説明

車両の前部構造

【課題】 ラジエータ2の配置される樹脂製シュラウドパネル1を備えた自動車VのフロントエンドモジュールMにおいて、該シュラウドパネル1に液体貯留用タンクや吸気レゾネータを配設する場合に、振動に由来する悪影響を出来る限り軽減する。
【解決手段】 シュラウドパネル1には、ラジエータ2等の配設される開口部11dの左右両側にそれぞれ左右のフロントサイドフレーム4,4に締結される車体締結部12,12が一体成形されるとともに、該左右車体締結部12,12の車幅方向外側には、それぞれ当該各車体締結部12,12に近接させて、液体貯留用タンク及び吸気レゾネータのケーシング15,16を配設するためのケーシング配設部15a,16aが一体形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部に樹脂製シュラウドパネルが配設された車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の車両の前部構造はよく知られており、例えば特許文献1に開示されるものでは、樹脂製シュラウドパネルにラジエータやコンデンサ、或いは冷却ファン等の車両部品を取り付けるための取付部を形成しておき、それらの車両部品をサブアセンブリしてユニット化した上で、このユニットをフロントサイドフレーム等の車体に組み付けるようにしている。このようにユニット化して組み付けることで、車両の組立ラインでの作業の容易化や組立ステーション数の低減化が図られる。
【0003】
上記従来例のものでは、シュラウドパネルの上部に位置するアッパシュラウドメンバにリヤ側に向かって開口する凹部を形成し、この凹部にリヤ側から蓋部を接合して閉空間を形成することにより、ラジエータサブタンクやウインドウォッシャタンク等の液体貯留用タンクをシュラウドパネルと一体に設けることができ、これにより、部品コスト、組立コストの低減が図られている。
【0004】
また、例えば特許文献2に開示されるレゾネータ一体型ファンシュラウドでは、上記従来例と同様にして、ラジエータの冷却ファン周りに配設されるファンシュラウド(シュラウドパネル)に一体に中空箱を形成し、これを吸気レゾネータとして利用するようにしている。このように、エンジンルーム内で比較的広い面積を占めるファンシュラウドを利用することで、該エンジンルーム内の省スペース化を図りながら、低周波の騒音を低減可能な容量の大きなレゾネータを設けることができる。
【特許文献1】特開平11−171041号公報
【特許文献2】特開2001−317357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記従来例のもの(特許文献1、2)では、シュラウドパネルに一体に設けられた貯留用タンクやレゾネータが振動することによって、それぞれ以下のよううな不具合を生じる。
【0006】
すなわち、一般にシュラウドパネルは比較的重いラジエータ等と一体化されており、車両の走行振動やエンジンの加振力によって該ラジエータ等が振動すると、これと共に振動するから、前者の従来例(特許文献1)のようにシュラウドパネルと一体に液体貯留用タンクが設けられている場合には、そのタンク内の液体の揺れ(共振)によって振動が助長される虞れがある。また、後者の従来例(特許文献2)のように吸気レゾネータのケーシングが設けられている場合には、シュラウドパネルの振動に起因してレゾネータの消音効果が低下する虞れがある。
【0007】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、樹脂製シュラウドパネルに液体貯留用タンクや吸気レゾネータを配設する場合のレイアウトに工夫を凝らすことによって、ラジエータ等の振動に由来する悪影響を出来る限り軽減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明では、シュラウドパネルの左右両側には剛性が極めて高い車体サイドフレームに固定される車体取付部が形成されていることに着目し、この車体取付部の外側に近接させて、液体貯留用タンクや吸気レゾネータのケーシングを配設するようにした。
【0009】
具体的に、請求項1の発明では、少なくとも熱交換器の配置される開口部が形成された樹脂製シュラウドパネルを車体前部に備えた車両の前部構造を対象として、該シュラウドパネルには、上記開口部の左右両側にそれぞれ車体サイドフレームに結合される車体取付部が一体に成形されるとともに、該各車体取付部の少なくとも一方の車幅方向外側に、当該車体取付部に近接させて液体貯留用タンクのケーシングを配設するためのケーシング配設部が一体に形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明では、上記各車体取付部の少なくとも一方の車幅方向外側に、当該車体取付部に近接させて吸気レゾネータのケーシングを配設するためのケーシング配設部が一体に形成されていることを特徴とする。
【0011】
上記の構成により、請求項1、2の発明では、シュラウドパネルの左右両側にそれぞれ形成されている車体取付部の外側に形成されているケーシング配設部は実質的に車体サイドフレームに結合されていることになり、該車体サイドフレームは極めて高い剛性を有しているため、車両の走行振動やエンジンの加振力によってラジエータ等が振動して、これと共にシュラウドパネルが全体的に振動するときでも、上記車体取付部の車幅方向外側に近接する液体貯留用タンクや吸気レゾネータの配設部はあまり大きく振動せず、従って、ここに配設されている液体貯留用タンクや吸気レゾネータのケーシングは大きく振動することがない。
【0012】
よって、上記請求項1の発明によれば、液体貯留用タンク内の液体の揺れ(共振)によってシュラウドパネルの振動が助長されることを抑制でき、また、上記請求項2の発明によれば、吸気レゾネータのケーシングの振動によって該吸気レゾネータの消音効果が低下することを抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明に係る車両の前部構造によると、樹脂製シュラウドパネルに液体貯留用タンクや吸気レゾネータのケーシングを配設する場合に、それらを、車体サイドフレームに固定される車体取付部の車幅方向外側に近接するレイアウトとしたので、車両の走行振動やエンジンの加振力によってラジエータ等が振動し、これとともにシュラウドパネルが全体的に振動するときでも、液体貯留用タンクや吸気レゾネータの振動を抑えて、それによる悪影響を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて具体的に説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る車両の前部構造が適用された自動車のフロントエンドモジュールMを分解した状態で示す。このモジュールMは、主として、概略矩形枠状をなす樹脂製シュラウドパネル1と、図示しないエンジンの冷却水を走行風によって冷却する熱交換器としてのラジエータ2と、該ラジエータ2の前方に配置される空調装置のコンデンサ3と、上記ラジエータ2の後側に取り付けられる冷却用ファン(図示せず)とで構成されている。
【0016】
そして、上記モジュールMは、図2に一例を示すような自動車V(車両)の前部においてラジエータグリルGやフロントバンパーB等の裏側に、シュラウドパネル1が左右フロントサイドフレーム4,4(図1に先端側のみ示す)の前端部を連結するようにして配置される。
【0017】
上記シュラウドパネル1は、例えばガラス繊維で強化したポリプロピレン等の樹脂からなり、図3にも示すように、上記ラジエータ2(及びコンデンサ3)を保持するラジエータ保持部11と、該ラジエータ保持部11の左右(車幅方向)両側にそれぞれ設けられ、車体の左右フロントサイドフレーム4,4の前端フランジ部4a,4aにそれぞれ締結される車体締結部12,12(車体取付部)とを有している。
【0018】
上記ラジエータ保持部11は、上下に相対向して車幅方向に延びる上壁部11a及び下壁部11bと、該上壁部11a及び下壁部11bの左側端部同士及び右側端部同士をそれぞれ連結する左右側壁部11c,11cとを有していて、上記ラジエータ2の外形形状に対応して略矩形枠状をなしている。そして、それらの各壁部11a〜11cにより囲まれた開口部11dにコアの前面を臨ませて、ラジエータ2及びコンデンサ3が配置されるようになっている。
【0019】
また、上記左右の車体締結部12,12は、図4にも示すように、それぞれ、上記ラジエータ保持部11の左右側壁部11c,11cから車幅方向外側に向かって延出した板状のものであり、図示しないバンパーレインフォースメントの左右両端部に配設されたクラッシュ部材13,13の後端部にそれぞれ設けられたフランジ部13a,13aと、上記左右フロントサイドフレーム4,4のフランジ部4a,4aとの間にそれぞれ介装されて、該バンパーレインフォースメントの左右フランジ部13a,13aと共に左右フロントサイドフレーム4,4のフランジ部4a,4aにそれぞれボルト14a,14a及びナット14b,14bにより締結固定されるようになっている。尚、上記ボルト14a及びナット14bが車体締結部12を貫通するボルト孔12aを図3に示している。
【0020】
さらに、本発明の特徴部分として、上記左右の車体締結部12,12の車幅方向外側には、それぞれ、該車体締結部12,12に近接させて液体貯留用タンク及び吸気レゾネータのケーシング15,16を配設するためのケーシング配設部15a,16aが一体成形されている。これらのケーシング配設部15a,16aは、上記図4の他に図5にも示すように、この実施形態ではそれぞれ液体貯留用タンク及び吸気レゾネータのケーシング15,16の一部分を構成するものである。
【0021】
すなわち、例えば図4(a)等に示すように、液体貯留用タンクケーシング15のケーシング配設部15aは、シュラウドパネル1の車体締結部12に連なって車幅方向外側に延出し且つ車体前方に膨出して、車体後方に向かって開口する概略矩形断面の容器状に形成されており、このケーシング配設部15aの後側に、車体前方に向かって開口する概略矩形断面の容器状に形成された樹脂製のケーシング本体部15bが組み合わされるようになっている。
【0022】
この実施形態では、上記液体貯留用タンクは、例えばフロントウインドウォッシャー液を貯留するウォッシャータンクであり(その他、ラジエータのサブタンクでもよい)、図5(a)に側方断面視で示すように、ケーシング本体部15bの上面から上方に突出して、ウォッシャー液の補給口15cが形成されている。
【0023】
また、同図(b)等に示す吸気レゾネータのケーシング16も、シュラウドパネル1の車体締結部12と一体のケーシング配設部16aと、その後側に組み合わされる樹脂製ケーシング本体部16bとからなり、上記ウォッシャータンクケーシング15のような補給口15cが無い代わりに、ケーシング本体部16bの後面から車体後方に突出して、吸気ダクトの接続部16cが設けられている以外は、上記ウォッシャータンクケーシング15と略同じ形状を有している。
【0024】
そして、それらの各ケーシング15,16において、ケーシング本体部15b,16bの開口周縁部に沿って溝部が形成されており、この溝部にケーシング配設部15a,16aの開口周縁部が嵌合されて、例えば振動溶着により気密に一体化されることにより、ケーシング配設部15a,16a及びケーシング本体部15b,16bが一体となって、ケーシング15,16を構成している。
【0025】
上述の如く構成されたこの実施形態に係る自動車VのフロントエンドモジュールM(前部構造)によると、樹脂製シュラウドパネル1の左右両側に形成されている車体締結部12,12が、それぞれ車体の左右フロントサイドフレーム4,4に締結されていて、これら車体締結部12,12の外側に形成されているケーシング配設部15a,16aは実質的に左右フロントサイドフレームに結合されていることになり、この左右フロントサイドフレーム4,4が極めて高い剛性を有していることから、自動車Vの走行振動やエンジンの加振力によってラジエータ2やコンデンサ3が振動して、これと共にシュラウドパネル1が全体的に振動するときでも、上記車体締結部12,12よりも車幅方向外側に、即ち、左右フロントサイドフレーム4,4を挟んで上記ラジエータ2等とは反対側に位置し、しかも車体締結部12,12に近接して配置されている液体貯留用タンクや吸気レゾネータのケーシング15,16はあまり大きく振動しない。
【0026】
従って、上記液体貯留用タンク内の液体の揺れ(共振)によってシュラウドパネル1の振動が助長されることは殆どなく、また、吸気レゾネータのケーシング16の振動による消音効果の低下も十分に軽減できる。
【0027】
なお、この実施形態では、車体左側の車体締結部12の外側に液体貯留用タンクを配設する一方、車体右側の車体締結部12の外側には吸気レゾネータを配設するようにしているが、いずれか一方だけでもよいし、或いは両方に液体貯留用タンクを配設するようにしてもよい。
【0028】
また、この実施形態では、液体貯留用タンク及び吸気レゾネータのいずれについても、ケーシング配設部15a,16aによりケーシング15,16の壁部の一部を構成するようにしているが、これに限らず、ケーシング配設部15a,16aは、単にケーシング15,16が取り付けられる台座部としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の前部構造が適用された自動車のフロントエンドモジュールを示す分解斜視図である。
【図2】自動車の前部の一例を示す図である。
【図3】シュラウドパネルの正面図である。
【図4】(a)は図3のIVa-IVa線断面図であり、(b)は同IVb-IVb線断面図である。
【図5】(a)は図3のVa-Va線断面図であり、(b)は同Vb-Vb線断面図である。
【符号の説明】
【0030】
M フロントエンドモジュール(車両の前部構造)
1 シュラウドパネル
2 ラジエータ(熱交換器)
3 コンデンサ(熱交換器)
4 フロントサイドフレーム(車体サイドフレーム)
11 ラジエータ保持部
11a 上壁部
11b 下壁部
11c 側壁部
11d 開口部
12 車体締結部(車体取付部)
15 液体貯留用タンクケーシング
15a ケーシング配設部
16 吸気レゾネータケーシング
16a ケーシング配設部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも熱交換器の配置される開口部が形成された樹脂製シュラウドパネルを車体前部に備えた車両の前部構造であって、
上記シュラウドパネルには、上記開口部の左右両側にそれぞれ車体サイドフレームに結合される車体取付部が一体に成形されるとともに、該各車体取付部の少なくとも一方の車幅方向外側に、当該車体取付部に近接させて液体貯留用タンクのケーシングを配設するためのケーシング配設部が一体に形成されていることを特徴とする車両の前部構造。
【請求項2】
少なくとも熱交換器の配置される開口部が形成された樹脂製シュラウドパネルを車体前部に備えた車両の前部構造であって、
上記シュラウドパネルには、上記開口部の左右両側にそれぞれ車体サイドフレームに結合される車体取付部が一体に成形されるとともに、該各車体取付部の少なくとも一方の車幅方向外側に、当該車体取付部に近接させて吸気レゾネータのケーシングを配設するためのケーシング配設部が一体に形成されていることを特徴とする車両の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−1336(P2006−1336A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177927(P2004−177927)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(300084421)ジー・ピー・ダイキョー株式会社 (50)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】