説明

超音波送受波器

【課題】グレーティングローブの発生を抑制して、より広いチルト角の範囲内で正確な角度情報を得ることが可能になると共に、振動子の数を増大させることなく、容易に製造することができる。
【解決手段】超音波送受波器10の送受波器本体12を逆円錐台形状とすることで、グレーティングローブの発生する角度範囲を水平方向から鉛直方向(中心軸19)側に移動させて、超音波(主ローブ)を送受波するためのチルト角の範囲を広げる。これにより、前記グレーティングローブの発生が抑制されて、より広いチルト角の範囲で正確な角度情報を得ることが可能となる。また、球状の超音波送受波器と比較して、振動子18の数を増大させることなく、超音波送受波器10を容易に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、周方向に配置した複数の振動子から超音波を送受波するための超音波送受波器であって、より詳細には、船舶に搭載されて魚群等の物標を探知するスキャニングソナーの送受波器として用いられる超音波送受波器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、円筒形状の超音波送受波器では、該超音波送受波器から送受波する超音波の1/2波長の間隔で、水平方向(周方向)及び鉛直方向(垂直方向)に複数の振動子を配置し、前記各振動子から前記水平方向の全方位に前記超音波を送受波することにより、水中の魚群等の物標にて反射した超音波(エコー)をエコー信号として前記各振動子で検出し、検出した前記エコー信号を解析して前記物標の角度情報(どの方向に物標が存在するのかという情報)を探知する。
【0003】
特許文献1には、前記各振動子に印加される送信信号を前記垂直方向に位相制御することにより、前記水平方向に対する所定のチルト角の方向にて超音波(主ローブ)を送受波することが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−343450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、超音波の送受波時には、主ローブに加え、物標の探知に不要なサイドローブも同時に発生する。そのため、位相制御によりチルト角を大きく設定すると、前記主ローブと前記サイドローブとが合成したグレーティングローブが発生するので、各振動子で検出されるエコー信号は、前記グレーティングローブの影響を受けた電気信号となる。従って、このエコー信号を解析しても、物標の正確な角度情報を得ることができない。
【0006】
そこで、特許文献1には、超音波送受波器を球面状とすることにより、チルト角を大きくしても主ローブの指向性を確保できること(グレーティングローブの発生を抑制すること)が提案されている。しかしながら、円筒形状の超音波送受波器と球面状の超音波送受波器とが同一高さである場合に、該球面状の超音波送受波器の表面積は、前記円筒形状の超音波送受波器の表面積よりも大きくなるので、前記球面状の超音波送受波器に配置される振動子の数が相対的に多くなる。また、前記球面状の超音波送受波器では、各振動子が互いに異なる方向に指向して配置されるので、前記円筒形状の超音波送受波器と比較して、振動子の配置構造が複雑となって、製造が困難となる。
【0007】
この発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、グレーティングローブの発生を抑制して、より広いチルト角の範囲内で正確な角度情報を得ることが可能になると共に、振動子の数を増大させることなく、容易に製造することができる超音波送受波器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る超音波送受波器は、複数の振動子を周方向に配置して構成され且つ上方から下方に向かって縮径する逆円錐台形状の送受波器本体を有し、前記各振動子は、前記逆円錐台形状の送受波器本体の側面に形成される輻射面から超音波を送受波することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、送受波器本体を逆円錐台形状とすることで、グレーティングローブの発生する角度範囲が水平方向側から鉛直方向側に移動するので、超音波(主ローブ)を送受波するためのチルト角の範囲を広げることができる。従って、グレーティングローブの発生を抑制して、より広いチルト角の範囲で正確な角度情報を得ることが可能となる。また、送受波器本体の形状が円筒形状に近い逆円錐台形状であるので、球状の超音波送受波器と比較して、振動子の数を増大させることなく、超音波送受波器を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明に係る超音波送受波器の好適な実施形態について、図1〜図8Bを参照しながら説明する。
【0011】
本実施形態に係る超音波送受波器10は、図1に示すように、上方から下方に向かって縮径する逆円錐台形状の送受波器本体12を、絶縁油16が充填された有底筒状のドーム14内に収容することにより構成され、該送受波器本体12での超音波の送受波により、水中の魚群等の物標を探知するためのスキャニングソナーとして船舶60(図8B参照)に搭載される。従って、ドーム14及び絶縁油16は、前記超音波(送受波器本体12から放射される送信ビーム及び物標からのエコー)の減衰が比較的小さな音透過性の高い材料から構成される。
【0012】
送受波器本体12は、図2に示す振動子18を周方向に配置すると共に、該周方向に配置した複数の振動子18を鉛直方向(図1に示す送受波器本体12の中心軸19に沿った方向)に沿って積層することにより構成される。
【0013】
具体的には、図3〜図5に示すように、送受波器本体12内には、ガラスエポキシ樹脂等の基板22における送受波器本体12の外周側(側面23側)に断面略L字状のコルク24が配置され、該コルク24上に電極20b、振動子18及び電極20aが順に配置されている。基板22上には、図4及び図5の例に示すように、送受波器本体12の周方向に沿って、間隔lcb、lcu(に応じた角度θcb、θcuの間隔)で複数の振動子18が配置されている。このように、周方向に沿って複数配置された振動子18、電極20a、20b及びコルク24を有する複数の基板22を、間隔lpで中心軸19に沿って積層し、積層した各基板22の中心26(中心軸19を構成する点)を貫通する図示しない支持部材により該各基板22を支持することにより、送受波器本体12が構成される。
【0014】
なお、図4は、送受波器本体12の最下段の基板22における振動子18の配置状態を示し、図5は、送受波器本体12の最上段の基板22における振動子18の配置状態を示している。ここで、図4及び図5では、基板22の図示と、振動子18の基端面28側のコルク24の図示とを省略している。また、間隔lcb、lcuは、図4及び図5の平面視で、基板22の中心26から外径方向(図1に示す側面23の方向)に向かって延在する軸31と、各振動子18の輻射面30とが直交する箇所を点33(輻射面30の中央部を示す点)とした場合に、中心26と点33との間の距離を半径とする円35のうち、隣接する2つの振動子18の点33間の円弧の長さをいう。そして、間隔lcb、lcuは、送受波器本体12にて送受波される超音波の波長λに設定され(lcb=lcu=λ)、一方で、間隔lpは、超音波の1/4波長に設定されている(lp=λ/4)。この場合、各基板22に配置される振動子18は、同一の形状及び大きさであり、一方で、前述したように、送受波器本体12は、上方から下方に向かって縮径する逆円錐台形状とされているので、上方から下方に向かうに従い、基板22の大きさが小さくなって、該基板22に配置される振動子18の個数も減少すると共に、隣接する振動子18が互いに近接して配置されることになる。
【0015】
振動子18は、圧電セラミックス等で構成され、図4及び図5の平面視で、基板22の中心26から外径方向(側面23)に向かって拡開する扇形状とされている。この場合、中心26側の基端面28と、側面23側の輻射面30とは、中心軸19(に平行な直線38)に対して所定の角度θs(例えば、θs=10°〜20°)だけ傾斜している。なお、輻射面30は、側面23に沿って角度θsだけ傾斜しているので、輻射面30に直交する軸36と水平方向を示す軸34との成す角度θdは、角度θdと略等しい角度となる(θs≒θd)。
【0016】
遮音性を有するコルク24は、図3〜図5に示すように、振動子18の底面側(電極20b)、側面32及び基端面28を囲曉するように基板22上に配置されている。ここで、電極20a、20bに電圧(送信信号)を印加すると、圧電セラミックスからなる振動子18内では、図3の片側矢印方向に分極が発生して、該圧電セラミックスは、両側矢印方向に振動する。これにより、輻射面30から外部に超音波(送信ビーム)が放射されると共に、外部から魚群等の物標にて反射される超音波(エコー)を受信し、エコー信号として検出することができる。
【0017】
以上のように構成される超音波送受波器10の効果について、図6A〜図8Bを参照しながら説明する。
【0018】
図6Aは、従来技術に係る超音波送受波器を構成する円筒形状の送受波器本体54にて送受波される超音波の指向性のシミュレーション結果(比較例1)であり、一方で、図6Bは、本実施形態に係る超音波送受波器10を構成する逆円錐台形状の送受波器本体12にて送受波される超音波の指向性のシミュレーション結果(実施例1)である。なお、図6A及び図6Bでは、主ビームのチルト角T(水平方向の軸34と主ビームを送受波する方向との成す角度)を60°に設定している。また、図6Bでは、θs及びθdを20°に設定している。
【0019】
図6Aの比較例1において、水平方向に対してチルト角Tを60°まで大きくすると、送信ビーム又はエコーを示す主ローブと、物標の探知に不要なサイドローブ52とが合成してグレーティングローブ50が発生するので、各振動子で検出されるエコー信号(エコーから変換された電気信号)は、グレーティングローブ50の影響を受けた電気信号となる。従って、このエコー信号を解析しても、物標の正確な角度情報(どの方向に魚群等の物標が存在するのかという情報)を得ることができない。
【0020】
これに対して、図6Bの実施例1では、チルト角Tを60°にまで大きくしても、主ローブ56とサイドローブ52とが合成されず、従って、グレーティングローブ50の発生が抑制されている。すなわち、実施例1の場合、送受波器本体12の形状が逆円錐台形状であるため、グレーティングローブ50の発生する角度範囲が、水平方向(軸34)から離間して鉛直方向(中心軸19)側に移動することになり、この結果、正確な角度情報が得られるチルト角Tの範囲を広げることができるためである。
【0021】
次に、図7Aは、輻射面30に傾斜を設けない振動子58での場合(θs=θd=0°)での超音波の位相遅れのシミュレーション結果(比較例2)であり、一方で、図7Bは、振動子18の輻射面30が角度θsだけ傾斜している場合(θs=θd=10°)での超音波の位相遅れのシミュレーション結果(実施例2)である。
【0022】
図7Aの比較例2では、チルト角Tが0°、すなわち、水平方向(図3に示す軸34の方向)以外の全ての角度で位相遅れが発生している。これに対して、図7Bの実施例2では、T=−20°〜50°の広い角度範囲にわたって位相遅れが抑制されていることが容易に理解できる。これは、前述したように、本実施形態では、送受波器本体12の形状を逆円錐台形状としたので、チルト角Tを大きくしても、主ローブ56とサイドローブ52とが合成されず、グレーティングローブ50の発生が抑制されるためである。
【0023】
以上説明したように、本実施形態に係る超音波送受波器10によれば、送受波器本体12を逆円錐台形状とすることで、グレーティングローブ50の発生する角度範囲が水平方向(軸34)側から鉛直方向(中心軸19)側に移動して、超音波(主ローブ)を送受波するためのチルト角Tの範囲を広げることができる。従って、グレーティングローブ50の発生を抑制して、より広いチルト角Tの範囲で正確な角度情報を得ることが可能となる。
【0024】
具体的には、船舶60直下の水中の魚群を探知する魚群探知機62及び従来技術に係る超音波送受波器64を船舶60に搭載した場合(図8A参照)と、魚群探知機62及び本実施形態に係る超音波送受波器10を船舶60に搭載した場合(図8B参照)とを比較した際に、図8Aの例では、グレーティングローブ50の発生により、超音波送受波器64のチルト角Tを広範囲に設定することができず(例えば、T=−5°〜60°の角度範囲)、魚群探知機62の探索範囲66と、最も大きなチルト角T(T=60°)での探索範囲68との間で、魚群を探索することのできない範囲(探索範囲66、68間の10°の角度範囲)が発生する。これに対して、図8Bの例では、本実施形態に係る超音波送受波器10を船舶60に搭載することで、グレーティングローブ50の発生が抑制されるので、チルト角Tを広範囲に設定することが可能となり(例えば、T=−5°〜75°の角度範囲)、上述した魚群を探索不能な範囲を無くして、魚群の探索範囲(サービスエリア)を拡大することが可能となる。この結果、本実施形態によれば、従来技術と比較して、船舶60周辺の水中における魚群を確実且つ短時間で探索することができる。
【0025】
また、本実施形態に係る超音波送受波器10によれば、送受波器本体12の形状が円筒形状に近い逆円錐台形状であるので、球状の超音波送受波器と比較して、振動子18の数を増大させることなく、超音波送受波器10を容易に製造することができる。
【0026】
さらに、各振動子18の輻射面30を送受波器本体12の側面23に沿って、該送受波器本体12の中心軸19に対して角度θs(θs=θd)だけ傾斜することにより、主ローブ56の指向性を良好にすると共に、サイドローブ52の発生を少なくすることができる。また、輻射面30から軸34、36の方向に超音波の送受波を妨げるような不要な介在物又は突起物が存在しないので、超音波送受波器10を容易に構成することができる。
【0027】
さらにまた、周方向に配置した複数の振動子18を中心軸19に沿って積層することにより送受波器本体12を構成し、各振動子18は、超音波の波長λの間隔で前記周方向に沿って配置されると共に、前記超音波の1/4波長(λ/4)の間隔で中心軸19に沿って積層されるので、主ローブ56の指向性制御による物標の探知範囲の一層の拡大を図ることができる。
【0028】
なお、この発明は、上述の実施形態に限らず、種々の構成を採り得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態に係る超音波送受波器の断面図である。
【図2】振動子の斜視図である。
【図3】図1のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】送受波器本体の最下段の基板における振動子の配置状態を示す平面図である。
【図5】送受波器本体の最上段の基板における振動子の配置状態を示す平面図である。
【図6】図6Aは、円筒形状の送受波器本体にて送受波される超音波の指向性のシミュレーション結果を示す特性図であり、図6Bは、図1の送受波器本体にて送受波される超音波の指向性のシミュレーション結果を示す特性図である。
【図7】図7Aは、振動子の輻射面に傾斜を設けない場合での超音波の位相遅れのシミュレーション結果を示す特性図であり、図7Bは、振動子の輻射面を傾斜させた場合での超音波の位相遅れのシミュレーション結果を示す特性図である。
【図8】図8Aは、魚群探知機及び従来技術に係る超音波送受波器を船舶に搭載した場合の水中の探索範囲を示す説明図であり、図8Bは、魚群探知機及び図1の超音波送受波器を船舶に搭載した場合の水中の探索範囲を示す説明図である。
【符号の説明】
【0030】
10…超音波送受波器 12…送受波器本体
18…振動子 19…中心軸
20a、20b…電極 22…基板
23、32…側面 24…コルク
28…基端面 30…輻射面
50…グレーティングローブ 52…サイドローブ
56…主ローブ 60…船舶
62…魚群探知機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の振動子を周方向に配置して構成され、且つ、上方から下方に向かって縮径する逆円錐台形状の送受波器本体を有し、
前記各振動子は、前記逆円錐台形状の送受波器本体の側面に形成される輻射面から超音波を送受波する
ことを特徴とする超音波送受波器。
【請求項2】
請求項1記載の超音波送受波器において、
前記各振動子の輻射面は、前記送受波器本体の側面に沿って、前記送受波器本体の中心軸に対して傾斜している
ことを特徴とする超音波送受波器。
【請求項3】
請求項2記載の超音波送受波器において、
前記送受波器本体は、前記周方向に配置した複数の振動子を前記中心軸に沿って積層することにより構成され、
前記各振動子は、前記超音波の波長の間隔で前記周方向に沿って配置されると共に、前記超音波の1/4波長の間隔で前記中心軸に沿って積層される
ことを特徴とする超音波送受波器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−60480(P2010−60480A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227844(P2008−227844)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】