説明

車両の制振材保持構造

【課題】 制振材のずれを防止して防音性を高め、制振材に取付け用の開口を開けることなく、制振材の表面積を大きくした車両の制振材保持構造を提供する。
【解決手段】 車体パネル(ダッシュパネル)26の面に制振材32を制振材拘束パネル33で取付けた車両の制振材保持構造27は、制振材拘束パネル33に制振材32を収める収納凹部34を成形し、この収納凹部の面部35に制振材に突き刺す曲げおこし爪36を一体にバーリング加工した。車体パネル26に曲げおこし爪に対応する逃げ凹部37を成形した。車体パネルに曲げおこし爪に対応する平坦部51を成形した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に生じるエンジンの振動や騒音を抑制する車両の制振材保持構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両は、エンジンの振動や騒音を抑制するために、エンジンルームを隔てた隔壁構造に制振材を用いている。隔壁構造は、例えば、鋼板と鋼板の間に制振材を挟み、制振材を鋼板に成形した凸部若しくはボルトで固定する(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】実公平7−40463号公報(第4頁、第2図)
【0004】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図6は、従来の技術の基本構成を説明する図であり、従来の車両パネルの制振構造101は、エンジンルーム102と車室103とを隔てるダツシユパネル104にアスフアルト層105を取付けたもので、振動や騒音を抑制することができるというものである。
組立てる場合は、制振材拘束層パネル106の凹座107・・・(・・・は複数を示す。以下同様。)にアスフアルト層105の貫通孔108・・・を嵌めて制振材拘束層パネル106に貼着し、アスフアルト層105をダツシユパネル104に貼着して凹座107・・・をダツシユパネル104に溶接し、完成させた。
【0005】
しかし、特許文献1の車両パネルの制振構造101では、アスフアルト層(制振材)105が下方にずれる心配がある。
また、アスフアルト層105に開けた貫通孔108・・・によってダツシユパネル104に対向するアスフアルト層105の表面積は小さくなり、防音性は低下する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、制振材のずれを防止して防音性を高め、制振材に取付け用の開口を開けることなく、制振材の表面積を大きくした車両の制振材保持構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、車体パネルの面に制振材を制振材拘束パネルで取付けた車両の制振材保持構造において、制振材拘束パネルに制振材を収める収納凹部を成形し、この収納凹部の面部に制振材に突き刺す曲げおこし爪を一体にバーリング加工したことを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、車体パネルに曲げおこし爪に対応する逃げ凹部を成形したことを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、車体パネルに曲げおこし爪に対応する平坦部を成形したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明では、車体パネルの面に制振材を制振材拘束パネルで取付けた車両の制振材保持構造において、制振材拘束パネルに制振材を収める収納凹部を成形し、この収納凹部の面部に制振材に突き刺す曲げおこし爪を一体にバーリング加工したので、曲げおこし爪によって車体パネルと制振材拘束パネルの収納凹部との間に挟めた制振材は下方にずれない。従って、制振材のずれを防止して防音性を高めることができるという利点がある。
【0011】
また、制振材拘束パネルに制振材を収める収納凹部を成形し、この収納凹部の面部に制振材に突き刺す曲げおこし爪を一体にバーリング加工したので、突き刺した曲げおこし爪で制振材を保持することができる。その結果、制振材に取付け用の開口を開けることなく、制振材を保持することができ、車体パネルに対向する制振材の表面積を大きくすることができる。
【0012】
請求項2に係る発明では、車体パネルに曲げおこし爪に対応する逃げ凹部を成形したので、例えば、制振材に曲げおこし爪を突き通した場合でも、曲げおこし爪の頂部は逃げ凹部に入り込み、車体パネルに曲げおこし爪の頂部は干渉しない。
【0013】
請求項3に係る発明では、車体パネルに曲げおこし爪に対応する平坦部を成形したので、車体パネルに設定した制振材取付け部の範囲は平らな面となり、車体パネルに電着塗装を施した場合に、塗り残したところや塗装膜の薄いところなど空白部が存在しない。つまり、電着塗装を範囲の全面に施すことができるとともに、電着塗装の膜厚をほぼ均一にすることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は、本発明の制振材保持構造を採用した車両の斜視図である。図左下の「上」「下」は運転者から見た方向、「前」は前進側、「後」はその逆側をいう。
車両11は車体12を備え、車体12はフロントボデー13と、アンダボデー14と、サイドボデー15と、ルーフ16と、を備える。17は車室、18はサイドボデー15の一部をなすホイールハウスパネル、21は運転席側、22は助手席側を示す。
フロントボデー13は、車室17より前の部分で、主にエンジンルーム24の形成や前輪の懸架装置(図に示していない。)を支持し、エンジンルーム24と車室17を区切る隔壁構造25を備える。26は隔壁構造25の車体パネルであるところのダッシュパネルを示す
【0015】
図2は、図1の2矢視図である。
隔壁構造25は、車体パネルであるところのダッシュパネル26と、制振材保持構造27と、これらのダッシュパネル26及び制振材保持構造27の車室17側を覆う内装材(図に示していない。)と、を備え、エンジンの振動や騒音を抑制する。28はステアリングシャフトを取り込む取り込み口を示す。
【0016】
制振材保持構造27は、車体パネル(ダッシュパネル)26の助手席側22に、車体パネル(ダッシュパネル)26の面でるところの制振材取付け部31を成形し、この面(制振材取付け部)31に制振材32を配置し、制振材32を制振材拘束パネル33で固定したものである。
制振材取付け部31は、制振材拘束パネル33を取付ける範囲である。
【0017】
図3は、図2の3−3線断面図であり、制振材保持構造27の断面を示す。
制振材保持構造27は、具体的には、制振材拘束パネル33に制振材32を収める収納凹部34を成形し、この収納凹部34の面部35に制振材32に突き刺す曲げおこし爪36・・・(・・・は複数を示す。以下同様。)を一体にバーリング加工し、車体パネル(ダッシュパネル)26に曲げおこし爪36・・・に対応する逃げ凹部37・・・を成形したものである。
【0018】
また、制振材保持構造27は、ダッシュパネル26の制振材取付け部31(範囲で示した。)に制振材32を配置し、制振材32に曲げおこし爪36・・・を突き刺すとともに、ダッシュパネル26に制振材拘束パネル33を溶接部38・・・で取付けた。
制振材32は、制振材拘束パネル33の面部35による押圧及び曲げおこし爪36・・・の押付け力によって、逃げ凹部37・・・を除いて制振材取付け部31に密着する。
溶接部38は、スポット溶接を施した後、凝固した部位である。
【0019】
なお、制振材拘束パネル33を溶接する方法は任意であり、溶接装置や溶接条件も任意である。
制振材32を取付ける際に、接着剤を用いるか、否かは任意である。
【0020】
制振材拘束パネル33は、具体的には、ダッシュパネル26に溶接で固定するフランジ部39を周囲に成形すると同時に、深さhで収納凹部34を成形し、収納凹部34の面部35に曲げおこし爪36・・・を成形した。
【0021】
曲げおこし爪36は、第1爪部41を成形すると同時に第2爪部42をバーリングによって成形したもので、高さHを制振材32の厚さtとほぼ同じにした。Wは第1爪部41から第2爪部42までの距離を示す。
「高さHを制振材32の厚さtとほぼ同じにした」とは、例えば、高さHは、H=0.9×tに設定する。
高さHを、H=0.9×t程度に設定した場合には、必ずしも逃げ凹部37・・・を成形する必要はない。
なお、制振材32の厚さtなどの条件によっては、例えば、H=1.1×tに設定することも可能である。
【0022】
逃げ凹部37は、第1・第2爪部41,42の距離Wより大きく、第1・第2爪部41,42の長さL(図4参照)より大きい口部43を成形するとともに底部44を成形した部位である。当然、逃げ凹部37の中心と曲げおこし爪36の中心は一致させる。
車体パネル(ダッシュパネル)26には、逃げ凹部37・・・を成形したが、曲げおこし爪36の高さHによっては、逃げ凹部37・・・を成形しなくてもよい。
【0023】
図4は、本発明の車両の制振材保持構造の分解図である。
曲げおこし爪36は、詳しくは、先端に複数の頂部45・・・を形成し、これらの頂部45・・・を制振材32に刺す。
曲げおこし爪36の第1・第2爪部41,42の長さをLに設定した。
【0024】
制振材32はまた、曲げおこし爪36を刺すための孔を予め形成しない平板である。
ダッシュパネル26の制振材取付け部31の面をほぼ平らに成形したが、制振材取付け部31の面を曲面に成形してもよい。その際には、当然、制振材32及び制振材拘束パネル33を曲面にする。
【0025】
次に制振材保持構造27の組付け手順を簡単に説明する。
まず、制振材拘束パネル33の収納凹部34に制振材32を嵌める。その際、制振材32に曲げおこし爪36・・・を突き刺して、組合せ部材46とする。その次に、組合せ部材46の制振材32をダッシュパネル26の制振材取付け部31に配置し、制振材取付け部31に制振材拘束パネル33のフランジ部39を溶接する。
【0026】
なお、曲げおこし爪36は、方形(距離W、長さL)にバーリング加工したが、方形は一例であり、例えば、曲げおこし爪36を丸形にバーリング加工することも可能である。
【0027】
次に車両の制振材保持構造27の作用を説明する。
図3に示すように、制振材保持構造27では、車体パネル(ダッシュパネル)26の面(制振材取付け部)31に制振材32を制振材拘束パネル33で取付ける場合に、制振材拘束パネル33に制振材32を収める収納凹部34を成形し、この収納凹部34の面部35に制振材32に突き刺す曲げおこし爪36・・・を加工したので、曲げおこし爪36・・・によって車体パネル(ダッシュパネル)26と制振材拘束パネル33の収納凹部34との間に挟めた制振材32は下方(矢印a1の方向)にずれない。従って、制振材32のずれを防止して防音性を高めることができる。
【0028】
また、図3及び図4に示すように、制振材保持構造27では、車体パネル(ダッシュパネル)26の面でるところの制振材取付け部31に制振材32を制振材拘束パネル33で取付ける場合に、制振材拘束パネル33に制振材32を収める収納凹部34を成形し、この収納凹部34の面部35に制振材32に突き刺す曲げおこし爪36・・・を加工したので、突き刺した曲げおこし爪36・・・で制振材32を保持することができる。その結果、制振材32に取付け用の開口を開けることなく、制振材32を保持することができ、車体パネル(ダッシュパネル)26に対向する制振材32の表面積を大きくすることができる。
【0029】
制振材拘束パネル33に制振材32を収める収納凹部34を成形し、この収納凹部34の面部35に制振材32に突き刺す曲げおこし爪36・・・を一体にバーリング加工したので、曲げおこし爪36・・・を制振材拘束パネル33の成形と同時に形成することでき、曲げおこし爪36・・・の形成に手間がかからない。
【0030】
制振材保持構造27では、車体パネル(ダッシュパネル)26に曲げおこし爪36・・・に対応する逃げ凹部37・・・を成形したので、例えば、曲げおこし爪36の高さHをH=1.0〜1.3×tに設定し、制振材32に曲げおこし爪36・・・を突き通した場合でも、曲げおこし爪36・・・の頂部45・・・は逃げ凹部37・・・に入り込み、車体パネル(ダッシュパネル)26に曲げおこし爪36・・・の頂部45・・・は干渉しない。従って、パネル26,33同士の干渉を防ぐことができる。
【0031】
図4に示す通り、制振材32は、曲げおこし爪36を刺すための孔を予め形成しない平板なので、制振材32を成形する樹脂成形金型の構造は簡単になり、制振材32の製造に手間がかからない。
【0032】
曲げおこし爪36は、先端に複数の頂部45・・・を形成したので、突き刺しは容易になると同時に、頂部45・・・を設けた先端で押付け力を制振材32に加えることができ、結果的に、車体パネル(ダッシュパネル)26に制振材32をより確実に密着させることができる。
【0033】
ここでは、図3に示すように、制振材32に制振材拘束パネル33の面部35を密着させたが、密着させずに、制振材32と制振材拘束パネル33の面部35との間に隙間を設けることも可能である。その際には、曲げおこし爪36・・・によって制振材32に押付け力を加えることで、制振材32は車体パネル(ダッシュパネル)26に密着して、振動や騒音を抑制することができる。
【0034】
次に、本発明の制振材保持構造の「別の実施の形態」を示す。
図5は、別の実施の形態を説明する断面図であり、図3の断面図に対応する。上記図1〜図4に示す実施の形態と同様の構成については、同一符号を付し説明を省略する。
別の実施の形態の制振材保持構造27Bは、車体パネル(ダッシュパネル)26Bに曲げおこし爪36B・・・に対応する平坦部51・・・を成形したことを特徴とする。
【0035】
また、制振材保持構造27Bは、車体パネル(ダッシュパネル)26Bの助手席側22に、車体パネル(ダッシュパネル)26Bの面でるところの制振材取付け部31を成形し、この面(制振材取付け部)31に制振材32を配置し、制振材32を制振材拘束パネル33Bで固定したものである。
【0036】
制振材拘束パネル33Bは、具体的には、収納凹部34を成形し、収納凹部34の面部35に曲げおこし爪36B・・・を成形した。
曲げおこし爪36Bは、第1爪部52を成形すると同時に第2爪部53をバーリングによって成形したものである。
曲げおこし爪36Bの高さH1は、H=0.5×t程度に設定した。
【0037】
このように、別の実施の形態の制振材保持構造27Bでは、車体パネル(ダッシュパネル)26Bに曲げおこし爪36B・・・に対応する平坦部51・・・を成形したので、ダッシュパネル)26Bに設定した制振材取付け部31の範囲は平らな面となり、電着塗装を施した場合に、塗り残したところや塗装膜の薄いところなど空白部が存在しない。つまり、電着塗装を範囲の全面に施すことができるとともに、電着塗装の膜厚をほぼ均一にすることができる。
【0038】
尚、本発明の車両の制振材保持構造は、実施の形態ではエンジンルーム24と車室17を区切る隔壁構造25に採用したが、サイドボデー15の一部をなすホイールハウスパネル18(図1参照)にも採用可能であり、一般の車両に採用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の車両の制振材保持構造は、エンジンルーム24と車室17を区切る隔壁構造25に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の制振材保持構造を採用した車両の斜視図
【図2】図1の2矢視図
【図3】図2の3−3線断面図
【図4】本発明の車両の制振材保持構造の分解図
【図5】別の実施の形態を説明する断面図
【図6】従来の技術の基本構成を説明する図
【符号の説明】
【0041】
11…車両、12…車体、27,27B…車両の制振材保持構造、25…隔壁構造、26,26B…車体パネル(ダッシュパネル)、31…車体パネルの面(制振材取付け部)、32…制振材、33,33B…制振材拘束パネル、34…収納凹部、35…面部、36,36B…曲げおこし爪、37…逃げ凹部、51…平坦部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体パネルの面に制振材を制振材拘束パネルで取付けた車両の制振材保持構造において、
前記制振材拘束パネルに制振材を収める収納凹部を成形し、この収納凹部の面部に制振材に突き刺す曲げおこし爪を一体にバーリング加工したことを特徴とする車両の制振材保持構造。
【請求項2】
前記車体パネルに曲げおこし爪に対応する逃げ凹部を成形したことを特徴とする請求項1記載の車両の制振材保持構造。
【請求項3】
前記車体パネルに曲げおこし爪に対応する平坦部を成形したことを特徴とする請求項1記載の車両の制振材保持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−218965(P2006−218965A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−33202(P2005−33202)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(591214527)菊池プレス工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】