説明

車両における外装部品の取り付け構造

【課題】エンジンアンダーカバーの一部がクリップ止めされたフェンダライナにおいて、車両走行中の路面ノイズを低減しつつ、クリップの引き抜き耐力を高めてその緩みを防止する。
【解決手段】樹脂基材層12と不織布層13の二層構造のフェンダライナ10の結合部11を折り返して不織布層13を樹脂基材層12で挟み込む四層構造化して、クリップ20の係合爪21aを樹脂基材層12の嵌合孔14Cに係合させてその引き抜き耐力を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば車両のホイールハウスに沿って取り付けられるフェンダライナ等の外装部品に他の外装部品を取り付けるための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の例えば前側のホイールハウスには、走行中の路面ノイズを吸収、遮断することを主たる目的とするフェンダライナが取り付けられている。このフェンダライナには、例えばポリエチレン樹脂を素材とする基材の裏面側に、より路面ノイズの吸収性を高めるために不織布層を接合した2層構造のものが提供されており、全体としてホイールハウスに沿った半円筒形の成形体が用いられている。
従来、このフェンダライナに関する様々な技術が下記の特許文献に開示されている。特許文献1には、不織布を含む2層構造のフェンダライナに関する技術が記載され、特許文献2には、S字状に折り曲げてフェンダの端縁面を挟むクリップ片を備えたフェンダライナが記載され、特許文献3には端縁が二層厚肉部に形成されたフェンダライナが記載されている。また、特許文献4には、フェンダパネルに接合する端縁に沿ってモールを取り付けたフェンダライナが記載され、特許文献5には、相互に結合したフェンダパネルの端縁部とフェンダライナの端縁部に沿ってアーチモールを取り付けた構成が記載されている。
これらの各特許文献に開示されているようにフェンダパネルに対するフェンダライナの取り付け構造とは別に、フェンダパネルに取り付けたフェンダライナに他の外装部品を固定する場合があり、この場合にはフェンダライナの周縁部の適数カ所には、フェンダ等に対するねじ止め用のボルト挿通孔が設けられている他、例えばエンジンアンダーカバー等の外装部品の一部をこのフェンダライナに対して固定するためのクリップ止め用の嵌合孔が設けられている場合がある。
この嵌合孔を介してエンジンアンダーカバーをフェンダライナに対してクリップ止めする場合、基材側を外面側にしてホイールハウスに取り付けたフェンダライナの外面に、エンジンアンダーカバーを当接させてその挿通孔をフェンダライナ側の嵌合孔に位置合わせした状態で、通称花咲きクリップと称されるクリップを挿通孔を経て嵌合孔に押し込むと、クリップの係合爪部が嵌合孔を通過した位置で側方に開いて、当該エンジンアンダーカバーがフェンダライナに対して固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3941745号公報
【特許文献2】実開昭60−96177号公報
【特許文献3】実開昭58−100873号公報
【特許文献4】実開平2−97171号公報
【特許文献5】実開昭61−175084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、不織布を含む二層構造のフェンダライナの場合、走行中に跳ね上げられた雨水等により不織布層の剛性が低下しやすいために、クリップ引き抜き負荷が発生した場合にエンジンアンダーカバー等の他の外装部品を固定するクリップが外れやすくなる問題があった。
本発明は、係る従来の問題を解消するためになされたもので、フェンダライナ等の外装部品に他の外装部品を固定するクリップの緩み若しくは外れを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題は、下記の各発明によって解決される。
第1の発明は、車両における第1外装部品と第2外装部品をクリップを用いて相互に結合するための取り付け構造であって、前記第1外装部品は、少なくとも樹脂基材層と不織布層の二層構造を有しており、前記樹脂基材層側に前記第2外装部品を当接させて該第2外装部品の差し込み孔から前記クリップを差し込んで前記第1外装部品側の嵌合孔に係合させることにより前記第1外装部品と前記第2外装部品が相互に結合される構成とされ、前記第1外装部品の前記第2外装部品が当接される結合部については、前記不織布層を前記樹脂基材層との間で挟み込む樹脂結合層を追加して少なくとも三層構造として、前記クリップが前記樹脂結合層に係合された構成とした取り付け構造である。
第1の発明によれば、第1外装部品としての例えばフェンダライナに第2外装部品としての例えばエンジンアンダーカバーをクリップを用いて相互に結合して取り付ける場合に、エンジンアンダーカバー側から差し込んだクリップが、フェンダライナの不織布層ではなく樹脂結合層の嵌合孔に係合される。このため、車両走行中等雨水の跳ね上げ等により不織布層に水が浸み込み、その結果不織布層の剛性(クリップ引き抜き耐力)が低下しても、クリップが樹脂結合層の嵌合孔に係合されていることから、当該クリップの引き抜き耐力が低下してしまうことがなく、両外装部品の結合状態を維持することができる。
要は、第2外装部品が当接される第1外装部品の結合部については、不織布層が樹脂基材層と樹脂結合層との間に挟み込まれた少なくとも三層構造とすることによりクリップを樹脂結合層の嵌合孔に係合させる構成とすれば、その引き抜き耐力を不織布層に係合させる構成に比して高めることができる。従って、当該第1外装部品の端縁の一部を折り返して四層化した場合におけるこの折り返し部分の樹脂基材層を樹脂結合層として機能させる構成の他、別途用意した樹脂結合層を不織布層に重ね合わせて三層化する構成としてもよい。後者の場合、樹脂結合層は、樹脂基材層と同じ材質であっても、異なる材質の樹脂層であってもよい。
第2の発明は、第1の発明において、第1外装部品の結合部は、第1外装部品の端縁を不織布層を内側にして折り返して四層構造とした取り付け構造である。
第2の発明によれば、第1外装部品の製作工程においてその端縁の一部について張り出し成形して結合用張り出し部とし、第2外装部品結合時においてこの結合用張り出し部を折り曲げるだけで当該結合部を四層構造化することができる。この場合、第1外装部品の結合部は、樹脂基材層と樹脂結合層との間に二層の不織布層が挟み込まれて四層構造となり、クリップは樹脂係合層の嵌合孔に係合される。このため、クリップの引き抜き耐力を高めつつ、第2外装部品の結合作業の効率化を図ることができる。
第3の発明は、第2の発明において、第1外装部品の端縁の折り返しにより重ね合わせられる二層の不織布層を相互に接着した取り付け構造である。
第3の発明によれば、相互に接着された二層の不織布層が接着剤の個化により硬化するため、クリップの引き抜き耐力を一層高めることができる。
第4の発明は、第1の発明において、第1外装部品の結合部は、樹脂基材層の端縁に一体に設けた基材層張り出し部を樹脂基材層との間に不織布層を挟み込む方向に折り返して三層構造とした取り付け構造である。
第4の発明によれば、第1外装部品の製作工程においてその樹脂基材層についてのみ端縁の一部について張り出し成形して基材層張り出し部を設け、第2外装部品結合時にこの基材層張り出し部を不織布層側に折り返して三層構造化することにより、クリップを折り曲げられた基材層張り出し部(樹脂係合層)の嵌合孔に係合させてその引き抜き耐力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明の実施形態に関し、フェンダライナとエンジンアンダーカバーを備えた車両の平面図である。
【図2】車両の右前側のフェンダライナとエンジンアンダーカバーの斜視図である。本図は、車室内側から見た状態を示している。
【図3】図2の(III)部の拡大断面図であって、フェンダライナのエンジンアンダーカバーに対する結合部の縦断面図である。
【図4】フェンダライナのエンジンアンダーカバーに対する結合部の斜視図である。
【図5】第2実施形態の取り付け構造を示す結合部の縦断面図である。
【図6】第3実施形態の取り付け構造を示す結合部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
次に、本発明の実施の形態を図1〜図6に基づいて説明する。図1は、車両1の平面を模式的に示している。以下説明する実施形態では、この車両1に装備される第1外装部品として右前輪2用のフェンダライナ10を例示し、第2外装部品としてエンジンの下方を覆うエンジンアンダーカバー(以下単に「アンダーカバー4」と言う)を例示する。
フェンダライナ10は、車両1の右前輪2の上方であってフロントフェンダ3のホイールハウス3aに沿って取り付けられている。このフェンダライナ10は、概ね半円筒形に成形されており、その周縁の適数カ所に設けたねじ孔10a〜10aを介してホイールハウス3aに沿ってビス止めされている。このフェンダライナ10の前部に、アンダーカバー4を結合するための結合部11が設けられている。
フェンダライナ10は、ポリエチレン樹脂を素材とする樹脂基材層12と、不織布層13の二層構造を備えている。樹脂基材層12が右前輪2側(下面側)に向けられ、不織布層13が内面側(上面側)に向けられた状態で当該フェンダライナ10が取り付けられている。不織布層13が積層されていることにより、車両走行中における路面ノイズの吸収効率が高められて車室内での静音性が確保されている。
図3に示すように、フェンダライナ10の結合部11の下面に、アンダーカバー4の当接部4aが当接されて相互に結合されている。当接部4aには一つの差し込み孔4bが設けられている。アンダーカバー4のその他の部位は、エンジン若しくは車両ボディ側にねじ止め等されている。
アンダーカバー4は、クリップ20を用いてフェンダライナ10の結合部11にクリップ止めされている。このクリップ20は、いわゆる花咲きクリップと称される従来公知のもので、クリップ本体21と押し込みピン22を有している。
【0008】
図3及び図4に示すように、フェンダライナ10の結合部11には、一つの挿通孔11aと折り返し部14が一体に設けられている。この折り返し部14も当該フェンダライナ10の成形時において樹脂基材層12と不織布層13の二層構造に成形されている。このため、アンダーカバー4の結合作業時において、この折り返し部14は不織布層13,13を相互に重ね合わせる向きに折り返されて当該結合部11が四層構造化されている。以下の説明では、折り返し部14側の樹脂基材層12を折り返し基材層14aと言い、不織布層13を折り返し不織布層14bと言う。この折り返し部14に一つの嵌合孔14cが設けられている。第1実施形態の場合、上記び折り返し基材層14aが特許請求の範囲に記載した樹脂結合層に相当する。
相互に重ね合わされた不織布層13と折り返し不織布層14bは、接着材で相互に接着されている。この折り返し状態では、アンダーカバー4側の差し込み孔4bと、結合部11の挿通孔11aと、折り返し部14の嵌合孔14cが同心に連なった状態とされる。
アンダーカバー4側の差し込み孔4bと結合部11の挿通孔11aと折り返し部14の嵌合孔14cを位置合わせして一つの貫通孔とした状態で、アンダーカバー4側の差し込み孔4bからクリップ20のクリップ本体21が差し込まれ、その後クリップ本体21に押し込みピン22が押し込まれる。クリップ本体21に押し込みピン22が押し込まれると、クリップ本体21の左右係合爪21a,21aが左右に押し広げられて、折り返し部14の嵌合孔14cに係合される。図3はこの係合状態を示している。この係合状態では、クリップ20の係合爪21a,21aが折り返し基材層14aの嵌合孔14cに係合された状態となって、フェンダライナ10の結合部11に対してアンダーカバー4の一部(当接部4a)が相互に結合されて取り付けられる。
【0009】
以上説明した第1実施形態の取り付け構造によれば、第1の外装部品としてのフェンダライナ10に第2の外装部品としてのエンジンアンダーカバー4をクリップ止めすると、当該クリップ20の係合爪21a,21aがフェンダライナ10の折り返し基材層14aの嵌合孔14cに係合される。このため、車両走行により跳ね上げられた雨水等が不織布層13若しくは折り返し不織布層14bに浸み込んでその剛性が低下しても、クリップ20の係合爪21a,21aの嵌合孔14cに対する係合状態が維持されて当該クリップ20の引き抜き耐力が保たれ、これにより不用意なクリップ外れといったトラブルを未然に防止することができる。
また、例示した第1実施形態では、フェンダライナ10の結合部11に一体に設けた折り返し部14を折り返して四層構造化することによりクリップ20の係合爪21a,21aを折り返し基材層14aの嵌合孔14cに係合させることができる。このように、折り返し基材層14aを折り曲げるだけの簡単な作業かつ簡易な構成でクリップ20の引き抜き耐力を、従来の不織布層に係合させる場合に比して高めることができる。
さらに、結合部11の四層構造化により相互に重ね合わされた不織布層13と折り返し不織布層14bが接着剤により接着される構成であることから、接着剤の固化(固形化)により両不織布層13,14bを硬化させてこの点でもクリップ20の引き抜き耐力を高めることができる。
【0010】
以上説明した第1実施形態には種々変更を加えることができる。第1実施形態では、折り返し基材層14aと折り返し不織布層14bとの二層構造の折り返し部14を例示したが、例えば図5に示すように樹脂基材層12のみを張り出して一層構造の基材層張り出し部15を設け、これを折り返して樹脂基材層12との間に不織布層13を挟み込む三層構造の結合部16としてもよい。この場合、上記の基材層張り出し部15が特許請求の範囲に記載した樹脂結合層に相当する。係る三層構造の結合部16によってもクリップ20の係合爪21a,21aが折り返した基材層張り出し部15の嵌合孔15aに係合されることから、当該クリップ20の引き抜き耐力を高めることができる。
また、第1、第2実施形態では、フェンダライナ10の結合部に二層構造若しくは一層構造の張り出し部を一体に設けてこれを折り曲げて当該結合部を四層構造化若しくは三層構造化する構成を例示したが、例えば図6に示すように別途用意した樹脂製の補強部材17をフェンダライナ10の結合部11の上面に接着して、この補強部材17の嵌合孔17aにクリップ20の係合爪21a,21aを係合させる構成としてもよい。補強部材17には、樹脂基材層12と同じポリエチレン樹脂を素材として用いることができる。この場合、上記の補強部材17が特許請求の範囲に記載した樹脂結合層に相当する。係る第3実施形態の取り付け構造によっても、クリップ20の係合爪21a,21aが樹脂基材層12と同じく樹脂製の補強部材17の嵌合孔17aに係合されるので、雨水等の浸み込みにより不織布層13の剛性が低下してもクリップ20の引き抜き耐力を良好に維持することができる。
さらに、以上説明した第1〜第3実施形態では、相互に結合される第1外装部品としてフェンダライナ10を例示し、第2外装部品としてエンジンアンダーカバー4を例示したが、本発明に係る取り付け構造は、その他の2外装部品を相互に結合する場合であって一方の外装部品が不織布層を含む二層構造を有する場合に適用することができる。
【符号の説明】
【0011】
1…車両
2…右前輪
3…フロントフェンダ、3a…ホイールハウス
4…エンジンアンダーカバー、4a…当接部、4b…差し込み孔
10…フェンダライナ(第1外装部品)、10a…ねじ孔
11…結合部、11a…挿通孔
12…樹脂基材層
13…不織布層
14…折り返し部
14a…折り返し基材層(樹脂結合層)、14b…折り返し不織布層、14c…嵌合孔
15…基材層張り出し部(樹脂結合層)、15a…嵌合孔
16…結合部
17…補強部材(樹脂結合層)、17a…嵌合孔
20…クリップ
21…クリップ本体、21a…係合爪
22…押し込みピン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両における第1外装部品と第2外装部品をクリップを用いて相互に結合するための取り付け構造であって、
前記第1外装部品は、少なくとも樹脂基材層と不織布層の二層構造を有しており、前記樹脂基材層側に前記第2外装部品を当接させて該第2外装部品の差し込み孔から前記クリップを差し込んで前記第1外装部品側の嵌合孔に係合させることにより前記第1外装部品と前記第2外装部品が相互に結合される構成とされ、
前記第1外装部品の前記第2外装部品が当接される結合部については、前記不織布層を前記樹脂基材層との間で挟み込む樹脂結合層を追加して少なくとも三層構造として、前記クリップが前記樹脂結合層に係合された構成とした取り付け構造。
【請求項2】
請求項1記載の取り付け構造であって、前記第1外装部品の結合部は、前記第1外装部品の端縁を前記不織布層を内側にして折り返して四層構造とした取り付け構造。
【請求項3】
請求項2記載の取り付け構造であって、前記第1外装部品の端縁の折り返しにより重ね合わせられる二層の不織布層を相互に接着した取り付け構造。
【請求項4】
請求項1記載の取り付け構造であって、前記第1外装部品の結合部は、前記樹脂基材層の端縁に一体に設けた基材層張り出し部を前記樹脂基材層との間に前記不織布層を挟み込む方向に折り返して三層構造とした取り付け構造。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−86777(P2012−86777A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237132(P2010−237132)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】