説明

超音波探触子

【課題】アレイ分割時(ダイシング時)の切削負荷による層間剥離の発生を抑えることができるとともに、被着体側の変形を抑えることができるため、音響性能を向上させることができる超音波探触子を提供する。
【解決手段】圧電振動子1と、圧電振動子の一方の面側に形成された第1電極層1aと、第1電極層に第1接着層を介して積層された1又は2以上の導電性の音響整合層3と、音響整合層上に第2接着層を介して積層され、第2接着層側に電極パターンが形成された第1のフィルム4と、圧電振動子の他方の面側に形成された第2電極層1bと、第2電極層に第3接着層を介して積層され、第3接着層側の面に電極パターンが形成された第2のフィルム6と、第2のフィルムの他方の面側に第4接着層を介して積層された背面負荷材7とを備え、第1乃至第4接着層のうち、少なくとも1つの接着層に繊維状又はフレーク状の充填剤10、11を配合させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を被検者の体内に放射し、各体内組織の境界で反射する超音波から体内の画像を表示することが可能な超音波診断装置に接続される超音波探触子に関する。
【背景技術】
【0002】
次に、図面を用いて本発明の従来技術について説明する。図5は従来の超音波探触子の構成を示す図である(例えば下記の特許文献1参照)。この図の説明において「上」及び「下」とはそれぞれ図面の紙面平面における上方向及び下方向を言うものとする。図5において、両面に電極を設けた圧電振動子51は、超音波を送受信するための素子である。圧電振動子51の上面には第1の電極層として第1の接地電極層51aが、下面には第2の電極層として第1の正電極層51bが、それぞれ形成されている。
【0003】
導体の音響整合層53は、被検体(生体)に超音波を効率よく送受信するためのもので、加圧硬化された絶縁性の接着剤層52を介して、圧電振動子51の上面(接地電極層51a側)に積層されている。音響整合層53上には、加圧硬化された絶縁性接着剤層52を介して、ポリイミドなどの高分子フィルム54が積層されている。高分子フィルム54は、音響整合層としてのフィルム本体54aと、このフィルム本体54aの絶縁性接着剤層52側に形成された導体層(銅層)54bとの2層からなる。生体との音響的な整合を更に図るため、前記フィルム本体54aの面上に、接着剤層を介して高分子材料などの音響整合層55を積層することもある。更に前記音響整合層55の面上には音響レンズ58を設ける。
【0004】
なお、圧電振動子51と圧電振動子51上に積層されている複数の音響整合層は、ダイシングにより、電気的に独立した複数のアレイに分割されている。圧電振動子51の下面(第1の正電極層51b側)には、加圧硬化された絶縁性接着剤層52を介してFPC(Flexible Printed Circuits)56が積層されている。このFPC56は、ポリイミドのベース部56bと、このベース部56b上の圧電振動子51側には、圧電振動子51に対応した導電パターン56aが形成されている。又、FPC56の両サイド(図5中の背面負荷材57の左右の部分)は、圧電振動子51との積層部分より延出し、延出部分の両端は電極取出し部58が形成されている。背面負荷材57はFPC56のベース部56b側に接着剤を介して取り付けられ、圧電振動子51を機械的に支え、圧電振動子51に音響的に制動をかけて、超音波パルス波形を短くする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−123497号公報(第3−5頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の超音波探触子においては、圧電振動子51の第1の接地電極層51aと導電性の音響整合層53、及び音響整合層53と導電パターンが形成された高分子フィルム54、また、前記圧電振動子51の第1の正電極層51bとFPC56の導電パターン56aとを、絶縁性であるエポキシ樹脂接着剤を用いてそれぞれ積層し、少なくとも、3Kgf/cm2以上の圧力Pを印加し、これらを固着する。
【0007】
接着剤が硬化する過程において、接着剤の体積の減少が生じる。被着体に接着されている部分、つまり超音波放射面は、上述した材料により拘束されているため、接着剤の収縮により応力が発生し、接着後の接合体に内部応力として残留する。内部応力により、真の接着強度よりも実際の接着強度は低下する。その為、アレイ分割時(ダイシング時)の切削負荷により、層間剥離が発生する。また、内部応力によって被着体側が変形するため、超音波放射面が歪み、超音波探触子の音響性能が劣化するという課題を有していた。
【0008】
本発明は、従来の問題を解決するためになされたもので、品質を良好に維持した構造の超音波探触子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明によれば、超音波を送受信する圧電振動子と、前記圧電振動子において超音波受信方向と交差する第1の面に形成された第1電極層と、前記第1電極層に第1接着層を介して積層された1又は2以上の導電性の音響整合層と、前記音響整合層上に第2接着層を介して積層され、前記第2接着層側に電極パターンが形成された第1のフィルムと、前記圧電振動子の他方の面側に形成された第2電極層と、前記第2電極層に第3接着層を介して積層され、前記第3接着層側の面に電極パターンが形成された第2のフィルムと、前記第2のフィルムの他方の面側に第4接着層を介して積層された背面負荷材とを備える超音波探触子であって、前記第1乃至第4接着層のうち、少なくとも1つの接着層に繊維状又はフレーク状の充填剤を配合させたことを特徴とする超音波探触子が提供される。
この構成により、アレイ分割時(ダイシング時)の切削負荷による層間剥離の発生を抑えることができるとともに、被着体側の変形を抑えることができるため、音響性能を向上させることができる。
【0010】
また、本発明の超音波探触子において、前記各接着層が加圧加熱硬化された熱硬化型2液性接着剤で形成されていることは、本発明の好ましい態様である。
【0011】
また、本発明の超音波探触子において、前記繊維状の充填剤又は前記フレーク状の充填剤が前記熱硬化型2液性接着剤より低熱膨張性の性質を有していることは、本発明の好ましい態様である。
【0012】
また、本発明の超音波探触子において、前記繊維状の充填剤の長手方向が、前記圧電振動子の超音波放射面と略平行になるように配向していることは、本発明の好ましい態様である。
【0013】
また、本発明の超音波探触子において、前記フレーク状の充填剤の平面と前記圧電振動子の超音波放射面が略平行となっていることは、本発明の好ましい態様である。
【0014】
また、本発明の超音波探触子において、前記繊維状の充填剤又は前記フレーク状の充填剤が導電性又は絶縁性であることは、本発明の好ましい態様である。
【0015】
また、本発明の超音波探触子において、前記繊維状の充填剤が、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、亜鉛繊維、アルミナ繊維、アラミド繊維からなる群から選ばれた一種又は二種以上の混合物であることは、本発明の好ましい態様である。
【0016】
また、本発明の超音波探触子において、前記フレーク状の充填剤が、グラファイト、タングステン、ガラス、銀からなる群から選ばれた一種又は二種以上の混合物であることは、本発明の好ましい態様である。
【0017】
また、本発明の超音波探触子において、前記繊維状の充填剤又は前記フレーク状の充填剤がシランカップリング剤で表面処理してなるものであることは、本発明の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の超音波探触子は、アレイ分割時(ダイシング時)の切削負荷による層間剥離の発生を抑えることができるとともに、被着体側の変形を抑えることができるため、音響性能を向上させることができる。すなわち、各接着層に繊維状又はフレーク状の充填剤を配合し、硬化収縮を低減させる方向に繊維状の充填材の長手方向又はフレーク状の充填剤の長手方向を配向させる。これにより、音響材料積層方向、つまり超音波出射方向は、接着剤の硬化収縮により、材料間が極めて薄くなり、対向する材料が密着するので音響性能が向上する。超音波放射面方向(面の広がり方向)は、前記絶縁性接着剤の硬化収縮が低減されるので、接着強度は改善され、アレイ分割時(ダイシング時)の切削負荷による層間剥離の発生が抑えられる。結果、被着体側の変形が抑えられるので、超音波探触子の音響性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1a】本発明の実施の形態に係る超音波探触子の斜視図
【図1b】本発明の実施の形態に係る超音波探触子の概略断面図
【図2a】本発明の実施の形態に用いられる接着剤層中の充填剤を示す概略斜視図
【図2b】本発明の実施の形態に用いられる接着剤層中の他の充填剤を示す概略斜視図
【図3】本発明の実施の形態に用いられる接着剤の硬化収縮を示す概略断面図
【図4】本発明の実施の形態における別の構成からなる超音波探触子の概略断面図
【図5】従来の超音波探触子の概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。図1aは本発明の実施の形態に係る超音波探触子の斜視図を示し、図1bは概略断面図を示している。なお、図の説明において「上」とは図面の上方向を言うものとする(図2a、図2b、図3、図4においても同様とする)。図1a、図1bにおいて、圧電振動子1は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛[Pb(Zr,Ti)]: Lead Titanate Zirconate)系などの圧電セラミックス、単結晶、及びPVDF(ポリフッ化ビニリデン:PolyVinylidene DiFluoride)などの高分子などを用いた圧電素子である。複数の圧電振動子1の一方の面上には第1の電極層として第1の接地電極層1aが、他方の面側には第2の電極層として第1の正電極層1bが、前もってそれぞれ形成されている。
【0021】
本実施の形態では、第1の接地電極層1a、第2の正電極層1bは、高周波化に有効な厚さ1000オングストローム程度の金スパッタ電極層としたが、材質を限定するものではない。圧電振動子1の第1の接地電極層1a側には、接着剤2aを介して、超音波を効率良く伝播させるための導体の第1の音響整合層3が積層されている。導体の第1の音響整合層3には、例えばグラファイトなどが用いられている。さらに、第1の音響整合層3上には、接着剤2bを介して、第1のフィルムとしての高分子フィルム4が積層されている。高分子フィルム4は、音響整合層としてのフィルム本体4a(不図示)と、このフィルム本体4aの接着剤2b側に形成された、例えば銅層からなる電極パターン4b(不図示)との2層からなる。
【0022】
そして、この高分子フィルム4の端部は、圧電振動子1との積層部分より延出し、延出部分の先端は接地用電気端子(図示せず)に電気的に接続される。なお、電極パターン4bの銅層表面には、蒸着、めっき、スパッタリングにより、金又はニッケル層などを形成し、酸化防止を行うのが望ましい。フィルム本体4aの面上には、接着剤2cを介して、超音波を効率良く伝播させるための、高分子材料などの第2の音響整合層5を積層している。第2の音響整合層5の材料としては、例えばエポキシやポリイミド、ポロエチレンテレフタレート、ポリサルフォン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイドなどがある。
【0023】
さらに第2の音響整合層5の面上には、接着剤層(不図示)を介して音響レンズ8が積層されている。これはシリコーンゴムやウレタンゴム、プラスチックなどの材料で形成され、超音波を収束するためのもので、上側(被検体側)が凸曲面形状をしている。圧電振動子1の第1の正電極層1b側には、接着剤2dを介して、第2のフィルムとしてのFPC6が積層されている。このFPC6は、ポリイミドのベース部6a(不図示)と、このベース部6a上の圧電振動子1側には、圧電振動子1に対応するように形成された、例えば銅層からなる導電パターン6bとで構成されている。
【0024】
また、FPC6の両サイド(図1a中で、背面負荷材7の手前側と奥側の部分)は、圧電振動子1との積層部分より延出し、延出部分の両端は信号用電気端子(図示せず)に電気的に接続される。なお、導電パターン6bの銅層表面には、蒸着、めっき、スパッタリングにより、金又はニッケル層などを形成し、酸化防止を行うのが望ましい。背面負荷材7はFPC6のベース部6a(不図示)側に、接着剤2eを介して取り付けられ、圧電振動子1を機械的に支え、圧電振動子1に音響的な制動をかけて、超音波パルス波形を短くする。背面負荷材7は、フェライトゴムやエポキシ、ウレタンゴムなどにマイクロバルーンやタングステン粉末などを混入した材料を用いる。各々の音響材料を積層し接着する接着剤2a、2b、2c、2d、2eは、その中に繊維状若しくはフレーク状の充填剤を配合した熱硬化型2液性接着剤である。なお、充填剤はフレーク状のみでなく平坦な板状のものであってもよい。
【0025】
次に、以上のように構成された超音波探触子の動作を説明する。超音波診断装置本体(図示せず)の送信部から送信された複数の電気信号は、ケーブル(図示せず)及びFPC6を介して、アレイ状に配列された複数の圧電振動子1に印加される。圧電振動子1は、加えられた電気信号に対応して、超音波(機械振動)を励起(送波)する。励起された超音波は、第1の音響整合層3、第2の音響整合層5、音響レンズ8によって生体との音響的な整合が図られ、音響レンズ8で収束されて生体内へ送波される。
【0026】
また、圧電振動子1は、圧電効果により、生体より戻って来た超音波に対応して電気信号を発生(受波)する。電気信号に変換された後、ケーブルを介して超音波診断装置本体の受信部に送信される。受信部で受信した信号を処理し、超音波診断装置本体の表示部に受信信号の画像を表示することにより、患者の体内の画像をモニター上で確認できる。これらの動作は従来の超音波探触子と同様のものであるが、本発明の超音波探触子は、上記の本体の送信、受信方式に限定されるものではない。
【0027】
ところで、背面負荷材7とFPC6との間、圧電振動子1の第1の正電極層1bとFPC6の導電パターン6b(不図示)との間、圧電振動子1の第1の接地電極層1aと導電性の第1の音響整合層3との間、導電性の第1の音響整合層3と電極パターン4b(不図示)が形成された高分子フィルム4との間、高分子フィルム4と第2の音響整合層5との間には、その中に繊維状若しくはフレーク状の充填剤を配合した熱硬化型2液性接着剤2e、2d、2a、2b、2cがそれぞれ介在している。
【0028】
上述した接着剤2e、2d、2a、2b、2cについて図2を用いて詳細に説明する。図2a、図2bは本発明の実施の形態に用いられる接着剤層中の充填剤を示す概略斜視図を示している。図2aは接着剤の中に繊維状の充填剤を配合した例を示し、図2bは接着剤の中にフレーク状の充填剤を配合した例を示している。
【0029】
図2aにおいて、接着剤32には熱硬化型2液性エポキシ系接着剤を用いている。まず、熱硬化型2液性接着剤の主剤に、繊維状充填剤10を一定量配合する。繊維状充填剤10は、熱硬化型2液性の接着剤32より低熱膨張性の性質を有しているものを選択する。例えば、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、亜鉛繊維、アルミナ繊維、アラミド繊維からなる群から選ばれた一種又は二種以上の混合物でもよい。ここでは、炭素繊維を使用した例について説明する。熱硬化型2液性の接着剤32における炭素繊維の繊維状充填剤10の配合量は、接着剤組成物全体に対し炭素繊維の繊維状充填剤10の含有率が通常、2〜30重量%になるよう配合する。配合量が2重量%を下回ると線膨張係数の低下効果がなく、他方、30重量%を越えると接着強度の低下が生じるとともに、接着剤32の流動性が不足して接着剤層厚の均一性が劣化する。
【0030】
次に、炭素から成る繊維の繊維状充填剤10を配合した熱硬化型2液性の接着剤32の主剤を攪拌し、主剤中の繊維状充填剤10を均一に分散させる。また、攪拌によって主剤に混入した空気を除くため真空脱泡を行う。次に、炭素から成る繊維状充填剤10を配合した熱硬化型2液性の接着剤32の主剤に硬化剤を配合し、再度攪拌し、真空脱泡を行う。ここで、接着剤硬化前後での体積収縮を小さくし寸法安定性を高く保つには、低熱膨張性の性質を有する炭素の材質から成る繊維状の充填剤を配合し、体積収縮を低減させる方向に繊維状充填剤を配向させることが有効である。
【0031】
本実施の形態では、図2aおよび下記に示すように、繊維状充填剤の長手方向は、被着体33の長手方向、つまり圧電振動子1の超音波放射面13と平行になるように配向させた。その結果、接着剤32の厚み方向、つまり超音波射出方向12に対し、被着体33の長手面方向、つまり圧電振動子1の超音波放射面13の面方向において、接着剤32の体積収縮が低減される。つまり、接着剤の硬化収縮が低減されることとなる。なお、繊維状の充填材は、所定の繊維を定尺に分割する事により、均一形状とすることができる。このため、収縮低減度合いのばらつきを充填材が形状不均一の場合に比較し小さく抑えることができる。
【0032】
上述した繊維状充填剤10の代わりに、図2bに示すフレーク状のフレーム状充填剤11を用いてもよい。フレーク状充填剤11は、繊維状充填剤10と同様に、熱硬化型2液性の接着剤32より低熱膨張性の性質を有しているものを選択する。例えば、グラファイト、タングステン、ガラス、銀からなる群から選ばれた一種又は二種以上の混合物でもよい。また、図2bに示すように、フレーク状充填剤11の平面と被着体33の接着面、つまり圧電振動子1の超音波放射面13との方向がほぼ一致するようにフレーク状充填剤11を配向させる。その結果、接着剤32の厚み方向、つまり超音波射出方向12に対し、被着体33の長手面方向、つまり圧電振動子1の超音波放射面13の面方向において、接着剤32の体積収縮が低減される。つまり、接着剤の硬化収縮が低減されることとなる。また、超音波放射面の面に垂直な方向での接着剤収縮ばらつきを小さく抑えることができる。
【0033】
図3は接着剤の硬化収縮を示す概略断面図である。図3を用いて低熱膨張性の性質を有する材質から成る繊維状充填剤を配合し、体積収縮を低減させる方向に繊維状充填剤を配向させることが有効であることを説明する。
【0034】
圧電振動子1面上に形成された第1の接地電極層1aの表面に平均繊維径が2μm 以下、その長さが5〜50μmの極めて細い炭素繊維(例えばカーボンナノチューブなど)を均一分散させた熱硬化型2液性の接着剤2を塗布し、導体の第1の音響整合層3を積層する。塗布方法は、例えば音響材料上(圧電振動子1面上の第1の接地電極層1a上にスクリーンマスクを載せ、スキジで接着剤2を引き延ばす方法で行う。
これらの材料同士を圧接、固着するとき、高圧力を印加するため、繊維状充填剤10は塗布した当初、上下方向に立ち上がった状態であっても材料間に押し当てられ、水平方向に押し倒されるような力が働き、その結果、繊維状充填剤10の長手方向は、圧電振動子1の超音波放射面方向13と平行になるように配向される。また、圧電振動子1の表面粗さによる窪みより飛び出て、材料間に挟まれる炭素繊維(図3のA部に示す)は、印加された圧力により粉砕され、その欠片は他の窪みに入ることとなる。
【0035】
炭素の繊維状充填剤10を均一分散させた熱硬化型2液性の接着剤2は加熱することによってこれらを固着する。ここで図3のB部に示す箇所では、厚さが極めて0(ゼロ)に近くなっている、つまり圧電振動子1の第1の接地電極層1aと導電性の第1の音響整合層3とが接触している箇所であり、この接触箇所では導通抵抗は小さくなる。対向する導体部材の表面粗さから、その表面には幾何学的不規則性(凹凸)がある。それゆえに、場所によっては、上述したように、厚さが極めて0(ゼロ)に近くなっている箇所もあれば、逆に厚さが極めて厚い箇所も存在する。厚い箇所では、炭素の繊維状充填剤10が充填されることになる。特に、圧電振動子1の両面に形成された電極層の表面の十点平均粗さ(Rz)は3.5μmから6.5μmの範囲内にあり、接着剤2が圧電振動子1の表面にある空隙に浸入硬化し、釘又はくさびのような働きをする投錨効果(アンカー効果)によって、接着強度が増すこととなる。
【0036】
ここで、繊維状充填剤10は炭素繊維など、導電性であるものを選択することにより、各導体部材の凹凸に伝導性である繊維状充填剤10が入り込み、材料相互の導体間を電気的に接続する、すなわち互いの材料の導体部の接触面積が大きくなるので、電気的接続部の導通抵抗のばらつきは小さくなり、その結果、アレイ間の感度ばらつきは小さくなるとともに、ノイズなどの発生を押さえることが可能となる。勿論、導電性であるフレーク状の充填剤、例えば、グラファイト、タングステン、銀からなる群から選ばれた一種又は二種以上の混合物を用いても、同様の効果を有する。
【0037】
ここで、使用する熱硬化型2液性エポキシ系の接着剤2より、低熱膨張性の性質を有する炭素の材質から成る繊維状充填材10の長手方向を、圧電振動子1の超音波放射面方向13と平行になるように配向させることにより、超音波放射面方向13において、接着剤2の体積収縮を低減させ、内部応力の蓄積を低減することが可能となり、従来技術の層間剥離の発生、超音波放射面の歪み、さらに超音波探触子の音響性能の劣化という問題を解決することができる。
【0038】
ここで、2液性エポキシ系接着剤を用いる理由を以下に述べる。
(1)2液性を選択することにより、1液性のものに比べ接着剤の硬化温度が低くなり、これにより、圧電素子を高温環境に晒さずに済むので、圧電素子の性能を劣化させることなく、製作が容易な超音波探触子を提供することができる。例えば、米国エポキシ・テクノロジー社の2液性エポキシ系接着剤353NDでは、標準硬化温度・時間は60℃・90分である。
(2)ガラス転移温度が100℃以上と高く、耐熱性に優れ、医療用としてUSP(United States Pharmacopeia:医薬品の安全試験に関する基準)に対応できる。
例えば、米国エポキシ・テクノロジー社の2液性エポキシ系接着剤353NDのガラス転移温度は124℃である。
(3)接着剤の常温放置が可能であり、保管性に優れる。例えば、米国エポキシ・テクノロジー社の2液性エポキシ系接着剤353NDの保管期間は室温保管で1年間である。
(4)接着剤の常温放置が可能であることより、接着剤主剤に繊維状若しくはフレーク状の充填剤を均一分散した後、その接着剤を使用する際に、硬化剤を加えることによって直ぐに接着作業ができるので(冷蔵庫から出して暖める等の必要が無いため)作業性に優れる。
(5)2液性エポキシ系接着剤はローコストである。
【0039】
また、繊維状若しくはフレーク状の充填剤とエポキシ系接着剤との密着性は、上記充填剤に対し、下記に示したような処理剤で表面処理を施すことで向上させることができる。表面処理剤としては、シランカップリング剤が好ましく、具体的にはγ- グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル) エチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル- トリス (2-メトキシエトキシ) シラン、γ- メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ- アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ- アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ- アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ- メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。表面処理法の例としては、上記のようにシランカップリング剤の0.01〜1重量%の水溶液或いは水分散液中に上記充填剤を浸漬した後、温度 140〜160 ℃で1〜2時間の熱処理をする方法が挙げられる。
【0040】
図4は本発明の実施の形態において、別の構成からなる超音波探触子の概略断面図を示す。炭素繊維(例えばカーボンナノチューブなど)、亜鉛繊維など、低熱膨張性の性質を有し、かつ、導電性を有する繊維状の材料、若しくはグラファイト、タングステン、銀からなるフレーク状の材料を接着剤に配合することにより、材料相互の導体間を電気的に接続することが可能となる。すなわち、図4に示す、圧電振動子1の第1の接地電極層1aと導電性の第1の音響整合層3との間、第1の音響整合層3と導電パターンが形成された高分子フィルム4との間、及び圧電振動子1の第1の正電極層1bとFPC6の導電パターン6bとの間に介在する接着剤2aに上述した接着剤を用いる。
【0041】
また、ガラス繊維、アルミナ繊維、アラミド繊維など、低熱膨張性の性質を有しているが絶縁性である繊維状の材料を配合した、若しくはガラスなど絶縁性であるフレーク状の材料を配合した接着剤2bを、高分子フィルム4と第2の音響整合層5、及びFPC6のベース部6aと背面負荷材7との間に介在させる。勿論、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、亜鉛繊維、アルミナ繊維、アラミド繊維からなる群から選ばれた一種又は二種以上の混合物である充填剤を配合させた接着剤、又はグラファイト、タングステン、ガラス、銀からなる群から選ばれた一種又は二種以上の混合物である充填剤を配合させた接着剤を用いることにより、材料相互の導体間を電気的に接続し、かつ、硬化収縮の低減と接着強度の確保の改良がなされることは言うまでもない。
【0042】
繊維として平均繊維径が2μm 以下の極めて細い物、若しくはフレークとして厚さが2μm以下の極めて薄い物を用いることにより、背面負荷材7とFPC6との間、圧電振動子1の第1の正電極層1bとFPC6の導電パターン6b(不図示)との間、圧電振動子1の第1の接地電極層1aと導電性の第1の音響整合層3との間、及び導電性の第1の音響整合層3と電極パターン4b(不図示)が形成された高分子フィルム4、また高分子フィルム4と第2の音響整合層5との間は、互いの材料を極めて薄く接着させ、接着剤や接着剤内にある充填剤による超音波の吸収・反射・散乱損失を抑えることが可能となり、超音波探触子の感度が確保される。
【0043】
また、超音波射出方向12(接着剤厚み方向)の接着剤硬化収縮14に対し、超音波放射面方向13の接着剤硬化収縮15を低減させることが可能となり、内部応力の蓄積を低減することができるとともに、接着積層された圧電振動子1、導電性の第1の音響整合層3、電極パターン4bが形成された高分子フィルム4、FPC6の導電パターン6bにおける電気的接続部の導通抵抗のばらつきは小さくなり、その結果、アレイ間の感度ばらつきは小さくなる。
【0044】
このように、材料相互の導体間を電気的に接続する必要のある層には、導電性である繊維状、あるいはフレーク状の充填剤を選択し、材料相互間に電気的接続を必要としない場合は、絶縁性である繊維状、あるいはフレーク状の充填剤を選択するなど、様々な組み合わせが選択可能である。なお、上記実施の形態では、リニア型の超音波探触子で説明を行ったが、その他のコンベックス型やマトリックスアレー型の超音波探触子についても同様に実施可能である。また、繊維状又はフレーク状の充填剤は、特定の接着層にのみ配合されるよう構成してもよく、またすべての接着層に配合されるように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の超音波探触子は、以上のように、圧電振動子、導電性の音響整合層、電極パターンが形成された第1のフィルム、及び電極パターンが形成された第2のフィルム、該第2のフィルムの他方の面側に背面負荷材を積層接着する際に、接着層に繊維状又はフレーク状の充填材を配合させた熱硬化型2液性接着剤を用いることによって、音響材料積層方向、つまり超音波出射方向は、接着剤の硬化収縮により、材料間が極めて薄くなり、対向する材料が密着するので、超音波探触子の音響性能が向上する。また、超音波放射面方向は、前記絶縁性接着剤の硬化収縮が低減されるので、接着強度は向上し、アレイ分割時(ダイシング時)の切削負荷による層間剥離の発生が抑えられとともに、被着体側の変形が抑えられるので、超音波探触子の音響性能が向上するという効果を有し、超音波を被検者の体内に放射し、各体内素子の境界で反射する超音波から、体内の画像を表示することのできる超音波診断装置に接続される超音波探触子などとして有用である。
【符号の説明】
【0046】
1 圧電振動子
1a 第1の接地電極層
1b 第1の正電極層
2a、2b、2c、2d、2e 接着剤(接着層)
3 第1の音響整合層
4 高分子フィルム
4a フィルム本体
4b 電極パターン
5 第2の音響整合層
6 FPC
6a ベース部
6b 導電パターン
7 背面負荷材
8 音響レンズ
9 アレイ
10 繊維状充填剤
11 フレーク状充填剤
12 超音波射出方向
13 超音波放射面方向
14 接着剤硬化収縮(厚み方向)
15 接着剤硬化収縮(面方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受信する圧電振動子と、前記圧電振動子において超音波送受信方向と交差する第1の面に形成された第1電極層と、前記第1電極層に第1接着層を介して積層された1又は2以上の導電性の音響整合層と、前記音響整合層上に第2接着層を介して積層され、前記第2接着層側に電極パターンが形成された第1のフィルムと、前記圧電振動子の他方の面側に形成された第2電極層と、前記第2電極層に第3接着層を介して積層され、前記第3接着層側の面に電極パターンが形成された第2のフィルムと、前記第2のフィルムの他方の面側に第4接着層を介して積層された背面負荷材とを備える超音波探触子であって、
前記第1乃至第4接着層のうち、少なくとも1つの接着層に繊維状又はフレーク状の充填剤を配合させた超音波探触子。
【請求項2】
前記各接着層は、加圧加熱硬化された熱硬化型2液性接着剤で形成されている請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記繊維状の充填剤又は前記フレーク状の充填剤は、前記熱硬化型2液性接着剤より低熱膨張性の性質を有している請求項2に記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記繊維状の充填剤の長手方向が、前記圧電振動子の超音波放射面と略平行になるように配向している請求項1から3のいずれか1つに記載の超音波探触子。
【請求項5】
前記フレーク状の充填剤の平面と前記圧電振動子の超音波放射面が略平行となっている請求項1から3のいずれか1つに記載の超音波探触子。
【請求項6】
前記繊維状の充填剤又は前記フレーク状の充填剤は、導電性又は絶縁性である請求項1から5のいずれか1つに記載の超音波探触子。
【請求項7】
前記繊維状の充填剤は、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、亜鉛繊維、アルミナ繊維、アラミド繊維からなる群から選ばれた一種又は二種以上の混合物である請求項1から4、6のいずれか1つに記載の超音波探触子。
【請求項8】
前記フレーク状の充填剤は、グラファイト、タングステン、ガラス、銀からなる群から選ばれた一種又は二種以上の混合物である請求項1から3、5、6のいずれか1つに記載の超音波探触子。
【請求項9】
前記繊維状の充填剤又は前記フレーク状の充填剤は、シランカップリング剤で表面処理してなるものである請求項1から8のいずれか1つに記載の超音波探触子。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−244273(P2012−244273A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110140(P2011−110140)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】