超音波濃縮方法及び超音波濃縮分析システム
【課題】溶媒中に存在する微量な溶質を低コストかつ短時間で効率よく濃縮することができる超音波濃縮方法を提供すること。
【解決手段】処理槽2内に、処理水W1がクロロホルムW2よりも20倍以上の体積比となるよう注液された後、低周波数の第1超音波が照射されることで、処理水W1中にてクロロホルムW2が分散される。このとき、処理水W1中に含まれるアルミニウムがクロロホルムW2に接触することで、クロロホルムW2がアルミニウムを抽出し、クロロホルムW2のアルミニウムの濃度が高められる。この後、第1超音波よりも周波数が高い高周波数の第2超音波が照射されることで、処理水W1中に分散していたクロロホルムW2が凝集され、その際、密度の違いによって処理槽2の底部にクロロホルムW2が集められる。
【解決手段】処理槽2内に、処理水W1がクロロホルムW2よりも20倍以上の体積比となるよう注液された後、低周波数の第1超音波が照射されることで、処理水W1中にてクロロホルムW2が分散される。このとき、処理水W1中に含まれるアルミニウムがクロロホルムW2に接触することで、クロロホルムW2がアルミニウムを抽出し、クロロホルムW2のアルミニウムの濃度が高められる。この後、第1超音波よりも周波数が高い高周波数の第2超音波が照射されることで、処理水W1中に分散していたクロロホルムW2が凝集され、その際、密度の違いによって処理槽2の底部にクロロホルムW2が集められる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用い、溶媒中に含まれる微量な溶質を濃縮する超音波濃縮方法、溶媒中に含まれる微量な溶質を濃縮してその濃度を測定する超音波濃縮分析システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶媒中に含まれる微量な物質(有機化合物や無機化合物など)を検出するための一般的な分析装置では、100ppbオーダーの濃度が必要である。このため、溶媒中に含まれる溶質が微量でありその濃度が数ppbである場合、従来では、ソックスレー法(例えば、特許文献1参照)や超音波霧化処理による濃縮方法(例えば、特許文献2参照)などの手法を用いて100ppbオーダーの濃度まで濃縮する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−254880号公報
【特許文献2】特開2010−11787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、ソックスレー法によって溶媒を濃縮して濃度を高める場合、大量の有機溶媒が必要となる。この場合、有機溶媒のコストや使用後における廃棄コストなどの費用が嵩んでしまう。さらに、濃縮するために多くの時間が必要となるため、溶媒中に含まれる微量な溶質の分析を短時間で行うことが困難となる。また、超音波霧化によって濃縮する場合でも、ソックスレー法と同様に、長時間の処理時間が必要となるといった問題があった。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶媒中に存在する微量な溶質を低コストかつ短時間で効率よく濃縮することができる超音波濃縮方法を提供することにある。また、別の目的は、溶媒中に存在する微量な溶質の濃度を迅速に測定することができる超音波濃縮分析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、溶媒中に存在する微量な溶質を濃縮する超音波濃縮方法であって、前記溶質が所定濃度で溶け込んでいる第1の溶媒と、前記第1の溶媒よりも前記溶質を溶かし易く、かつ前記第1の溶媒とは不溶で密度が異なる第2の溶媒とを処理槽内に注液するとともに、その際に前記第1の溶媒が体積比で前記第2の溶媒の20倍以上になるようにするステップと、前記第2の溶媒を添加した前記第1の溶媒に対して、低周波数の第1超音波を照射して前記第1の溶媒中に前記第2の溶媒を分散させることにより、前記溶質を前記第1の溶媒から前記第2の溶媒に抽出するステップと、前記第2の溶媒を分散させた前記第1の溶媒に対して、前記第1超音波よりも周波数が高い高周波数の第2超音波を照射して、前記所定濃度よりも濃度が高くなった前記第2の溶媒を凝集させるステップとを含むことを特徴とする超音波濃縮方法をその要旨とする。
【0007】
従って、請求項1に記載の発明によると、処理槽内に、第1の溶媒が第2の溶媒よりも20倍以上の体積比となるよう各溶媒が注液された後、低周波数の第1超音波が照射される。これにより、第1の溶媒中において第2の溶媒が分散されて、乳濁液(エマルジョン)を作ることによって、第2の溶媒の比表面積が大きくなる。そして、第1の溶媒に含まれている溶質が第2の溶媒の表面に接触することで、第2の溶媒がその溶質に抽出される。その後、第1の溶媒に対して、第1超音波よりも周波数が高い高周波数の第2超音波が照射される。これにより、第1の溶媒中に分散していた第2の溶媒が凝集され、その際、各溶媒の密度の違いによって処理槽の上部または底部に第2の溶媒が集められる。この結果、処理前の第1の溶媒の濃度に対して20倍以上に濃度が高められた第2の溶媒を短時間で得ることができる。また、第2の溶媒の使用量も少ないため、従来と比較して処理コストを低く抑えることが可能となる。
【0008】
前記処理槽内に各溶媒を注液する際には、前記第1の溶媒が前記第2の溶媒よりも100倍以上の体積比となるようにすることが好ましい。このようにすると、第1の溶媒の濃度に対して、100倍以上に濃縮した第2の溶媒を得ることができる。ここで、ソックスレー法などのような従来の手法を用いて100倍以上に濃縮する場合、溶媒の多段階の抽出処理が必要となる。これに対して、本発明の超音波濃縮方法を用いれば、上述した分散、凝集の処理を1回行えば、100倍以上に濃縮した第2の溶液を得ることができる。このため、コストをかけずに短時間で濃縮処理を行うことができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記第1超音波の周波数は、40kHz以下であり、前記第2超音波の周波数は、500kHz以上であることを特徴とする超音波診断装置をその要旨とする。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、第1超音波の周波数が40kHz以下であるため、比較的大きな音圧(パワー)の超音波を各溶媒に作用させることができ、第1の溶媒中に第2の溶媒を確実に分散させることができる。また、200kHz〜500kHzの高周波数の超音波を液体中に照射すると、その液体中にキャビテーションが発生することがあり、意図しない化学反応を生じさせてしまう場合がある。これに対して、本発明では、第2超音波の周波数が500kHz以上であるため、溶媒中にてキャビテーションを生じさせることなく、逆に音響放射力が増加することによって、定在波の節に作用する力が大きくなり、第2の溶媒を確実に凝集させることができる。なお、凝集効率を向上させるためには、第2超音波が2MHz以上であることがより好ましい。
【0011】
請求項3に記載の発明は、溶媒中に存在する微量な溶質の濃度を超音波を利用して測定する分析システムであって、前記溶質が所定濃度で溶け込んでいる第1の溶媒と、前記第1の溶媒よりも前記溶質を溶かし易く、かつ前記第1の溶媒とは不溶で密度が異なる第2の溶媒とを処理槽内に注液するとともに、その際に前記第1の溶媒が体積比で前記第2の溶媒の20倍以上になるようにするステップと、前記第2の溶媒を添加した前記第1の溶媒に対して、低周波数の第1超音波を照射して前記第1の溶媒中に前記第2の溶媒を分散させることにより、前記溶質を前記第1の溶媒から前記第2の溶媒に抽出するステップと、前記第2の溶媒を分散させた前記第1の溶媒に対して、前記第1超音波よりも周波数が高い高周波数の第2超音波を照射して、前記所定濃度よりも濃度が高くなった前記第2の溶媒を凝集させるステップと、前記処理槽内において凝集した前記第2の溶媒を蛍光分析法または電気化学発光法により検出し、蛍光または電気化学発光の発光強度に基づいて、前記第2の溶媒に含まれる前記溶質の濃度を算出するステップとを実行することを特徴とする超音波濃縮分析システムをその要旨とする。
【0012】
従って、請求項3に記載の発明によると、処理槽内に、第1の溶媒が第2の溶媒よりも20倍以上の体積比となるよう各溶媒が注液された後、低周波数の第1超音波が照射される。これによって、第1の溶媒中に第2の溶媒がエマルジョンとして分散されて、第2の溶媒の比表面積が大きくなる。そして、第1の溶媒に含まれている溶質が第2の溶媒の表面に接触することで、第2の溶媒にその溶質が抽出される。その後、第1の溶媒に対して、第1超音波よりも周波数が高い高周波数の第2超音波が照射される。これにより、第1の溶媒中に分散していた第2の溶媒が凝集され、その際、各溶媒の密度の違いによって処理槽の上部または底部に第2の溶媒が集められる。この結果、処理前の第1の溶媒の濃度に対して20倍以上に濃度が高められた第2の溶媒を得ることができる。さらに、凝集した第2の溶媒を蛍光分析法または電気化学発光法により検出し、蛍光または電気化学発光の発光強度に基づいて、第2の溶媒に含まれる溶質の濃度が算出される。そして、第1の溶媒と第2の溶媒との体積比に基づく溶質の濃縮割合と、算出した第2の溶媒における溶質の濃度とに基づいて、第1の溶媒に含まれていた溶質の濃度を求めることができる。このようにすると、第1の溶媒に含まれるppbレベルの微量な溶質の濃度を迅速に測定することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上詳述したように、請求項1または2に記載の発明によると、溶媒中に存在する微量な溶質を低コストかつ短時間で効率よく濃縮することができる。また、請求項3に記載の発明によると、溶媒中に存在する微量な溶質の濃度を迅速に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一実施の形態の分析システムを示す概略構成図。
【図2】電気化学発光プローブの構成を示す断面図。
【図3】分析システムの処理例を示すフローチャート。
【図4】処理水中に含まれる微量アルミニウムの濃縮方法を示す説明図。
【図5】濃度に応じた蛍光スペクトルを示すグラフ。
【図6】第2の溶媒の蛍光強度を示すグラフ。
【図7】蛍光スペクトルを示すグラフ。
【図8】別の実施の形態の処理槽を示す説明図。
【図9】別の実施の形態の処理槽を示す説明図。
【図10】別の電気化学発光プローブの構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を分析システムに具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0016】
図1に示されるように、分析システム1は、処理槽2、低周波数超音波振動子3及び高周波数超音波振動子4、低周波数超音波発振器5及び高周波数超音波発振器6、電気化学発光プローブ7、発光検出装置8、表示装置9、制御装置10を備えている。本実施の形態において、分析システム1は、例えば水に含まれるppbオーダーの微量なアルミニウムの濃度を測定する。
【0017】
詳述すると、処理槽2は、例えば、ガラス管を用いて形成された円筒型の容器であり、その底部にはステンレス製の振動板11が配置されている。この処理槽2には、ppbオーダーの微量なアルミニウム(溶質)を含んだ処理水W1(第1の溶媒)が注液されている。また、処理槽2内には、処理水W1よりもアルミニウムを溶かし易く、かつ処理水W1には不溶で処理水W1よりも密度が高い有機溶媒であるクロロホルムW2(第2の溶媒)が注液されている。なお、第2の溶媒に第2の溶質(配位子)として8−ヒドロキシキノリンが含まれ、それがアルミニウムと錯体を形成し、第2の溶媒に抽出される。本実施の形態では、処理水W1がクロロホルムW2の体積比で20倍以上となるように注液されている。また、クロロホルムW2は微量であり密度が処理水W1よりも高い。このため、処理水W1中においては、滴状に凝集した状態でクロロホルムW2が処理槽2の底部に沈降する。
【0018】
洗浄槽13の底部に設けられている振動板11には、振動面を上方に向けた状態で各超音波振動子3,4が装着されている。低周波数超音波振動子3(第1超音波振動子)は低周波数超音波発振器5に接続され、高周波数超音波振動子4(第2超音波振動子)は高周波数超音波発振器6に接続されている。
【0019】
低周波数超音波発振器5は、低周波数の超音波発振信号を生成して低周波数超音波振動子3に出力する。この超音波発振信号によって、低周波数超音波振動子3が駆動され、低周波数(本実施の形態では、28kHzの周波数)の第1超音波が処理槽2内の処理水W1に照射される。高周波数超音波発振器6は、高周波数の超音波発振信号を生成して高周波数超音波振動子4に出力する。この超音波発振信号によって、高周波数超音波振動子4が駆動され、高周波数(本実施の形態では、2.4MHzの周波数)の第2超音波が処理槽2内の処理水W1に照射される。なお、本実施の形態において、低周波数の第1超音波の出力は100ワットであり、高周波数の第2超音波の出力は5ワットである。
【0020】
電気化学発光プローブ7は、三電極複合型のプローブであり、電気化学発光によってアルミニウムの濃度を測定する。図2に示されるように、本実施の形態の電気化学発光プローブ7は、白金を用いて格子状に形成された白金グリッド電極21(作用電極)と、白金線からなる対電極22(補助電極)と、銀線からなる擬参照電極23とを備え、各電極21〜23は、直径が3mmのフッ素樹脂製のロッド24内に封入されている。また、ロッド24には、光ファイバ25が挿入されており、そのロッド24の先端面に白金グリッド電極21がプローブ先端から突出した状態で配置されている。この白金グリッド電極21は、銀ペースト27を用いてリード線28に接続され、そのリード線28が光ファイバ25とともにロッド24内に収納されている。
【0021】
電気化学発光プローブ7は、発光検出装置8に接続されている。発光検出装置8は、電気化学発光プローブ7の作用電極21に交流電圧を印加するためのファンクションジェネレータ、光ファイバ25内を伝搬した電気化学発光の光を検出するための光電子増倍管や分光器等を含む。
【0022】
制御装置10は、CPU、ROM、RAM等のからなる周知のマイクロコンピュータを中心に構成されている。制御装置10は、各超音波発振器5,6を制御して各超音波振動子3,4を順次駆動することで、クロロホルムW2中のアルミニウムの濃度を高める濃縮処理を行う。また、制御装置10は、発光検出装置8を制御して電気化学発光プローブ7の作用電極21に交流電圧を印加することで、クロロホルムW2中で電気化学発光を生じさせ、その発光強度に基づいてアルミニウムの濃度を算出する。表示装置9は、例えば、LCDやCRTなどのディスプレイであり、制御装置10からの転送データに基づいてアルミニウムの濃度を表示する。
【0023】
なお、本実施の形態の分析システム1では、処理槽2、各超音波振動子3,4、各超音波発振器5,6、及び制御装置10によって超音波濃縮装置が構成されている。また、電気化学発光プローブ7、発光検出装置8、及び制御装置10によって濃度測定装置が構成されている。
【0024】
本実施の形態の分析システム1において、アルミニウムの濃度を測定するために制御装置10が実行する処理例について、図3のフローチャートを用いて説明する。なお、図3の処理は、作業者が処理槽2内に微量のアルミニウムを含む処理水W1とクロロホルムW2および配位子を注液した後、制御装置10に設けられているスタートボタン(図示略)を操作したときに開始される。
【0025】
先ず、制御装置10は、低周波数超音波発振器5を動作させ、低周波数超音波発振器5から低周波数超音波振動子3に超音波発振信号を出力させる。そして、その超音波発振信号により低周波数超音波振動子3が駆動されることで、低周波数超音波振動子3が共振し、低周波数の第1超音波が処理槽2内の処理水W1に照射される(ステップ100)。このとき、処理水W1中においてクロロホルムW2が50μm以下のサイズに分散して、エマルション化(乳化)する(図4(a)及び図4(b)参照)。この結果、クロロホルムW2の比表面積が大きくなり、そのクロロホルムW2の表面にアルミニウムを接触させることでクロロホルムW2がアルミニウムを抽出する。そして、低周波数超音波発振器5の動作開始から1分間経過した後、低周波数超音波発振器5を停止させる。
【0026】
その後、制御装置10は、高周波数超音波発振器6を動作させ、高周波数超音波発振器6から高周波数超音波振動子4に超音波発振信号を出力させる。そして、その超音波発振信号によって高周波数超音波振動子4が駆動されることで、高周波数超音波振動子4が共振し、高周波数の第2超音波が処理槽2内の処理水W1に照射される(ステップ110)。このとき、処理水W1中において分散しているクロロホルムW2の液滴が凝集し、徐々にサイズが大きくなって塊となった滴状のクロロホルムW2が処理槽2の底部に沈降する(図4(c)参照)。そして、高周波数超音波発振器6の動作開始から5分間経過した後、高周波数超音波発振器6を停止させる。
【0027】
次に、制御装置10は、発光検出装置8を動作させ、電気化学発光プローブ7の作用電極21に交流電圧を印加する(ステップ120)。このとき、アルミニウムと錯体が作用電極21の表面に酸化還元され、クロロホルムW2中で一定量の過酸化ベンゾイルが含まれる場合に電気化学発光が生じる。この発光はプローブ7の光ファイバ25を伝搬して発光検出装置8に取り込まれる。そして、発光検出装置8において電気化学発光の発光強度が検出される。制御装置10は、その発光強度に応じた検出信号を取り込み、その検出信号に基づいてアルミニウムの濃度を算出する(ステップ130)。そして、制御装置10は、算出した濃度に応じたデータを表示装置9に転送し、その表示装置9に濃度を表示させる(ステップ140)。そして、制御装置10は、その濃度の表示後に図3の処理を終了する。
【0028】
本実施の形態において、電気化学発光の発光強度に応じたアルミニウム濃度を算出する際(ステップ130)には、下記のようなアルミニウム濃度の定量分析の手法に基づいて取得した検量線のデータを用いている。
【0029】
以下、アルミニウム濃度の定量分析の手法について説明する。
【0030】
先ず、アルミニウムを既知の濃度(1ppb〜50ppbの濃度)で溶け込ませた標準の溶媒として、pHが8.0であるリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用意する。そして、20mLのPBSと0.5mLのクロロホルムとを処理槽2内に注液する。その後、低周波数の第1超音波による分散処理(ステップ100)を1分間行い、高周波数の第2超音波による凝集処理(ステップ110)を5分間行う。さらに、PBS中にて凝集した滴状のクロロホルムに対して電気化学発光プローブ7の作用電極21を接触させ、クロロホルム中で電気化学発光を生じさせる。そして、電気化学発光の強度を測定する。なお、この発光強度の測定は、濃度の異なる各標準の溶媒ごとに行う。
【0031】
図5には、各濃度の基準の溶媒ごとに検出された発光スペクトルの測定結果を示している。図5に示されるように、発光スペクトルとしては、510nmの波長でピークを示し、アルミニウムの濃度が高まるにつれて、発光強度が大きくなっている。そして、図5の測定結果から、図6に示されるような検量線のデータを得ることができる。図6に示されるように、アルミニウムの濃度に応じて発光スペクトルの強度が直線的に変化している。従って、本実施の形態では、図6のような検量線のデータと発光検出装置8で検出された発光強度とに基づいて、処理水W1に含まれていた微量なアルミニウムの濃度が求められる。
【0032】
なお、上述した分散・凝集処理を実施した後、処理槽2内の処理水W1側に残るアルミニウムの濃度は、ほぼ0ppbであることが確認されている。従って、クロロホルムW2へのアルミニウムの濃縮倍率は、処理水W1とクロロホルムW2との体積比に基づいて求めることができる。
【0033】
また、本発明者らは、アルミホイルからの微量アルミニウムの溶出実験を行い、その際のアルミニウムの濃度を本実施の形態の分析システム1を用いて測定した。図7には、その測定結果を示している。なお、この溶出実験としては、100℃の温度に高めたリン酸緩衝生理食塩水中にアルミホイルを浸けた場合において、溶出時間とアルミニウムの濃度との関係について測定した。
【0034】
このアルミニウムの溶出実験では、アルミニウムが微量であるため、0ppb〜10ppbの範囲で検量線を作成し、その検量線を使用してアルミニウムの濃度を測定した。その測定結果を表1に示している。表1に示されるように、本実施の形態の超音波濃縮分析システムを用いれば、ppbレベルの微量なアルミニウムの濃度を測定することができた。
【表1】
【0035】
近年では、飲料水に含まれるアルミニウム濃度とアルツハイマー病の発生とについて相関関係があると考えられている。また、土壌成分に含まれるアルミニウムが植物の成長を阻害するともいわれている。本実施の形態の分析システム1を用いれば、飲料水や土壌に含まれる微量なアルミニウムの濃度を測定できるため、アルミニウム濃度が人体や生態系に与える影響を調べることが可能となる。また、分析システム1を構成する各装置は、コンパクトな携帯型装置として実現することができるため、移動が容易で現地分析を容易に行うことが可能となる。
【0036】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0037】
(1)本実施の形態の分析システム1では、処理槽2内に、処理水W1がクロロホルムW2よりも20倍以上の体積比となるよう注液された後、低周波数の第1超音波が照射されることで、処理水W1中においてクロロホルムW2が分散される。これにより、処理水W1に含まれているアルミニウムをクロロホルムW2が抽出し、クロロホルムW2に含まれるアルミニウムの濃度が20倍以上に高められる。ここで、処理水W1中にクロロホルムW2を分散させた後、そのまま静かに放置した場合、1日放置してもクロロホルムW2は凝集することはない。これに対して、本実施の形態では、第1超音波よりも高い高周波数の第2超音波を照射することで、処理水W1中に分散していたクロロホルムW2が数分程度の短時間で確実に凝集される。この際、クロロホルムW2の密度は処理水W1の密度よりも高いため、その密度の違いによって処理槽2の底部にクロロホルムW2が集められる。このようにすると、処理水W1のアルミニウムの濃度に対して20倍以上の濃度に濃縮されたクロロホルムW2を短時間で得ることができる。またこの場合、クロロホルムW2の使用量も少ないため、従来の濃縮法と比較して、有機溶媒のコストを低く抑えることができる。
【0038】
(2)本実施の形態の分析システム1では、処理槽2の底部に凝集したクロロホルムW2に電気化学発光プローブ7の作用電極21を接触させることで、電気化学発光を生じさせ、電気化学発光の発光強度に基づいて、クロロホルムW2に含まれるアルミニウムの濃度が算出される。そして、処理水W1とクロロホルムW2との体積比に基づくアルミニウムの濃縮割合と、算出したクロロホルムW2におけるアルミニウムの濃度とに基づいて、処理水W1に含まれていたアルミニウムの濃度を求めることができる。このようにすると、処理水W1に含まれるppbレベルの微量な溶質の濃度を迅速に測定することができる。
【0039】
(3)本実施の形態の分析システム1において、第1超音波の周波数が28kHzであるので、比較的大きな音圧(パワー)の超音波を処理水W1に作用させることができ、処理水W1中にクロロホルムW2を短時間で確実に分散させることができる。また、第2超音波の周波数が2.4MHzであるので、処理水W1中にてキャビテーションを生じさせることなく、クロロホルムW2を短時間で確実に凝集させることができる。
【0040】
(4)本実施の形態の分析システム1において、処理槽2の底部に低周波数超音波振動子3が設けられている。この場合、処理水W1に添加されたクロロホルムW2は密度が高いため底部側に沈んでいくが、その底部側からクロロホルムW2と処理水W1との界面に低周波数の超音波を効率よく照射することができる。このため、クロロホルムW2の分散効率を高めることができる。
【0041】
(5)本実施の形態の分析システム1では、同じ処理槽2でクロロホルムW2の分散及び凝集が行われているので、他の物質による汚染(コンタミネーション)を最小限に抑えることができる。
【0042】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0043】
・上記実施の形態の分析システム1において、処理槽2の底部に低周波数超音波振動子3及び高周波数超音波振動子4が設けられていたが、これに限定されるものではない。具体的には、例えば、図8に示されるように、処理槽2において、底部に低周波数超音波振動子3を設け、側壁部に高周波数超音波振動子4を設けてもよい。また逆に、底部に高周波数超音波振動子4を設け、側壁部に低周波数超音波振動子3を設けてもよい。さらに、処理槽2の上部に超音波振動子3,4を設けてもよい。例えば、第2の溶媒の密度が低く、第1の溶媒の液面に第2の溶媒が浮かぶ場合、上部に設けた低周波数超音波振動子3から超音波を照射することにより、第1の溶媒中に第2の溶媒を効率よく分散させることができる。
【0044】
・上記実施の形態の分析システム1では、処理槽2内に溶媒(処理水W1及びクロロホルムW2)を注液して溶媒W1,W2に直接超音波を照射する構成を採用したが、処理槽を2重の槽構造として、溶媒W1,W2に超音波を間接的に照射する構成に変更してもよい。図9にはその具体例を示している。図9に示されるように、ビーカーなどの容器30に溶媒W1,W2を注液し、その容器30を処理槽2内の超音波伝達媒体W0(具体的には水)中に浸漬する。そして、処理槽2の底部に設けた低周波数超音波振動子3や側壁部に設けた高周波数超音波振動子4から超音波伝達媒体W0を介して容器30内の溶媒W1,W2に間接的に超音波を照射する。また、図9の処理槽2内には、超音波を反射させる反射板31が配置されており、高周波数の超音波の照射時において、容器30内で定在波が形成されるようになっている。このように、超音波を間接的に照射する構成としても、処理水W1中でのクロロホルムW2の分散や凝集を行うことができる。さらに、処理槽2内に反射板31を配置させることで、高周波数の超音波の照射時に定在波が形成されるので、処理水W1中におけるクロロホルムW2の凝集を効率よく迅速に行うことができる。
【0045】
・上記実施の形態の分析システム1では、1つの処理槽2内にて低周波数の第1超音波と高周波数の第2超音波を照射する構成としたが、これに限定されるものではない。例えば、低周波数の第1超音波を照射するための分散用処理槽と、高周波数の第2超音波を照射するための凝集用処理槽とを別々に設け、溶媒W1,W2を入れた容器30を各処理槽間で移し変えて、分散処理及び凝集処理を行うように構成してもよい。
【0046】
・上記実施の形態では、アルミニウムを含んだ処理水W1を濃縮してその濃度を測定する分析システムとして具体化するものであったが、これに限定されるものではない。例えばレアメタルを含んだ処理水W1を濃縮して抽出するための濃縮装置に本発明を具体化してもよい。勿論、微生物やウイルスなどの物質を検出するための分析システムとして本発明を具体化してもよい。
【0047】
・上記実施の形態の分析システム1では、作用電極として白金グリッド電極21を備える電気化学発光プローブ7を用いたが、これに限定されるものではなく、図10に示されるような電気化学発光プローブ7Aを用いてもよい。図10の電気化学発光プローブ7Aでは、光ファイバ25の先端に直径が0.3mmの白金線を螺旋状に巻き、それを作用電極21としている。また、電気化学発光プローブ7Aには、螺旋状に巻いた白金線の対電極22と銀からなる擬参照電極23とが設けられており、各電極21,22,23は、ロッド24内に封入されている。この電気化学発光プローブ7Aを用いても、クロロホルムW2にて電気化学発光を生じさせることができ、その発光強度に応じたアルミニウムの濃度を測定することができる。
【0048】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0049】
(1)溶媒中に存在する微量な溶質を濃縮する超音波濃縮装置であって、前記溶質が所定濃度で溶け込んでいる第1の溶媒と、前記第1の溶媒よりも前記溶質を溶かし易く、かつ前記第1の溶媒とは不溶で密度が異なる第2の溶媒とを注液するとともに、その際に前記第1の溶媒が体積比で前記第2の溶媒の20倍以上になるようにする処理槽と、前記第2の溶媒を添加した前記第1の溶媒に対して、低周波数の第1超音波を照射して、前記第1の溶媒中に前記第2の溶媒を分散させることにより、前記溶質を前記第1の溶媒から前記第2の溶媒に抽出する第1超音波振動子と、前記第2の溶媒を分散させた前記第1の溶媒に対して、前記第1超音波よりも周波数が高い高周波数の第2超音波を照射して、前記所定濃度よりも濃度が高くなった前記第2の溶媒を凝集させる第2超音波振動子とを備えたことを特徴とする超音波濃縮装置。
【0050】
(2)技術的思想(1)において、前記第2超音波の照射時に定在波を形成すべく前記処理槽内に配置される反射板をさらに備えたことを特徴とする超音波濃縮装置。
【0051】
(3)技術的思想(1)または(2)に記載の超音波濃縮装置と、前記処理槽内において凝集した前記第2の溶媒に接触させて電気化学発光を生じさせ、前記電気化学発光の発光強度に基づいて、前記第2の溶媒に含まれる前記溶質の濃度を測定する濃度測定装置とを備えたことを特徴とする分析システム。
【0052】
(4)技術的思想(3)において、前記濃度測定装置は、前記第2の溶媒に接触させて電気化学発光を生じさせる電極と、前記電気化学発光を前記処理槽の外部に導く光ファイバと、前記光ファイバを伝搬した前記電気化学発光の発光強度を検出する光検出部と、前記発光強度に基づいて、前記第2の溶媒に含まれる前記溶質の濃度を算出する濃度算出部とを備えたことを特徴とする分析システム。
【0053】
(5)技術的思想(3)または(4)において、前記濃度測定装置が測定した前記濃度を表示する表示装置をさらに備えたことを特徴とする分析システム。
【0054】
(6)技術的思想(3)乃至(5)のいずれかにおいて、前記超音波濃縮装置及び前記濃度測定装置は携帯型の装置であることを特徴とする分析システム。
【0055】
(7)請求項1または2において、前記処理槽内に第1の溶媒及び第2の溶媒を注液するステップでは、前記第1の溶媒が前記第2の溶媒よりも100倍以上の体積比となるようにすることを特徴とする超音波濃縮方法。
【0056】
(8)請求項1または2において、前記第1超音波の出力は、前記第2超音波の10倍以上であることを特徴とする超音波濃縮方法。
【0057】
(9)請求項1または2において、前記溶質はアルミニウムであり、前記第1の溶媒は水であり、前記第2の溶媒はクロロホルムであることを特徴とする超音波濃縮方法。
【符号の説明】
【0058】
2…処理槽
21…電極としての白金グリッド電極
W1…第1の溶媒
W2…第2の溶媒
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用い、溶媒中に含まれる微量な溶質を濃縮する超音波濃縮方法、溶媒中に含まれる微量な溶質を濃縮してその濃度を測定する超音波濃縮分析システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶媒中に含まれる微量な物質(有機化合物や無機化合物など)を検出するための一般的な分析装置では、100ppbオーダーの濃度が必要である。このため、溶媒中に含まれる溶質が微量でありその濃度が数ppbである場合、従来では、ソックスレー法(例えば、特許文献1参照)や超音波霧化処理による濃縮方法(例えば、特許文献2参照)などの手法を用いて100ppbオーダーの濃度まで濃縮する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−254880号公報
【特許文献2】特開2010−11787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、ソックスレー法によって溶媒を濃縮して濃度を高める場合、大量の有機溶媒が必要となる。この場合、有機溶媒のコストや使用後における廃棄コストなどの費用が嵩んでしまう。さらに、濃縮するために多くの時間が必要となるため、溶媒中に含まれる微量な溶質の分析を短時間で行うことが困難となる。また、超音波霧化によって濃縮する場合でも、ソックスレー法と同様に、長時間の処理時間が必要となるといった問題があった。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶媒中に存在する微量な溶質を低コストかつ短時間で効率よく濃縮することができる超音波濃縮方法を提供することにある。また、別の目的は、溶媒中に存在する微量な溶質の濃度を迅速に測定することができる超音波濃縮分析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、溶媒中に存在する微量な溶質を濃縮する超音波濃縮方法であって、前記溶質が所定濃度で溶け込んでいる第1の溶媒と、前記第1の溶媒よりも前記溶質を溶かし易く、かつ前記第1の溶媒とは不溶で密度が異なる第2の溶媒とを処理槽内に注液するとともに、その際に前記第1の溶媒が体積比で前記第2の溶媒の20倍以上になるようにするステップと、前記第2の溶媒を添加した前記第1の溶媒に対して、低周波数の第1超音波を照射して前記第1の溶媒中に前記第2の溶媒を分散させることにより、前記溶質を前記第1の溶媒から前記第2の溶媒に抽出するステップと、前記第2の溶媒を分散させた前記第1の溶媒に対して、前記第1超音波よりも周波数が高い高周波数の第2超音波を照射して、前記所定濃度よりも濃度が高くなった前記第2の溶媒を凝集させるステップとを含むことを特徴とする超音波濃縮方法をその要旨とする。
【0007】
従って、請求項1に記載の発明によると、処理槽内に、第1の溶媒が第2の溶媒よりも20倍以上の体積比となるよう各溶媒が注液された後、低周波数の第1超音波が照射される。これにより、第1の溶媒中において第2の溶媒が分散されて、乳濁液(エマルジョン)を作ることによって、第2の溶媒の比表面積が大きくなる。そして、第1の溶媒に含まれている溶質が第2の溶媒の表面に接触することで、第2の溶媒がその溶質に抽出される。その後、第1の溶媒に対して、第1超音波よりも周波数が高い高周波数の第2超音波が照射される。これにより、第1の溶媒中に分散していた第2の溶媒が凝集され、その際、各溶媒の密度の違いによって処理槽の上部または底部に第2の溶媒が集められる。この結果、処理前の第1の溶媒の濃度に対して20倍以上に濃度が高められた第2の溶媒を短時間で得ることができる。また、第2の溶媒の使用量も少ないため、従来と比較して処理コストを低く抑えることが可能となる。
【0008】
前記処理槽内に各溶媒を注液する際には、前記第1の溶媒が前記第2の溶媒よりも100倍以上の体積比となるようにすることが好ましい。このようにすると、第1の溶媒の濃度に対して、100倍以上に濃縮した第2の溶媒を得ることができる。ここで、ソックスレー法などのような従来の手法を用いて100倍以上に濃縮する場合、溶媒の多段階の抽出処理が必要となる。これに対して、本発明の超音波濃縮方法を用いれば、上述した分散、凝集の処理を1回行えば、100倍以上に濃縮した第2の溶液を得ることができる。このため、コストをかけずに短時間で濃縮処理を行うことができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記第1超音波の周波数は、40kHz以下であり、前記第2超音波の周波数は、500kHz以上であることを特徴とする超音波診断装置をその要旨とする。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、第1超音波の周波数が40kHz以下であるため、比較的大きな音圧(パワー)の超音波を各溶媒に作用させることができ、第1の溶媒中に第2の溶媒を確実に分散させることができる。また、200kHz〜500kHzの高周波数の超音波を液体中に照射すると、その液体中にキャビテーションが発生することがあり、意図しない化学反応を生じさせてしまう場合がある。これに対して、本発明では、第2超音波の周波数が500kHz以上であるため、溶媒中にてキャビテーションを生じさせることなく、逆に音響放射力が増加することによって、定在波の節に作用する力が大きくなり、第2の溶媒を確実に凝集させることができる。なお、凝集効率を向上させるためには、第2超音波が2MHz以上であることがより好ましい。
【0011】
請求項3に記載の発明は、溶媒中に存在する微量な溶質の濃度を超音波を利用して測定する分析システムであって、前記溶質が所定濃度で溶け込んでいる第1の溶媒と、前記第1の溶媒よりも前記溶質を溶かし易く、かつ前記第1の溶媒とは不溶で密度が異なる第2の溶媒とを処理槽内に注液するとともに、その際に前記第1の溶媒が体積比で前記第2の溶媒の20倍以上になるようにするステップと、前記第2の溶媒を添加した前記第1の溶媒に対して、低周波数の第1超音波を照射して前記第1の溶媒中に前記第2の溶媒を分散させることにより、前記溶質を前記第1の溶媒から前記第2の溶媒に抽出するステップと、前記第2の溶媒を分散させた前記第1の溶媒に対して、前記第1超音波よりも周波数が高い高周波数の第2超音波を照射して、前記所定濃度よりも濃度が高くなった前記第2の溶媒を凝集させるステップと、前記処理槽内において凝集した前記第2の溶媒を蛍光分析法または電気化学発光法により検出し、蛍光または電気化学発光の発光強度に基づいて、前記第2の溶媒に含まれる前記溶質の濃度を算出するステップとを実行することを特徴とする超音波濃縮分析システムをその要旨とする。
【0012】
従って、請求項3に記載の発明によると、処理槽内に、第1の溶媒が第2の溶媒よりも20倍以上の体積比となるよう各溶媒が注液された後、低周波数の第1超音波が照射される。これによって、第1の溶媒中に第2の溶媒がエマルジョンとして分散されて、第2の溶媒の比表面積が大きくなる。そして、第1の溶媒に含まれている溶質が第2の溶媒の表面に接触することで、第2の溶媒にその溶質が抽出される。その後、第1の溶媒に対して、第1超音波よりも周波数が高い高周波数の第2超音波が照射される。これにより、第1の溶媒中に分散していた第2の溶媒が凝集され、その際、各溶媒の密度の違いによって処理槽の上部または底部に第2の溶媒が集められる。この結果、処理前の第1の溶媒の濃度に対して20倍以上に濃度が高められた第2の溶媒を得ることができる。さらに、凝集した第2の溶媒を蛍光分析法または電気化学発光法により検出し、蛍光または電気化学発光の発光強度に基づいて、第2の溶媒に含まれる溶質の濃度が算出される。そして、第1の溶媒と第2の溶媒との体積比に基づく溶質の濃縮割合と、算出した第2の溶媒における溶質の濃度とに基づいて、第1の溶媒に含まれていた溶質の濃度を求めることができる。このようにすると、第1の溶媒に含まれるppbレベルの微量な溶質の濃度を迅速に測定することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上詳述したように、請求項1または2に記載の発明によると、溶媒中に存在する微量な溶質を低コストかつ短時間で効率よく濃縮することができる。また、請求項3に記載の発明によると、溶媒中に存在する微量な溶質の濃度を迅速に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一実施の形態の分析システムを示す概略構成図。
【図2】電気化学発光プローブの構成を示す断面図。
【図3】分析システムの処理例を示すフローチャート。
【図4】処理水中に含まれる微量アルミニウムの濃縮方法を示す説明図。
【図5】濃度に応じた蛍光スペクトルを示すグラフ。
【図6】第2の溶媒の蛍光強度を示すグラフ。
【図7】蛍光スペクトルを示すグラフ。
【図8】別の実施の形態の処理槽を示す説明図。
【図9】別の実施の形態の処理槽を示す説明図。
【図10】別の電気化学発光プローブの構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を分析システムに具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0016】
図1に示されるように、分析システム1は、処理槽2、低周波数超音波振動子3及び高周波数超音波振動子4、低周波数超音波発振器5及び高周波数超音波発振器6、電気化学発光プローブ7、発光検出装置8、表示装置9、制御装置10を備えている。本実施の形態において、分析システム1は、例えば水に含まれるppbオーダーの微量なアルミニウムの濃度を測定する。
【0017】
詳述すると、処理槽2は、例えば、ガラス管を用いて形成された円筒型の容器であり、その底部にはステンレス製の振動板11が配置されている。この処理槽2には、ppbオーダーの微量なアルミニウム(溶質)を含んだ処理水W1(第1の溶媒)が注液されている。また、処理槽2内には、処理水W1よりもアルミニウムを溶かし易く、かつ処理水W1には不溶で処理水W1よりも密度が高い有機溶媒であるクロロホルムW2(第2の溶媒)が注液されている。なお、第2の溶媒に第2の溶質(配位子)として8−ヒドロキシキノリンが含まれ、それがアルミニウムと錯体を形成し、第2の溶媒に抽出される。本実施の形態では、処理水W1がクロロホルムW2の体積比で20倍以上となるように注液されている。また、クロロホルムW2は微量であり密度が処理水W1よりも高い。このため、処理水W1中においては、滴状に凝集した状態でクロロホルムW2が処理槽2の底部に沈降する。
【0018】
洗浄槽13の底部に設けられている振動板11には、振動面を上方に向けた状態で各超音波振動子3,4が装着されている。低周波数超音波振動子3(第1超音波振動子)は低周波数超音波発振器5に接続され、高周波数超音波振動子4(第2超音波振動子)は高周波数超音波発振器6に接続されている。
【0019】
低周波数超音波発振器5は、低周波数の超音波発振信号を生成して低周波数超音波振動子3に出力する。この超音波発振信号によって、低周波数超音波振動子3が駆動され、低周波数(本実施の形態では、28kHzの周波数)の第1超音波が処理槽2内の処理水W1に照射される。高周波数超音波発振器6は、高周波数の超音波発振信号を生成して高周波数超音波振動子4に出力する。この超音波発振信号によって、高周波数超音波振動子4が駆動され、高周波数(本実施の形態では、2.4MHzの周波数)の第2超音波が処理槽2内の処理水W1に照射される。なお、本実施の形態において、低周波数の第1超音波の出力は100ワットであり、高周波数の第2超音波の出力は5ワットである。
【0020】
電気化学発光プローブ7は、三電極複合型のプローブであり、電気化学発光によってアルミニウムの濃度を測定する。図2に示されるように、本実施の形態の電気化学発光プローブ7は、白金を用いて格子状に形成された白金グリッド電極21(作用電極)と、白金線からなる対電極22(補助電極)と、銀線からなる擬参照電極23とを備え、各電極21〜23は、直径が3mmのフッ素樹脂製のロッド24内に封入されている。また、ロッド24には、光ファイバ25が挿入されており、そのロッド24の先端面に白金グリッド電極21がプローブ先端から突出した状態で配置されている。この白金グリッド電極21は、銀ペースト27を用いてリード線28に接続され、そのリード線28が光ファイバ25とともにロッド24内に収納されている。
【0021】
電気化学発光プローブ7は、発光検出装置8に接続されている。発光検出装置8は、電気化学発光プローブ7の作用電極21に交流電圧を印加するためのファンクションジェネレータ、光ファイバ25内を伝搬した電気化学発光の光を検出するための光電子増倍管や分光器等を含む。
【0022】
制御装置10は、CPU、ROM、RAM等のからなる周知のマイクロコンピュータを中心に構成されている。制御装置10は、各超音波発振器5,6を制御して各超音波振動子3,4を順次駆動することで、クロロホルムW2中のアルミニウムの濃度を高める濃縮処理を行う。また、制御装置10は、発光検出装置8を制御して電気化学発光プローブ7の作用電極21に交流電圧を印加することで、クロロホルムW2中で電気化学発光を生じさせ、その発光強度に基づいてアルミニウムの濃度を算出する。表示装置9は、例えば、LCDやCRTなどのディスプレイであり、制御装置10からの転送データに基づいてアルミニウムの濃度を表示する。
【0023】
なお、本実施の形態の分析システム1では、処理槽2、各超音波振動子3,4、各超音波発振器5,6、及び制御装置10によって超音波濃縮装置が構成されている。また、電気化学発光プローブ7、発光検出装置8、及び制御装置10によって濃度測定装置が構成されている。
【0024】
本実施の形態の分析システム1において、アルミニウムの濃度を測定するために制御装置10が実行する処理例について、図3のフローチャートを用いて説明する。なお、図3の処理は、作業者が処理槽2内に微量のアルミニウムを含む処理水W1とクロロホルムW2および配位子を注液した後、制御装置10に設けられているスタートボタン(図示略)を操作したときに開始される。
【0025】
先ず、制御装置10は、低周波数超音波発振器5を動作させ、低周波数超音波発振器5から低周波数超音波振動子3に超音波発振信号を出力させる。そして、その超音波発振信号により低周波数超音波振動子3が駆動されることで、低周波数超音波振動子3が共振し、低周波数の第1超音波が処理槽2内の処理水W1に照射される(ステップ100)。このとき、処理水W1中においてクロロホルムW2が50μm以下のサイズに分散して、エマルション化(乳化)する(図4(a)及び図4(b)参照)。この結果、クロロホルムW2の比表面積が大きくなり、そのクロロホルムW2の表面にアルミニウムを接触させることでクロロホルムW2がアルミニウムを抽出する。そして、低周波数超音波発振器5の動作開始から1分間経過した後、低周波数超音波発振器5を停止させる。
【0026】
その後、制御装置10は、高周波数超音波発振器6を動作させ、高周波数超音波発振器6から高周波数超音波振動子4に超音波発振信号を出力させる。そして、その超音波発振信号によって高周波数超音波振動子4が駆動されることで、高周波数超音波振動子4が共振し、高周波数の第2超音波が処理槽2内の処理水W1に照射される(ステップ110)。このとき、処理水W1中において分散しているクロロホルムW2の液滴が凝集し、徐々にサイズが大きくなって塊となった滴状のクロロホルムW2が処理槽2の底部に沈降する(図4(c)参照)。そして、高周波数超音波発振器6の動作開始から5分間経過した後、高周波数超音波発振器6を停止させる。
【0027】
次に、制御装置10は、発光検出装置8を動作させ、電気化学発光プローブ7の作用電極21に交流電圧を印加する(ステップ120)。このとき、アルミニウムと錯体が作用電極21の表面に酸化還元され、クロロホルムW2中で一定量の過酸化ベンゾイルが含まれる場合に電気化学発光が生じる。この発光はプローブ7の光ファイバ25を伝搬して発光検出装置8に取り込まれる。そして、発光検出装置8において電気化学発光の発光強度が検出される。制御装置10は、その発光強度に応じた検出信号を取り込み、その検出信号に基づいてアルミニウムの濃度を算出する(ステップ130)。そして、制御装置10は、算出した濃度に応じたデータを表示装置9に転送し、その表示装置9に濃度を表示させる(ステップ140)。そして、制御装置10は、その濃度の表示後に図3の処理を終了する。
【0028】
本実施の形態において、電気化学発光の発光強度に応じたアルミニウム濃度を算出する際(ステップ130)には、下記のようなアルミニウム濃度の定量分析の手法に基づいて取得した検量線のデータを用いている。
【0029】
以下、アルミニウム濃度の定量分析の手法について説明する。
【0030】
先ず、アルミニウムを既知の濃度(1ppb〜50ppbの濃度)で溶け込ませた標準の溶媒として、pHが8.0であるリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用意する。そして、20mLのPBSと0.5mLのクロロホルムとを処理槽2内に注液する。その後、低周波数の第1超音波による分散処理(ステップ100)を1分間行い、高周波数の第2超音波による凝集処理(ステップ110)を5分間行う。さらに、PBS中にて凝集した滴状のクロロホルムに対して電気化学発光プローブ7の作用電極21を接触させ、クロロホルム中で電気化学発光を生じさせる。そして、電気化学発光の強度を測定する。なお、この発光強度の測定は、濃度の異なる各標準の溶媒ごとに行う。
【0031】
図5には、各濃度の基準の溶媒ごとに検出された発光スペクトルの測定結果を示している。図5に示されるように、発光スペクトルとしては、510nmの波長でピークを示し、アルミニウムの濃度が高まるにつれて、発光強度が大きくなっている。そして、図5の測定結果から、図6に示されるような検量線のデータを得ることができる。図6に示されるように、アルミニウムの濃度に応じて発光スペクトルの強度が直線的に変化している。従って、本実施の形態では、図6のような検量線のデータと発光検出装置8で検出された発光強度とに基づいて、処理水W1に含まれていた微量なアルミニウムの濃度が求められる。
【0032】
なお、上述した分散・凝集処理を実施した後、処理槽2内の処理水W1側に残るアルミニウムの濃度は、ほぼ0ppbであることが確認されている。従って、クロロホルムW2へのアルミニウムの濃縮倍率は、処理水W1とクロロホルムW2との体積比に基づいて求めることができる。
【0033】
また、本発明者らは、アルミホイルからの微量アルミニウムの溶出実験を行い、その際のアルミニウムの濃度を本実施の形態の分析システム1を用いて測定した。図7には、その測定結果を示している。なお、この溶出実験としては、100℃の温度に高めたリン酸緩衝生理食塩水中にアルミホイルを浸けた場合において、溶出時間とアルミニウムの濃度との関係について測定した。
【0034】
このアルミニウムの溶出実験では、アルミニウムが微量であるため、0ppb〜10ppbの範囲で検量線を作成し、その検量線を使用してアルミニウムの濃度を測定した。その測定結果を表1に示している。表1に示されるように、本実施の形態の超音波濃縮分析システムを用いれば、ppbレベルの微量なアルミニウムの濃度を測定することができた。
【表1】
【0035】
近年では、飲料水に含まれるアルミニウム濃度とアルツハイマー病の発生とについて相関関係があると考えられている。また、土壌成分に含まれるアルミニウムが植物の成長を阻害するともいわれている。本実施の形態の分析システム1を用いれば、飲料水や土壌に含まれる微量なアルミニウムの濃度を測定できるため、アルミニウム濃度が人体や生態系に与える影響を調べることが可能となる。また、分析システム1を構成する各装置は、コンパクトな携帯型装置として実現することができるため、移動が容易で現地分析を容易に行うことが可能となる。
【0036】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0037】
(1)本実施の形態の分析システム1では、処理槽2内に、処理水W1がクロロホルムW2よりも20倍以上の体積比となるよう注液された後、低周波数の第1超音波が照射されることで、処理水W1中においてクロロホルムW2が分散される。これにより、処理水W1に含まれているアルミニウムをクロロホルムW2が抽出し、クロロホルムW2に含まれるアルミニウムの濃度が20倍以上に高められる。ここで、処理水W1中にクロロホルムW2を分散させた後、そのまま静かに放置した場合、1日放置してもクロロホルムW2は凝集することはない。これに対して、本実施の形態では、第1超音波よりも高い高周波数の第2超音波を照射することで、処理水W1中に分散していたクロロホルムW2が数分程度の短時間で確実に凝集される。この際、クロロホルムW2の密度は処理水W1の密度よりも高いため、その密度の違いによって処理槽2の底部にクロロホルムW2が集められる。このようにすると、処理水W1のアルミニウムの濃度に対して20倍以上の濃度に濃縮されたクロロホルムW2を短時間で得ることができる。またこの場合、クロロホルムW2の使用量も少ないため、従来の濃縮法と比較して、有機溶媒のコストを低く抑えることができる。
【0038】
(2)本実施の形態の分析システム1では、処理槽2の底部に凝集したクロロホルムW2に電気化学発光プローブ7の作用電極21を接触させることで、電気化学発光を生じさせ、電気化学発光の発光強度に基づいて、クロロホルムW2に含まれるアルミニウムの濃度が算出される。そして、処理水W1とクロロホルムW2との体積比に基づくアルミニウムの濃縮割合と、算出したクロロホルムW2におけるアルミニウムの濃度とに基づいて、処理水W1に含まれていたアルミニウムの濃度を求めることができる。このようにすると、処理水W1に含まれるppbレベルの微量な溶質の濃度を迅速に測定することができる。
【0039】
(3)本実施の形態の分析システム1において、第1超音波の周波数が28kHzであるので、比較的大きな音圧(パワー)の超音波を処理水W1に作用させることができ、処理水W1中にクロロホルムW2を短時間で確実に分散させることができる。また、第2超音波の周波数が2.4MHzであるので、処理水W1中にてキャビテーションを生じさせることなく、クロロホルムW2を短時間で確実に凝集させることができる。
【0040】
(4)本実施の形態の分析システム1において、処理槽2の底部に低周波数超音波振動子3が設けられている。この場合、処理水W1に添加されたクロロホルムW2は密度が高いため底部側に沈んでいくが、その底部側からクロロホルムW2と処理水W1との界面に低周波数の超音波を効率よく照射することができる。このため、クロロホルムW2の分散効率を高めることができる。
【0041】
(5)本実施の形態の分析システム1では、同じ処理槽2でクロロホルムW2の分散及び凝集が行われているので、他の物質による汚染(コンタミネーション)を最小限に抑えることができる。
【0042】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0043】
・上記実施の形態の分析システム1において、処理槽2の底部に低周波数超音波振動子3及び高周波数超音波振動子4が設けられていたが、これに限定されるものではない。具体的には、例えば、図8に示されるように、処理槽2において、底部に低周波数超音波振動子3を設け、側壁部に高周波数超音波振動子4を設けてもよい。また逆に、底部に高周波数超音波振動子4を設け、側壁部に低周波数超音波振動子3を設けてもよい。さらに、処理槽2の上部に超音波振動子3,4を設けてもよい。例えば、第2の溶媒の密度が低く、第1の溶媒の液面に第2の溶媒が浮かぶ場合、上部に設けた低周波数超音波振動子3から超音波を照射することにより、第1の溶媒中に第2の溶媒を効率よく分散させることができる。
【0044】
・上記実施の形態の分析システム1では、処理槽2内に溶媒(処理水W1及びクロロホルムW2)を注液して溶媒W1,W2に直接超音波を照射する構成を採用したが、処理槽を2重の槽構造として、溶媒W1,W2に超音波を間接的に照射する構成に変更してもよい。図9にはその具体例を示している。図9に示されるように、ビーカーなどの容器30に溶媒W1,W2を注液し、その容器30を処理槽2内の超音波伝達媒体W0(具体的には水)中に浸漬する。そして、処理槽2の底部に設けた低周波数超音波振動子3や側壁部に設けた高周波数超音波振動子4から超音波伝達媒体W0を介して容器30内の溶媒W1,W2に間接的に超音波を照射する。また、図9の処理槽2内には、超音波を反射させる反射板31が配置されており、高周波数の超音波の照射時において、容器30内で定在波が形成されるようになっている。このように、超音波を間接的に照射する構成としても、処理水W1中でのクロロホルムW2の分散や凝集を行うことができる。さらに、処理槽2内に反射板31を配置させることで、高周波数の超音波の照射時に定在波が形成されるので、処理水W1中におけるクロロホルムW2の凝集を効率よく迅速に行うことができる。
【0045】
・上記実施の形態の分析システム1では、1つの処理槽2内にて低周波数の第1超音波と高周波数の第2超音波を照射する構成としたが、これに限定されるものではない。例えば、低周波数の第1超音波を照射するための分散用処理槽と、高周波数の第2超音波を照射するための凝集用処理槽とを別々に設け、溶媒W1,W2を入れた容器30を各処理槽間で移し変えて、分散処理及び凝集処理を行うように構成してもよい。
【0046】
・上記実施の形態では、アルミニウムを含んだ処理水W1を濃縮してその濃度を測定する分析システムとして具体化するものであったが、これに限定されるものではない。例えばレアメタルを含んだ処理水W1を濃縮して抽出するための濃縮装置に本発明を具体化してもよい。勿論、微生物やウイルスなどの物質を検出するための分析システムとして本発明を具体化してもよい。
【0047】
・上記実施の形態の分析システム1では、作用電極として白金グリッド電極21を備える電気化学発光プローブ7を用いたが、これに限定されるものではなく、図10に示されるような電気化学発光プローブ7Aを用いてもよい。図10の電気化学発光プローブ7Aでは、光ファイバ25の先端に直径が0.3mmの白金線を螺旋状に巻き、それを作用電極21としている。また、電気化学発光プローブ7Aには、螺旋状に巻いた白金線の対電極22と銀からなる擬参照電極23とが設けられており、各電極21,22,23は、ロッド24内に封入されている。この電気化学発光プローブ7Aを用いても、クロロホルムW2にて電気化学発光を生じさせることができ、その発光強度に応じたアルミニウムの濃度を測定することができる。
【0048】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0049】
(1)溶媒中に存在する微量な溶質を濃縮する超音波濃縮装置であって、前記溶質が所定濃度で溶け込んでいる第1の溶媒と、前記第1の溶媒よりも前記溶質を溶かし易く、かつ前記第1の溶媒とは不溶で密度が異なる第2の溶媒とを注液するとともに、その際に前記第1の溶媒が体積比で前記第2の溶媒の20倍以上になるようにする処理槽と、前記第2の溶媒を添加した前記第1の溶媒に対して、低周波数の第1超音波を照射して、前記第1の溶媒中に前記第2の溶媒を分散させることにより、前記溶質を前記第1の溶媒から前記第2の溶媒に抽出する第1超音波振動子と、前記第2の溶媒を分散させた前記第1の溶媒に対して、前記第1超音波よりも周波数が高い高周波数の第2超音波を照射して、前記所定濃度よりも濃度が高くなった前記第2の溶媒を凝集させる第2超音波振動子とを備えたことを特徴とする超音波濃縮装置。
【0050】
(2)技術的思想(1)において、前記第2超音波の照射時に定在波を形成すべく前記処理槽内に配置される反射板をさらに備えたことを特徴とする超音波濃縮装置。
【0051】
(3)技術的思想(1)または(2)に記載の超音波濃縮装置と、前記処理槽内において凝集した前記第2の溶媒に接触させて電気化学発光を生じさせ、前記電気化学発光の発光強度に基づいて、前記第2の溶媒に含まれる前記溶質の濃度を測定する濃度測定装置とを備えたことを特徴とする分析システム。
【0052】
(4)技術的思想(3)において、前記濃度測定装置は、前記第2の溶媒に接触させて電気化学発光を生じさせる電極と、前記電気化学発光を前記処理槽の外部に導く光ファイバと、前記光ファイバを伝搬した前記電気化学発光の発光強度を検出する光検出部と、前記発光強度に基づいて、前記第2の溶媒に含まれる前記溶質の濃度を算出する濃度算出部とを備えたことを特徴とする分析システム。
【0053】
(5)技術的思想(3)または(4)において、前記濃度測定装置が測定した前記濃度を表示する表示装置をさらに備えたことを特徴とする分析システム。
【0054】
(6)技術的思想(3)乃至(5)のいずれかにおいて、前記超音波濃縮装置及び前記濃度測定装置は携帯型の装置であることを特徴とする分析システム。
【0055】
(7)請求項1または2において、前記処理槽内に第1の溶媒及び第2の溶媒を注液するステップでは、前記第1の溶媒が前記第2の溶媒よりも100倍以上の体積比となるようにすることを特徴とする超音波濃縮方法。
【0056】
(8)請求項1または2において、前記第1超音波の出力は、前記第2超音波の10倍以上であることを特徴とする超音波濃縮方法。
【0057】
(9)請求項1または2において、前記溶質はアルミニウムであり、前記第1の溶媒は水であり、前記第2の溶媒はクロロホルムであることを特徴とする超音波濃縮方法。
【符号の説明】
【0058】
2…処理槽
21…電極としての白金グリッド電極
W1…第1の溶媒
W2…第2の溶媒
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中に存在する微量な溶質を濃縮する超音波濃縮方法であって、
前記溶質が所定濃度で溶け込んでいる第1の溶媒と、前記第1の溶媒よりも前記溶質を溶かし易く、かつ前記第1の溶媒とは不溶で密度が異なる第2の溶媒とを処理槽内に注液するとともに、その際に前記第1の溶媒が体積比で前記第2の溶媒の20倍以上になるようにするステップと、
前記第2の溶媒を添加した前記第1の溶媒に対して、低周波数の第1超音波を照射して前記第1の溶媒中に前記第2の溶媒を分散させることにより、前記溶質を前記第1の溶媒から前記第2の溶媒に抽出するステップと、
前記第2の溶媒を分散させた前記第1の溶媒に対して、前記第1超音波よりも周波数が高い高周波数の第2超音波を照射して、前記所定濃度よりも濃度が高くなった前記第2の溶媒を凝集させるステップと
を含むことを特徴とする超音波濃縮方法。
【請求項2】
前記第1超音波の周波数は40kHz以下であり、前記第2超音波の周波数は500kHz以上であることを特徴とする請求項1に記載の超音波濃縮方法。
【請求項3】
溶媒中に存在する微量な溶質の濃度を超音波を利用して測定する分析システムであって、
前記溶質が所定濃度で溶け込んでいる第1の溶媒と、前記第1の溶媒よりも前記溶質を溶かし易く、かつ前記第1の溶媒とは不溶で密度が異なる第2の溶媒とを処理槽内に注液するとともに、その際に前記第1の溶媒が体積比で前記第2の溶媒の20倍以上になるようにするステップと、
前記第2の溶媒を添加した前記第1の溶媒に対して、低周波数の第1超音波を照射して前記第1の溶媒中に前記第2の溶媒を分散させることにより、前記溶質を前記第1の溶媒から前記第2の溶媒に抽出するステップと、
前記第2の溶媒を分散させた前記第1の溶媒に対して、前記第1超音波よりも周波数が高い高周波数の第2超音波を照射して、前記所定濃度よりも濃度が高くなった前記第2の溶媒を凝集させるステップと、
前記処理槽内において凝集した前記第2の溶媒を蛍光分析法または電気化学発光法により検出し、蛍光または電気化学発光の発光強度に基づいて、前記第2の溶媒に含まれる前記溶質の濃度を算出するステップと
を実行することを特徴とする超音波濃縮分析システム。
【請求項1】
溶媒中に存在する微量な溶質を濃縮する超音波濃縮方法であって、
前記溶質が所定濃度で溶け込んでいる第1の溶媒と、前記第1の溶媒よりも前記溶質を溶かし易く、かつ前記第1の溶媒とは不溶で密度が異なる第2の溶媒とを処理槽内に注液するとともに、その際に前記第1の溶媒が体積比で前記第2の溶媒の20倍以上になるようにするステップと、
前記第2の溶媒を添加した前記第1の溶媒に対して、低周波数の第1超音波を照射して前記第1の溶媒中に前記第2の溶媒を分散させることにより、前記溶質を前記第1の溶媒から前記第2の溶媒に抽出するステップと、
前記第2の溶媒を分散させた前記第1の溶媒に対して、前記第1超音波よりも周波数が高い高周波数の第2超音波を照射して、前記所定濃度よりも濃度が高くなった前記第2の溶媒を凝集させるステップと
を含むことを特徴とする超音波濃縮方法。
【請求項2】
前記第1超音波の周波数は40kHz以下であり、前記第2超音波の周波数は500kHz以上であることを特徴とする請求項1に記載の超音波濃縮方法。
【請求項3】
溶媒中に存在する微量な溶質の濃度を超音波を利用して測定する分析システムであって、
前記溶質が所定濃度で溶け込んでいる第1の溶媒と、前記第1の溶媒よりも前記溶質を溶かし易く、かつ前記第1の溶媒とは不溶で密度が異なる第2の溶媒とを処理槽内に注液するとともに、その際に前記第1の溶媒が体積比で前記第2の溶媒の20倍以上になるようにするステップと、
前記第2の溶媒を添加した前記第1の溶媒に対して、低周波数の第1超音波を照射して前記第1の溶媒中に前記第2の溶媒を分散させることにより、前記溶質を前記第1の溶媒から前記第2の溶媒に抽出するステップと、
前記第2の溶媒を分散させた前記第1の溶媒に対して、前記第1超音波よりも周波数が高い高周波数の第2超音波を照射して、前記所定濃度よりも濃度が高くなった前記第2の溶媒を凝集させるステップと、
前記処理槽内において凝集した前記第2の溶媒を蛍光分析法または電気化学発光法により検出し、蛍光または電気化学発光の発光強度に基づいて、前記第2の溶媒に含まれる前記溶質の濃度を算出するステップと
を実行することを特徴とする超音波濃縮分析システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−57949(P2012−57949A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198405(P2010−198405)
【出願日】平成22年9月4日(2010.9.4)
【出願人】(000243364)本多電子株式会社 (255)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月4日(2010.9.4)
【出願人】(000243364)本多電子株式会社 (255)
【Fターム(参考)】
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