説明

距離測定システム、距離測定方法および通信装置

【課題】 簡単な構成でかつ低コストで移動端末間の距離を測定することが可能な距離測定システム、距離測定方法および通信装置を提供する。
【解決手段】 移動端末100aの第1の位置において移動端末100aの移動方向を示す直線Uに対する他の移動端末100bの方位角θ0 、移動端末100aの第2の位置において移動端末100aの移動方向を示す直線Uに対する他の移動端末100bの方位角θ1 および移動端末100aの移動速度と移動時間とから取得される移動端末100aの移動距離rを用いて、移動する移動端末100aの移動後の位置から他の移動端末100bまでの距離d1 を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線端末間の距離を測定するための距離測定システム、距離測定方法および通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線アドホックネットワークでは、移動端末間で基地局等のインフラストラクチャを経由することなく無線通信を行うことができる。
【0003】
このような無線アドホックネットワークを構成する移動端末は、送受信機の機能だけでなく中継局の機能も有し、移動端末自身がルータとしても働く。2つの移動端末間で通信を行う場合には、他の移動端末を中継局として用いるマルチホップ通信を行うことができる。それにより、通信すべき2つの移動端末間で電波が届かない場合でも、他の移動端末を経由することにより通信が可能となる。
【0004】
各移動端末が無指向性ビームを用いて通信を行うと、その移動端末は異なる方向に位置する複数の移動端末と通信することができる。
【0005】
しかしながら、複数組の移動端末同士での通信で同一チャネル間の干渉が生じる。そこで、同一チャネル間の干渉が生じないように指向性ビームを用いて通信が行われる。この場合、マルチホップ通信の経路を選択するためには、ネットワークを構成している複数の移動端末の位置を把握しておく必要がある。そのためには、各移動端末は、移動している他の複数の移動端末までの距離および方位角を常時把握しておかなければならない。
【0006】
従来より、移動端末の位置を測定可能な種々の移動通信システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−178038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の従来の移動通信システムでは、移動無線端末装置の測位装置が、測位信号を通信制御センタに送信し、折り返し戻ってきた測位信号から電波伝搬遅延時間(位相)を計測し、その電波伝搬遅延時間(位相)から距離を測定する。
【0008】
しかしながら、上記の従来の移動通信システムにおいては、各移動無線端末装置が通信制御センタまでの距離を測定することはできるが、各移動無線端末装置が他の移動無線端末装置までの距離を直接測定することはできない。
【0009】
また、移動する物体までの距離を測定する種々のレーダも開発されているが、構造が複雑で高価である。
【0010】
無線アドホックネットワークにおいて、移動端末間でマルチホップ通信を行うためには、簡単な構成でかつ低コストで移動端末までの距離を測定することを可能にすることが望まれる。
【0011】
本発明の目的は、簡単な構成でかつ低コストで移動端末間の距離を測定することが可能な距離測定システム、距離測定方法および通信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明に係る距離測定システムは、移動する一の無線端末の移動後の位置から他の無線端末までの距離を測定する距離測定システムであって、一の無線端末の第1の位置において一の無線端末の移動方向に対する他の無線端末の方位角を第1の方位角として測定し、一の無線端末の第2の位置において一の無線端末の移動方向に対する他の無線端末の方位角を第2の方位角として測定する方位角測定手段と、一の無線端末の第1の位置から第2の位置までの移動距離を取得する移動距離取得手段と、方位角測定手段により測定された第1の方位角および第2の方位角ならびに移動距離取得手段により取得された移動距離に基づいて、一の無線端末の第2の位置から他の無線端末までの距離を算出する端末間距離算出手段とを備えたものである。
【0013】
本発明に係る距離測定システムにおいては、一の無線端末の第1の位置において一の無線端末の移動方向に対する他の無線端末の第1の方位角および一の無線端末の第2の位置において一の無線端末の移動方向に対する他の無線端末の第2の方位角が方位角測定手段により測定される。また、一の無線端末の第1の位置から第2の位置までの移動距離が移動距離取得手段により取得される。そして、方位角測定手段により測定された第1の方位角および第2の方位角ならびに移動距離取得手段により取得された移動距離に基づいて、一の無線端末の第2の位置から他の無線端末までの距離が端末間距離算出手段により算出される。それにより、各無線端末は、複数の無線端末の位置を把握することができる。したがって、各無線端末は、簡単な構成でかつ低コストで、他の無線端末を中継局として用いるマルチホップ通信を行うことができる。
【0014】
端末間距離算出手段は、方位角測定手段により測定された第1の方位角をθ0 とし、方位角測定手段により測定された第2の方位角をθ1 とし、移動距離取得手段により取得された移動距離をrとした場合に、d1 =r・sinθ0 /sin(θ1 −θ0 )を用いて、一の無線端末の第2の位置から他の無線端末までの距離d1 を算出してもよい。
【0015】
この場合、方位角測定手段により測定された第1の方位角θ0 および第2の方位角θ1 ならびに移動距離取得手段により取得された移動距離rを用いて、一の無線端末の第2の位置から他の無線端末までの距離d1 を容易に算出することができる。
【0016】
方位角測定手段は、一の無線端末に設けられ、所定の方位角ごとに指向性ビームで所定の信号を送信する第1の通信手段と、他の無線端末に設けられ、第1の通信手段から送信された信号を受信し、信号対干渉雑音電力比を算出するとともに算出された信号対干渉雑音電力比を第1の通信手段に送信する第2の通信手段と、第2の通信手段により受信された信号対干渉雑音電力比に基づいて第1の方位角および第2の方位角を算出する方位角算出手段とを含んでもよい。
【0017】
この場合、一の無線端末に設けられた第1の通信手段により所定の方位角ごとに指向性ビームで所定の信号が送信される。他の無線端末に設けられた第2の通信手段により第1の通信手段から送信された信号が受信されるとともに信号対干渉雑音電力比が算出され、算出された信号対干渉雑音電力比が第1の通信手段に送信される。そして、第2の通信手段により受信された信号対干渉雑音電力比に基づいて第1の方位角および第2の方位角が方位角算出手段により算出される。それにより、算出された第1の方位角および第2の方位角を用いることによって無線端末間の移動距離が算出される。
【0018】
第2の発明に係る通信装置は、移動する一の無線端末に設けられる通信装置であって、一の無線端末の第1の位置において一の無線端末の移動方向に対する他の無線端末の方位角を第1の方位角として測定し、一の無線端末の第2の位置において一の無線端末の移動方向に対する他の無線端末の方位角を第2の方位角として測定する方位角測定手段と、一の無線端末の第1の位置から第2の位置までの移動距離を取得する移動距離取得手段と、方位角測定手段により測定された第1の方位角および第2の方位角ならびに移動距離取得手段により取得された移動距離に基づいて、一の無線端末の第2の位置から他の無線端末までの距離を算出する端末間距離算出手段とを備えたものである。
【0019】
本発明に係る通信装置においては、一の無線端末の第1の位置において一の無線端末の移動方向に対する他の無線端末の第1の方位角および一の無線端末の第2の位置において一の無線端末の移動方向に対する他の無線端末の第2の方位角が方位角測定手段により測定される。また、一の無線端末の第1の位置から第2の位置までの移動距離が移動距離取得手段により取得される。そして、方位角測定手段により測定された第1の方位角および第2の方位角ならびに移動距離取得手段により取得された移動距離に基づいて、一の無線端末の第2の位置から他の無線端末までの距離が端末間距離算出手段により算出される。それにより、各無線端末は、複数の無線端末の位置を把握することができる。したがって、各無線端末は、簡単な構成でかつ低コストで、他の無線端末を中継局として用いるマルチホップ通信を行うことができる。
【0020】
第3の発明に係る距離測定方法は、移動する一の無線端末の移動後の位置から他の無線端末までの距離を測定する距離測定方法であって、一の無線端末の第1の位置において一の無線端末の移動方向に対する他の無線端末の方位角を第1の方位角として測定するステップと、一の無線端末の第2の位置において一の無線端末の移動方向に対する他の無線端末の方位角を第2の方位角として測定するステップと、一の無線端末の第1の位置から第2の位置までの移動距離を取得するステップと、測定された第1の方位角および第2の方位角ならびに取得された移動距離に基づいて、一の無線端末の第2の位置から他の無線端末までの距離を算出するステップとを備えたものである。
【0021】
本発明に係る距離測定方法においては、一の無線端末の第1の位置において一の無線端末の移動方向に対する他の無線端末の第1の方位角および一の無線端末の第2の位置において一の無線端末の移動方向に対する他の無線端末の第2の方位角が測定される。また、一の無線端末の第1の位置から第2の位置までの移動距離が取得される。そして、測定された第1の方位角および第2の方位角ならびに取得された移動距離に基づいて、一の無線端末の第2の位置から他の無線端末までの距離が算出される。それにより、各無線端末は、複数の無線端末の位置を把握することができる。したがって、各無線端末は、簡単な構成でかつ低コストで、他の無線端末を中継局として用いるマルチホップ通信を行うことができる。
【0022】
第4の発明に係る距離測定システムは、アドホックネットワークにおいて移動する一の無線端末の移動後の位置から他の無線端末までの距離を測定する距離測定システムであって、一の無線端末の第1の位置において一の無線端末の移動方向に対する他の無線端末の方位角を第1の方位角として測定し、一の無線端末の第2の位置において一の無線端末の移動方向に対する他の無線端末の方位角を第2の方位角として測定する方位角測定手段と、一の無線端末の第1の位置から第2の位置までの移動距離を取得する移動距離取得手段と、方位角測定手段により測定された第1の方位角および第2の方位角ならびに移動距離取得手段により取得された移動距離に基づいて、一の無線端末の第2の位置から他の無線端末までの距離を算出する端末間距離算出手段とを備えたものである。
【0023】
本発明に係る距離測定システムにおいては、一の無線端末の第1の位置において一の無線端末の移動方向に対する他の無線端末の第1の方位角および一の無線端末の第2の位置において一の無線端末の移動方向に対する他の無線端末の第2の方位角が方位角測定手段により測定される。また、一の無線端末の第1の位置から第2の位置までの移動距離が移動距離取得手段により取得される。そして、方位角測定手段により測定された第1の方位角および第2の方位角ならびに移動距離取得手段により取得された移動距離に基づいて、一の無線端末の第2の位置から他の無線端末までの距離が端末間距離算出手段により算出される。それにより、各無線端末は、アドホックネットワークにおいて複数の無線端末の位置を把握することができる。したがって、各無線端末は、簡単な構成でかつ低コストで、他の無線端末を中継局として用いるマルチホップ通信を行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、各無線端末は、複数の無線端末の位置を把握することができる。したがって、各無線端末は、簡単な構成でかつ低コストで、他の無線端末を中継局として用いるマルチホップ通信を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本実施の形態に係る距離測定システムについて図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施の形態に係る距離測定システムが適用される無線アドホックネットワークの構成を示すブロック図である。
【0027】
図1に示される無線アドホックネットワークは、複数の移動端末100a〜100fにより構成される。ここで、移動端末100a〜100fは、例えば、車載無線装置または携帯電話等からなる。
【0028】
以下、上記の複数の移動端末100a〜100fのうち、距離および方位角の測定の基準となる一の移動端末を自局と呼び、他の移動端末を他局と呼ぶ。
【0029】
各移動端末100a〜100fは、送信機および受信機からなる通信装置を備えるとともに、主ビームの方向を変化させることができる可変ビームアンテナを有する。
【0030】
可変ビームアンテナとしては、例えば「電子情報通信学会研究技術報告,電子情報通信学会発行,AP99−61,SAT99−61,pp.9−14,1999年7月」に記載された電子制御導波器アンテナを用いることができる。また、各移動端末100a〜100fは、信号の送受信機能に加えて中継局の機能も有し、ルータとして働く。
【0031】
図1の例では、2つの移動端末100a,100f間で通信を行う場合には、他の移動端末100b,100c,100d,100eを中継局として用いるマルチホップ通信が行われる。それにより、2つの移動端末100a,100f間で電波が届かない場合でも、他の移動端末100b,100c,100d,100eを経由することにより通信が可能となる。
【0032】
この場合、マルチホップ通信の経路を選択するためには、無線アドホックネットワークを構成している複数の移動端末100a〜100fの全てが複数の移動端末100a〜100fの位置を把握しておく必要がある。そのためには、各移動端末100a〜100fは、常に移動している他の複数の移動端末100a〜100fまでの距離および方位角を把握しておかなければならない。
【0033】
上記の距離および方位角を把握するために、各移動端末100a〜100fの通信装置が距離測定機能および方位角測定機能を有する。
【0034】
本実施の形態に係る距離測定システムを用いて上記の方位角を高精度に測定するには、自局を中心とした所定の方位角毎に他局に対するSINR(信号対干渉雑音電力比;Signal to Inference and Noise Ratio)を予め測定しておき、このSINRを示すテーブル(Angle SINR Table;以下、ASテーブルと称する)を作成する。このASテーブルに基づいて概略の方位角を測定する。さらに、ASテーブルに基づいて後述のモノパルス処理を行うことにより詳細な方位角を測定する。なお、上記の距離の測定は、後述のモノパルス処理により測定された詳細な方位角に基づいて行われる。
【0035】
ここで、上記の距離を測定する手順について図2を参照しながら説明する。
【0036】
図2は、一の移動端末100aから他の移動端末100bまでの距離を測定する方法を示す説明図である。
【0037】
移動端末100aと移動端末100bとを結ぶ線分をVとする。移動端末100aは、進行方向を示す直線Uに沿って移動するものとする。ここで、直線Uに沿って移動した後の移動端末100aを移動端末101aとする。
【0038】
移動端末100aの直線Uに沿った移動距離をrとする。移動距離rは、後述のトラヒックモニタ部105により移動端末100aの移動速度と移動時間とを乗算することによって算出される。本実施の形態では、移動速度は、移動端末100aの速度計により得られ、移動時間は後述するASテーブルの更新周期に設定される。
【0039】
移動端末101aと移動端末100bとを結ぶ線分をWとし、この線分の長さをd1 とする。この長さd1 が移動端末101aと移動端末100bとの距離に相当する。
【0040】
また、直線Uと線分Vとがなす角度をθ0 とし、直線Uと線分Wとがなす角度をθ1 とする。この場合、線分Vと線分Wとがなす角度は、θ1 −θ0 となる。
【0041】
ASテーブルに基づいた後述のモノパルス処理により、角度θ0 および角度θ1 は既知であるものとする。ここで、余弦定理により次式によって示される関係が成り立つ。
【0042】
1 ・sin(θ1 −θ0 )=r・sinθ0 …(1)
上式(1)より、移動端末101aと移動端末100bとの距離d1 は次式により算出される。
【0043】
1 =r・sinθ0 /sin(θ1 −θ0 ) …(2)
このように、移動端末100aの移動距離rと、移動端末100aの移動前後の方位角θ0 ,θ1 に基づいて、移動端末101aと移動端末100bとの距離d1 を算出することができる。
【0044】
なお、移動端末100aが移動距離rを移動する間において、移動端末100bは静止しているかあるいは移動端末100aの移動速度に比べて十分に遅い速度で移動しているものとする。
【0045】
次に、移動端末の構成について図面を参照しながら説明する。図3は、移動端末の構成を示すブロック図である。
【0046】
図3に示すように、移動端末は、指向性ビームを出力する可変ビームアンテナ101、サーキュレータ102、可変ビームアンテナ101の指向性を制御する指向制御部103、データパケット送受信部104、トラヒックモニタ部105、回線制御部106および上位レイヤ処理装置107を含む。
【0047】
可変ビームアンテナ101は、指向性ビーム(セクタパターン)および無指向性ビーム(オムニパターン)で送受信することができる。セクタパターンとは、所定の主ビーム幅を有する扇型形状の放射パターンをいう。オムニパターンについては後述する。
【0048】
可変ビームアンテナ101は、指向制御部103の電気的な制御によって、セクタパターンの主ビームの方向を、例えば0度から330度までの範囲で30度毎に変更可能となっている。
【0049】
なお、可変ビームアンテナ101は、公知のフェーズドアレーアンテナまたは電子制御導波器アレーアンテナからなってもよい。
【0050】
データパケット送受信部104は、データパケット受信部130、データパケット送信部140および拡散符号発生器160を含む。
【0051】
データパケット受信部130は、高周波受信機131、復調器132および受信バッファメモリ133を含む。データパケット送信部140は、送信タイミング制御部141、送信バッファメモリ142、変調器143および高周波送信機144を含む。
【0052】
トラヒックモニタ部105は、管理制御部151、検索エンジン152、更新エンジン153およびデータベースメモリ154を含む。
【0053】
上位レイヤ処理装置107は、パケット形式のデータを発生し、送信バッファメモリ142を介して変調器143に与える。
【0054】
トラヒックモニタ部105は、方位角の測定の処理を実行するとともに、他の移動端末とのパケット通信において使用すべき通信チャネルを決定し、決定した通信チャネルに対応する通信チャネル用拡散符号(以下、拡散符号と略記する)を回線制御部106を介して拡散符号発生器160に与える。それにより、拡散符号発生器160は指定されたCDMA(Code Division Multiple Access)方式の拡散符号を発生する。
【0055】
変調器143は、所定の無線周波数の搬送波をスペクトル拡散するとともに、スペクトル拡散された搬送波をデータで変調することにより変調信号を高周波送信機144に出力する。
【0056】
高周波送信機144は、変調信号を増幅しサーキュレータ102を介して可変ビームアンテナ101から他の移動端末に向けて送信する。
【0057】
一方、可変ビームアンテナ101により受信されたパケット形式の変調信号は、サーキュレータ102を介して高周波受信機131に入力される。
【0058】
高周波受信機131は、入力された変調信号を低雑音増幅し、復調器132に出力する。
【0059】
復調器132は、拡散符号発生器160により発生された拡散符号を用いて、変調信号をスペクトル逆拡散によりデータに復調し、復調されたデータを受信バッファメモリ133を介して上位レイヤ処理装置107およびトラヒックモニタ部105に出力する。
【0060】
データベースメモリ154には、ASテーブル、ルーチングテーブルおよびSINRに対応する電界強度と、方位角との関係を示す情報が記憶されている。
【0061】
トラヒックモニタ部105の検索エンジン152は、管理制御部151の制御によりデータベースメモリ154内のデータを検索し、検索した所定のデータを管理制御部151に与える。
【0062】
また、トラヒックモニタ部105の更新エンジン153は、管理制御部151の制御によりデータベースメモリ154内のデータを更新する。
【0063】
データベースメモリ154に予め記憶されるASテーブルには、例えば後述の図6に示すように、自局を中心とした水平面内のサービスエリア内における所定の方位角毎の他の各移動端末に対するSINRが記憶されている。
【0064】
また、ASテーブルには、測定された自局の他局に対する詳細な方位角が記憶されている。ルーチングテーブルには、ASテーブルの更新周期等が記憶されている。なお、SINRの代わりに受信電界強度を用いてもよい。
【0065】
次に、方位角を測定する手順について図4〜図10を参照しながら説明する。本実施の形態では、上述したように、まずASテーブルを作成し、作成されたASテーブルに基づいて概略の方位角を測定する。そして、後述のモノパルス処理を行うことにより、詳細な方位角を測定する。
【0066】
図4は、方位角を測定する手順を示す説明図である。なお、図4では、移動端末100aを基準とし、例えば3つの移動端末100b,100c,100dの方位角を測定する場合を説明する。
【0067】
図4に示すように、まず、移動端末100aがCSMA/CA(搬送波感知多重アクセス/衝突回避;Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)方式によりキャリアセンスを行いながら、第1のセットアップ信号をオムニパターンで移動端末100b,100c,100dに送信することにより、概略の方位角の測定処理の開始を通知する。
【0068】
次に、移動端末100b,100c,100dは、それぞれ第1のセットアップ信号を受信する。その後、移動端末100aが0度から330度までの30度毎にセクタパターンで12個の第1の要求信号(以下、RQ1信号と呼ぶ)を送信する。移動端末100b,100c,100dは、移動端末100aにより送信される12個のRQ1信号をオムニパターンで受信して受信電界強度を測定するとともに、RQ1信号を受信したときのBERを測定しSINRに換算する。
【0069】
次に、移動端末100b,100c,100dは、キャリアセンスを行いながら、順次キャリアを検出していない期間に、SINRを示すデータを返信信号(以下、RE信号と呼ぶ)によりセクタパターンで移動端末100aに送信する。
【0070】
移動端末100aは、移動端末100b,100c,100dから受信したRE信号に基づいてASテーブルを作成する。ASテーブルは、データベースメモリ154に格納される。同様に、移動端末100b,100c,100dが基準となって同様の処理を行うことにより、無線アドホックネットワークにおける全ての移動端末100a〜100dがASテーブルを有する。
【0071】
ここで、上記のデータベースメモリ154に格納されるASテーブルについて説明する。
【0072】
図6は、データベースメモリ154のASテーブルの一例を示す説明図である。
【0073】
ASテーブルには、移動端末100aの指向性ビームを受信した移動端末100b,100c,100dのSINRの値がビームの角度ごとに格納されている。図6において、SINRの値がないものは測定限界以下のものであり、SINRの単位はdBである。
【0074】
以下、一例として移動端末100bの概略の方位角をASテーブルにより測定した後、後述のモノパルス処理により詳細な方位角を測定する場合について説明する。
【0075】
まず、移動端末100bの0度から330度までの12個のセクタパターンに対する12個のSINRのうち最大値を検出する。
【0076】
図6において、移動端末100bのSINRの最大値は2.3dBである。すなわち、2.3dBのSINRに対応する指向性ビームの角度が、移動端末100aを基準とした移動端末100bの概略の方位角となる。この場合、概略の方位角は90度であることがわかる。
【0077】
次に、以下のモノパルス処理が行われる。なお、モノパルス処理とは、セクタパターンによる受信電界強度を用いることにより詳細な方位角を測定する処理をいう。
【0078】
移動端末100aは、CSMA/CA方式によりキャリアセンスを行いながら、順次キャリアを検出していない期間において、オムニパターンで第2のセットアップ信号を移動端末100b,100c,100dに送信することにより詳細な方位角の測定処理の開始を通知する。
【0079】
その後、移動端末100aは、オムニパターンで第2の要求信号(以下、RQ2信号と呼ぶ)を移動端末100b,100c,100dに送信する。
【0080】
移動端末100b,100c,100dは、図7に示すように、それぞれが有するASテーブルから決定した移動端末100aに対する概略の方位角のセクタパターン(以下、中心セクタパターンと呼ぶ)と、この中心セクタパターンから両側にそれぞれ30度回転した方向のセクタパターン(以下、左セクタパターンおよび右セクタパターンと呼ぶ)とで上記のRQ2信号を受信し受信電界強度を測定する。
【0081】
同様に、移動端末100b,100c,100dが基準となって同様の処理が行われる。
【0082】
次に、中心セクタパターンによる受信電界強度と右セクタパターンによる受信電界強度とを用いて以下の処理を行う。また、中心セクタパターンによる受信電界強度と左セクタパターンによる受信電界強度とを用いて同様の処理が行われる。
【0083】
なお、本実施の形態においては、受信電界強度を用いた以下の処理により測定された2つの詳細な方位角の平均値を採用する。以下の説明では、中心セクタパターンによる受信電界強度と右セクタパターンによる受信電界強度とを用いる場合を代表して示す。
【0084】
図8は、隣り合う左右のセクタパターンによる受信電界強度を示す模式図である。
【0085】
図8に示すように、縦軸は受信電界強度を示し、横軸は方位角を示す。図8に示すように、それぞれの受信電界強度を示す曲線(以下、電界強度パターンと呼ぶ)は扇型形状を有する。
【0086】
次に、図9に示すように、上記の2つの電界強度パターンの和からなる電界強度パターン(以下、和パターンと呼ぶ)および上記の2つの電界強度パターンの差からなる電界強度パターン(以下、差パターンと呼ぶ)を算出する。
【0087】
続いて、図10に示すように、上記の差パターンを和パターンで除算することにより正規化パターンを算出する。なお、和パターン、差パターンおよび正規化パターンは、データベースメモリ154に記憶される。
【0088】
次に、算出された正規化パターンを直線近似することにより直線近似式を算出する。この場合、直線近似式の傾きaが算出されるとともにデータベースメモリ154に記憶される。
【0089】
続いて、右セクタパターンおよび中心セクタパターンによる移動端末100bの受信電界強度を求める。この右セクタパターンによる移動端末100bの受信電界強度をLとし、中心セクタパターンによる移動端末100bの受信電界強度をRとする。
【0090】
この場合、上記の直線近似式は次式のようになる。
【0091】
(R−L)/(R+L)=a・θ …(3)
上式(3)より、方位角θは次式のようになる。
【0092】
θ=1/a・(R−L)/(R+L) …(4)
ここで、データベースメモリ154には、0度から330度までの12個のセクタパターンに対応する12個の電界強度パターンの傾きaが記憶されている。それにより、電界強度値LおよびRを取得すれば、上式(4)により方位角θを算出することができる。
【0093】
本実施の形態においては、各移動端末は、他の移動端末までの距離とともに他の移動端末の方向(方位角)を上述した方法で測定し、測定された距離および方向を他の移動端末に一定時間ごとにデータとして送信する。それにより、各移動端末は、無線アドホックネットワークを構成する複数の移動端末の位置を把握することができる。したがって、各移動端末は、他の移動端末を中継局として用いるマルチホップ通信を行うことができる。
【0094】
また、ASテーブルを用いることにより移動端末の概略の方位角を測定し、測定された概略の方位角に基づいてモノパルス処理により移動端末の詳細な方位角を測定する。そして、測定された詳細な方位角を用いることにより、精度の高い移動端末間の距離を測定することができる。それにより、簡単な構成でかつ低コストでマルチホップ通信を行うことができる。
【0095】
本実施の形態においては、移動端末100aが一の無線端末に相当し、移動端末100b,100c,100dが他の無線端末に相当し、方位角θ0 が第1の方位角に相当し、方位角θ1 が第2の方位角に相当し、トラヒックモニタ部105が方位角測定手段、移動距離取得手段、端末間距離算出手段および方位角算出手段に相当し、データパケット送信部140が第1の通信手段に相当し、データパケット受信部130が第2の通信手段に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、無線アドホックネットワーク等における無線端末間の距離を測定するため等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の一実施の形態に係る距離測定システムが適用される無線アドホックネットワークの構成を示すブロック図である。
【図2】一の移動端末から他の移動端末までの距離を測定する方法を示す説明図である。
【図3】移動端末の構成を示すブロック図である。
【図4】方位角を測定する手順を示す説明図である。
【図5】移動端末の可変ビームアンテナから出力される指向性ビームを示す模式図である。
【図6】データベースメモリのASテーブルの一例を示す説明図である。
【図7】移動端末から出力される3方向のセクタパターンを示す模式図である。
【図8】隣り合う左右のセクタパターンによる受信電界強度を示す模式図である。
【図9】和パターンおよび差パターンを示す模式図である。
【図10】差パターンを和パターンで除算することにより算出した正規化パターンを示す模式図である。
【符号の説明】
【0098】
100a〜100f,101a 移動端末
101 可変ビームアンテナ
102 サーキュレータ
103 指向制御部
104 データパケット送受信部
105 トラヒックモニタ部
106 回線制御部
107 上位レイヤ処理装置
130 データパケット受信部
131 高周波受信機
132 復調器
133 受信バッファメモリ
140 データパケット送信部
141 送信タイミング制御部
142 送信バッファメモリ
143 変調器
144 高周波送信機
151 管理制御部
152 検索エンジン
153 更新エンジン
154 データベースメモリ
160 拡散符号発生器
1 距離
θ,θ0 ,θ1 方位角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動する一の無線端末の移動後の位置から他の無線端末までの距離を測定する距離測定システムであって、
前記一の無線端末の第1の位置において前記一の無線端末の移動方向に対する前記他の無線端末の方位角を第1の方位角として測定し、前記一の無線端末の第2の位置において前記一の無線端末の移動方向に対する他の無線端末の方位角を第2の方位角として測定する方位角測定手段と、
前記一の無線端末の前記第1の位置から前記第2の位置までの移動距離を取得する移動距離取得手段と、
前記方位角測定手段により測定された前記第1の方位角および前記第2の方位角ならびに前記移動距離取得手段により取得された前記移動距離に基づいて、前記一の無線端末の前記第2の位置から前記他の無線端末までの距離を算出する端末間距離算出手段とを備えたことを特徴とする距離測定システム。
【請求項2】
前記端末間距離算出手段は、
前記方位角測定手段により測定された前記第1の方位角をθ0 とし、前記方位角測定手段により測定された前記第2の方位角をθ1 とし、前記移動距離取得手段により取得された前記移動距離をrとした場合に、d1 =r・sinθ0 /sin(θ1 −θ0 )を用いて、前記一の無線端末の前記第2の位置から前記他の無線端末までの距離d1 を算出することを特徴とする請求項1記載の距離測定システム。
【請求項3】
前記方位角測定手段は、
前記一の無線端末に設けられ、所定の方位角ごとに指向性ビームで所定の信号を送信する第1の通信手段と、
前記他の無線端末に設けられ、前記第1の通信手段から送信された信号を受信し、信号対干渉雑音電力比を算出するとともに算出された前記信号対干渉雑音電力比を前記第1の通信手段に送信する第2の通信手段と、
前記第2の通信手段により受信された前記信号対干渉雑音電力比に基づいて前記第1の方位角および前記第2の方位角を算出する方位角算出手段とを含むことを特徴とする請求項1または2記載の距離測定システム。
【請求項4】
移動する一の無線端末に設けられる通信装置であって、
一の無線端末の第1の位置において前記一の無線端末の移動方向に対する他の無線端末の方位角を第1の方位角として測定し、前記一の無線端末の第2の位置において前記一の無線端末の移動方向に対する前記他の無線端末の方位角を第2の方位角として測定する方位角測定手段と、
前記一の無線端末の前記第1の位置から前記第2の位置までの移動距離を取得する移動距離取得手段と、
前記方位角測定手段により測定された前記第1の方位角および前記第2の方位角ならびに前記移動距離取得手段により取得された前記移動距離に基づいて、前記一の無線端末の前記第2の位置から前記他の無線端末までの距離を算出する端末間距離算出手段とを備えたことを特徴とする通信装置。
【請求項5】
移動する一の無線端末の移動後の位置から他の無線端末までの距離を測定する距離測定方法であって、
前記一の無線端末の第1の位置において前記一の無線端末の移動方向に対する前記他の無線端末の方位角を第1の方位角として測定するステップと、
前記一の無線端末の第2の位置において前記一の無線端末の移動方向に対する他の無線端末の方位角を第2の方位角として測定するステップと、
前記一の無線端末の前記第1の位置から前記第2の位置までの移動距離を取得するステップと、
測定された前記第1の方位角および前記第2の方位角ならびに取得された前記移動距離に基づいて、前記一の無線端末の前記第2の位置から前記他の無線端末までの距離を算出するステップとを備えたことを特徴とする距離測定方法。
【請求項6】
アドホックネットワークにおいて移動する一の無線端末の移動後の位置から他の無線端末までの距離を測定する距離測定システムであって、
前記一の無線端末の第1の位置において前記一の無線端末の移動方向に対する前記他の無線端末の方位角を第1の方位角として測定し、前記一の無線端末の第2の位置において前記一の無線端末の移動方向に対する他の無線端末の方位角を第2の方位角として測定する方位角測定手段と、
前記一の無線端末の前記第1の位置から前記第2の位置までの移動距離を取得する移動距離取得手段と、
前記方位角測定手段により測定された前記第1の方位角および前記第2の方位角ならびに前記移動距離取得手段により取得された前記移動距離に基づいて、前記一の無線端末の前記第2の位置から前記他の無線端末までの距離を算出する端末間距離算出手段とを備えたことを特徴とする距離測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−53108(P2006−53108A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236503(P2004−236503)
【出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「自律分散型無線ネットワークの研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】