説明

超音波探触子及びその製造方法

【課題】圧電体から引き出される個別配線が千鳥配置となる超音波探触子において、個別配線を接着する際に導電性接着剤がはみ出して積層型圧電素子の側面電極との間に生じる短絡を防止する。
【解決手段】各々の積層型圧電素子が、複数の圧電体層と内部電極とが積層された積層構造体と、積層構造体の両端に形成された第1及び第2の平面電極と、積層構造体の第1及び第2の側面上に形成された第1及び第2の側面電極と、積層構造体の第2の側面側に形成された絶縁膜と、積層構造体の一方の端において、導電性接着材料を用いて第1の平面電極に接着された配線部材とを含み、第1の積層型圧電素子において、配線部材が積層構造体の第2の側面側に設けられ、絶縁膜が第2の側面電極と導電性接着材料とを電気的に分離し、第2の積層型圧電素子において、配線部材が積層構造体の第1の側面側に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用や構造物探傷用の超音波診断装置において超音波を送信及び/又は受信する複数の超音波トランスデューサを含む超音波探触子、及び、そのような超音波探触子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野においては、被検体の内部を観察して診断を行うために、様々な撮像技術が開発されている。特に、超音波を送受信することによって被検体の内部情報を取得する超音波撮像は、リアルタイムで画像観察を行うことができる上に、X線写真やRI(radio isotope)シンチレーションカメラ等の他の医用画像技術と異なり、放射線による被曝がない。そのため、超音波撮像は、安全性の高い撮像技術として、産科領域における胎児診断の他、婦人科系、循環器系、消化器系等を含む幅広い領域において利用されている。
【0003】
超音波撮像とは、音響インピーダンスが異なる領域の境界(例えば、構造物の境界)において超音波が反射される性質を利用する画像生成技術である。通常、超音波診断装置(又は、超音波撮像装置、超音波観測装置とも呼ばれる)には、被検体に接触させて用いられる超音波探触子や、被検体の体腔内に挿入して用いられる超音波探触子が備えられている。あるいは、被検体内を光学的に観察する内視鏡と体腔内用の超音波探触子とを組み合わせた超音波内視鏡も使用されている。
【0004】
超音波探触子において超音波を送信及び/又は受信する超音波トランスデューサとしては、例えば、圧電体の両端に電極を形成した圧電振動子(圧電素子)が用いられる。振動子の電極に電圧を印加すると、圧電体が伸縮して超音波が発生する。さらに、複数の振動子を1次元又は2次元状に配列し、所定の遅延を与えた複数の駆動信号によって駆動することにより、超音波ビームを所望の方向に向けて形成することができる。一方、振動子は、伝播する超音波を受信することによって伸縮し、電気信号を発生する。この電気信号は、超音波の受信信号として用いられる。
【0005】
そのようなアレイ型超音波探触子において、各素子には、共通電極(アース電極)及び個別電極(アドレス電極)が設けられる。各素子の個別電極から配線を引き出すためには、導電性の接着材料を用いて、圧電体の上面又は下面に形成された電極に配線用の基板が接着される。
【0006】
圧電素子の構造は、1つの圧電体の両側に電極が形成された単層構造が基本であるが、近年のMEMS(マイクロエレクトロメカニカルシステム)関連の機器の開発に伴う圧電素子の微細化及び集積化により、複数の圧電体と複数の電極とが交互に積層された積層型の圧電素子も用いられるようになっている。そのような圧電素子においては、複数の圧電体層に電界を印加するための電極を並列に接続することにより、圧電素子全体としての静電容量を大きくすることができるので、圧電素子のサイズを小さくしても、電気インピーダンスの上昇を抑えることができる。
【0007】
超音波探触子において用いられる積層型圧電素子には、大別して、内部電極が全面電極構造のものと、内部電極が交互電極構造のものとが見られる。いずれの構造であっても、内部電極は、側面電極を介して、積層型圧電素子の上面及び下面にそれぞれ形成された共通電極及び個別電極に交互に接続され、各層の圧電体に対して電界をかけられるようになっている。
【0008】
ところで、探触子を小型化して行くと、アレイに含まれている各振動子の幅が小さくなり、個別配線用基板上の配線パターン幅が細くなると共に、隣接する配線パターンとの間隔が狭くなるので、個別配線の引き出し作業が困難になる。この問題を解決するために、圧電体から引き出される個別配線が千鳥配置となるように個別配線用基板を接続する手法が用いられている。この手法によれば、個別配線の引き出し部が圧電体の両側に交互に形成されるので、隣接する電極の間隔が広くなって作業性が向上する。しかしながら、その反面、共通電極と同じ側にも個別配線用基板を接着することになるので、個別配線用基板を接着する際に導電性接着剤がはみ出してしまうと、導電性接着剤が積層型圧電素子の側面電極に短絡する可能性が高い。
【0009】
単層型圧電素子を用いる超音波探触子の場合においても、特に高周波用に圧電体が薄くなると電極間の距離が近くなり、個別配線用基板を接着させるために導電性接着剤を押し広げると、容易に圧電体の側面を伝わって短絡が生じてしまう。例えば、電極間距離が130μmの場合に、歩留まりは50%となる。積層型圧電素子を用いる場合には、圧電素子の側面にも電極があるので電極間の距離が極めて近くなり、個別配線用基板を接着する際に導電性接着剤がはみ出してしまうと、容易に導電性接着剤が側面電極に接触して短絡が生じることになる。
【0010】
関連する技術として、特許文献1には、圧電振動子の幅を狭くしても、圧電振動子側の電極とフレキシブルテープの導電パターンとの導通が確実にとれ、かつ余剰分の半田による短絡が生じないようにする圧電振動子ユニットが開示されている。この圧電振動子ユニットは、フレキシブルテープの接続部分における導電パターンの導通有効幅を圧電振動子の幅よりも広く設けると共に、圧電振動子の接続部に導電パターンと重合しない非重合領域を設け、導電パターンの接合時に熔けた半田の余剰分を非重合領域に逃がすように構成されている。
【0011】
また、特許文献2には、接続部材によって複数の電気機械変換素子を積層接続することにより、音響出力を増大させた超音波振動子が開示されている。この超音波振動子は、電気信号を機械的動作に変換させて超音波を放射させる電気機械変換素子と、前記電気機械変換素子の超音波放射面側に設けられた音響整合層材と、前記電気機械変換素子の超音波放射面側の反対の面に設けられたバッキング材と、塑性変形を行うことにより電気的に前記電気機械変換素子と接続される接続部材と、前記接続部材のうち電気的な接続がされる部分以外の該接続部材の表面に設けられた絶縁部材とを備えている。
【0012】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2には、圧電体から引き出される個別配線が千鳥配置となる場合に、個別配線を接着する際に導電性接着剤がはみ出すことによって生じる積層型圧電素子の側面電極への短絡を防止することは開示されていない。
【特許文献1】特開2000−117973号公報
【特許文献2】特開2006−320512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、複数の積層型圧電素子を備えた超音波探触子において、圧電体から引き出される個別配線が千鳥配置となる場合に、個別配線を接着する際に導電性接着剤がはみ出すことによって積層型圧電素子の側面電極との間に生じる短絡を防止することを目的とする。さらに、本発明は、側面電極の機械的強度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の1つの観点に係る超音波探触子は、列状に配置された複数の積層型圧電素子を含む超音波探触子であって、複数の積層型圧電素子の各々が、複数の圧電体層と少なくとも1つの内部電極とが交互に積層された積層構造体と、積層構造体の一方の端に位置する圧電体層上に形成された第1の平面電極と、積層構造体の他方の端に位置する圧電体層上に形成された第2の平面電極と、積層構造体の第1の側面上に形成され、第1及び第2の平面電極及び少なくとも1つの内部電極の内で第1の平面電極を含む奇数番目の電極に接続された第1の側面電極と、積層構造体の第2の側面上に形成され、第1及び第2の平面電極及び少なくとも1つの内部電極の内で偶数番目の電極に接続された第2の側面電極と、積層構造体の第2の側面側に形成された絶縁膜と、積層構造体の一方の端において、導電性接着材料を用いて第1の平面電極に接着された配線部材とを具備し、複数の積層型圧電素子の内の第1の積層型圧電素子において配線部材が積層構造体の第2の側面側に設けられ、複数の積層型圧電素子の内の第1の積層型圧電素子に隣接する第2の積層型圧電素子において配線部材が積層構造体の第1の側面側に設けられており、第1の積層型圧電素子において絶縁膜が第2の側面電極と導電性接着材料とを電気的に分離する。
【0015】
また、本発明の1つの観点に係る超音波探触子の製造方法は、列状に配置された複数の積層型圧電素子を含む超音波探触子の製造方法であって、複数の圧電体層と少なくとも1つの内部電極とが交互に積層された積層構造体を作製するステップ(a)と、積層構造体の周囲を導電膜でコーティングし、導電膜の一部を除去することによって、積層構造体の一方の端に位置する圧電体層上に形成された第1の平面電極と、積層構造体の他方の端に位置する圧電体層上に形成された第2の平面電極と、積層構造体の第1の側面上に形成され、第1及び第2の平面電極及び少なくとも1つの内部電極の内で第1の平面電極を含む奇数番目の電極に接続された第1の側面電極と、積層構造体の第2の側面上に形成され、第1及び第2の平面電極及び少なくとも1つの内部電極の内で偶数番目の電極に接続された第2の側面電極とを形成するステップ(b)と、積層構造体の第2の側面側に絶縁膜を形成するステップ(c)と、積層構造体の一方の端において、導電性接着材料を用いて第1の平面電極に配線部材を接着するステップ(d)と、積層構造体を切断して複数の積層型圧電素子を製造するステップ(e)とを具備し、複数の積層型圧電素子の内の第1の積層型圧電素子において配線部材が積層構造体の第2の側面側に設けられ、複数の積層型圧電素子の内の第1の積層型圧電素子に隣接する第2の積層型圧電素子において配線部材が積層構造体の第1の側面側に設けられており、第1の積層型圧電素子において絶縁膜が第2の側面電極と導電性接着材料とを電気的に分離する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第1の積層型圧電素子において絶縁膜が第2の側面電極と導電性接着材料とを電気的に分離するので、配線部材を接着する際に導電性接着剤がはみ出すことによって積層型圧電素子の側面電極との間に生じる短絡を防止することができる。その結果、製造時の作業難易度を下げて、歩留まりを向上させることができる。また、側面電極は物理的に弱いが、側面電極を絶縁膜で覆うことによって、製造中の機械的ダメージに対する強度を持たせることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子の内部構造を示す図である。図1において、(a)は正面図であり、(b)は左側面図であり、(c)は右側面図である。
【0018】
この超音波探触子は、列状に配置された複数の積層型圧電素子11a及び11bを含んでいる。各々の積層型圧電素子は、複数の圧電体層1a及び1bと少なくとも1つの内部電極2aとが交互に積層された積層構造体と、積層構造体の下端に位置する圧電体層1a上に形成された平面電極4aと、積層構造体の上端に位置する圧電体層1b上に形成された平面電極4bと、積層構造体の右側面上に形成された絶縁膜5aと、積層構造体の右側面上に形成され、平面電極4a及び4b及び少なくとも1つの内部電極2aの内で平面電極4aを含む奇数番目の電極に接続された側面電極3aと、積層構造体の左側面上に形成され、平面電極4a及び4b及び少なくとも1つの内部電極2aの内で偶数番目の電極に接続された側面電極3bと、積層構造体の左側面側に形成された絶縁膜6と、積層構造体の下端において、導電性接着材料8a又は8bを用いて平面電極4aに接着された配線部材7a又は7bとを有している。
【0019】
2種類の積層型圧電素子11a及び11bは、一次元状に交互に配列され、バッキング材10によって支持されている。積層型圧電素子11a及び11bの上には、被検体との界面における超音波の反射を軽減して音響整合を図るための音響整合層9が配置されている。
【0020】
ここで、平面電極4aと側面電極3aと平面電極4bの主部とが個別電極に相当し、側面電極3bと平面電極4bの一部とが共通電極に相当する。一般に、共通電極は、接地電位に接続される。配線部材7a又は7bとしては、例えば、フレキシブル基板上に形成された個別配線用の複数の配線パターンが用いられる。積層型圧電素子からの個別電極の引き出し配線が千鳥配置となるように、積層型圧電素子11aにおいては、配線部材7aが積層構造体の左側面側に設けられており、積層型圧電素子11bにおいては、配線部材7bが積層構造体の右側面側に設けられている。
【0021】
本実施形態においては、積層型圧電素子11aにおいて、絶縁膜6が、側面電極3bと導電性接着材料8aとを電気的に分離することにより、それらの間に生じる短絡を防止すると共に、側面電極3bの機械的強度を向上させている。図1に示す例においては、絶縁膜6が、側面電極3bのほぼ全露出面を覆っている。
【0022】
圧電体層1a及び1bは、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電材料を用いて形成され、例えば、130μm程度以下の厚さを有している。また、内部電極2aは、白金(Pt)や銀パラジウム(Ag−Pd)等の金属材料を用いて形成され、例えば、1μm〜3μm程度の厚さを有している。
【0023】
側面電極3a及び3bと平面電極4a及び4bとしては、例えば、金(Au)、白金(Pt)、チタン(Ti)等の内から選択された1種類の材料の電極や、クロム(Cr)と金(Au)の2層構造の電極や、ニッケル(Ni)とチタン(Ti)と白金(Pt)の3層構造の電極が用いられる。
【0024】
絶縁膜5a及び6としては、例えば、エポキシ系若しくはシリコーン系等の熱可塑性樹脂、又は、ウレタンアクリレート系若しくはオキセタン系等の光硬化性樹脂を含む高絶縁性樹脂が用いられる。このような樹脂においては、ヤング率が、例えば、1.3×109Pa〜2.0×109Paと、ガラス等に比較して非常に小さい。そのため、圧電体層1a及び1bが伸縮しようとするときに、絶縁膜5a及び6も圧電体層1a及び1bの伸縮(変位)に追随できるので、絶縁膜5a及び6に起因する圧電体層1a及び1bの変位の制動は殆どない。
【0025】
図2A〜図2Gは、本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子の製造方法を説明するための図である。ここでは、2層の圧電体層を有する積層型圧電素子を含む超音波探触子を製造する場合について説明する。
【0026】
まず、図2Aに示すように、圧電体層1aと内部電極2aと圧電体層1bとを積層することによって、積層構造体を作製する。この積層構造体は、例えば、グリーンシート法を用いて作製しても良いし、内部電極を形成した圧電体のバルク材を積層することにより作製しても良いし、粉体状の材料を下層に向けて高速で吹き付けることにより材料を堆積させるエアロゾルデポジション(AD)法を用いて作製しても良い。なお、AD法は、セラミックス膜の形成方法として近年注目されている成膜方法である。
【0027】
次に、図2Bに示すように、積層構造体の一方の側面(図中右側)において、内部電極2aの端部を覆う絶縁膜5aを形成する。ここで、光硬化性樹脂を用いることにより、絶縁膜の形成工程を簡単にすることができる。また、ディスペンサを用いることにより、液体状態の光硬化性樹脂を積層構造体の所望の領域に配置することができる。
【0028】
次に、図2Cに示すように、例えばスパッタ等の物理的蒸着法によって、積層構造体の側面電極3a及び3bと平面電極4a及び4bとなる電極材(導電膜)をコートする。電極材の形成は、2つの側面と2つの平面について連続的に行われても良いし、別個に行われても良い。また、積層構造体の前面及び背面には電極材が形成されないようにする。
【0029】
次に、図2Dに示すように、平面電極4aと側面電極3bとを電気的に分断するために、平面電極4aを含む面と側面電極3bを含む面とが交わる積層構造体の角部(圧電体層1aの一部を含む)に溝を形成する。この例においては、ダイシングソー又はカッティングソーに装着されて回転するダイシングブレードを用いて、積層構造体の角部をアレイ配列方向に切り欠く。また、平面電極4bと側面電極3bとを電気的に分断するために、平面電極4bにおいても溝を形成する。この例においては、ダイシングブレードを用いて、平面電極4bの側面電極3b側の端部付近における電極材をアレイ配列方向に切り欠く。
【0030】
次に、図2Eに示すように、側面電極3bの表面と、側面電極3bの端部を含む切り欠部(溝)の一部に、高絶縁性樹脂を塗布することにより、絶縁膜6を形成する。この例においては、絶縁膜6が側面電極3bのほぼ全露出面を被覆しているが、導電性接着材料8a(図1)が側面電極3bに接しない限り、絶縁膜6が側面電極3bの端部近傍のみを覆っても構わない。また、切り欠部において、絶縁膜6が、側面電極3bの端部を覆い、平面電極4aの端部を覆わないようにする。ここで、光硬化性樹脂を用いることにより、絶縁膜の形成工程を簡単にすることができる。また、ディスペンサを用いることにより、液体状態の光硬化性樹脂を積層構造体の所望の領域に配置することができる。
【0031】
次に、図2Fに示すように、積層型圧電素子がバッキング材10に支持された状態において、左側の配線部材7aと右側の配線部材7bとが、アレイ配列方向において配線パターンが左右交互に並ぶように配置される。そして、導電性接着剤料8a及び8bを用いて、配線部材7aを平面電極4aの側面電極3b側の端部に接着し、同様に、配線部材7bを平面電極4aの側面電極3a側の端部に接着する。このとき、導電性接着材料8aは、絶縁膜6上にも形成されるが、絶縁膜6によって、側面電極3bからは電気的に分離される。
【0032】
図2Gに示すように、側面電極3a及び3b、平面電極4a及び4b、及び、絶縁膜5a及び6が形成された積層構造体を所定の間隔(配線部材7a又は7bの配列ピッチの半分に相当)で切断することにより、一次元状に配列された積層型圧電素子群が形成される。その際に、導電性接着材料8a及び導電性接着材料8bも切断することにより、隣接する積層型圧電素子同士が絶縁される。これにより、積層型圧電素子11aと積層型圧電素子11bとが交互に配列されたアレイ構造が完成し、それらの積層型圧電素子11a及び11bが超音波探触子の超音波トランスデューサ(圧電振動子)として機能するようになる。
【0033】
積層型圧電素子においては、対向する電極の面積が単層型圧電振動子よりも増加するので、電気的インピーダンスが低下する。従って、同じサイズの単層型圧電振動子と比較して、印加される電圧に対して効率良く動作する。具体的には、圧電体層をN層とすると、圧電体層の数は単層型圧電振動子のN倍となり、各圧電体層の厚さは単層型圧電振動子の1/N倍となるので、振動子の電気インピーダンスは1/N2倍となる。従って、圧電体層の積層数を増減させることにより、振動子の電気的インピーダンスを調整できるので、駆動回路又は信号ケーブルとの電気的インピーダンスマッチングを図り易くなり、感度を向上させることができる。
【0034】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第1の実施形態においては、2層の圧電体層を有する全面電極構造の積層構造体の例を示したが、第2の実施形態においては、3層の圧電体層を有する全面電極構造の積層構造体の例を示す。
【0035】
図3は、本発明の第2の実施形態に係る超音波探触子を示す正面図である。図3に示すように、3層目の圧電体層として、圧電体層1b上に内部電極2bを介して圧電体層1cが設けられている。内部電極2bの側面電極3b側の端部に絶縁膜5bが形成されているので、内部電極2bは、側面電極3aに電気的に接続されるが、側面電極3bからは電気的に絶縁される。また、平面電極4b及び圧電体層1cには、側面電極3a側をアレイ配列方向に切断する切り欠部(溝)が設けられている。従って、平面電極4bは、側面電極3bに電気的に接続接続されるが、側面電極3aからは電気的に絶縁される。これにより、圧電体層1cには、圧電体層1aと同様の電界が印加される。
【0036】
このように、3層以上の圧電体層を有する積層型圧電素子の場合には、対向する2つの電極が互いに逆の極性となるように、内部電極の端部をいずれかの側面電極3a又は3bに接続し、反対側の端部に絶縁膜を形成する。また、平面電極4bも、対向する内部電極と逆の極性となるように、いずれかの側面電極3a又は3bに接続する。但し、側面電極3bを共通電極とし、側面電極3aを個別電極とする点は、第1の実施形態と同様である。また、絶縁膜6を設けることにより、個別電極に配線部材を接着するための導電性接着材料8aが側面電極3bに短絡することを防止する点も、第1の実施形態と同様である。
【0037】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。第2の実施形態においては、積層構造体の角部に切り欠きを形成することにより、平面電極4aと側面電極3bとを絶縁し、平面電極4bと側面電極3aとを絶縁する例を示したが、第3の実施形態においては、積層構造体の角部に絶縁樹脂による絶縁膜を設ける例を示す。
【0038】
図4は、本発明の第3の実施形態に係る超音波探触子を示す正面図である。図4に示すように、側面電極3aの平面電極4b側の端部の内側に、絶縁樹脂による絶縁膜5cが設けられており、側面電極3bの平面電極4a側の端部の内側に、絶縁樹脂による絶縁膜5dが設けられている。これにより、側面電極3aと平面電極4bとが絶縁され、側面電極3bと平面電極4aとが絶縁される。
【0039】
絶縁膜6は、絶縁膜5dによって側面電極3bと平面電極4aとが分離されている角部を覆っている。第3の実施形態においても、側面電極3bの平面電極4a側の端部が絶縁膜6によって被覆されるので、導電性接着材料8aと側面電極3bとの短絡を防止することができる。
【0040】
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。第1〜第3の実施形態においては、全面電極構造の積層構造体の例を示したが、第4の実施形態においては、交互電極構造の積層構造体の例を示す。
【0041】
図5は、本発明の第4の実施形態に係る超音波探触子を示す正面図である。図5に示すように、内部電極2aは、側面電極3aの側面に達することなく圧電体内に納まり、内部電極2bは、側面電極3bの側面に達することなく圧電体内に納まっている。従って、内部電極2aと側面電極3aとは絶縁され、内部電極2bと側面電極3bとは絶縁されている。また、平面電極4aも内部電極2bと同様に側面電極3bの側面まで達することがなく、平面電極4bも、内部電極2aと同様に側面電極3aの側面まで達することがない。これにより、平面電極4aと側面電極3bとは絶縁され、平面電極4bと側面電極3aとは絶縁される。
【0042】
絶縁膜6は、側面電極3bのほぼ全露出面と共に、圧電体層1aの側面電極3b側の角部を覆っている。交互電極構造の場合においても、側面電極3bの平面電極4a側の端部が絶縁膜6によって被覆されるので、導電性接着材料8aと側面電極3bとの短絡を防止することができる。
【0043】
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。
図6は、本発明の第5の実施形態に係る超音波探触子を示す正面図である。第5の実施形態においては、図6に示すように、導電性接着材料8aが、絶縁膜6の上方部分まで形成されている。導電性接着材料8aは、切り欠部(溝)をはみ出して、平面電極4a側において絶縁膜6の大部分を覆っている。
【0044】
このように、導電性接着材料8aが、平面電極4aの端部と配線部材7aとの接合部分のみならず、絶縁膜6を広範囲に覆うことにより、接合部分及び積層構造体側面の機械的強度を向上させることができる。また、導電性接着剤を十分に充填することにより、電気的な接続不良を防止することが可能となる。
【0045】
次に、本発明の第6の実施形態について説明する。第6の実施形態は、第1の実施形態を変形したものであるが、第2又は第5の実施形態を同様に変形するようにしても良い。
図7は、本発明の第6の実施形態に係る超音波探触子の内部構造を示す図である。図7において、(a)は正面図であり、(b)は左側面図であり、(c)は右側面図である。
【0046】
第1の実施形態に係る超音波探触子を製造する場合に、図2Eに示すように、側面電極3bの表面と、側面電極3bの端部を含む切り欠部(溝)の一部に、高絶縁性樹脂を塗布することにより、絶縁膜6が形成される。この工程において、切り欠部に露出した側面電極3bの端部を確実に覆うためには、高絶縁性樹脂の量を多くしなければならず、高絶縁性樹脂が切り欠部からはみだしてしまうおそれがある。高絶縁性樹脂が切り欠部からはみだしてしまうと、平面電極4a上に高絶縁性樹脂が広がって、平面電極4aと配線部材7a(図2F)との間の物理的接続及び電気的接続が不良となる。そこで、第6の実施形態においては、図7に示すように、側面電極3bと平面電極4aとを分断するための切り欠部を、2段構成としている。
【0047】
次に、本発明の第6の実施形態に係る超音波探触子の製造方法について説明する。図2Cに示すように、積層構造体の側面電極3a及び3bと平面電極4a及び4bとなる電極材(導電膜)をコートし、図2Dに示すように、平面電極4bと側面電極3bとを電気的に分断するために、平面電極4bにおいて溝を形成する工程までは、第1の実施形態と同様である。
【0048】
図8A〜図8Cは、本発明の第6の実施形態に係る超音波探触子の製造方法を説明するための図である。図8Aに示す積層構造体において、平面電極4aと側面電極3bとを電気的に分断するために、図8Bに示すように、平面電極4aを含む面と側面電極3bを含む面とが交わる積層構造体の角部(圧電体層1aの一部を含む)に、平面電極4aを含む面から第1の深さで、且つ、側面電極3bを含む面から第2の深さ(例えば、30μm程度)で溝を形成する。この例においては、ダイシングソー又はカッティングソーに装着されて回転するダイシングブレードを用いて、積層構造体の角部をアレイ配列方向に切り欠く。
【0049】
さらに、図8Cに示すように、平面電極4aを含む面から該第1の深さよりも浅い第3の深さで、且つ、側面電極3bを含む面から該第2の深さよりも深い第4の深さ(例えば、30μm+30μm=60μm程度)で溝を形成する。これにより、2段構成の切り欠部が形成される。この例においては、ダイシングブレードを用いて、積層構造体の角部をアレイ配列方向に切り欠く。なお、このような工程を繰り返すことによって、多段構成の切り欠部を形成しても良い。
【0050】
図8Cに示す例においては、積層構造体の側面に、それらの間に段差を有する3つの領域(a)〜(c)が形成されることになる。領域(a)の一部及び領域(b)に高絶縁性樹脂を塗布すれば、領域(b)と領域(c)との間の段差によって表面張力が強められるので、高絶縁性樹脂が領域(c)に広がることを防止することができる。しかも、高絶縁性樹脂は、切り欠部に露出する側面電極3bの端部を確実に覆うことができるので、超音波探触子の歩留まりを向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、医療用や構造物探傷用の超音波診断装置において超音波を送信及び/又は受信する複数の超音波トランスデューサを含む超音波探触子において利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子の内部構造を示す図である。
【図2A】本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子の製造方法を説明するための図である。
【図2B】本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子の製造方法を説明するための図である。
【図2C】本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子の製造方法を説明するための図である。
【図2D】本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子の製造方法を説明するための図である。
【図2E】本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子の製造方法を説明するための図である。
【図2F】本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子の製造方法を説明するための図である。
【図2G】本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子の製造方法を説明するための図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る超音波探触子を示す正面図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る超音波探触子を示す正面図である。
【図5】本発明の第4の実施形態に係る超音波探触子を示す正面図である。
【図6】本発明の第5の実施形態に係る超音波探触子を示す正面図である。
【図7】本発明の第6の実施形態に係る超音波探触子の内部構造を示す図である。
【図8A】本発明の第6の実施形態に係る超音波探触子の製造方法を説明するための図である。
【図8B】本発明の第6の実施形態に係る超音波探触子の製造方法を説明するための図である。
【図8C】本発明の第6の実施形態に係る超音波探触子の製造方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0053】
1a、1b、1c 圧電体層
2a、2b 内部電極
3a、3b 側面電極
4a、4b 平面電極
5a、5b、5c、5d、6 絶縁膜
7a、7b 配線部材
8a、8b 導電性接着材料
9 音響整合層
10 バッキング材
11a、11b 積層型圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列状に配置された複数の積層型圧電素子を含む超音波探触子であって、前記複数の積層型圧電素子の各々が、
複数の圧電体層と少なくとも1つの内部電極とが交互に積層された積層構造体と、
前記積層構造体の一方の端に位置する圧電体層上に形成された第1の平面電極と、
前記積層構造体の他方の端に位置する圧電体層上に形成された第2の平面電極と、
前記積層構造体の第1の側面上に形成され、前記第1及び第2の平面電極及び前記少なくとも1つの内部電極の内で前記第1の平面電極を含む奇数番目の電極に接続された第1の側面電極と、
前記積層構造体の第2の側面上に形成され、前記第1及び第2の平面電極及び前記少なくとも1つの内部電極の内で偶数番目の電極に接続された第2の側面電極と、
前記積層構造体の前記第2の側面側に形成された絶縁膜と、
前記積層構造体の前記一方の端において、導電性接着材料を用いて前記第1の平面電極に接着された配線部材と、
を具備し、前記複数の積層型圧電素子の内の第1の積層型圧電素子において前記配線部材が前記積層構造体の前記第2の側面側に設けられ、前記複数の積層型圧電素子の内の前記第1の積層型圧電素子に隣接する第2の積層型圧電素子において前記配線部材が前記積層構造体の前記第1の側面側に設けられており、前記第1の積層型圧電素子において前記絶縁膜が前記第2の側面電極と前記導電性接着材料とを電気的に分離する、超音波探触子。
【請求項2】
前記第1の平面電極を含む面と前記第2の側面電極を含む面とが交わる前記積層構造体の角部に第1の溝が形成されており、前記第2の平面電極においても前記第1の溝と平行に第2の溝が形成されていることにより、前記第1の平面電極と前記第1の側面電極と前記第2の平面電極の一部とを含む個別電極と、前記第2の側面電極と前記第2の平面電極の一部とを含む共通電極とが形成されている、請求項1記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記第1の平面電極を含む面と前記第2の側面電極を含む面とが交わる前記積層構造体の角部に、前記第1の平面電極を含む面から第1の深さで且つ前記第2の側面電極を含む面から第2の深さで溝を形成し、さらに、前記第1の平面電極を含む面から該第1の深さよりも浅い第3の深さで且つ前記第2の側面電極を含む面から該第2の深さよりも深い第4の深さで溝を少なくとも形成することにより、前記第1の溝が形成されている、請求項2記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記導電性接着材料が、前記絶縁膜の一部を覆うように形成されている、請求項1〜3のいずれか1項記載の超音波探触子。
【請求項5】
前記絶縁膜が、樹脂を含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の超音波探触子。
【請求項6】
前記複数の圧電体層の各々が、130μm以下の厚さを有する、請求項1〜5のいずれか1項記載の超音波探触子。
【請求項7】
列状に配置された複数の積層型圧電素子を含む超音波探触子の製造方法であって、
複数の圧電体層と少なくとも1つの内部電極とが交互に積層された積層構造体を作製するステップ(a)と、
前記積層構造体の周囲を導電膜でコーティングし、前記導電膜の一部を除去することによって、前記積層構造体の一方の端に位置する圧電体層上に形成された第1の平面電極と、前記積層構造体の他方の端に位置する圧電体層上に形成された第2の平面電極と、前記積層構造体の第1の側面上に形成され、前記第1及び第2の平面電極及び前記少なくとも1つの内部電極の内で前記第1の平面電極を含む奇数番目の電極に接続された第1の側面電極と、前記積層構造体の第2の側面上に形成され、前記第1及び第2の平面電極及び前記少なくとも1つの内部電極の内で偶数番目の電極に接続された第2の側面電極とを形成するステップ(b)と、
前記積層構造体の前記第2の側面側に絶縁膜を形成するステップ(c)と、
前記積層構造体の前記一方の端において、導電性接着材料を用いて前記第1の平面電極に配線部材を接着するステップ(d)と、
前記積層構造体を切断して前記複数の積層型圧電素子を製造するステップ(e)と、
を具備し、前記複数の積層型圧電素子の内の第1の積層型圧電素子において前記配線部材が前記積層構造体の前記第2の側面側に設けられ、前記複数の積層型圧電素子の内の前記第1の積層型圧電素子に隣接する第2の積層型圧電素子において前記配線部材が前記積層構造体の前記第1の側面側に設けられており、前記第1の積層型圧電素子において前記絶縁膜が前記第2の側面電極と前記導電性接着材料とを電気的に分離する、超音波探触子の製造方法。
【請求項8】
ステップ(b)が、前記第1の平面電極を含む面と前記第2の側面電極を含む面とが交わる前記積層構造体の角部に第1の溝を形成し、前記第2の平面電極においても前記第1の溝と平行に第2の溝を形成することにより、前記第1の平面電極と前記第1の側面電極と前記第2の平面電極の一部とを含む個別電極と、前記第2の側面電極と前記第2の平面電極の一部とを含む共通電極とを形成することを含む、請求項7記載の超音波探触子の製造方法。
【請求項9】
ステップ(b)が、前記第1の平面電極を含む面と前記第2の側面電極を含む面とが交わる前記積層構造体の角部に、前記第1の平面電極を含む面から第1の深さで且つ前記第2の側面電極を含む面から第2の深さで溝を形成し、さらに、前記第1の平面電極を含む面から該第1の深さよりも浅い第3の深さで且つ前記第2の側面電極を含む面から該第2の深さよりも深い第4の深さで溝を少なくとも形成することにより、前記第1の溝を形成することを含む、請求項8記載の超音波探触子の製造方法。
【請求項10】
ステップ(b)が、ダイシングブレードを用いて第1及び/又は第2の溝を形成することを含む、請求項8又は9記載の超音波探触子の製造方法。
【請求項11】
ステップ(c)が、ディスペンサを用いて絶縁膜を形成することを含む、請求項7〜10のいずれか1項記載の超音波探触子の製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図2G】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【公開番号】特開2009−255036(P2009−255036A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304103(P2008−304103)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】