説明

車両のフロントロアメンバ

【課題】パネルのフランジ接合部からの水の浸入を防ぐとともに、フランジ接合部に高い接合強度を確保することができる車両のフロントロアメンバを提供すること。
【解決手段】車両前部の両側部に車両前後方向に延びるフロントサイドフレームの前端に横架され、ブラケット8を介して少なくともラジエータ7を支持する部材であって、車幅方向に長い2つのパネル2A,2Bの各両端縁に形成されたフランジ2a,2c同士及びフランジ2b,2d同士を溶接接合することによって閉断面構造を構成する車両のフロントロアメンバ2において、前記パネル2A,2Bのフランジ接合部c1,c2を上下に配するとともに、少なくとも下側のフランジ接合部c2の接合面を縦方向として車両前後方向前端部に配置し、下面の車両前後方向略中央部に前記ブラケット8の一端を取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部に横架されて少なくともラジエータを支持する車両のフロントロアメンバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の前端部にはラジエータやエアコン用コンデンサが配されるが、これらのラジエータやエアコン用コンデンサは、車両前部の両側部に車両前後方向に延びるフロントサイドフレームの前端に横架されたフロントロアメンバにブラケットを介して支持されている。ここで、従来のフロントロアメンバの例を図6及び図7に示す。
【0003】
即ち、図6及び図7は従来のフロントロアメンバの横断面図であり、図6に示すフロントロアメンバ102は、横断面コの字状のパネル102Aの上面開口部を平坦なパネル102Bで覆い、各パネル102A,102Bの両端縁に車幅幅方向(図6の紙面垂直方向)に長く形成されたフランジ102a,102c同士及びフランジ102b,102d同士をスポット溶接によって矩形中空状の閉断面構造として構成されている。
【0004】
又、図7に示すフロントロアメンバ202は、横断面コの字状のパネル202Aの後面開口部を平坦なパネル202Bで覆い、各パネル202A,202Bの両端縁に車幅幅方向(図7の紙面垂直方向)に長く形成されたフランジ202a,202c同士及びフランジ202b,202d同士をスポット溶接によって矩形中空状の閉断面構造として構成されている。
【0005】
ところで、例えば特許文献1には、フロントサイドフレームに関する提案がなされており、フロントサイドフレームを構成する断面コ字状の2つのパネルのフランジ接合部に波形形状のビード部を形成するとともに、該ビード部にボンドを塗布する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−298163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図6に示す従来のフロントロアメンバ102においては、両パネル102A,102Bのフランジ102b,102d同士の接合部が上部において車両前方に向かって水平に形成されているため、該フロントロアメンバ102の上面に落下した水が図6に矢印にて示すように伝わり、フランジ102b,102dの接合面に浸入してその部分に錆が発生する他、内部に浸入した水が抜けないという問題があった。
【0008】
これに対して、図7に示すフロントロアメンバ202では、その上面に落下した水の矢印にて示す流下経路にフランジ接合部が存在しないために図6に示したフロントロアメンバ102における錆の問題等は発生しないが、両パネル202A,202Bのフランジ202b,202d同士の水平な接合面は図示の上下方向の荷重Fに対して直角な面を構成しているため、荷重Fはフランジ202b,202dを互いに剥離させる方向に作用し、フランジ202b,202dの接合強度が弱く、その部分に亀裂が発生するという問題があった。又、下側のフランジ202b,202dの接合部は車両後方に向かって水平に延びているため、その車両後方に配されるエンジンルームのスペースが制約を受けるという問題もあった。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、パネルのフランジ接合部からの水の浸入を防ぐとともに、フランジ接合部に高い接合強度を確保することができる車両のフロントロアメンバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、車両前部の両側部に車両前後方向に延びるフロントサイドフレームの前端に横架され、ブラケットを介して少なくともラジエータを支持する部材であって、車幅方向に長い2つのパネルの各両端縁に形成されたフランジ同士を溶接接合することによって閉断面構造を構成する車両のフロントロアメンバにおいて、前記パネルのフランジ接合部を上下に配するとともに、少なくとも下側のフランジ接合部の接合面を縦方向として車両前後方向前端部に配置し、下面の車両前後方向略中央部に前記ブラケットの一端を取り付けたことを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記パネルの下側のフランジ接合部に水抜き用隙間を形成したことを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記ブラケットを複数のボルトで締結するとともに、これらのボルトを車両前後方向にオフセットさせて車幅方向に千鳥状に配置したこと特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、少なくとも下側のフランジ接合部の接合面を縦方向としたため、このフランジ接合部から水が浸入して錆を発生させることがなく、又、ラジエータからブラケットを経てフロントロアメンバに作用する上下方向の荷重が下側のフランジ接合部には剪断力として作用するため、該フランジ接合部に高い接合強度が確保される。そして、フロントロアメンバを構成する2つのパネルのフランジ接合部を上下に配したため、これらのフランジ接合部がフロントロアメンバの後面から車両後方へ突出することがなく、フロントロアメンバの車両後方に配されるエンジンルームのスペースがフランジ接合部によって制限されることがない。
【0014】
又、下側のフランジ接合部を車両の前後方向前端部に配置し、フロントロアメンバの下面の車両前後方向略中央部にブラケットの一端を取り付けたため、この取付部に作用する上下方向の荷重によるフロントロアメンバに作用する捩り応力及びこれに伴うフロントロアメンバの捩り変形が小さく抑えられる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、パネルの下側のフランジ接合部に水抜き用隙間を形成したため、フロントロアメンバの内部に水が浸入したとしても、この水はフランジ接合部の水抜き用隙間から外部に排出され、フロントロアメンバの内部に水が溜ることがない。
【0016】
請求項3記載の発明によれば、ブラケットをフロントロアメンバに締結する複数のボルトを車両前後方向にオフセットさせて車幅方向に千鳥状に配置したため、ラジエータ等からブラケットを経てフロントロアメンバに入力される荷重が面によって受けられ、ブラケットのフロントロアメンバへの締結力が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るフロントロアメンバを含む車体前部の斜視図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明に係るフロントロアメンバを含む車体前部の底面図である。
【図4】図3のB−B線断面図である。
【図5】図3のC−C線断面図である。
【図6】従来のフロントロアメンバの横断面図である。
【図7】従来のフロントロアメンバの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は本発明に係るフロントロアメンバを含む車体前部の斜視図、図2は図1のA−A線断面図、図3は本発明に係るフロントロアメンバを含む車体前部の底面図、図4は図3のB−B線断面図、図5は図3のC−C線断面図である。尚、以下の説明において「前後」とは、車両前後方向における前後を言うものとする。
【0020】
図1に示すように、車両前部の両側部には前後方向に延びるフロントサイドフレーム1が配されており、これらの前端には本発明に係るフロントロアメンバ2が横架されている。そして、左右一対の前記フロントサイドフレーム1の前端部内面には略垂直に起立する左右一対のランプサポートブレース3の各下端部がそれぞれ結着されており、これらのランプサポートブレース3の上端部には前記フロントロアメンバ2の上方に平行に配されたフードロックメンバ4の左右両端部が取り付けられている。
【0021】
上記フードロックメンバ4とフロントロアメンバ2の各車幅方向中央部は、上下方向に配されたフードロックブレース5によって互いに連結されており、矩形枠を構成するフロントロアメンバ2とフードロックメンバ4及び左右のランプサポートブレース3によって囲まれる矩形の空間はフードロックブレース5によって左右に区画されている。そして、フードロックブレース5によって区画される左側の空間にはエアコン用のコンデンサ6とラジエータ7が前後に配され(図2〜図5参照)、図2〜図4に示すように、これらのコンデンサ6とラジエータ7は左右一対のブラケット8を介してフロントロアメンバ2によって支持されている。
【0022】
而して、本発明に係るフロントロアメンバ2は、左右一対のブラケット8を介してコンデンサ6とラジエータ7を支持するとともに、不図示のフロントバンパを支持する部材であって、図4及び図5に示すように、横断面L字状に屈曲された車幅方向に長い2つのパネル2A,2Bの各両端縁に形成されたフランジ2a,2c同士及びフランジ2b,2d同士をスポット溶接することによって矩形中空状の閉断面構造を構成している。
【0023】
ここで、前方側のパネル2Aの上部後端に形成されたフランジ2aは略直角に折り曲げられて垂直上方に延び、パネル2Aの下部前端に形成されたフランジ2bは垂直下方に延びている。これに対して、後方側のパネル2Bの上部後端に形成されたフランジ2cは垂直上方に延びてパネル2Aの上側のフランジ2aに合わせられ、両フランジ2a,2c同士はスポット溶接によって互いに接合されている。又、パネル2Bの下部前端に形成されたフランジ2dは略直角に折り曲げられて垂直下方に延び、このフランジ2dはパネル2Aの下側のフランジ2bに合わせられ、両フランジ2b,2d同士はスポット溶接によって互いに接合されている。
【0024】
以上のように構成されたフロントロアメンバ2においては、両パネル2A,2Bのフランジ2a,2c同士を接合して成るフランジ接合部c1とフランジ2b,2d同士を接合して成るフランジ接合部c2は上下に配されるとともに、それらの接合面は共に縦方向とされ、上側のフランジ接合部c1は後端部に配置され、下側のフランジ接合部c2は前端に配置されている。そして、下側のフランジ接合部c2には、図3及び図5に示すように、その車幅方向複数箇所に水抜き用隙間δが形成されている。
【0025】
又、前記コンデンサ6と前記ラジエータ7を支持する左右一対の前記ブラケット8は、図4に示すように、フロントロアメンバ2の下面の前後方向略中央部にその前端がボルト9によって締結されており、フロントロアメンバ2のブラケット8が取り付けられる部分はリーンフォースメント10によって補強されている。ここで、リーンフォースメント10は、フロントロアメンバ2のボルト9が締結される後側のパネル2Bの下部を内側から補強する部材であって、その前端のフランジ10aは直角下方に折り曲げられ、このフランジ10aは両パネル2A,2Bのフランジ2b,2dによって挟持されて一体に接合されている。又、このリーンフォースメント10には、前記ボルト9が螺着されるナット11が溶着されている。
【0026】
そして、図4に示すように、各ブラケット8の後端部に形成された孔8aにはグロメット12が嵌め込まれており、このグロメット12にはラジエータ7の下部に突設された円柱状のボス7aが差し込まれることによってコンデンサ6とラジエータ7がグロメット12を介してブラケット8に支持され、ブラケット8はその前端がボルト9によってフロントロアメンバ2の下面に締結されている。
【0027】
ところで、図3に示すように、各ブラケット8はその前端が各2本のボルト9によってフロントロアメンバ2の下面に締結されているが、2本のボルト9は前後方向に図示のaだけオフセットして車幅方向に所定の間隔bを隔てて千鳥状に配置されている。
【0028】
而して、以上のように構成された本発明に係るフロントロアメンバ2によれば、上側のフランジ接合部c1の接合面と共に下側のフランジ接合部c2の接合面も縦方向としたため、このフランジ接合部c2から水が浸入して錆を発生させることがない。
【0029】
又、ラジエータ7からブラケット8を経てフロントロアメンバ2に作用する上下方向の荷重F(図4参照)が上下のフランジ接合部c1,c2には剪断力として作用するため、該フランジ接合部c1,c2に高い接合強度が確保される。そして、フロントロアメンバ2を構成する2つのパネル2A,2Bのフランジ接合部c1,c2を上下に配したため、これらのフランジ接合部c1,c2がフロントロアメンバ2の後面から車両後方へ突出することがなく、フロントロアメンバ2の車両後方に配されるエンジンルームのスペースがフランジ接合部c1,c2によって制限されることがなく、エンジンルームに必要十分なスペースを確保することができる。
【0030】
更に、下側のフランジ接合部c2をフロントロアメンバ2の前端部に配置し、フロントロアメンバ2の下面の車両前後方向略中央部にブラケット8の前端を取り付けたため、この取付部に作用する上下方向の荷重F(図4参照)によるフロントロアメンバ2に作用する捩り応力及びこれに伴うフロントロアメンバ2の捩り変形が小さく抑えられる。
【0031】
又、フロントロアメンバ2の下側のフランジ接合部c2に水抜き用隙間δを形成したため、フロントロアメンバ2の内部に水が浸入したとしても、この水はフランジ接合部c2の水抜き用隙間δから外部に排出され、フロントロアメンバ2の内部に水が溜ることがない。
【0032】
そして、本実施の形態では、図3に示すように、各ブラケット8の前端をフロントロアメンバ2の下面に締結する2本のボルト9を前後方向にオフセットさせて車幅方向に千鳥状に配置したため、コンデンサ6及びラジエータ7からブラケット8を経てフロントロアメンバ2に入力される荷重が面によって受けられ、各ブラケット8のフロントロアメンバ2への締結力が高められる。
【符号の説明】
【0033】
1 フロントサイドフレーム
2 フロントロアメンバ
2A,2B フロントロアメンバのパネル
2a〜2d パネルのフランジ
3 ランプサポートブレース
4 フードロックメンバ
5 フードロックブレース
6 エアコン用コンデンサ
7 ラジエータ
7a ラジエータのボス
8 ブラケット
8a ブラケットの孔
9 ボルト
10 リーンフォースメント
10a リーンフォースメントのフランジ
11 ナット
12 グロメット
a ボルトの車両前後方向のオフセット量
b ボルトの車幅方向の間隔
c1 フロントロアメンバの上側のフランジ接合部
c2 フロントロアメンバの下側のフランジ接合部
δ 水抜き用隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部の両側部に車両前後方向に延びるフロントサイドフレームの前端に横架され、ブラケットを介して少なくともラジエータを支持する部材であって、車幅方向に長い2つのパネルの各両端縁に形成されたフランジ同士を溶接接合することによって閉断面構造を構成する車両のフロントロアメンバにおいて、
前記パネルのフランジ接合部を上下に配するとともに、少なくとも下側のフランジ接合部の接合面を縦方向として車両前後方向前端部に配置し、下面の車両前後方向略中央部に前記ブラケットの一端を取り付けたことを特徴とする車両のフロントロアメンバ。
【請求項2】
前記パネルの下側のフランジ接合部に水抜き用隙間を形成したことを特徴とする請求項1記載の車両のフロントロアメンバ。
【請求項3】
前記ブラケットを複数のボルトで締結するとともに、これらのボルトを車両前後方向にオフセットさせて車幅方向に千鳥状に配置したこと特徴とする請求項1又は2記載の車両のフロントロアメンバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−247716(P2010−247716A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100426(P2009−100426)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】