説明

車両のクロスメンバ

【課題】車両のクロスメンバに関し、車体の剛性及び強度を確保しつつ、シャシフレーム全体の重量を低減させる。
【解決手段】
車両前後方向に延在する左右一対のサイドレール8に対して固設され、サイドレール8間を車幅方向に接続して梯子型のシャシフレームを形成する車両のクロスメンバ9bに関する。
サイドレール8間のねじれトルクを負担する閉断面構造の第一クロスメンバ6と、サイドレール8間の引張力を負担する第二クロスメンバ7とを設ける。
第一クロスメンバ6では、第一部材1を一方のサイドレール8に固着させるとともに第二部材2を他方のサイドレールに固着させ、それらを互いに嵌合させて嵌合部5を形成する。嵌合部5では、第一部材1と第二部材2とを車幅方向へ滑動可能とし、かつ、周方向への相対変位を規制させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシャシフレームを構成するクロスメンバに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のシャシフレームでは、車両前後方向に延設された左右一対のサイドレールをクロスメンバで車幅方向に連結して梯子型に形成したものが広く利用されている。このようなシャシフレームのクロスメンバは、主に車幅方向の引張力に対抗して左右のサイドレールの間隔を保持する機能と、クロスメンバを回転軸としたモーメントに対抗してサイドレールのねじれを抑制する機能とを担っている。
【0003】
例えば、特許文献1には、車体前後方向に沿って一対備えられたサイドメンバ(サイドレール)の間に断面形状が略U字状のクロスメンバを設け、車体前後方向の一方へ開口するように配置したシャシフレーム構造が示されている。この技術では、ガゼットを介してサイドメンバとクロスメンバとを接続することで、接合部の剛性、特にクロスメンバを軸とした回転方向のねじれ剛性を増大させている。
【0004】
また、特許文献2には、パイプ状のクロスメンバを左右一対のサイドフレーム(サイドレール)間に架設した構造が図示されている。この技術では、クロスメンバの断面形状を円形閉断面とすることで断面性能を高め、部材剛性を向上させている。
このように、シャシフレームのクロスメンバには、車両の用途や使用目的に応じたさまざまな形状が提案されている。
【特許文献1】特開2003−252235号公報
【特許文献2】特開平9−221062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、クロスメンバに要求される剛性,強度は、その車体の走行性能、例えば車幅方向への許容変位に応じて設定される。そのため、高負荷が見込まれる車両ほど剛性,強度を高めるべくクロスメンバのサイズが大きくしなければならず、シャシフレーム全体の車体重量が増加してしまうことになる。
特に、クロスメンバには、前述の通り車幅方向の引張力とねじれトルクとの二種類の負荷が作用するため、双方の最大負荷を考慮したうえで何れか大きい一方の負荷に合わせて部材強度及び形状を設計しなければならない。なお、クロスメンバでは引張力の負荷よりもねじれトルクの負荷が大きくなる傾向にある。そのため、例えば引張力を基準としてクロスメンバを設計した場合にはねじれトルクに対して剛性不足の構造となり、あるいは、ねじれトルクを基準とした場合には引張力に対して必要以上に強くなることになる。
【0006】
このように、車両のクロスメンバでは、要求される剛性,強度に対する性能が過剰になりやすく、物理的なサイズや重量が嵩みやすいという課題がある。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、車体の剛性及び強度を確保しつつ、シャシフレーム全体の重量を低減させることのできる車両のクロスメンバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の本発明の車両のクロスメンバは、車両前後方向に延在し、かつ、鉛直に配向されたウェブの上下端から車幅方向内側へ向けて延びるフランジを配した夫々コ字状断面を有する左右一対のサイドレールに対して固設され、同サイドレール間を車幅方向に接続して梯子型のシャシフレームを形成する車両のクロスメンバであって、上記左右一対のサイドレール間のねじれトルクを負担し同サイドレールのねじれを抑制する閉断面構造を有した第一クロスメンバ(パイプクロス)と、上記左右一対のサイドレール間の引張力を負担し同サイドレールの間隔を維持する第二クロスメンバ(プレートクロス)とを備え、上記第一クロスメンバが、上記左右一対のサイドレールのうちの一方における上記ウェブの内面に固着された第一部材(第一パイプ部材)と、上記左右一対のサイドレールのうちの他方における上記ウェブの内面に固着された第二部材(第二パイプ部材)と、上記第一部材及び上記第二部材が嵌合して形成される部位であって、上記第一部材及び上記第二部材を互いに車幅方向へ滑動可能に接続するとともに周方向への相対変位を規制する嵌合部と、を具備することを特徴としている。
【0008】
すなわち、上記クロスメンバは、左右一対のサイドレールに対して固設され、同サイドレール間を車幅方向に接続して梯子型のシャシフレームを形成している。上記サイドレールは車両前後方向に延在している。また、左右夫々の上記サイドレールは上記ウェブ及び上記フランジからなるコ字状断面を有している。上記ウェブは鉛直に配向された部位であり、上記フランジは上記ウェブの上下端から車幅方向内側へ向けて延びた部位である。
なお、上記第一クロスメンバの断面形状は、円形を除く閉断面形状であればよく、例えば楕円形,角形等にすることが考えられる。
【0009】
また、請求項2記載の本発明の車両のクロスメンバは、請求項1記載の構成に加えて、上記嵌合部における上記第一部材及び上記第二部材のうちの少なくとも何れか一方が、その端縁にフランジ部又は折り返し部を具備することを特徴としている。
【0010】
上記第一部材及び上記第二部材のうち外嵌側の端縁においては、上記フランジ部又は上記折り返し部が上記第一クロスメンバの外方向へ突出するように形成される。一方、嵌入側の端縁においては、フランジ部又は折り返し部が上記第一クロスメンバの内方向へ突出するように形成される。なお、上記フランジ部とは上記第一クロスメンバの外方向又は内方向へ向けて突設された端縁を意味し、上記折り返し部とはその端縁を第一クロスメンバの軸線方向へ屈曲して延在させた部位のことを意味している。フランジ部及び折り返し部は何れも、第一クロスメンバの板厚方向へ突出した形状をなしている。
【0011】
また、請求項3記載の本発明の車両のクロスメンバは、請求項1又は2記載の構成に加えて、上記第一部材が、上記閉断面構造の内側に挿入固定されたカラー部材(カラー)を有し、上記嵌合部が、上記カラー部材と上記第二部材との嵌合により形成されていることを特徴としている。
また、請求項4記載の本発明の車両のクロスメンバは、請求項1〜3の何れか1項に記載の構成に加えて、上記第一部材及び上記第二部材と上記ウェブの内面との固着部に介装されたブラケットをさらに備え、上記ブラケットが、上下方向に短くかつ車両前後方向に長く形成されるとともに、上記サイドレールの上記ウェブの内面における上下方向中間部に締結固定されていることを特徴としている。
【0012】
また、請求項5記載の本発明の車両のクロスメンバは、請求項1〜4の何れか1項に記載の構成に加えて、上記第二クロスメンバが、略鉛直に立設して上記左右一対のサイドレール間を連結する略平板状の平面部を有していることを特徴としている。
また、請求項6記載の本発明の車両のクロスメンバは、請求項5記載の構成に加えて、上記第二クロスメンバが、上記平面部に複数の孔部を穿孔されてなることを特徴としている。
【0013】
また、請求項7記載の本発明の車両のクロスメンバは、請求項1〜6の何れか1項に記載の構成に加えて、上記第二クロスメンバが、上記左右一対のサイドレールのそれぞれにおける上記ウェブ内面の上記フランジに近接した上下二カ所の位置で固定された固定部を有していることを特徴としている。
また、請求項8記載の本発明の車両のクロスメンバは、請求項1〜7の何れか1項に記載の構成に加えて、上記シャシフレームが、車両前後方向に間隔をおいて配設された複数のクロスメンバを備えるとともに、上記第一クロスメンバ及び上記第二クロスメンバが、上記複数のクロスメンバのうち、前方から二番目に位置するNo.2クロスメンバに適用されていることを特徴としている。
【0014】
なお、キャブ及びボディを備えた車両において、キャブの下方に配置された上記複数のクロスメンバのうち、最も前方に位置するものがNo.1クロスメンバであり、ボディの下方に配置された上記複数のクロスメンバのうち、最も前方に位置するものがNo.2クロスメンバである。また、No.2クロスメンバは、車両のフロントアクスルに最も近い位置に配設されたクロスメンバである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両のクロスメンバ(請求項1)によれば、左右のサイドレール間に生じうる変形のうち、ねじれに対して抵抗する機能と引張りに対して抵抗する機能とを別部材に分離することにより、各々の部材の構造を簡素化することができる。
すなわち、第一クロスメンバは左右のサイドレール間に生じうるねじれトルクを負担しうる形状であればよいため、閉断面形状を小さくすることが可能となる。一方、第二クロスメンバは車幅方向の引張力を負担しうる形状であればよく、サイドレール間隔の維持に必要な強度を有していればよいため、部材の断面を小さくすることができる。また、これらにより、シャシフレーム全体の重量及び材料費の低減が可能となる。
【0016】
また、本発明の車両のクロスメンバ(請求項2)によれば、嵌合部夫々の端縁の剛性を高めることができ、第一クロスメンバによるねじれ抑制効果を高めることができるとともに、信頼性を高めることができる。
また、本発明の車両のクロスメンバ(請求項3)によれば、カラー部材を介した接続により、第一部材と第二部材との断面形状を同一にすることができる。これにより、クロスメンバを左右対称に形成することができ、容易に車幅方向の剛性バランスを確保することができる。また、単一のパイプを二分割してそれぞれを第一部材,第二部材とすることができ、より構成をシンプルにすることができる。
【0017】
また、本発明の車両のクロスメンバ(請求項4)によれば、サイドレールに上下曲げ変形やねじれ変形が発生したとしても、サイドレールのウェブの中間部ではそれらの変形による応力発生が小さい。そのため、ブラケットを締結固定する締結具に作用する負荷は主に剪断力となり、ブラケット,締結具及びウェブ等が強度的に有利となる。
また、本発明の車両のクロスメンバ(請求項5)によれば、第二クロスメンバの形状が略平板状となっているため、加工コスト及び重量をともに軽減することができ、省スペース化を図ることができる。また、第二クロスメンバの配向が鉛直となっているため、シャシフレームの内部や周囲に配置される他の機器類と干渉しにくく、車両レイアウトの設計上の制約を軽減することができる。
【0018】
また、本発明の車両のクロスメンバ(請求項6)によれば、平面部に孔部を設けることで、第二クロスメンバの重量を軽減することができる。
また、本発明の車両のクロスメンバ(請求項7)によれば、ウェブ内面のうちフランジに近接した部位は剛性が高く車幅方向へ変形しにくいため、このような上下二カ所の位置に第二クロスメンバを結合することで、取付部の変形による高応力の発生を抑制することができる。また、フランジに近接した上下端部近傍の方がウェブの中間部よりも引張りによる応力発生が大きいため、引張り変形に対して第二クロスメンバを効果的に抵抗させることができる。
【0019】
また、本発明の車両のクロスメンバ(請求項8)によれば、シャシフレームのクロスメンバのうち、最もねじれトルクを負担しやすいNo.2クロスメンバに第一クロスメンバ及び第二クロスメンバが適用されているため、左右のサイドレール間のねじれに対して抵抗する機能と引張りに対して抵抗する機能との分離効果が高く、効果的にシャシフレームを変形から保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図6は本発明の一実施形態に係る車両のクロスメンバを説明するためのものであり、図1は本クロスメンバが適用されたシャシフレームの全体構成を示す模式的な斜視図、図2は本クロスメンバの全体構成を示す斜視図、図3は本クロスメンバにおけるパイプクロス(第一クロスメンバ)の断面図、図4は本クロスメンバ用のブラケットの正面図である。
【0021】
また、図5は本クロスメンバにおけるプレートクロス(第二クロスメンバ)を示す図であって(a)はその正面図、(b)はその上面図、図6は本クロスメンバが適用されたシャシフレームのねじれの挙動を説明するための模式図である。
なお、図7(a),(b)は本発明の変形例としての車両のクロスメンバにおける第一クロスメンバの断面図、同様に、図8(a),(b)は本発明の変形例としての車両のクロスメンバにおける第二クロスメンバの斜視図である。
【0022】
[1.構成]
[全体構成]
本発明に係るクロスメンバは、図1に示すような梯子型のシャシフレーム10に適用されている。このシャシフレーム10は、サイドレール8とクロスメンバ9とから構成されている。
【0023】
サイドレール8は、車両前後方向に延在する部材であり、車幅方向に所定の間隔をおいて左右に対をなすように二本設けられている。それぞれの断面形状はコ字状のチャンネル型に形成されており、鉛直に配向されたウェブ8aの上下両端部から、車幅方向内側へ向けてフランジ8bが延設されている。つまり、サイドレール8は互いにウェブ8aの内面を向けあうように配置されている。
【0024】
クロスメンバ9とは、左右のサイドレール8間を車幅方向に接続する部材であり、車両前後方向に間隔をおいて複数箇所に配設されている。これらのクロスメンバ9は車両前方から順に、No.1クロスメンバ9a,No.2クロスメンバ9b,No.3クロスメンバ9c,No.4クロスメンバ9d,No.5クロスメンバ9e,エンドクロスメンバ9fと呼ばれている。
なお、本実施形態ではクロスメンバ9がシャシフレーム10上の6箇所に設けられているが、配設されるクロスメンバ9の箇所数は、一般にホイールベース(WB)の長さや架装物の種類(平ボデー,ダンプ,タンクローリー等)によって異なる。
【0025】
図1に示すように、No.1クロスメンバ9aはシャシフレーム10の前端部に位置するクロスメンバ9であり、車両のフロントバンパが固定される部材である。一方、エンドクロスメンバ9fはシャシフレーム10の後端部に位置するものである。
No.2クロスメンバ9bからNo.5クロスメンバ9eは、No.1クロスメンバ9aとエンドクロスメンバ9fとの間に設けられている。これらのクロスメンバ9b〜9eは車両のキャブ13後方のボディの下方に位置しており、キャブ13とボディとの隣接部に最も近いものがNo.2クロスメンバ9bである。
【0026】
また、図1に模式的に示すように、車両の前輪12が枢着されたフロントアクスル14はNo.1クロスメンバ9aとNo.2クロスメンバ9bとの間のサイドレール8に対して固定されており、リアアクスル15はNo.4クロスメンバ9dとNo.5クロスメンバ9eとの間のサイドレール8に対して固定されている。また、No.1クロスメンバ9aとNo.2クロスメンバ9bとの間には車両走行用のエンジン及び変速機が載置されるため、これらのクロスメンバ9a,9bの間隔は他のクロスメンバ9の隣接間隔よりも大きくなっている。さらに、No.2クロスメンバ9bは、フロントアクスル14の固定位置に最も近く、走行時におけるシャシフレーム10のねじれ変形の影響を最も受けやすい。
【0027】
本発明に係るクロスメンバは、No.2クロスメンバ9bとして適用されている。以下、このNo.2クロスメンバ9bのことを単にクロスメンバ9bとも表記する。図2に示すように、クロスメンバ9bは、パイプクロス(第一クロスメンバ)6及びプレートクロス(第二クロスメンバ)7を並列に配置して構成されている。
【0028】
[パイプクロス]
パイプクロス6は、左右のサイドレール8間を車幅方向に掛け渡されたパイプ状の部材である。このパイプクロス6は、サイドレール8間に作用するねじれトルクを負担して、ねじれ変形を抑制する機能を担っている。ここでいうねじれトルクとは、車幅方向に延在する任意の軸を中心とした回転方向のねじれモーメントであって、シャシフレーム10のねじれによって生じるものを指す。
【0029】
図2に示すように、パイプクロス6はその全長に渡って閉断面に形成されており、第一パイプ部材(第一部材)1,第二パイプ部材(第二部材)2及びカラー(カラー部材)3を備えて構成されている。第一パイプ部材1は左右のサイドレール8の一方におけるウェブ8aの内面に固着され、第二パイプ部材2は他方のサイドレール8におけるウェブ8aの内面に固着されている。これらの第一パイプ部材1及び第二パイプ部材2は、ともに同一の断面形状を有する楕円筒状の部材であり、車幅方向中央部付近で端部同士を向かい合わせるように配置されている。なお、図3に示すように、サイドレール8に変形が生じていない状態で第一パイプ部材1及び第二パイプ部材2の距離がd(d≧0)となるように、それぞれの部材の長さが設定されている。
【0030】
これらの第一パイプ部材1及び第二パイプ部材2がカラー3を介して接続されている。カラー3とは、第一パイプ部材1及び第二パイプ部材2の内周面と同じ形状の外周面を有する楕円筒状の部材である。このカラー3は、第一パイプ部材1に対して内挿固定されている。固定方法は任意であり、例えば、栓溶接固定や締結固定等、種々の固定手法を用いることが考えられる。
【0031】
一方、第二パイプ部材2に対しては、カラー3は滑動自在に内挿されている。つまり、カラー3の外周面が第二パイプ部材2の内周面に対して摺接している。以下、カラー3と第二パイプ部材2とが互いに嵌合する面を接触面5aと呼ぶ。
また、第一パイプ部材1及び第二パイプ部材2をカラー3で接続することによって、第一パイプ部材1及び第二パイプ部材2の互いの楕円筒軸が同一直線上に位置することになる。以下、これらの楕円筒軸をともに軸Cと呼ぶ。
【0032】
カラー3の外周面は第二パイプ部材2の内周面と同形状であって、互いに車幅方向への移動を制限しないため、接触面5aでは軸Cに沿った方向への引張力が伝達されない。また、第二パイプ部材2とカラー3との接触面5aを楕円筒状にすることによって、第二パイプ部材2の周方向へのカラー3の相対変位が拘束されて剛性が働くことになる。つまり、第一パイプ部材1と第二パイプ部材2との相対変位が規制されることになり、第一パイプ部材1及び第二パイプ部材2間には軸Cを中心としたねじれトルクが伝達される。
【0033】
このように、パイプクロス6は、サイドレール8間のねじれ方向への変形を抑制するように機能する一方、車幅方向への移動を拘束しない構造となっている。本実施形態では、カラー3と第二パイプ部材2とが嵌合して形成される接触面5aが、第一パイプ部材1及び第二パイプ部材2を互いに車幅方向へ滑動可能に接続するとともに周方向への相対変位を規制する嵌合部5として機能している。
【0034】
第一パイプ部材1及び第二パイプ部材2はそれぞれ、ブラケット4を介してサイドレール8におけるウェブ8aの内面に対して固着されている。ブラケット4の形状は、図4に示すように、上下方向に短くかつ車両前後方向に長く形成されている。また、図2に示すように、ブラケット4はサイドレール8のウェブ8a内面における上下方向中間部に対して締結固定されている。つまり、ブラケット4の締結位置は、図2に示すようにウェブ8aにおける上下方向中央付近となっている。
なお、ブラケット4のウェブ8aへの締結にはボルト,ナット等の締結具が用いられている。
【0035】
[プレートクロス]
プレートクロス7は薄板状の部材であり、左右のサイドレール8間の引張力を面内力として負担して、車幅方向の変形を抑制する機能を担っている。図5に示すように、このプレートクロス7は、平板状の平面部7aと、その左右両端に屈曲形成された固定部7cとを備えて構成されている。
【0036】
平面部7aは、鉛直に立設して左右のサイドレール8間を車幅方向に連結する部位であり、パイプクロス6と平行に並ぶように配置されている。本実施形態では、部材の重量を削減すべく、平面部7aに複数の孔部7bを穿孔して梯子状の形状としている。また、固定部7cはプレートクロス7と左右のサイドレール8とを固定する部位である。
固定部7cは、平面部7aの左右両端のそれぞれにおいて上下両端部に二カ所設けられており、これらの固定部7cがウェブ8a内面に固定されている。また、固定部7cが固定される位置は、ウェブ8aの内面のうち、フランジ8bに近接した位置(ウェブ8aとフランジ8bとの入隅部近傍)となっている。
【0037】
このように、プレートクロス7は薄板状に形成されているため、左右のサイドレール8のねじれ変形を許容する一方、車幅方向への移動を拘束してサイドレール8の間隔を保持するように機能している。
また、図2に示すように、プレートクロス7は平面部7aの複数箇所に取り付けられた固定具でパイプクロス6を支持している。本実施形態では、固定具としてUボルト(U字金具)11を平面部7aに締結し、このUボルト11と平面部7aとの間にパイプクロス6を緩装している。Uボルト11は所謂振れ止めとして設けられており、パイプクロス6及びプレートクロス7間にねじれトルクや引張力,圧縮力を伝達しない程度にやや緩めに取り付けられている。
【0038】
なお、プレートクロス7の左右両端において、上下に設けられた固定部7cの中間部には車幅方向内側へ凹設された凹部7dが形成されている。この凹部7dは、図2に示すように、パイプクロス6とプレートクロス7との配置状態における平面部7aとブラケット4との干渉を防止するためのものである。本実施形態では、ブラケット4が車両前後方向に延長されているため、プレートクロス7の左右両端の上下方向中間部を内側に切欠き、ブラケット4を跨ぐように上下の固定部7cを設けている。
【0039】
[2.作用]
[ねじれ変形に対する作用]
シャシフレーム10へ何らかの負荷が入力されると、図6に示すように、車幅方向への引張力とねじれトルクとがクロスメンバ9bに作用する。クロスメンバ9bは、これらの力によって生じる変形を抑制するように機能する。
【0040】
まず、ねじれ変形に対して、プレートクロス7は薄板状に形成されているため抵抗しようとしない。つまり、プレートクロス7ではねじれトルクが負担されない。
一方、パイプクロス6では第二パイプ部材2とカラー3との接触面5aが楕円筒状となっているため、第一パイプ部材1と第二パイプ部材2との相対変位が拘束され、剛性が働くことになる。つまり、パイプクロス6はねじれ変形に対して抵抗しようとする。したがって、左右のサイドレール8間に生じたねじれトルクは、パイプクロス6で負担される。
【0041】
また、パイプクロス6はウェブ8a内面の上下方向中間部に固定されているため、ここで負担されるねじれトルクは、ウェブ8aとブラケット4とを締結している締結ボルトを介してパイプクロス6に剪断力として伝達される。つまり、パイプクロス6とウェブ8aとに介装されたブラケット4及び締結ボルトには、上下方向の剪断力が負担される。
【0042】
[引張変形に対する作用]
また、引張方向への変形に対して、パイプクロス6ではカラー3の外周面と第二パイプ部材2の内周面とが滑動自在となっているため抵抗しようとしない。つまり、パイプクロス6では引張力が負担されない。また、パイプクロス6とサイドレール8のウェブ8aとの間に介装されたブラケット4にも、引張力は負担されない。
【0043】
一方、プレートクロス7ではこのような変形に係る引張力が平面部7aの面内力として負担されるため、変形が拘束されることになる。つまり、プレートクロス7は引張方向への変形に対して抵抗しようとする。したがって、左右のサイドレール8間に生じた引張力は、プレートクロス7で負担される。
なお、No.2クロスメンバ9b近傍にはエンジン及びトランスミッション等が取付ステーを介して左右のサイドレール8間に搭載されているので、その重みで開く方向に作用し、プレートクロス7には圧縮力がほとんど作用しない。
【0044】
[3.効果]
このように、本実施形態のクロスメンバ9bでは、左右のサイドレール8間に生じる変形のうち、ねじれに対して抵抗する機能と引張りに対して抵抗する機能とを、それぞれパイプクロス6とプレートクロス7とに分離することができる。つまり、パイプクロス6はねじれトルクさえ負担しうる形状であればよいため、閉断面形状(例えば、部材の太さや板厚)を小さくすることができる。同様に、プレートクロス7は車幅方向の引張力さえ負担しうる形状であればよいため、断面形状を小さくすることができる。したがって、各々の部材の構造を簡素化することができ、クロスメンバ9bの重量及び材料費を低減させることができ、延いてはシャシフレーム10全体の重量及びコストを低減させることができる。
【0045】
また、パイプクロス6に関して、第一パイプ部材1と第二パイプ部材2は同一断面形状となっているため、一本の楕円パイプを二分割して第一パイプ部材1及び第二パイプ部材2とすることができ、構成が簡素である。また、それらをカラー3で接続する構成となっているため、ねじれに対して抵抗しつつスライド移動を許容するパイプ構造を容易に実現することができる。
【0046】
なお、本実施形態では、第一パイプ部材1及び第二パイプ部材2がともにブラケット4を介してサイドレール8に締結固定されており、ブラケット4の締結位置がサイドレール8のウェブ8aにおける上下方向中央付近となっている。そのため、シャシフレーム10に上下曲げ変形やねじれ変形が生じたとしても、ブラケット4近傍における車幅方向の圧縮引張応力が小さく、強度的に有利なクロスメンバ9bの設計が可能となる。さらに、図4に示すように、ブラケット4の形状が車両前後方向に延びた横長の形状となっているため、ブラケット4を締結固定する締結具に作用する負荷が主に上下方向の剪断力となる。つまり、締結具に発生するねじれトルクに対して剪断負荷が小さいため、強度的に有利な設計が可能となり、小型化が容易である。
【0047】
また、プレートクロス7は、面内力しか負担しないため、薄板化することができる。そして、薄板化することにより、加工コスト及び重量をともに軽減することができ、省スペース化を図ることができる。また、プレートクロス7の配向が鉛直となっているため、例えばアリゲータクロスのような水平方向に延設されるクロスメンバと比較して、シャシフレーム10の内部や周囲に配置される他の機器類と干渉しにくく、車両レイアウト上の制約を軽減することができる。
【0048】
さらに、プレートクロス7の固定部7cがウェブ8a内面において比較的剛性の高い上下端部近傍に固定されているため、車幅方向への引張力が伝達されたとしても変形しにくく、効果的に応力を伝達することができる。また、そのような変形による高応力の発生を防止することができる。
【0049】
なお、エンジン,トランスミッション等が搭載されるNo.1クロスメンバ9aとNo.2クロスメンバ9bとの間の距離は、他のクロスメンバ9の隣接間隔よりも大きくなっているため、No.2クロスメンバ9bにねじれトルクや車幅方向の引張力が発生しやすい。さらに、No.2クロスメンバ9bはフロントアクスル14の固定位置に最も近い位置に配設されているため、他のクロスメンバ9のうち最も負荷が大きく、その分、サイズや重量の低減が難しい。これに対し本実施形態では、No.2クロスメンバ9bにおける間隔維持機能とねじれ抑制機能とをそれぞれ二部材に分離することよって、それぞれの部材構成を簡素化することができるため、効果的にサイズや重量を低減させることができる。
【0050】
このように、本クロスメンバ9bによれば、要求される剛性,強度を確保しつつシャシフレーム10全体の重量を低減させることができる。
【0051】
[4.その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0052】
すなわち、本発明の趣旨は、シャシフレーム10のねじれ変形に伴って生じる引張力を負担する部材とねじれトルクを負担する部材とを分離することによって、それぞれの部材の剛性や強度を適切に設定し、全体としてクロスメンバ9が過剰性能となることを防止する点にある。したがって、少なくとも、ねじれトルクを負担する第一クロスメンバと引張力を負担する第二クロスメンバとを備え、かつ、第一クロスメンバが二部材を嵌合させることによって周方向への相対変位を規制しつつ車幅方向へ滑動可能にしたものであればよい。これらの第一クロスメンバ,第二クロスメンバの具体的な形状には種々のものが考えられる。
【0053】
例えば、上述の実施形態では、パイプクロス6の第一パイプ部材1と第二パイプ部材2とがカラー3を介して接続されているが、図7(a)に示すようにカラー3を省略した構成としてもよい。すなわち、第一パイプ部材1を第二パイプ部材2へ直接内挿してもよい。この場合、第一パイプ部材1の外周面と第二パイプ部材2の内周面との接触面5a′において、双方が車幅方向へ滑動を可能に接続され、かつ、周方向への相対変位が規制されることになる。このような構成においても、上述の実施形態よりも簡素な構成で、同様の効果を得ることができる。
【0054】
また、上述の実施形態ではパイプクロス6の第一パイプ部材1,第二パイプ部材2及びカラー3が楕円筒状となっているが、断面形状はこれに限定されない。円筒形状(断面形状が円であるもの)を除いて、四角柱形(角形)や六角柱形等、あらゆる柱状の部材を用いることができ、あるいは、それらの柱状の部材(円筒形状を含む)に溝状の凹凸を設けたもの等を用いることも可能である。
【0055】
また、図7(a)に示すように、第一パイプ部材1の端縁を半径方向内側へ向けて曲成してフランジ部1aを形成してもよいし、あるいは第二パイプ部材2の端縁に同様のフランジ部2aを半径方向外側へ向けて設けてもよい。嵌合部5における端縁の剛性を高めることで、パイプクロス6によるねじれ抑制効果を高めることができる。また、端縁を補強することで部材寿命を延長することができ、持続的に信頼性を高めることができる。
【0056】
あるいは、図7(b)に示すように、フランジ部1a,2aの代わりに折り返し部1b,2bを形成してもよい。すなわち、パイプクロス6の端縁を折り返すことにより、嵌合部5の外嵌側の端縁や嵌入側の端縁の剛性を向上させることができる。
また、上述の実施形態では、左右のサイドレール8間の引張力を負担する部材として薄板状のプレートクロス7を用いたものを例示したが、部材形状はこれに限定されない。少なくとも、左右のサイドレール8間の引張力を負担しうるものであればよく、例えば、図8(a)に示すように、丸棒を用いて左右のサイドレール8間を連結することで第二クロスメンバ7′を構成してもよいし、あるいは、図8(b)に示すように、アングル材(L形鋼)を用いて第二クロスメンバ7″を構成してもよい。丸棒やアングル材の配設数や配設方向等については適宜設定することができる。
【0057】
また、上述の実施形態ではブラケット4が、上下方向に短く車両前後方向に長い形状となっているが、これは第一パイプ部材1や第二パイプ部材2とウェブ8aとの間に生じる応力の大きさ等に応じて適宜変更可能である。なお、締結具による締結固定の代わりに溶接固定等の固着手法を用いてもよい。あるいは、ブラケット4を用いることなく、第一パイプ部材1,第二パイプ部材2の端部を直接サイドレール8に固着してもよい。
【0058】
また、上述の実施形態では本発明に係るクロスメンバがNo.2クロスメンバ9bとして適用されたものを例示したが、その他のクロスメンバ9として適用することも無論可能である。
なお、本発明に係るクロスメンバの適用対象であるシャシフレーム10は、ダンプやバン型車等のトラック,タンクローリー,大型・中型バス,特殊車両,貨物車両等、さまざまな車両に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両のクロスメンバが適用されたシャシフレームの全体構成を示す模式的な斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両のクロスメンバの全体構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る車両のクロスメンバにおける第一クロスメンバ(パイプクロス)の断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る車両のクロスメンバ用のブラケットの正面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る車両のクロスメンバにおける第二クロスメンバ(プレートクロス)を示す図であって(a)はその正面図、(b)はその上面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る車両のクロスメンバが適用されたシャシフレームのねじれの挙動を説明するための模式図である。
【図7】本発明の変形例としての車両のクロスメンバにおける第一クロスメンバの断面図であり(a)はフランジ部を備えたもの、(b)は折り返し部を備えたものである。
【図8】本発明の変形例としての車両のクロスメンバにおける第二クロスメンバの斜視図であり(a)は丸棒を用いたもの、(b)はアングル材を用いたものである。
【符号の説明】
【0060】
1 第一パイプ部材(第一部材)
1a フランジ部
2 第二パイプ部材(第二部材)
2a フランジ部
3 カラー(カラー部材)
4 ブラケット
5 嵌合部
6 パイプクロス(第一クロスメンバ)
7 プレートクロス(第二クロスメンバ)
7a 平面部
7b 孔部
7c 固定部
8 サイドレール
8a ウェブ
8b フランジ
9 クロスメンバ
9b No.2クロスメンバ
10 シャシフレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延在し、かつ、鉛直に配向されたウェブの上下端から車幅方向内側へ向けて延びるフランジを配した夫々コ字状断面を有する左右一対のサイドレールに対して固設され、同サイドレール間を車幅方向に接続して梯子型のシャシフレームを形成する車両のクロスメンバであって、
上記左右一対のサイドレール間のねじれトルクを負担し同サイドレールのねじれを抑制する閉断面構造を有した第一クロスメンバと、
上記左右一対のサイドレール間の引張力を負担し同サイドレールの間隔を維持する第二クロスメンバとを備え、
上記第一クロスメンバが、
上記左右一対のサイドレールのうちの一方における上記ウェブの内面に固着された第一部材と、
上記左右一対のサイドレールのうちの他方における上記ウェブの内面に固着された第二部材と、
上記第一部材及び上記第二部材が嵌合して形成される部位であって、上記第一部材及び上記第二部材を互いに車幅方向へ滑動可能に接続するとともに周方向への相対変位を規制する嵌合部と、を具備する
ことを特徴とする、車両のクロスメンバ。
【請求項2】
上記嵌合部における上記第一部材及び上記第二部材のうちの少なくとも何れか一方が、その端縁にフランジ部又は折り返し部を具備する
ことを特徴とする、請求項1記載の車両のクロスメンバ。
【請求項3】
上記第一部材が、上記閉断面構造の内側に挿入固定されたカラー部材を有し、
上記嵌合部が、上記カラー部材と上記第二部材との嵌合により形成されている
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の車両のクロスメンバ。
【請求項4】
上記第一部材及び上記第二部材と上記ウェブの内面との固着部に介装されたブラケットをさらに備え、
上記ブラケットが、上下方向に短くかつ車両前後方向に長く形成されるとともに、上記サイドレールの上記ウェブの内面における上下方向中間部に締結固定されている
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の車両のクロスメンバ。
【請求項5】
上記第二クロスメンバが、略鉛直に立設して上記左右一対のサイドレール間を連結する略平板状の平面部を有している
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の車両のクロスメンバ。
【請求項6】
上記第二クロスメンバが、上記平面部に複数の孔部を穿孔されてなる
ことを特徴とする、請求項5記載の車両のクロスメンバ。
【請求項7】
上記第二クロスメンバが、上記左右一対のサイドレールのそれぞれにおける上記ウェブ内面の上記フランジに近接した上下二カ所の位置で固定された固定部を有している
ことを特徴とする、請求項1〜6の何れか1項に記載の車両のクロスメンバ。
【請求項8】
上記シャシフレームが、車両前後方向に間隔をおいて配設された複数のクロスメンバを備えるとともに、
上記第一クロスメンバ及び上記第二クロスメンバが、上記複数のクロスメンバのうち、前方から二番目に位置するNo.2クロスメンバに適用されている
ことを特徴とする、請求項1〜7の何れか1項に記載の車両のクロスメンバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−255665(P2009−255665A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105472(P2008−105472)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】