説明

車両のフロントピラー構造

【課題】運転者の視界を妨げることなく、歩行者が車両と衝突した際に、フロントピラーとの衝突によって負う被害を充分に軽減できる車両のフロントピラー構造の提供を課題とする。
【解決手段】車両10のフロントピラー18の車体前方側に設けられ、歩行者Pが衝突した際に、その歩行者Pの運動方向を変更させる挙動変更部40を備えたフロントピラー構造20とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に歩行者が衝突する衝突事故の際に、その歩行者がフロントピラーとの衝突によって負う被害を軽減させるためのフロントピラー構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に歩行者が衝突した際の被害軽減(歩行者保護)を目的としたフロントピラー構造は、従来から知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。例えば、特許文献1に記載のフロントピラー構造は、歩行者との衝突時に、フロントピラーに沿ってエアバッグを展開させることにより、歩行者が受ける衝撃が緩和されるように構成されている。
【0003】
また、特許文献2及び特許文献3に記載のフロントピラー構造は、衝突時に車両の車室内空間を確保できる剛性(構造強度)を有する高剛性部と、歩行者との衝突時に、その歩行者が受ける衝撃を緩和するために、高剛性部よりも車体前方側に設けられた脆弱部とを備えている。この脆弱部は、歩行者が衝突した際に、塑性変形することによって、その衝撃エネルギーを吸収し、歩行者が受ける衝撃を緩和するようになっている。
【特許文献1】特開2006−335173号公報
【特許文献2】特開2001−151150号公報
【特許文献3】特開平11−342863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような構成のフロントピラー構造では、所定範囲までの衝撃エネルギーは緩和できるものの、それを超えるような大きい衝撃エネルギーが発生する衝突事故などの場合には、その衝撃エネルギーを吸収することが充分にできないという課題があった。
【0005】
また、一般にフロントピラーは、運転者の視界の妨げとならないように、その外周部(幅)をできるだけ狭くした構造とすることが望ましい。しかしながら、運転者の視界確保のために、フロントピラーの外周部(幅)を狭くすると、脆弱部での衝撃エネルギーの吸収に制限が生じるという課題があった。また、その逆に、脆弱部での衝撃エネルギーの吸収を良化すると、フロントピラーの外周部(幅)を狭くするのに制限が生じるという課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み、運転者の視界を妨げることなく、歩行者が車両と衝突した際に、フロントピラーとの衝突によって負う被害を充分に軽減できる車両のフロントピラー構造を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明に係る請求項1に記載の車両のフロントピラー構造は、フロントピラーの車体前方側に設けられ、歩行者が衝突した際に、その歩行者の運動方向を変更させる挙動変更部を有することを特徴としている。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、歩行者がフロントピラーに衝突した際、そのフロントピラーの挙動変更部により、歩行者の運動方向が変更される。したがって、歩行者がフロントピラーに衝突した際の衝撃が低減され、歩行者が負う被害を充分に軽減することができる。
【0009】
また、請求項2に記載の車両のフロントピラー構造は、請求項1に記載の車両のフロントピラー構造において、前記挙動変更部が、衝突した歩行者の運動方向を車幅方向外側へ変更させることを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、フロントピラーに衝突した歩行者の運動方向を車幅方向外側へ変更させるので、歩行者が負う被害を充分に軽減(回避)することができる。
【0011】
また、請求項3に記載の車両のフロントピラー構造は、請求項2に記載の車両のフロントピラー構造において、前記挙動変更部が、車幅方向外側へ移動可能な制御板で構成されていることを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、歩行者を確実に車幅方向外側へ移動させることができる。
【0013】
また、請求項4に記載の車両のフロントピラー構造は、請求項3に記載の車両のフロントピラー構造において、前記制御板の車幅方向における幅が、前記フロントピラーの車幅方向における幅よりも小さくされていることを特徴としている。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、フロントピラーに制御板が設けられる構成とされても、運転者の視界を妨げることがない。
【0015】
また、請求項5に記載の車両のフロントピラー構造は、請求項2に記載の車両のフロントピラー構造において、前記挙動変更部が、車幅方向外側へ移動可能なエアバッグで構成されていることを特徴としている。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、歩行者を安全かつ確実に車幅方向外側へ移動させることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、運転者の視界を妨げることなく、歩行者が車両と衝突した際に、フロントピラーとの衝突によって負う被害を充分に軽減できる車両のフロントピラー構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の最良な実施の形態について、図面に示す実施例を基に詳細に説明する。図1はフロントピラーに挙動変更部を備えた車両の概略斜視図であり、図2は歩行者が衝突したときの挙動変更部の作用を示す概略平面図である。また、図3はフロントピラーの概略平断面図であり、図4は歩行者が衝突したときの挙動変更部の作用を示す概略平断面図である。そして、図5は挙動変更部の作用を模式的に示す説明図であり、図6は挙動変更部による加速度の変化を経過時間で示すグラフである。なお、各図において、車体前方向を矢印FR、車体上方向を矢印UPで示し、車幅方向内側を矢印INで示す。
【0019】
図1、図2で示すように、車両10の前部中央には、図示しないエンジンルームを閉止するフード12が配設されており、そのフード12の車幅方向両端部にはフェンダー14が配設されている。そして、その各フェンダー14の車体後方側には、左右一対とされたフロントピラー18が略車体上下方向に配設されており、各フロントピラー18の間にはウインドシールドガラス16が配設されている。
【0020】
まず最初に、フロントピラー構造20の第1実施例について説明する。フロントピラー18は、図3、図4で示すように、車両10の車室内側(車幅方向内側)に配置されるピラーインナーパネル22と、車室外側(車幅方向外側)に配置されるピラーアウターパネル24とを有しており、ピラーインナーパネル22及びピラーアウターパネル24の車体前方側端部と車体後方側端部は、それぞれ溶接(接合)されて、フランジ部23、25とされている。
【0021】
つまり、ピラーインナーパネル22とピラーアウターパネル24は閉断面形状とされ、高剛性部の1つとされている。また、ピラーインナーパネル22よりも車室内側(車幅方向内側)にはピラーインナーガーニッシュ26が配設されており、ピラーインナーパネル22とピラーアウターパネル24の車体後方側端部のフランジ部25に嵌着されたドアオープニングトリム28の車幅方向内側端部が、そのピラーインナーガーニッシュ26の車体後方側端部26Bに係止されている。
【0022】
また、ピラーインナーパネル22とピラーアウターパネル24の車体前方側端部のフランジ部23の前面には、ウインドシールドガラス16の車幅方向端部が接着剤27によって接合されており、そのフランジ部23とウインドシールドガラス16との間に、ピラーインナーガーニッシュ26の車体前方側端部26Aが係止されている。
【0023】
また、フロントピラー18の車幅方向外側には、フロントサイドドア30の車体前方側端部が配置されている。フロントサイドドア30は、ドアガラス32及びドアフレーム34を備えている。すなわち、ドアガラス32はドアフレーム34に嵌着されており、ドアガラス32は、ドアガラスラン36に沿って昇降するようになっている。
【0024】
また、ピラーインナーパネル22とピラーアウターパネル24の間には、高剛性部の1つであるパイプ状のピラーリインフォースメント38が配置されており、そのピラーリインフォースメント38の周面には、板バネ等で構成された規定バネ42の一端部42Aが溶接等によって固着されている。なお、この規定バネ42は、ピラーリインフォースメント38の軸方向(車体上下方向)に所定間隔を隔てて(等間隔に)複数設けられている。
【0025】
そして、各規定バネ42の他端部42Bは、車体前方側を向くピラーアウターパネル24に穿設された開口部24Aから車体前方側へ突出され、その他端部42Bには、挙動変更部としての制御板40が取り付けられている。この制御板40は、図1〜図4で示すように、車体上下方向の長さが、フロントピラー18とほぼ同じ長さに形成され、車幅方向の幅が、開口部24Aの幅よりは大きいが、フロントピラー18の幅よりは少し小さく形成されている。これにより、制御板40が設けられたフロントピラー18であっても、運転者の視界を妨げることのない構成である。
【0026】
また、規定バネ42は、通常状態において、制御板40をフロントピラー18(ピラーアウターパネル24)へ圧接させるように、その長さ寸法等が適宜設定されている。また、開口部24Aは、規定バネ42が車幅方向に移動可能なように大きく開口されており、制御板40は、開口部24Aの範囲内において車幅方向に移動可能に構成されている。そして、ピラーアウターパネル24の車体前方側における車幅方向両端部には、制御板40の裏面(車体後方側を向く面)に摺接するベアリング44がそれぞれ複数個設けられている。
【0027】
つまり、このベアリング44は、車体上下方向に所定間隔を隔てて(等間隔に)複数個ずつ設けられている。このベアリング44により、制御板40に歩行者Pが衝突したときに、その制御板40がスムーズに車幅方向外側へ移動(ピラーリインフォースメント38を中心に回動)できる構成である。すなわち、ベアリング44は、歩行者Pが制御板40と接触した際に、制御板40とフロントピラー18(ピラーアウターパネル24)との摩擦を小さくして、制御板40の車幅方向外側への移動を容易化できる構成になっている。
【0028】
以上のような構成の第1実施例のフロントピラー構造20において、次にその作用について説明する。車両10と歩行者Pとの衝突においては、歩行者Pが衝突後に車両10のフード12上に跳ね上げられる場合がある。特に、歩行者Pが車両10の車幅方向端部に衝突した際には、フード12上に跳ね上げられた後に、そのフード12上(表面)を移動して、車両10のフロントピラー18と衝突する場合がある。
【0029】
フロントピラー18は、衝突時において、車両10の車室内空間を確保するために、高剛性の部材(ピラーインナーパネル22、ピラーアウターパネル24、ピラーリインフォースメント38など)で形成されており、このような高剛性の部材と歩行者Pが衝突した際には、歩行者Pが重大な傷害を負う場合がある。本実施形態に係るフロントピラー構造20は、これを防止することができる。
【0030】
すなわち、図1〜図4で示すように、歩行者Pが車両10に衝突し、更にフロントピラー18に向かって移動すると、フロントピラー18の車体前方側には、制御板40が設けられているので、歩行者Pは、例えばその頭部が制御板40に衝突する。制御板40に車体前方側から衝撃が加えられると、その制御板40は、規定バネ42とベアリング44の作用により、車幅方向外側へ移動(ピラーリインフォースメント38を中心に回動)する(図2、図4参照)。
【0031】
つまり、歩行者Pの例えば頭部が衝突することにより、制御板40に衝撃力が作用し、この衝撃力(作用力)が規定バネ42のピラーアウターパネル24に対する圧接バネ力を超えると、制御板40が車幅方向外側へ移動(回動)し始める。制御板40が車幅方向外側へ移動(回動)し始めると、歩行者Pは、制御板40との圧接状態を保ちながら、その移動方向(運動方向)が車幅方向外側へ変更される。したがって、歩行者Pに作用する衝撃力が小さくなり(充分に緩和され)、歩行者Pがフロントピラー18に衝突したときに負う被害が充分に軽減(回避)される。
【0032】
なお、制御板40は、歩行者Pとの衝突によって移動(回動)を開始するが、移動(回動)初期にはピラーアウターパネル24との摩擦が大きい。そのため、制御板40は、ベアリング44によってピラーアウターパネル24との摩擦が低減されるようにし、その移動(回動)が容易に行われるようにすることが望ましい。
【0033】
また、制御板40が車幅方向外側へ更に移動(回動)し、その制御板40に圧接している歩行者Pの移動方向(運動方向)が更に車幅方向外側へ向かうと(歩行者Pの移動量が制御板40の移動量よりも大きくなると)、歩行者Pの制御板40に対する圧接状態が解消される。制御板40に対する歩行者Pの圧接状態が解消されると、制御板40は、規定バネ42のバネ力(復元力)により初期位置に復帰する。
【0034】
このように、第1実施例のフロントピラー構造20によれば、歩行者Pが制御板40に衝突した後で、その制御板40を規定バネ42のバネ力(復元力)によって初期位置に復帰移動させることができるので、車両10の修理費を低減できるといった効果も得られる。なお、このときも、ベアリング44の作用により、制御板40の摩擦力が低減されるので、その復帰移動は容易に実行される。
【0035】
ここで更に、本実施形態に係る挙動変更部である制御板40の作用を、図5で示すモデルを基に説明する。図5のモデルにおいて、歩行者Pに対応した衝突体Pmが、フロントピラー18に対応した平板46に衝突した際には、衝突体Pmに作用する加速度Aは、平板46の傾斜角度θの増大に伴って減少する(図6参照)。これは、衝突体Pmが平板46に衝突した際に作用する衝撃力Fが、平板46の傾斜角度θによって飛走方向成分F1と側方向成分F2とに分解されることによる。
【0036】
すなわち、歩行者Pと車両10の衝突事故において、例えば歩行者Pの頭部とフロントピラー18の衝突状況が、図5で示すような衝突状況であると仮定すると、図6で示すように、フロントピラー18の歩行者Pとの接触面の傾斜角度θを大きくすることにより、衝突体Pmである歩行者Pの頭部に作用する加速度Aを低減することが可能となる。
【0037】
しかしながら、単にフロントピラー18の接触面の傾斜角度θを大きくしただけでは、接触面における摩擦等によって、歩行者Pの衝突後の挙動(運動方向)が、車幅方向外側(側方)とならない場合もある。したがって、本実施形態においては、フロントピラー18の前面(接触面)に、高剛性部とは別に、車幅方向へ移動可能に構成された挙動変更部(制御板40)を設け、歩行者Pの車幅方向外側(側方)への移動が容易に行われるようにしている。
【0038】
つまり、第1実施例のフロントピラー構造20では、車幅方向へ移動可能な制御板40を用いて、歩行者Pの衝突時の挙動変更(運動方向の変更)を行っている。より具体的に言うと、歩行者Pは、車両10との衝突によってフロントピラー18と衝突するものの、制御板40の作用によって、その移動方向(運動方向)が車両10の車幅方向外側へ確実に変化させられている(変更されている)。この移動方向(運動方向)の変化(変更)により、歩行者Pに作用する衝撃力が充分に軽減されるようになっている。
【0039】
次に、フロントピラー構造20の第2実施例について説明する。なお、上記第1実施例と同等の部位には同じ符号を付して詳細な説明(作用も含む)は省略する。図7、図8で示すように、この第2実施例のフロントピラー構造20は、高剛性部を構成するピラーアウターパネル24の前面に、平断面視略三角形状とされた制御板50が、接合材48によって接合されている。この接合材48は、所定の圧力が加えられると、剥離する構成とされている。
【0040】
また、制御板50の車体上下方向の長さ及び車幅方向の幅は、制御板40とほぼ同一とされており、制御板50の前面には、平断面視略円弧状とされたカバー体52が、平断面視略三角形状とされた制御板50の各頂点部分を固着部51として固着されている。このカバー体52は、制御板50とほぼ同じ大きさとされ、制御板50と共に挙動変更部を構成するようになっている。
【0041】
また、このカバー体52は、フロントピラー18を構成する高剛性部(ピラーインナーパネル22、ピラーアウターパネル24、ピラーリインフォースメント38)に比べて脆弱な構造とされ、歩行者Pの衝突によって塑性変形可能なように、制御板50との間には、所定の間隙Sが形成されるように設けられている。
【0042】
以上のような構成の第2実施例のフロントピラー構造20において、次にその作用について説明する。歩行者Pが車両10に衝突し、更にフロントピラー18へ移動すると、その歩行者Pは、フロントピラー18のカバー体52に衝突する。すると、このカバー体52は、フロントピラー18を構成する高剛性部に比べて脆弱な構造とされ、かつ制御板50との間に所定の間隙Sが形成されているため、歩行者Pとの衝突による衝撃緩和が、まず、カバー体52の塑性変形によって行われる。
【0043】
その後、更にその衝撃がカバー体52を介して制御板50に作用し、その衝撃力(作用力)が接合材48の接合力を超えると、接合材48がピラーアウターパネル24から剥離し、制御板50がカバー体52と共にピラーアウターパネル24の前面(傾斜面)に沿って車幅方向外側へ移動し始める。
【0044】
制御板50が車幅方向外側へ移動し始めると、カバー体52に圧接していた歩行者Pの移動方向(運動方向)が車幅方向外側へ変更される。これにより、歩行者Pに作用する衝撃力が充分に緩和される。なお、歩行者Pに作用する衝撃力は、接合材48の剥離自体によっても緩和される。
【0045】
ここで、接合材48の剥離は、歩行者Pによる衝撃力が比較的小さい場合には、剥離途中で終了し、その後、移動方向(運動方向)を変更された歩行者Pは、フロントピラー18の車幅方向外側へ移動する。したがって、この場合は、カバー体52及び制御板50は、フロントピラー18から完全には分離されない。
【0046】
一方、歩行者Pによる衝撃力が比較的大きい場合には、接合材48は完全に剥離して、カバー体52及び制御板50は、歩行者Pと共にフロントピラー18の車幅方向外側へ移動し、フロントピラー18から完全に分離される。なお、図8では接合材48が完全に剥離された瞬間を示しているため、カバー体52及び制御板50は、フロントピラー18の近傍に配置された状態となっている。
【0047】
このように、フロントピラー18に衝突した歩行者Pは、カバー体52の塑性変形と接合材48の剥離による衝撃緩和を受けながら、その移動方向(運動方向)がフロントピラー18の車幅方向外側へ確実に変更される。したがって、歩行者Pに作用する衝撃力を充分に緩和することができ、歩行者Pがフロントピラー18に衝突することによって負う被害を充分に軽減させることができる。
【0048】
また、第2実施例のフロントピラー構造20は、歩行者Pの保護を行うカバー体52及び制御板50と、車室内空間の確保を行うための高剛性部とが完全に分離されて構成されているため、高剛性部の剛性を従来技術の剛性に比べて高くすることができる。そして、制御板50及びカバー体52は、制御板40と同様に、フロントピラー18の幅よりも小さく形成され、更には、フロントピラー18全体の幅を狭くしても成立する構成であるため、運転者の視界を広く確保することができる。
【0049】
次に、フロントピラー構造20の第3実施例について説明する。なお、上記第1実施例と同等の部位には同じ符号を付して詳細な説明(作用も含む)は省略する。図9、図10で示すように、第3実施例のフロントピラー構造20は、衝突時の歩行者Pの移動方向(運動方向)を変更する挙動変更部としてのエアバッグ60と、そのエアバッグ60を車幅方向に移動(回動)可能に支持する回転部材58と、その回転部材58を結合ピン56によって枢支連結する結合部材54と、エアバッグ60にガスを噴射・供給するインフレーター64とで構成されており、結合部材54の車幅方向両端部は、ピラーインナーパネル22及びピラーアウターパネル24にそれぞれ接合されている。
【0050】
そして、このエアバッグ60の車体前方側におけるピラーアウターパネル24には、エアバッグ60を展開(突出)可能とする開口部24Aが穿設されており、通常時、その開口部24Aは、カバー部材62によって被覆され、内部のエアバッグ60等が露出しないようになっている。なお、エアバッグ60が展開したときには、カバー部材62は、そのエアバッグ60の展開力により、フロントピラー18から離脱されるようになっている。
【0051】
以上のような構成の第3実施例のフロントピラー構造20において、次にその作用について説明する。歩行者Pが車両10に衝突し、更にフロントピラー18と衝突する可能性があると判断されると、図示しない衝突検知センサーからの展開信号に基づいてインフレーター64からガスが噴射され、フロントピラー18内(ピラーアウターパネル24の車室内側)に格納されていたエアバッグ60が展開するとともに、フロントピラー18に取り付けられて、開口部24Aを閉止していたカバー部材62が、そのエアバッグ60に押されて、フロントピラー18から離脱される。
【0052】
ここで、展開したエアバッグ60の形状は、例えば図10で示すように、歩行者Pとの接触面が車幅方向外側に傾斜した傾斜面60Aとなるような平面視略三角形状等とされている。そして、このエアバッグ60は、結合部材54に結合ピン56によって車幅方向に移動(回動)可能に枢支連結された回転部材58の車体前方側に取り付けられている。
【0053】
したがって、歩行者Pがエアバッグ60と衝突すると、エアバッグ60の接触面が車幅方向外側に傾斜している傾斜面60Aであることに加えて、そのエアバッグ60が車幅方向外側へ移動(回動)可能に枢支連結されていることから、歩行者Pの移動方向(運動方向)が車幅方向外側へ安全かつ確実に変更される。
【0054】
この移動方向(運動方向)の変更により、上記第1実施例及び第2実施例と同様に、歩行者Pに作用する衝撃力が充分に緩和され、歩行者Pがフロントピラー18に衝突することによって負う被害が充分に軽減される。また、この第3実施例においては、歩行者Pがエアバッグ60と衝突することから、エアバッグ60による衝撃緩和も可能となる。
【0055】
なお、従来においても、フロントピラー18にエアバッグ(図示省略)が装着されて歩行者保護が行われていたが、そのエアバッグには、第3実施例で示すような車幅方向外側へ傾斜した傾斜面60Aは形成されておらず、また、歩行者Pがエアバッグに圧接した際の影響を考慮して、歩行者Pを車幅方向外側へ移動させるための枢支連結構造も備えられていない。つまり、単にエアバッグによって歩行者Pの衝撃緩和を図るだけでは、歩行者Pの移動方向(運動方向)を車幅方向外側へ変更することはできず、第3実施例で示したような充分な衝撃緩和の効果を得ることができないものである。
【0056】
以上、説明したように、フロントピラー18が、車室内空間を確保するための高剛性部とは別に、歩行者Pの移動方向(運動方向)を変更するための、車幅方向へ移動可能な挙動変更部(制御板40、制御板50及びカバー体52、エアバッグ60)を備えて構成されているため、歩行者Pがフロントピラー18と衝突した際には、その挙動変更部により、歩行者Pの移動方向(運動方向)が、フロントピラー18の軸心方向(車体上下方向)に対して左右方向に逸れる(車幅方向に変更される)。
【0057】
したがって、車両10の衝突時に、乗員の生存空間である車室内空間を維持するための剛性をフロントピラー18が確保できるとともに、歩行者Pのフロントピラー18に対する直線的な衝突が回避され、歩行者Pに作用する衝撃力を充分に低減させることができる。つまり、本実施形態によれば、歩行者Pと車両10との衝突事故において、その衝突時の歩行者Pの移動方向(運動方向)をフロントピラー18の車幅方向外側(側方)とすることにより、衝突時の歩行者Pに作用する衝撃力(加速度)を低減することができるため、歩行者Pが車両10のフード12上に跳ね上げられて、フロントピラー18と衝突することによって負う被害を充分に軽減することができる。
【0058】
しかも、このような被害軽減(歩行者保護)は、従来技術のような脆弱部の塑性変形によるエネルギー吸収を主体としたものではなく、歩行者Pの挙動(運動方向)を変更することにより、歩行者Pとフロントピラー18の衝突(衝撃)を軽微なものとするため、衝撃力が大きな衝突事故の場合でも、従来技術に比べて大きな被害軽減(歩行者保護)効果が得られる。
【0059】
なお、本発明に係るフロントピラー構造20は、図示のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能なものである。例えば、第1実施例においては、規定バネ42を複数の板バネで構成したが、規定バネ42は、車体上下方向に長い大きな板バネを1枚だけ設ける構成等にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】フロントピラーに挙動変更部を備えた車両の概略斜視図
【図2】歩行者が衝突したときの挙動変更部の作用を示す概略平面図
【図3】第1実施例のフロントピラーの概略平断面図
【図4】歩行者が衝突したときの挙動変更部の作用を示す概略平断面図
【図5】挙動変更部の作用を模式的に示す説明図
【図6】挙動変更部による加速度の変化を経過時間で示すグラフ
【図7】第2実施例のフロントピラーの概略平断面図
【図8】歩行者が衝突したときの挙動変更部の作用を示す概略平断面図
【図9】第3実施例のフロントピラーの概略平断面図
【図10】歩行者が衝突したときの挙動変更部の作用を示す概略平断面図
【符号の説明】
【0061】
10 車両
12 フード
18 フロントピラー
20 フロントピラー構造
22 ピラーインナーパネル(高剛性部)
24 ピラーアウターパネル(高剛性部)
26 ピラーインナーガーニッシュ
30 フロントサイドドア
38 ピラーリインフォースメント(高剛性部)
40 制御板(挙動変更部)
42 規定バネ
44 ベアリング
48 接合材
50 制御板(挙動変更部)
52 カバー体(挙動変更部)
58 回転部材
60 エアバッグ(挙動変更部)
62 カバー部材
P 歩行者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントピラーの車体前方側に設けられ、歩行者が衝突した際に、その歩行者の運動方向を変更させる挙動変更部を有することを特徴とする車両のフロントピラー構造。
【請求項2】
前記挙動変更部は、衝突した歩行者の運動方向を車幅方向外側へ変更させることを特徴とする請求項1に記載の車両のフロントピラー構造。
【請求項3】
前記挙動変更部は、車幅方向外側へ移動可能な制御板で構成されていることを特徴とする請求項2に記載の車両のフロントピラー構造。
【請求項4】
前記制御板の車幅方向における幅は、前記フロントピラーの車幅方向における幅よりも小さくされていることを特徴とする請求項3に記載の車両のフロントピラー構造。
【請求項5】
前記挙動変更部は、車幅方向外側へ移動可能なエアバッグで構成されていることを特徴とする請求項2に記載の車両のフロントピラー構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−220651(P2009−220651A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65318(P2008−65318)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】