説明

車両の制動制御装置

【課題】 ホイールシリンダ圧の検出値をフィードバックして、ホイールシリンダ圧を調節する制動制御装置において、ホイールシリンダ圧に発生したハンチングを抑制する。
【解決手段】 車両の制動制御装置は、ホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧検出手段32と、ホイールシリンダ圧検出手段の検出値をフィードバックして、検出値が反映された駆動指令を生成する制御手段40と、制御手段により生成された駆動指令に応じて駆動されて、ホイールシリンダ圧を調節する圧力制御弁22,28と、を備える。制御手段40は、ABS制御モードにおいて、駆動指令におけるホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載され、アンチロックブレーキシステムを採用する制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の制動制御において、アンチロックブレーキシステム(Antilock Brake System:ABS)が一般的に用いられている(特許文献1参照)。アンチロックブレーキ制御では、制動時に制動力が過剰となって車輪が路面とグリップしなくなると、ホイールシリンダ圧を減圧して制動力を小さくすることにより、再び車輪が路面にグリップするようにしている。
【0003】
ABS制御においてホイールシリンダ圧を急激に減圧するときには、制動制御装置の油圧回路内の圧力にハンチングが発生する。従来、このようなハンチングに対処するために、制動制御装置の圧力制御弁を駆動制御するためのデューティ比を段階的に変化させて、減圧制御弁を全閉状態から全開状態までなだらかに変化させて、ハンチングの発生を抑えていた。
【特許文献1】特開平11−286267号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電子制御ブレーキシステム(Electronically Controlled Brake System:ECB)のようにホイールシリンダ圧の検出値をフィードバックして制動力を制御するブレーキシステムでは、従来技術で採用された上記の方法は有効でない。即ち、ホイールシリンダ圧の検出値をフィードバックしてホイールシリンダ圧を調節する制御方法では、ホイールシリンダ圧にハンチングが発生すると、ホイールシリンダ圧のハンチングがホイールシリンダ圧の調節処理にフィードバックされ、このフィードバックが更にホイールシリンダ圧がハンチングする原因となってしまう。よって、ホイールシリンダ圧のハンチングは収束し難い。
【0005】
そこで、本発明は、ホイールシリンダ圧の検出値をフィードバックして、ホイールシリンダ圧を調節する車両の制動制御装置において、ホイールシリンダ圧に発生したハンチングを抑制することが可能な制動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明に係る車両の制動制御装置は、ホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧検出手段と、ホイールシリンダ圧検出手段の検出値をフィードバックして、検出値が反映された駆動指令を生成する制御手段と、制御手段により生成された駆動指令に応じて駆動されて、ホイールシリンダ圧を調節する圧力制御弁と、を備え、制御手段は、ABS制御モードにおいて、駆動指令におけるホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、ABS制御モードにおいて、駆動指令におけるホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させることにより、ホイールシリンダ圧のハンチングがフィードバックされて駆動指令に反映されることを抑制されるため、ABS制御時にホイールシリンダ圧に発生するハンチングを効果的に抑制することができる。これによれば、制動制御装置の作動音を低減したり、制動制御装置の制御状態を安定させたりすることができる。
【0008】
なお、ホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いとは、制御手段により生成される駆動指令に対してホイールシリンダ圧の検出値が与える影響の大きさである。ホイールシリンダ圧の検出値の変動が所定の大きさである場合に、駆動指令の変動が大きいとホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いが大きいことを意味し、駆動指令の変動が小さいとホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いが小さいことを意味する。
【0009】
上述したホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させることには、ホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを単に低下させる場合のほか、ホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下してゼロとする場合も含まれている。また、上述したホイールシリンダ圧を検出することには、ホイールシリンダ圧を直接的に圧力センサで計測する場合のほか、計算によりホイールシリンダ圧を推定する場合も含まれている。
【0010】
また、上述した制動制御装置において、制御手段は、駆動指令におけるホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させる処理として、ホイールシリンダ圧を保持するための駆動指令を生成することが好ましい。この構成によれば、ホイールシリンダ圧を保持するための駆動指令が生成されるため、駆動指令にはホイールシリンダ圧の検出値が反映されていない。このように駆動指令にホイールシリンダ圧の検出値を反映しないことにより、ホイールシリンダ圧のハンチングが駆動指令に反映されることを防止することができる。これにより、ABS制御時にホイールシリンダ圧に発生するハンチングを効果的に抑制することができる。特に、上述した構成によれば、駆動電流にはホイールシリンダ圧の検出値が全く反映されていないため、ホイールシリンダ圧のハンチングを迅速に抑制することができる。
【0011】
また、上述した制動制御装置において、制御手段は、駆動指令におけるホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させる処理として、ホイールシリンダ圧の検出値のフィードバックゲインを低下させることが好ましい。この構成によれば、ホイールシリンダ圧の検出値のフィードバックゲインが低下されることで、駆動指令においてホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いが低下されている。このように駆動指令におけるホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いが低下されることにより、ホイールシリンダ圧のハンチングが駆動指令に反映されることを防止することができる。これにより、ABS制御時にホイールシリンダ圧に発生するハンチングを効果的に抑制することができる。また、上述した構成によれば、駆動電流にはホイールシリンダ圧の検出値がある程度反映されているため、ホイールシリンダ圧を検出値に応じて調節しつつ、ホイールシリンダ圧のハンチングを抑制することができる。
【0012】
また、上述した制動制御装置において、制御手段は、ABS制御モードにおいてホイールシリンダ圧が減圧された状態からホイールシリンダ圧が所定圧力増圧されたタイミングで、駆動指令におけるホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させることが好ましい。この構成によれば、ABS制御モードにおいてホイールシリンダ圧が減圧された状態からホイールシリンダ圧が所定圧力増圧させるため、ABS制御に必要な制動力を十分に得ることができる。そして、このタイミングで駆動指令におけるホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させるため、ABS制御に必要な制動力を十分に得つつ、ABS制御時にホイールシリンダ圧に発生するハンチングを効果的に抑制することができる。
【0013】
また、上述した制動制御装置において、制御手段は、駆動指令におけるホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させた後に、ホイールシリンダ圧を増圧させるための駆動指令を生成することが好ましい。この構成によれば、駆動指令におけるホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させるため、ABS制御時にホイールシリンダ圧に発生するハンチングを効果的に抑制することができる。そして、その後にホイールシリンダ圧を増圧させるための駆動指令を生成するため、ハンチングが抑制されて安定した制御状態で、制動力をさらに増加させることができる。
【0014】
また、上述した制動制御装置は、ホイールシリンダ圧検出手段の検出値に基づいて、ホイールシリンダ圧にハンチングが発生したことを判定するハンチング判定手段を、さらに備え、制御手段は、ハンチング判定手段によりハンチングが判定された場合に、駆動指令におけるホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させて、ハンチング判定手段によりハンチングが判定されない場合に、駆動指令におけるホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させないことが好ましい。この構成によれば、ホイールシリンダ圧のハンチングが発生した場合には、駆動指令におけるホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させることで、確実にハンチングを抑制することができる。一方、ホイールシリンダ圧のハンチングが発生しない場合には、駆動指令におけるホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させる処理を行わないことで、ABS制御モードによる処理を迅速に行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ホイールシリンダ圧の検出値をフィードバックして、ホイールシリンダ圧を調節する制動制御装置において、ホイールシリンダ圧に発生したハンチングを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明に係る車両の制動制御装置の好適な実施形態について説明する。
【0017】
図1には、車両の搭載された制動制御装置1の液圧回路が示されている。この液圧回路は、アキュムレータ圧力を運転者の制動要求に応じて電気的に調圧制御して各車輪のホイールシリンダに供給するECB制御を実施することができる液圧回路を構成している。なお、車両には通常複数の車輪が取り付けられているが、図1では説明を簡略化するために1つの車輪に関する液圧回路のみが示されている。液圧回路の複数の構成要素の中で、リザーバタンク10、オイルポンプ16、アキュムレータ20等は複数の車輪に共通して設けられる構成要素であり、増圧制御弁22、減圧制御弁28、ホイールシリンダ26、圧力センサ32等は各車輪ごとに設けられる構成要素である。
【0018】
一端がリザーバタンク10に接続された液圧制御導管12は、管路途中に、モータ14によって駆動されるオイルポンプ16を設けており、リザーバタンク10から流入する作動液がオイルポンプ16によって増圧される。そしてオイルポンプ16の吐出側の液圧制御導管18には、オイルポンプ16から吐出される高圧の作動液を蓄圧するアキュムレータ20が接続されている。
【0019】
液圧制御導管18は、リニア制御弁である増圧制御弁22と接続されている。また、増圧制御弁22の下流側は、液圧制御導管24に接続されており、液圧制御導管24は2つに分岐しており、一方の分岐導管24aは、ホイールシリンダ26に接続されている。他方の分岐導管24bは、リニア制御弁である減圧制御弁28を介して、一端がリザーバタンク10に接続された還流導管30に接続されている。なお、増圧制御弁22及び減圧制御弁28は、入力される制御信号の大きさに応じて弁開度がリニアに制御可能な制御弁(常閉型)で構成されている。
【0020】
このように構成される液圧供給系の動作を概略的に説明する。ホイールシリンダ26の液圧を増圧させる増圧制御モードでは、減圧制御弁28を閉弁状態とし、増圧制御弁22を開弁状態とするように制御する。これにより、液圧制御導管18、増圧制御弁22、液圧制御導管24、分岐導管24aを順に経由して、アキュムレータ20内の高圧の作動液が、ホイールシリンダ26に供給され、ホイールシリンダ圧が増圧される。
【0021】
また、ホイールシリンダ26の液圧を減圧させる減圧制御モードでは、増圧制御弁22を閉弁状態とし、減圧制御弁28を開弁状態とするように制御する。これにより、ホイールシリンダ26の作動液が、分岐導管24a、分岐導管24b、減圧制御弁28、還流導管30を順に経由してリザーバタンク10側に流出するため、ホイールシリンダ圧が減圧される。
【0022】
また、増圧制御弁22と減圧制御弁28を、ともに閉弁状態とすることにより、ホイールシリンダ26の液圧を一定に維持する保持制御を行うこともできる。
【0023】
なお、このような液圧回路においてホイールシリンダ内の液圧を検知するために、ホイールシリンダ26に接続された管路には圧力センサ32が設けられており、この管路の液圧をホイールシリンダ圧Piとして計測する。なお、圧力センサは、ホイールシリンダ26に接続された管路の圧力を計測するように設けられていれば、ホイールシリンダ26付近に設けられてもよいし、ホイールシリンダ26から離れた位置に設けられてもよい。
【0024】
このように構成される液圧回路は、制御部40によって動作制御が実施される。図2に示すように、制御部40には、前述した圧力センサ32の他、ブレーキペダルの踏み込みストロークSpを検出するストロークセンサ34、車輪の車輪速度Vwを検出する車輪速センサ36の検出結果などが与えられる。そして、制御部40では、これらの検出結果をもとに所定の制御フローを実施して、ホイールシリンダ圧力Piが目標ホイールシリンダ圧力Ptiになるように制御する。制御部40から出力される制御信号は、駆動回路42に与えられ、駆動回路42は、与えられた制御信号をもとに駆動電流Idを生成して、モータ14,増圧制御弁22,減圧制御弁28などのアクチュエータの駆動制御を行う。このようにホイールシリンダ圧力を制御することにより、所望の制動力Fを得ることができる。
【0025】
また、制御部40は、車両の走行中に車輪がロックした場合にはABS制御を実施する。ABS制御における演算ロジックが、図3に示されている。制御部40は、車輪速度Vwに基づいて車輪のロックを判定すると、ABS制御を開始して、ABS制御用の目標ホイールシリンダ圧Ptiを演算する。そして、制御部40は、目標ホイールシリンダ圧Ptiとホイールシリンダ圧の検出値Piとの差分を演算して、その差分をゲインにより増幅してから、増幅された差分を駆動指令として駆動回路42に出力する。
【0026】
ここで、制御部40は、増圧制御モードにあるときには、目標ホイールシリンダ圧Ptiからホイールシリンダ圧の検出値Piを減じた差分がゼロより大きい場合に、増幅された差分を、増圧制御弁22を駆動するための駆動指令として駆動回路42に出力する。一方、制御部40は、減圧制御モードにあるときには、目標ホイールシリンダ圧Ptiからホイールシリンダ圧の検出値Piを減じた差分がゼロより小さい場合に、増幅された差分を、減圧制御弁28を駆動するための駆動指令として駆動回路42に出力する。
【0027】
駆動回路42は、駆動指令に応じた大きさの駆動電流Idを生成する。この駆動電流により、モータ14,増圧制御弁22、減圧制御弁28などのアクチュエータが駆動制御され、ホイールシリンダ圧Piが目標ホイールシリンダ圧Ptiになるように調節される。ホイールシリンダ圧Piは、圧力センサ32により検出され、制御部40にフィードバックされる。このようにしてホイールシリンダ圧Piは、アクチュエータの制御に反映される。
【0028】
また、制御部40は、ホイールシリンダ圧の検出値Piに基づいてホイールシリンダ圧にハンチングが発生しているか否かを判定し、ホイールシリンダ圧がハンチングしている場合には、ABS制御の途中でホイールシリンダ圧を一時的に保持する処理を実施する。この処理については、後に詳述する。一方、制御部40は、ホイールシリンダ圧がハンチングしていない場合には、ホイールシリンダ圧を保持せずに、通常のABS制御を実施する。ここで、ホイールシリンダ圧のハンチング判定は、ホイールシリンダ圧の波形に基づいて行われる。例えば、目標ホイールシリンダ圧Ptiとホイールシリンダ圧Piの差分が予め設定された閾値より大きい場合や、ホイールシリンダ圧Piの極大値から極小値までの変化の大きさや変化速度に基づいて、ホイールシリンダ圧のハンチングが判定される。
【0029】
次に、ABS制御において制御部40により実行される処理をより詳しく説明する。図4には、ABS制御のフローチャートが示されている。この処理は、ABS制御中に、制御部40により繰り返し実行される処理である。
【0030】
図4に示されるように、制御部40は、車輪速度Vwに基づいて車輪が路面をグリップしているか否かを判定する(S401)。ここで、制御部40は、車輪が路面をグリップしていないと判定した場合には、ステップ402に進んでABS制御を開始する。一方、制御部40は、車輪が路面をグリップしていると判定した場合には、ステップ401のグリップ状態の判定処理を繰り返す。
【0031】
ステップ402では、制御部40は、制御状態を減圧モードとして、目標ホイールシリンダ圧に十分に小さな値を設定する。これにより、減圧制御弁28が駆動されて、ホイールシリンダ圧が急激に減圧される。そして、制御部40は、車輪のグリップ状態が回復したか否かを判定する(S403)。ここで、制御部40は、車輪のグリップ状態が回復していると判定した場合には、ステップ404に進む。一方、制御部40は、車輪のグリップ状態が回復していないと判定した場合には、ステップ402の減圧処理を繰り返す。
【0032】
ステップ404では、制御部40は、制御状態を増圧モードとして、目標ホイールシリンダ圧を急激に増加させる。これにより、増圧制御弁22が駆動されて、ステップ402の減圧処理が開始されたときのホイールシリンダ圧に対して例えば50%〜60%程度の圧力まで、ホイールシリンダ圧が急激に増圧される。続いて、ステップ405では、制御部40は、圧力センサ32の検出値Piに基づいてホイールシリンダ圧にハンチングが発生しているか否かを判定する。ここで、制御部40は、ハンチングが発生していると判定した場合には、ステップ406に進む。一方、制御部40は、ハンチングが発生していないと判定した場合には、ステップ409に進む。
【0033】
ステップ406では、制御部40は、制御状態を増圧モードとしたままで、増圧制御弁22及び減圧制御弁28のそれぞれに与える駆動電流をゼロとして、増圧制御弁22及び減圧制御弁28を閉状態とする。これにより、ホイールシリンダ圧が一定に保持される。ホイールシリンダ圧の保持処理に際しては、制御部40から駆動回路42に、ホイールシリンダ圧を保持するための指令が出力される(図2参照)。
【0034】
続いてステップ407では、制御部40は、ホイールシリンダ圧の保持を開始してから予め設定された20〜30msec程度のタイムリミットTHが経過したか否かを判定する。ここで、制御部40は、タイムリミットTHが経過していると判定した場合にはステップ409に進む。一方、制御部40は、タイムリミットTHが経過していないと判定した場合にはステップ408に進む。これにより、ホイールシリンダ圧の保持が過剰に継続してしまうことが回避される。
【0035】
ステップ408では、制御部40は、圧力センサ32の検出値Piに基づいてハンチングが収束しているか否かを判定する。ここで、制御部40は、ハンチングが収束していると判定した場合には、ステップ409に進む。一方、制御部40は、ハンチングが収束していないと判定した場合には、ステップ406の油圧保持処理を繰り返す。これにより、ハンチングが収束するまでホイールシリンダ圧を保持すると共に、ハンチングが収束した場合には直ちに次の処理に進むことができる。
【0036】
ステップ409では、制御部40は、目標ホイールシリンダ圧を緩やかに増加させて、車輪の制動力を増加させる。そして、制御部40は、車輪が路面をグリップしているか否かを判定する(S410)。ここで、制御部40は、車輪が路面をグリップしていると判定した場合には、ステップ409に戻って、車輪が路面をグリップしなくなるまで、目標ホイールシリンダ圧を緩やかに増加させる処理を繰り返す。一方、制御部40は、車輪が路面をグリップしていないと判定した場合には、ステップ402に戻って、ホイールシリンダ圧を減圧する。
【0037】
次に、上述した実施形態に係る制動制御装置1により制御されたホイールシリンダ圧の挙動を、図5及び図6を参照して、従来技術と比較しつつ説明する。
【0038】
従来技術に係る制動制御装置では、図5に示されるように、ABS制御時に(1)ホイールシリンダ圧を急激に減圧してから、ホイールシリンダ圧を減圧された状態で保持する第1工程、(2)ホイールシリンダ圧を急激に増圧させる第2工程、(3)ホイールシリンダ圧を緩やかに増圧させる第3工程の3工程が繰り返して実施される。第1工程では、目標ホイールシリンダ圧が急激に小さくされるため、ホイールシリンダ圧のハンチングが発生する。ここでは、ハンチングしたホイールシリンダ圧の検出値Piがフィードバックされるため、第1工程で発生したハンチングは第2工程及び第3工程でも収束せずに、安定したABS制御を阻害し、制動制御装置の作動音を増加させる。
【0039】
これに対して、本実施形態に係る制動制御装置1では、図6に示されるように、ABS制御時に、上述した第1工程〜第3工程のほか、第2工程と第3工程との間で、ホイールシリンダ圧を一時的に保持する第4工程が実施される。第4工程では、ホイールシリンダ圧が保持されるように増圧制御弁22及び減圧制御弁28が閉弁状態に制御されるため、ハンチングしたホイールシリンダ圧の検出値Piはフィードバックされない。言い換えれば、ホイールシリンダ圧の制御において、ホイールシリンダ圧の検出値Piの反映度合いが低下されてゼロとされる。このように、ホイールシリンダ圧の検出値Piの反映度合いをゼロとすることにより、第1工程で発生したハンチングを収束して、制動制御装置1の作動ノイズを低減することができる。
【0040】
また、本実施形態では、上述したように、ホイールシリンダ圧を一時的に保持する第4工程が、ホイールシリンダ圧を急激に増圧させる第2工程の後に実施される。これにより、ABS制御モードにおいてホイールシリンダ圧が減圧された状態からホイールシリンダ圧が所定圧力増圧させるため、ABS制御に必要な制動力を十分に得ることができる。そして、このタイミングで駆動指令におけるホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させるため、ABS制御に必要な制動力が十分に得つつ、ABS制御時にホイールシリンダ圧に発生するハンチングを効果的に抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態では、上述したように、ホイールシリンダ圧を一時的に保持する第4工程を実施してから、ホイールシリンダ圧を緩やかに増圧させる第3工程を実施する。これにより、ホイールシリンダ圧が緩やかに増圧される第3工程では、ハンチングが抑制されて安定した液圧状態となっている。このため、第3工程において制動力が高められた制御状態を好適に得ることができる。
【0042】
次に、本実施形態に係る制動制御装置1の変形例について説明する。図7には、変形例に係る制動制御装置1により実行されるABS制御のフローチャートが示されている。上述した実施形態と比較して、変形例に係るABS制御ではステップ706の処理が異なる。
【0043】
ステップ706では、制御部40は、ホイールシリンダ圧の検出値Piのフィードバックゲインを変更する処理を行う。詳しくは、制御部40は、ホイールシリンダ圧にハンチングが発生したことを判定すると、ホイールシリンダ圧の検出値Piと目標ホイールシリンダ圧Ptiとの差分を増幅するためのゲインを小さくする。
【0044】
図3を参照して説明すると、制御部40が、ホイールシリンダ圧の検出値Piと目標ホイールシリンダ圧Ptiとの差分を増幅するためのゲインを小さくした場合には、制御部40から駆動回路42に与えられる駆動指令は小さくなり、よって、駆動回路42が増圧制御弁22及び減圧制御弁28に供給する駆動電流は小さくなる。言い換えれば、駆動電流において、ホイールシリンダ圧の検出値Piの反映度合いは小さくなる。
【0045】
この変形例によれば、ホイールシリンダ圧の検出値Piのフィードバックゲインを小さくして、圧制御弁22及び減圧制御弁28に供給する駆動電流を小さくすることにより、ホイールシリンダ圧の変化が抑制されるため、ホイールシリンダ圧に発生するハンチングを抑制して、制動制御装置の作動ノイズを低減することができる。また、駆動指令にホイールシリンダ圧の検出値がある程度反映されるため、ホイールシリンダ圧を検出値に応じて調節しつつ、ホイールシリンダ圧のハンチングを抑制することができる。
【0046】
なお、上述した実施形態では、圧力センサ32によりホイールシリンダ圧を直接的に計測したが、他の実施形態では、ホイールシリンダ26に出入りする作動液の液量に基づいて計算することによりホイールシリンダ圧を推定してもよい。制御部40が、ホイールシリンダ圧の計測値に代えて、ホイールシリンダ圧の推定値をホイールシリンダ圧の検出値として用いることにより、上述した各処理を行うことができる。
【0047】
また、上述した実施形態では、制御部40がホイールシリンダ圧のハンチングを判定して、ホイールシリンダ圧にハンチングが発生している場合にのみ、ホイールシリンダ圧を保持したが、他の実施形態では、ホイールシリンダ圧のハンチングが発生しているか否かに拘らず、常にホイールシリンダ圧を保持するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】車両の制動制御装置の液圧回路図である。
【図2】車両の制動制御装置の機能ブロック図である。
【図3】ABS制御モードにおける演算ロジックを示す図である。
【図4】ABS制御モードにおける制御フローを示すフローチャートである。
【図5】従来技術に係る制動制御装置による制御結果を示すタイムチャートである。
【図6】本実施形態に係る制動制御装置による制御結果を示すタイムチャートである。
【図7】ABS制御モードにおける制御フローの変形例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0049】
1…制動制御装置、10…リザーバタンク、12…液圧制御導管、14…モータ、16…オイルポンプ、18…液圧制御導管、20…アキュムレータ、22…増圧制御弁(圧力制御弁)、24…液圧制御導管、24a…分岐導管、24b…分岐導管、26…ホイールシリンダ、28…減圧制御弁(圧力制御弁)、30…還流導管、32…圧力センサ、34…ストロークセンサ、36…車輪速センサ、40…制御部、42…駆動回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧検出手段と、
前記ホイールシリンダ圧検出手段の検出値をフィードバックして、前記検出値が反映された駆動指令を生成する制御手段と、
前記制御手段により生成された駆動指令に応じて駆動されて、ホイールシリンダ圧を調節する圧力制御弁と、を備え、
前記制御手段は、ABS制御モードにおいて、前記駆動指令における前記ホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させることを特徴とする車両の制動制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記駆動指令における前記ホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させる処理として、ホイールシリンダ圧を保持するための駆動指令を生成することを特徴とする請求項1に記載の車両の制動制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記駆動指令における前記ホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させる処理として、前記ホイールシリンダ圧の検出値のフィードバックゲインを低下させることを特徴とする請求項1に記載の車両の制動制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、ABS制御モードにおいてホイールシリンダ圧が減圧された状態からホイールシリンダ圧が所定圧力増圧されたタイミングで、前記駆動指令における前記ホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両の制動制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記駆動指令における前記ホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させた後に、ホイールシリンダ圧を増圧させるための駆動指令を生成することを特徴とする請求項4に記載の車両の制動制御装置。
【請求項6】
前記ホイールシリンダ圧検出手段の検出値に基づいて、ホイールシリンダ圧にハンチングが発生したことを判定するハンチング判定手段を、さらに備え、
前記制御手段は、前記ハンチング判定手段によりハンチングが判定された場合に、前記駆動指令における前記ホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させて、前記ハンチング判定手段によりハンチングが判定されない場合に、前記駆動指令における前記ホイールシリンダ圧の検出値の反映度合いを低下させないことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両の制動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−153119(P2007−153119A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350868(P2005−350868)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】