説明

車両のクッションユニット構造

【課題】クッションユニットの軽量化を図りつつシリンダの摩耗を低減し、更に、熱影響を防ぐ構造を提供する。
【解決手段】ダンパとスプリングで構成される車両のクッションユニット構造であって、ダンパに、シリンダ121と、このシリンダ121内を摺動するピストンと、このピストンと連結するピストンロッドとを備えており、ダンパのシリンダ121側及びピストンロッド側のそれぞれにスプリングが渡して設けられ、ピストンロッドを囲うとともにシリンダ121の外周面に端部が摺動するカバー133とで構成される車両のクッションユニット構造において、シリンダ121をアルミニウム合金製とし、シリンダ121の外周面121gに凹部121hを形成し、この凹部121hを別部材となる保護具122で覆う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のクッションユニット構造の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の車両のクッションユニット構造として、シリンダ側とピストンロッド側との間に設けられたコイルスプリングをガイドするスプリングガイドを設けたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】実開昭59−174435号公報
【0003】
特許文献1の第1図を以下に説明する。
フロントフォーク1は、シリンダ2と、このシリンダ2内に移動自在に挿入されたピストン6と、このピストン6に一端が取付けられたピストンロッド5と、このピストンロッド5の他端に設けられたアッパーメタル10と、このアッパーメタル10に一端が取付けられるとともに他端がシリンダ2の外周面とダストシール12を介して摺動するスプリングガイド11と、シリンダ2の外周面に設けられたばね受け14及びスプリングガイド11のそれぞれの間に設けられたコイルスプリング15とを備える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、上記のシリンダ2を軽量化のためにアルミニウム合金製にする場合、アルミニウム合金製のシリンダとダストシール12とが摺動するときに、シリンダとダストシール12との間に土埃、砂、泥等が噛み込まれると、アルミニウム合金製のシリンダが摩耗しやすくなる。
また、シリンダ2を排気管等の熱源の近傍に配置しなければならない場合、その熱影響を防ぐ構造が必要になる。
【0005】
本発明の目的は、クッションユニットの軽量化を図りつつシリンダの摩耗を低減し、更に、熱影響を防ぐ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、ダンパとスプリングで構成される車両のクッションユニット構造であって、ダンパに、シリンダと、このシリンダ内を摺動するピストンと、このピストンと連結するピストンロッドとを備えており、ダンパのシリンダ側及びピストンロッド側のそれぞれにスプリングが渡して設けられ、ピストンロッドを囲うとともにシリンダの外周面に端部が摺動するカバーとで構成される車両のクッションユニット構造において、シリンダをアルミニウム合金製とし、シリンダの外周面に凹部を形成し、この凹部を別部材となる保護具で覆うことを特徴とする。
【0007】
作用として、シリンダの外周面が凹部を介して保護具で覆われ、この保護具とカバーの端部とが摺動する。アルミニウム合金製のシリンダは保護具で覆われ、摩耗することがない。
また、凹部内の空気が断熱の役目をし、例えば、シリンダの近傍に排気管等の熱源が配置された場合に、その熱がシリンダ外からシリンダ内に伝わりにくくなる。
【0008】
請求項2に係る発明は、保護具とシリンダの凹部とで閉空間を形成することを特徴とする。
作用として、空気が満たされた閉空間が断熱層となり、例えば、シリンダの近傍に排気管等の熱源が配置された場合に、その断熱層で熱がシリンダ外からシリンダ内に伝わりにくくなる。
【0009】
請求項3に係る発明は、閉空間に断熱材を配置したことと特徴とする。
作用として、断熱材によって、熱がシリンダ外からシリンダ内に伝わりにくくなる。
【0010】
請求項4に係る発明は、保護具を鉄系材料で形成したことを特徴とする。
作用として、保護具が手に入りやすい材料で造れ、あるいは、保護具として市販品が利用可能となる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、シリンダをアルミニウム合金製とし、シリンダの外周面に凹部を形成し、この凹部を別部材となる保護具で覆うので、シリンダの外周面が凹部を介して保護具で覆われるため、この保護具とカバーの端部とが摺動し、シリンダの摩耗を防止することができる。
また、凹部内の空気が断熱の役目をして、熱をシリンダ外からシリンダ内に伝わりにくくすることができ、シリンダへの熱影響を防止することができる。
【0012】
請求項2に係る発明では、保護具とシリンダの凹部とで閉空間を形成するので、保護具とシリンダの凹部とで形成される閉空間が断熱層となり、排気管等の熱がシリンダ外からシリンダ内に伝わりにくくなって、シリンダへの熱影響を防止することができる。
【0013】
請求項3に係る発明では、閉空間に断熱材を配置したので、閉空間に配置された断熱材によって、排気管等の熱がシリンダ外からシリンダ内に伝わりにくくなって、シリンダへの熱影響を防止することができる。
【0014】
請求項4に係る発明では、保護具を鉄系材料で形成したので、保護具を安価に造ることができ、あるいは保護具として市販品を利用することができ、コストアップを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係るクッションユニット構造を備えた車両の側面図であり、車両10は、アルミニウム合金ダイカスト製の車体フレーム11を備え、この車体フレーム11の前部に、左右の前輪12,13を操舵するためのステアリングシャフト14が回動自在に取付けられ、車体フレーム11の中央部にエンジン16が配置され、車体フレーム11の後部下部に、左右の後輪17,18を支持するスイングアーム21が上下スイング自在に取付けられた不整地走行車両である。
【0016】
車体フレーム11は、フロントフレーム24、アッパフレーム25、リヤフレーム26及びロアフレーム27の各端部が結合されてループ状に形成され、更に、リヤフレーム26の後部上部からシートレール28が後方に延びる左フレーム31及び右フレーム32(左フレーム31の奥側に配置されている。)からなる骨格部材である。図では右フレーム32側の符号24,25,26,27,28は省いている。
【0017】
フロントフレーム24は、フロントクッションユニット34の上端部が取付けられるフロントクッション上端取付部35と、フロント用サスペンションアーム(不図示)が取付けられるアーム取付部41〜48とが一体に形成されている。
【0018】
リヤフレーム26は、リヤクッションユニット54の上端部が取付けられるリヤクッション上端取付部55が一体に形成され、スイングアーム21のスイング軸となるピボット軸56が設けられている。
【0019】
ステアリングシャフト14は、上端にバーハンドル58が取付けられている。
エンジン16は、後部に変速機61が一体的に設けられ、上方に突出するシリンダ部62にシリンダヘッド63を備え、このシリンダヘッド63の後部に吸気装置64が接続され、シリンダヘッド63の前部に排気装置66が接続されている。
エンジン16の前部はエンジンハンガ71,72で支持され、エンジン16の後部はピボット軸56で支持されている。
【0020】
吸気装置64は、シリンダヘッド63に接続された吸気管76と、この吸気管76に接続されたスロットルボディ77と、このスロットルボディ77にコネクティングチューブ78を介して接続されたエアクリーナ79とからなる。
排気装置66は、シリンダヘッド63に接続されてシリンダ部62の右方を後方へ延びる排気管81と、この排気管81の後端に接続されたマフラ82とからなる。
【0021】
フロントクッションユニット34の下端は、フロント用サスペンションアームに取付けられ、リヤクッションユニット54の下端は、リンク機構85を介してリヤフレーム26の後部下部及びスイングアーム21の下部に連結されている。
【0022】
リンク機構85は、リヤクッションユニット54の下端及びスイングアーム21に設けられた下部ブラケット87に2つの角部がそれぞれスイング自在に連結された三角形状の第1リンク91と、この第1リンク91の残りの角部に一端が連結されるとともに他端がリヤフレーム26に設けられたリンク用ブラケット88にスイング自在に連結された第2リンク92とからなる。
【0023】
ここで、101は車体フレーム11の前部に取付けられたガード部材、102はラジエータ、103はラジエータ102の後方に配置された冷却ファン、104は燃料タンク、106は前輪12,13の上方を覆うフロントフェンダ、107はシートレール28で支持されたシート、108は後輪17,18の上方を覆うリヤフェンダである。
【0024】
図2は本発明に係るリヤクッションユニットの断面図であり、リヤクッションユニット54は、軽量化のためにアルミニウム合金で形成された有底筒状のシリンダ121と、このシリンダ121に設けられた薄肉部121aの外周面に嵌合された筒状の保護具122と、シリンダ121に移動自在に挿入されたピストン123と、このピストン123に一端が取付けられたピストンロッド124と、シリンダ121の開口部を塞ぐとともにピストンロッド124によって貫通された軸封部材126と、ピストンロッド124の他端にねじ結合され、リンク機構85(図1参照)に連結される端部取付部材127と、この端部取付部材127と共にピストンロッド124の他端に取付けられたばね受け部材128と、このばね受け部材128に一端面が当てられるとともにピストンロッド124に嵌合するストッパラバー129と、ばね受け部材128にリング131を介して取付けられたばね支持片132と、このばね支持片132に一端が取付けられるとともに他端が保護具122の外周面に摺動自在に嵌合することでピストンロッド124を囲うように配置された筒状のカバー133と、シリンダ121に設けられた厚肉部121bの外周面に形成されたおねじ121cにねじ結合されたばね受け部材134と、このばね受け部材134の回り止めをするためにおねじ121cにねじ結合されたロックナット136と、ばね支持片132及びばね受け部材134のそれぞれの間に圧縮されて設けられたコイルスプリング137と、リヤクッション上端取付部55(図1参照)に取付けるためにシリンダ121の端部に設けられた端部取付部121dの取付穴121eに嵌合するニードルベアリング138と、このニードルベアリング138内に回転自在に嵌合するカラー141と、シリンダ121及び軸封部材126で形成される密閉空間142に注入された作動油143と、この作動油143の上方に満たされたガス144とからなる。
上記したリヤクッションユニット54からコイルスプリング137を除いた部分がダンパ146であり、衝撃又は振動の振幅を減衰させる減衰力を発生させる機構である。
【0025】
ピストン123は、ピストンロッド124に形成された小径部124aに順に積み重ねられたストッパプレート151、複数の板バルブからなる組板バルブ(縮み側減衰力弁)152、作動油143の流路が形成されたピストン本体153、複数の板バルブからなる組板バルブ(伸び側減衰力弁)154からなり、小径部124aの端部にワッシャ156を介してナット157がねじ込まれて取付けられている。なお、158はピストン本体153の外周面に形成された環状溝に装着されたシール部材であり、シリンダ12の内面とピストン本体153の外周面との間をシールしている。
【0026】
軸封部材126は、シリンダ121の端部に嵌合する軸封本体161と、この軸封本体161をシリンダ121に固定する止め輪162と、軸封本体161の一端に形成された環状凹部161aの底に装着された内側シール部材163と、ピストン123が衝突したときの衝撃を緩和するために環状凹部161aの開口部に取付けられたラバー部材164と、シリンダ121の内周面及び軸封本体161の外周面のそれぞれの間をシールするために軸封本体161の外周面に装着されたOリング166と、軸封本体161のピストン123とは反対の側に配置された端部部材167と、この端部部材167の内周面及びピストンロッド124の外周面のそれぞれの間をシールするために端部部材167に嵌合された外側シール部材168とからなる。
【0027】
ストッパラバー129は、リヤクッションユニット54が圧縮されたときに、軸封部材126の端部部材167を弾性力で受け止めて衝撃を緩和する衝撃吸収部材である。
カバー133は、樹脂製のものであり、ピストンロッド124を囲むように配置することで、ピストンロッド124に土埃、砂、泥等が付着しないようにして、ピストンロッド124と軸封部材126との間の摺動部の摩耗を抑え、シール性が損なわれるのを防止する。
【0028】
図3は本発明に係るリヤクッションユニットの要部を示す断面図である。
シリンダ121は、薄肉部121aの外周面121gに環状の凹部121hが形成され、この凹部121hを覆うように薄肉部121aの外周面121gに保護具122が嵌合されている。なお、122aは保護具122の外周面である。
【0029】
保護具122は、鉄系材料(例えば、鋼材)で形成された部材であり、アルミニウム合金製のシリンダ121に比べて、外周面122aがカバー133の先端部と摺動したときの外周面122aの摩耗が少なくなる。また、保護具122をシリンダ121に被せることによって、シリンダ121とカバー133とが摺動しなくなるため、シリンダ121の外周面が摩耗することがない。
薄肉部121aへの保護具122の固定は、圧入、接着、溶接等により行われる。
【0030】
凹部121hは、保護具122とで閉空間171を形成している。
凹部121hには空気が存在するため、この空気が断熱の役目をするので、例えば、リヤクッションユニット54の近傍にエンジン16(図1参照)、排気管81(図1参照)等の熱源が配置されていても、その熱をシリンダ121の内部に伝わりにくくすることができ、シリンダ121への熱影響を防止することができる。
【0031】
本実施形態では、凹部121hと保護具122とによって閉空間171が形成されるため、閉空間171内の空気が断熱層を形成するので、閉空間171と外部との熱の授受がしにくくなるため、熱がシリンダ121の内部により一層伝わりにくくなる。
【0032】
図4は本発明に係るカバーの先端部を示す要部断面図であり、カバー133は、先端部に接着又は嵌合によって取付けられた弾性体からなるダストシール部材175を備え、このダストシール部材175が保護具122の外周面122aと密着しつつ摺動することで、外周面122aとダストシール部材175との間から土埃等が内側に入り込むのを防止することができる。
【0033】
図5は本発明に係るリヤクッションユニットの別実施形態の要部を示す断面図であり、図3に示した実施形態と同一構成については同一符号を付け、詳細説明は省略する。
リヤクッションユニット180は、シリンダ121に形成された凹部121hに断熱材181を満たし、この断熱材181を覆うようにシリンダ121の薄肉部121aに保護具122を嵌合している。
断熱材181としては、例えば、セラミックが好適である。
【0034】
このように、凹部121hに断熱材181を配置することで、断熱材181によって、エンジン16、排気管18等の熱がシリンダ121に伝わりにくくなって、シリンダ121への熱影響を防止することができる。
【0035】
尚、本実施形態では、図2に示したように、カバー133を樹脂製としたが、これに限らず、鋼材製としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のクッションユニット構造は、不整地走行車両に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係るクッションユニット構造を備えた車両の側面図である。
【図2】本発明に係るリヤクッションユニットの断面図である。
【図3】本発明に係るリヤクッションユニットの要部を示す断面図である。
【図4】本発明に係るカバーの先端部を示す要部断面図である。
【図5】本発明に係るリヤクッションユニットの別実施形態の要部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0038】
10…車両、54,180…リヤクッションユニット、121…シリンダ、121h…凹部、122…保護具、124…ピストンロッド、133…カバー、137…コイルスプリング、146…ダンパ、171…閉空間、181…断熱材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダンパとスプリングで構成される車両のクッションユニット構造であって、
前記ダンパは、シリンダと、このシリンダ内を摺動するピストンと、このピストンと連結するピストンロッドとを備えており、
前記ダンパのシリンダ側及びピストンロッド側のそれぞれにスプリングが渡して設けられ、
前記ピストンロッドを囲うとともに前記シリンダの外周面に端部が摺動するカバーとで構成される車両のクッションユニット構造において、
前記シリンダをアルミニウム合金製とし、前記シリンダの外周面に凹部を形成し、この凹部を別部材となる保護具で覆うことを特徴とする車両のクッションユニット構造。
【請求項2】
前記保護具と前記シリンダの凹部とで閉空間を形成することを特徴とする請求項1記載の車両のクッションユニット構造。
【請求項3】
前記閉空間に断熱材を配置したことを特徴とする請求項2記載の車両のクッションユニット構造。
【請求項4】
前記保護具は、鉄系材料で形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の車両のクッションユニット構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−249062(P2008−249062A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93018(P2007−93018)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】