説明

車両のパワートレーン

【課題】プラネタリギヤのサンギヤの回転数を抑制する。
【解決手段】車両のパワートレーンは、リングギヤが車輪に連結されるプラネタリギアと、プラネタリギヤのサンギヤに連結される第1モータジェネレータと、プラネタリギヤのキャリアに連結されるエンジンと、EV走行モード中にエンジンの駆動を停止した状態において、リングギヤの回転数よりも低く、かつゼロよりも大きい回転数で、リングギヤの回転方向と同じ方向にキャリアを回転させる第3モータジェネレータを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のパワートレーンに関し、特に、リングギヤが車輪に連結されるプラネタリギヤと、プラネタリギヤのサンギヤに連結される電動モータと、プラネタリギヤのキャリアに連結されるエンジンとが設けられた車両のパワートレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンに加えて電動モータを搭載したハイブリッド車、および航続距離拡張機能を有する電気自動車が知られている。エンジンと電動モータとは、一例として、特開2004−278367号公報(特許文献1)に記載のように、プラネタリギヤによって構成される差動装置により連結される。プラネタリギヤによってエンジンと電動モータとを連結した場合、エンジンの回転数と電動モータの回転数とは、共線図における直線によって定まる関係にある。
【0003】
特開2004−278367号公報は、さらに、電動モータのみを用いて走行するモードにおいて、プラネタリギヤをロックし、変速比を「1」にすることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−278367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プラネタリギヤによってエンジンと電動モータとを連結した場合、エンジンの回転数と電動モータの回転数とは、共線図における直線によって定まる。すなわち、プラネタリギヤのリングギヤの回転数、キャリアの回転数およびサンギヤの回転数が、共線図における直線上に位置する。よって、たとえばキャリアの回転数がゼロである状態でリングギヤの回転数が上昇すると、サンギヤの回転数が、リングギヤの回転方向とは逆方向に上昇する。その結果、サンギヤの回転数が過大となったり、サンギヤとリングギヤとの間に設けられたピニオンギヤの回転数が過大となり得る。
【0006】
特開2004−278367号公報に記載されたように、プラネタリギヤをロックし、変速比を「1」にした場合であっても、サンギヤの回転数は、リングギヤの回転数とともに上昇する。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、プラネタリギヤのサンギヤの回転数を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
車両のパワートレーンは、リングギヤが車輪に連結されるプラネタリギアと、プラネタリギヤのサンギヤに連結される電動モータと、プラネタリギヤのキャリアに連結されるエンジンと、記エンジンの駆動を停止した状態において、リングギヤの回転数よりも低く、かつゼロよりも大きい回転数で、リングギヤの回転方向と同じ方向にキャリアを回転させる回転装置とを備える。
【0009】
この構成によると、ゼロよりも大きい回転数で、リングギヤの回転方向と同じ方向にキャリアを回転させることで、リングギヤの回転方向とは逆方向のサンギヤの回転数を低減できる。さらに、リングギヤの回転数よりも低い回転数で、リングギヤの回転方向と同じ方向にキャリアを回転させることで、リングギヤの回転方向と同じ方向にサンギヤが回転した場合であっても、サンギヤの回転数をリングギヤの回転数をキャリアの回転数よりも低くできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ハイブリッド車を示す概略構成図である。
【図2】動力分割機構(プラネタリギヤ)の共線図を示す図である。
【図3】第1の実施の形態においてECUが実行する処理を示すフローチャートである。
【図4】EV走行モードにおいて動力分割機構(プラネタリギヤ)のキャリアを回転させたときの共線図を示す図である。
【図5】第2の実施の形態におけるパワートレーンを示す図である。
【図6】第2の実施の形態においてECUが実行する処理を示すフローチャートである。
【図7】第2の実施の形態におけるパワートレーンの変形例(その1)を示す図である。
【図8】第2の実施の形態におけるパワートレーンの変形例(その2)を示す図である。
【図9】第2の実施の形態におけるパワートレーンの変形例(その3)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0012】
<第1の実施の形態>
以下の説明においては、一例としてハイブリッド車を用いているが、エンジンによる航続距離の拡張機能を有する電気自動車を用いるようにしてもよい。
【0013】
図1を参照して、ハイブリッド車には、エンジン100と、第1モータジェネレータ110と、第2モータジェネレータ120と、第3モータジェネレータ122と、動力分割機構130と、減速機140と、バッテリ150とが搭載される。なお、以下の説明においては一例として外部の電源からの充電機能を有さないハイブリッド車について説明するが、外部の電源からの充電機能を有するプラグインハイブリッド車を用いてもよい。
【0014】
エンジン100、第1モータジェネレータ110、第2モータジェネレータ120、第3モータジェネレータ122、バッテリ150は、ECU(Electronic Control Unit)170により制御される。ECU170は複数のECUに分割するようにしてもよい。
【0015】
ハイブリッド車は、エンジン100および第2モータジェネレータ120のうちの少なくともいずれか一方からの駆動力により走行する。すなわち、エンジン100および第2モータジェネレータ120のうちのいずれか一方もしくは両方が、運転状態に応じて駆動源として自動的に選択される。
【0016】
たとえば、運転者がアクセルペダル172を操作した結果に応じて、エンジン100および第2モータジェネレータ120が制御される。アクセルペダル172の操作量(アクセル開度)は、アクセル開度センサ(図示せず)により検出される。
【0017】
アクセル開度が小さい場合および車速が低い場合などには、第2モータジェネレータ120のみを駆動源としてハイブリッド車が走行する。以下、第2モータジェネレータ120のみを駆動源とした走行モードをEV走行モードとも記載する。EV走行モードにおいては、エンジン100が停止される。ただし、発電などのためにエンジン100が駆動する場合がある。
【0018】
また、アクセル開度が大きい場合、車速が高い場合、バッテリ150の残存容量(SOC:State Of Charge)が小さい場合などには、エンジン100が駆動される。この場合、エンジン100のみ、もしくはエンジン100および第2モータジェネレータ120の両方を駆動源としてハイブリッド車が走行する。以下、このような走行モードをHV走行モードとも記載する。
【0019】
エンジン100は、内燃機関である。エンジン100、第1モータジェネレータ110および第2モータジェネレータ120は、動力分割機構130を介してエンジン100の出力軸(クランクシャフト)108に連結されている。エンジン100が発生する動力は、動力分割機構130により、2経路に分割される。一方は減速機140を介して前輪160を駆動する経路である。もう一方は、第1モータジェネレータ110を駆動させて発電する経路である。
【0020】
第1モータジェネレータ110は、U相コイル、V相コイルおよびW相コイルを備える、三相交流回転電機である。第1モータジェネレータ110は、動力分割機構130により分割されたエンジン100の動力により発電する。第1モータジェネレータ110により発電された電力は、車両の走行状態や、バッテリ150の残存容量の状態に応じて使い分けられる。たとえば、通常走行時では、第1モータジェネレータ110により発電された電力はそのまま第2モータジェネレータ120を駆動させる電力となる。一方、バッテリ150のSOCが予め定められた値よりも低い場合、第1モータジェネレータ110により発電された電力は、後述するインバータにより交流から直流に変換される。その後、後述するコンバータにより電圧が調整されてバッテリ150に蓄えられる。
【0021】
第1モータジェネレータ110が発電機として作用している場合、第1モータジェネレータ110は負のトルクを発生している。ここで、負のトルクとは、エンジン100の負荷となるようなトルクをいう。第1モータジェネレータ110が電力の供給を受けてモータとして作用している場合、第1モータジェネレータ110は正のトルクを発生する。ここで、正のトルクとは、エンジン100の負荷とならないようなトルク、すなわち、エンジン100の回転をアシストするようなトルクをいう。なお、第2モータジェネレータ120についても同様である。
【0022】
第2モータジェネレータ120は、U相コイル、V相コイルおよびW相コイルを備える、三相交流回転電機である。第2モータジェネレータ120は、バッテリ150に蓄えられた電力および第1モータジェネレータ110により発電された電力のうちの少なくともいずれかの電力により駆動する。
【0023】
第2モータジェネレータ120の駆動力は、減速機140を介して前輪160に伝えられる。これにより、第2モータジェネレータ120はエンジン100をアシストしたり、第2モータジェネレータ120からの駆動力により車両を走行させたりする。なお、前輪160の代わりにもしくは加えて後輪を駆動するようにしてもよい。
【0024】
ハイブリッド車の回生制動時には、減速機140を介して前輪160により第2モータジェネレータ120が駆動され、第2モータジェネレータ120が発電機として作動する。これにより第2モータジェネレータ120は、制動エネルギを電力に変換する回生ブレーキとして作動する。第2モータジェネレータ120により発電された電力は、バッテリ150に蓄えられる。
【0025】
第3モータジェネレータ122は、U相コイル、V相コイルおよびW相コイルを備える、三相交流回転電機である。第3モータジェネレータ122は、バッテリ150に蓄えられた電力および第1モータジェネレータ110により発電された電力のうちの少なくともいずれかの電力により駆動する。
【0026】
第3モータジェネレータ122の駆動力は、動力分割機構のキャリア133に伝えられる。後述するように、第3モータジェネレータ122は、クラッチ102を解放した状態で、キャリア133を回転させるために用いられる。
【0027】
動力分割機構130は、サンギヤ131と、ピニオンギヤ132と、キャリア133と、リングギヤ134とを含むプラネタリギヤである。ピニオンギヤ132は、サンギヤ131およびリングギヤ134と係合する。キャリア133は、ピニオンギヤ132が自転可能であるように支持する。サンギヤ131は第1モータジェネレータ110の回転軸に連結される。キャリア133はエンジン100のクランクシャフトに連結される。
【0028】
キャリア133とエンジン100との間には、クラッチ102が設けられる。クラッチ102を係合することによりキャリア133とエンジン100とが連結される。クラッチ102を解放すうことによりキャリア133とエンジン100とが切断される。
【0029】
リングギヤ134は第2モータジェネレータ120の回転軸および減速機140に連結される。リングギヤ134は、最終的には車輪160に連結される。
【0030】
エンジン100、第1モータジェネレータ110および第2モータジェネレータ120が、プラネタリギヤからなる動力分割機構130を介して連結されることで、エンジン100、第1モータジェネレータ110および第2モータジェネレータ120の回転数は、図2で示すように、共線図において直線で結ばれる関係になる。
【0031】
共線図から理解されるように、たとえばEV走行モードにおいて、エンジン100の回転数、すなわちキャリア133の回転数がゼロである状態でハイブリッド車が走行すると、サンギヤ131がリングギヤ134の回転方向とは逆方向に回転する。サンギヤ131の回転数は、リングギヤ134の回転数、すなわち車速が増大すると増大する。したがって、EV走行モードにおいては、サンギヤ131の回転数が過大になり得る。さらに、サンギヤ131の回転数とリングギヤ134の回転数との差、すなわちピニオンギヤ132の回転数が過大になり得る。
【0032】
一方で、図2において破線で示すように、キャリア133の回転数を、リングギヤ134の回転方向と同じ方向に増大させることによって、リングギヤ134の回転方向とは逆の方向のサンギヤ131の回転数を減少させることができる。また、キャリア133の回転数をリングギヤ134の回転数よりも小さくすれば、リングギヤ134の回転方向と同じ方向にサンギヤ131が回転しても、サンギヤ131の回転数を、リングギヤ134の回転数およびキャリア133の回転数よりも低くできる。
【0033】
そこで、本実施の形態においては、エンジン100の駆動を停止した状態において、リングギヤ134の回転数よりも低く、かつゼロよりも大きい回転数で、リングギヤ134の回転方向と同じ方向にキャリア133が回転される。
【0034】
具体的には、EV走行モード中にエンジン100の駆動を停止した状態において、クラッチ102が解放されるとともに、第3モータジェネレータ122によって、リングギヤ134の回転数よりも低く、かつゼロよりも大きい回転数で、リングギヤ134の回転方向と同じ方向にキャリア133が回転される。
【0035】
図3を参照して、本実施の形態においてECU170が実行する処理について説明する。以下に説明する処理は、ハードウェアにより実現してもよく、ソフトウェアにより実現してもよく、ハードウェアとソフトウェアとの協働により実現してもよい。
【0036】
ステップ(以下、ステップをSと略す)100にて、EV走行モードでハイブリッド車が走行中であるか否かが判断される。EV走行モードでハイブリッド車が走行中であると(S100にてYES)、S102にて、クラッチ102が解放されるとともに、S104にて、第3モータジェネレータ122によって、図4に示すように、リングギヤ134の回転数よりも低く、かつゼロよりも大きい回転数で、リングギヤ134の回転方向と同じ方向にキャリア133が回転される。
【0037】
図3に戻って、EV走行モードでハイブリッド車が走行中でなければ(S100にてNO)、S106にて、クラッチ102が係合されるとともに、S108にて、第3モータジェネレータ122の駆動が停止される。
【0038】
以上のように、本実施の形態においては、エンジン100の駆動を停止した状態において、リングギヤ134の回転数よりも低く、かつゼロよりも大きい回転数で、リングギヤ134の回転方向と同じ方向にキャリア133が回転される。リングギヤ134の回転方向と同じ方向にキャリア133を回転させることによって、リングギヤ134の回転方向とは逆の方向のサンギヤ131の回転数を減少させることができる。また、キャリア133の回転数をリングギヤ134の回転数よりも小さくすることにより、リングギヤ134の回転方向と同じ方向のサンギヤ131の回転数を、リングギヤ134の回転数およびキャリア133の回転数よりも低くできる。
【0039】
<第2の実施の形態>
図5に示すように、第3モータジェネレータを設けずに、クラッチ104を介して第2モータジェネレータ120をキャリア133に連結するようにしてもよい。この場合、図6に示すように、EV走行モードでハイブリッド車が走行中であると(S100にてYES)、S112にて、エンジン100側のクラッチ102が解放されるとともに、S114にて、第2モータジェネレータ120側のクラッチ104が係合される。EV走行モードでハイブリッド車が走行中でなければ(S100にてNO)、S116にて、クラッチ102が係合されるとともに、S118にて、第2モータジェネレータ120側のクラッチ104が解放される。
【0040】
また、図7を参照して、リングギヤ134の回転軸と第2モータジェネレータ120の回転軸とを同軸にしてもよい。さらに、図8に示すように、クラッチ102を設けなくてもよい。さらに、図9に示すように、キャリア133とサンギヤ131とをクラッチ106を介して連結するようにしてもよい。
【0041】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0042】
100 エンジン、102,104,106 クラッチ、110 第1モータジェネレータ、120 第2モータジェネレータ、122 第3モータジェネレータ、130 動力分割機構、131 サンギヤ、132 ピニオンギヤ、133 キャリア、134 リングギヤ、140 減速機、150 バッテリ、160 前輪、170 ECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リングギヤが車輪に連結されるプラネタリギアと、
前記プラネタリギヤのサンギヤに連結される電動モータと、
前記プラネタリギヤのキャリアに連結されるエンジンと、
前記エンジンの駆動を停止した状態において、前記リングギヤの回転数よりも低く、かつゼロよりも大きい回転数で、前記リングギヤの回転方向と同じ方向に前記キャリアを回転させる回転装置とを備える、車両のパワートレーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−1181(P2013−1181A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132105(P2011−132105)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】