説明

車両のアクティブステアリング装置及びそのような装置を用いたステアリング機構

本発明は、パワーステアリング装置(50)が設けられたトラックのアクティブステアリング装置であって、出力軸(34)に、入力軸からの操舵輪角偏位と、位置決め手段によって操舵輪角偏位に重畳される操舵角偏位とを伝達するための差動型のステアリングホイールギヤ(10)を備えるアクティブステアリング装置に関する。本発明によれば、ステアリングホイールギヤ(10)における操舵輪角偏位の伝達が、パワーステアリング(50)が故障した際にトラックを手動で操舵できるようなレシオで、出力軸(34)への操舵輪角偏位をギヤダウンさせるギヤ段(a,b,c,d)によって行なわれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーステアリング装置が設けられたトラックのアクティブステアリング装置であって、入力軸からの操舵輪角偏位と位置決め手段から操舵輪角偏位に重畳される操舵角偏位との両方を出力軸に伝達するための差動型のステアリングホイールギヤを備えるアクティブステアリング装置に関する。また、本発明は、そのような装置を用いたステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種類の既知の装置では、運転者による操舵輪角偏位によって差動歯車への第1入力が形成され、重畳される操舵角偏位によって第2入力が形成される。
【0003】
このようなアクティブステアリング装置は、必要な操舵モーメントがパワーステアリングによって与えられるため、ステアリングシステムに必要な電動モータが小さくて済むという利点がある。この既知の装置を自動車に使用した場合、パワーステアリング及び電動モータが故障した際には、運転者は、1:1のステアリングレシオで手動のみで車両の操舵を続けることができる。
【0004】
この理由は、重畳される操舵角偏位のための外部制御信号無しに操舵を変更することなく、電動モータの形態の位置決め手段が動作不能である時に同じ1:1のスタンディングレシオが適用されるようにアクティブステアリング機能を既存のステアリングシステムに追加するのが望ましいからである。従って、運転中に運転者を支援する多くの方法が考えられる。例えば、外部制御信号を使用して、ステアリングレシオを、車速が増加するにつれて低下させる一方、車両が定常運転している場合には増加させるように、連続的に変更するようにすることが考えられる。自動車において、ステアリング装置の全体のレシオは、例えば1:13であり、これにより、運転中、電動モータを使用して角度を追加して動的にレシオを変更することが可能になる。高速道路を非常に高速で運転する場合、レシオを若干、例えば1:15〜17に低下させる。駐車時、運転者は、ステアリングホイールをあまり回転させたくないものである。この状況は、むしろダイレクトレシオを実現するよう努めることに繋がる。他の可能性としては、アクティブステアリングを様々な形で使用して、ステアリングホイール方向を補正する、例えば、横風や、傾斜した自動車道、自動車道に対する操舵輪偏位のずれに対してカウンタを当てるということがある。
【0005】
トラックにおいて同じ技術を使用する如何なる試みも、油圧パワーステアリングが故障した際に車両が重すぎて操舵できなくなるという問題がある。現在、油圧パワーステアリングが故障した際に操舵することが可能なのは、通常、2軸トラック(車軸が2本のトラック)のみである。車軸の数がそれよりも多いと、特に車軸がより大きく操舵されることによって克服できないほど大きな回転モーメントが起こる。これを解決するための考えられる方法としては、ステアリングシステムに特別な油圧ポンプを搭載することがある。これは比較的高コストな解決手段であるが、現状の技術では不可避である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記導入部において示した種類の装置を、それが重トラックにも有利に使用できるように、更に開発することである。言い換えれば、該装置は、アクティブステアリングの潜在能力を全て利用することが可能であると同時に、パワーステアリング機能が故障した際に安全に動作可能である必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、ステアリングホイールギヤにおける操舵輪角偏位の伝達が、パワーステアリングが故障した際にトラックを手動で操舵できるようなレシオで、出力軸への操舵輪角偏位をギヤダウンさせるギヤ段によって行われる。
【0008】
本発明が基づく洞察は、ステアリングホイールギヤにおいて入力から出力へのレシオを1:1ではなく例えば1:2とすることによって、ステアリング装置全体のレシオを、通常の一般的な約1:19から、例えば1:38に減少させることができることである。これにより運転者は、パワーステアリング無しで、また、位置決め手段による支援無しで操舵することができる。結果得られる相乗効果には、このように構成したアクティブステアリングを車両に装備すると、パワーステアリングの故障に対して安全を確保するためにステアリングシステムに特別なポンプを必要としないということがある。確かに、定常運転の間は位置決め手段/電動モータをより稼働させなければならないが、これは些細な問題である。
【0009】
ステアリングホイールギヤは、典型的に、約1:1.3と1:3との間、特に約1:2のレシオを有してもよい。
【0010】
ステアリングホイールギヤの位置決め装置による操舵角偏位は、該位置決め手段及び/又はパワーステアリングシステムが動作不能の時に遮断されるようにしてもよい。これによって、位置決め手段も動作しない場合に、ステアリングホイールギヤの角度重畳ステップに付随してステアリングホイールギヤが動作不能になったりしたりすることがない。これは、例えば、角度重畳ステップの自己規制型ウォーム・ピニオン歯車を用いることによって、又は、位置決め手段への電力供給が止まった時に角度重畳ステップを遮断するばね荷重ピンを用いることによって実現することができる。しかしながら、パワーステアリングのみが動作しない場合に、すなわち、位置決め手段の機能とは独立して、この角度重畳ステップを遮断することも望ましい。
【0011】
ステアリングホイールギヤは、入力太陽ホイールと、出力太陽ホイールと、該太陽ホイール間の共通軸に動的に係合配置された一対の遊星ホイールとを有するダブル遊星歯車を備えてもよい。そして、必要なギヤダウンは、出力太陽ホイールに対する入力太陽ホイールの歯数を減らし、これに合わせて遊星歯車のそれぞれの歯数を調製することによって、容易に実現することができる。
【0012】
本発明の他の特徴及び利点は、特許請求の範囲及び以下に記載する実施例の説明によって示されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るステアリングホイールギヤを有するパワーアシスト・ステアリング装置の部分断面概略側面図を示す。
【図2】本発明に係るステアリングホイールギヤの部分断面概略側面図を示す。
【図3】本発明に係る変形例のステアリングホイールギヤを有するパワーアシスト・ステアリング装置の概略側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
全ての図面を通して、同一の又は同様の機能を有する要素には同一の符号を付す。
【0015】
図1に示すステアリング装置は、ステアリングホイールギヤ10と、それに接続されたパワーステアリング装置50とを有する。
【0016】
図示の例において、パワーステアリング50は概ね以下のように配置されている。
【0017】
入力軸52が、パワーステアリング50の概略図示された油圧バルブ60内の不図示の回転可能な弁体を切り替えることができる。バルブ60には、配管64,66を介して油圧シリンダ70の両端に油圧油を分配するために、油圧モータ62によって、加圧された油圧油が供給される。油圧シリンダ70には、該油圧シリンダ70に結合回転可能に締結されたボールナット・ブッシュ72が収容されている。このボールナット・ブッシュ72は、パワーステアリング50のボールねじ74とねじ係合された、直線移動可能な油圧ピストンの形態を有する。ボールねじ74は、それ自体が、不図示のトーションロッドを介して入力軸52に接続されている。このトーションロッドは、入力軸52に回転モーメントがかかっていない時、バルブ60を非作動の開中央位置に戻す。
【0018】
ステアリングホイールギヤ10によって入力軸52に回転モーメントがかかると、バルブ60が一方向又は他方向に切り替わる。同時に、回転モーメントはボールねじ74に作用して、ボールねじ74は、対応する方向に回転しようとする。バルブ60は、ボールナット・ブッシュ72が移動する時にボールねじ74にかかる回転モーメントが増幅して該ボールねじ74を回転させるように、制御圧をボールナット・ブッシュ72の対応する下端又は上端に分配する。ボールナット・ブッシュ72の直線移動を一対の車輪の操舵移動に変換するために、ボールナット・ブッシュ72は、一方の側において、レバー82の一端と噛合しており、レバー82の他端は、車輪86のためのドラッグリンク機構80のリンク84に接続されている。ステアリングギヤ10が入力軸52に対して更なる角度を入力しないことによってパワーステアリングに対する圧力を解放したために入力軸52に対する回転モーメントが消失すると、後者が上記トーションロッドの助けにより跳ね戻り、バルブ60が非作動の中央位置に戻り操舵移動が止まる。
【0019】
ステアリングホイールギヤ10は、ギヤハウジング12を有する。ギヤハウジング12は、ステアリングホイール90に結合回転可能に締結された入力軸14と、パワーステアリング50の入力軸52に結合回転可能に締結された出力軸34とを回転可能に支持する。
【0020】
本発明に係るステアリングホイールギヤは他の態様で構成してもよいが、図1及び2に示す例におけるステアリングホイールギヤ10は、概ね以下のように差動型遊星歯車として配置されている。
【0021】
入力軸14は、その内方端に入力太陽ホイールaを有して形成されており、この入力太陽ホイールaが、多数の互いに同一の入力遊星ホイールbと噛合している。遊星ホイールbは、遊星ホイールキャリア22のスピンドル24の一端に回転可能に取り付けられている。遊星ホイールはまた、ハウジング12の内側に形成されたリングギヤ20と噛合している。
【0022】
同様に、出力軸34は、その内方端に出力太陽ホイールcを有して形成されており、この出力太陽ホイールbが、多数の互いに同一の出力遊星ホイールdと噛合している。太陽ホイールa及びcは、遊星ホイールキャリア22に結合回転可能に接続された中央スピンドル26に取り付けられている。遊星ホイールdは遊星ホイールキャリア22のスピンドル24の他端に回転可能に取り付けられている。遊星ホイールdはまた、環状のウォーム・ホイール30の内側と噛合している。ウォーム・ホイール30の外側は、ウォーム・ピニオン42と係合している。ウォーム・ピニオン42は、電動モータ40の形態の位置決め手段によって回転駆動される。
【0023】
ステアリングホイールギヤ10は、差動歯車の形態をとっており、ギヤホイールa,b,c,dは、出力軸への操舵輪角偏位をギヤダウンするギヤ段を形成しているとみなすことができる。そして、ウォーム・ピニオン42は、ウォーム・ホイール30並びにギヤホイールc及びdと共に、電動モータ40によるアシスト操舵角偏位のためのギヤ段を形成しているとみなすことができる。これによりステアリングホイールギヤ10は、入力軸14と出力軸34とのレシオを連続的に変化させることができる。
【0024】
入力軸14は、運転者からの第1角度入力を供給し、電動モータ40は、ステアリングギヤ10への外部制御信号を介して第2角度入力を供給する。従って、単独では出力軸34の角度出力αを供給する入力軸14の第1入力は、単独では出力軸34の角度出力βを供給する電動モータ40からの第2入力によって修正され、出力軸34の差動又は重畳角度出力α±βとなる。
【0025】
図1におけるギヤホイールa,b,c,dの相互の大きさの違いから分かるように、本発明に係るステアリングホイールギヤ10の入力軸14と出力軸34との間で、ギヤダウンが起こる。
【0026】
より具体的には、電動モータ40が動作不能の時には、入力軸14と出力軸34とのレシオは、約1:1.3と1:3との間、特に約1:2である。これは、関係式i=(za/zb)×(zd/zc)によって求められる各ギヤホイールa,b,c,dの歯数z及び入力軸14と出力軸34との所望のレシオiを適切に選択することによって実現できる。
【0027】
図3に簡略的な形で示すステアリングホイールギヤ10において、遊星歯車は主に、遊星ホイールb及びdが、共通軸24を介して互いに結合回転可能に接続されている点と、遊星ホイールキャリア22が、電動モータ40によってギヤ・ピニオン43を介して駆動されるギヤホイール23に、結合回転可能に接続されている点で、図2に示すものと異なる。
【0028】
パワーステアリング、そして可能性としては電動モータ40が作動しない時、遊星ホイールキャリア22は、図3の例において概略的に図示するように、ばね式ロック装置44によってロックされる。ばね式ロック装置44は、例えばギヤホイール23とギヤ・ピニオン43との相互係合によって、プラネットホイールキャリア22の回転を、解除したり適切に阻止したりする。図1及び2に示す実施例の場合、ロック機能は、ウォーム・ピニオン42がウォーム・ホイール30によって駆動されないようにウォーム・ホイール30とウォーム・ピニオン42との係合が自己規制することによって実現される。
【0029】
上記の説明は、主に理解を容易にすることを意図するものであり、本発明に対する不必要な限定がその説明から推論できるものではない。本明細書を精読する当業者にとって自明な変更は、本発明の概念又は以下の特許請求の範囲から逸脱することなく実施することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワーステアリング(50)が設けられたトラックのアクティブステアリング装置であって、出力軸(34)に、入力軸(14)からの操舵輪角偏位と、位置決め手段(40)によって前記操舵輪角偏位に重畳される操舵角偏位とを伝達するための差動型のステアリングホイールギヤ(10)を備えるアクティブステアリング装置において、
前記ステアリングホイールギヤ(10)における前記操舵輪角偏位の伝達が、前記パワーステアリング(50)が故障した際に前記トラックを手動で操舵できるようなレシオで、前記出力軸への前記操舵輪角偏位をギヤダウンさせるギヤ段(a,b,c,d)によって行われることを特徴とするアクティブステアリング装置。
【請求項2】
前記ギヤ段(a,b,c,d)が、約1:1.3と1:3との間のレシオを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ギヤ段(a,b,c,d)が、約1:2のレシオを有する、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記重畳される操舵角偏位が、前記位置決め手段(40)及び/又は前記パワーステアリング(50)が動作不能である時に、遮断されるように構成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記重畳される操舵角偏位が、自己規制作用を有して構成されている、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記重畳される操舵角偏位の伝達が、前記パワーステアリング(50)が機能しない時に、ロック装置(44)によって遮断されるように構成されている、請求項4に記載の装置。
【請求項7】
前記ステアリングホイールギヤ(10)が、入力太陽ホイール(a)と、出力太陽ホイール(c)と、前記太陽ホイール間の共通軸に動的に係合配置された一対の遊星ホイール(b,d)とを有するダブル遊星歯車を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の装置を備える、トラック用ステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−516358(P2013−516358A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547982(P2012−547982)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【国際出願番号】PCT/SE2010/051376
【国際公開番号】WO2011/084095
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(594097848)スカニア シーブイ アクチボラグ (39)
【Fターム(参考)】