームのビーム軸交点位置を可変させるビーム軸交点位置可変手段としての調整用アクチュエータ3が双方を連結するように取り付けられている。
【0054】
送信用フェーズドアレイ探触子7aと、受信用フェーズドアレイ探触子7bは、前記第1実施形態およびその変形例と同様に、電子制御により調整された焦点位置に合せて、それぞれの超音波ビーム軸の交点位置を機械的に可変するようにしている。
【0055】
さらに、送信用フェーズドアレイ探触子7aと、受信用フェーズドアレイ探触子7bには、その超音波送受信面全体に、被検査構造物Aに対向する面が凹面8aに形成された音響レンズ8がそれぞれ取り付けられている。これらの音響レンズ8における凹面8aの曲率は、前記第2実施形態およびその変形例と同様に、電子制御により調整された焦点位置に合せて、それぞれ遠隔水中にて可変することのできるように構成されている。
【0056】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0057】
まず、送信用フェーズドアレイ探触子7aと受信用フェーズドアレイ探触子7bから被検査構造物Aまでの距離を一定の水距離に設定する。そして、送信用フェーズドアレイ探触子7aおよび受信用フェーズドアレイ探触子7bのプログラムで探傷する屈折角度、焦点距離を設定する。
【0058】
次いで、上記プログラムで設定した焦点深さに超音波ビーム5の交軸が合うように調整用アクチュエータ3を作動させて送信用フェーズドアレイ探触子7aと受信用フェーズドアレイ探触子7bの上端部の距離を広げたり狭めたりすることで、送信用フェーズドアレイ探触子7aと受信用フェーズドアレイ探触子7bの角度を調整する。
【0059】
また、上記プログラムで設定した焦点深さと同じ位置に超音波が集中するように音響レンズ8の曲率を調整する。その後、探傷データの採取を実施し、屈折角度、焦点距離の条件パラメータを変えて探傷検査を繰り返す。
【0060】
これにより、送信用フェーズドアレイ探触子7aと受信用フェーズドアレイ探触子7bによる音の合成による音軸方向の音の集中位置、送受信交点による音の交差位置、音響レンズ8によるビーム幅の絞られた位置が一致し、設定した深さのごく限られた範囲にのみに超音波を集中することができるため、他の部位から発生する金属組織などに起因したノイズを低減して欠陥先端からの微細信号を捉えることが可能となる。
【0061】
また、一般には、欠陥先端を探すため深さ方向の焦点位置を順次変更しながら探傷を行う必要があるが、送信用フェーズドアレイ探触子7aおよび受信用フェーズドアレイ探触子7bのプログラムで設定する焦点距離に合せて遠隔で機械的な焦点位置も可変することができるため、連続して検査を続行することが可能となり、その結果、装置を大型化することなく、被検査構造物A全体に亘って金属組織などに起因したノイズの影響を低減しながら、欠陥先端からの微細信号を短時間で高感度に検出することができる
すなわち、本実施形態によれば、フェーズドアレイ探触子7a,7bのように探触子を2つ設けるとともに、これらのフェーズドアレイ探触子7a,7bにそれぞれ音響レンズ8を取り付けたことにより、超音波ビームがフェーズドアレイ探触子7a,7bの電子制御により照射方向に絞り込んで焦点ができ、ビーム幅方向も音響レンズ8により絞り込まれ、さらに設定深さ近傍でのみ超音波ビーム5が交点を結ぶようにしたので、微小範囲に超音波ビームを集中させ、高精度で溶接金属内の微細信号を捉えることができ、金属組織などに起因したノイズの影響を低減しながら、より欠陥先端からの微細信号を短時間で高感度に検出することが可能となる。
【0062】
なお、本発明は、上記各実施形態に限定されることなく、種々の変更が可能である。例えば、上記第3実施形態では、前記第1実施形態と第2実施形態を組み合せた例について説明したが、これに限らず前記第1実施形態の変形例と第2実施形態を組み合せるようにしても、同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0063】
1…送信用フェーズドアレイ探触子
2…受信用フェーズドアレイ探触子
3…調整用アクチュエータ(ビーム軸交点位置可変手段)
4…ヒンジ
5…超音波ビーム
6…ガイドシャフト
7…フェーズドアレイ探触子
8…音響レンズ
8a…凹面
9…曲率変更アクチュエータ(凹面曲率可変手段)
10…圧力調整器(凹面曲率可変手段)
11…ケーブル
A…被検査構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中に配置された被検査構造物に発生した欠陥を、複数の振動子が線状に配列されたフェーズドアレイ探触子の電子制御により焦点位置を調整して非接触で検査する超音波探傷装置であって、
前記フェーズドアレイ探触子は、前記被検査構造物に超音波ビームを送信する送信用フェーズドアレイ探触子と、前記被検査構造物からの超音波ビームを受信する受信用フェーズドアレイ探触子が並設され、
前記電子制御により調整された焦点位置に合せて前記送信用フェーズドアレイ探触子と前記受信用フェーズドアレイ探触子との超音波ビーム軸の交点位置を機械的に可変するビーム軸交点位置可変手段を設けた、
ことを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項2】
前記ビーム軸交点位置可変手段は、前記電子制御により調整された焦点位置に合せて前記送信用フェーズドアレイ探触子と前記受信用フェーズドアレイ探触子の超音波ビームのビーム軸が交点を結ぶための角度を可変とした、
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項3】
前記ビーム軸交点位置可変手段は、前記電子制御により調整された焦点位置に合せて前記送信用フェーズドアレイ探触子と前記受信用フェーズドアレイ探触子の超音波ビームとの間の距離を可変とした、
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項4】
液体中に配置された被検査構造物に発生した欠陥を、複数の振動子が線状に配列されたフェーズドアレイ探触子の電子制御により焦点位置を調整して非接触で検査する超音波探傷装置であって、
前記フェーズドアレイ探触子の超音波送受信面に、前記被検査構造物に対向する面が凹面に形成された音響レンズを取り付け、
前記凹面の曲率を前記電子制御により調整された焦点位置に合せて可変する凹面曲率可変手段を設けた、
ことを特徴とする超音波探傷装置。
【請求項5】
前記凹面曲率可変手段は、前記凹面の材質が弾性体製であり、前記凹面の幅を機械的に広げたり狭めたりして前記凹面の曲率を可変する、
ことを特徴とする請求項4に記載の超音波探傷装置。
【請求項6】
前記凹面曲率可変手段は、前記音響レンズ内に水よりも音速の速い液体を充填し、前記音響レンズ内の液体の圧力を加減して前記凹面の曲率を可変する、
ことを特徴とする請求項4に記載の超音波探傷装置。
【請求項7】
液体中に配置された被検査構造物に発生した欠陥を、複数の振動子が線状に配列されたフェーズドアレイ探触子の電子制御により焦点位置を調整して非接触で検査する超音波探傷装置であって、
前記フェーズドアレイ探触子は、前記被検査構造物に超音波ビームを送信する送信用フェーズドアレイ探触子と、前記被検査構造物からの超音波ビームを受信する受信用フェーズドアレイ探触子が並設され、
前記電子制御により調整された焦点位置に合せて前記送信用フェーズドアレイ探触子と前記受信用フェーズドアレイ探触子との超音波ビーム軸の交点位置を機械的に可変するビーム軸交点位置可変手段を設け、
前記送信用フェーズドアレイ探触子の超音波ビーム送信面と、前記受信用フェーズドアレイ探触子の超音波ビーム受信面のそれぞれに、前記被検査構造物に対向する面が凹面に形成された音響レンズを取り付け、
前記凹面の曲率を前記電子制御により調整された焦点位置に合せて可変する凹面曲率可変手段を設けた、
ことを特徴とする超音波探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−247676(P2011−247676A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119259(P2010−119259)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】