説明

距離センサ及び制御方法

【課題】位相方式の距離センサにおいて、測定対象物までの実際の距離に応じた適切な距離レンジの切り替えの実現。
【解決手段】距離センサ100は、発振器2が生成した基準クロック信号F1を1/N分周する分周器4の分周比Nと、PLL8が生成した参照クロック信号F2を1/N分周する分周器10の分周比Nとを可変として構成される。そして、距離計測を行う際には、先ず、分周器4,10それぞれの分周比Nを最大値Nmaxに設定し、このときに算出した測定距離Lxに応じて分周器4,10それぞれの分周比Nを最適な分周比Nに変更した後、再度、測定距離を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信波と反射波との位相差に基づいて測定対象物までの計測距離を算出する距離センサ等に関する。
【背景技術】
【0002】
位相方式の距離センサでは、送信波と、この送信波が測定対象物で反射された反射波との位相差から、測定対象物までの距離を算出する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−86872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
位相方式の距離センサでは、送信波の周波数によって計測可能な最大距離(いわゆる「距離レンジ」)が決まる。具体的には、低周波数であるほど、波長が長いため、距離レンジが大きくなる。その一方、高精度に距離を計測するためには、送信波の周波数を高周波とする必要がある。つまり、測定対象物までの実際の距離によって、当該距離を測定可能であるとともに、測定精度が最も良いと思われる距離レンジは異なる。そこで、如何にして距離レンジを切り替えるか、また、如何にして適切な距離レンジを検出するかが問題である。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、位相方式の距離センサにおける新たな距離レンジの切り替えを実現することである。また、第2の目的は、適切な距離レンジの検出を可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の形態は、
所定の基準周波数のクロック信号(例えば、図3のクロック信号F1)を分周する分周比を変更可能な分周器(例えば、図3の分周器4)を有し、前記分周器で分周された分周信号から送信波を生成して送信する送信部(例えば、図3の発光部6)と、
前記送信波の反射波を受信する受信部(例えば、図3の受光部16)と、
前記分周器の分周比を変更制御することで前記送信波の波長を変化させ、前記送信波と前記反射波との位相差に基づいて測定対象物までの計測距離を算出する制御部(例えば、図3の制御部30)と、
を備えた距離センサ(例えば、図3の距離センサ100)である。
【0007】
この第1の形態によれば、送信波と反射波との位相差に基づいて測定対象物までの計測距離を算出する距離センサにおいて、所定の基準周波数のクロック信号を分周した分周信号から送信波が生成されるが、このクロック信号を分周する分周器の分周比が変更制御される。このように、分周器の分周比を変更制御するだけで、送信波の周波数、すなわち距離レンジを簡単に変更できる。また、分周器の分周比を変更制御すれば良いため、送信波用の発振器は、発振周波数が固定である1つの発振器のみで済む。
【0008】
第2の形態として、第1の形態の距離センサであって、
分周比毎に当該分周比とした場合の計測に好適な好適距離範囲が予め定められており(例えば、図5の分周比切替テーブル32)、
前記制御部は、前記分周比が、前記計測距離を含む前記好適距離範囲に対応する分周比となるように、前記分周比の変更制御と前記距離の算出とを繰り返し行う、
距離センサを構成しても良い。
【0009】
この第2の形態によれば、分周器の分周比毎に、当該分周比とした場合の計測に好適な好適距離範囲が予め定められており、分周比が計測距離を含む好適距離範囲に対応する分周比となるように、分周比の変更制御と距離の算出とが繰り返し行われる。つまり、算出された計測距離に応じて、好適と思われる距離レンジに変更される。
【0010】
具体的には、第3の形態として、
前記制御部は、前記分周比を変更可能な最大値に変更して前記計測距離を仮算出し、当該仮算出した計測距離を含む前記好適距離範囲に対応する分周比に変更して前記計測距離を算出する、
距離センサを構成しても良い。
【0011】
また、他の形態として、
所定の基準周波数のクロック信号を分周する分周比を変更可能な分周器を有し、前記分周器で分周された分周信号から送信波を生成して送信する送信部と、前記送信波の反射波を受信する受信部とを備えた距離計の制御方法であって、
前記分周比を変更可能な最大値に変更して前記計測距離を仮計測する仮計測ステップと、
前記仮計測ステップで仮計測された計測距離に基づいて前記分周比を変更して本計測する本計測ステップと、
を含む距離計の制御方法を構成しても良い。
【0012】
この第3の形態等によれば、分周器の分周比を変更可能な最大値に変更して計測距離を仮算出し、この仮算出した計測距離を含む好適距離範囲に対応する分周比に変更して、再度、計測距離を算出する。つまり、先ず、最大の距離レンジで仮計測を行った後、この仮計測での計測距離から、最適な距離レンジに変更して本計測を行う。これにより、効率良く適切な距離レンジを検出して計測を行うことができる。
【0013】
第4の形態として、第1〜第3の何れかの形態の距離センサであって、
前記受信部は、
所定の参照周波数の参照クロック信号(例えば、図3の参照クロック信号F2)を分周する参照信号分周器(例えば、図3の分周器10)と、
前記参照信号分周器で分周された参照分周信号を用いて、前記分周器で分周された分周信号の周波数をダウンコンバートする第1の周波数変換部(例えば、図3のミキサ12)と、
前記第1の周波数変換部による変換後の信号から、ダウンコンバートされた周波数帯域の信号を抽出する第1のフィルタ部(例えば、図3のLPF14)と、
前記参照分周信号を用いて、受信した前記反射波の周波数をダウンコンバートする第2の周波数変換部(例えば、図3のミキサ18)と、
前記第2の周波数変換部による変換後の信号から、ダウンコンバートされた周波数帯域の信号を抽出する第2のフィルタ部(例えば、図3のLPF20)と、
を有し、
前記制御部は、前記第1のフィルタ部による抽出後の信号を前記送信波、前記第2のフィルタ部による抽出後の信号を前記反射波として、両波の位相差に基づいて前記計測距離を算出する、
距離センサを構成しても良い。
【0014】
この第4の形態によれば、所定の参照周波数の参照クロック信号を分周した参照分周信号を用いて、分周器で分周された分周信号をダウンコンバートした信号を送信波とするとともに、この参照分周信号を用いて、反射波の周波数をダウンコンバートした信号を反射波として、この送信波と反射波との位相差に基づいて計測距離が算出される。つまり、送信波と反射波とのそれぞれを、同一の参照分周信号でダウンコンバートした信号の位相差に基づいて、計測距離が算出される。これにより、計測距離の算出精度を向上させることができる。
【0015】
第5の形態として、第4の形態の距離センサであって、
前記参照信号分周器は分周比が変更可能であり、
前記制御部は、前記分周器の分周比と、前記参照信号分周器の分周比とを連動して変更制御する、
距離センサを構成しても良い。
【0016】
また、第6の形態として、第4又は第5の形態の距離センサであって、
前記第1及び第2のフィルタ部は、周波数の通過帯域を変更可能であり、
前記制御部は、前記分周器の分周比と、前記第1及び第2のフィルタ部の通過帯域とを連動して変更制御する、
距離センサを構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】距離センサの概要図。
【図2】送信周波数による測定精度の違いの説明図。
【図3】距離センサの構成図。
【図4】送信信号及び受信信号のダウンコンバートによる測定精度の向上の説明図。
【図5】分周比切替テーブルのデータ構成例。
【図6】分周比と好適距離範囲との対応関係の一例。
【図7】距離計測処理のフローチャート。
【図8】他の距離計測処理のフローチャート。
【図9】送信周波数の半波長を超える距離の測定の説明図。
【図10】分周比の可変の一例。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、以下では、本発明を適用した光波距離センサについて説明するが、本発明の適用可能な実施形態がこれに限定されるものではない。
【0019】
[概要]
図1は、本実施形態における距離センサ100による距離計測の概要図である。この距離センサ100は、赤外線やレーザ光等の光波を用いた光波距離センサであり、位相方式によって測定対象物200までの距離Lを計測する。
【0020】
すなわち、図1(a)に示すように、光波である送信波を測定対象物200に向けて射出し、測定対象物200で反射された反射波を受信する。そして、図1(b)に示すように、この送信波と受信した反射波との遅れ時間tx(位相差)から、測定対象物200までの距離Lを算出する。測定対象物200までの距離Lは、L=(C・tx)/2、と算出される。ここで、「C」は光速であり、C≒3×10m/s、である。
【0021】
また、送信波と反射波との遅れ時間txから距離Lを算出するため、1つの送信周波数のみで距離Lを算出する場合には、遅れ時間txは、送信周波数の1周期以内である必要がある。このため、測定可能な最大距離Lm(いわゆる「距離レンジ」)は、理論的には、送信波の周波数fによって決まり、Lm=λ/2=C/(2・f)、となる。例えば、送信波の周波数を「50MHz」とすると、波長λは「6m」であり、測定可能な最大距離Lmは「3m」となる。
【0022】
また、位相方式の距離センサによる測定距離Lの算出精度は、送信波の周波数によって異なり、具体的には、送信波の周波数が高いほど、算出精度が良い。
【0023】
図2は、送信波の周波数の違いによる測定距離Lの算出精度の違いを説明するための図である。図中、上側は、周波数faの送信波及び受信波を示し、下側は、周波数faより高い周波数fb(=3・fa)の送信波及び受信波を示している。
【0024】
同じ距離Lを測定する場合、送信波の周波数fに関わらず、送信波と反射波との遅れ時間txは同じであるが、周波数fによって波長λが異なることにより、送信波と反射波との位相差φは異なる。具体的には、高周波であるほど、同じ遅れ時間txに相当する位相差φが大きくなる。図2では、周波数fbの場合の位相差φbのほうが、周波数faの場合の位相差φaよりも大きく、φb=3・φa、となっている。
【0025】
二つの信号の位相差φを検出する場合、その位相差φが小さいほど、その検出誤差が発生し易い。つまり、送信波の周波数fが低周波であるほど、位相差φの検出誤差が発生し易く、測定距離Lの算出精度が低下する。逆に言えば、送信波の周波数fが高周波であるほど、位相差φの検出誤差が発生しにくく、測定距離Lの算出精度が向上する。
【0026】
[構成]
図3は、本実施形態の距離センサ100の構成図である。図3に示すように、距離センサ100は、発振器2と、分周器4,10と、発光部6と、PLL8と、ミキサ12,18と、LPF14,20と、受光部16と、制御部30とを備えて構成される。
【0027】
発振器2は、例えば、水晶振動子を有して構成され、基準周波数f1のクロック信号F1を生成する。この基準周波数f1は、例えば「50MHz」とされる。
【0028】
分周器4は、発振器2から出力されたクロック信号F1の周波数f1を1/N分周し、送信信号Vとして出力する。この分周器4の分周比Nは、「N=2(nは正数)」であり、制御部30によって変更制御される。
【0029】
発光部6は、例えば、レーザダイオード等の発光素子を有して構成され、分周器4から出力された送信信号Vの周波数で強度変調された光信号を、送信波として射出する。
【0030】
PLL8は、基準周波数f1より低い参照周波数f2の参照クロック信号F2を生成する。この参照周波数f2は、例えば、基準周波数f1が「50MHz」の場合には「49.9MHz」とされる。
【0031】
分周器10は、PLL8で生成された参照クロック信号F2の周波数f2を1/N分周し、参照分周信号として出力する。この分周器10の分周比Nは、分周器4の分周比Nと同じであり、制御部30によって可変される。
【0032】
ミキサ12は、分周器4から出力された送信信号Vと、分周器10から出力された参照分周信号とを合成(混合)して出力する。このミキサ12の出力信号には、送信信号Vと参照分周信号との差周波数及び和周波数「(f1±f2)/N」の信号が含まれる。
【0033】
LPF14は、ミキサ12の出力信号に対して、所定の低帯域の信号を通過させ、帯域外の周波数成分を遮断し、送信変調信号Vsとして出力する。このLPF14のカットオフ周波数fcは、制御部30によって、送信信号Vと参照分周信号との差周波数「(f1−f2)/N」の信号成分を通過させ、和周波数「(f1+f2)/N」の信号成分は遮断させるよう、fc=2(f1−f2)/N、に設定される。つまり、LPF14から出力される送信変調信号Vsは、送信信号Vを、参照分周信号でダウンコンバートした信号である。
【0034】
受光部16は、例えば、フォトダイオード等の受光素子を有して構成され、受光した光信号を電気信号に変換し、受信信号Vとして出力する。
【0035】
ミキサ18は、受光部16から出力された受信信号Vと、分周器10から出力された参照分周信号とを合成(乗算)する。このミキサ18の出力信号には、受信信号Vと参照分周信号との和周波数及び差周波数「(f1±f2)/N」の信号が含まれる。
【0036】
LPF20は、ミキサ18の出力信号に対して、所定の低帯域の周波数を通過させ、帯域外の周波数成分を遮断し、受信変調信号Vxとして出力する。このLPF20のカットオフ周波数fcは、制御部30によって、受信信号Vと参照分周信号との差周波数「(f1−f2)/N」の信号成分は通過させ、和周波数「(f1+f2)/N」の信号成分は遮断させるよう、fc=2(f1−f2)/N、に設定される。つまり、LPF20から出力される受信変調信号Vxは、受信波である受信信号Vを、参照分周信号でダウンコンバートした信号である。
【0037】
制御部30は、CPU等の演算装置を有して構成され、測定対象物までの距離Lを計測する距離測定処理を実行する。この距離計測処理では、先ず、分周器4,10の分周比Nを、最大値Nmaxに設定する。また、設定した分周比Nに合わせて、LPF14,20のカットオフ周波数fcを設定する。カットオフ周波数fcは、fc=2(f1−f2)/N、で与えられる。
【0038】
次いで、測定対象物までの距離Lを測定する。すなわち、送信変調信号Vsと受信変調信号Vxとの遅れ時間txを計測し、この時間差txから距離Lを算出し、初回測定距離Lxとする。計測距離Lは、L=(C/m)・tx)/2、で算出される。ここで、「m」は、m=f1/(f1−f2)、で与えられる。
【0039】
ここで、送信信号V及び受信信号Vではなく、送信変調信号Vsと受信変調信号Vxとの遅れ時間txを計測し、計測距離Lを算出することで、計測距離Lの測定精度(算出精度)を向上させることができる。
【0040】
図4は、送信信号V及び受信信号Vのダウンコンバートによる計測距離Lの測定精度の向上を説明するための図である。図中、上側は、送信信号V及び受信信号Vの信号波形を示し、下側は、送信変調信号Vs及び受信変調信号Vxの信号波形を示している。
【0041】
図4に示すように、送信信号V及び受信信号Vの周波数は「f1/N」であり、送信変調信号Vs及び受信変調信号Vxの周波数は「(f1−f2)/N」である。つまり、送信変調信号Vs及び受信変調信号Vxは、それぞれ、送信信号V及び受信信号Vを1/m分周したことに相当する。但し、m=f1/(f1−f2)、である。言い換えれば、送信変調信号Vs及び受信変調信号Vxは、それぞれ、送信信号V及び受信信号Vを時間軸方向に「拡大」した信号、すなわち、光速cを低下させた信号に相当する。これに伴い、送信信号Vと受信信号Vとの時間遅れtxも「拡大」されている。
【0042】
これにより、送信信号Vと受信信号Vとの時間遅れtx0に相当する送信変調信号Vsと受信変調信号Vxとの時間遅れtxを検出すれば良いので、遅れ時間txの検出精度が向上し、その結果、測定距離Lの算出精度が向上する。特に、遅れ時間txが小さいほど、その検出精度の向上が顕著である。
【0043】
続いて、制御部30内に記憶された分周比切替テーブル32に従って、この初回測定距離Lxに対応する最適な分周比Nを判断する。
【0044】
図5は、分周比切替テーブル32のデータ構成の一例を示す図である。図5に示すように、分周比切替テーブル32は、距離センサ100に設定可能な分周比32aと、好適距離範囲32bとを対応付けて格納している。好適距離範囲32bを定める「e」は、測定距離Lに対して見込む誤差を表す誤差マージンであり、「0.0<e≦1.0」の値で、例えば距離センサ100の利用者によって任意に与えられる。例えば、誤差マージンe=0.9とは、測定距離Lに対して「10%(=0.1=1.0−0.9)」の誤差が含まれることを表す。
【0045】
制御部30は、初回測定距離Lxが含まれる好適距離範囲に対応する分周比Nを、最適な分周比Nと判断する。そして、最適と判断した分周比Nに、分周器4,10の分周比Nを変更するとともに、変更後の分周比Nに合わせて、LPF14,20のカットオフ周波数fcを変更する。その後、送信変調信号Vsと受信変調信号Vxとの時間差Txを再計測し、測定対象物までの距離Lを再算出して、計測結果として出力する。
【0046】
分周比切替テーブル32で定められる「分周比N」と「好適距離範囲」の対応関係は、次のように決められる。
【0047】
図6は、分周比Nと好適距離範囲との対応関係の一例を示す図である。図6では、上から順に、誤差マージンe=1.0、誤差マージンe=0.9、誤差マージンe=0.5、のそれぞれの場合を示している。但し、設定可能な分周比Nは「N=1,2,4,8,16」であり、基準周波数f1は「f1=50MHz」であるとする。
【0048】
図6に示すように、設定可能な分周比Nそれぞれに、互いに重ならない好適距離範囲が対応付けられる。この好適距離範囲は、分周比Nの距離レンジと、距離センサ100による測定距離に対して見込む誤差とに応じて定められる。
【0049】
すなわち、誤差を見込まない場合(誤差マージンe=1.0)、ある分周比Nに対応する好適距離範囲は、この分周比Nでの距離レンジを最大値とし、その一段階下の分周比N(=N/2)での距離レンジを最小値とする範囲として定められる。
【0050】
例えば、分周比N=16の距離レンジは「48m」であり、分周比N=8の距離レンジは「24m」である。従って、分周比N=16には「24〜48m」が好適距離範囲として対応付けられる。
【0051】
同様に、分周比N=8には、「12〜24m」が好適距離範囲として対応付けられ、分周比N=4には、「6〜12m」が好適距離範囲として対応付けられ、分周比N=2には、「3〜6m」が好適距離範囲として対応付けられ、分周比N=1には、「0〜3m」が好適距離範囲として対応付けられる。
【0052】
そして、誤差を見込む場合には、誤差を見込まない場合(誤差マージンe=1.0)での好適距離範囲の最小値及び最大値に誤差を、見込んだ値に変更した範囲となっている。
【0053】
例えば、測定距離Lに対して「50%」の誤差を見込む場合には(誤差マージンe=0.5)、分周比N=16(最大値Nmax)については、誤差を見込まない場合の好適距離範囲の最小値である「24m」に対して「50%」の誤差を見込んだ「12m(=24−24×0.5)」を最小値とする。すなわち、分周比N=16には、好適距離範囲として「12〜48m」が対応付けられている。
【0054】
その次に大きい分周比N=8(=16/2)については、分周比N=16の好適距離範囲と重ならないよう、好適距離範囲の最大値については、分周比N=16の最小値「12m」とし、最小値については、誤差を見込まない場合の最小値「12m」に対して、「50%」の誤差を見込んだ「6m(=12−12×0.5)」とする。すなわち、分周比N=8には、好適距離範囲として「6〜12m」が対応付けられている。
【0055】
同様に、分周比N=4には、好適距離範囲として「3〜6m」が対応付けられ、分周比N=2には、好適距離範囲として「1.5〜3m」が対応付けられ、分周比N=1には、好適距離範囲として「0〜1.5m」が対応付けられている。
【0056】
なおここで、誤差を見込んだ分周比Nと好適距離範囲との対応付けに、分周比Nの最大値Nmaxの好適距離範囲を優先させるのは、本実施形態における処理手順として、先ず、分周器4,10の分周比Nを最大値Nmaxに設定した後、最適な分周比Nを判断して変更するからである。
【0057】
[処理の流れ]
図7は、制御部30が実行する距離計測処理の流れを説明するフローチャートである。図7によれば、制御部30は、先ず、分周器4,10それぞれの分周比Nを、最大値Nmaxに設定する(ステップA1)。また、設定した分周比Nに合わせて、LPF14,20それぞれのカットオフ周波数fcを設定する(ステップA3)。
【0058】
次いで、送信変調信号Vsと受信変調信号Vxとの遅れ時間tx(位相差)を計測し(ステップA5)、この遅れ時間txをもとに、初回測定距離Lxを算出する(ステップA7)。続いて、分周比切替テーブル32を参照して、算出した初回測定距離Lxに対応する最適な分周比Nを判定する(ステップA9)。そして、最適と判定した分周比Nに、分周器4,10それぞれの分周比Nを更新するとともに(ステップA11)、更新後の分周比Nに合わせて、LPF14,20それぞれのカットオフ周波数fcを更新する(ステップA13)。
【0059】
その後、送信変調信号Vsと受信変調信号Vxとの遅れ時間txを再計測し(ステップA15)、この遅れ時間txをもとに、測定距離Lを再算出する(ステップA17)。
【0060】
[作用・効果]
このように、本実施形態の距離センサ100は、発振器2が生成した基準クロック信号F1を1/N分周する分周器4の分周比Nと、PLL8が生成した参照クロック信号F2を1/N分周する分周器10の分周比Nとを可変として構成される。そして、距離計測を行う際には、先ず、分周器4,10それぞれの分周比Nを最大値Nmaxに設定し、このときに算出した測定距離Lxに応じて分周器4,10それぞれの分周比Nを最適な分周比Nに変更した後、再度、測定距離を算出する。これにより、測定対象物200までの実際の距離に応じた、適切な距離レンジの自動的な切り替えが実現される。
【0061】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は、上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0062】
(A)分周比の切り替え
例えば、距離センサ100における分周器4,10それぞれの分周比Nの切り替えを、一段階ずつ小さくするように変更することにしても良い。
【0063】
図8は、分周比Nを一段階ずつ変更する場合の距離計測処理のフローチャートである。図8に示すように、先ず、分周器4,10それぞれの分周比Nを、最大値Nmaxに設定するとともに(ステップB1)、この分周比Nに合わせて、LPF14,20それぞれのカットオフ周波数fcを設定する(ステップB3)。
【0064】
次いで、このときの送信変調信号Vsと受信変調信号Vxとの遅れ時間txを検出し(ステップB5)、検出した遅れ時間txをもとに、測定対象物までの測定距離Lxを算出する(ステップB7)。そして、現在の分周比Nが「2」以上であり(ステップB9:YES)、且つ、算出した測定距離Lxが、現在の分周比Nに対応する好適距離範囲の最小値「(N/2)・Lmin・e」以下ならば(ステップB11:YES)、分周比Nを、一段階小さくするように変更する(ステップB13)。その後、ステップB3に戻り、同様に、測定対象物までの測定距離を再算出する。
【0065】
一方、現在の分周比Nが「1」となった場合(ステップB9:NO)、或いは、算出した測定距離Lxが、現在の分周比Nに対応する好適距離範囲の最小値「(N/2)・Lmin・e」より大きいならば(ステップB11:NO)、現在の分周比Nが好適な分周比Nであると判断して(ステップB15)、最後に算出した測定距離Lxを、測定結果として出力する。
【0066】
例えば、短い距離Lを計測する場合には、最大分周比Nmaxでの測定距離Lの算出誤差が大きいことが予想され、最適な分周比Nを謝って検出する可能性が生じ得る。そこで、このように距離レンジを一段階ずつ下げるように分周比Nを変更することで、最適な分周比Nの検出をより正確に行い、測定距離Lの算出誤差を軽減することができる。
【0067】
また更に、この場合、距離レンジを一段階ずつ下げるように分周比Nを変更することで、送信信号Vの半波長λ/2を超える距離Lについても測定することができ、より高精度な距離計測が実現される。
【0068】
図9は、送信信号Vの半波長λ/2を超える距離Lの測定を説明するための図である。図中、上側は、送信信号Vの周波数f1/Nを「周波数fa(波長λa)」とした場合を示し、下側は、送信信号Vの周波数f1/Nを、周波数faより高い「周波数fb(波長λb)」とした場合を示している。
【0069】
上述のように、送信信号と受信信号との遅れ時間tx(位相差)から、測定対象物までの距離Lを測定するため、算出される距離Lは、L<λ/2、となる。つまり、実際の距離Lsを測定する場合、上側に示すように、Ls<(λa/2)、のとき、算出される距離Lは「Ls」であるが、下側に示すように、Ls>(λb/2)、のときに算出される距離Lは「Ls−λb/2」となる。
【0070】
しかし、距離レンジを一段階ずつ下げるように分周比Nを変更していく過程で、算出した測定距離Lxが、現在の分周比Nに対応する好適距離範囲内であるか否かを判定することで(図8のステップB11)、実際の距離Lsが、送信信号Vの半波長λ/2を超えるか否かを判定することができる。すなわち、実際の距離Lsが送信信号Vの半波長λ/2を超えない分周比Nの下限を判定することができる。そして、この下限を下回る分周比Nでの測定距離Lについては、そのときの送信信号Vの波長λ/2分の距離を加算して補正することで、より正確な測定距離Lを算出することが可能となる。
【0071】
(B)分周比N
また、分周器4,10の分周比Nは同じでなくとも良い。この場合、送信波の周波数を決めるのは分周器4の分周比N1であるため、少なくとも、分周器4の分周比N1を測定距離Lxに応じて変更することで、最適な距離レンジに変更することができる。一方、分周器10の分周比N2は、送信信号Vと受信信号Vとの遅れ時間txの検出精度を向上させるためであるため、固定としても良いし、可変としても良い。
【0072】
分周器10の分周比N2を固定とする場合には、分周器10から出力される参照分周信号によって受信信号Vをダウンコンバートするため、分周器4の分周比N1の最大値を「N1max」としたとき、(f1/N1max)>(f2/N2)、を満たすように分周器10の分周比N2を定める。
【0073】
また、分周器10の分周比N2を可変とする場合にも、同様に、(f1/N1)>(f2/N2)、を満たすように可変する。この場合、例えば図10に示すように、送信変調信号Vs及び受信変調信号Vxの周波数が常に一定となるように、分周器10の分周比N2を可変することにしても良い。送信変調信号Vsと受信変調信号Vxとの周波数が常に一定とすることで、制御部30での位相差の検出(遅れ時間tx)の検出、並びに、測定距離Lの算出にかかる処理を画一化でき、処理演算を簡単化できる。
【0074】
(C)距離センサ
また、上述の実施形態では、距離センサ100を光波距離センサとしたが、例えば、電磁波や超音波を用いた距離センサ等、位相方式の距離センサであれば、同様に本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0075】
100 距離センサ
2 発振器、4,10 分周器、6 発光部、8 PLL
12,18 ミキサ、14,20 LPF、16 受光部
200 測定対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の基準周波数のクロック信号を分周する分周比を変更可能な分周器を有し、前記分周器で分周された分周信号から送信波を生成して送信する送信部と、
前記送信波の反射波を受信する受信部と、
前記分周器の分周比を変更制御することで前記送信波の波長を変化させ、前記送信波と前記反射波との位相差に基づいて測定対象物までの計測距離を算出する制御部と、
を備えた距離センサ。
【請求項2】
分周比毎に当該分周比とした場合の計測に好適な好適距離範囲が予め定められており、
前記制御部は、前記分周比が、前記計測距離を含む前記好適距離範囲に対応する分周比となるように、前記分周比の変更制御と前記距離の算出とを繰り返し行う、
請求項1に記載の距離センサ。
【請求項3】
前記制御部は、前記分周比を変更可能な最大値に変更して前記計測距離を仮算出し、当該仮算出した計測距離を含む前記好適距離範囲に対応する分周比に変更して前記計測距離を算出する、
請求項2に記載の距離センサ。
【請求項4】
前記受信部は、
所定の参照周波数の参照クロック信号を分周する参照信号分周器と、
前記参照信号分周器で分周された参照分周信号を用いて、前記分周器で分周された分周信号の周波数をダウンコンバートする第1の周波数変換部と、
前記第1の周波数変換部による変換後の信号から、ダウンコンバートされた周波数帯域の信号を抽出する第1のフィルタ部と、
前記参照分周信号を用いて、受信した前記反射波の周波数をダウンコンバートする第2の周波数変換部と、
前記第2の周波数変換部による変換後の信号から、ダウンコンバートされた周波数帯域の信号を抽出する第2のフィルタ部と、
を有し、
前記制御部は、前記第1のフィルタ部による抽出後の信号を前記送信波、前記第2のフィルタ部による抽出後の信号を前記反射波として、両波の位相差に基づいて前記計測距離を算出する、
請求項1〜3の何れか一項に記載の距離センサ。
【請求項5】
前記参照信号分周器は分周比が変更可能であり、
前記制御部は、前記分周器の分周比と、前記参照信号分周器の分周比とを連動して変更制御する、
請求項4に記載の距離センサ。
【請求項6】
前記第1及び第2のフィルタ部は、周波数の通過帯域を変更可能であり、
前記制御部は、前記分周器の分周比と、前記第1及び第2のフィルタ部の通過帯域とを連動して変更制御する、
請求項4又は5に記載の距離センサ。
【請求項7】
所定の基準周波数のクロック信号を分周する分周比を変更可能な分周器を有し、前記分周器で分周された分周信号から送信波を生成して送信する送信部と、前記送信波の反射波を受信する受信部とを備えた距離計の制御方法であって、
前記分周比を変更可能な最小値に変更して前記計測距離を仮計測する仮計測ステップと、
前記仮計測ステップで仮計測された計測距離に基づいて前記分周比を変更して本計測する本計測ステップと、
を含む距離計の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−257285(P2011−257285A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132600(P2010−132600)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】