説明

車両の前部構造

【課題】新たな補強部材の配設、材料板厚の増大あるいは溶接箇所の増加や拡大を伴わずに、ロアアーム取付用ブラケットの耐久性を向上させる車両の前部構造を提供する。
【解決手段】左右のサイドメンバの下方に支持されるサスペンションメンバ1と、サイドメンバとサスペンションメンバ1とに渡って連結され、略上下方向に配設されるステー部材7と、サスペンションメンバ1にロアアーム6を取り付けるため、サスペンションメンバ1に配設されるロアアーム取付用ブラケット11とを備えた車両の前部構造において、ステー部材7をロアアーム取付用ブラケット11に当て付けて溶接してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンションメンバにロアアームを取り付けるためのロアアーム取付用ブラケットを備えた車両の前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロアアームをサスペンションメンバに取り付けるロアアーム取付部は、タイヤからの路面入力が直接的に伝達される部位であるため、大きな入力に耐え得るだけの強度を有していなければならない。そこで、ロアアーム取付部に配されるロアアーム取付用ブラケットの強度を高めるため、ロアアーム取付用ブラケットとサスペンションメンバとの接合には種々の工夫がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1にはロアメンバプレートをロアアーム取付用ブラケット(ロアアームブラケット)に当接するとともに、アッパメンバプレートを延設してロアアーム取付用ブラケットの背面に重ねて溶接することによって、耐久性を向上させたサスペンションメンバが開示されている。
【0004】
また、特許文献2にはコの字状の断面形状を有するロアアーム取付用ブラケット(ブラケット)、アッパメンバ及びロアメンバをボックス構造となるように接合することにより、剛性向上を図ったサスペンションメンバが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−313834号公報(図4参照)
【特許文献2】特開平6−286641号公報(図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1あるいは特許文献2に記載されているロアアーム取付用ブラケットの接合態様を採用しても、ロアアーム取付用ブラケットの強度が十分に確保できない場合がある。このような場合には、ロアアーム取付用ブラケットの強度を高めるために新たな補強部材を設けたり、材料板厚を大きくしたり、サスペンションメンバとの溶接をより強固にしたりする必要があった。
【0007】
しかし、近年車両軽量化の要求が高まる中、新たな補強部材を設けることや材料板厚を大きくすることは車両軽量化に反するものであり、コストや生産性の面においても得策とは言い難い。また、溶接を強固にするための溶接箇所の増加や拡大は、構造が複雑になるとともに溶接作業が増加し、製造工数やコストの点で不利となる。
【0008】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたもので、新たな補強部材の配設、材料板厚の増大あるいは溶接箇所の増加や拡大を伴わずに、ロアアーム取付用ブラケットの耐久性を向上させる車両の前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る車両の前部構造の特徴構成は、左右のサイドメンバの下方に支持されるサスペンションメンバと、前記サイドメンバと前記サスペンションメンバとに渡って連結され、略上下方向に配設されるステー部材と、前記サスペンションメンバにロアアームを取り付けるため、前記サスペンションメンバに配設されるロアアーム取付用ブラケットとを備えた車両の前部構造において、前記ステー部材を前記ロアアーム取付用ブラケットに当て付けて溶接してある点にある。
【0010】
本特徴構成のごとく、ステー部材をロアアーム取付用ブラケットに当て付けて溶接することにより、ロアアーム取付用ブラケットの取付剛性が強化されるので、ロアアーム取付用ブラケットの耐久性が向上する。ステー部材は、サイドメンバとサスペンションメンバとを連結するために従来より設けられているものであり、新たな補強部材の配設、材料板厚の増加あるいは溶接箇所の増加や拡大をもたらすものではないので、重量及びコストの上昇を抑えることができる。また、ステー部材はサスペンションメンバをサイドメンバに支持するために用いられる部材であり、一般的に剛性の高い部材であるから、ロアアーム取付用ブラケットの耐久性を効率的に強化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】車両の前部構造を示した側面図である。
【図2】車両の前部構造を示した平面図である。
【図3】サスペンションメンバの側端部を示した斜視図である。
【図4】サスペンションメンバの側端部を示した断面図である。
【図5】ロアアーム取付部を示した水平断面図である。
【図6】別の実施形態におけるロアアーム取付部を示した水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る車両の前部構造をFF(フロントエンジン・フロントドライブ方式)車に適用した実施形態について図面に基づいて説明する。
図1及び図2に示すように、車両の前部に左右一対のサイドメンバ4が車両前後方向に延設されている。この左右のサイドメンバ4を橋渡しするように、サスペンションメンバ1は車幅方向に配設されている。サスペンションメンバ1の両端部は、ステー部材7及び連結部材10を介してサイドメンバ4とボルト結合されるとともに、サイドメンバ4から下方に突出した連結部4aとボルト16により結合される。
【0013】
図3に示すように、サスペンションメンバ1は、上面及び側面を構成するアッパメンバ2と、下面を構成するロアメンバ3とからなる。アッパメンバ2及びロアメンバ3は、いずれも板材をプレス加工して製造され、両者を溶接接合することにより中空状のサスペンションメンバ1が構成される。
【0014】
図3に示すように、ステー部材7は断面コの字状の主部材7aと、主部材7a内に配置される副部材7bとから角筒状に構成されており、両部材7a,7b及び後述するロアアーム取付用ブラケット11によって閉空間を形成する。ステー部材7は上下方向に設けられており、主部材7a及び副部材7bの下端部はサスペンションメンバ1やロアアーム取付用ブラケット11と溶接接合され、主部材7aの上端部はサイドメンバ4とボルト結合される。連結部材10は車両前後方向に設けられており、その前端部はロアメンバ3の後端部とボルト結合され、その後端部はサイドメンバ4とボルト結合される。
【0015】
図1〜図3に示すように、前輪20を支持する二股状のロアアーム6は、前側連結部6a及び後側連結部6bにおいてサスペンションメンバ1に連結される。図3〜図5に示すように、前側連結部6aが取り付けられるロアアーム取付用ブラケット11は、上面部11a、前面部11b、後面部11c及び側面部11dを備えた略直方体形状であり、車幅方向外側の側面部と底面部が開口しており、平面視でコの字状の断面形状を有する。
【0016】
図4に示すように、ロアアーム取付用ブラケット11は、その下端部にてロアメンバ3と溶接接合される。ロアアーム取付用ブラケット11の後面部11cにウェルドナット14が取り付けられており、前後方向のボルト15によりロアアーム取付用ブラケット11の前面部11bがアッパメンバ2に固定される。ロアアーム6の前側連結部6aは、ロアアーム取付用ブラケット11とロアメンバ3とによって形成される空間内に配置され、ボルト15によりロアアーム取付用ブラケット11に対して上下揺動自在に支持されている。
【0017】
次にロアアーム6の後側連結部6bの取付構成について説明する。図3に示すように、アッパメンバ2の後端角部に、L字型の断面を有するサポートブラケット12が配設される。このサポートブラケット12の上面は、アッパメンバ2から車幅方向外側に延出した取付部12aとともに、車両前方向(図3の紙面左方)に延設された延設部12bを有する。
【0018】
図4に示すように、サポートブラケット12の下端部はロアメンバ3に溶接接合される。ロアアーム6の後側連結部6bは、サポートブラケット12の取付部12aとロアメンバ3との間に形成される空間に配置され、サポートブラケット12及びロアメンバ3に対して上下方向のボルト16により固定される。このとき、サポートブラケット12は、連結部4aを介してサイドメンバ4に対してもボルト16により結合される。
【0019】
図2に示すように、スタビライザー5は、サスペンションメンバ1(アッパメンバ2)の左右両端部に一対配置されたスタビライザー固定用部材13により回転自在に支持される。また、スタビライザー5の両端部はロアアーム6又は図示しないナックルに接続される。図4に示すように、スタビライザー固定用部材13は、アッパメンバ2の内面の2箇所に溶接されたウェルドナット17とボルト18により、アッパメンバ2に固定される。このとき、スタビライザー固定用部材13の位置まで延設されたサポートブラケット12の延設部12bは、スタビライザー固定用部材13とともにボルト18によりアッパメンバ2に共締めされる。
【0020】
本発明の特徴は、ステー部材7をロアアーム取付用ブラケット11に当て付けて溶接接合した点にある。具体的には、図3及び図4に示すように、ステー部材7を構成する主部材7aの下端部をロアアーム取付用ブラケット11の上面部11aに溶接接合するとともに、この溶接部をロアアーム取付用ブラケット11の側面部11dにまで延長して、図5に示すように主部材7aをロアアーム取付用ブラケット11の側面部11dに溶接接合する。また、図3に示すように副部材7bの下端部をロアアーム取付用ブラケット11の上面部11aに溶接接合するとともに、この溶接部を後面部11cにまで延長して、図5に示すように副部材7bをロアアーム取付用ブラケット11の後面部11cに溶接接合する。
【0021】
図5に示すように、ロアアーム取付用ブラケット11を水平断面で見ると、ロアアーム取付用ブラケット11の側面部11dに溶接接合された主部材7aと、ロアアーム取付用ブラケット11の後面部11cに溶接接合された副部材7bとが互いに溶接接合されて、ウェルドナット14を包含するように閉空間が形成される。
【0022】
以上のように、ステー部材7をロアアーム取付用ブラケット11に当て付けて溶接することにより、ロアアーム取付用ブラケット11の取付剛性が強化され、耐久性が向上する。特に本実施形態においては、上述のようにステー部材7とロアアーム取付用ブラケット11とで閉空間が形成されるため、ロアアーム取付用ブラケット11の取付剛性が一層強化され、さらなる耐久性の向上が図られる。
【0023】
ステー部材7はサスペンションメンバ1とサイドメンバ4とを連結するために従来より配設されている部材であるから、新たな補強部材を要せずロアアーム取付用ブラケット11の耐久性の向上を図ることができる。また、ステー部材7をロアアーム取付用ブラケット11に溶接する必要があるが、これは従来他の部材に溶接接合していた箇所を変更したにすぎないので溶接箇所の増加や拡大をもたらすものではない。
【0024】
本発明の別の実施形態として、ステー部材7の主部材7aと副部材7bとが一体に構成されていてもよい。図6に示すように、丸パイプ状のステー部材8をロアアーム取付用ブラケット11の後面部11c又は側面部11dに当て付けて溶接接合すれば、先の実施形態と同様にロアアーム取付用ブラケット11の耐久性を向上させることができる。この場合、丸パイプ状の代わりに角パイプ状のステー部材8を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、サスペンションメンバにスタビライザーが取り付けられているFF車の前部構造だけでなく、同様の構造を有するFR(フロントエンジン・リアドライブ方式)車の前部構造に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 サスペンションメンバ
4 サイドメンバ
6 ロアアーム
7 ステー部材
11 ロアアーム取付用ブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右のサイドメンバの下方に支持されるサスペンションメンバと、
前記サイドメンバと前記サスペンションメンバとに渡って連結され、略上下方向に配設されるステー部材と、
前記サスペンションメンバにロアアームを取り付けるため、前記サスペンションメンバに配設されるロアアーム取付用ブラケットとを備えた車両の前部構造において、
前記ステー部材を前記ロアアーム取付用ブラケットに当て付けて溶接してあることを特徴とする車両の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−93348(P2011−93348A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246771(P2009−246771)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【出願人】(597044391)ナミコー株式會社 (7)
【Fターム(参考)】