説明

超音波複合振動装置用溶接チップ、接合方法、及び超音波複合振動接合による接合体

【課題】接合面積を増大させ、接合強度の向上を実現する超音波複合振動装置用溶接チップを提供する。
【解決手段】複数の被接合材を超音波複合振動によって接合する溶接チップであって、被接合材を加圧する面405に凹部410を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波複合振動装置用溶接チップ、接合方法、及び超音波複合振動接合による被接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波複合振動接合は、溶接チップにより溶接面に静圧力を印加し、溶接面(被接合界面)に平行な超音波複合振動を印加して、被接合材料面を相対的に振動する事で、静圧力と超音波複合振動により原子間接合が行われる。振動軌跡が二次元の超音波複合振動接合によれば、従来の一次元の振動軌跡を用いる超音波振動接合と比較して、振動振幅が同一でもより接合面積が大きな接合部が得られるため接合強度が大きくなるという有利な特徴を有する。また、従来の直線振動軌跡と比較して、楕円・円形振動軌跡を用いた場合には溶接面への二次元振動応力の印加により溶接面積が数倍以上になり、溶接強度の大きな方向性の無い溶接が可能である。
【0003】
超音波複合接合装置のホーンに取り付けられる溶接チップは、その先端が外部からの加圧により被接合体に沈み込んで被接合体同士を密着させ、超音波複合振動により加振することにより、被接合体を接合させる。超音波複合振動装置を使って接合を行う場合、一般的に、溶接チップの先端形状は凸状の球面であり、表面に滑り止めとして、格子状の溝を形成する。
【特許文献1】特開平8−294673号公報
【非特許文献1】辻野 次郎丸、森 栄司著「超音波溶接に関する研究(4)」溶接学会誌題48巻(1979)第8号、p.650〜655
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、溶接チップの先端形状が凸状の球面であると、加圧装置によって印加される圧力が溶接チップの先端の中央に集中するため、被接合体に印加される面圧が均一とはならないため、接合面積が小さくなり、接合強度が低下するという問題がある。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、溶接チップの構造を、被接合材を加圧する面に凹部を有する構造とすることにより、被接合体に印加される面圧を均一とし、接合面積を増大させることで、接合強度の向上、通電抵抗の低下を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る溶接チップは、複数の被接合材を超音波複合振動によって接合する溶接チップであって、被接合材を加圧する面に凹部を有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る接合方法は、複数の被接合体材を加圧する面に凹部を有する溶接チップを外部から加圧することにより、重ねて配置した複数の被接合材のうちの一の被接合材の上から溶接チップを一定の深さに沈み込ませる加圧段階と、溶接チップに外部から超音波複合振動を加えて複数の被接合材を互いに接合する接合段階と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る接合体は、複数の被接合材が超音波複合振動により接合された接合体であって、複数の被接合材を加圧する面に凹部を有する溶接チップを外部から加圧することにより、重ねて配置した複数の被接合材のうちの一の被接合材の上に溶接チップを一定の深さに沈み込ませ、溶接チップに外部から超音波複合振動を加えて複数の被接合材を互いに接合することにより、一の被接合材に凹部に対応した圧痕形状を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る接合チップによれば、溶接チップの構造を、被接合材を加圧する面に凹部を有する構造とすることにより、被接合体に印加される面圧を均一とし、接合面積を増大させることで、接合強度の向上を実現することができる。
【0010】
また、本発明に係る接合方法によれば、被接合体材を加圧する面に凹部を有する溶接チップを用いて被接合体材を接合することにより、被接合体に印加される面圧を均一とし、接合面積を増大させ、接合強度を向上させた接合を実現することができる。
【0011】
また、本発明に係る接合体によれば、被接合体材を加圧する面に凹部を有する溶接チップを用いて被接合体材を接合することにより、被接合体に印加される面圧を均一とし、接合面積を増大させ、接合強度を向上させた接合体を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
〔第1実施形態〕
以下、図1〜図3を用いて本発明に係る第1実施形態について詳細に説明する。なお、図面においては、被接合材の厚さや、装置の部品の形状などを強調しているが、これは発明の理解を容易にするためである。
【0013】
図1は、本発明の第1実施形態に係る溶接チップを実装した超音波複合振動装置100を模式的に示した図である。超音波複合振動装置100は、複数の被接合材料120、たとえば、2枚の異種金属板を超音波複合振動により接合するための装置である。被接合材料としては、Al(アルミニウム)、Cu(銅)が考えられるがこれに限定されない。本第1実施形態は、主に、扁平形単電池の電極タブの接合に利用できる。
【0014】
図1に示すように、超音波複合振動装置100は、溶接チップ110、複合振動変換用超音波ホーン(以下、「ホーン」と称する。)130、加圧装置140、アンビル150、超音波発振器160、超音波振動子170を有する。
【0015】
ホーン130の先端には、溶接チップ110を設置し、2つの被接合材120を溶接チップ110とアンビル150および加圧装置140によって狭持し、加圧する。超音波発振器160により発振した電気信号は、超音波振動子170に印加され、超音波振動子170は超音波振動し、ホーン130を励振する。
【0016】
ホーン130は、超音波振動子170により発生した超音波振動を、溶接チップ110を介して被接合材120へ伝達する機能を有する。
【0017】
アンビル150は、加圧装置140によって加圧される被接合材の受け台としての機能を有する。
【0018】
加圧装置140は、ホーン130を被接合材120側に向けて加圧するための加重を発生する機能を有する。加圧装置140は、制御装置(図示せず。)に接続されており、加重値が適宜調整される。
【0019】
図2は、本発明の第1実施形態に係る溶接チップ200を被接合材210Aに沈み込ませた状態を示す図である。ホーンおよびアンビルは、図2に示すように、重ねて配置した2つの被接合材210A、210Bからなる被接合材210の一の被接合材210Aの上から、加圧により、溶接チップ200を一定の深さ沈み込ませる。この状態で、ホーンを超音波振動させる。これにより、2つの被接合材のうちの一の被接合材210Aが加振され、他の被接合材210Aとの被接合界面を摩擦することで被接合材同士を固相接合する。溶接チップ200を被接合材210Aに沈み込ませる深さは、溶接チップ200が被接合材210Aを加圧する面、すなわち、溶接チップ200の先端に設けられた凹部、の深さよりも大きくする。したがって、溶接チップ200が有する凹部は、その底面が常に被接合材210Aと接触し、被接合材210を加圧した状態で一の被接合材210Aを加振し、2つの被接合材210を接合する。これにより、該凹部の底面は該被接合材と全面にわたって接触し、均一の圧力により被接合材を加圧することとなるため、接合面積が増加する。接合面積が増加することにより、接合強度が向上し、被接合材210A、210B間の通電抵抗を低下させることができる。
【0020】
図3は本発明の第1実施形態に係る溶接チップの先端の平面図であり、図4は該溶接チップの先端の断面図である。図3、図4に示すように、本発明の第1実施形態による溶接チップ300、400は、溶接チップが被接合材を加圧する面405である、該チップの先端の中央部に均一の深さを有する凹部310、410を有する。
【0021】
比較例として、従来の溶接チップの先端の形状は球面であり、表面に滑り止めとして格子状の溝を設けている。しかし、溶接チップの先端形状が凸状の球面であると、加圧装置によって印加される圧力が溶接チップの先端の中央に集中するため、被接合体に印加される面圧が均一とはならない。したがって、被接合体に印加される面圧が均一とならないことに起因し、接合面積が小さくなり、接合強度が低下するという問題がある。また、接合面積が小さいため、通電抵抗が増加するという問題がある。さらに、接合対象である被接合体の形状によっては、溶接チップがホーンの中心軸から棒状に大きく突き出した形状とする必要がある場合がある。この場合、溶接チップが長い形状を有することに起因する曲げ振動により、面圧の不均一さが顕著となり、接合面積をさらに低下させるという問題がある。
【0022】
一方、図3、図4に示すように、本発明の第1実施形態による溶接チップ300、400は、先端の中央部に、均一の深さを有する凹部310、410を有する。該凹部は、方向性を無くすため、円形の形状を有することが望ましいが、これに限定されない。溶接チップ300、400は、加圧により該凹部の底面の深さよりも大きい沈み込み深さまで被接合材に沈み込ませた状態で該被接合材を加振し、接合する。すなわち、該凹部310、410の底面は被接合材と全面にわたって接触し、均一の圧力により被接合材を加圧することとなる。したがって、加圧装置によって印加される圧力が溶接チップの先端の中央に集中することがなく、圧力が分散することにより、接合面積が大きくなり、接合強度が向上する。また、接合面積が増大することにより、接合部の通電抵抗を低下させ、電気的性能を向上させることができる。溶接チップ300、400が被接合材と当接し加圧する面405の外形形状330は円形である。しかし、これに限定されず、該外形形状330は楕円であってもよい。
【0023】
本第1実施形態による溶接チップ300、400は、さらに、前記凹部320、420と中心を共通にする2つの同心円の溝からなる滑り止め320、420を有する。溶接チップ300、400に凹部310、410が形成されていることにより、溶接チップの被接合材と当接し加圧する面405に凹部310、410および滑り止め320、420の領域を除いてリング状の突起430aが形成されている。また、同心円上の滑り止め320、420が形成されていることにより、リング状の突起430bが複数形成されている。このように、溝による滑り止めを設けることにより、前記凹部320、420を設けることにより得られる圧力分散による接合面積の増大という効果を安定的に得られる。また、溶接チップの凹部と中心を共通にする同心円の溝からなる滑り止め320、420を有することにより、接合部を均一に塑性流動させることができるため、接合面積が増加する。滑り止めは、方向性を無くし、滑り止め効果を向上させるため、本第1実施形態のように中心を共通にする2つの同心円の溝とすることが望ましいが、これに限定されない。溶接チップ300、400が被接合材と当接し加圧する面405には、同心円の溝からなる滑り止め320、420に加えて、該同心円の半径方向に延びる溝からなる滑り止めを形成してもよい。
【0024】
図5は、本第1実施形態による溶接チップを設置した超音波複合振動装置により接合した接合体の一部500を示す図である。接合体の一部500は、圧痕形状510を有する。圧痕形状510は、溶接チップを接合体に沈み込ませることにより被接合材520のうち一の被接合材520Aの表面に対し凹んだ形状を有する。また、圧痕形状510は、接合チップの凹部に対応した形状を有する。すなわち、該凹部の深さに相当する高さで、該凹部と同一の円の凸部530を有する形状を有する。このような圧痕形状510を有する接合体は、被接合材を加圧する面に凹部を有する溶接チップを用いて被接合体材を接合することにより、被接合体に印加される面圧を均一となるため、接合面積が増大し、接合強度が向上したものとなる。
【0025】
以下に、本発明の第1実施形態の効果を示す。
・接合面積が増加することにより、接合強度が向上する。
・接合面積が増加し、通電抵抗が低下するため、発熱による電気的ロスがなくなる。
・接合部を均一に加圧できるため、接合強度の分布が均一となり、入力方向の制約が少ない。
・溶接チップの凹部と中心を共通にする同心円の溝からなる滑り止めを有することにより、接合部を均一に塑性流動させることができるため、接合面積が増加する。
・溶接チップの凹部と中心を共通にする同心円の溝からなる滑り止めを有することにより、溶接チップの凹部を設けることにより得られる上記効果が安定的に得られる。
【0026】
〔第2実施形態〕
図6は本発明の第2実施形態による溶接チップの先端600の断面図である。第1実施形態と異なるのは、溝からなる滑り止めを有していない点である。第1実施形態と共通する説明は省略する。
【0027】
図6に示すように、第2実施形態による溶接チップ600は、第1実施形態と同様に、溶接チップが被接合材を加圧する面605である該チップの先端の中央部に、均一の深さを有する凹部610を有する。該凹部は、方向性を無くすため、円形の形状を有することが望ましいが、これに限定されるものではない。
【0028】
また、図7に示すように、第2実施形態による溶接チップ700は、第1実施形態と異なり、溶接チップの先端の中央部に、なだらかな凹面形状を有する凹部710を有してもよい。このようななだらかな凹面形状を有する凹部710を有する溶接チップ700は、図6に示す溶接チップ600と同様の効果を有する。
【0029】
一方、溶接チップ700に対し、第1実施形態に係る溶接チップと同様の溝からなる滑り止めを有してもよい。このような滑り止めを有することにより、溶接チップ700は、第1実施形態に係る溶接チップと同様の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態による溶接チップを設置した超音波複合振動装置の模式図である。
【図2】本発明の実施形態による溶接チップ200を被接合材210Aに沈み込ませた状態を示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る溶接チップの先端の平面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る溶接チップの先端の断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る溶接チップを設置した超音波複合振動装置により接合したことによる圧痕形状を有する被接合体の一部を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る溶接チップの先端の断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る溶接チップの先端の断面図である。
【符号の説明】
【0031】
100 超音波複合振動装置、
110、200、300、400、500、600 溶接チップ、
120、210、520 被接合材、
130 ホーン、
140 加圧装置、
150 アンビル、
160 超音波発振器、
170 超音波振動子、
320、420、 滑り止め、
405、605、705 溶接チップが被接合材を加圧する面、
410、610、710 凹部、
500 圧痕形状を有する被接合体の一部、
510 圧痕形状。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被接合材を超音波複合振動によって接合する溶接チップであって、前記被接合材を加圧する面に凹部を有することを特徴とする溶接チップ。
【請求項2】
前記凹部は均一の深さを有することを特徴とする請求項1に記載の溶接チップ。
【請求項3】
前記凹部は円形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の溶接チップ。
【請求項4】
前記溶接チップが、加圧により前記被接合材に沈み込む深さは、前記溶接チップの凹部の深さよりも大きいことを特徴とする請求項2または3に記載の溶接チップ。
【請求項5】
さらに、前記凹部の周辺に、溝からなる滑り止めを有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の溶接チップ。
【請求項6】
前記溝は、単一の円状もしくは複数の同心円状であり、前記凹部と中心を共通にしていることを特徴とする請求項5に記載の溶接チップ。
【請求項7】
複数の被接合体材を加圧する面に凹部を有する溶接チップを外部から加圧することにより、重ねて配置した前記複数の被接合材のうちの一の被接合材に前記溶接チップを沈み込ませる加圧段階と、
前記溶接チップに外部から超音波複合振動を加えて前記複数の被接合材を互いに接合する接合段階と、
を有することを特徴とする接合方法。
【請求項8】
前記凹部は均一の深さを有することを特徴とする請求項7に記載の接合方法。
【請求項9】
前記凹部は円形状であることを特徴とする請求項7または8に記載の接合方法。
【請求項10】
前記溶接チップを前記被接合材に沈み込ませる深さは前記溶接チップの凹部の深さよりも大きいことを特徴とする請求項8または9に記載の接合方法。
【請求項11】
さらに、前記溶接チップは、前記凹部の周辺に、溝からなる滑り止めを有することを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の接合方法。
【請求項12】
前記溝は、単一の円状もしくは複数の同心円状であり、前記凹部と中心を共通にしていることを特徴とする請求項11に記載の接合方法。
【請求項13】
複数の被接合材が超音波複合振動により接合された接合体であって、
前記複数の被接合材を加圧する面に凹部を有する溶接チップを外部から加圧することにより、重ねて配置した前記複数の被接合材のうちの一の被接合材の上に前記溶接チップを一定の深さに沈み込ませ、前記溶接チップに外部から超音波複合振動を加えて前記複数の被接合材を互いに接合することにより、前記一の被接合材に前記凹部に対応した圧痕形状を有することを特徴とする接合体。
【請求項14】
前記凹部は均一の深さを有することを特徴とする請求項13に記載の接合体。
【請求項15】
前記凹部は円形状であることを特徴とする請求項13または14に記載の接合体。
【請求項16】
前記溶接チップは、前記凹部の周辺に、溝からなる滑り止めを有することにより、前記溝に対応した圧痕形状をさらに有することを特徴とする請求項13〜15のいずれかに記載の接合体。
【請求項17】
前記溝は、単一の円状もしくは複数の同心円状であり、前記凹部と中心を共通にしていることを特徴とする請求項16に記載の被接合材の接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−46707(P2010−46707A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215441(P2008−215441)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(594134707)株式会社アサヒ・イー・エム・エス (2)
【Fターム(参考)】