説明

超音波探触子および超音波探傷方法

【課題】複雑形状を持つ被検査対象表面に対しても、容易に超音波探傷できるようにする。
【解決手段】超音波探触子10は、被検査体の超音波探傷を行うための超音波を発振して受信する超音波送受信素子11と、超音波送受信素子11と被検査体16の間に介在するシュー材12と、を有する。シュー材12は、高分子が架橋されて3次元網目構造をなして液体成分を吸収して膨潤した固体状の材料である高分子ゲル材料によって超音波の伝播路を形成する。シュー材12が被検査体16に当たる部分が凸面を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波探触子およびそれを用いた探傷方法に関するものであって、特に、複雑な形状の検査対象にも適用できる超音波探触子および超音波探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波探傷技術は、非破壊で構造材の健全性を確認することができる技術であり、様々な分野で欠くことができない技術として使用されている。特に近年は、検査対象の表面が曲面形状等の複雑形状部を持つ構造物に対しても検査要求があり、超音波探傷技術への要求が高度化している現状がある。
【0003】
一方で、対象が曲面形状等の複雑形状である場合には、超音波が適切に検査対象へ入射できない場合がある。たとえば、溶接線およびその熱影響部においては、溶接の入熱によるひずみや傘折れが生じたり、溶金を盛ったあとの凸形状など、設計上は平坦とすべき箇所が曲面などの複雑形状を持ってしまうことが多い。そのため、一般的に使用されているアクリルやポリスチレンなどのシュー材が被検査体の表面の形状に追従できず、超音波送受信素子から発振した超音波が被検査体内部へ透過せず、検査ができない場合がある。また、そもそも検査対象箇所が平坦でない形状を持つ配管ノズル部やエルボ部、T字形配管継手部や、タービン翼など、構造上複雑な形状を持つ対象も多い。近年までこのように複雑な形状を持つ対象に対しては、超音波探触子やシュー材を直接接触させることが困難であった。
【0004】
そのような課題を解決するために、たとえば特許文献1に記載された技術では、複雑形状に接触するための柔軟性を有するシュー材を用い、柔軟性を利用して被検査体の表面形状に合うように密着させ、超音波を入射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−263697号公報
【特許文献2】特開2010−38820号公報
【特許文献3】特許第4349073号公報
【特許文献4】特開2003−254947号公報
【特許文献5】特開2009−92650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、柔軟性を持つ材料として挙げられている材料例において、たとえばゴムは超音波減衰が非常に大きいという欠点がある。また、ゲル材の一部においては、やはり減衰が大きいものもある。また、柔軟性などの問題から、複雑形状に適していないゲル材もある。さらに、ゲル材は非圧縮性材料であるためゲル自体はほとんど収縮しない。そのため、シュー材がホルダーからはみ出すという問題がある。また、シュー材自体の形状と被検査体の表面形状の密着性の問題から、複雑形状に密着するものの、超音波が被検査体内部へ伝播しない状況が生じる場合がある。
【0007】
また、特許文献2に記載された例では、一般的なシュー材に柔軟性のゲル状部材を取り付ける超音波検査装置を提案している。しかし、たとえば一般的に使用されるアクリルやポリスチレンによるシュー材とゲルの間には音響インピーダンス差があるため、界面で超音波が反射される。これは、実際の探傷範囲にノイズとして現れるため、探傷範囲に不感帯が生じること、および界面反射により超音波の感度が低下し、検出性が低下するという問題がある。
【0008】
さらに、一般的な超音波探傷においては、水やグリセリンなど液状の接触媒質を被検査体表面に塗布する必要がある。しかし、接触媒質は、検査後の後処理が必要であることや、被検査体によっては嫌水性材料である場合も多く、使用を好まれない場合が多い。
【0009】
しかし、一般的なアクリル等のシュー材では接触媒質なしで超音波を被検査体へ入射することができない。この問題を解決するために、たとえば特許文献3では、被検査対象がコンクリートである場合に、液状のポリマー溶液を塗布し、そのポリマーの溶液をシート化させた後、そのシート上に接触媒質を塗布して探傷し、探傷後にそのシートを除去することで、被検査体へ接触媒質を直接塗布しない手法が提案されている。しかし、この提案では、被検査体へポリマー溶液を塗布する必要がある。そのため、検査に必要な探傷プローブと一体化されておらず、検査の利便性が低いという問題がある。
【0010】
さらに、特許文献4や特許文献5では、ゲル材をシュー材の材料として挙げているが、ゲル材の種類によっては超音波の伝播が困難な材料もある。
【0011】
この発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、複雑形状を持つ被検査対象表面に対しても、容易に超音波探傷できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る超音波探触子の一態様は、被検査体の超音波探傷を行うための超音波を発振して受信する超音波送受信素子と、前記超音波送受信素子と前記被検査体の間に介在して、高分子が架橋されて3次元網目構造をなして液体成分を吸収して膨潤した固体状の材料である高分子ゲル材料によって超音波の伝播路を形成するシュー材と、を有する超波探触子であって、前記シュー材が被検査体に当たる部分が、被検査体に当たる方向に向かって凸面を形成していることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る超音波探触子の他の一態様は、被検査体の超音波探傷を行うための超音波を発振してかつ受信する超音波送受信素子と、前記超音波送受信素子と前記被検査体の間に介在して、高分子が架橋されて3次元網目構造をなして液体成分を吸収して膨潤した固体状の材料である高分子ゲル材料によって超音波の伝播路を形成するシュー材と、を有する超波探触子において、前記被検査体の超音波探傷の対象となる部分の表面が凸面であって、前記シュー材が被検査体に当たる部分が、前記被検査体の超音波探傷の対象となる部分の表面の曲率半径よりも大きい曲率半径の凹面であること、を特徴とする。
【0014】
さらに、本発明に係る超音波探傷方法の一態様は、超音波を発振して受信する超音波送受信素子と超音波を伝播させるシュー材とを有する超波探触子を前記被検査体に押し付けて、前記超音波送受信素子で発振した超音波を前記シュー材を介して前記被検査体に伝播させ、前記被検査体で反射した超音波を前記シュー材を介して前記超波探触子で受信することによって被検査体の探傷を行う超音波探傷方法であって、前記シュー材は、前記超音波送受信素子と前記被検査体の間に介在して、高分子が架橋されて3次元網目構造をなして液体成分を吸収して膨潤した固体状の材料である高分子ゲル材料によって超音波の伝播路を形成するものであり、前記超波探触子を前記被検査体に押し付けるにあたり、初めは前記被検査体の表面の一か所の初期接触部が前記シュー材の一か所の初期接触部と接触し、さらに押し付けを進めることによって前記シュー材が変形して、接触部が前記初期接触部の周縁から連続して順次広がるようにして前記シュー材と前記被検査体とを接触させること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、複雑形状を持つ被検査対象表面に対しても、容易に超音波探傷することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る超音波探触子の第1の実施形態の断面図である。
【図2】図1のII−II線矢視縦断面図である。
【図3】本発明に係る超音波探触子の第1の実施形態のシュー材の幅を示す断面図である。
【図4】本発明に係る超音波探触子の第1の実施形態のシュー材の長さを示す縦断面図である。
【図5】本発明に係る超音波探触子の第1の実施形態を被検査対象表面に押し付けた状態を示す縦断面図である。
【図6】従来技術によるポリスチレン製シュー材を用いて音響接触媒質を塗布しない場合の超音波エコーの検出結果を示すタイムチャートである。
【図7】従来技術によるポリスチレン製シュー材を用いて音響接触媒質を塗布した場合の超音波エコーの検出結果を示すタイムチャートである。
【図8】本発明に係る超音波探触子の第1の実施形態によるポリスチレン系ゲルのシュー材を用いて音響接触媒質を塗布しない場合の超音波エコーの検出結果を示すタイムチャートである。
【図9】本発明に係る超音波探触子の第1の実施形態によるポリスチレン系ゲルのシュー材を用いて音響接触媒質を塗布した場合の超音波エコーの検出結果を示すタイムチャートである。
【図10】本発明に係る超音波探触子の第2の実施形態のシュー材の縦断面図であって、第1の実施形態の図2の方向から見た縦断面図である。
【図11】本発明に係る超音波探触子の第3の実施形態のシュー材の縦断面図である。
【図12】図11のXII−XII線矢視断面図である。
【図13】本発明に係る超音波探触子の第4の実施形態のシュー材の縦断面図である。
【図14】図13のXIV線矢視側面図である。
【図15】本発明に係る超音波探触子の第5の実施形態のシュー材の縦断面図である。
【図16】図15のXVI−XVI線矢視側断面図である。
【図17】本発明に係る超音波探触子の第6の実施形態のシュー材の縦断面図である。
【図18】図17のXVIII−XVIII線矢視断面図である。
【図19】本発明に係る超音波探触子の第7の実施形態のシュー材とそれに対向する被検査体表面付近を示す模式的断面図である。
【図20】本発明に係る超音波探触子の第8の実施形態のシュー材とそれに対向する被検査体表面付近を示す模式的断面図である。
【図21】本発明に係る超音波探触子の第9の実施形態の断面図であり、超音波探触子の先端が被検査対象表面に押し付けられてわずかに変形した状態を示す図である。
【図22】図21の超音波探触子が被検査対象表面にさらに押し付けられた状況を示す断面図である。
【図23】本発明に係る超音波探触子の第10の実施形態の断面図である。
【図24】本発明に係る超音波探触子の第11の実施形態の断面図であり、超音波探触子の先端が被検査体表面から離れた状態を示す図である。
【図25】図24の超音波探触子が被検査対象表面に押し付けられた状況を示す断面図である。
【図26】本発明に係る超音波探触子の第12の実施形態を示す図であって、図27のXXVI−のXXVI線矢視横断面図である。
【図27】図26のXXVII−XXVII線矢視縦断面図である。
【図28】本発明に係る超音波探触子の第13の実施形態のシュー材の縦断面図である。
【図29】本発明に係る超音波探触子の第14の実施形態のシュー材の縦断面図である。
【図30】本発明に係る超音波探触子の第15の実施形態のシュー材の縦断面図である。
【図31】本発明に係る超音波探触子の第16の実施形態の断面図である。
【図32】本発明に係る超音波探触子の第17の実施形態の断面図である。
【図33】本発明に係る超音波探触子の第18の実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。ここで、互いに同じまたは類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0018】
[第1の実施形態]
図1は、本発明に係る超音波探触子の第1の実施形態の断面図であり、図2は図1のII−II線矢視縦断面図である。図3は上記超音波探触子の第1の実施形態のシュー材の幅を示す断面図である。図4は上記超音波探触子の第1の実施形態のシュー材の長さを示す縦断面図である。図5は第1の実施形態の超音波探触子を被検査対象表面に押し付けた状態を示す縦断面図である。
【0019】
超音波探触子10は、超音波送受信素子11と、超音波送受信素子11に接触して取り付けられたシュー材12と、超音波送受信素子11およびシュー材12を保持する保持部(ホルダー)13と、保持部13の先端に取り付けられた接触保護部14とを有する。
【0020】
この超音波探触子10を用いて被検査体16の検査を行なうときは、シュー材12の先端部15を被検査体16に押し付けて、シュー材12を変形させて被検査体16とシュー材12とを密着させ、超音波送受信素子11から超音波を発振させ、その超音波をシュー材12中に伝搬させ、被検査体16に超音波を当てる。被検査体16の表面および内部で超音波が反射し、この反射した超音波が再びシュー材12中を伝搬して超音波送受信素子11で受信される。
【0021】
超音波送受信素子11は、たとえば、セラミクス製や複合材料、またはそれ以外の圧電効果により超音波を発生することができる圧電素子や高分子フィルムによる圧電素子またはそれ以外の超音波を発生できる機構と、超音波をダンピングするダンピング材と、超音波の発振面に取り付けられた前面板とを有する。超音波を発生するのみならず、超音波を受信して電気信号に変換する機能も有する。
【0022】
シュー材12は、超音波送受信素子11で発振された超音波を被検査体に伝送し、また、被検査体16で反射した超音波を超音波送受信素子11に伝送するものである。シュー材12は、高分子が架橋されて3次元網目構造を有し、液体成分(溶媒)を吸収して膨潤した固体状の材料である高分子ゲルとする。
【0023】
適用可能な高分子ゲルとしては、たとえば、スチレン系、ポリスチレン系、ポリエチレン系、ウレタン系、シリコン系のゲル材とする。使用する溶媒は、たとえば、水媒体であるハイドロゲル(ヒドロゲル)、または油性媒質であるリポゲル(オルガノゲル)とする。また、使用するゲルの硬度は、たとえば日本ゴム協会標準規格であるSRIS0101に規定されているアスカー硬度で、硬度0から50までのゲル材とする。なお、JIS K 6253タイプEにおける硬度表記もSRIS0101と同等である。さらに、ゲル材の伸び率に関して、1000%以上の伸び率を持つものが好ましい。以上の条件を持つゲル材を適用することで、超音波減衰が低く、かつ柔軟性を持ったシュー材として超音波探傷に適用可能である。
【0024】
保持部13は、たとえば金属製であって、超音波送受信素子11の背面および側面、ならびにシュー材12の側面を覆って、超音波送受信素子11およびシュー材12を保持している。
【0025】
保持部13の先端には接触保護部14は、例えば樹脂製であり、保持部13に固定されている。超音波探触子10を被検査体16に向かって押し付けたときに、接触保護部14が被検査体16に接触する。超音波探触子10を被検査体16に押し付けた状態で移動させて被検査体16上を走査する際、樹脂等の柔らかい材料を用いた接触保護部14により、被検査体16が超音波探触子10との摩擦で傷つくことを防止できる。
【0026】
シュー材12はほぼ直方体形状であって、シュー材12の先端部15の中央が、被検査体16の検査表面に向かって突出している。また、シュー材12の後端部17は平坦であって、超音波送受信素子11に密着している。
【0027】
シュー材12は先端部15に向かって徐々に細くなるようにテーパー部18が形成されている。
【0028】
また、図3および図4に示すように、超音波送受信素子2から発振する超音波の広がりの被検査体16の表面位置での幅SFよりもシュー材12の幅Wの方が大きい。
【0029】
この実施形態では、超音波探触子10を被検査体16に押し付けることによってシュー材12が柔軟に変形するので、被検査体16が複雑な形状であっても、図5に示すように、被検査体16とシュー材12を密着させることができる。また、超音波がシュー材12の内部を伝播するときの減衰が少ない。
【0030】
さらに、超音波探触子10を被検査体16に押し付けるにあたり、初めにシュー材12の先端部15の突出部が被検査体16の表面に当たり、シュー材12が押しつぶされて変形するに従って、被検査体16とシュー材12との接触部が次第に拡大していって、先端部15全体が被検査体16の表面に密着する。そのため、被検査体16とシュー材12との接触部に気泡ができて超音波の伝播に障害が生じるのを防ぐことができる。
【0031】
また、シュー材12の先端部15にテーパー部18が形成されていることにより、シュー材12が被検査体16に押し付けられ押しつぶされたときに横に広がることができ、シュー材12の先端部15と被検査体16との接触に悪影響が生じるのを避けることができる。
【0032】
一般に、シュー材12としてゲル材を適用する場合、高い柔軟性を持つことから圧縮性材料であると思われがちであるが、実際にはポアソン比は液体とほぼ等しく、押し付けてもほとんど体積変化しない非圧縮性材料である。このため、たとえば特許文献1に記載されたようにシュー材の先端部にテーパー部が形成されていない構造であると、たとえば被検査体の表面が平坦である場合でも、ホルダー内のゲルによるシュー材は、被検査体表面への押し付けに対してゲルの体積が逃れる場所がないことになり、シュー材と被検査体表面の接触部がきちんと接触できないという問題が生じる。
【0033】
この第1の実施形態では、シュー材12の先端部15にテーパー部18が形成されていることにより、シュー材12を押し付ける方向に対してゲルの体積を逃がすことができる。これにより、シュー材と被検査体表面との接触不良を防ぐことができる。
【0034】
つぎに、この実施形態の効果を確認する試験の結果について説明する。
【0035】
図6は、従来技術による厚さ30mmの硬質のポリスチレン製シュー材を用いて、音響接触媒質を塗布しない場合の超音波エコーの検出結果を示すタイムチャートである。この場合は、シュー材と被検査体との間の密着が不十分であるため、底面エコーを計測することができない。図7は図6の場合と同じポリスチレン製シューを用いて、さらに音響接触媒質を塗布した場合の超音波エコーの検出結果を示すタイムチャートである。この場合は、被検査体16の底面から反射する底面エコーB1およびその多重エコーを計測することができることがわかる。
【0036】
図8は、第1の実施形態の超音波探触子によるポリスチレン系ゲルのシュー材を用いて音響接触媒質を塗布しない場合の超音波エコーの検出結果を示すタイムチャートである。この場合は、図7の場合と同様に、被検査体16の底面から反射する底面エコーB1およびその多重エコーを計測することができることがわかる。さらに、図9は、図8の場合と同じくこの実施形態のポリスチレン系ゲルのシュー材を用いて音響接触媒質を塗布した場合の超音波エコーの検出結果を示すタイムチャートである。この場合も、図7および図8の場合と同様に、底面エコーB1およびその多重エコーを計測することができることがわかる。
【0037】
すなわち、この実施形態によれば、音響接触媒質の塗布の有無にかかわらず、底面エコーB1およびその多重エコーを計測することができる。したがって、超音波探傷を行なうに当たって、音響接触媒質の塗布作業を省くことができる。
【0038】
[第2の実施形態]
図10は、本発明に係る超音波探触子の第2の実施形態のシュー材の縦断面図であって、第1の実施形態の図2の方向から見た縦断面図である。
【0039】
この実施形態では、シュー材12の先端部15が、長手方向中央の突出点20で最も突出するように傾斜している。
【0040】
この実施形態では、シュー材12を被検査体16表面に押し付けるときに、初めにシュー材12の先端部15の突出点20が1点で被検査体16表面に接触する。シュー材12をさらに押し付けるに従って徐々にシュー材12が押しつぶされて変形して被検査体16表面との接触部が突出点20の周りに連続的に拡大していき、シュー材12の先端15の面全体が接触するようになる。このようにして、接触面に気泡が残るのを避けることができる。
【0041】
なお、第2の実施形態では、第1の実施形態に比べて、図1は共通で、図2に対応する図10は異なる形状とした。第2の実施形態の変形として、図1の方向から見た図で、シュー材12の先端部15が中央で突出していないものも可能である(図示省略)。この場合は、図10に示す長手方向中央の突出点20が図10の紙面に垂直な方向に直線的に延びた形状になる。その場合は、初めにシュー材12の先端15が被検査体16表面に接触するときは、長手方向中央の突出点20の1点でなくて、1本の線で接触することになる。そして、シュー材12を被検査体16にさらに押し付けていくと、シュー材12が押しつぶされて、接触部の線が次第に太くなっていく。この場合も接触面に気泡が残るのを避けることができる。
【0042】
[第3の実施形態]
図11は本発明に係る超音波探触子の第3の実施形態のシュー材の縦断面図であり、図12は図11のXII−XII線矢視断面図である。
【0043】
第1および第2の実施形態のシュー材12は横方向に長い略直方体であるとしたが、この第3の実施形態では、シュー材12が略正四角柱形状である。シュー材12の先端部15は、中央の一点の突出点20で最も突出するように傾斜している。
【0044】
この第3の実施形態では、第2の実施形態と同様に、シュー材12を被検査体16表面に押し付けるときに、初めにシュー材12の先端15の中央の突出点20が1点で被検査体16表面に接触し、さらに、シュー材12が押しつぶされて変形して被検査体16表面との接触部が中央の突出点20の周りに連続的に拡大していき、シュー材12の先端15の面全体が接触するようになる。このようにして、接触面に気泡が残るのを避けることができる。
【0045】
[第4の実施形態]
図13は本発明に係る超音波探触子の第4の実施形態のシュー材の縦断面図であり、図14は図13のXIV線矢視側面図である。
【0046】
この第4の実施形態では、シュー材12は、第3の実施形態と同様にほぼ正四角柱形状である。シュー材12の先端15は、その中央ではなくて、端部の一点の突出点21が最も突出するように傾斜している。
【0047】
この第4の実施形態では、シュー材12を被検査体16表面に押し付けるときに、初めにシュー材12の先端15の端部の突出点21が一点で被検査体16表面に接触し、さらに、シュー材12が押しつぶされて変形して被検査体16表面との接触部が点21から順次連続的に拡大していき、シュー材12の先端15の面全体が接触するようになる。このようにして、接触面に気泡が残るのを避けることができる。
【0048】
[第5の実施形態]
図15は本発明に係る超音波探触子の第5の実施形態のシュー材の縦断面図であって、図16は図15のXVI−XVI線矢視側断面図である。
【0049】
この第5の実施形態では、被検査体16の検査対象部の表面が凹面であり、シュー材12の先端部15は、この被検査体16の検査対象部の表面に適合して長手方向に湾曲した凸面をなしていて、しかも、シュー材12の先端部15の長手方向に沿ってその中央に線状の突出部22が形成されている。シュー材12の先端部15が被検査体16の検査対象部の表面に接触するときに、初めに、この線状の突出部22が被検査体16の検査対象部の表面と接触し、シュー材12をさらに押し付けていくと、シュー材12が押しつぶされて被検査体16との接触部の幅が次第に拡大していき、面接触となる。
【0050】
この第5の実施形態では、被検査体16の検査対象部の表面が凹面である場合に、第1ないし第4の実施形態と同様に、接触面に気泡が残るのを避けることができる。
【0051】
[第6の実施形態]
図17は本発明に係る超音波探触子の第6の実施形態のシュー材の縦断面図であって、図18は図17のXVIII−XVIII線矢視断面図である。
【0052】
この第6の実施形態では、第5の実施形態と同様に、被検査体16の検査対象部の表面が凹面であり、シュー材12の先端部15は、この被検査体16の検査対象部の表面に適合して長手方向に湾曲した凸面をなしている。そして、被検査体16の検査対象部の表面が凹面の曲率半径はシュー材12の先端部15の凸面の曲率半径よりも大きい。そのため、シュー材12の先端部15が被検査体16の検査対象部の表面に接触するときに、初めに、シュー材12の先端部15の長手方向の一か所で、長手方向に垂直な方向には短い1本の線状の突出部22が被検査体16の検査対象部の表面と接触する。シュー材12をさらに押し付けていくと、シュー材12が押しつぶされて被検査体16との接触部の幅が次第に拡大していき、面接触となる。
【0053】
この第6の実施形態では、第5の実施形態と同様に、被検査体16の検査対象部の表面が凹面である場合に、接触面に気泡が残るのを避けることができる。
【0054】
[第7の実施形態]
図19は、本発明に係る超音波探触子の第7の実施形態のシュー材とそれに対向する被検査体表面付近を示す模式的断面図である。
【0055】
この実施形態では、被検査体16の検査対象部の表面が凹面の曲率半径Rの球面であって、シュー材12の先端部15表面は凸面の曲率半径rの球面である。ここで、凹面の曲率半径Rは、凸面の曲率半径rよりも大きい。これにより、シュー材12の先端部15を被検査体16の検査対象部の表面に接触させて押し付けるときに、初めに、シュー材12の先端部15の一点40で接触し、その後、シュー材12をさらに押し付けて押しつぶしていくと、最初の接触点の周りに接触部が次第に拡大していき、接触面に気泡が残るのを避けることができる。
【0056】
上記説明では、被検査体16の検査対象部の表面とシュー材12の先端部15表面がともに球面であるとした。この実施形態の変形例として、被検査体16の検査対象部の表面が凹面の曲率半径Rの円柱面(円筒面)であって、シュー材12の先端部15表面は凸面の曲率半径rの円柱面であってもよい。この場合は、初めに、シュー材12の先端部15の一直線上で接触し、その後、シュー材12をさらに押し付けて押しつぶしていくと、最初の接触直線の幅方向に接触部が次第に拡大していき、接触面に気泡が残るのを避けることができる。
【0057】
[第8の実施形態]
図20は、本発明に係る超音波探触子の第8の実施形態のシュー材とそれに対向する被検査体表面付近を示す模式的断面図である。
【0058】
この実施形態では、被検査体16の検査対象部の表面が凸面の曲率半径Rの球面であって、シュー材12の先端部15表面は凹面の曲率半径rの球面である。ここで、凹面の曲率半径rは、凸面の曲率半径Rよりも大きい。この実施形態でも、第7の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、この実施形態でも、接触面が球面の代わりに円柱面であってもよい。
【0059】
なお、被検査体16の検査対象部の表面が図20に示すような凸面である場合は、シュー材12の先端部15表面は、必ずしも凹面でなくても、平面または凸面であってもよい。
【0060】
[第9の実施形態]
図21は本発明に係る超音波探触子の第9の実施形態の断面図であり、シュー材12の先端が被検査体16の対象表面に押し付けられてわずかに変形した状態を示す図である。図22は図21の超音波探触子10が被検査体16の対象表面にさらに押し付けられた状況を示す断面図である。
【0061】
この実施形態は第1の実施形態の変形例であって、第1の実施形態の接触保護部14(図1)がないものである。
【0062】
図21および図22に示すように、シュー材12の先端が被検査体16の対象表面に押し付けられて変形したときに、シュー材12の一部がテーパー部18に逃げることができるので、シュー材12と被検査体16の表面が密着する。
【0063】
[第10の実施形態]
図23は本発明に係る超音波探触子の第10の実施形態の断面図である。この実施形態は第9の実施形態の変形であって、テーパー部18がシュー材12の先端部15から後端部17まで延びている。この実施形態では、第9の実施形態よりもさらに、シュー材12の側面と保持部13との間の空間が大きくなっている。この場合も、シュー材12の先端が被検査体16の対象表面に押し付けられて変形したときに、シュー材12の一部がテーパー部18に逃げることができる。
【0064】
[第11の実施形態]
図24は、本発明に係る超音波探触子の第11の実施形態の断面図であり、超音波探触子の先端が被検査体表面から離れた状態を示す図である。図25は図24の超音波探触子が被検査対象表面に押し付けられた状況を示す断面図である。
【0065】
この実施形態は第9の実施形態(図21、図22)の変形例であって、シュー材12にテーパー部18を設ける代わりに、シュー材12の先端部15近くの周囲に位置する保持部13側壁が、先端部に向かって外側に広がった拡大部23を形成している。
【0066】
図25に示すように、シュー材12の先端が被検査体16の対象表面に押し付けられて変形したときに、シュー材12の一部が保持部13の拡大部23に逃げることができるので、シュー材12と被検査体16の表面が密着する。
【0067】
[第12の実施形態]
図26は、本発明に係る超音波探触子の第12の実施形態を示す図である。図27のXXVI−のXXVI線矢視横断面図である。図27は図26のXXVII−XXVII線矢視縦断面図である。
【0068】
この実施形態は、たとえば第9の実施形態(図21、図22)の変形であって、シュー材12はほぼ正四角柱であって、保持部13側壁が4面のうちの1面に切り欠き部24が形成されている。
【0069】
この実施形態では、シュー材12の先端が被検査体16の対象表面に押し付けられて変形したときに、シュー材12の一部が保持部13の切り欠き部24に逃げることができるので、シュー材12と被検査体16の表面が密着する。
【0070】
[第13の実施形態]
図28は本発明に係る超音波探触子の第13の実施形態のシュー材の縦断面図である。この実施形態では、シュー材12の側面に超音波散乱部30を設ける。超音波散乱部30はゲル材と同等の材料または他の材料とする。
【0071】
この実施形態によれば、シュー材12内部で発生する超音波の反射や散乱によるノイズを低減することができる。
【0072】
[第14の実施形態]
図29は本発明に係る超音波探触子の第14の実施形態のシュー材の縦断面図である。この実施形態では、シュー材12の側面に超音波吸収部31を設ける。超音波吸収部31はゲル材3と音響インピーダンスが近く、超音波減衰がゲル材の減衰より大きいものとする。
【0073】
この実施形態によれば、シュー材12内部で発生する超音波の反射や散乱によるノイズを低減することができる。
【0074】
[第15の実施形態]
図30は本発明に係る超音波探触子の第15の実施形態のシュー材の縦断面図である。この実施形態は第13および第14の実施形態の特徴を組み合わせたものであって、シュー材12の側面に、超音波散乱部30と超音波吸収部31の両方を設ける。
【0075】
この実施形態によれば、シュー材12内部で発生する超音波の反射や散乱によるノイズを低減することができる。
【0076】
[第16の実施形態]
図31は本発明に係る超音波探触子の第16の実施形態の断面図である。この実施形態は第1の実施形態の変形であって、保持部13のうちのシュー材12側面を取り囲む部分の外側に、第13の実施形態(図28)と同様の超音波散乱部30を設ける。
【0077】
この実施形態によれば、シュー材12内部で発生する超音波の反射や散乱によるノイズを低減することができる。
【0078】
[第17の実施形態]
図32は本発明に係る超音波探触子の第17の実施形態の断面図である。この実施形態は第16の実施形態の変形であって、保持部13のうちのシュー材12側面を取り囲む部分の外側に、第15の実施形態(図30)と同様の超音波散乱部30と超音波吸収部31の両方を設ける。
【0079】
この実施形態によれば、シュー材12内部で発生する超音波の反射や散乱によるノイズを低減することができる。
【0080】
なお、この実施形態の変形として、保持部13のうちのシュー材12側面を取り囲む部分の外側に、第14の実施形態(図29)と同様の超音波吸収部31のみを設けてもよい(図示せず)。
【0081】
[第18の実施形態]
図33は本発明に係る超音波探触子の第18の実施形態の断面図である。この実施形態はたとえば第1の実施形態の変形であって、シュー材12の後端部17すなわち超音波送受信素子11に対向する面が凸曲面をなしている。
【0082】
この実施形態によれば、超音波送受信素子11とシュー材12との接触界面に気泡が生じることを防止することができる。
【0083】
[他の実施形態]
以上説明した各実施形態は単なる例示であって、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0084】
たとえば、上記超音波探触子10は素子数が1個の単プローブや、1次元的に配列されたアレイセンサや、2次元的に配列されたマトリクスセンサであってもよい。
【0085】
また、上記各実施形態の特徴を種々に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0086】
10 超音波探触子
11 超音波送受信素子
12 シュー材
13 保持部(ホルダー)
14 接触保護部
15 先端部
16 被検査体
17 後端部
18 テーパー部
20、21 突出点
23 拡大部
24 切り欠き部
30 超音波散乱部
31 超音波吸収部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査体の超音波探傷を行うための超音波を発振して受信する超音波送受信素子と、
前記超音波送受信素子と前記被検査体の間に介在して、高分子が架橋されて3次元網目構造をなして液体成分を吸収して膨潤した固体状の材料である高分子ゲル材料によって超音波の伝播路を形成するシュー材と、
を有する超波探触子であって、
前記シュー材が被検査体に当たる部分が、被検査体に当たる方向に向かって凸面を形成していることを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記被検査体の超音波探傷となる部分の表面が凹面である場合に、前記シュー材が被検査体に当たる部分が、前記被検査体の超音波探傷の対象となる部分の表面の曲率半径よりも小さい曲率半径の凸面であること、を特徴とする請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
被検査体の超音波探傷を行うための超音波を発振してかつ受信する超音波送受信素子と、
前記超音波送受信素子と前記被検査体の間に介在して、高分子が架橋されて3次元網目構造をなして液体成分を吸収して膨潤した固体状の材料である高分子ゲル材料によって超音波の伝播路を形成するシュー材と、
を有する超波探触子において、
前記被検査体の超音波探傷の対象となる部分の表面が凸面であって、前記シュー材が被検査体に当たる部分が、前記被検査体の超音波探傷の対象となる部分の表面の曲率半径よりも大きい曲率半径の凹面であること、を特徴とする超音波探触子。
【請求項4】
前記シュー材は、前記超音波送受信素子から発信する超音波の広がり以上の幅を持つことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の超音波探触子。
【請求項5】
前記シュー材の、前記超音波送受信素子と前記被検査体に当たる面とを結ぶ直線からそれた側面に設けられ、超音波を散乱させる超音波散乱部を有すること、を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の超音波探触子。
【請求項6】
前記シュー材の、前記超音波送受信素子と前記被検査体に当たる面とを結ぶ直線からそれた側面に設けられ、超音波を吸収する超音波吸収部を有すること、を特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の超音波探触子。
【請求項7】
前記超音波送受信素子と前記被検査体に当たる面とを結ぶ直線からそれた側面を囲んで前記シュー材を保持する保持部を有し、
前記超音波送受信素子を前記被検査体に当てて押し付けたときに前記シュー材が前記側面に向かって広がる変形を許容する隙間空間が、前記シュー材と前記保持部との間に形成されていること、を特徴とする請求項6に記載の超音波探触子。
【請求項8】
前記シュー材は、前記被検査体に当たる面に向かって徐々に細くなるように形成されていること、を特徴とする請求項7に記載の超音波探触子。
【請求項9】
前記保持部は、前記被検査体に向かって徐々に広がるように形成されていること、を特徴とする請求項7に記載の超音波探触子。
【請求項10】
前記保持部の、前記シュー材に向う側と反対向きの側面に設けられ、超音波を散乱させる超音波散乱部を有すること、を特徴とする請求項7ないし請求項9のいずれか一項に記載の超音波探触子。
【請求項11】
前記保持部の、前記シュー材に向う側と反対向きの側面に設けられ、超音波を吸収する超音波する部を有すること、を特徴とする請求項7ないし請求項9のいずれか一項に記載の超音波探触子。
【請求項12】
超音波を発振して受信する超音波送受信素子と超音波を伝播させるシュー材とを有する超波探触子を前記被検査体に押し付けて、前記超音波送受信素子で発振した超音波を前記シュー材を介して前記被検査体に伝播させ、前記被検査体で反射した超音波を前記シュー材を介して前記超波探触子で受信することによって被検査体の探傷を行う超音波探傷方法であって、
前記シュー材は、前記超音波送受信素子と前記被検査体の間に介在して、高分子が架橋されて3次元網目構造をなして液体成分を吸収して膨潤した固体状の材料である高分子ゲル材料によって超音波の伝播路を形成するものであり、
前記超波探触子を前記被検査体に押し付けるにあたり、初めは前記被検査体の表面の一か所の初期接触部が前記シュー材の一か所の初期接触部と接触し、さらに押し付けを進めることによって前記シュー材が変形して、接触部が前記初期接触部の周縁から連続して順次広がるようにして前記シュー材と前記被検査体とを接触させること、
を特徴とする超音波探傷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2012−2586(P2012−2586A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136231(P2010−136231)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】