説明

距離設定型光電スイッチ

【課題】受光素子として二分割PDを用い、基準距離のソフトウェアによる変更調整を可能にした距離設定型光電スイッチを提供する。
【解決手段】距離設定型光電スイッチは、対象物に向けて光を投光するための発光素子及び投光レンズと、対象物からの反射光を受光するための受光レンズ及び受光素子と、この受光素子からの信号を処理して二値信号を出力する主制御部とを備える。受光素子は、受光面がN側受光面とF側受光面とに二分割され、各分割受光面から個別の受光量信号が得られる二分割PDである。主制御部は、N側受光面から得られたN側受光量とF側受光面から得られたF側受光量との差(N−F)を両受光量の和(N+F)で割る正規化演算を行う。その演算結果がゼロとなる点Drefを含む所定範囲Rgl内で基準距離の設定が可能である。ワークまでの距離の検出値と基準距離との比較出力が測定結果として出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を用いた三角測距によって得られる対象物までの距離と基準距離との比較結果に対応する二値信号を出力する距離設定型光電スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
このような距離設定型光電スイッチ(光電センサーということもある)は、光を用いた三角測距によって対象物までの距離を測定する位置検出型光電センサーの一種であると見ることができる。この種の光電センサーでは、図1に示すように、センサーヘッド101に発光素子102と受光素子103が所定の間隔で配設されている。発光素子102から投光された光が投光レンズ104を通って対象物(以下、ワークという)WKに投光され、ワークWKで反射した光が受光レンズ105を通って受光素子103に入射する。受光素子103として、一定範囲の受光面を有し、入射光の受光面におけるスポット位置又は光量分布の重心位置を検出可能なPSD(位置検出半導体素子)やCCD(固体撮像素子)が使用される。
【0003】
図1において、ワークWKの位置が破線で示すようにセンサーヘッド101に近づくと、受光素子103に入射する反射光が破線で示すように変化するので、受光素子103の受光面における受光スポット位置又は受光量分布の重心位置が矢印で示すように移動する。ワークWKがセンサーヘッド101から遠ざかる方向に移動すれば受光素子103の受光面における受光スポット位置又は受光量分布の重心位置は矢印と逆の方向に移動する。したがって、受光素子103の受光面における受光スポットの位置又は光量分布の重心位置を検出することによって、ワークWKまでの距離又はその変位を測定することができる。このような光電センサーは通常、ワークまでの距離を測定して表示すると共に、測定結果と基準距離との比較結果を二値信号として表示し、外部へ出力する機能を有する。つまり、距離設定型光電スイッチの機能を兼ね備えている。
【0004】
一方、ワークまでの距離を定量的に測定する機能が無く、ワークまでの距離と基準距離との比較結果である2値信号を出力する機能に特化した距離設定型光電スイッチの場合は、PSDやCCDより安価な二分割PD(フォトダイオード)を受光素子として使用することができる。二分割PDを用いた距離設定型光電スイッチの動作原理を図2に基づいて簡単に説明する。
【0005】
図2に示すように、受光素子としての二分割PD103は受光面が2つに分割されており、各分割受光面から個別の受光量信号が得られる。一方の分割受光面をN側(Near側)受光面、他方の分割受光面をF側(Far側)受光面という。図2(b)に示すように受光スポットSPがN側受光面とF側受光面との境界に位置するときに両方の分割受光面から同等の受光量信号が得られる。また、図2(a)に示すように受光スポットSPがN側受光面に偏ると、N側受光面から得られる受光量がF側受光面から得られる受光量より大きくなる(N>F)。逆に図2(c)に示すように受光スポットSPがF側受光面に偏ると、F側受光面から得られる受光量がN側受光面から得られる受光量より大きくなる(N<F)。したがって、図2(b)に示す状態を基準距離とすれば、N側受光面とF側受光面から得られる受光量の差が正であるか負であるかに基づいて、ワークWKまでの距離が基準距離より近いか遠いかを示す二値信号を出力することができる。
【0006】
このように、従来の二分割PDを用いた距離設定型光電スイッチでは、受光スポットSPがN側受光面とF側受光面との境界に位置するとき(N−F=0のとき)を基準距離としている。受光スポットSPがこの境界からずれている状態では、N−Fの値が正であるか負であるかを判断すれば良いが、その絶対値の大きさはワークの表面における光の拡散反射率によって大きく変化する。図1から分かるように、発光素子102と受光素子103との間隔等の光学系の幾何学的な配置によって基準距離が決まってしまう。そこで、例えば特許文献1に記載されている距離設定型光電スイッチでは、センサーヘッド内に受光軸の角度等を変更調節する機構を設け、ユーザーが基準距離を変更調整することができるように構成されている。
【特許文献1】特開平6−168652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されている距離設定型光電スイッチのように、基準距離を光学系の調整機構によって設定する方法では、最適な基準距離を設定することが難しく、作業者(ユーザー)間の設定ばらつきが大きくなる傾向がある。また、いわゆるティーチングによる自動調整に対応することが困難である。
【0008】
本発明は、上記のような課題に鑑みて為されたものであり、受光素子として二分割PDを用いた距離設定型光電スイッチにおいて、基準距離の変更調整を可能にし、しかもティーチングによる自動調整への対応を可能にすることを目的とする。また、二分割PDを用いた距離設定型光電スイッチにおいて、所定範囲内で対象物までの距離に応じて変化する量を表示できるようにすることも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による距離設定型光電スイッチの第1の構成は、光を用いた三角測距によって得られる対象物までの距離と基準距離との比較結果に対応する二値信号を出力する距離設定型光電スイッチにおいて、対象物に向けて光を投光するための発光素子及び投光レンズと、対象物からの反射光を受光するための受光レンズ及び受光素子と、この受光素子からの信号を処理して二値信号を出力する主制御部とを備え、受光素子は、受光面が第1受光面と第2受光面とに二分割され、各分割受光面から個別の受光量信号が得られる二分割PDであり、主制御部は、第1受光面から得られた第1受光量と第2受光面から得られた第2受光量との差を両受光量の和で割る正規化演算を行い、その演算結果がゼロとなる点を含む所定範囲内で基準距離が設定可能であることを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、安価な二分割PDを受光素子として使用しながら、基準距離の変更調節がソフトウェアで可能であり、したがってティーチングによる自動調整への対応が可能な距離設定型光電スイッチを提供することができる。すなわち、従来の二分割PDを用いた距離設定型光電スイッチでは前述のように第1受光面(例えばN側受光面)から得られた第1受光量(例えばN側受光量)と第2受光面(例えばF側受光面)から得られた第2受光量(例えばF側受光量)との差(例えばN−F)がゼロになるときの距離を基準距離とするしかなかったが、本発明の距離設定型光電スイッチでは、差(N−F)を和(N+F)で割る正規化演算によって、ゼロを含む所定範囲内で略線形に変化する検出量(演算結果)が得られるので、その所定範囲内で基準距離を任意に設定することができる。
【0011】
本発明による距離設定型光電スイッチの第2の構成は、上記第1の構成において、発光素子、投光レンズ、受光レンズ及び受光素子のうちの少なくとも1つの位置又は角度を調整することによって受光素子の受光面における受光スポット位置又は受光量分布の重心位置を変更する光学調整機構を更に備えていることを特徴とする。このような構成によれば、受光素子及び受光スポットの大きさで決まる上記の所定範囲が狭い場合であっても、光学調整機構によって基準距離を大まかに変更し、その後で基準距離を所定範囲内で微調整するといった設定方法が可能になる。
【0012】
本発明による距離設定型光電スイッチの第3の構成は、上記第1又は第2の構成において、ディジタル量の表示可能な表示部を更に備え、主制御部が、正規化演算で得られたディジタル量を表示部に表示させる表示モードを備えていることを特徴とする。このような構成によれば、安価な二分割PDを受光素子として使用しながら、正規化演算で得られたディジタル量(N−F)/(N+F)を表示させることにより、ユーザーは対象物までの相対的な距離(変位)を所定範囲内で把握することが可能になる。
【0013】
本発明による距離設定型光電スイッチの第4の構成は、上記いずれかの構成において、主制御部が、第1受光量と第2受光量との和に相当するディジタル量を表示部に表示させる表示モードを更に備えていることを特徴とする。このような構成によれば、第1受光量と第2受光量との和に相当するディジタル量(N+F)の表示からユーザーは対象物の表面における光の拡散反射率を把握することができる。
本発明による距離設定型光電スイッチの第5の構成は、上記第3の構成において、主制御部が、正規化演算で得られたディジタル量に所定のオフセット量を加えて得られる値を表示部に表示させることを特徴とする。これにより、例えば、ゼロを中心とする正負にわたる表示範囲の代わりに正の表示範囲を設定することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
【0015】
図3は、本発明の実施例に係る距離設定型光電スイッチの外観を示す斜視図である。この実施例の距離設定型光電スイッチは、いわゆるアンプ分離型であり、ヘッド部11とアンプ部12が電気ケーブル13で接続されている。
【0016】
アンプ部12は薄型直方体形状のケース121を有し、その前端側にはヘッド部11に接続された電気ケーブル13が接続され、後端側には上位の制御装置(PLC等)に接続された電気ケーブル14が接続されている。ケース121の下面122には、DINレール(機器取付用規格レール)に装着するための構造が備えられている。複数のアンプ部12を重ねるように並べてDINレールに取り付けることができ、その際にアンプ部12の側面に設けられたコネクタ123によって隣接するアンプ部12との電気的な接続をとることができる。
【0017】
アンプ部12の上面には、8桁(4桁×2)の7セグメントLEDを用いたディジタル表示器124と、測定結果(基準距離との比較結果)を表示するための出力インジケータ(発光ダイオード)125が設けられている。また、基準距離の設定、動作モードや表示モードの切り替え等に使用される複数の押釦スイッチ126〜128が設けられている。これらの押釦スイッチ126〜128やディジタル表示器124等を保護するための透明樹脂製の保護カバー130が設けられ、図3では保護カバー130を開いた状態が示されている。保護カバー130はアンプ部12の後端側上部に設けられたヒンジ部で枢支されており、これを閉じた状態では押釦スイッチ126〜128やディジタル表示器124等を含むアンプ部12の上面パネル(表示・操作パネル)が保護カバー130で覆われるようになっている。
【0018】
ヘッド部11には投光部及び受光部が内蔵され、投光部の発光素子から発した光LBがヘッド部11の前面からワークWKに向けて投光され、ワークWKからの反射光LB’が受光部の前面から受光素子に入射するように構成されている。図1を用いて既述したように、投光部には投光レンズが含まれ、受光部には受光レンズが含まれている。また、ヘッド部11の背面には、後述する受光部調整機構を用いて基準距離の手動設定を行うためのトリマー112が設けられている。
【0019】
図4は本発明の実施例に係る距離設定型光電スイッチの回路構成を示すブロック図である。ヘッド部11に内蔵された投光部21には、レーザーダイオード又は発光ダイオードを用いた発光素子とその駆動回路が含まれている。また、受光部は二分割PDを用いた受光素子22を含む。二分割PDは図2を用いて既述したように、受光面がN側受光面とF側受光面とに分割されており、各分割受光面から個別の受光量信号が出力される。なお、図2において、N側受光面から出力された受光量信号をNで示し、F側受光面から得られる受光量信号をFで示している。また、N側受光面から得られた受光量(電圧又はディジタル変換値)をNで表し、F側受光面から得られた受光量をFで表すこともある。
【0020】
図4に示すように、N側受光面及びF側受光面から出力された受光量信号N及びFはそれぞれの増幅器23及び24を経てアナログ演算部25に入力される。そして、アナログ演算部25から受光量信号Nと、2つの受光量信号の差(受光量差信号という)N−Fとが出力される。これらの信号は信号切替部26に入力される。信号切替部26は、アンプ部12からの切替制御信号にしたがって、受光量信号Nと受光量差信号N−Fを交互に(時分割で)電気ケーブル13に送り出す。信号切替部26に与えられる切替制御信号は、投光部21の制御信号に重畳されてアンプ部12から電気ケーブル13を介して送られる。なお、ヘッド部11に内蔵された受光部調整機構27については後述する。
【0021】
アンプ部12では、ヘッド部11から電気ケーブル13を介して送られた受光量信号N及び受光量差信号N−Fを信号増幅部31で増幅し、AD変換部32でディジタル値に変換して主制御部33に入力する。主制御部33は、ディジタル値となった受光量N及び受光量差N−Fから他方の受光量Fを復元する。なお、受光量差信号とそれに対応するディジタル値である受光量差についても便宜上、共にN−Fで表す。主制御部33は更に、後述する受光量差の正規化演算処理を行い、その結果得られるディジタル量を表示部34に表示させる。表示部34は、図3に示したアンプ部12の上面パネルに設けられたディジタル表示器124及び出力インジケータ125を含む。
【0022】
また、アンプ部12には、基準距離の設定(変更調整)等を行うための設定入力部35と投光制御部36が備えられている。設定入力部35は、図3に示したアンプ部12の上面パネルに設けられた押釦スイッチ126〜128を含む。投光制御部36は、主制御部33の指令に基づいて、ヘッド部11の投光部21に対して投光制御信号を与える。また、前述のように、ヘッド部11からアンプ部12へ送られる受光量信号Nと受光量差信号N−Fとを時分割で切り替えるための切替制御信号を投光制御信号に重畳する働きも有する。主制御部33が測定モードで測定したワークWKまでの距離と基準距離との比較結果は、表示部34に含まれる出力インジケータ125に表示されると共に、制御装置(PLC等)に接続された電気ケーブル14へ出力される。
【0023】
図5は、受光量差の正規化演算を説明するためのグラフである。また、図6は、受光量差の正規化演算処理の流れを示すフローチャートである。背景技術の説明で図2を参照しながら述べたように、二分割PDのN側受光面とF側受光面との境界に受光スポットSPが位置するときに両方の分割受光面から同等の受光量信号が得られ、受光量差N−Fがゼロになる。受光スポットSPがN側受光面に偏るとN−Fは正の値になり、受光スポットSPがF側受光面に偏るとN−Fは負の値になる。この様子をグラフで表すと、図5(a)に示す実線又は破線の曲線のようになる。
【0024】
図5(a)において、実線の曲線41は表面の光の拡散反射率が比較的高いワークWKの場合の特性であり、破線の曲線42は拡散反射率が比較的低いワークWKの場合の特性である。いずれの場合も、光学系の配置によって決まる基準距離Drefでは受光量差N−Fがゼロになる。つまり、このときに受光素子22である二分割PDのN側受光面とF側受光面との境界を中心にして受光スポットSPがN側受光面とF側受光面とに均等に分布している。しかし、基準距離Drefからずれた点では、同じ距離のずれであってもワークWKの表面の光の拡散反射率によっての受光量差N−Fの値が異なる。
【0025】
また、図5(a)からわかるように、基準距離Drefからずれるにしたがって、受光量差N−Fの絶対値は増加した後に下降に転じる。そして、受光素子22の受光面の範囲内に受光スポットが存在する範囲に相当する距離範囲Rgdの両端でゼロになる。つまり、受光スポットが受光素子22の受光面の両端から外れれば受光量N及びFは共にゼロになるので、受光量差N−Fの値も当然ゼロになる。これらのことから、受光量差N−Fをそのまま相対距離(変位)を表す検出量として使用することはできない。
【0026】
そこで、本実施例の距離設定型光電スイッチでは、主制御部33が受光量差の正規化演算処理を行う。この処理は、基本的には受光量Nと受光量Fとの和(N+F)で受光量差N−Fを割ることによって、ワークWKの表面の光の拡散反射率の影響を除く処理である。更に、受光量N又は受光量Fがゼロに近づいたときに(N−F)/(N+F)の値を強制的に1にする処理を加えている。図6のフローチャートに沿ってこれらの処理について以下に説明を加える。
【0027】
図6は、図4に示したアンプ部の主制御部33が入力された受光量N及び受光量差N−Fから正規化演算処理を行う過程を示している。まず、ステップ#101において、受光量Nから受光量差N−Fを引く演算によって受光量Fを求める(復元する)。この受光量Fは、後に説明するように、受光量Nと共にディジタル表示器124に個別に表示する場合があるので、得られた受光量Fの値は受光量Nと共に主制御部33内のメモリに保存される。
【0028】
次のステップ#102において、受光量Nと受光量Fとの和(受光量和)N+Fを算出する。この値についても、ディジタル表示器124に表示する場合があるので、メモリに保存される。続くステップ#103において受光量差N−Fを受光量和N+Fで割って(N−F)/(N+F)を求める正規化演算を実行する。
【0029】
更に、次のステップ#104において受光量N又はFがゼロ近傍のときの補正処理を行う。これは、受光量N又はFが予め定めたゼロに近い値より小さくなったときに、(N−F)/(N+F)の値を強制的に1にする処理である。この処理は、受光量N又は受光量Fがゼロに近づいたときに(N−F)/(N+F)の値が不安定になり、(N−F)/(N+F)と距離との関係が一義的に定まらなくなるのを回避するために行われる。すなわち、(N−F)/(N+F)と距離との関係が単調減少(又は単調増加)となるようにしている。このようにして得られた(N−F)/(N+F)の値は、ステップ#105で主制御部33内のメモリに保存されると共に相対距離(変位)を表す数値としてディジタル表示器124にディジタル表示される。
【0030】
上記のようにして得られた正規化演算処理結果である(N−F)/(N+F)の値をグラフで表すと図5(b)のようになる。この図では、距離範囲Rgdにおける(N−F)/(N+F)に所定の係数Dを掛けた値D(N−F)/(N+F)が曲線43で表されている。図5(b)から分かるように、距離範囲Rgdのうちの両端部を除いた範囲Rglでは、D(N−F)/(N+F)が略直線的に変化する。この両端部が、図6のステップ#104で(N−F)/(N+F)の値を強制的に1にした範囲に対応している。両端部を除いた範囲Rglでは、D(N−F)/(N+F)と距離との関係が略直線的になるので、この範囲内で基準距離を任意に設定することが可能である。
【0031】
すなわち、従来のように光学系の配置によって決まる受光量差N−Fがゼロになる距離Drefを基準距離として固定する必要はなく、それを含む所定範囲(図5(b)の範囲Rgl)内で基準距離を設定(変更)することができる。この基準距離の変更設定は、主制御部33がソフトウェアでディジタル値として行うことができる。したがって、従来のティーチングと同様にして基準距離を自動設定することができる。
【0032】
ティーチングによる基準距離の自動設定の一例を図7及び図8に基づいて説明する。図7は、アンプ部12の押釦スイッチ126〜128やディジタル表示器124を含む上面パネルの平面図である。また、図8はティーチングの一例を示すフローチャートである。ティーチングの一例の説明の前に、図7に示す上面パネルの表示や操作について簡単に説明する。
【0033】
図7において、出力インジケータ125は、既に説明したように、主制御部33が測定モードで測定したワークWKまでの距離と基準距離との比較結果が表示されるLEDである。例えば、ワークWKまでの距離が基準距離より短ければ左側の出力インジケータ125が点灯し、ワークWKまでの距離が基準距離より長ければ右側の出力インジケータ125が点灯する。なお、出力インジケータ125の表示等のチャタリングを回避するために、ワークWKまでの距離と基準距離との比較結果には一定のヒステリシス(不感帯)が設けられている。つまり、ワークWKがヘッド部11に対して接近するときと離間するときとでは出力インジケータ125等の切り替わりのタイミングがヒステリシス分だけ異なる。
【0034】
ディジタル表示器124は8桁の7セグメントLEDであり、上4桁の表示部124Hと下4桁の表示部124Lとに分かれている。これら表示部124H及び124Lを用いて設定モード及び測定モードにおける多様な表示を行うことができる。例えば、測定モードにおいて表示部124Hに基準距離に相当する数値を表示し、表示部124LにワークWKまでの距離の現在値に相当する数値(正規化演算処理後のD(N−F)/(N+F)の値)を表示する。前述の受光量Nと受光量Fとを表示部124Hと表示部124Lとに表示してもよい。あるいは、受光量差N−Fと受光量和N+Fを表示部124Hと表示部124Lとに表示してもよい。これらの複数の表示モードを押釦スイッチ126又は127で切り替えるようにしてもよい。ディジタル表示器124は、上記のような数値表示だけでなく、エラーコードや動作モードの記号等を簡易的に表示することもできる。
【0035】
押釦スイッチ126又は127は、表示モードや動作モード(設定モード、測定モード等)の切り替え等に使用される。また、押釦スイッチ128はアップダウンキー(増減キー)であり、設定された基準距離の手動による微調整等に使用される。
【0036】
図8のフローチャートは、ティーチングの一例をユーザーによる操作の流れとして示している。ステップ#201においてユーザーは、複数種類用意されたティーチングモードの中からティーチングモードAを選択する。この選択は、押釦スイッチ126又は127の押下、またはそれらの組み合わせ押下によって行われる。
【0037】
次のステップ#202において、ユーザーはワークWKをヘッド部11の前方の第1位置にセットする。この第1位置は、ワークWKの存在を検出すべき近距離側の位置である。このとき、主制御部33はワークWKまでの距離の現在値に相当する数値を求め、ディジタル表示器124の例えば左側表示部124Hに表示させる。この状態で次のステップ#203においてユーザーは設定スイッチ(押釦スイッチ126又は127)を押下する。その結果、ディジタル表示器124に表示された近距離側の位置に相当する数値が固定される。
【0038】
次のステップ#204において、ユーザーはワークWKをヘッド部11の前方の第2位置にセットする。この第2位置は、ワークWKの存在を検出すべきでない遠距離側の位置である。このとき、主制御部33はワークWKまでの距離の現在値に相当する数値を求め、ディジタル表示器124の例えば右側表示部124Lに表示させる。この状態で次のステップ#205においてユーザーは設定スイッチを押下する。その結果、ディジタル表示器124に表示された遠距離側の位置に相当する数値が固定される。最後にユーザーはディジタル表示器124に表示された第1位置及び第2位置の数値を確認し、決定スイッチ(押釦スイッチ126又は127)を押下する(ステップ#206)。これでティーチングモードAの操作は終了する。主制御部33は第1位置及び第2位置の数値の例えば中間値を求め、これを基準距離として設定する。設定された基準距離はディジタル表示器124の例えば左側表示部124Hに表示される。
【0039】
上記のように、主制御部33がソフトウェアによって基準距離を設定可能な範囲、つまり、上記のティーチングモードAの操作でユーザーが第1位置及び第2位置を設定できる範囲は、前述のように図5(b)の範囲Rglに相当する。この範囲は、光学系の配置と受光素子22の受光面の大きさによって決まり、比較的狭い範囲に限定されてしまう。そこで、本実施例の距離設定型光電スイッチは、受光部の角度を変更することによって図5(a)及び(b)における基準距離Drefを変更する受光部調整機構(図4の27)が備えられている。
【0040】
図9は、受光部調整機構27の構成例を模式的に示す図である。図9(a)は手動調整の場合であり、図9(b)は電動調整の場合である。ヘッド部11内には、投光部21と受光部20が内蔵され、投光部21は発光素子211及び投光レンズ212を含む。受光部20は受光素子22と受光レンズ201を含む。この例では、投光部21は位置及び角度が固定されており、受光部20は受光素子22及び受光レンズ201が一体として軸心AX周りに回転可能になっている。受光部20には扇形部材202が固定され、その周縁部には軸心AXを中心とする円弧に沿ってヘリカルギア203が形成されている。また、ヘリカルギア203に噛合するギア溝が形成された回転操作ロッド204が設けられ、その端部が図3に示した回転操作されるトリマー112としてヘッド部11の背面に露出している。
【0041】
上記のような構造によれば、ユーザーがトリマー112(回転操作ロッド204)を回転操作することにより、受光部20が軸心AX周りに回転操作される。その結果、ワークWKからの反射光LB’が受光素子22の中心に入射するときの光軸の角度が変化するので、光学系の配置によって決まる基準距離Drefを変更することができる。
【0042】
図9(b)に示す構成では、トリマー112(回転操作ロッド204)に代えて、電動モータ(ステッピングモータ又はギアドモータ等)205が設けられ、その回転軸に上記扇形部材202のヘリカルギア203に噛合するギア206が固定されている。アンプ部12の主制御部33からの制御信号によって電動モータ205を回転駆動すれば、図9(a)の手動操作のときと同様に受光部20を軸心AX周りに回転し、光学系の配置によって決まる基準距離Drefを変更することができる。軸心AX周りの受光部20の回転角度をロータリーエンコーダ等によって検出するように構成すれば、主制御部33による基準距離Drefの自動調整も可能となる。また、図9(a)の手動操作による設定の場合は、トリマー112の回転角等から基準距離Drefの目安をユーザーが視認できるようにしておくことが好ましい。
【0043】
図9に示した受光部調整機構27の例では受光素子22及び受光レンズ201を一体として回転操作することによって基準距離Drefを変更するが、受光素子22及び受光レンズ201を一体として平行移動することによっても基準距離Drefを変更することが可能である。つまり、投光部21に対して受光部20を接近又は離間する方向(図9で上下方向)に平行移動すれば、受光素子22の受光面における受光スポット位置が変化するので基準距離Drefが変化する。あるいは、受光素子22又は受光レンズ201を単独で上下方向に移動させても同様に基準距離Drefを変化させることができる。
【0044】
更に、受光部20の代わりに投光部21の角度や位置を変更した場合も受光素子22の受光面における受光スポット位置が変化し、基準距離Drefが変化することがこれまでの記述から明らかであろう。つまり、受光素子22の受光面における受光スポット位置又は受光量分布の重心位置を変更することによって基準距離Drefを変更するには、発光素子211、投光レンズ212、受光レンズ201及び受光素子22のうちの少なくとも1つの位置又は角度を調整する光学調整機構を設ければよい。図9に示した受光部調整機構27は、この光学調整機構の一例に過ぎない。例えば、受光部20及び投光部21の角度が同時に互いに逆方向に変更されるように構成すれば、特に光を正反射する表面(鏡面)を有するワークWKの検出に際して好ましい。
【0045】
本実施例の距離設定型光電スイッチは、上記のような光学調整機構(受光部調整機構27)による基準距離Drefの設定と、前述の主制御部33がソフトウェアによって行う所定範囲内での基準距離の設定(変更調整又は微調整)とを併用することによってユーザーにとって便利な設定機能を提供している。
【0046】
図10は、本実施例の距離設定型光電スイッチにおける設定モード及び測定モードの概略を示すフローチャートである。ステップ#301において設定モードであるか測定モードであるかが判断され、設定モードである場合は次のステップ#302で受光部調整機構27による基準距離Drefの設定が行われる。この設定は、図9(a)に示したような機構を用いた手動設定でもよいし、図9(b)に示したような機構を用いた電動(又は自動)設定でもよい。
【0047】
基準距離Drefが設定された後にステップ#303においてティーチングによる基準距離の変更調整が行われる。このティーチングの一例については既に説明した通りである。更に、続くステップ#304において手動による基準距離の微調整が行われる。つまり、ユーザーはアンプ部12の上面パネルに設けられたアップダウンキーである押釦スイッチ128を用いて、基準距離の設定値を増減調整することができる。このとき、ディジタル表示器124(の右側表示部124H)には設定された基準距離が表示されており、押釦スイッチ128の操作に伴ってその表示値が増減する。この後、押釦スイッチ126又は126の操作によって設定モードから測定モードに変更されると、基準距離の設定値が確定されると共に測定モードが開始する(ステップ#305)。
【0048】
ステップ#303及びステップ#304のいずれかを省略した設定も可能である。例えば、ステップ#302における受光部調整機構27による基準距離Drefの設定の後に、ステップ#303のティーチングによる基準距離の変更調整を省略してすぐにステップ#304の押釦スイッチ128を用いた手動による基準距離の微調整を行ってもよい。あるいは、ステップ#303のティーチングによる基準距離の変更調整の後に、ステップ#304の手動による基準距離の微調整を省略して設定モードから測定モードに変更してもよい。ステップ#303及びステップ#304の処理は共に主制御部33がソフトウェアによって行う基準距離の変更調整(又は微調整)である。
【0049】
ステップ#301において測定モードであると判断されたときは、次のステップ#306でワークWKまでの距離が測定される。この測定は、図5に示したように受光量差の正規化演算後の値D(N−F)/(N+F)が距離に応じて略直線的に変化する範囲Rglで行われる。続くステップ#307において、測定結果と基準距離との比較を行い、ワークWKまでの距離が基準距離より近いか遠いかを判断する。比較結果は前述のように制御装置(PLC等)に接続された電気ケーブル14へ出力される(ステップ#308)と共に表示部34に含まれる出力インジケータ125に表示される(ステップ#309)。これ以降、動作終了(ステップ#310のYes)まで上記の処理が繰り返される。
なお、ティーチングには、上述の例の他に次のような各種のティーチングがある。第1に、いわゆる2点ティーチングとして、ワークがある場合とワークが無い場合とでそれぞれティーチングの入力を行ってそれぞれの距離情報を取得し、それらの間の値(例えば中間値)を基準距離とする。第2に、いわゆる1点ティーチングとして、ワークがある場合にティーチングの入力を行って距離情報を取得し、その値に所定値の加減演算又は乗除演算を行って2つの基準距離を得る。この場合は、測定結果が2つの基準距離の間にあれば検出信号(オン信号)が出力される。第3に、いわゆるフルオートティーチングとして、ティーチングの入力を行っている間に得られた距離情報の最大値と最小値との間の値(例えば中間値)を基準距離とする。第4に、いわゆる最大距離ティーチングとして、ワークが無いときにティーチングの入力を行い、そのときの距離情報で検出信号がオフからオンに変化する直前の値を基準距離とする。
【0050】
以上、本発明の実施例及び変形例を説明したが、本発明は上記の実施例及び変形例に限らず、種々の形態で実施することができる。例えば、図3に示したようなヘッド部11とアンプ部12が電気ケーブル13で接続されたアンプ分離型の光電スイッチに限らず、ヘッド部とアンプ部とが1つの筐体に内蔵されたアンプ一体型の光電スイッチにも本発明を適用することができる。
また、上記実施例では、正規化演算処理後のD(N−F)/(N+F)の値をワークWKまでの距離の現在値に相当する数値としてディジタル表示器124に表示させることができる旨の説明をしたが、別実施例として、正規化演算処理後の値に所定のオフセット量を加えて得られる値をディジタル表示器124に表示させるように構成してもよい。これにより、例えば、ゼロを中心とする正負にわたる表示範囲の代わりに正の表示範囲を設定することが可能になる。さらに、このオフセット量をユーザーが任意に設定できるようにしてもよい。また、オフセット量を加えた表示を行うか否かをユーザーの指示によって切り替えるようにしてもよい。また、基準距離との比較に際して、正規化演算処理後の値に所定のオフセット量を加えて得られる値を基準距離と比較するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】距離設定型光電スイッチの動作原理を示す図である。
【図2】受光素子としての二分割PDの動作原理を示す図である。
【図3】本発明の実施例に係る距離設定型光電スイッチの外観を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施例に係る距離設定型光電スイッチの回路構成を示すブロック図である。
【図5】受光量差の正規化演算を説明するためのグラフである。
【図6】受光量差の正規化演算処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】アンプ部の押釦スイッチやディジタル表示器を含む上面パネルの平面図である。
【図8】ティーチングの一例を示すフローチャートである。
【図9】受光部調整機構の構成例を模式的に示す図である。
【図10】本実施例の距離設定型光電スイッチにおける設定モード及び測定モードの概略を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0052】
22 受光素子(二分割PD)
27 受光部調整機構(光学調整機構)
33 主制御部
124 ディジタル表示器(表示部)
201 受光レンズ
211 発光素子
212 投光レンズ
WK ワーク(対象物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を用いた三角測距によって得られる対象物までの距離と基準距離との比較結果に対応する二値信号を出力する距離設定型光電スイッチであって、
前記対象物に向けて光を投光するための発光素子及び投光レンズと、前記対象物からの反射光を受光するための受光レンズ及び受光素子と、この受光素子からの信号を処理して前記二値信号を出力する主制御部とを備え、
前記受光素子は、受光面が第1受光面と第2受光面とに二分割され、各分割受光面から個別の受光量信号が得られる二分割PDであり、
前記主制御部は、前記第1受光面から得られた第1受光量と前記第2受光面から得られた第2受光量との差を両受光量の和で割る正規化演算を行い、その演算結果がゼロとなる点を含む所定範囲内で前記基準距離が設定可能であることを特徴とする距離設定型光電スイッチ。
【請求項2】
前記発光素子、前記投光レンズ、前記受光レンズ及び前記受光素子のうちの少なくとも1つの位置又は角度を調整することによって前記受光素子の受光面における受光スポット位置又は受光量分布の重心位置を変更する光学調整機構を更に備えていることを特徴とする
請求項1記載の距離設定型光電スイッチ。
【請求項3】
ディジタル量の表示可能な表示部を更に備え、前記主制御部が、前記正規化演算で得られたディジタル量を前記表示部に表示させる表示モードを備えていることを特徴とする
請求項1又は2記載の距離設定型光電スイッチ。
【請求項4】
ディジタル量の表示可能な表示部を更に備え、前記主制御部が、前記第1受光量と前記第2受光量との和に相当するディジタル量を前記表示部に表示させる表示モードを備えていることを特徴とする
請求項1、2又は3記載の距離設定型光電スイッチ。
【請求項5】
前記主制御部が、前記正規化演算で得られたディジタル量に所定のオフセット量を加えて得られる値を前記表示部に表示させることを特徴とする
請求項3記載の距離設定型光電スイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−226852(P2006−226852A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41436(P2005−41436)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000129253)株式会社キーエンス (681)
【Fターム(参考)】